規制改革についての見解

7 エネルギー

【分野別総論】

○問題意識

 エネルギーは、国民生活や社会経済活動全般に広くかかわる重要な基盤的要素であり、その安定的な供給を確保することは、我が国のエネルギー政策において常に重要な課題とされてきた。電力供給構成の多様化が以前に比べて進んだ現在においても、エネルギー資源の多くを海外に依存する我が国のエネルギー供給構造は依然として脆弱であり、安定供給の確保は引き続き重要な政策課題であるが、近年は、これに加えて、世界経済のグローバル化に伴う国際的な大競争時代の到来からくる効率化の要請と、地球環境問題の深刻化からくる地球環境保全への配慮という要請とが、安定供給の確保と並んで、エネルギー政策上の重要な課題となってきている。
 電力・ガスは、我が国のエネルギー供給の約半分弱を占めているが、その供給体制については、従来、自然独占性を有するものとして、一定の供給区域について供給責任を負わせる一方で他の事業者の参入を規制し、当該供給区域における供給条件(料金等)については認可制とするいわゆる公益事業規制がなされてきた。しかしながら、自然独占性を前提としたこのような供給体制については、上述した効率化の要請という観点等から、近年になって見直しの必要性が認識されるようになり、平成8年12月に閣議決定された「経済構造の変革と創造のためのプログラム」において、電力については2001年(平成13年)までに国際的に遜色のないコスト水準を実現することを目指した規制緩和・制度改革を行うとともに、ガスについても所要の規制緩和・制度改革を実施することとされた。
 電力及びガスの供給体制の効率化に向けた関係事業制度改革は、昨年度の電気事業法及びガス事業法の改正による電力の小売部分自由化等として結実し、大規模な工場やオフィス等においては電力調達先を選択できる制度等が既に実施に移された。当委員会は、こうした制度改革のプロセスにおいて、規制改革の観点から必要な指摘・提言を行ってきた。これらの改革は、いずれも、電力事業・ガス事業の効率化を、厳正な料金査定や行政指導といった方法によってではなく、競争を導入することにより市場の力で達成しようとするものであり、規制当局・競争当局においてもそのために必要となる適正取引ガイドラインをあらかじめ作成・公表するなど、我が国の規制制度改革の一つのモデルとなり得る取組がなされているものと評価している。
 しかしながら、これらの改革が市場の力による効率化を目指すものである以上、市場が市場としての機能を十分に発揮できる仕組みを十分に整備することが重要であり、新規事業者の参入等を通じ、新たな課題が出てきた場合には、これに適切に対応するなど、必要な監視作業を行うとともに、その経験を、制度発足後3年後を目途に行われることとされている見直しに反映させていくことが必要である。

○検討状況

 当委員会においては、上述のとおり、これまでの電力事業・ガス事業の制度改革のプロセスにおいて、規制改革の観点から必要な指摘・提言を随時行ってきた。その具体的な内容は以下のとおりである。
 第1次見解においては、電気事業制度改革の基本的な視点として、@参入規制、A託送制度、B新規参入者に対する扱い及び自由化の範囲の拡大等に関する今後の検討、の3点を取り上げた。
 具体的には、参入規制については、部分自由化という方針を前提とした上で、自由化対象需要家に対する供給については参入規制を廃止すべきこと、既存事業者については自由化部分と非自由化部分との区分経理を義務付けるべきこと、託送制度については託送料金がすべての送電線利用者にとって公平であり、かつ、算定根拠が明示されるべきこと、また、新規参入者に対する扱いについては、新規参入者に設備規制を課さないこと、既存電力会社に最終的な供給責任を課すこと、及び、一般電気事業者相互の競争を促進すべきことを指摘した。さらに、自由化の対象とならなかった部分についても将来における自由化の方向性を明示し、そのための具体的なプログラムの明確化を求めた。
 一方、ガス事業についても、都市ガス事業における大口供給の範囲の拡大とガス託送の活性化のための措置、簡易ガス事業における参入時の地方ガス事業調整協議会の廃止、LPガス事業における効率化に資する保安規制の合理化等の指摘を行った。
 第2次見解(平成11年12月)においては、電気事業制度改革の骨格が固まったことを受けて、運用上最も重要と考えられる電力小売託送制度設計の検討状況についてフォローアップを行ったほか、このようにして整備された小売託送制度に係る考え方を、各電力会社が、自己託送制度についても整合的な形で取り入れるべきとの指摘を行った。
 また、ガス事業については、地方ガス事業調整協議会の廃止に伴う簡易ガス事業の許可基準の明確化の状況についてフォローアップを行うとともに、都市ガス事業における休眠区域の見直し、LPガス事業における取引適正化・料金透明化への取組について指摘を行った。
 こうしたこれまでの成果を踏まえ、今年度においては、本年3月21日に改正電気事業法が施行され、大口電力市場における自由化がスタートしたことを受けて、電力市場における新規参入の状況をフォローアップし、参入に係る問題点の有無やその解決メカニズムの実効性等について、当委員会として監視を行うとともに、新規参入者の事業採算性にとって重要な意味を持つ電力小売託送制度についても、電気事業者の効率化努力が十分反映されたものとなっているかどうかについての監視や、昨年度取り上げた自己託送料金について電力会社における改善への取組状況についてのフォローアップを行ってきた。
 一方、ガス事業については、需要家の側から見た場合、LPガスや石油燃料といった他のエネルギー源との代替可能性が電力に比して大きく、これら他のエネルギー源との間の競合関係を通じて市場原理による競争が機能しやすい側面がある。こうした事情もあり、ガス事業については、電力事業より早く、平成7年に大口需要家向けの供給に係る自由化が行われているが、昨年のガス事業法改正により、自由化の対象となる大口需要家の範囲の拡大や、それに関連した競争促進措置としての接続供給制度の導入等が行われたところである。このため、ガス事業については、今年度は、現在の大口ガス市場の状況や、自由化を受けたガス会社の経営効率化の状況についての監視を行うとともに、これらの状況を踏まえたガス事業における競争の更なる導入に向けた検討を促してきた。

【各論】

(1)電力供給システムの見直しと競争の促進(※)

(1−1)電力供給システム
 電力供給システムについては、本年3月、大口需要家向けの電力小売部分自由化が実施され、その後6月には最初の新規参入者が届出を行った。今後、自由化された大口電力市場が有効に機能し、電力供給体制の効率化という所期の目的を達成していくためには、新規参入者の参入状況や、電力会社の経営効率化の動向をフォローアップするとともに、参入に当たってどのような問題が生じたかという点や、そのような問題点がどのようにして解決されているのかといった点について監視を行うことが重要であり、当委員会においても、この点について、関係事業者等からヒアリングを行ってきた。
 こうしたヒアリングの結果、現在の大口電力市場については、例えば以下のような問題が見られるとの指摘があった。

  1. 電源調達面での問題
     新規参入者が電源を確保するに当たっては、既存工場等から余剰自家発電源を調達することが多いものと考えられるが、一部には、このような調達が難しいとの指摘がある。
     このような指摘の背景には、余剰自家発電源保有者の側において、新規参入者に電源を提供あるいは電気を供給した場合に電力会社から購入条件の変更(値上げ)を求められるのではないかとの懸念があるとされる。また、新規参入者が電源を買収する際に、余剰電源を多数抱える電力会社が経済性を無視し、新規参入を妨げる意図のもと、不当な高値による買収条件を対抗的に提示したり、余剰電源を海外へ移転するといった余剰電源の囲い込み行為が存するとの指摘もあり、このような指摘を受け当委員会として電力会社にヒアリングを行った。
     当委員会は、現時点において、このような懸念の全てを事実に基づき確認したわけではないが、電力市場において競争を促進するためには余剰自家発電源の活用促進が重要な課題であることから、公正取引委員会においては、万一こうした動きを通じて新規参入阻害等の独占禁止法上問題となる行為がみられる場合には、機動的に事情聴取等を行うことが必要である。
     また、余剰自家発電源の中には、一年を通じた安定的な形で新規参入者に提供することこそできなくとも、特定の時間帯や曜日に余剰能力が生じるものも多いと見込まれるが、現在の託送制度の下ではこうした電源は新規参入者に提供されにくくなっているとの指摘がある。このため、余剰自家発電源をより有効に活用していくための方策については、関係者間で必要に応じさらに検討を深めていくべきである。
  2. 託送条件の問題
     需要家が部分供給(その需要する電力について一部は新規参入者から供給を受け、残りの部分は電力会社から供給を受ける形態)を希望する場合、現実には電力会社は部分供給を行う代わりに新規参入者に対する卸供給(いわゆる常時バックアップ)という形での供給にしか応じないとの指摘が一部にある。
     部分供給は適正取引ガイドライン上も「そもそも交渉に応じないことや、公表された標準メニューに比べ不当に高い価格を適用する(又は示唆する)ことは、独占禁止法上違法となるおそれが強い」と記されており、供給形態として可能であることが明記された供給方式であり、電力会社は、それを拒絶したり、需要変動部分についての供給を選択的に拒否したりすることは、合理的理由がある場合を除いて許されないこととなっているところ、その旨、周知徹底が図られることが必要である。
     また、小売託送の条件についても、事故時バックアップ料金やいわゆる同時同量の原則については、新規参入者の中に、その適切性について疑義を呈する者もあるところであり、電力会社においては、こうした疑義に対して必要な情報を公開する等適切に対応することが望ましい。
     そのほか、託送設備の利用可能性調査について、現在は一部の電力会社においてかなりの時間を要しているとの指摘があるほか、例えば周波数変換装置の利用を申し込んだ場合に十分に容量があると思われるのに利用を断られたとの指摘がある等、その運用についてはなお透明化に向けた努力の余地があると考えられる。電力会社の中には、最新の情報通信(IT)技術を活用して、託送設備の利用に係る情報提供をインターネット上で実施できるよう措置する等の動きがあるが、こうした動きが他の電力会社にも広がることにより、託送設備の利用環境がより一層透明なものとなることが望ましい。
     通商産業省及び公正取引委員会においては、これら託送制度の運用に伴う問題について監視を行い、それぞれの所管法令上問題があると見受けられる場合には機動的に事情聴取を行うとともに、通商産業省においては、小売託送制度がより利用しやすいものとなるよう、必要な制度見直しを適切に行うべきである。
     この際、特に注意が必要なことは、競争導入の初期においては、電力会社の従来の慣行と思考のみにとらわれず、圧倒的なシェアを有する電力会社と小さな能力で新規に参入を試みる者との間には、ある種の非対称的な措置を考える必要があり、全く同一の慣行と思考をもって律しようとする場合には新規参入者による事業の道は閉ざされかねないということである。
     通商産業省は、このような考え方もあることに留意しつつ、公正取引委員会と必要に応じて連携し、有効な競争が達成されるための個別の施策について検討することが望ましい。
  3. その他(既存電力会社相互の競争促進等)
     電力市場において大口自由化が行われたとはいえ、現時点においては、市場の圧倒的大部分は依然として従来の電力会社からの供給を受けているのが現状である。
     こうした状況の下では、既存電力会社においても、それぞれ他社の供給区域内の需要家に対して積極的に営業活動を行うなど、相互の競争を促進する気風を醸成することが望ましい。
     また、来年3月中を目途に現在検討が行われている中央電力協議会の活性化策は、各電力会社と新規参入者の間の経済融通のルールを明確化するものである。しかしながら、経済融通に限定することなく、他の融通についても新規参入者の参加が認められることとなると、一層の電力供給システムの効率化に資するものとなる可能性があることから、今後とも、さらなる活性化策につき、透明な過程のもと、幅広い参加者が可能となり得る新しいルールを検討していくべきと考える。

 また、電力供給システムについては、新しい制度の開始後概ね3年後を目途に、自由化の範囲及び自由化に関連する制度内容などについて検証した上で、部分自由化の範囲拡大、全面自由化及びプール市場の創設の是非について検討することとされている。
 しかしながら、現在の段階においても、部分自由化が抱える問題点のいくつかは既に指摘されており、通商産業省においては、こうした問題点に加えて今般の制度改正の成果を整理した上で、これをもとに、部分自由化の範囲拡大、全面自由化及びプール市場の創設のそれぞれの政策オプションについての検討作業を早期に開始すべきである。あわせて、通商産業省においては、これらの内容を適切な時期において公表すべきである。

(1−2)電力の託送制度
 自由化された電力市場をより活性化させるためには、既に電力会社が届け出た小売託送料金(接続供給約款)について、最大限の効率化努力を行い、それを織り込んだ上で設定することによって、可能な限り低廉化を図ることが重要である。
 この点について、各電力会社においては、制度発足当初届け出たいわば経過的な接続供給約款を見直し、本年9月に、将来の経営の効率化成果の見込みを織り込み、将来原価(フォワード・ルッキング・コスト)として算定された小売託送料金(接続供給約款)を通商産業大臣に対して届け出、同年10月より適用することとした。新しい接続供給約款は、10電力会社平均で7.3%の値下げとなっており、あわせて電力会社が自主的に定めて公表している自己託送料金についても見直しがなされたことは評価する。
 しかしながら、電力市場の競争によりコスト水準引下げを図る構造改革は依然道半ばであることから、当委員会としては、電力会社における経営の更なる効率化を期待する。

(2)ガス事業における競争の更なる導入(※)

(2−1)ガス事業における競争の更なる導入
 ガス事業については、需要家の側から見た場合、LPガスや石油燃料といった他のエネルギー源との代替可能性が電力に比して大きく、これら他のエネルギー源との間の競合関係を通じて市場原理による競争が機能しやすい面があることもあり、電気事業に先行して、平成7年に既に大口需要家向けの供給に係る自由化が行われている。さらに、昨年には、こうした自由化の動向等を踏まえつつ、再度、ガス事業法が改正され、対象となる大口需要家の範囲の拡大や、それに関連した競争促進措置としての接続供給制度の導入等が行われた。
 当委員会としては、こうした制度改正を受け、自由化範囲が拡大された大口ガス市場における競争の状況や、自由化措置を受けたガス会社における経営効率化の状況について監視を行った。その結果、一般ガス事業者による大口供給は供給区域外需要家への供給も含めて着実に拡大しており、一般ガス事業者以外の者による大口供給も拡大しているなど、ガス事業における自由化が定着してきていることが認められた。その他にも、ガス会社による電力事業分野への参入(逆に電力会社等がガス事業分野に参入している事例もある)や、ガス会社と他の事業者との業務提携、ガス会社によるガス田鉱区権益取得等、これまでの供給独占体制下では見られなかったダイナミックな動きも徐々に出てきていることが明らかになった。
 また、通商産業省においては、今回の制度改正の施行後おおむね3年を目途に、ガス体エネルギー産業全体を視野に入れた制度改革・構造改革に向けた更なるアプローチを行うこととしている。通商産業省においては、このような取組に向け、LPガス、都市ガス、簡易ガスに対する規制についての将来的にあるべき姿や、ガスパイプライン敷設・利用の活性化、安定供給の確保と消費者の保護等について早急に検討を深め、適切な時期において公表すべきである。

(2−2)ガス託送制度の改善
 ガス託送制度については、昨年の改正ガス事業法において、大規模な事業者についてはその条件を「接続供給約款」として届け出ることが義務付けられたところである。
 しかしながら、従来のガス事業に係る会計制度が接続供給のような事業形態を想定したものでなかったことから、上記の接続供給約款については当面暫定的なものとして運用する一方、総合エネルギー調査会都市熱エネルギー部会都市ガス事業料金制度分科会において、本来あるべき接続供給料金の算定方法について、会計手法を含めた検討が行われてきたところである。
 同分科会の報告書は本年11月に取りまとめられ、その中で接続供給料金の算定方法について、ABC会計手法の導入や将来の経営効率化効果を織り込むこと(フォワード・ルッキング・コスト方式)などの具体的方針が盛り込まれたところであり、通商産業省においては、早急に、こうした内容に基づいた接続供給料金算定基準の改訂を行うとともに、その適用を受けるガス事業者が新しい算定基準に基づいた接続供給約款を早期に届け出るよう促すべきである。

(2−3)LPガスの取引適正化・料金透明化
 LPガス(液化石油ガス)事業については、消費者が事業者の料金やサービスの内容を比較し、自由に事業者を選択できる環境を整えていくことが重要である。LPガス事業における取引適正化・料金透明化に向けた取組としては、昨年、通商産業省が「LPガス取引適正化・料金透明化に向けた措置」としてアクションプログラムを取りまとめたところであり、これを受け、LPガス事業者代表、消費者代表、学識経験者等から成る「LPガス料金問題検討会」が開催され、7月に最終報告が取りまとめられたほか、LPガス業界においても、本年9月、自主ルールとして、LPガス販売に関する指針が取りまとめられた。
 今後とも、通商産業省においては引き続きLPガス事業者がこれらの提言等を遵守するよう適切に指導すべきである。