独立法人会計基準研究会

「独立行政法人会計基準」の設定について


  1. 「独立行政法人会計基準」設定の経緯
     独立行政法人会計基準研究会(以下「研究会」と略称。)は、総務庁長官の委嘱を受けた会計、財政等の学識経験者によって構成され、総務総括政務次官主宰のもと、平成11年3月30日の初会合から月1回、平成12年2月16日まで合計12回の会合を開催した。
     独立行政法人の会計は、中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号。以下「基本法」と略称。)第38条第3号及び独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」と略称。)第37条において、原則として企業会計原則によることとされている。これを受け、研究会では、公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としない等の独立行政法人の特殊性を踏まえつつ、その財務情報を国民その他の利害関係者にわかりやすい形で適切に開示するため、独立行政法人にふさわしい会計基準について、専門的な見地から包括的かつ詳細に検討を加えてきた。
     研究会は、平成11年9月20日に中間的論点整理をとりまとめ、議論の方向性について公表したところであるが、その後さらに検討を進め、平成12年2月16日の第12回会合においてとりまとめを行い、その成果を「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」(以下「基準及び注解」と略称。)として公表することとした。
     なお、基準及び注解における独立行政法人とは、通則法及び個別法(各独立行政法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律)の定めるところにより設立される法人をいう。

  2. 「独立行政法人会計基準」設定の趣旨
     独立行政法人とは、国民の需要に即応した効率的な行政サービスの提供を実現する、という行政改革の基本理念に立って、政策の企画立案機能と実施機能とを分離し、国の事務及び事業のうち一定のものの実施主体として創設された制度である。独立行政法人が行う業務は、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるもの」(通則法第2条第1項)であり、独立行政法人はそのような業務を「効率的かつ効果的に行わせるにふさわしい自律性、自発性及び透明性を備えた法人」(基本法第36条)として制度設計が行われている。
     このような制度設計の趣旨を考慮するならば、独立行政法人はその業務の実施に関して負託された経済資源に関する財務情報を負託主体である国民に対して開示する責任を負うものと位置付けられる。また、独立行政法人により作成される財務報告は、その利用者である国民その他の利害関係者に対して利用目的に適合した有用な内容を提供するものでなければならない。
     このような観点から、研究会は、独立行政法人の財務報告の目的は以下の諸点にあると認識する。
     第一は、独立行政法人による業務の遂行状況についての適確な把握に資することである。すなわち、独立行政法人に負託された経済資源を情報開示の対象とし、独立行政法人の運営状況のみならず財政状態についても捕捉し得るものでなければならない。
     第二は、独立行政法人の業績の適正な評価に資することである。すなわち、独立行政法人の業務運営については、その自律性、自発性の発揮の観点から、国による事前統制から事後チェックへの移行が特徴であるが、事後チェックを行うためには業績評価が正しく行われるための情報が提供されなければならない。
     また、独立行政法人は、通則法第44条にいう利益又は損失を確定するため、損益計算を行わなければならない。
     研究会は、このような目的に資する財務報告を作成するためには、包括的かつ詳細な会計基準が必要不可欠であるという基本的認識にたち、基準及び注解を策定した。研究会は、通則法第37条に従い主務大臣が個別の独立行政法人の会計基準を規定する主務省令を策定するに当たって、基準及び注解の趣旨を十分に踏まえることを希望するものである。

  3. 企業会計原則の位置付け
      独立行政法人の会計は、「原則として企業会計原則によるものとする」(通則法第37条)とされ、「公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としない等の独立行政法人の特殊性を考慮して必要な修正を加える」(「中央省庁等改革の推進に関する方針」平成11年4月27日中央省庁等改革推進本部決定)ことになっている。すなわち、基準及び注解の具体的な内容は、合理的な理由がない限り、企業会計原則に従うこととなるが、企業会計原則は、株式会社等の営利企業を直接の適用対象とすることを前提に、企業会計の実務において慣習として発達したもののうちから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって、営利企業と制度の前提や財務構造等を異にする独立行政法人にそのままの形で適用すると、本来伝達されるべき会計情報が伝達されない、あるいはゆがめられた形で提供されることになりかねない。そのため、独立行政法人に企業会計原則を導入するに際しては、営利企業との制度の前提や財務構造等の違いを十分に考慮することが求められる。研究会は、これらの違いが主に以下の諸点に存すると認識する。
     第一は、独立行政法人は公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としないという点である。営利企業において支出がなされるのは、その業務活動のなかで収入を獲得するために必要と思われる財貨等を取得するためであり、ある期間の費用の合計は、その期の収益を獲得するために犠牲となった財貨等の価値の合計で、いわば収益獲得のための原価部分と言える。これに対して、独立行政法人では、支出は国の公共的な事務及び事業を確実に実施するためになされるものであり、より多くの収入をあげるためになされるものではない。国は独立行政法人の業務運営のために必要な財源措置を講ずることとしている。したがって、独立行政法人の収益とは、独立行政法人が業務を実施するに必要な財源に充てるための国からの交付金に由来するものと独立行政法人の自己収入に由来するものの合計額と捉えることができるのである(なお、国からの交付金としては運営費交付金が予定されている。)。国の財源措置に頼る独立行政法人の会計における収益と費用の対応関係は、営利企業のそれとは基本的に異なるものと認識する。
     第二は、独立行政法人は政策の実施主体であり、政策の企画立案の主体としての国と密接不可分の関係にあることから独立行政法人独自の判断では意思決定が完結し得ない場合が存するということである。したがって、その意思決定のみでは完結し得ない独立行政法人の活動については、これらに起因する収入や支出を独立行政法人の業績を評価する手段としての収益や費用、すなわち損益計算に含めることは妥当でない場合があると認識する。
     第三は、独立行政法人には、毎事業年度における損益計算上の利益(剰余金)の獲得を目的として出資する資本主を制度上予定していないということである。すなわち、独立行政法人は、その業務を確実に実施するために必要な資本金その他の財産的基礎を有しなければならず、政府は、その業務を確実に実施させるために必要があるときは、独立行政法人に出資することができる(通則法第8条参照)。また、独立行政法人は、毎事業年度、損益計算において利益を生じたときは、前事業年度から繰り越した損失を埋め、なお残余があるときは、中期計画に定める剰余金の使途に充てる場合を除き、その残余の額は、積立金として整理しなければならない(通則法第44条第1項及び第3項参照)のであって、基本的に、企業会計のように利益配当を行うことを制度上予定していないのである。したがって、資本取引及び損益取引が意味する内容は、このような独立行政法人の制度上の特性に応じて、必要な修正を加えて理解しなければならないと認識する。
     第四は、独立行政法人に対する動機付けの要請と財政上の観点の調整を図る必要があるということである。すなわち、独立行政法人は「極力自律性、自発性を与えるような制度設計とする」というのが、行政改革会議の最終報告(平成9年12月3日公表)以来の基本的な考え方であり、この観点に立って独立行政法人の動機付けを重視する必要がある。他方、業務運営の財源を運営費交付金に依存する独立行政法人にあっては、その運営費交付金の財源は税金であり、その扱いは厳格であるべきであるとする考え方にも合理的な論拠がある。独立行政法人の会計においても、このような制度設計の趣旨を十分に生かされなければならないと認識する。
     なお、独立行政法人の制度設計の特徴の一つとして、中期目標・計画の仕組みを導入したことを付言しておきたい。すなわち、独立行政法人は3年以上5年以下の期間において定められた中期目標を達成するための中期計画を定め(通則法第30条参照)、毎事業年度における業務の実績について評価を受けることになる(通則法第32条参照)とともに、その中期目標の期間の終了後、中期目標の期間における業務の実績について評価を受け(通則法第34条参照)、さらに、「当該独立行政法人の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討」(通則法第35条第1項)を受けることになる。このような中期目標や中期計画の仕組みは、会計制度に直接反映させるべき性格のものではないが、基準及び注解を設定する際における企業会計原則の取扱いに関して、このような観点も十分に踏まえる必要があると認識する。
     研究会においては、上記のような独立行政法人の制度の前提や財務構造等の特性を十分に考慮して、独立行政法人の会計基準に係る個々の論点について包括的かつ詳細な検討を行った上で、基準及び注解を設定した。

  4. 「独立行政法人会計基準」の性格と取扱い
     基準及び注解は、独立行政法人がその会計を処理するに当たって従わなければならない基準であるとともに、会計監査人が独立行政法人の財務諸表等の監査をする(通則法第39条参照)場合において依拠しなければならない基準であって、独立行政法人の会計に関する認識、測定、表示及び開示の基準を定めるものである。
     基準及び注解は、業務運営の財源を運営費交付金に依存する独立行政法人を念頭において策定したものであり、独立行政法人に共通に適用される一般的かつ標準的な会計基準を示すものである。独立行政法人は他に合理的な理由がない限り、この基準及び注解に定めるところに従わなければならないが、そこに定められていない事項については一般に公正妥当と認められている企業会計原則に従うこととなる。なお、基準及び注解の趣旨を踏まえる限りにおいては、主務省令において個別の独立行政法人の特殊性に基づく会計処理を定めることも排除するものではない。
     基準及び注解は、独立行政法人単体の会計処理の基準として策定している。これは、行政改革会議の最終報告以来、そもそも独立行政法人の制度設計が、その「業務や関連組織等が、資本関係、取引関係、人的関係を通じて、国民のニーズとは無関係に自己増殖的に膨張することに対して、厳しい歯止めをかけることとする」という基本的認識に立って行われており、現時点で連結情報が必要とされる場面が想定できないからである。ただし、将来仮に連結情報の開示が必要とされる状況が発生した場合においては、一般に公正妥当と認められている会計原則に準じて会計処理が行われるべきことはいうまでもない。
     研究会は、基準及び注解がよりどころとする企業会計原則そのものが、企業会計審議会等の場で、会計基準の国際的調和を図るべく議論されており、現在その内容を大きく変容しつつあることを認識している。また、独立行政法人会計に関する理論及び実務が今後より一層進展することも想定される。これらの観点から、基準及び注解は今後とも充実と改善を図る必要がある。なお、基準及び注解を適用する場合の具体的な指針等については、今後、関係者が協議の上で適切に措置することが必要と考える。

第12回議事録

報告書