第52回 国家公務員合同初任研修開講式 安倍内閣総理大臣訓示

平成30年4月4日
 
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 国家国民のため、心を尽くし、身を尽くす。崇高な志を持って、国家公務員の道を歩み出す皆さんを、内閣総理大臣として、心から歓迎したいと思います。
 少々緊張した面持ちで、意欲と希望に満ちあふれる皆さんの、真剣なまなざしを見ると、日本の将来は、きっと良くなる。そう思います。
 本年は、明治維新から150年となります。技術優位の欧米諸国が迫る国難ともいうべき危機の中で、明治という新しい時代が育てたあまたの人材が、我が国が急速に近代化を遂げる原動力となりました。
 今また、日本は、少子高齢化という国難に直面しています。これほどまでの急速な少子高齢化は、これまでにない事態であります。しかし、今一度、あらゆる人が存分に能力を発揮すれば、必ずこの壁も乗り越えることができる。
 安倍内閣では、高齢者も若者も、女性も男性も、難病や障害を抱える人も、誰もが輝く一億総活躍社会をつくり、この困難を突破していく決意であります。
 若い感性、柔軟性、突破力。皆さんに大いに期待しています。明治時代、若い多くの官吏が奮闘し、近代国家日本の基礎をつくり上げました。先輩たちに負けないぐらいの気概を持って、これからの仕事に目いっぱい取り組んでください。
 明治の先人、民俗学を確立した柳田國男(やなぎた くにお)は、また、行政官でもありました。国家公務員としての20年、農業改革に粉骨砕身しました。
 幼い頃に自ら飢饉(ききん)を経験し、また、当時行われていた、間引きという現実を知り、衝撃を受けます。
 何ゆえに農民は貧なりや。日本を幸福にするためには、急いでこの問題を解決せねばならぬ。
 柳田は、農商務省へ進む決意をします。25歳、皆さんと同じくらいの年齢です。入省してすぐ、農村をつぶさに回り始めました。
 当時の農業政策の考え方は、少数地主と多数の小作農を前提に、技術を普及して米の生産量を増やすというものでした。しかし、農村の実情を知る柳田は、作り手不在の農業政策に異議を唱えます。
 自ら努力し、生産性を高める農家こそが農業の主役である。そのためには、小作農が経済的に自立できる土地を持つことができる構造改革こそが必要な政策だ。
 こうした考えは、当時としては、省内にも、学者にも、世間にも受け入れられませんでした。しかし、現場を知る柳田が、たじろぐことはなかった。改革は、柳田やその後に続く先輩たちの努力によって、徐々に実を結んでいくことになります。
 皆さん、現場に出て、現場の声に、じっくりと耳を傾けてください。頑張る人々の思いに接して、国民本位の政策を磨き上げてください。霞が関の中だけでつくられた、頭でっかちの理論が、世の中に受け入れられることはありません。
 もちろん、皆さんがこれまで培ってきた学問や理論体系は重要です。大いにいかさなければならない。それをいかすためにも現場を知らなければなりません。
 額に汗をし明日への努力を重ねる人が、未来に希望を持てる社会をつくる。そのための政策をつくることが皆さんに求められています。現場にあって、自分の目で見て、自分の頭で考え抜き、血の通った政策をつくり上げてください。
 柳田は、農産物の輸入を制限して、農家を保護するという政策にもくみしませんでした。貧しい国民が多かった時代、主食の米の価格が上がれば国民生活は困窮を極めるからです。既にこの頃から、日本の農業も海外と渡り合っていかなければ産業として立ち後れてしまうという危機感を持っていました。
 柳田は、弥縫(びほう)策ではない、真の問題解決を追求しました。目の前の農家の窮状だけに目をとらわれていたのでは、痛みを伴うような改革にまで踏み込むことはできなかったのではないでしょうか。
 皆さん。どうか大局的視野を持ってください。全体を俯瞰(ふかん)し、物事の本質に迫ってほしいと思います。組織の殻に閉じ籠もって、自分の思考に枠をはめるような、縦割りの発想に陥らない。自分の省庁だけを見て政策課題を解決できるような時代ではありません。この場にいる仲間との絆を大切に、オールジャパンで政策を考えてください。
 皆さんは、数年もすれば部下ができ、やがてはチームを率いるリーダーとなり、組織を率いていく立場になります。人を動かすためには人間力が必要です。
 安倍内閣は、働き方改革を進めています。ワーク・ライフ・バランスの下で、家族や友人との時間も大切にしてください。一人の人間として、幅広い教養を身に着け、自己研さんに努めてください。幹部候補生たる皆さんには、歴史を学び、グローバルな視野を養っていただきたいと思います。
 行政の現場にあって、未来を見据えた政策を立案する。しかし、これだけでは、目的を達成することはできません。何よりも大切なこと、それは、実行であります。
 皆さんは評論家ではありません。紙の上での提言、報告書の類いをつくることだけに満足してはなりません。むしろ、ここからがスタートです。自ら汗をかいて周りを説得し、実現にこぎ着ける。行政のプロフェッショナルとして、政策をやり抜くことが求められます。
 改革は、インパクトが大きいものであればあるほど、容易に実現しません。賛同してくれる人がおらず、孤独かもしれません。批判にさらされ、くじけそうになってしまうこともあるでしょう。それでもどうか、強い精神力を持って、歯を食いしばり、実現に向けて奔走してもらいたいと思います。
 5年前、私が2度目の内閣総理大臣となった頃、人口が減少する社会ではもう成長なんかできない。そういった悲観論があふれていました。もう成長なんかしなくたっていいんだという意見すらあった。最大の問題はこの諦めでもあったと思います。しかしその後、私たちは三本の矢の政策で挑戦し、名目GDPは11パーセント以上成長し、昨年GDPは過去最高を記録しました。生産年齢が450万人減少する中でも、雇用は250万人増えた。
 この間、経済再生、外交・安全保障の立て直しや、教育再生、社会保障改革、農業改革、電力自由化。様々な分野での改革を、信念を持って進めてきた結果であります。そうした過程では、批判のない改革は何一つありませんでした。
 例えば、平和安全法制。大きな批判にさらされました。しかし、この法律が今なかったら、緊迫する北朝鮮情勢にしっかりと対応することはできなかったと思います。お互いに助け合うことのできる同盟は、間違いなくその絆を強くします。
 未来は、不変のものではありません。私たちの、皆さんの手でつくり上げていくものであります。
 正に未来は、今私たちが何をするかにかかっている。これから皆さんが何をするかにかかっているんです。
 最後に、この言葉で締めくくりたいと思います。
 心は小ならんことを欲し、胆は大ならんことを欲す。
 心は細心に、そして、謙虚に。肝っ玉は、大胆に。国家公務員の仕事は、国の骨格をつくる仕事です。仕事の結果は国民全てに影響が及びます。我が国を代表して各国と交渉を重ねることもある。生易しいものではありません。
 だからこそ、これから国家公務員として歩む人生、全体を見渡し、あらゆることに思いを巡らし、国民の信頼を得、負託に応えるべく、高い倫理観の下、細心の心持ちで仕事に臨んでほしい。
 同時に、行政のプロとして、日本の未来に責任を持つ。高い誇りを持って、我が国の将来を大胆に構想し、批判を恐れず、大きく前に踏み出し、果敢に挑戦してほしい。
 皆さん、お互いに力を合わせて、新たな国づくりに、全力を尽くしていこうではありませんか。本日は皆さんおめでとうございました。

総理の演説・記者会見など