超高齢社会の課題を解決する国際会議 岸田総理ビデオメッセージ

更新日:令和5年11月21日 総理の指示・談話など

 内閣総理大臣の岸田文雄です。本日から2日間、世界の産学官の英知を集めた「超高齢社会の課題を解決する国際会議」が開催されますことを、心よりお慶(よろこ)び申し上げます。
 今年のカンファレンスでは、超高齢社会を全世代の視点から解決する道筋を、世界の産官学の第一人者が専門的な知見を基に議論すると伺っております。
 超高齢社会がもたらす諸課題を克服するためには、全世代の生活の質の向上や社会・経済のイノベーションという観点が不可欠です。特に、現役世代の人口減少が加速する中、今後も日本社会が発展を続けるためには、活力ある健康長寿社会を構築し、高齢者の社会参加を促すとともに、若年世代に対しても、子育て支援などを強化することでその活力を引き出すことにより、年齢にかかわらず、誰もが活躍でき、安心して暮らせる社会を構築することが必要です。
 日本には、何歳になっても働き続けたいという方が多くいます。60歳から64歳までの方の約7割、65歳から69歳までの方の約5割が就業されています。生涯現役社会の実現に向けて、高齢者の就労促進、高齢者が地域で働ける場や社会を支える活動ができる場の拡大に取り組んでいきます。就労など高齢期の社会参画の促進は、個人の疾病予防・健康維持にも寄与すると言われています。「健康で長生きしたい」、「年をとっても働き続けたい」。そうした高齢者の希望をかなえることで、人口減少という逆風の中にあっても、活力ある経済社会を創り上げていきます。
 また、人生100年時代を迎え、高齢者になっても働き続けられるためには、現役の間から、多様で柔軟な働き方を広げることで、雇用の選択肢を充実させることが重要です。このため、兼業・副業など多様で柔軟な働き方を推進するとともに、5年で1兆円に拡充された「人への投資」施策パッケージも活用しつつ、リスキリングによる能力向上を支援します。リスキリングについては、労働者個人の多様な選択を支え、賃金上昇を伴う労働移動を効果的に支援するため、これまでの企業経由の支援に加え、労働者個人への直接支援を強化していきます。
 さらに、子育て支援など若年世代への支援については、本年6月、「こども未来戦略方針」をまとめました。若い世代の所得を増やす、社会全体の構造・意識を変える、全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する、という三つの柱を掲げ、前例のない規模で少子化対策の強化に取り組んでいます。これにより、我が国の子供一人当たりの支援規模はOECD(経済協力開発機構)トップの水準に引き上がり、画期的に前進することとなります。
 また、人口減少に伴い人手不足が恒常化する中、デジタルの力を活用することが重要です。地方の生活インフラを支える行政・公的サービス、物流、教育、医療・介護、子育て・児童福祉、防災等の分野におけるデジタル技術の社会実装を進め、効率的なサービス提供につなげます。
 日本は、高齢者の5人に1人の方が認知症の方となる時代を迎えつつあります。「支えられる側」としての「見守る」「支援する」対象としての認知症の方々。こうした考え方に囚(とら)われることなく、認知症の方が生きがいと役割、尊厳と希望を持って暮らす社会を構築していかなければなりません。
 私は、今年の夏、認知症ケアを行っている介護施設を訪れ、御本人や御家族の方、ケアに携わっている方々からお話を伺う機会がありました。その際、印象に残っている言葉に「できないことではなく、できることに注目する」というものがあります。認知症をポジティブにとらえ、歳(とし)を重ねる力にすること。超高齢社会の課題を解決する答えは、正にこうした変化を力にすることにあります。
 このような共生社会の理念を具体化するものとして、本年6月、「認知症基本法」が成立しました。同法では、認知症の人が尊厳を保持しながら希望をもって暮らすことができるよう、認知症施策の基本理念を定めるとともに、国・地方自治体が計画を策定し、施策を推進していくこととしています。
 法律の施行に先立ち、認知症の方御本人、御家族など関係者の声に耳を傾け、政策に反映するため、本年9月、「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」を設置しました。私も毎回会議に出席し、認知症の方御本人の参画の下での地域づくり、独居高齢者・若年性認知症の方への支援、ワーキングケアラー対策など貴重な御意見を頂いています。更に年末まで議論を深め、国の計画策定にいかしていきます。
 我が国は認知症や脳の研究で世界をリードしてきました。これが土台となって、世界初のアルツハイマー病の進行を抑制する治療薬レカネマブがアメリカと日本で承認を受けました。日本発で世界初のイノベーションが国境を越えて、認知症の方とその御家族に希望の光をもたらしたことになります。
 このイノベーションの動きを更に加速させるため、脳科学研究の更なる推進など、「認知症・脳神経疾患研究開発イニシアティブ」に早期に着手します。また、レカネマブの薬事承認による新たな時代の到来を受け、地域において、早期発見・早期介入の実証プロジェクトを推進し、検査・医療サービス等が円滑に提供される体制整備を進めます。
 さらに、独居高齢者等の増加を受け、省庁横断で、実態把握とともに、住まいの確保、入院時や入居時の身元保証等生活上の課題にも取り組んでいきます。
 最後に、この超高齢社会、高齢化の問題は、日本固有の課題ではなく、世界共通の課題だということを改めて強調したいと思います。日本は、世界で最も早くこの問題に向き合わなければならない国です。だからこそ、大変困難な道のりではありますが、超高齢社会の下で、力強く成長を続ける持続可能な経済社会を創り上げるという挑戦を成し遂げ、我が国、そして、世界の未来を切り拓(ひら)いていきたいと思います。
 結びに、本日御参加の皆様の御健勝とますますの御活躍、そして、本会議の成功を心より祈念し、私のメッセージとさせていただきます。