岸田総理によるフォーリャ・デ・サンパウロ紙への寄稿文
「日本とブラジル、二国間関係の次の時代へ」
この度、日本の総理大臣として約10年ぶりにブラジルを公式訪問できることを大変嬉(うれ)しく思います。
日本とブラジルは自由、民主主義、人権、法の支配といった価値と原則を共有する「戦略的グローバル・パートナー」です。本年で「戦略的グローバル・パートナーシップ」を構築して10年を迎えます。
日本とブラジルの長きにわたる伝統的友好関係は、1895年の日・ブラジル修好通商航海条約の締結に始まり、130年の歳月をかけて、政治・経済を始め、環境、科学技術、刑事司法、治安等の幅広い分野、そして近年では宇宙から深海に至るまで様々な垂直的な次元で発展を遂げてきました。
経済分野においては、ブラジルで活動する日本企業は約680社にものぼります。サンパウロでの活動に加えて、今や、多数の日本企業がアマゾン地域を含むブラジル全国各地で幅広く水平的に活動しています。
ブラジルは、豊富な食料やエネルギー、鉱物資源を有しており、経済分野における両国の連携には極めて高いポテンシャルがあります。両国間には経済分野における官民の様々な対話枠組があります。貿易投資促進・産業協力合同委員会のほか、日伯戦略的経済パートナーシップ賢人会議、日本ブラジル経済合同委員会などが開催されています。両国経済界からいただく貴重な提言も踏まえ、官民で貿易・投資関係を更に高い次元に持っていく考えです。また、日本企業は、バイオエタノール、水素、アンモニアなどの資源を活用した脱炭素化に関心を示しており、政府としても最大限サポートする所存です。
開発協力分野においても、両国間の協力の長い歴史があります。日本は、1979年から2001年までの22年間にわたり「日・ブラジル・セラード農業開発協力事業(PRODECER(プロデセール))」等を通じてブラジルと協力してきました。同事業を通じて、34.5万ha(ヘクタール)の土壌改良、灌漑(かんがい)整備等を行い、ブラジルでの大豆生産量は1,400万トンから4,200万トンに増加し、世界の食料供給の安定化に大きく貢献しました。現在、国際社会では食料安全保障の問題が顕在化しています。持続可能な開発と食料安全保障の確保に向けて、今回のブラジル訪問を通じて、日・ブラジル協力の新たな時代、そして未来を切り開いていく決意です。
こうした日本とブラジルの伝統的に良好な二国間関係とブラジルの皆様の日本への信頼の礎として、何よりも、海外で最大の日系社会があります。日本人のブラジル移住は110年以上の歴史があります。祖国を離れブラジルに移住された先人たちは、言語や文化も異なる中で、幾度となく困難に直面してこられました。日本人の勤勉さや助け合いの精神を決して忘れず、力を合わせてそれを乗り越え、様々な分野においてブラジル社会で活躍、その発展にも大きく貢献されてきました。私が外務大臣として2013年に訪問した折には、日系人の皆様の御活躍についてお話しを伺い、多くを学ばせていただきました。その後も日系社会への尊敬の念を抱いております。
また、日本に在住する約21万人の在日ブラジル人も両国を結ぶ大切な存在です。こうした在日ブラジル人の皆様が築かれた日伯の絆(きずな)を大切にしつつ、日系社会との連携を強化していきます。
現在、ブラジルには約400の日系団体があり、年間を通して各地で日本祭り等が開催され、ブラジルの皆様が「ブラジルの中の日本」を身近に感じる機会となっています。こうした中、今や、若手日系人起業家が中心となり、起業家間のネットワークを国内外に構築、拡大する取組を始め、新しい世代の方々が各地の日系社会で活躍されています。このような、日系社会の皆様、そして日系人とともに活躍されている日本サポーターの皆様を誇りに感じております。
文化交流面においては、若い皆様を中心にアニメや漫画といった日本のポップカルチャーがブラジルで広く浸透しており、アニメサミットも開催されていると聞いています。また、日本国内では、「ブラジルフェスティバル」が開催され、毎年10万人を超える来場者があり、ブラジル音楽ショーが行われ、またフェイジョアーダやアサイー等を販売するブラジル料理の屋台も建ち並び、ブラジル文化を身近に感じることができます。
来年は日・ブラジル外交関係樹立130周年にあたります。この節目に、日本とブラジルの間で文化や観光、スポーツ、交流の基盤になる日本語教育支援等の様々な分野で協力を促進し、文化・人的交流のますますの活性化に繋(つな)げていきたい考えです。
今回のブラジル訪問では、様々な国際課題への対応や二国間関係の更なる深化について、ルーラ大統領を始めとするブラジルの皆様と率直な議論を行います。こうした議論を通じ、両国民間の交流を促進し、両国関係を更なる高みへ引上げ、より良い未来を両国で共に創り上げていきます。