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「故宮澤喜一」内閣・自由民主党合同葬儀における追悼の辞


 本日ここに、元内閣総理大臣、元自由民主党総裁、故宮澤喜一先生の内閣・自由民主党合同葬に当たり、謹んで追悼の辞を捧げます。

 宮澤先生。長きにわたり、日本のため、世界のために尽くされ、本当にお疲れさまでございました。

 宮澤先生は、半世紀以上にわたり、政治・外交の表舞台で活躍され、戦後日本の繁栄に大きく貢献されました。戦後、我が国が塗炭の苦しみの中から立ち上がり、独立を回復するという激動の時代。先生は、若くして、池田勇人大蔵大臣の秘書官として連合国総司令部との交渉に当たり、また、サンフランシスコ講和会議にも、吉田内閣総理大臣を長とする全権団に加わられました。昭和28年、政界に転じ、爾来、50年もの長きにわたり、国政の中枢に参画されたのです。

 経済政策にかけては政界随一と評される先生は、42歳の若さで池田内閣の経済企画庁長官に就任。以来、通算4度にわたる大蔵大臣のほか、通商産業大臣、外務大臣、内閣官房長官と要職を歴任され、高度成長をはじめとする日本経済の発展に多大な貢献をされました。また、先生は海外に知己が多く、ご逝去に当たっても、時代を同じくした世界の指導者から、その功績やお人柄を偲ぶメッセージが多数寄せられました。先生はまさに「世界の宮澤」として、外交面でもいかんなくそのお力を発揮されました。

 宮澤先生は、平成3年11月に内閣総理大臣に就任されると、外には「国際貢献」、内には「生活大国の実現」を目指し、困難な課題に全力を挙げて取り組まれました。

 とりわけ、国際貢献については、懸案であった国際平和協力法を成立させ、国連平和維持活動への我が国の参加に道を開かれました。カンボジアのPKO活動従事中、不幸にも高田警視が亡くなられたとき、派遣隊員撤収との大勢の意見の中、先生は、冷戦後の世界の平和と安定に向け我が国が責任を果たすとの強固な信念に基づき、派遣の継続を決断されました。現在、我が国の人的貢献は国際的に高く評価されており、昨年、PKO活動が自衛隊の本来任務に位置づけられました。その礎は、まさに宮澤総理の指導者としての英断により築かれたものであります。

 さらに、永年の外交面での経験、幅広い国際人脈を縦横に生かし、東京サミットを成功に導くとともに、天皇皇后両陛下の初の中国ご訪問を実現させるなど、欧米のみならずアジアを重視した外交に取り組まれました。

 一方、内政面では、「生活大国5か年計画」を策定され、国民一人一人が生活の豊かさを真に実感しながら、多様な人生設計ができる社会の実現を目指されました。また、バブル経済の崩壊に対し、総合経済対策を実施するなど、日本経済の建て直しに心を砕かれました。内閣の命運をかけて取り組まれた政治改革につきましては、極めて厳しい状況下、先生は、たじろぐことなく、最後まで力を尽されました。

 先生は、常々、内閣総理大臣とは、日本という大きな船の船長であり、港を目指して遥か手前から舵を切り始めるものと述べておられました。国の将来をしっかり見据え、PKO活動への参加や政治改革に邁進された先生の姿勢に、当時、父の遺志を継いで国政への道を志していた私は、大いに教えられるところがありました。

 総理の職を辞された後も、不良債権問題に端を発した金融危機を打開するための「切り札」―「平成の高橋是清」として、小渕総理のたっての要請で大蔵大臣に就任されるや、我が国金融システムの崩壊を回避するとの断固たる決意の下、金融機関への大胆な資本注入など、あらゆる政策を総動員されました。その結果、我が国は未曾有の金融危機を乗り切ることができたのです。

 日頃から欧米の新聞等に目を通され、国際派と評された宮澤先生ですが、幼少より漢籍に親しまれ、能にも大変ご造詣が深いなど、一級の教養人でありました。また、旧制中学時代からサッカー好きでいらした先生は、2002年サッカーワールドカップの日本招致に、議員連盟の会長として尽力されました。

 このように先生が多方面で活躍されたのは、奥様をはじめご家族の支えがあってのことと存じます。庸子夫人は、先生とともに日米学生会議で渡米されたことが縁で、当時珍しかった恋愛結婚をされ、その後長きにわたり先生とともに歩んでこられました。かけがえのない方を失われた奥様とご親族の深い悲しみに対し、心からお悔みを申し上げます。

 宮澤先生。政界屈指といわれる知性と、類まれなる先見性をもって、世界の平和と繁栄に貢献され、21世紀に我が国が進むべき途をお示しになられました。私たちは、先生が永年にわたり目指してこられた、「平和」「自由」「繁栄」の大切さを心に刻み、次の50年、100年の時代の荒波に耐えうる新たな国創りに、全力を挙げて取り組むことをお誓いして、お別れの言葉と致します。

 どうか安らかにお眠りください。

平成19年8月28日
内閣総理大臣 安倍 晋三