21世紀日本の構想報告書
日本のフロンティアは日本の中にある
―自立と協治で築く新世紀―
第1章 総論「日本のフロンティアは日本の中にある」 要旨
T.日本の巨大な潜在力
- 明治以来の「追いつけ追い越せ」モデルによる発展の間に生まれた既得権益と社会通念は、経済社会を硬直させ、日本の活力をそいでいる。世界には、新しい成功の出来合いのモデルはない。日本の中に潜む資質、才能、可能性を活かすことが日本の将来のカギとなる。その意味で、「日本のフロンティアは日本の中にある」。
- 変革の核心は、@国民が国家と関わる方法とシステムを変えること、A社会における個と公の関係を再定義し、再構築することにある。そのためには、これまで十分ではなかった「自立」と「寛容」の精神を育てる必要がある。
U.変革強いる世界の潮流
【グローバル化】
- 仕組みもルールも明示的で、世界に通用することが課題。個人の知恵やアイディアを大切にし、先例、規制、既得権等で邪魔せず、失敗した時にはやり直しができる社会にすることが必要。グローバルな制度、基準、ルールづくりに積極的に参画すべき。
【グローバル・リテラシー(国際対話能力)】
- 情報を自在に入手し、理解し、意思を明確に表明できる「世界へアクセスする能力」「世界と対話できる能力」が不可欠。基本は、コンピュータやインターネットといった情報技術と、国際共通語としての英語を使いこなせること。
【情報技術革命】
- IT革命、特にインターネットの発達に対して、インフラの整備、情報技術教育の強化が特に必要。情報の保護と開示、表現の自由との兼ね合いなどの新しいルールと、その策定・維持を行う中立・公正な主体が必要。
【科学技術】
- 科学技術の急進展は、生活を豊かにするが、何のための科学技術開発かという根源的問いかけも増大させる。人間の存在と尊厳が試され、科学技術は、自然を征服するものでなく、モノだけでなく心も豊かな生活を支えていくものとすべき。
【少子高齢化】
- 少子高齢化は世界共通の課題。日本の進行が世界で最も速い。若年層の意見を社会に反映させる方途、世代間の利害調整、社会活力の維持など根元的な課題を提起する。悲観論に陥らず、潜在力を最大限に引き出すことで乗り切るべき。
V. 何が問われているか
1、統治からガバナンス(協治)へ
- 国、官、組織を優先してきた日本では「上から下へ」「官から民へ」という「統治」のイメージが横溢。負託にもとづく緊張関係を含意とするガバナンス、自己責任で行動する個人と様々な主体が協同して新しい公を創出するガバナンスは希薄。
- 新たなガバナンスを築き、成熟させるには、個人と組織の間の新ルールと仕組みが必要。ルールを明示し、情報の公開と共有、選択肢の提示、透明で合理的な意志決定、決定された政策の確実な実行、事後の評価と政策の見直しなどが必要。一方的な支配を前提とせず、ルールと責任原則にもとづき、双方向の合意形成を基礎とした協同作業の積み重ねが求められる。
- 従来の「統治」のすべてを否定はしないが、こうした新しいガバナンスは「統治」という言葉では捉えきれない。これを本報告書では「協治」と呼ぶことにした。
2、 個の確立と新しい公の創出
- 多様性が基本となる21世紀には、自分の責任でリスクを負い、先駆的に挑戦する「たくましく、しなやかな個」が求められる。個が自由で自発的な活動を行い、社会に参画していくことにより、従来の上からの「公共」でなく、個人を基盤とした新たな公が創出される。多様な他者を許し、支え、また、合意には従う公である。
- 個の確立が公を創出し、公の創出がより大きな選択と機会を個に与える共鳴効果が、社会に新しいガバナンス(協治)を生み出す。
W. 21世紀日本のフロンティア
1、先駆性を活かす
- 21世紀には、個人の先駆性を歓迎する気風と仕組みが社会に必要。先駆性を持ち創造的なアイディアを持った人々が正当に評価され、十分に報われる「新しい公平」、業績や将来性を評価する「公正な格差」を導入する。「機会の平等」が保障され、「やり直しがきく」仕組みが必要。
(1) 教育を転換する
- 教育の均質化と画一性の打破が必要。必要な知識や能力を身につけることを義務づける「義務として強制する教育」と、自由な個人が自己実現の手段を身につけることへの「サービスとして行う教育」を峻別し、前者は最小限のものとして厳正かつ強力に行う一方、後者は市場の役割に委ね、国は間接支援に。
- 初等中等教育では、内容を精選して週3日を「義務としての教育」にあて、残りの2日は、その補習や、修得した子どもへの学術・芸術・スポーツなどの教養、専門的な職業教育にあて、国が給付するクーポンで、民間機関での履修も可能とすることも一案。
- 教育は、家庭、地域、学校の三者の共同作業。家庭におけるしつけや訓練が重要。子どもの教育、行動についての第一義的な責任は保護者にあることを明確にすべき。
- 高等教育では、教育機関自体の国際競争力を向上させる。大学などの設置規制の撤廃、教育・研究の業績評価、授業や研究言語としての英語の使用、外国人教員の積極的採用などが必要
- メディカル・スクール、ロー・スクールなどの専門的能力を高めるための教育機能の充実も不可欠。
(2) グローバル・リテラシー(国際対話能力)を確立する
- 社会人になるまでに日本人全員が実用英語を使いこなせるようにするという具体的目標を設定し、修得レベル別のクラス編成、教員の客観的な評価や研修の充実、外国人教員の拡充、英語授業の外国語学校への委託などが必要。また、国、地方自治体などの公的機関の刊行物やホームページなどは和英両語での作成を義務付ける。
- 長期的には英語を第二公用語とすることの国民的論議が必要。
2、多様性を力とする
- 多様化する時代には、違いを認め合い、それを積極的に組み込む仕組みが不可欠。多様性を尊ぶことは自由を尊ぶことであるが、「自由と責任の均衡」が重要。
(1) 自ら生涯を設計する
- 自己を実現していく上では、男女、年齢を問わず、人生は一貫したものであるべき。教育、雇用、育児、社会保障、経済活性化策などを一体とした総合政策が必要。負担と給付の関係、政策の選択肢を明示し、個人が生涯を設計できるようにすべき。
- 必要最小限の水準の社会保障は国等によって確保し、それ以上のものは個人が多様な選択肢の中から選択できるようにする。年金は、ある時期に拠出したものを高齢期に受け取れるという考え方が重要。高齢者介護、病気予防や保健サービスの選択肢を増やすことも必要。雇用面では、生涯を通じ、能力の正当な評価、多様な雇用形態の選択、能力開発や再挑戦の機会の提供が必要。
(2)地域は自治で自立する
- 中央政府の権限を知事や市町村長に移管する地方分権の発想でなく、地域住民が地域の政府のあり方を自分で決められる仕組みが必要。
- まず、中央と地域が水平的な関係に。地域独自の課題については、サービスと負担を住民が選択できる本来の「自治」の確立が必要。地域の政府は自己責任で自立しうる規模とし、税や地方債は地域で独自に決めるようにすべき。地域の政府の再建や合併のルールも必要。最大限の住民参加を確保し、行政の裁量を限定し、迅速な執行を可能にする仕組とすべき。
- 一方、中央政府の役割は、真に全国的な見地から実施すべき分野に限定し、地域の政府の状況に左右されずに実行できる体制を整える。
(3)非営利民間セクターを立ちあげる
- 公益に関わる人々の意思が活動に反映され、その評価は社会が行い、非営利民間セクター総体が自力で成長できる仕組みに転換する。そのため、非営利法人の設立は一本化して登録制とし、寄付免税の優遇資格は中立公正な第三者機関で統一的に審査する透明な制度が不可欠。同時に、寄付免税枠を大幅に拡大し、税で納めるか寄付とするかの個人と企業の選択肢を拡大する。
(4)移民政策へ踏み出す
- 外国人が日本に住み、働いてみたいと思うような「移民政策」が求められる。当面、日本社会の発展への寄与を期待できる外国人の移住・永住を促進する明示的な移住・永住制度を設けるべき。留学生に対しては、日本の高校・大学・大学院を修了した時点で、自動的に永住権が取得できる優遇策を考えるべき。
3、ガバナンス(協治)を築く
- 多様化し、複雑化する時代にふさわしいルール、開かれた仕組み、新たなガバナンス(協治)が不可欠。政治・行政・司法のすべての見直しが不可避。
- 政治家には、構想力と表現力、国際対話能力を求める。公を担うという気概と倫理観、そして責任感も当然必要。
- 民間にあっては、個人の生命や財産に関わる専門的な知識やサービスを提供する医師、弁護士、資産管理者などには説明責任と第三者評価の充実が欠かせない。
- ジャーナリズムの役割と責任も大きい。情報のふるい分け、人権の擁護、政策提言、国際ネットワークの拡大、日本からの情報発信などを期待。記者クラブ制度依存のような閉鎖性から脱却し、自律的な評価・相互批判の仕組みを自ら確立するべき。
(1)政策選択を多様化し透明化する
- 議員の政策スタッフの充実、国会付属調査機関の拡充、政党のシンクタンク機能強化、大学・民間シンクタンク・NPOなどの政策提案機能や政策研究の強化が不可欠。こうした機関の人材の議会・内閣等への登用、思い切った人材交流を行うべき。
- 政策立案・政策決定の政治主導への転換には、特別の説明責任を伴う。政治家による個別利益誘導を防ぐ仕組み、政党の情報開示や監査制度の確立なども必要。
- 財政赤字の管理など、将来世代へ負担の先送りにつながるような問題は、中長期的視点から透明なプロセスで、専門的、中立的に企画・立案する仕組みの確立が必要。
(2)選挙権を18歳に
- 国民の政策選択結果を公平に選挙に反映させ、国民の政治離れを防ぐ工夫が必要。議員定数の不平等の定期的な自動修正、首相公選制の是非も論議を始めるべき。
- 選挙権を現行の20歳から18歳に引き下げることを提言。約350万人の新有権者を迎え入れることで、若年層に止まらず、国民的な政治への参画意識を高める。
- 被選挙権年齢の引下げや、民法や少年法などとの整合性の考慮も必要。
(3)政府の役割を絞り込む
- 政府の役割は「民間ができないことのみを政府がやる」という原則で厳選。改革により単なるスリム化でなく、国民へのサービスの水準と質の向上を目指すべき。
- 行政のマネージメントの抜本的改革が必須。公会計制度、政策分野別の予算配分、政策評価結果を歳出に反映する仕組みの導入により、予算などの行政資源を政策目標のためにいかに効率的に使ったかを問うことに重点をおくべき。
- 危機管理には立法も含めて対策を行うほか、情報を十分に公開し、政府・自治体・企業・地域コミュニティー・NPOなどが協同して危機を管理する仕組みが必要。
(4)ルールにもとづく
- 司法サービスの国際競争力が国の活力にも大きな影響を与える。上限人数枠を設けずに法曹人口を大幅増させ、規制を緩和して、弁護士間の競争を促進し、法律相談などに弁護士以外の者の参入を認め、他職種の社会人にも資格取得を容易に。紛争処理手続きの多様化、参審制の導入、裁判所の事務効率化も必要。
- 政府の規制は、事前規制でなく、ルールを明らかにした上で民間の自由な活動に委ね、ルールに反した場合に事後的な措置で処理。準司法的な機関の行政上の機能を強化し、事後規制発動のルールを明示する。また、透明な手続きで策定された政策が一部の利害関係者によって歪められないよう、制度的な裏打ちも必要。
4、「開かれた国益」を求める
- 貿易、金融、貧困、食糧、環境保全などの課題は、一国の力や国のレベルだけでなく、より広範な国民が国際関係に参画した「民力」の発揮が不可欠。それは国際的なガバナンス(協治)を担い、世界の公、公共財の創出に積極的に参画すること。
- 日本の国益を、長期的、システム的に日本の国造りのあり方と関連づけつつ定義し、構築することが重要。自国の国益の追求が世界の公益の追求と響きあい、世界の公益の実現が自国の国益に重なる「開かれた国益」の追求である。
- いい意味での現実主義に裏打ちされた国益論議を活発にし、国民が政策議論に加わり、政策提言をし、それを世界に向けて発表し対話する力を育てなければならない。
(1) グローバル・シビリアン・パワー
- 21世紀には、軍事力をもって自国の発展を確保し、紛争を解決するのではなく、人間の安全保障と国際公益を民生的な手段で公正に維持、増進させるべき。
- 国際経済秩序構築への参画、ODA(政府開発援助)の積極的な実施などを引き続き行うべき。また、文化、環境、人権といった市場メカニズムでは評価されにくい価値の領域での国際的協力や、国際機関の活用にもより努力を傾けるべき。
- シビリアン・パワーは、課題設定力、仮説提案力、情報発信力、多角的対話力、文化的魅力、メッセージ力といった知的、文化的ソフトウエアを中核とする国民的な総合力。国民の幅広い層が政策を議論し、外国と交流し、国内世論を形成していく仕組みが必要。NGOを中心とした「トラック2外交」や国際的視野があり、国際的発言力がある民間人の政府高官、スタッフへの抜擢、登用も思い切って行うべき。
(2)総合的・重層的安全保障
- 国民の安全保障の確立には、万一の事態への備えと、万一の事態を起こさない環境を整備する努力、さらに国際社会の平和を維持、回復する努力が必要。
- 万一の事態への備えの根幹は、日米同盟の安定、維持。引き続きアジア太平洋地域の平和と安定を支える経済的・政治的、軍事的基盤として活用すべき。必要な法制の整備を進め、集団的自衛権の行使などについて国民的な論議を持つべき。
- 万一の事態を起こさない努力は、国際的信頼を高める外交努力、紛争防止に向けた予防外交、国際安全保障秩序の強化などが中心。経済安全保障の確保も重要。地球環境の保全、貧困や飢餓の撲滅などの「人間の安全保障」の確保も課題。
- 「一国平和主義」に安住せず、積極的に国際平和維持活動(PKO)や国際平和建設活動(PBO)に対応するのは当然。正当性のある国際安全保障上の共同行動には、原則的支持を与えつつ、日本の参加の可否や程度について国民的な議論を伴った検討を進める必要がある。
- 21世紀の安全保障は軍事、経済、社会、環境、人権といったさまざまな要素を横断的に含む総合的な安全保障で、かつ、人間、国家、地域、地球規模での安全保障を官と民とが手を携えて協力していく重層的に積み重ねた安全保障であるべき。
(3)隣交
- 21世紀には、今後の潜在力を秘めた東アジアにおける協力関係を一段と強化すべき。特に日本と韓国(朝鮮半島)・中国との関係の長期的安定と信頼関係の構築には、ある種の国民的な覚悟が必要。外交的な努力だけでは掴みきれないものをすくいとり、深みのある関係を築く営みを「隣交」と呼びたい。
- これら隣国の民族の歴史、伝統、言語、文化を十分に理解することが必要。両国の歴史と日本との関係史、韓国語や中国語の語学教育を拡充する。国内の主要な案内板には英語と共に両国語が併記されてくらいに「隣交」感覚を研ぎ澄ましたい。
- また、「トラック2外交」や知的交流、文化交流、地域間交流、青少年交流といった多層的な対話や交流をもっと広げるべき。
- APECを発展させつつ、日韓中の間で北東アジア自由貿易圏、エネルギー共同開発、通貨協調体制などの構想を推進するべき。
X 日本の志 ひとりひとりの志
- 日本の先行きを悲観してはいない。主役は個人であり、個人が社会を変え、世界を変える。そうした中から新たな社会が生まれ、日本が生まれる。「立ち向かう楽観主義」と「実務的な想像力」をもって21世紀に臨みたい。
- そして、時間の視野を広げて来世紀を展望したい。自分一代で何かを手っ取り早く成し遂げようとするのではなく、三代、八十年をかけて何かを成し遂げる、そういう志をみんながそれぞれに持つのである。
第2章 豊かさと活力(第2分科会報告書)要旨
T.はじめに ― 活力を通して豊かさへ
1.20世紀から21世紀へ
- 一定の基準のもとに「豊かさ」を一元的に運営することはもはや不可能。「豊かさ」の多様性が自明となる中で、古い社会システムから自由になった人間が示す新たな「活力」の発掘と奮起に注目すべき。
- そうした人間の「活力」がスムーズに発揮できるような仕組みを整備し、人間的な「活力」に裏付けられた「豊かさ」の多様性を実現することが、21世紀の課題。
2.組織と人間との多様な関わり方 ― ガバナンスの問いかけ
- 従来の細かく仕切られた棲み分け構造を持った組織と個人の「全人格的取引関係」を、明確なルールに従った組織と個人の関係に改める。
- 国民は性質の異なる複数の組織に属しながら、多様な形で社会に貢献。権威主義の存在を前提にすることなく、一定の明確なル−ルと責任原則に基づき、自治を実現していく「新しいガバナンス」の能力が問われる。
U.「富を創り、富を活かす」 ― 企業のガバナンスと経済の活力
1.これからの企業とその担い手たち
- 情報革命と金融革命が企業活動を大きく変容させる中で、コーポレート・ガバナンス(企業行動を規律づける仕組み)の再検討と、企業と社会の相互関係の再構築が必要。
2.企業と個人との関係
- 企業と個人の関係は、統治・組織服従型から、市民にふさわしい契約型へ。
- 雇用形態も、専門性や個人の生活を重視した仕組みに変化。
3.企業の新しいミッション
- 企業は、「富の創出」の過程とその分配を通じて社会に活力を与えるべき。その際、企業行動の透明性の向上が必要。
- 「富の創出」に成功した企業が、その「富を活かす」ことにより、社会に貢献していくという視点も必要。
V.「参加し公を担う」 ― 社会のガバナンスを担う活力
1.「官」の統治から自治的統治へ
- 「官治」体制以後においては、多様な組織や団体が「公」を担うべく責任を持って「参加」しながら、新しい自治を創造していくことが必要。
2.社会のガバナンスを担う主体
- 専門職集団は、その専門知識や技術を一般市民の助けとなるよう活かすべき。
- 公益法人、NPO法人等も「公」の担い手として活動できるような状況を積極的に作るべき。
- 少子高齢化による地域社会の重要性の高まり等により、地方自治体の改革が不可欠。税財政面での自己責任の確立と住民との生き生きした関係の構築が必要。
3.「参加」のための条件整備
- 「公」の活動への「参加」のために、情報公開、「参加」主体の責任感(相互の社会的説明責任)、新規参入や離脱が開放的なシステム、自己教育・啓発のための機会の向上等が必要。また、「法の支配」の原則の貫徹のため、法曹集団の役割が重要。
W.中央政府の役割と国民 ― 21世紀型ガバナンス
1.パターナリズムからの脱却
- 中央政府は、もはや「公」を独占すべき立場にはなく、「公共性の実現のための一装置」としての役割を十分に果たすことが基本的課題。
- このため、特に、税に対する国民の意識を民主政治の原点に遡って見直すことや、税制そのものの公平性の議論が必要。
2.中央政府の役割
- 中央政府が内政において果たすべき基本的役割は、@明確な法的ルールの設定とその確固たる遵守、A市場の補完と公平性の実現、B国民生活の安全がおびやかされる危機への対応。
- 全ての紛争は法によって基本的に処理されるものとなっている状況の中で、それに対応できる十分な立法および司法(準司法機関を含む)の能力が、中央政府にとって不可欠の要素。
- 個人が自由な活動を行っていく場合の「セーフティーネット」 の整備、ナショナル・ミニマムの確保、「機会の平等」の実現のための施策の実施等は、中央政府の重要な役割。
3.政策決定プロセスの見直し ― アカウンタビリティの確立
- 中央政府は、政策決定に先立って財政のあり方に責任を持たなければならず、まず、これまで先送りにしてきた財政をめぐる諸制度の改革が必要。
- これまでの中央官庁中心の政策決定プロセスを根本的に見直し、立法部門・政治部門の政策立案機能の強化、大学や民間シンクタンク等の役割の拡大等を図るべき。また、中央政府の活動の透明性の向上とアカウンタビリティ(説明責任)の強化が必要。
- 公共政策の行方を左右するのは、結局は国民の態度。国民の広範な関心を背景にして、様々な個人や団体が公共政策を積極的に「提案、提言」していくという建設的な方向を目指すべき。
X.おわりに ― 専門的人材の育成と新しい公平の観念
1.人材の流動性と活力ある社会
- 組織の側はより流動性の高い柔軟な構造を求め、個人の側は自らの専門的能力の陶冶とその認知に強い関心を持つようになっている。
- 専門的人材の養成に貢献し、それを通して人材の社会的流動性を側面から援助するとともに、使命感と情熱を持った人間の自由な発想と自己陶冶のための環境を整備する観点から、高等教育機関の改革は極めて重要。
2.新しい公平の観念
- 21世紀においても、人権尊重の原理を引継ぎ、更に発展させていかなければならないが、権利や利益の尊重をひたすら受け身的にのみとらえるのではなく、ダイナミックな社会や活力ある個性の尊重と結び付けていくべき。
- これまでの棲み分けと横並び構造に結びついた公平の観念を見直し、社会に活力をもたらすような先駆的挑戦を行う人材、使命感と情熱を持って取り組む人材に対する正当な敬意と評価を社会的に確立することが必要。
第3章 安心とうるおいの生活(第3分科会報告書)要旨
T.夢を持ち、信頼しあう社会を求めて
- 一律に解消されるべき生命の危険への不安(飢餓、戦争や災害など)に対し、ここでは、いわば「豊かさの中の不安」を課題とする。これは、個人の価値観など主観的要素に関わり、各人がそれを見つめ乗り越えようとするところに活力が生まれる。
- 安心とうるおいの保証を国に依存するのではない。 視点を人間の側におき、各人が自由に自己責任で行動し(自律)、同時に多様な他者の存在を許して他者を支え(寛容と協調)、創造的役割を果たす社会づくりを基本とする。国の役割は、そういう人を育て、その生き方を支える制度や環境の整備と考える。
U.不安の本質と対処
- 不安はヒトという存在にとって本質的なもの。不安への対処行動が人間の文化的・社会的活動の基本を形成してきた。
- 不安への対処として作ってきたシステムは、帰属・目標・価値観の三つを明確にするという形で安心を支える。
V.時代の転換が引き起こす不安
1.20世紀の安心の保障
- 家族・地域への帰属を基盤としながら、国家・企業という組織・制度への帰属を強化。
- アメリカ型ライフスタイルと物質的豊かさを目標とし、科学技術が豊かさと安全を提供。
- 価値観については、和魂洋才というように伝統的価値を失わないように努めてきた。
2.21世紀の不安
- 安心を支えたこの三つの保障が大きく変化。
- 国家・企業・地域・家庭のあり方の変化は「どこに拠って立つのか」を不安定にし、科学技術の急速な進歩がもたらす変化は、医療や産業廃棄物の問題など「この先どこへ行くのか」という不安を呼んでいる。伝統的価値の衰退と多様化は「何をしたらよいのか」を相対化し不明確にしている。
W.転換期を生かして21世紀を安心の社会に
- 価値観の変換と、個人を活かす社会システムへの転換が不可欠。 それにより、自律的個人が、その共同体を自ら担うという意味での、個と公が両立する新たな公の創出が可能となる。
1.新しい価値軸の設定
- 人間も生きものであり自然の一部だという生命論的世界観を基本とする社会づくりを提案。
- 経済以外の価値を十分評価する社会への転換により、個性を生かした様々な挑戦を許す快い競争を。
2.個人を活かす社会システムへの転換
- 多様な個人の自律性・内発性を活かす。教育を自分の良いところを探し出すものとし、それぞれの仕事や役割が評価され、生活を大切にして納得のいく仕事をする社会を。
- 個人を有機的に結ぶ分散協調型社会を。 しがらみを否定し、地理的な制約も超えて、各人が自律的に参加する新たな人間関係を組み立て、横につながって協力し合う社会を目指す。
- これまでの壮年男子中心社会に対して、生命・生活・一生を大切にして、各人がそれぞれのライフステージをいきいきと生きられるような社会を目指す。
X.安心とうるおいの社会の提案
- 自律的・内発的な個人が、どう生きたいと思うかから出発し、生命・生活・一生を大切にするライフステージ社会、個人が主体的に参加する分散協調型ネットワーク社会を作ることで、安心とうるおいのある真に豊かな生活をしようという提案。 このような社会を作るため、科学・科学技術の生命論的価値軸の中での構築と、情報を活用して個を活かす社会システムの形成が必要。そして個人を支える教育、仕事、家庭・地域、社会保障に、新しい考え方や制度が必要。
1.安心を支えるために
(1)教育 − いつでも、どこでも、誰もが学べる
- 教育の目的を、人間として生きるための基本的約束事、社会人として生きるための基礎知識、職業人としての基礎知識と技能、の修得と明確にする。
- 基礎的部分はすべての人が身につけられるよう義務づけ、他は各人の選択を大幅に認める制度とする。
- 社会人となった後再度学ぶ意欲のある者に対して、門戸を大きく開いた制度とする。
(2) 仕事 − 複線社会の中で
- 個人の選択肢を広げ、金銭的・物理的条件に加え、生き方全体における仕事の位置づけなど、様々な価値観に基づく主体的選択を可能とするような、安心を支える雇用の流動化が必要。転職の阻害要因の除去、雇用者優位の労働市場の是正を。また、雇用調整助成より新規の雇用機会の創出に政策重点を。
- 仕事は安定的に確保される必要があり、労働仲介機能の充実が不可欠。また、同じ職場にとどまるという選択も尊重される必要。継続学習の必要性はますます高まり、いつでもどこでも誰もが学べる制度の主体的活用を。
- 定年と寿命とのギャップを埋める、年齢に応じた多様な職場の開拓が重要。報酬は高くないが、社会貢献度が高く生きがいの感じられる職場を。また、個人が主体的に行う事業の重要性を再評価してその活性化を図ることも重要。
(3) 家庭・地域社会 − 多様性を活かし、自ら選ぶ人間関係
- 社会が子宝として子どもを育てていく状況を作り出すことに政策重点を。育児専念期間後の復職を容易にし、十分な保育支援の供給が必要。
- 既存のしがらみからは離れ、しかし人間関係を大事にするという視点は失わずに、新たな関係の主体的構築の試みを。
- 多様性を尊重する社会では、 差別の禁止、あらゆる人の基本的人権の尊重が基本。 海外からの移住も視野に入れ、 文化的背景の違いに起因する摩擦の解消のため、不文律を基礎としてきた社会を、明文化したルールに則り運営するよう転換が必要。
(4) 社会保障(医療・介護・年金) − 生き生きとした「健康長寿」の確保
- 社会保障は、雇用制度や職業訓練など経済・社会の様々な制度・慣行との関連が重要であり、 切り離して論じるのではなく、総合的な政策形成が重要。
- 21世紀の社会保障の理念は、必要最低限度の公的保障と、民間セクターが提供する多様な選択肢の適切な組み合わせが肝要。
- 高齢社会を、「若年世代が高齢世代を支える」という捉え方でなく、「誰もがなりうる状態に対するリスク負担を、共同体構成員の間で適切に分担する」ものと捉えた制度が必要。高齢であっても負担を担う人もある。
- 既得権を温存したまま増加分を新たな分配に回すという、パイの拡大を前提とする手法では、 国民が負担に耐えられず、 制度の安定的運営ができない。
[医療]
- 生命寿命と健康寿命のギャップの縮小を目標に、予防医療・健康維持(保健)医療へ政策重点を移行。 日常の健康問題を気軽に相談できるチームである「まちの保健室」を提案。予防医療の充実は、医療費の抑制にも資する。
- 医薬品などの過剰使用を抑制する仕組みの導入が急務。
- 密室化しがちな医療現場の現状に対し、カルテ等の開示、医師の説明責任の強化、医療機関の評価制度の導入、「まちの保健室」による中立的アドバイスの充実などにより、患者による医師や治療方法の選択を可能に。
[介護]
- 本人が望む場所で人生を完結できる仕組みの整備が重要。
- 家族のみによる介護は限界。 リスクを社会全体で負担するという基本理念に基づき、負担の社会化の制度整備が急務。
- 要介護者の尊厳の確保に十分な配慮を。 自己負担の導入により、恩典的供与の性格を排しつつ、自律的選択の可能な仕組みが基本。サービス提供者間の公正な競争により、サービスの質的向上やキメ細かなサービス提供につながる仕組みとすべき。
- 介護の価値を社会的に認め、その対価の適正化を。
[年金]
- 不安を深刻化する頻繁な制度改正を排し、長期的視点から安定的な制度の構築を。 縦割りでなく、定年制、高齢者雇用、医療・介護を含む社会保障全体のあり方、経済の活性化策などを一体として、総合的見地に立った政策形成を。
- 各人が、人生の全体像を把握して自主的に人生設計することが基本であり、年金も、これを可能とする多様な選択肢を用意すべき。自らの選択により、拠出の対価を後の時期に受け取るという考え方を支援する仕組みが求められる。
- この多様な選択肢が自主性と安心をともに提供する前提として、強制加入による最低限度の基礎的年金の確固たる構築が必要。
(5) 文化・芸術活動 − 新しい道を探す気持ちの表現
- 文化・芸術活動は人間が生きる基本。
- 個人・企業による寄付への免税措置の拡大を。
2.ライフステージ・分散協調型ネットワーク社会を支える情報と科学技術
(1) 情報 − 共有とコミュニケーションにより新しいコミュニティを
- 機械に振り回されない、人間主体の情報社会が目指すべき方向。データを誰もが意味あるものとして容易に活用できるよう、扱いやすい機器を普及させすべてをネットワークで接続。
- 経済的対価より、尊敬と感謝を得ることを原動力として普遍的なシステムを作る動きは、人間主体の新たなコミュニティ形成を技術が支える好例。
- 医療への情報技術の活用や、各人とまちの保健室とのネットワーク接続は、高齢者などの安心の保障を増し、ライフステージ社会の大きな支えとなる。
(2) 科学および科学技術 − 自然・人間・人工の関係の再構築
- 効率追求・量的拡大に偏った科学技術の価値観は見直すべき。 自然を機械的にパーツ分けするのでなく、自然を複雑なものとしてその全体像を理解するという方向が大事。 自然の一部である人間にとって望ましいものは何かを考えた科学技術開発を。
- 農業の見直し、自動車に代わる総合交通システムの考案、医療や廃棄物処理・水の循環に関する技術開発、などを通じ、自然を生かす循環型社会の構築を。
第4章 美しい国土と安全な社会(第4分科会)要旨
T.開かれた社会の環境と安全の確保に向けて
- 21世紀は、科学技術の発達に伴い、自然災害に加えて、人間の活動が新たな危険を生み出していき、「暮らし」の豊かさが改めて問い直されなければならない。
- 人間の多様性を尊重し、異なる価値観が共存する開かれた社会において、環境や安全を守るためには、個人や政府の役割を問い直し、新しい関係をつくりあげることが必要である。
U.物心ともに豊かな暮らし
1.魅力ある文化の創造
- 個人の生き方の総体が「文化」であり、ひとりひとりの「暮らし」を大切にし、「人生の質」をあげることが必要である。暮らしが美しく、治安がよいものになれば、人を惹きつけ、他の地域にも広まり、「文明の時代」を切り開くことになるであろう。
2.「もの」の価値の再発見
- 物の豊かさと心の豊かさを両立させることこそ、現代日本人に問われている努力目標である。
- 貨幣価値では測れない「もの」の潜在的価値をみつけ、それをとりいれて暮らしに厚みをつけるべきである。
- 科学や芸術は、人が能力を伸ばし、「もの」の固有の価値を発見するために重要な役割をもつ。
V.「活かしあう社会」づくり−個と公の新しい関係
1.関わり合う「たくましくて、しなやかな人」
- 政府主導で近代化をとげた日本は、「公共性を担うのは政府の責任」という依存をうみ、政府は利益誘導、縦割り行政におちいり、システムにモラルハザードが生じている。
- 個人が自立し、他人の自立を助け、人やものに進んで関わりを持つ(コミットする)「たくましくて、しなやかな人」になることが求められている。
2.活かし合う透明な制度
- 自立した個人には自己決定と自己責任がもとめられる。その前提として情報の提供が不可欠である。インフォームドコンセントいう考え方は、医療だけでなく、もっと広い範囲で応用されるべきであり、建築物の安全度の評価を情報開示し、市場で価格に反映させる仕組みも必要である。
- 政府の役割は、様々な価値観や利害の中から一つの政策を生み出していくための調整機能をになうものに変わる。透明な制度により情報を公開し、安全や環境に対する様々な期待度や許容度の中からコンセンサスをつくる仕組みづくりがもとめられる。
- 事前に規制する手法から、ルールを明確にし、ルール違反があった場合には、罰則などの事後的な規制措置を発動できる仕組みにかえていくことも必要である。
W.「地域」の自決−住民主体の地域づくり
1.暮らしの場としての「地域」
- 暮らしの場は「地域」である。美しい環境や安全な社会をつくるには、まず、地域づくりにおいて、新しい個と公の関係が築かれなければならない。
2.住民主体の地域ガバナンスに向けて
- 地域を活性化するためには、自治能力を高めることが大切である。政府、地域住民、街づくりNPO、企業などが参加する水平型、開放型のシステムをととのえることがもとめられる。
- これまでの国土計画が上から推進してきた「国土の均衡ある発展」の考えを変更し、地域社会の特性を地域社会が自分の判断と力で開花させる方向へ向かうべきである。
- 地域は補助金に依存する体質からの脱却が、中央は補助金で縛りつける体質の改善が、もとめられる。
- 建築や土地利用にかかわる政策策定は、専門家の助言を得ながら地域住民の意思が事業に反映されるシステムに変えていかねばならない。実行段階においては、決定事項が、一部の反対者や行政の裁量によって実施が妨げられることのないよう、迅速な執行を可能にする規制も必要である。
- 住居と一体的に公園緑地や歩道の整備などにより快適で安全な都市の再生が必要である。そのためには、横断的な推進体制と強力な指導力が不可欠である。
- 世界の諸地域についての格段の理解を深めるために必要となる情報交換をめぐって総合的・学際的な専門知識を提供するシンクタンクの設立も視野に入れておくべきである。
X.危機に強い国づくり
1.戦略的に思考する
- 完全な安全はないということを前提として、戦略的に安全対策を考えることが必要である。災害・事故の発生を想定し、被害を最小限に食いとめるための対策、速やかに復旧させるための体制をととのえておくことがもっと重視されるべきである。
2.科学と情報を使いこなす
- 科学・技術・情報を万能とするような過剰な期待をすて、一方、いたずらにマイナスの側面を強調しないことが求められる。科学的根拠を冷静に理解し、情報を共有する仕組みづくりが必要である。最先端の科学の専門的知識をわかりやすく伝える人間の養成、文理融合の学問の確立、専門分野をこえたネットワークの形成などが必要である。サイバーテロについては、国家間の連携による対応が要請される。
3.連携して危機を管理する
- 阪神・淡路大震災のような緊急事態では、ボトムアップ型の意思決定システムを、現場での判断、水平方向の調整、トップダウン型の指揮命令を可能とするシステムで補完することが不可欠である。行政(警察、消防、自衛隊などを含む)、ライフラインや物資供給などに関する企業、地域コミュニティー、ボランティア、NPOなど横断的な危機管理機構の設置が必要である。
- 個々の防御力を高めるため、生活や教育にも危機管理システムを組み込み、休日を設けるなどして大規模な防災訓練を実施することが大切である。
- 大規模な災害の財源をあらかじめ確保しておくことが必要である。また、民間の集合住宅の地震等の被害による修復費用に関する当事者間の負担のルール整備が必要である。
Y.新しいソフトパワーの創造
- 時代は、覇権をきそう近代から文化力をきそう方向に動いている。生き方に誇りをもち、暮らしやすく安全で美しい自然に感じられるたたずまいを実現することが求められる。
第5章 日本人の未来(第5分科会報告書)要旨
T.はじめに
- 産業構造が変化して、新しい技術の創造、新しい情緒的な価値の生産が急務となる中、日本には世界標準でそれに適応できる人材が不可欠。また、創造の意欲に溢れ、透徹した理性と豊かな想像力を兼ね備え、未知の問題と取り組む先駆的な才能を育てることが必要。
- こうした先駆的な人間を生み出すためにも、また国民が堅実で安定した生活を営むためにも、社会全体に聡明な共通の認識能力が分け持たれることが必要。
- 自由市場は時に従来の国民国家の統治力を制限したり、社会に必要以上の混乱をもたらすが、自由市場の世界化は歴史の趨勢であり、人類がそこから受ける恩恵も計り知れない。このため、国家は市場と協力し、それにしかるべき軌道修正を加えながら共生するほかはない。
- 市場が有効かつ健全に機能するためにも、人類はその限界を補うために、国家をはじめとする社会機関、非市場的な制度と人間関係の仕組みを持つことが必要。人間の評価と育成について言えば、必ずしも国家に限られず、私的な学校、企業、職業集団、非営利団体、さらには批評機能を持つジャーナリズムも、教育に貢献することが可能。しかし、市場と拮抗して教育制度の根幹を支え、民間諸機関の活動を援助し、調整する役割は国家にのみ期待される。
U.教育のもつ二面性
- 文明的、文化的価値とは一言で言えば時の変化に抵抗する同一性と、時の流れに刺激される流動性の両面から成る。人間の教育を考える場合に必要なことは、この二面性を巧みに両立させる方策を立てることであり、教育の国家的な運営と、市場的な運営の両面が併用されることが必要。
- 広義の教育、すなわち人材育成にかかわる国家の機能には、質的に異なるいくつかの側面がある。一つは、国家にとって教育とは一つの統治行為であり、国民に対して一定限度の共通の知識、あるいは認識能力を持つことを要求する権利を持つ。
- 同時に教育は一人ひとりの国民にとっては自己実現のための方途であり、社会の統一と秩序のためというよりは、むしろ個人の多様な生き方を追求するための方法でもある。この側面においては、国家の役割はあくまでも自由な個人に対する支援にとどまり、近代国家が提供するさまざまなサービスの一つに属すると考えるべき。
- 具体的な教育の内容に即してどこまでが共通の認識能力を要求する統治であるか、どこからが多様な自己実現に資するサービスであるかを機械的に指し示すことはできず、国家は常に注意深く、統治行為としての教育とサービスとしての教育の境界を明らかにすることが必要。必要最小限度の共通認識を目指す義務教育については、国家はこれを本来の統治行為として自覚し、厳正かつ強力に行わなければならない。また同時に、サービスとしての教育の分野においては、その主要な力を市場の役割にゆだね、あくまでも間接的に支援の態度を貫くべき。
V.日本の教育をめぐる現状と課題
- 日本の教育の歴史は、統治行為としての教育が目覚ましい成功を見せ、内容の拡大に努めた過程。明治以来の教育の成功は日本の近代化、とりわけ工業化に必要な高度で均質の人材を大量に供給した。しかし、日本が工業社会からポスト工業社会に移る中で、それを支える先駆的人材が他の先進国に比べて育ちにくい状況。
- 統治行為としての教育には均質性が必要であり、最低限度の教育の制度化は不可欠。しかし、統治行為としての教育とサービスとしての教育が安易に混淆され、サービスとしての教育が生徒にとって義務となり、統治行為であるべき教育があたかもサービスであるかのように見えるならば、どちらも本来の機能を発揮できない。統治とサービスの混淆は、結果として授業内容についていけない子どもには過大な負担を与え、それを消化してより広く好奇心を満たしたい生徒には足踏みを強いる結果を招来する。
- また日本の学校教育の充実が実は広義の社会教育、文化行政の貧困と背中合わせにあり、先進諸外国との比較において、我が国の文化行政予算、言い換えれば学校外におけるサービス的教育への支援は極めて乏しい状況。
- さらに、統治がサービスと混同されたことの別の弊害として、子どもたちが教育を国民の義務として理解し、それに畏敬の念を持つことを忘れかけている。義務教育はサービスではなく、納税と同じ若き国民の義務であるという観念を復活しない限り、教師の自信も回復されず、昨今さまざまに憂慮される教室の混乱が起こるのも当然。
W.改革のための提言
- 2010年辺りの実現を目途として、義務教育の教科内容を徹底的に精選することを提案する。これは、あえて一見、過激に見えるゴールを設定し、それぞれの専門家が自らの分野の精選に当たるよう促す方途として提言するもの。
- すなわち、10年間の検討時期と必要な経過措置を置いて、現在の義務教育の教科内容を5分の3にまで圧縮し、義務教育週3日制を目指す。これは、週7日のうちの半分以上、すなわち少年期の半分以上を、生徒と親の自由選択、自己責任に委ねて見ようということ。また、同時に5分の3を目指して、絶対に必要な教科内容を洗い出してみる過程のなかで、その厳しい努力によって改めて教える側の強い教育意欲をかき立てることがこの提言の目的。
- 週3日制の実現により、これまでに比べて、生徒に生じる2日間の余裕については、生徒たちの自発的な、社会の良識に照らして健全な目的のために自由に使わせる。しかし、5分の3にまで削減した教科内容は、国民が国民として身に付けるべき最低限度の義務であるから、これを達成できない生徒には別途の援助を与えることが必要。
- この2つの目的を実現するために、一方には公的な制度にのっとった補習授業教室を開設することとし、義務教育の延長として、国家がその費用を100 %負担する。また、週3日の教科内容を消化し得た生徒は、それぞれの関心に従ってより高度の専門的な学業、芸術、スポーツなどの教養、あるいは専門的な職業教育の基礎に向かってもよいこととする。この部分は民間の既成の教育機関、あるいはこれから生まれる教育集団、更には従来の学校が自らの教室を開放して行う教育の場にゆだねる。この部分はサービスとしての行政であるから、それにふさわしい程度の財政的支援を行う。その方法については、今後、社会各方面の議論に期待したいが、例えば、生徒一人ひとりに対する教育クーポンの支給が考えられる。
- この制度は、ある意味において教育への市場原理の導入であるが、他面から見れば、これまで市場に放置されていた文化活動への国家の支援を促進すること。劇場、音楽ホール、美術館、生涯学習の講座、またボーイスカウト、地域振興の運動などの指導者は、互いに市場の競争にさらされながら、しかしこれまでよりは手厚い国家の支援を得て教育の場に参加することが可能となる。従来の学校教師の側から言えば、仕事の基礎的な部分は公的に保証された上、努力と熱意によっては、この自由な教育市場に飛び込むことも許される。
- この結果、恐らく国家の教育費の総額は、現在よりもむしろ増えるであろうが、その額は、制度の細部を検討する過程で決定される。この提案は、あくまでも教育界に一石を投じ、真剣な議論を促すためのものであり、ここでこれ以上の細部に立ち入ることは控える。
X.最後に
- 義務教育修了後の教育は、現在の高校をも含めて一層の自由化と多様化と、そして相互競争にゆだねるべき。最終的には、大学院、大学が、それぞれの理念と学風にしたがって個性化し、それが求める学生像を明確に表明することが不可欠。高校教育は、それを半ば目指す形で、同時に実社会の多様化する目的に合わせて一層の複線化に努めるべき。社会にそれだけの準備ができれば何を選択するかは、子どもとその親の自由な、しかし緊張ある選択に任せられることになる。
- 義務教育の時間的な削減は、子どもの集団への帰属感覚を変える。従来と違って生徒は自己の属する学習集団をより積極的に選択することになり、学校、民間の教育機関、市民運動の団体など、多様な集団に属することによって、自発的な参加、帰属の感覚を養うことができる。一方でまた若者は自分と異なる環境、年齢の他人と知り合うことにより、より豊かな精神的充実を得ることが期待される。
- 今後の国際化と文化的な多様化を先取りし、促進するために、精選された義務教育の内容は、なるべく民族的、文化的に中立性の強いものが望ましい。それは、公正で普遍的な人間性に基づく国家を愛することとは矛盾しない。法と制度を厳正に維持し、社会の秩序と安全を保証し、世界化する市場に適切な補正を加える国家の重要性は自明であり、生徒に対してそれを敬愛することを教えるのは義務教育の範囲の中である。
- 本来、教育とは社会の全体が主体となり、社会の全体を対象として行うべき、終わりのない自己改善の過程。学習は万人の生涯の仕事であり、その場所は社会のあらゆる機関に用意されているのが、あるべき姿。この提案の本旨は、単に制度的な学校教育の量を制限しようということではなく、そのことを刺激材として、社会全体の教育機能を活性化しようということ。
- 教育機関はそれぞれ学ぶことの魅力、教育内容の意義についてより強く社会に訴えることが期待される。芸術家、科学者、宗教人は本来の教育者としての一面をより鋭く意識し、積極的に社会に語りかける努力を増すべき。特に望まれるのはジャーナリズムの参加であり、それ自体が独自の教育主体として、また教育の批評機関としてより有効な力を発揮するべき。なかでも放送は自己の影響力の強さ、社会から与えられた特権的地位を忘れず、教育のために一層の寄与をすることが必要。
- 一般に規制の緩和、制度の自由化は、専門家にとって自己責任の増大を意味。個人としての教育者、教育機関、さらにはジャーナリズムは知的専門職業としての自覚を強め、自律的な相互批判のための機関を設けるべき。制度の自由化が市場メカニズムの導入だとすれば、次に求められるのは、市場への非市場的な評価機能の導入である。放送における視聴率、教育機関における入学者数、出版物における販売部数などだけが支配する社会には、およそ教育も文化も成立しない。社会の知的能力と品格を維持するために、専門家の権威と信用の確立、それを援助する国家の努力はますます必須となる。そしてそれこそが逆に自由市場社会の死活を決め、「富国有徳」社会の成否を分けると考えられる。
第6章 世界に生きる日本(第1分科会報告書)要旨
T.20世紀の財産目録 ― 自由、民主主義、日米同盟
- 1.近代(戦前期)の日本
- 近代(戦前期)の日本には、輝かしい近代化の成功があった一方、強大となった力を政治的英知をもってコントロール出来ず、戦争にのめり込んだ。
- 2.戦後の日本
- (1) 戦後日本が、平和的発展の道を求め、経済国家としての再生に成功したことは高く評価すべきであり、そうした成功を支えてきたのが自由、民主主義、日米同盟であった。他方、冷戦下の米国依存症の下での責任感と自己決定能力の低下、近隣アジアとの関係の深化の不十分さは大きな問題である。
- (2) 21世紀には、戦後日本の良き面を支えた自由、民主主義、日米同盟を資産として守りつつ、アジアとの協調を発展させ、国際社会における責任感と自己決定能力を向上させて、国際システムの構築に参画することが必要である。
U.21世紀の課題
- 1.開かれた国益
- (1)「開かれた国益」の提唱
国民の利益を増進しない対外政策は、国内的に持続不可能であり、自己利益の一方的追求は、国際的に持続不可能である。そこで、相手国の利益をも尊重する相互性に立ち、友好国を増やし、国際環境の改善を通じて、自らの必要を迂回的に満たしていくような長期的・間接的なアプローチを重視する「開かれた国益」(enlightened self-interest)を追求していくことが大切である。
- (2)国民に開かれた国益
その際、国民に開かれた国益であること、すなわち、@大きく見て実質内容的に国民的必要を満たす政策であること、A国民との間で情報と認識が共有され、国民がさまざまな方法で政策決定に参画していることが重要である。
- 2.隣交 ― 近隣アジアとの協調
- (1)隣交の提唱
東北アジア地域には、冷戦の氷塊、経済的貧富の格差、「地理と歴史」を巡る溝など様々な断層があった。今後、地域の共同利益に眼を向け、協調の精神を共同で活性化し、亀裂や対立を緩和していくことが、この地域の発展のために不可欠であり、それは日本の国益である。
- (2)障害の克服と国民的交流の促進
近隣諸国との関係は、領土問題には冷静に平和的解決に徹し、思想と認識の差異を乗り越えて発展させていく必要がある。観念上の相違は、政府間だけで克服できるものではなく、社会レベルでの幅広い相互交流によって解消されていく部分が大きい。相互の言語習得機会の増大、人的交流の拡大などが促進されるべきである。
- (3)東アジアの多国間協調体制
二国間の友好関係をたばねる地域枠組を形成し、多国間関係を二国間関係に重層的に組み合わせていくことが重要である。@南北朝鮮と日米中ロの計6ヵ国による安全保障に関する国際会議開催による信頼醸成、A事実上の東アジアサミット(ASEAN+3)における地域問題解決(アジア通貨基金創設の検討、環境・災害対策の協力、人材育成と交流計画など)、B共通の屋根としてのAPECによる地域共同利益の推進などが進められる必要がある。
- 3.シビリアン・パワー
- (1)シビリアン・パワー日本の変容
戦後日本は、もっぱら非軍事の経済中心主義的な国という意味で、シビリアン・パワーであった。今後は、シビル・ソサエティーの充実した民尊の達成される社会、文明的な態度という「シビル」の他の意味もあわせ持ったシビリアン・パワーとして、国際社会に建設的役割を担っていくべきである。
- 2)シビリアン・パワーの安全保障
シビリアン・パワーは軍事をもって自国の発展や紛争解決を図ったりすることを峻拒するが、国際社会の安全に無関心ではない。
- @日本への直接的脅威には日米同盟を中心に対応し、その枠組が円滑に動くための条件を法制整備、基地問題対応、ホスト・ネーション・サポート、政策対話の強化、国民的理解の増進などを通じて確保していくことが重要である。
- Aまた、日本が国際安全保障上の共同行動に参画することも原理的には肯定されねばならない。具体的な判断が限りなく慎重なのは当然であるが、安全保障に関する国際的共同対処からの一般的逃亡を21世紀を通じて続けることはできない。憲法や集団的自衛権の問題など国民的論議が必要である。国連PKOへの参画に積極的であるべきは言うまでもなく、任務や武器使用などについての現在の過度な制約を見直す必要がある。
- Bさらに、グローバルな安全保障システムそのものの再構築を支えていくべきである。常設事務局すらないNPT体制やジュネーブ軍縮会議の議事規則の見直しなど、軍備管理・軍縮体制強化に非核シビリアン・パワーはイニシアティブを発揮すべきである。また、「人間の安全保障」に関わるグローバル・イシューへの貢献を、日本の国際活動のジャンルの一つとして定着させることが望まれる。国連活性化に向けて、日本は常任理事国になって建設的役割を果たしていくべきである。
- (3)国際経済秩序の再編
国際経済制度再構築にも積極的に貢献していくべきである。
- @金融分野でも、グローバルなレベルと地域レベルを重層的に使いこなすべきであり、アジア通貨基金の創設も改めて検討する必要がある。円の国際化により為替変動リスクを小さくすることが望ましく、それによりアジア諸国などに選択の幅を提供することを考慮すべきである。
- A多角的貿易体制の拡大・深化に伴い、グローバルな合意形成が難しくなる中で、国際公益の制度化に向けた努力を重ねつつも、地域レベルの自由貿易協定などの連携・統合を補完的に併用する重層的体制の構築を目指す。
- (4)ODAの活用
ODAは、日本の対外関係の中で、最も役に立っている活動であり、シビリアン・パワーとしての日本がODAを軽視するのは致命的な誤りである。国際的な貧富の格差や破産国家の増大を食い止めるためにも、さまざまな種類の無償援助、円借款によるインフラ整備などを組み合わせる総合的援助メニューを維持し効果的に展開する必要がある。
V.21世紀の世界に生きるための国内基盤
- 1.言力政治(ワード・ポリティクス)の強化
- 今日急速に重要性を高めているのは、言語を武器とする言力政治(ワード・ポリティクス)であり、その内容は、情報力、構想力、提案能力、表現力などである。言力政治に対応しうる能力を持つ個人が、政治家をはじめ各分野で輩出されることが重要である。そのためには、情報公開の促進、官民人事交流、官民合同チームによる政権毎の外交戦略の考案、重大事件についての報告書作成の慣行化などが必要である。
- 2.国際知識の集積・人材育成
- 国際知識の集積や各分野の人材育成こそが基盤である。政府対外関係部門の強化、世界の各地域をカバーする研究所の創設や拡充、大学の国際化、マスメディア水準の向上、NPO機能の拡充などを進めていくべきである。
- 3.グローバリゼーションへの対応
- グローバリゼーションに対応すべく、英語やインターネットを日常的に使用し、優れた外国人を多く日本に迎え、国内多様性を形成すべきである。