「21世紀日本の構想」懇談会

「21世紀日本の構想」
懇談会第1回懇談会(1999年3月30日)

河合隼雄座長 挨拶


 総理大臣、どうもありがとうございました。ただいまお話がありましたように、私が座長という大変な重責を背負うことになりました。責任の重大さを痛感しておりますが、幸い皆様方の顔触れを見ますと、非常に深く広い識見と自由な姿勢をお持ちの方がお揃いですので、必ずここから新しく有意義な結論が出てくるものと期待しております。

 総理がおっしゃいましたように、世紀が変わるという非常に大きい節目を迎えようとしておりますが、日本にとっても大変な変わり目に来ているのではないかと私は認識しております。元来、日本は伝統的な価値観、倫理観、宗教観というものを持ってきたわけで、「もったいない」という言葉に象徴されますように、生活に密着した中でそれらが培われるというふうな生活をしてまいりました。しかし、敗戦の時のように、あまりにも貧しくなった場合はそれどころではない。そこで戦後は、「衣食足りて礼節を知る」という言葉のごとく、経済的に頑張らねばならないということで、先輩の努力によってここまでやってきた。ところが、今や、「衣食余って礼節を忘れる」という状況になっているのではないでしょうか。

 総理は、今後も豊かさを忌避するのでなく続けていくのだが、その豊かな中で「有徳」である、豊かな中でわれわれの価値観、倫理観、宗教観というものをしっかり持って生きていく国を造りたいという決意を表明されました。私もかねがねそういうことを思っておりましたので、この懇談会の設置は非常によい機会であると思います。

 我々がこのように国を富ませ、科学技術などを進ませてきた背後の要因の一つに、西洋の文明あるいは文化というものがあります。これを取り入れて生きていくことは絶対否定できませんが、日本人として伝統的に持っているものとこれをどうバランスさせるかを、今までのところはある程度不問にしながら、日本的に言わず語らずのうちにやってきたところがあります。しかし、これからは、それを真剣に正面から論じ、そして、どうするかを考えねばならない時が来ていると思います。

 先ほど総理は、我々がここで何かを創り出していけば、それは世界にも貢献できるだろうと言われました。私は、日本以外のどこかの国をモデルにして、そのモデルどおりに頑張ろうという言い方はもうできない時代が来ていると認識しています。どこかにユートピアがあるというのではなく、われわれが現実的に考え出さねばならない時代だと思います。そのために、皆様方の知恵を結集してやっていきたいと思います。

 囚われない、自由な討議が非常に大事です。活発な議論をして、実りあるものにしていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。