独立行政法人会計基準研究会

独立行政法人会計基準

中間的論点整理

99.9.20
独立行政法人会計基準研究会

 当研究会は総務庁長官の委嘱を受けたメンバーによって構成され、総務政務次官主宰のもと本年3月の第1回会合を皮切りにこれまで7回の会合を開催し、独立行政法人の会計基準の具体的な内容に関して、専門的な観点を中心に検討を加えてきた。
 ここにこれまでの検討の状況を中間的に論点整理することとする。
 なお、@この整理は、これまでの検討の状況をあくまでも中間的に整理したものに過ぎず、想定される論点全てを網羅するものではないこと、A各論点に関する記述は議論の大きな方向性を示したものであって、その細部にわたって各メンバー間で必ずしも意見の一致を見出していないものもあること、Bこの整理の内容は当研究会が今後さらに検討作業を加えた上で最終的な報告としてとりまとめていくものであること、を付言しておきたい。

独立行政法人会計基準

中間的論点整理

1. 企業会計原則の位置付け

独立行政法人(以下、「独法」と略称。)とは、国民のニーズに即応した効率的な行政サービスの提供を実現する、という行政改革の基本理念に立って、政策の企画立案機能と実施機能とを分離し、国の事務・事業のうち一定の事務・事業の実施主体として創設された制度である。このような観点から、独法は独立の法人格が付与されるとともに、その事務・事業を「効率的かつ効果的に行わせるにふさわしい自律性、自発性及び透明性を備えた法人」(中央省庁等改革基本法第36条)と位置づけられ、制度設計が行われている。また、このような制度創設の基本的な考え方を踏まえ、独法は、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人」(独立行政法人通則法(以下、「通則法」と略称。)第2条第1項)と定義されている。 独法が制度創設の本来の目的を着実に果たしていくためには、アカウンタビリティが確保されていること及びその業績評価が適正に行われることが肝要であると考える。そのためには、独法に負託された経済資源をディスクローズの対象とし、発生主義による会計処理を行い、フロー情報のみならずストック情報についても捕捉しうる複式簿記会計の仕組の導入が必要である。すなわち、会計制度の具体的な制度設計において、次に述べるような点を担保することが求められる。第一に、アカウンタビリティの確保の観点から、会計制度として財務に関する透明性が備わっていなければならない。独法は国の事務・事業の実施主体であって、その事務・事業の提供に関して負託された経済的価値を有する経済資源に関する情報を負託主体である国民に対してディスクローズする義務を負っており、アカウンタビリティの確保の観点からは、独法の財政状態及び運営状況を明らかにし、適切に情報開示を行うことが要請されると考えるからである。第二は、業績の適正な評価の観点から、業績評価を行うために必要となる適切な会計情報の提供を可能とする仕組でなければならない。独法の業務運営については、その自律性、自発性の発揮の観点から、国による事前統制から事後チェックへの移行が、その最大の特徴であると考えるが、事後チェックを行うためには、業績評価が正しく行われる仕組を制度的に用意することが前提となると考えるからである。また、それには管理が適正に行われる制度であることも同時に求められると言えよう。 このような観点から、独法の包括的かつ詳細な会計基準の策定が必要不可欠になると考えられる。この基準は、独法がその会計を処理するに当って従わなければならない基準であるとともに、会計監査人が独法の財務諸表等の監査をする(通則法第39条参照)場合において依拠しなければならない基準である。その策定にあたっては、「原則として企業会計原則によるものとする」(独立行政法人通則法第37条)とされたところであり、その具体的な内容は、合理的な理由がない限り、企業会計原則に従うこととなる。ただし、当該基準を独法の制度にふさわしい実効的なものとするためには、「公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としない等の独立行政法人の特殊性を考慮して必要な修正を加える」(「中央省庁等改革の推進に関する方針」p35)ことが求められる。

2.企業会計原則導入に際しての留意事項


 企業会計原則は、株式会社等の営利企業を直接の適用対象とすることを前提に、「企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したもの」であって、営利企業と制度の前提や財務構造等を異にする独法にそのままの形で適用すると、本来伝達されるべき会計情報が伝達されない、あるいは歪められた形で提供することになりかねない。従って、独法に企業会計原則を導入するに際しては、営利企業との制度の前提や財務構造等の違いを十分に考慮することが求められる。この違いは、主に以下のような点にあると認識する。
 第一は、独法は「公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としない」とする点である。営利企業において支出がなされるのは、その業務活動のなかで収益を獲得するために必要と思われる財貨等を取得するためであり、ある期間の費用の合計は、その期の収益を獲得するために犠牲となった財貨等の価値の合計で、いわば収益獲得の原価部分と言える。これに対して、独法では、支出は国の事務・事業を確実に実施するためになされるものであり、より多くの収入をあげるためになされるものではない。独法の収入には、国の事務・事業を確実に実施する観点から、国の予算において独法に対してなされる所要の財源措置からくるものが多く含まれている。独法のある期間の収益とは、独法の自己収入に加えて、独法が当該期間の事務・事業を実施するに必要な財源に充てるために交付される現金の合計額と捉えることができるのである。従って、国の財源措置に頼る独法の会計における収益と費用の関係は、営利企業のそれと比較した場合、その対応関係が逆になっていると認識することが必要ではないかと考えられる。
 第二は、独法には、毎事業年度における損益計算上の利益(剰余金)の獲得を目的として出資する「資本主」を制度上予定していないということである。「独立行政法人は、その業務を確実に実施するために必要な資本金その他の財産的基礎」を有しなければならず、また「政府は、その業務を確実に実施させるために必要があるとき」は、独立行政法人に出資することができる(通則法第8条参照)。しかしながら、「独立行政法人は、毎事業年度、損益計算において利益を生じたときは、前事業年度から繰り越した損失を埋め、なお残余があるときは、その残余の額は、積立金として整理しなければならない」(通則法第44条第1項本文)のであって、基本的に、企業会計のように利益配当を行うことを制度上予定していないのである。従って、株式会社のように、債権者に対する責任財産を資本として維持する一方で剰余金を配当可能利益として構成し、資本と利益を厳密に区別することで、株主と債権者との間の利害調整を行うといった要請は、独法においては存在しないのである。そこで、企業会計原則上の資本と利益の区分の原則の意味については、独法の制度上の特性に応じて、必要な修正を加えて理解しなければならないと考える。
 第三は、独法は政策の実施主体であり、政策の企画立案の主体としての国と密接不可分の関係に立つということである。従って、独法の業務活動においては、政策の企画立案に関連する場合が往々にして発生する。そのような場合においては、独法独自の判断では意思決定が完結するわけではなく、国の政策等によって独法の活動が規定されるといったことがおこる。このような場合には、これに起因する収入や支出を独法の業績を評価する手段としての収益や費用、すなわち損益計算に含めることが妥当かという観点から議論することが必要であると考える。
 第四は、独法においては、国家行政組織における単年度主義とは異なる中期目標・計画による管理の仕組を導入したことである。「独立行政法人の事業年度は、毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる」(通則法36条第1項)とされ、独法は毎事業年度における業務の実績について評価を受けることになる(通則法第32条参照)とともに、独法は3年以上5年以下の期間において定められた中期目標を達成するための中期計画を定め、その中期目標の期間の終了後、中期目標の期間における業務の実績について評価を受け(通則法第34条参照)、さらに、「当該独立行政法人の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他の組織及び業務の全般にわたる検討」(通則法第35条第1項)を受けることになる。すなわち、独法の制度設計においては、中期目標の期間における業務の実績の評価に資するために提供される会計情報も必要になる。この関係で、中期目標の期間の最終年度の取扱が毎事業年度と会計的に異なる取扱をしなければならないことも考えられる。このような場合、そのような異なる取扱いが予定されていない企業会計原則に基づく会計処理のあり方に工夫を加える必要があるのではないかと考える。
 第五は、財務会計の制度設計を検討するにあたっては、独法に対するインセンティブの付与の要請と財政上の観点の調整をはかる必要があるということである。この点は、株式会社と異なり、損益計算上の利益の獲得を目的として出資する「資本主」が制度上予定されていない独法において、損益計算上の利益の処理及び当該処理を行った後の積立金の処分に関連して、特に留意しなければならないポイントであると考える。すなわち、独法は「極力自律性、自発性を与えるような制度設計とする」というのが、行政改革会議の最終報告(平成9年12月3日公表)以来の基本的な考え方であり、この観点に立って独法にインセンティブを付与することが要請される。他方、運営費交付金がその収入の大宗を占める独法にあっては、運営費交付金の財源は税金であり、その扱いは厳格であるべきであるとする考え方にも合理的な論拠がある。ただし、自律性・自主性と厳格な取扱は必ずしも矛盾するものではなく、むしろ自律性・自発性を持った運用を任されているからこそ、その受託責任及び説明責任を果たすべく厳格な管理を自主的に行うことが必要になり、その目的を充足する会計の仕組が必要であると考える。
 最後に、独法の会計基準が拠り所とする企業会計原則そのものが、企業会計審議会等の場で、会計基準の国際的調和をはかるべく議論されており、現在その内容を大きく変容しつつあることを指摘しておきたい。そして現在までに新たに導入あるいは変更を予定されている会計基準は、独法制度がスタートする2001年4月時点においてはすべて導入あるいは変更がなされていることとなるが、このため、独法の会計基準の検討にあたっても、このような企業会計原則の動向に留意する必要があると考える。
 本研究会においては、上記のような独法の制度の前提や財務構造等の特性を十分に考慮して、独法会計基準に係る個々の論点について検討を行ってきた。以下においては、各論点について、これまでの検討状況を整理することとする。

3.損益計算の考え方


 通常、企業会計原則における損益計算は成果計算と同義に用いられ、その主要な機能は、配当可能利益の計算と経営成績の測定にある。その計算方法は、企業の生む収益から、その収益を生むために失われた経済的価値(費用)を控除した残額を利益として算出するものであり、一般的方式は「期間収益―期間費用=期間損益」という形で表現される。企業会計原則において、「損益計算書は、企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用とを記載して経常利益を表示し、これに特別損益に属する項目を加減して当期純利益を表示しなければならない。」(第二 損益計算書原則 一)とするのはこの趣旨を反映したものである。
 独法においても、業績測定を適正に行うために期間損益計算を導入するが、「公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としない等の独立行政法人の特殊性」(「中央省庁等改革の推進に関する方針」p35)を考慮して、企業会計原則における期間損益計算に合理的な修正を加えることが必要であると考える。
 第一に留意しなければならないポイントは、利益の獲得を目的としない独法においては、経営成績ではなく運営状況を明らかにするため、損益計算を行うこととした点である。この観点から、独法においては、「その運営状況を明らかにするため、すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、かつ、その発生した期間に正しく割り当てなければならない」(「中央省庁等改革の推進に関する方針」p35)としているところである。従って、利益の獲得や独立採算制を前提としない独法制度における損益計算の仕組は、独法が中期計画に沿って通常の運営を行った場合、損益がニュートラルになるように構築することが必要であり、その意味で運営状況を示す独法の損益計算に含まれる収益ないし費用の範囲は、企業会計原則のそれと一部異なるものになると解する必要があると考える。
 第二のポイントは、上記の理由から異なって解釈するとしても、そこに含められるべき収益ないし費用の具体的検討にあたっては、前述のような国との関係における独法の特性を勘案することが必要ではないかという点である。すなわち、独法は政策の実施主体であり、政策の企画立案主体としての国と密接不可分の関係に立つということである。従って、独法の独自判断では意思決定が完結しないような行為に起因する収益や費用を独法の業績を評価する手段としての損益計算に含めることが妥当かという観点から、独法が主体的に意思決定可能な損益のみを含めるというように解することが必要ではないかと考える。その一例が、後述の減価償却の扱いである。すなわち、独法の業務は、「公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業」であり、事務・事業の確実な実施という観点から、他の主体による意思決定によって財産的基礎となる資産を保有することになる場合があり、そのような性格の償却資産の減価償却については、損益計算の枠外に置くことを検討しているところである。
 今後の課題としては、意思決定の主体性の有無をメルクマールに、独法の損益計算からはずすことが合理的な項目の整理検討を行っていく必要があると認識している。

4.損益計算上の利益の処理等に関する考え方


 独法における毎事業年度の損益計算上の利益の処理及び当該処理をした後の積立金の処分に関しては、次のように規定されている。すなわち、第一に、主務大臣の承認を受けて、中期計画に定められた「剰余金の使途」に充てることができる(通則法第44条第3項参照)。なお、「主務大臣の承認により中期計画に定めた剰余金の使途に充てることができる額は、独立行政法人の経営努力により生じた額とする」(「中央省庁等改革の推進に関する方針」p35)。第二に、主務大臣の承認において、「経営努力により生じた額」と認定されなかった分については、通則法第44条第1項に定める積立金として整理しなければならない。第三に、通則法第44条1項の「積立金の処分については、個別法で定める」(通則法第44条第5項)こととなっている。
 今後の課題としては、第一に、「経営努力により生じた額」の認定をいかに行うのか、第二に、 「経営努力により生じた額」として認定された剰余金を取崩す場合の会計処理はいかに行うのか、第三に、「経営努力により生じた額」として認定された剰余金が充てられる使途とはどのような内容と解するのが妥当か、等について引続き検討する必要があると認識している。

5.運営費交付金の会計処理


 独法は、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業」(通則法第2条第1項)を遂行するために設立される法人であり、「政府は、予算の範囲内において、独立行政法人に対し、その業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができる」(通則法第46条)。運営費交付金とは、その業務の運営上必要な支出を賄うために交付される財源措置を指す。その特徴としては、第一に独法の業務活動に費消するために支給される資金であること、第二に柔軟で弾力的な使用ができるよう制度設計されていることを指摘することができる。すなわち、運営費交付金はあくまでも独法の業務活動のためにキャッシュフローとして費消されることを前提として支給されるものであり、また、その使途を特定せず、翌年度への繰越しも可能となる「渡し切りの交付金」として措置されるものである。従って、独法にとって、交付された運営費交付金は、業務に充てるべく財源として手当された現金の収納を意味しており、その点で、通常の企業会計におけるような支出の対価として獲得された収入とは、その性格を異にするが、独法においても、その収入を収益とすることが必要と考えている。ただし、独法において運営費交付金の受領時点では、交付金を原資に行うことが期待されている業務活動は未だ行われていないのが通常であり、独法は交付金受領に伴い国民から負託された業務活動を行わなければならないのであって、予定された事務・事業の支出のために運営費交付金を充当する一種の債務的負担(義務)が独法に生じていると考えられ、交付金受領時においては収益性負債の性格を持つものと言える。
 そこで、運営費交付金の会計処理に関しては、受領時点で収益に計上するのではなく、いったん負債に計上し、基本的に年度中に業務活動の進展状況に応じて収益に転換する方向で検討するのが適当ではないかと考える。また、この「負債計上→収益化」という処理の方法をとることによって、仮にある業務が予定されていた事業年度に行われず、翌年度以降に行われることになった場合においても、当該業務の原資として交付された運営費交付金を翌年度以降に繰り越すことが可能となると考える。なお、運営費交付金は、「中期計画に定めるところに従い、………、毎年度の予算編成の中で確実に手当てする」(「中央省庁等改革の推進に関する方針」p36)ものであるため、中期目標の期間を跨いで次期目標の期間に繰越されることはなく、中期目標の期間の終了時点においてすべて会計上は清算すべきものと考える。従って、中期目標の期間の終了時点における運営費交付金の会計処理としては、負債として繰越されるのではなく、すべて収益化されるべきものと考える。
 今後の課題としては、例えば、第一に、いったん負債計上した運営費交付金を業務活動の進展状況に応じて収益に転換するといった場合、それをどのように具体化していくべきなのか、第二に、基本的に交付年度に収益化することとしているが、収益化の時点を交付年度以降に繰り延べる措置をどのようにルール化するのか、第三に、交付金で固定資産を購入した場合の会計処理を経常費用に充てる場合と同様に扱ってよいのか、第四に、運営費交付金のみならず自己収入がある場合の会計処理をいかに整合的に行うのか、第五に、中期目標の期間の終了時点で負債計上されているものについてはすべて収益化されるべきであるとして、どのような性格の収益とするか、等があり、これらの課題について今後引き続き検討を加えていく必要があると認識している。

6.寄附金の会計処理


 営利企業においては責務を負うような寄附金が発生するケースは通常考えられず、このため企業会計においては寄附金は、受領時点で損益計算上の収益として整理されている。
 独法に対する寄附金については、独法の性格上、寄附者からさまざまな趣旨の寄附を受けることが想定されるが、国からの財源措置としての運営費交付金とは区別されるという意味において自己収入の一つと構成されると解される。独法における自己収入の会計処理についてはさらに検討を要するが、国が独法に負託した事務・事業に関連する支出を支援する目的で寄附者が出えんするという趣旨を考慮するならば、その会計的性格は、独法においてその事務・事業に関連する支出に充てなければならないという意味において、未使用の部分については、基本的に負債性を認めるべきではないかと考える。従って、受領年度において当該寄附金が費消されなかった場合においては、負債として次年度以降に繰越す会計処理も必要になるのではないかと考える。中期目標の期間の終了時点での次期目標の期間への繰越については、寄附金は運営費交付金とは異なり、中期目標の期間中に費用されることを前提にしたものではないと考えられるところから、基本的には中期目標の期間を跨いで次期目標の期間に繰越していくことができるものと考える。
 今後の課題としては、第一に、寄附金に負債性を認める根拠を何に求めるのかという点が指摘されるところである。その論理構成に関しては、少なくとも寄附者が寄附時点でその使途を特定しているような場合、あるいは、寄附者が使途を特定していなくとも独法が使用に先立って何らかの形で使途を特定すると認められるような場合においては、使途の特定を根拠に負債性が認められるのではないかと考えられる。これらに該当する事例においては、寄附金の受領時点で負債計上し、年度中に発生した費用的支出に相当する額を収益に振替え、当該年度における未使用相当額は負債として翌年度に繰越という会計処理を行うという整理が可能ではないかと考える。これに対して、寄附者もしくは独法のいずれにおいても使途を特定したと認められない場合の寄附金については負債性を認めることが難しいのではないかという意見がある。このような意見によれば、当該年度の収益に計上し、損益計算を行うこととなり、その結果利益が発生した場合は、経営努力により生じた額として主務大臣の承認により中期計画に定めた剰余金の使途に充てることができるという方向で検討することとなろう。
 以上に関連するが、第二に、寄附金を固定資産等の資本的支出として費消した場合の会計処理について、引続検討すべき課題として認識しているところである。

7.施設費の会計処理


 施設費とは、独法において、国の予算で公債発行対象に相当する固定資産について購入等を行う場合に、国から手当される財源措置を指す。
 国が施設費を運営費交付金と区別して支出するのは、国の事務・事業を確実に実施しなければならないという責務を負う独法において公債発行対象に相当する固定資産を財産的基礎として有することについて、拠出者としての国の意図が存在するからであって、基本的にそのような拠出者の意図を忠実に独法の会計処理において反映する必要があるのではないかと考える。また、施設費の支出対象も、長期利用可能な固定資産に限定されている。このような資産の購入は、国の企画・立案機能に基づいてなされ、独法の裁量の余地は少ない。また、購入にあたっても、実費相当額が国から支給され、購入についての独法の経営努力を反映することはない。このような状況を勘案すると、施設費は独法の損益計算の収益に算入せず、財産的基礎としての固定資産を手当するために支給された資金として資本の一部として整理するのが適切ではないかと考える。このような考え方にたって、独法の施設費の会計処理については、国から拠出されて対象資産の購入等を行うまでは、その使途に強い制約が付された財源として負債に整理し、購入等を行った後は、独法が当該資産を長期にわたって財産的基礎として維持しなければならず、従って対象資産に相当する額を資本金以外の資本項目に組み入れるという方向で検討しているところである。
 今後の課題としては、例えば、第一に、現物出資をした場合や運営費交付金で固定資産を購入した場合との整合性をどう図るか、第二に、購入対象が償却資産と非償却資産とに分かれることで施設費の会計処理に不都合が発生しないかどうか、等が指摘され、これらの課題について今後引き続き検討する必要があると認識している。

8.設立時の国からの拠出財産等の会計処理


 独法設立時において、 「個別法令の定めるところにより、政府は独立行政法人に対する金銭以外の土地・建物等の財産の現物出資を行うことができる。………必要に応じ、独立行政法人は、個別法令の定めるところにより、国有財産を無償使用することができる」(「中央省庁等改革の推進に関する方針」p30)とされている。
 会計処理の課題としては、第一に、現物出資ないしは無償譲渡がなされた資産の貸借対照表上、特に貸方の表示をいかに行うかという点がある。現物出資については、「現物出資された財産の評価は、出資時の時価を基準とすることを原則」(「中央省庁等改革の推進に関する方針」p30)とし、出資時の時価を基準に評価された額を資本金として整理することが適切であると考えるが、無償譲渡がなされた財産については、その貸借対照表能力の問題も含め、引続き検討すべき課題であると認識している。
 第二の課題は、独法の財務諸表における無償使用財産の扱いである。この点に関しては、国からの拠出によって独法に所有権が移転する現物出資ないしは無償譲渡がなされた財産との比較において、無償使用財産が独法が事務・事業を確実に実施する上での財産的基礎を構成する以上、ディスクローズの観点から、何らかの形式において当該無償使用財産の使用の実態を表示すべきであるとするのが、ここでの問題意識である。これについては、リースの会計処理を参考にしつつ、拘束性の強い無償使用については資産に計上し、拘束性の弱い無償使用については賃貸借処理を行うこととするという方向で検討をしているところである。なお、 この場合、後述するように、国が負担する使用料相当部分については、行政コストを構成するものとして、損益計算とは別に表示するのが、適切ではないかと考えられる。今後検討しなければならない課題としては、 拘束性の強弱の判断基準があると認識している。
 第三の課題は、独法設立時に国から拠出された財産が更新される場合の会計処理がある。この点に関しては、更新の財源をいかなる形式で調達するのか、調達形式の変更が減価償却計算に如何なる影響を及ぼすのか、といった点も含めて、引続き検討していなければならないと認識している。

9.減価償却の会計処理


 企業会計における減価償却には、資産の適正な評価を行うという意味での評価要素としての機能、期間損益の測定を適切に行うという意味での費用要素としての機能、投下資本の回収を行うという意味での金融要素としての機能等が存在すると指摘されるところである。
 これらの機能のうち、営利企業とは異なる独法においても、企業会計と全く同様の意義を見出すことができるのは評価要素としての機能のみではないかと考える。他の2つの機能に関しては、独法においてはその役割を割引いて考えざるを得ないのではないかというのが、減価償却の会計処理を検討するにあたっての基本的認識である。
 すなわち、費用要素の機能とは、営利企業において期間収益に対応する期間費用を計上するとする期間損益計算の考え方に立って、期間収益に対応する償却資産の減価部分を期間費用を構成する要素として認識しようとするものである。しかしながら、独法がその事務・事業を実施する上で必要となる固定資産に投下された資金は、必ずしも独法の収益として回収することが予定されているわけではない。独法の自己収入はそのような投下資金の対価としては不十分であり、運営費交付金はキャッシュの必要額を前提に算定されるからである。逆に、そのような状況で減価償却を損益計算に含めて考えることとすると、結果として減価償却相当分だけ費用収益が不均衡になり、バランスを逸した結果を招くことになる。また、そもそも独法の業務活動の財産的基礎を構成する固定資産の取得、整備等に関する意思決定が、多くの場合において政策の実施部門の独法だけでは完結せず、政策の企画立案部門としての国が関与する状況が想定される以上、独法において当該固定資産に関する減価償却費を管理可能な他の経費と同様に損益計算上の費用に含めることが、果たして独法の業績の適切な測定であるかについても疑問が生じるところである。むしろ当該固定資産の購入が主として国の意思決定に基づくものであり、また、取得の際に国から直接支給されるか、実費が交付され購入について独法の経営努力を反映しないものは独法の目的を達成するコストではあっても、独法の運営状況を測定する際の費用とみることは合理的ではないと言えよう。
 金融要素としての機能については、固定資産に投下された資金を原価に含め対価として回収することによって可能となる機能であると考えられるが、前述したように、固定資産に投下された資金を必ずしも収益によって回収することが予定されていない独法においては、それほど重要な機能ではないと判断される。
 他方、評価要素としての機能については、独法が提供する行政サービスがいかなる経済的価値を有する資源を使用して行われているかを示すことはアカウンタビリティの観点から非常に重要な意味があると考えられるところから、独法の会計においても企業会計と同様の重要性を持つものと解される。従って、減価償却を何らかの形式で実施する必要性があることはいうまでもない。
 このように減価償却の意義を根本まで考慮して、独法では、固定資産の更新に関する最終的な意思決定権が誰にあり、そのための財源を誰が手当することが予定されているかという観点から固定資産ごとに区分を行い、投下資本が独法の収益によって回収されることが予定されないものとしてあらかじめ特定された固定資産については、減価償却を損益計算を通じて行うのではなく、資本の部に資本調整勘定を設けて貸借対照表上で行う方向で検討しているところである。
 今後の課題としては、第一に、このような減価償却相当額を資本計算に含めることとする理論的な整理、第二に、損益計算を通さずに減価償却計算を行うこととする償却資産の特定方法の検討、第三に、資本調整勘定の勘定科目としての位置付けの検討、第四に、償却資産の更新ないしは除却の際の会計処理のあり方の検討等が指摘されるところである。

10.行政コストの考え方


 通常の営利企業であるならば本来負担すべきであるにかかわらず、独法の特殊性に基づく種々の理由から、独法においてそもそも負担していない、ないしはその損益計算の体系からはずされることとなるコストが存在する。損益計算を通じない減価償却費相当部分、無償使用財産の使用料相当部分、資本的支出(施設費等)の利息相当分が、その例であると考えられる。しかしながら、そのようなコストについては、独法に代わって国が負担していると構成することも可能であるといえ、行政コストとして、独法の損益計算とは別に表示することが適切ではないかとする考え方がある。特に、独法の事務・事業と類似の業務を行う民間法人が存在する場合においては、そうしなければディスクロージャーの観点から妥当性を欠くという指摘がなされる。また、運営費交付金や施設費等も、国にとってはコストであり、ここでいう行政コストを構成するものと認識すべきではないかという意見もある。
 そこで、これらの行政コストを何らかの形で表示する方向で検討することとしている。今後は、行政コストに含めるべき項目の検討及びその表示のあり方について、詳細に検討を行っていくことが必要であると認識している。

11.財務諸表の体系


 独法の財務諸表の体系は、「貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類その他主務省令で定める書類及びこれらの附属明細書」(通則法第38条第1項)と整理されたところである。これは、基本的に、企業会計原則上財務諸表の体系に位置づけられている、損益計算書、貸借対照表、附属明細表、利益処分計算書に則ったものである。また、企業会計において、2000年3月期から作成されることとなった連結キャッシュ・フロー計算書(連結財務諸表を作成しない会社については個別ベースのキャッシュ・フロー計算書)に相当する書類についても、通則法第38条第1項にいう「その他主務省令で定める書類」と位置づけ、作成する方向で検討している。その他、前述した、行政コストを表示する書類についても、何らかの形で財務諸表の体系に位置づける方向で検討を行うこととしている。さらに、ディスクロージャーの観点からは、セグメント情報についても、必要に応じて開示していくべきであり、個々の独法の業務等の特性に応じ、そのあり方及び方法について、検討していくべきものと考える。

独立行政法人会計基準研究会第7回議事録