平成13年3月7日
独立行政法人会計基準研究会
(資料)「独立行政法人会計基準研究会」における独立行政法人に対する会計監査人の監査に係る検討状況について
独立行政法人会計基準研究会(以下、研究会と略称。)は、平成11年3月総務庁長官の委嘱を受けた会計、財政等の学識経験者によって構成され、総務総括政務次官の主宰の下、独立行政法人にふさわしい会計基準の細目について専門的見地から検討を重ね、その成果を平成12年2月に独立行政法人会計基準及び独立行政法人会計基準注解として公表した。
その後、研究会は、独立行政法人制度の下で、独立行政法人の財務諸表の信頼性を担保するためには、その作成基準である会計基準とともに、会計監査の規範となる監査の基準が重要なインフラストラクチャーであるという認識の下、平成12年10月より日本公認会計士協会の協力を得て、公会計監査の在り方を含む幅広い観点から、独立行政法人に対する会計監査人の監査の基準に関する総合的な検討を開始し、これまで議論を積み重ねてきたところである。
本報告書は、これまでの研究会における独立行政法人に対する会計監査人の監査の基準に関する議論の成果を取りまとめたものである。その内容は、独立行政法人に対する会計監査人の監査の基準に加えて、当該基準を検討するに当たって独立行政法人の公共的性格に配慮しつつ議論した事項を含んだものとなっている。研究会としては、本報告書の監査の基準に関する部分は、会計監査人が独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下、通則法と略称。)第39条に定める監査を行うに当たって、法令によって強制されなくても、常に遵守すべき性格のものであり、また、会計監査人が独立行政法人との間で会計監査契約を締結するに際して、当該契約に盛り込まれることが望ましいと考えている。
もとより、独立行政法人は平成13年4月以降に設立されるものであり、独立行政法人に対する会計監査人の監査に関する理論及び実務は、今後より一層の進展が期待されるところである。本報告書の内容については、それらの理論及び実務の進展に伴い、より一層の充実が図られるべきものであると認識する。研究会は、独立行政法人に対する会計監査人の監査に係る検討が、その具体的な指針等も含め、今後日本公認会計士協会が関係者と協議の上適切に、かつ、継続して行われることが必要と考える。
第1節 会計監査人の監査の導入目的
独立行政法人の制度設計の主眼は、国が直接行っていた事務・事業のうち一定のものについて、国とは別の法人格を有する独立行政法人を創設して事務・事業を行わせることとし、法人に自主的、自律的な業務運営を行わせるとともに、業務の実績について適切な事後評価を行うことにより、国民のニーズに即応した効率的な行政サービスの提供等を実現することにある。
このような制度設計の主眼を実効あるものとするためには、独立行政法人の業務の効率性、質の向上や透明性の確保を図ることが肝要であり、特に法人の財務運営に関する真実の情報が報告され、この情報に対して適切な事後チェックを行う仕組みが用意されることが必要である。
このような観点から、通則法は、第37条で独立行政法人の会計は原則として企業会計原則によるものとし、第38条で独立行政法人に対して財務諸表の作成と主務大臣による承認を受けること並びに財務諸表及び決算報告書に関して会計監査人の意見を付すことを義務付けるとともに、第39条で独立行政法人に対して、財務諸表、事業報告書(会計に関する部分に限る。)及び決算報告書(以下、財務諸表等と略称。)について、会計監査人による監査を受けることを原則として義務付けている。また、研究会においても独立行政法人が財務諸表を作成する際の基準として、独立行政法人会計基準及び独立行政法人会計基準注解を策定したところである。
独立行政法人に対する会計監査人の監査は、独立行政法人が作成した財務諸表等の信頼性を担保すること、すなわち、通則法及び独立行政法人会計基準等に基づき作成された財務諸表等が、独立行政法人の財政状態、運営状況等財務運営に関する真実の情報を正しく表示していることを担保するものである。
第2節 会計監査人の監査の位置付け
独立行政法人は、「その行う事務及び事業が国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要なものであることにかんがみ、適正かつ効率的にその業務を運営する」(通則法第3条第1項)責務を負っている。このような独立行政法人の公共的性格から、通則法第39条では、独立行政法人に対する会計監査人の監査は、財務諸表に加えて、事業報告書(会計に関する部分に限る。)及び決算報告書もその対象としている。これらの書類が監査の対象とされる理由は、以下のとおりである。
まず、財務諸表に対する監査は、主務大臣の承認(通則法第38条第1項)を受けることを前提として、財務諸表が当該法人の財政状態、運営状況等財務運営に関する真実の情報を正しく表示しているかどうか、職業的専門家としての会計監査人のチェックを経ることを目的とするものである。財務諸表監査は、独立行政法人の会計監査制度の中核をなすものであり、会計監査人は、独立行政法人の財務諸表が、独立行政法人会計基準及び一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠しているかどうかを監査する。
事業報告書は、独立行政法人が主務大臣に財務諸表を提出する際、その参考として添付される書類であり、業務運営の状況を報告することを目的とするものである。事業報告書は、財務諸表とは異なり、主務大臣の承認の対象ではなく、提出に際しても、通則法上、会計監査人の意見が付されることを要しない。事業報告書に対する監査は、財務諸表と密接に関連する会計に関する部分について、財務諸表と矛盾する記載がないかどうか、確認的に行われるものと解される。
決算報告書も、財務諸表を提出する際に添付される書類であり、主務大臣の承認の対象ではない。決算報告書の監査は、決算報告書が予算の区分に従って決算の状況を正しく表示しているかどうかをチェックするためのものである。独立行政法人は、効率的な業務運営のために、中期目標、中期計画及び事後評価の仕組みが導入されており、事前計画との対比が重視されている。このため、決算報告書に関しては、予算の区分に従って決算の状況を正しく表示しているかどうかについて、会計監査人の意見が付けられるものと考えられる(通則法第38条第1項及び第2項参照)。
以上のように、通則法第39条における会計監査人の監査は、商法監査と類似した財務諸表及び事業報告書(会計に関する部分に限る。)に対する監査に加えて、独立行政法人の業務運営の方法を反映し、予算決算対比を目的とする決算報告書監査も求められている。しかしながら、独立行政法人に対する会計監査は、あくまで財務諸表に対する監査が制度の中核であると考える。財務諸表は主務大臣の承認を要する書類であり、会計専門家による会計基準への準拠性の監査が強く要請されるからである。独立行政法人への会計監査については、企業における財務諸表監査の考え方を参考とすることにより、会計監査人の専門的な能力や実務面での蓄積を活用することが期待されるものと考える。
第3節 会計監査人の監査における法規準拠性の考え方
企業における財務諸表監査においては、財務諸表に重要な影響を及ぼす不正及び誤謬並びに違法行為(以下、違法行為等と略称。)の存在を看過することなく監査を実施するという実務慣行が存在する。公共的性格を有する独立行政法人に対する会計監査人の監査においては、企業監査にも増して、違法行為等の発見に対する重大な関心があると思料されるところである。会計監査人の監査の性質を検討するに当たっては、このような重大な関心について適切に考慮することが必要である。特に、会計監査人には、財務諸表等が通則法を始めとする関連法規に準拠して作成されているかどうかという点について適正な判断を下すことが求められる。
これらのことから、独立行政法人に対する監査においては、会計監査人は、財務諸表等が独立行政法人の財務情報等を適切に表示しているかどうかを判断する手続の一環として、法規準拠性の観点を踏まえた会計監査を実施しなければならない。通則法第39条による独立行政法人に対する監査は、あくまで財務諸表等の監査であることから、法規準拠性とは、財務諸表等に重要な影響を与える法令に準拠するということであると考える。公共性の高い事務・事業を行う独立行政法人は、民商法等の私法のみならず、公法体系の法令が適用される局面も多く、準拠すべき法令やその内容を網羅的に列挙することは極めて困難であり、実務上も現実的ではないと考える。
独立行政法人の会計監査は、企業の会計監査と同様に、財務諸表等の正確性の証明、すべての違法行為等の発見を目的としているわけではない。しかしながら、財務諸表等に重要な影響を与える違法行為等については、会計監査人が積極的に発見するよう努めていかなければならない。また、財務諸表等に重要な影響を与えるには至らない違法行為等を発見した場合であっても、独立行政法人の会計監査人は、必要な報告を行うなど、適切に対応しなければならない。
第4節 会計監査人の監査における重要性の判断
独立行政法人会計基準では、「独立行政法人の会計は、国民その他の利害関係者の独立行政法人の状況に関する判断を誤らせないようにするため、取引及び事象の金額的側面及び質的側面の両面からの重要性を勘案して、適切な記録、計算及び表示を行わなければならない」として、独立行政法人会計における重要性の原則を明らかにしている。加えて監査判断に関する重要性の原則が存在する点では、独立行政法人の会計監査においても企業の会計監査と同様である。したがって、対象となる事項が財務諸表等に対してどの程度の影響を与えるかを金額的に判断する量的基準と、対象事項自体の性格により判断する質的基準を総合的に勘案して、監査における重要性の判断を行う必要がある。
独立行政法人の会計監査における重要性を判断するに際しては、独立行政法人の公共的性格にかんがみ、企業の会計監査と比較して、量的及び質的側面の双方について、一層の慎重性が求められることに留意しなくてはならない。
もっとも、独立行政法人の会計監査の目的は、財務諸表等の正確性の証明、すべての誤謬等の発見にあるわけではなく、また、重要性の判断基準について、独立行政法人の会計監査のすべてに妥当するような一般的かつ客観的な具体的基準を示すことは、独立行政法人の規模、形態等の多様性、あるいは判断に当たって検討すべき諸条件の複雑さから、事実上極めて困難であり、画一的な基準設定はむしろ問題を生む恐れがあると考えられる。
したがって、独立行政法人の会計監査においては、企業の会計監査においても重要性判断に対する期待水準が高まりつつある傾向を踏まえ、独立行政法人の公共的性格、監査実施の効率性等を勘案して、職業的専門家としての会計監査人は、専門的見地から個別に重要性の判断を行わなければならない。
会計監査の実施過程において、誤謬等を発見した場合の手続については後述するが、独立行政法人の公共的性格にかんがみれば、会計監査人は、量的には重要ではなくとも質的側面から検討を要する誤謬等を発見した場合などに、他の項目への影響等も考慮し、状況によっては、監査計画を見直すなど適切に対応しなければならない。
第5節 会計監査契約
会計監査人は、通則法第40条の規定により主務大臣に選任されるものであるが、その地位(職務、権限、義務、責任)に関する法令上の具体的な定めはない。したがって、会計監査人は、被監査独立行政法人とその会計監査に係る準委任契約(以下、会計監査契約と略称。)を締結し、当該会計監査契約に基づき監査を実施することになる。
なお、当該会計監査契約は前節までに検討した会計監査人の監査の適切な実施を担保する内容でなければならない。会計監査人と被監査独立行政法人との間で、上記の範囲を超える内容を締結することを妨げるものではないが、それによって通則法第39条により義務付けられている会計監査の範囲及びその内容が影響を受けるわけではないことに留意しなければならない。
第1節 内部統制
独立行政法人は、適正な財務諸表等を作成し、法規の遵守を図り、法人の資産を保全し、法人の事業活動を効率的に遂行するため、内部統制を確立し、維持し、かつ、内部統制が有効であるかどうかについて継続的に監視しなければならない。
独立行政法人における内部統制は、独立行政法人の長が業務管理全般を対象として構築するものであり、内部統制組織とそれに影響を与える内部業務環境から構成される。このうち監査上対象とされる内部統制とは、適正な財務諸表の作成に関連する部分である。
会計監査人は、内部統制の状況を把握し、監査対象の重要性、監査上の危険性その他の諸要素を十分に考慮して、適用すべき監査手続、その実施時期及び試査の範囲を決定しなければならない。
会計監査人は、監査計画の設定に当たり、財務諸表の重要な虚偽記載を看過することなく、かつ監査を効率的に実施する観点から、内部統制の状況を把握するとともに、その有効性を評価し、監査の危険性を十分に考慮しなければならない。
なお、内部統制の確立、維持自体は、独立行政法人の責任において行うべきものである。会計監査人は、監査の効率化や監査上の危険性の判断に内部統制を活用するだけであって、内部統制の確立、維持は会計監査人の責務ではない。しかし、内部統制の有効性が監査の方法や結果に重要な影響を及ぼすことから、会計監査人は独立行政法人の内部統制に重大なる関心を持つことが必要であるとともに、内部統制組織に改善すべき点がある場合には、適時かつ適切に積極的に改善に向けての指摘を行うことが望ましい。
第2節 二重責任の原則
独立行政法人における会計監査人による財務諸表等の監査制度は、財務諸表等の作成者である独立行政法人と財務諸表等の監査を行う会計監査人が自らの職責を全うして、真実かつ公正な財務諸表等を利害関係者に提供することが本来の目的であり、いわゆる二重責任の原則が適用される。すなわち、通則法第38条に基づき財務諸表等を作成し、独立行政法人の財政状態、運営成績、キャッシュフローの状況及び行政サービス実施コストの状況等を適正に表示する責任は独立行政法人の長が負い、その財務諸表等の適否に関する監査意見の表明については、会計監査人が責任を負うこととなる。
第3節 監査日程の十分な確保
二重責任の原則の観点から、独立行政法人は、会計監査人への財務諸表を始めとする監査対象書類の提出に当たっては、法人内部において然るべき機関決定を経た上で行わなければならない。
独立行政法人は、会計監査人の監査が十分かつ円滑に行われるよう、監査日程の確保に努めなければならない。特に監査対象書類を会計監査人に提出する時期については、通則法第38条に定める期限に対し、少なくとも商法(明治32年法律第48号)や株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(昭和49年法律第22号)等の類似の規定に定める日程を十分に確保しなければならない。
上記の趣旨を担保するため、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、必要に応じて、監査日程について明確に定めることが望ましい。
第1節 被監査独立行政法人に対する独立性について
通則法第39条に定める会計監査人の監査に当たっては、会計監査人は、被監査独立行政法人に対して、独立の立場にある者でなければならない。
この独立性を担保するため、通則法第41条において、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第4条の規定を準用し、被監査独立行政法人との関係において、経済的・身分的な利害関係を有する者は、会計監査人になれないものとされたところである。
これに加えて、会計監査人においては、被監査独立行政法人との間の外観的な独立性の確保についても、十分に配慮することが必要である。
第2節 被監査独立行政法人の主務省及び独立行政法人評価委員会に対する独立性の問題について
会計監査人は、通則法第39条の規定に基づき、被監査独立行政法人の財務諸表等を監査するものである。一方、被監査独立行政法人の主務省及び独立行政法人評価委員会に係る事項は、会計監査人の監査の範囲には含まれておらず、主務省及び独立行政法人評価委員会も、会計監査人の被監査独立行政法人に対する監査を指揮・監督する権限は有していない。
したがって、前節で述べたとおり、会計監査人については、被監査独立行政法人に対する独立性の確保は制度上要請されているところであるが、主務省及び独立行政法人評価委員会との関係においては、被監査独立行政法人との関係におけるような独立性の問題は存在しない。
第3節 被監査独立行政法人の主務省及び独立行政法人評価委員会との関係について
前節で述べた通り、会計監査人は、被監査独立行政法人の主務省及び独立行政法人評価委員会との関係においては、被監査独立行政法人との関係におけるような独立性の問題は存在しない。
しかしながら、会計監査人は、通則法第38条第2項の規定に基づき、被監査独立行政法人が主務大臣に提出する財務諸表に意見を付すものとされ、主務大臣は、当該財務諸表を承認しようとするときは、あらかじめ、独立行政法人評価委員会に意見を聴くものとされているところである。
ここで、主務大臣が承認するのは被監査独立行政法人がその責任において作成した財務諸表であり、独立行政法人評価委員会も主務大臣の当該財務諸表の承認について意見を述べるものであって、会計監査人の付した意見自体は、それらの直接の対象とはされていない。
しかしながら、会計監査人による監査が公正に行われ、独立行政法人評価委員会が当該独立行政法人の業務を客観的に評価し得るものとなるためには、次のような点に留意することが必要と考えられる。
会計監査人が、独立行政法人評価委員会の委員に就いた場合について、通則法第38条第3項による主務大臣の意見聴取に際し、独立行政法人評価委員会が当該独立行政法人の財務諸表に係る事項を審議するとき、当該財務諸表に意見を付した会計監査人である当該評価委員の意見について、その公正性・客観性に疑念を持たれる可能性は否定できない。
したがって、被監査独立行政法人の会計監査人である委員が、被監査独立行政法人に係る通則法第38条第3項の主務大臣の意見聴取において、議事に加わることは、独立行政法人制度上も独立行政法人評価委員会の委員の外観的な公正性・客観性の観点において問題があると解される。
また、被監査独立行政法人が、独立行政法人評価委員会の委員としての地位と監査契約の相手方としての地位との関係において、当該会計監査人の公正性・客観性について疑念を持つ可能性も否定できない。この場合において、被監査独立行政法人の監査に実際に関与する公認会計士が、独立行政法人評価委員会の委員に就くことは問題であると解される。なお、被監査独立行政法人の会計監査人たる監査法人の社員(監査に関与する社員を除く。)が、独立行政法人評価委員会の委員に就く場合においても、当該委員は個人の人格・識見により任命されたものではあるが、被監査独立行政法人が当該会計監査人の監査に対して疑念を持つことのないよう、会計監査人の側で必要な措置が講じられることが必要である。
第1節 会計監査人の職務
1) 会計監査人と被監査独立行政法人との関係について
会計監査人は、通則法第40条の規定により主務大臣に選任され、被監査独立行政法人と会計監査契約を締結し、当該会計監査契約に基づき監査を実施するものである。会計監査人が被監査独立行政法人と会計監査契約を締結する際、当該被監査独立行政法人の機関で会計監査人の相手方となる者は、当該被監査独立行政法人の代表機関であり、通常は独立行政法人の長である。
また、中央省庁等改革の推進に関する方針V18.(2)の趣旨を踏まえ、被監査独立行政法人の監査における会計監査人と監事の各々の監査業務を円滑に遂行する観点から、独立行政法人の長は、当該会計監査契約を締結しようとするときは、監事の意見を聴くことが必要である。
独立行政法人の財務諸表等の作成の最終的な責任と権限は、当該独立行政法人の長に属するものである。したがって、被監査独立行政法人において、会計監査人が監査報告書等を提出する相手方は、当該独立行政法人の長である。
また、会計監査人との連携の確保による監事の職務遂行の効率化の観点から、会計監査人は、監査報告書等を独立行政法人の長に提出する際には、当該監査報告書等を監事に対しても提出すべき旨が当該会計監査契約に定められることが必要である。
2) 会計監査人と監事の関係について
独立行政法人の監事については、通則法第19条第4項に独立行政法人の業務を監査する旨定められている。一方、会計監査人については、同法第39条に独立行政法人の財務諸表等を監査する旨定められている。
この同法第19条第4項に定める監事の職務及び権限は、独立行政法人の財務諸表等の監査を包含するものであり、その監査の対象の範囲は、当該独立行政法人が、同法第39条に基づく会計監査人の監査を受けるか否かにより変化するものではない。
したがって、当該独立行政法人が同法第39条に基づく会計監査人の監査を受ける場合であっても、監事は、会計監査人が監査を行う前述の財務諸表等についても、会計監査人の監査とは別にその職務と権限に基づき監査を行い、同法第38条第2項の規定に基づき、当該独立行政法人が、事業年度の終了後に当該財務諸表を主務大臣に提出するときは、会計監査人の意見と併せて自らの監査意見を付すものとされており、この場合において会計監査人の監査と監事の監査が併存するものと解される。
ただし、監事は、財務諸表等の監査においては、会計監査人が会計の職業的専門家として財務諸表等の監査を行うものであることを前提とし、会計監査人の行った監査の方法とその結果の相当性を自らの責任で判断した上で、当該会計監査人の監査の結果を利用し自らの意見を述べることができる。
このため、前述の会計監査契約の締結に当たっては、監事の会計監査人に対する、会計監査人が作成した監査報告書についての説明要求、会計監査人の監査に関する報告聴取に係る権限が明確に定められることが必要である。
3) 会計監査人と主務大臣及び独立行政法人評価委員会との関係について
会計監査人は、通則法第40条の規定に基づき、主務大臣により選任されるものである。しかしながら、主務大臣(主務省を含む。以下同じ。)及び主務省に置かれる独立行政法人評価委員会は、会計監査人との間でいわゆる上級庁−下級庁の関係に立つものではなく、主務大臣及び主務省に置かれる独立行政法人評価委員会は、会計監査人に対して報告を要求する権限も有してはいない。
会計監査人の主務大臣及び独立行政法人評価委員会への情報提供と会計監査人の守秘義務との関係に関して、前述のとおり、主務大臣及び独立行政法人評価委員会は、会計監査人に対して報告を要求する権限を有していないことから、会計監査人が主務大臣若しくは独立行政法人評価委員会に、業務上知り得た被監査独立行政法人に関する情報を提供した場合は、当該行為は会計監査人がその責任において任意に行ったものと解される。
したがって、会計監査人が被監査独立行政法人の主務大臣に対して、業務上知り得た被監査独立行政法人の秘密を報告した場合、報告先が被監査独立行政法人の主務大臣であることをもって、常に公認会計士法(昭和23年法律第103号)第27条に定める正当な理由に該当すると解することは適当でない。
このことは、会計監査人と独立行政法人評価委員会との間においても同様である。
そのため、会計監査人は、主務大臣若しくは独立行政法人評価委員会に対して、業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を提供する場合には、当該情報の提供が公認会計士法第27条に定める正当な理由に該当するか否かを自らの責任で判断することが必要である。
しかしながら、主務大臣若しくは独立行政法人評価委員会が会計監査人に対して、会計監査人が知り得た被監査独立行政法人に係る情報の提供を求めた場合、当該情報の提供が同条の正当な理由に該当するか否かの判断を当該公認会計士若しくは法律専門家にゆだねることは、独立行政法人の会計監査実務の蓄積の乏しい現状においては、会計監査人の事務に混乱を来し、主務大臣の被監査独立行政法人に対する適切な監督権限の行使に支障を及ぼす可能性も否定できない。
そこで、このような場合、会計監査人は、業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を提供することについて、被監査独立行政法人に対して同意を求めるものとし、被監査独立行政法人は正当な理由がない場合にはこの同意を拒否してはならない旨が当該会計監査契約に定められることが必要である。被監査独立行政法人が会計監査人に同意を与えなかったときは、会計監査人は、主務大臣等に情報を提供する必要はなく、当該主務大臣等に対して、被監査独立行政法人の同意が得られず当該情報を提供できない旨を明らかにすることで足りるものとすることが必要である。
また、主務大臣等が、会計監査人に、業務上知り得た被監査独立行政法人の情報の提供を求めるときは、その内容を具体的に特定することが必要である。被監査独立行政法人においても、会計監査人が当該情報を提供することに同意しないときは、会計監査人に対して同意できない理由も併せて明らかにすることを要する。
なお、会計監査人が被監査独立行政法人の同意を得て、業務上知り得た被監査独立行政法人の情報を提供した場合であっても、会計監査人が当該行為により第三者に損害を与えた場合は、被監査独立行政法人の同意を得ていることをもって、会計監査人は、当該第三者に対する不法行為責任等を免れるものではない。
第2節 会計監査人の権限
独立行政法人の会計監査人の権限に関する法令上の具体的な定めはない。
独立行政法人に対する会計監査を適切かつ円滑に遂行するためには、中央省庁等改革の推進に関する方針V18.(3)に記載されたように、「会計監査人は、何時でも、独立行政法人の会計の帳簿及び書類の閲覧もしくは謄写をし、又は長その他の役員(監事を除く。)及び職員に対して会計に関する報告を求めることができる」とすべきである。
上記の目的を達成するために、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、会計監査人の権限の範囲が明確に定められることが必要である。
第3節 会計監査人の義務
独立行政法人の会計監査人の義務に関する法令上の具体的な定めはない。
独立行政法人に対する会計監査を適切かつ円滑に遂行するために、本報告書第5章の記載中、会計監査人の義務に相当する内容については、会計監査人と独立行政法人との間で締結される会計監査契約において、会計監査人の義務の範囲として明確に定められることが必要である。
また、会計監査人は、財務諸表等に重要な影響を与えない違法行為等について積極的にその発見に努める義務を負うものではないが、その権限を行使し会計監査を行う過程で当該事実を発見した場合は、独立行政法人の公共的性格にかんがみ当該事実を被監査独立行政法人の長に報告することを要する。なお、被監査独立行政法人の長は、会計監査人から当該事実の報告を受けた場合は、適切な是正措置を講じるべきである。
さらに、監事の職務遂行の効率化の観点から、会計監査人は、当該事実を被監査独立行政法人の長に報告したときは、被監査独立行政法人の監事に対しても、当該事実を報告すべき旨が当該会計監査契約に定められることが必要である。
なお、公認会計士法に定めのある公認会計士及び監査法人の義務は、それぞれ会計監査人である公認会計士及び監査法人に適用されることは当然である。
第4節 会計監査人の責任
独立行政法人の会計監査人の責任については、法令上、会計監査人に特別の責任を課す定めはない。
したがって、民事責任について、会計監査人と被監査独立行政法人とは、準委任の関係に立ち、会計監査人は、善良なる管理者の地位をもって職務を行う義務を負うことから、会計監査人が、当該義務に違反した場合には、被監査独立行政法人に対して債務不履行の責任を負うことになる。ただし、会計監査人の責に帰すべき事由がなければ、その限りではない。
第1節 基本的な考え方
通則法第39条に定める独立行政法人に対する会計監査人の監査は、法人が作成した財務諸表等の信頼性を担保するための制度であり、その規範となる監査の基準は、財務諸表の作成規範である会計基準とともに、適正なディスクロージャーを確保するための重要なインフラストラクチャーである。また、通則法第39条に定める会計監査人の監査は、国の事務・事業を行う機関に対する法定監査として初めて導入されるものである。これらの諸点を勘案するならば、監査の基準の必要性が強く認識されなければならない。
監査の基準の作成に当たっては、監査実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められたところを帰納要約すべきと考えるが、公会計監査に関する蓄積の乏しい現状においては、今回の監査の基準の作成に関して独立行政法人を始めとするパブリック・セクターの監査実務に依拠することは現実的ではない。そこで、会計監査に係る蓄積が豊富な企業の監査基準を参考に、独立行政法人の公共的性格を勘案して、演繹的に独立行政法人の監査基準を策定することが適切であるという認識に立つものである。
独立行政法人に対する会計監査人の監査の基準は、監査基準、監査実施準則及び監査報告準則から成り、さらに、監査基準は、監査一般基準、監査実施基準及び監査報告基準により構成される。監査一般基準は、監査人の適格性の条件及び監査人が業務上守るべき規範を明らかにする原則であり、監査実施基準は、監査手続の選択適用を規制する原則であり、監査報告基準は、監査報告書の記載要件を規律する原則である。我が国の監査実務においては、この構成が定着していると考えられることから、ここでも踏襲することにする。さらに、監査実施基準を補足し、具体的な監査実施の要件を定めるものとして、監査実施準則を、監査報告基準を補足し、具体的な監査報告の要件を定めるものとして、監査報告準則を設定している。
ここに定める監査の基準は、会計監査人が、通則法第39条に定める監査を行うに当たって、法令によって強制されなくても、常に遵守すべき性格のものであり、会計監査人が独立行政法人との間で会計監査契約を締結するに際して、当該契約に盛り込まれることが望ましい。
独立行政法人の監査に関する実務が蓄積されるとともに、パブリック・セクターにおける監査理論がより一層進展することが想定される。この観点から、監査の基準は、今後とも充実と改善を図る必要があり、今後関係者が協議の上で適切に対処することが必要と考える。
第2節 監査基準
第1 一般基準| (1) | 監査の対象となった「財務諸表等」の範囲 |
| (2) | 監査が「独立行政法人に対する会計監査人の監査の基準」及び「一般に公正妥当と認められる監査基準」に準拠して行われた旨 |
| (3) | 通常実施すべき監査手続が実施されたかどうか、通常実施すべき監査手続のうち重要な監査手続が実施できなかったときは、その旨及びその理由 |
| (1) | 財務諸表が独立行政法人の財政状態、運営状況、キャッシュ・フローの状況及び行政サービス実施コストの状況を適正に表示していると認められるときは、その旨を記載しなければならない。 |
| (2) | 財務諸表が独立行政法人の財政状態、運営状況、キャッシュ・フローの状況及び行政サービス実施コストの状況を適正に表示していないと認められるときは、その旨及びその理由を記載しなければならない。 |
| (3) | 財務諸表に対する前々項又は前項の監査結果に関しては、次に掲げる事項を記載しなければならない。 |
| (ア) | 独立行政法人の採用する会計方針が、独立行政法人会計基準及び一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠しているかどうか、準拠していないと認められるときは、その旨、その理由及びその事項が財務諸表に与えている影響 |
| (イ) | 独立行政法人が前事業年度と同一の会計方針を適用しているかどうか、前事業年度と同一の会計方針を適用していないと認められるときは、その旨、その変更が正当な理由に基づくものであるかどうか、その理由及びその変更が財務諸表に与えている影響 |
| (ウ) | 財務諸表の表示方法が、独立行政法人会計基準及び一般に公正妥当と認められる財務諸表の表示方法に関する基準に準拠しているかどうか、準拠していないと認められるときは、その旨及び準拠したときにおける表示の内容 |
| (4) | 事業報告書が独立行政法人の業務運営の状況を正しく表示していると認められるときは、その旨を記載しなければならない。 |
| (5) | 事業報告書が独立行政法人の業務運営の状況を正しく表示していないと認められるときは、その旨及びその理由を記載しなければならない。 |
| (6) | 決算報告書が独立行政法人による予算の区分に従って決算の状況を正しく表示していると認められるときは、その旨を記載しなければならない。 |
| (7) | 決算報告書が独立行政法人による予算の区分に従って決算の状況を正しく表示していないと認められるときは、その旨及びその理由を記載しなければならない。 |
| (8) | 「財務諸表等」に重要な影響を与える不正及び誤謬並びに違法行為がないと認められるときは、その旨を記載しなければならない。 |
| (9) | 「財務諸表等」に重要な影響を与える不正及び誤謬並びに違法行為があると認められるときは、その旨及びその内容を記載しなければならない。 |
| (1) | 重要な監査手続を実施できなかったこと等の理由により「財務諸表等」に対する監査結果を形成するに足る合理的な基礎が得られないときは、その旨及び及びその理由を記載しなければならない。 |
| (2) | この場合においては、通則法第38条第2項に定める財務諸表及び決算報告書に関する意見の表明は差控えなければならない。 |
| (1) | 会計監査人は、専門家又は他の監査人の業務を利用したことを監査報告書において記載しないものとする。 |
| (2) | ただし、意見の限定、不適正意見の表明又は意見差控の理由説明や特記事項の記載の中で専門家又は他の監査人の業務やその結果について言及することが適切であると会計監査人が判断した場合には、専門家又は他の監査人の業務を利用した旨及びその内容を記載することになる。 |
遠藤 和良 総務副大臣(第14回)
| 座 長 | 山口 信夫 | 中央省庁等改革推進本部顧問会議顧問 |
| (旭化成株式会社代表取締役会長) | ||
| 座長代理 | 八木 良樹 | 経済団体連合会法規委員会企業会計部会長 |
| (株式会社日立製作所代表取締役取締役副社長) | ||
| 樫谷 隆夫 | 日本公認会計士協会常務理事 * | |
| 会田 一雄 | 慶應義塾大学総合政策学部教授 * | |
| 宮脇 淳 | 北海道大学法学部教授 *は、ワーキンググループ兼任 |
| 吉田 稔 | 旭化成(株)経営計画管理部経営管理室長(兼)計数情報センター長 |
| 逆瀬 重郎 | (株)日立製作所財務部副部長 |
| 高木 勇三 | 日本公認会計士協会常務理事 |
| 鈴木 豊 | 大東文化大学経営学部教授 |
| 井戸川 員三 | 公認会計士 |
| 梶川 融 | 公認会計士 |
| 高橋 勉 | 公認会計士 |
| 平成12年10月17日(火) | 第13回研究会において、監査基準のワーキンググループにおける検討を決定 |
| 平成12年10月19日(木) | 実務家からなるワーキンググループによる検討 |
| 平成12年11月 2日(木) | |
| 平成12年11月21日(火) | |
| 平成12年12月13日(水) | |
| 平成12年12月26日(火) | |
| 平成13年 1月18日(木) | |
| 平成13年 1月31日(水) | |
| 平成13年 2月15日(木) | |
| 平成13年 2月23日(金) | |
| 平成13年 3月 7日(水) | 第14回研究会でワーキンググループ原案を審議し、報告書を取りまとめ |
※ 本報告書の作成に当たっては、森綜合法律事務所 飯田 隆 弁護士に、法律上の問題について専門的な立場から御協力をいただいた。