規制改革についての見解

9 住宅・土地、公共工事

【分野別総論】

○問題意識

 我が国の都市整備、地域整備、住宅・社会資本整備は、戦後、「欧米並みの水準」、「国土の均衡ある発展」を目標に、精力的に進められてきた。こうした努力の積み重ねにより、戦後の荒廃からわずか半世紀で、現在の我が国の生産活動及び国民生活の基盤が形成され、我々は世界第2位の経済大国を築き上げるとともに、50年前とは比べるべくもない生命・財産の安全、豊かな生活を享受している。
 しかし、それは犠牲なしに達成されたわけではない。たとえば住宅建設・賃貸の高費用、都市景観に対する不満、街づくりの困難さ等の問題は解決されずに現在に至っている。しかも近年の国民の意識・要求の変化・多様化、右肩上がりの経済成長期とは異なる現在の我が国の経済状況、ITの飛躍的な向上と普及、少子高齢化の進展、環境意識の高まり等の社会・経済情勢の変化は、従来とは質的に異なる都市整備、地域整備、住宅・社会資本整備理念の必要性を惹起している。
 例えば、「欧米並みの水準」という目標は、国民生活の真の豊かさ、ゆとり、うるおいといった個人の多様なニーズに十分に応えるものではない。高度経済成長期には、住宅・社会資本に対する継続的な量的需要拡大に対して、主として新設による量的な供給という形で対応がなされてきたが、今後持続可能で安定的な経済成長を目指す際には、その質的な面を重視して、良いものを作り、メインテナンスをしながら長い間大切に使っていく方向へと政策を転換していく必要がある。ITの飛躍的な向上と普及は、経済のグローバル化を促進するとともに、企業立地の制約要因を緩和し、この結果、従来以上に国際的な都市間競争を激化させるとともに、国内の都市圏と地方圏との関係にも変動をもたらしつつある。また、少子高齢化の進展は一部地域を除いて都市への人口集中を沈静化させ、三大都市圏等以外の地域での市街化圧力を弱めつつある。さらに、環境意識の高まりは、限られた資源の有効活用の観点から、上記の社会資本等のメインテナンスの重要性を増加させるとともに、自然環境と共生できる都市整備・社会資本整備を要請している。住民参加、行政のアカウンタビリティの要請という観点からは、計画策定手続及び事業執行に当たってのより緊密な住民との対話、行政機関の情報公開が要請される。
 こうした社会・経済の情勢変化を的確に把握し、又は先取りし、必要な制度の再構築を行うことが、この分野の規制改革の目標である。

〇検討状況

 90年以降、この分野の規制改革は着実に前進してきた。具体的には、(1)都市計画等に基づく土地利用規制の合理化、(2)再開発事業など各種事業の要件緩和、(3)建築基準法の性能規定化、(4)定期借地権、定期借家権の導入、(5)住宅品質確保の観点からの法制度の整備、(6)入札制度改革、PFIの具体化等による公共事業改革、(7)高速道路への一定の民間施設の連結可能化等、多岐にわたる措置が講じられてきたところであり、経済企画庁及び総務庁の分析により、こうした措置により少なからぬ経済効果があったことが、既に明らかにされているところである。ただ、土地利用規制関係の規制改革の経済効果を論じる際には、留意すべき点がある。例えば、都市計画の規制改革は、通常、制度メニューのバラエティを増加させるが、実際に、そのメニューを使うか否かは各地方公共団体の判断に任されており、最終的には住民の判断によることとなる。こうした住民の判断には一般には時間が掛かることを考えれば、都市計画に関する規制改革の効果は短期的に実現すると言うより、長期にわたって漸次実現する性格のものである。また、推計された経済効果は建築物の工費から算出された直接の需要創出効果を中心としたものであるが、そこには、算定データの制約などから、都市の快適さ(例えば、オープンスペース、景観、環境)、便利さ(通勤時間の短縮、身近なショッピング空間)等本来都市計画制度が目的とする効果や、必要なインフラ整備等のコストは算入されていない。本来、規制改革の効果は、こうした間接の費用・効果を含めた長期の効果を総体として捉えるべきものと考える。
 いずれにせよ、今後、従前の規制改革により整備された制度が有効に活用され、大きな効果がもたらされることを期待したい。
 当委員会は、この3年間、(1)都市の仕事・生活空間を充実させるための方策、(2)都市郊外、中山間地等国土全体を保全し、その生産性を向上させる方策、(3)上述の方策を効率的に無駄をできるだけ省いて達成するためのルールづくり、(4)不動産市場の構築と不動産流動化の促進等の観点から活動を行ってきた。
 まず、都市内の土地の有効利用の観点から、平成10年度に、@都市開発事業手法の拡充等を内容とする都市再開発法改正について指摘するとともに、A土地の有効利用の前提となる公共施設整備の促進について、「都市構造再編プログラム」の必要性を指摘した。また、昨年度は、B土地利用規制制度の合理化の観点から、都市計画法の抜本改正について指摘を行った。
 次に、都市郊外部の計画的土地利用については、昨年度、@マスタープランの拡充の必要性、A都市計画の線引き制度及び開発許可制度の見直し及びB農振農用地の指定に係る基準について指摘を行った。
 第3に、平成10年に法改正がなされた建築基準法の性能規定化について、その円滑な施行への準備作業(本年6月に施行)のフォローアップを2年間にわたって行ってきた。
 さらには、公共施設等の整備・管理に関する国及び地方公共団体と民間事業者との適切な役割分担の観点から、平成10年度からPFI構想の具体化に取り組んできた。PFIについては、昨年、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」が成立し、本年3月には内閣総理大臣により基本計画が策定された。
 こうした過去2年間の成果を踏まえ、今年度は、以下のテーマを新規のテーマとして取り上げた。
 まず、都市内の土地の有効活用に関しては、この2年間で事業手法、計画手法について検討を行ってきたことから、今年度はプロジェクトファイナンスの整備の観点から検討を進めた。その結果、都市開発に土地信託手法を更に積極的に活用する手法に道を拓く必要性が指摘され、信託会社の免許の在り方にも議論が及んだが、これについては金融行政に深く関わる問題であることから、金融分野において検討を進めた。
 次に、現在の経済情勢の下で強く求められている不動産の流動化の促進、不動産市場の活性化の観点から、@不動産競売制度の活性化(短期賃貸借制度等)、A不動産特定共同事業の手続要件の緩和、B不動産情報の開示の問題を取り上げた。
 第3に、中古住宅ストックの有効活用の観点から、@中古住宅市場の整備、A中古マンション等のストック管理のルール化、Bマンション建替えの円滑化の問題を取り上げ、既存ストックの有効活用と必要な機能更新の促進方策を検討した。
 第4に、近年、いわゆる中山間地において、耕作放棄地の増加、産業廃棄物処理施設の無秩序な立地等土地利用上の問題が生じていることから、@今回の都市計画法改正により創設された準都市計画区域制度等の施行までのフォローアップとともに、A農地所有の規模要件の弾力化、B中山間地域等直接支払制度の実施状況・効果の検証・公表の問題を取り上げ、検討を進めた。
 第5に、公共事業等を進める際の住民合意の形成、環境配慮の問題として、@パブリック・インボルブメントの活用、A環境アセスメントの充実の問題を取り上げた。この問題は、今年度、当委員会がタスクフォースを設けて検討を進めた環境問題にも関係する問題である。

【各論】

(1)不動産の流動化、不動産市場の構築

ア 不動産競売制度
 我が国の不動産競売制度については、かねてより、執行妨害による競落者の地位の不安定とそれに起因する入札者のちゅうちょによる入札者の絶対数の少なさ、物件の落札価格の低迷及びそれに伴う債権者の債権回収の困難等の問題点が指摘されている。我が国の近年の景気停滞の一因である不良債権処理の遅れは、こうした不動産競売及びそれに抵当権の存在を前提とする任意売却を通じた不良債権回収・処理の停滞による面も大きいと考えられる。
 今後、企業の自己責任が今まで以上に求められる中で、競売制度が果たす役割はますます大きくなると考えられる。その際、我が国の競売制度をより使いやすい制度とするよう、制度面、運用面の両面について必要な改善を図るべきである。
 特に、短期賃貸借制度(民法第395条)については、執行妨害の代表的な手口として悪用されているとの指摘がある。具体的には、短期賃貸借の存在をもって入札者をちゅうちょさせ、価格を下落せしめた上で自己又はグループ内で落札したり、立退料あるいは登記の抹消費用として相当の金員を要求するといった類の手口である。
 民法395条は、通説的理解では価値権(抵当権)と利用権(物質権)の調和の規定であり、上記のような正常な使用収益を目的としない賃貸借(賃貸借の登記のみで使用の実体のないもの、民事執行の妨害や債権回収を目的とするもの等)は濫用的な短期賃貸借として、民事執行手続では保護されないものとされる。また、平成8年の民事執行法改正による引渡命令の相手方の拡大、平成10年の同法改正による執行官の調査権限の拡充、新たな保全処分の創設等により、濫用的な短期賃貸借の排除に向けた措置が図られたところである。さらに、平成11年11月の最高裁判所大法廷判決は、抵当権の効力として、抵当不動産の不法占有者に対する妨害排除請求権の代位行使を認めた。しかし、抵当権者が負う金銭的・時間的費用を考えれば、また、一般市民が安心して参入できる不動産競売市場が形成されているかという観点から見ると、未だ十分ではないと考えられる。また、民法第395条については、その制定時点から異なる立法意思が混在した規定として指摘されており、従来から改正論が根強い。
 一方、上記のとおり、短期賃貸借の保護の制度は、抵当権と抵当不動産の使用収益権との調和を図るために抵当不動産の賃貸借関係を一定の限度で確実なものとしたものであり、仮にこの制度が存在しなければ、抵当不動産の賃貸借関係の不安定性が高まり、抵当不動産の使用収益が事実上制約されることとなるおそれがあるとの指摘がある。特に、テナントビルや賃貸アパートの場合、資金の融資を受けて建築し、抵当権設定後にこれを賃貸して、賃料収入によって債務を弁済するのが通常であるが、入居者は、所有者の財務状況いかんによって、例えば定期借家契約により入居していた場合であっても、約定の賃借期間の中途で立ち退かざるを得なくなるため、入居者が得られにくくなるおそれがあるとの指摘がある。
 こうした点を十分に踏まえて、短期賃貸借制度(民法第395条)について、廃止も含めてその改正について検討を進めるべきである。特に、執行妨害への対策として短期賃貸借の保護の制度自体の廃止の当否を論じるに当たっては、正常な短期賃貸借の保護の目的にはどのような制度が最も有効かという面についても、十分に検討することが必要である。
 また、現在、短期賃貸借以外の方法による様々な執行妨害の手口が考案され、活用されていることから、こうした点への対応も含めて上記の競売制度ひいては担保制度についての制度面、運用面の両面について必要な見直し・改善の検討を行うべきである。

イ 不動産特定共同事業の手続要件
 不動産特定共同事業者は、不動産特定共同契約の成立前に契約の内容等一定の事項について書面を交付して説明しなければならないこととされている(不動産特定共同事業法第24条)。これは、@不動産共同投資事業の仕組みが複雑であること、A元本の返還について保証されたものではないこと、B任意組合型の場合は投資家が無限責任を負うこと等から、投資家が契約の内容等について十分知らないままにその締結を行うとトラブルの原因となる可能性があることを踏まえたものである。こうした説明義務については、例えば金融商品分野において、第147回国会で金融商品の販売等に関する法律が制定され、販売業者の説明義務の明確化や説明義務違反に対する民事上の効果等について定めるなど説明義務を強化して投資家保護を図る方向にあり、不動産特定共同事業においても、その重要性が増していると考えられる。
 一方、昨今のパソコンなどの通信機器の普及の促進を考えると、こうした説明について電子機器を活用できないかとのニーズが今後更に高まることが予想される。
 こうした状況の下で、上記の説明義務を担保しつつ電子機器の活用を推進していくことが、今後の課題と考えられる。第150回国会において成立した書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律においては、不動産特定共同事業法に係る書面については対象とされていない。これは、上記@からBにあるような不動産特定事業における消費者保護のための説明義務の重要性、電子機器によって事業者から提供される具体的な説明の内容・形態、この問題に関する投資家サイドの意識等が十分に把握されていない現状にかんがみれば適切な判断と考える。
 しかし、今後の我が国における電子機器の発達・普及状況を考えれば、消費者保護やトラブルの未然防止を図りつつ、電子機器を活用してより低廉な費用で不動産共同事業が活用され、健全に発展していく方策を検討すべきである。具体的には、まず、どのような電子機器の活用形態が、現行制度の「書面を交付して説明」(法第24条第1項)、「書面に記名捺印」(法第24条第2項)に該当するのかについて、他法令との整合性を図りつつ明確にすべきである。その上で、必要があれば、パブリックコメント手続の活用等により事業者・国民の多様な意見を反映・考慮しつつ、制度改正を検討すべきである。

ウ 不動産情報の開示
 我が国では、不動産を購入しようとする者等が周辺の実買価格情報を入手する方法は極めて限定されており、こうした情報の不足、偏在が円滑な不動産取引や合理的な地価の形成を妨げているおそれがあるとともに、海外から我が国の不動産市場が不透明であると指摘される一因となっている。したがって、実買価格情報を収集し、売手・買手のどちらにも偏らない中立的な形で、取引の関係者からの要請に応じて提供できるような仕組みを検討する必要がある。
 具体的には、不動産流通機構が運営しているコンピュータ・システム・ネットワークであるレインズ(Real Estate Information Network System)情報の質及び内容の拡充並びに成約情報等市況情報の提供促進も含めた活用方策につき、検討がなされるべきである。
 また、国土利用計画法の届出に基づき各都道府県において収集される土地取引情報(ただし、現状では、基本的に大規模な土地取引に係るものに限られている)及び徴税事務の一環として税務部局において収集される土地取引情報についても、何らかの形で公開・活用されることが考えられる。しかしながら、これらについては個人のプライバシー保護、国家公務員法及び地方公務員法上の守秘義務の問題につき、また後者については情報の目的外利用の是非や国税職員の加重された守秘義務との関係等につき、慎重かつ十分な検討がなされる必要がある。
 次に、成約賃料情報についても、均衡のとれた公正な賃料水準の実現や不動産への投資環境の整備の観点から、提供していく方向を目指すべきであるが、一方で継続中の契約に影響を及ぼすおそれがある等の事情を考慮して、当面、守秘が十分に担保される形で不動産鑑定分野等で積極的に活用できる仕組みを検討すべきである。

(2)中古住宅ストックの活用

ア 中古住宅市場の整備
 今後予想される我が国の人口の減少、環境意識の高まりと資源の有効活用の要請等を考えると、良質な住宅ストックの形成とその有効活用とが重要である。良質な住宅ストックについては、徐々にではあるがそうした蓄積が図られているところであり、また、昨年6月、住宅の品質確保の促進等に関する法律が制定されて新築住宅については性能表示制度が導入されることにより、その形成・蓄積が更に図られるものと期待される。しかし、良質な中古住宅ストックの有効活用の前提となる中古住宅市場については、@性能・履歴などの情報の未整備、画一的な経過年数主義による価格査定、A物件情報の未整備等の問題があり、十分に市場として機能しているとは認められない。このため、中古住宅市場を整備・活性する観点から、中古住宅の性能評価及び履歴情報を活用するシステムの整備等中古住宅の適切な価格査定実現のための条件整備、物件情報を的確に入手できるシステムの整備を図る必要があると考える。特に、中古住宅の適切な評価については、中古住宅市場の活性化のみならず、前章でも取り上げた不動産の証券化の推進にも大きく貢献するものと期待される。
 こうした状況を踏まえ、建設省は、本年、「住宅ストック形成・有効活用システム」につき提案募集を行い、各界から30余の提案がなされ、優秀提案を選定したとのことである。中古住宅市場の活性化は、官民の協力の基になされるべきことは言うまでもなく、こうした取り組みは評価されると考える。
 今後、提案されたシステムの広報を行い、広くその普及に努めるとともに、官が一方的に民間を指導するのではなく、民間が自らイニシアチブを取ってこうしたシステム整備事業を積極的に展開できる環境整備を行うべきである。そのためこうした提案を基に、@中古住宅の性能評価の方法及び性能表示の項目・方法、A保存すべき情報(新築時の工事情報と住宅性能、維持管理及びリフォーム実施の履歴等)の項目と保存・管理の方法、B住宅履歴・性能に基づく価格の査定方法、C瑕疵担保責任に対する保証の方法、D消費者への性能、履歴等の情報の開示の方法と項目につき、環境整備のための具体的な方策を検討すべきである。

イ 中古マンション等のストック管理のルール
 今後、社会全体として中古住宅ストックを有効活用する際に、主として共同住宅の管理の適正化を図ることが従前以上に求められる。現在、マンションの管理は各々のマンションの所有者全員で構成される区分所有者の団体(いわゆる「管理組合」)により処理されているが、@管理組合の管理の内容(積立金なども含む。)が十分に居住者に説明され、その納得の下で管理運営がなされているか、Aその管理内容が、転売時に買受人に十分に説明されているか、B同じく転売時に、管理の履歴が買受人に十分に説明されているか、また、その内容が価格に反映されているかといった問題がある。
 管理内容の適正化の問題については、@マンションの老朽・劣化に対応するための長期修繕計画、A地震・火災などによる損傷・滅失に対応するための保険等危機管理・復旧の問題、B長期修繕計画後建物の寿命を迎えるまでの間の延命措置(建物の部分建て替えなど)につき、適切な計画が管理組合により策定されることが望ましい。政府は、こうした計画の策定を促進するため、例えば修繕マニュアルの作成、計画策定時の考慮事項の例示、事例集の作成等環境整備に努めるべきである。第150回国会で成立したマンションの管理の適正化の推進に関する法律では、国土交通大臣は、マンションの管理適正化に関する指針を定め、これを公表する(第3条)こととされており、この指針を活用することも考えられる。
 また、個々の中古マンションなどのストック管理のルール及び実際の内容・履歴が組合内部(区分所有者間)においてより分かりやすい形で開示するとともに、取引時に買受人に明らかになるようなシステムを構築するべきである。
 いずれにせよ、中古住宅市場が適切に機能しない場合には、区分所有者及び管理組合にはストック維持・管理にコストをかけるインセンティブが働きにくい。したがって、この意味からも上記アで指摘した中古住宅市場の整備が要請される。

ウ マンション建替えの円滑化
 マンションの建替えについては、建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」という。)第62条により、「老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」に、集会において、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議をすることができることとされている。
 しかし、この制度については実際に運用する場合に以下のような問題があると指摘されているところである。

  1. 建替えの要件となる「建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要する」(第62条第1項)との具体的内容、算定方法、判定基準などが不明確であり、また実際の算定実務により額に幅が出ることから争いになりやすい。
  2. 建替え決議において、「費用の概算額」、「費用の分担」、「再建建物の区分所有権の帰属」に係る事項を定めることとされているが(第62条第2項)、その範囲、内容等について、どのような精度が求められるか基準が不明確である。
  3. 建替えは、旧「建物の敷地に新たに主たる使用目的を同一とする建物を建築する」(第62条第1項)ものでなければならない。
  4. 建替え決議後、建替えを行う主体に法人格を付与する仕組みがなく、安定的に建替えを行うことができない。
     また、区分所有法の問題でないが、
  5. 建替え事業を安定的に行うためには、担保権の一時抹消、再設定などを円滑に行う必要があり、市街地再開発事業における権利変換のように担保権がつけ変わるような仕組みが考えられないか
  6. 建替え事業を代行する者が安定的に建替えを行う手法の確立が必要ではないか
 との指摘もなされているところである。
 さらに、建替え対象となるマンションが建設された当時とは、居住者も、周辺の状況も、社会の状況も異なる状況で、同一敷地に、ほぼ同一使用目的でほぼ同一規模の建替えを、ほぼ、同一の区分所有者によってなすということを想定している現行の区分所有法の建替えルールのみで、今後の我が国の全ての円滑なマンション建替えに対応できるのかとの基本的な問題も存在する。
 こうした問題点を含め、現行の区分所有法の問題点を整理し、必要があれば運用の改善等を図るとともに、必要に応じて住宅政策の見地からも、マンションの建替えが円滑に実行できるための方策について検討すべきである。

(3)中山間地域の計画的な保全

ア 都市計画制度改正の円滑な施行
 第147回国会において都市計画法が改正され、準都市計画区域制度が創設された。これにより、市町村は、都市計画区域外の区域で相当数の住居その他の建築物の建築又はその敷地の造成が現に行われ又は行われると見込まれる一定の区域で、当該区域の自然的及び社会的条件並びに農業振興地域の整備に関する法律等の他法令による土地利用規制の状況を勘案して、そのまま土地利用を整序することなく放置すれば将来における都市としての整備、開発及び保全に支障が生じるおそれがあると認められる区域を準都市計画区域として指定することができることとされた。
 準都市計画区域については、都市計画に用途地域、特定用途制限地域等用途制限や景観の維持に係る地域地区を定めることができることとされ、準都市計画区域内の建築行為については、建築基準法のいわゆる集団規定が適用されるとともに、建築確認の対象とされる。また、区域内の一定規模以上の開発行為についても、都道府県知事の許可対象とされる。
 中山間地の計画的な保全を図る観点から、農業的土地利用から都市的土地利用への土地利用転換が見込まれる区域については、上記制度の活用が図られるべきである。とりわけ、こうした土地利用転換が見込まれる区域で、従前、農業的土地利用に関する規制が課せられている場合には、こうした規制の解除等と十分な連携を図りつつ、制度の活用が図られるべきである。
 この法改正は、公布後1年以内に施行される予定であるが、地方公共団体が制度を十分に使いこなせるよう、可能な限り早期に、運用に当たっての技術的助言を作成し、改正法の円滑な施行を図るべきである。

イ 農地所有の規模要件の弾力化
 中山間地における土地利用の混乱を防ぎ、その荒廃や産業廃棄物処理場等の無秩序な立地を防止するためには、一方で、上記アのような建築行為、開発行為の整序化が必要であるが、他方で、当該地域の土地利用(多くの場合に農林業用)を計画的に保全することも重要である。こうした観点から、後継者不足に悩む中山間地では、リタイアしたサラリーマンや農業に興味のある都市住民を農業の担い手として積極的に受け入れることが求められると考えられる。
 農地法は、農地の所有権等を移転する場合には、農業委員会(一定の場合には都道府県知事)の許可を受けなければならないこととしているが、その際、農地の権利を取得する者の世帯の農地面積の合計が、原則として北海道では2ha、その他の都府県では50a(都道府県知事が別の定めを定めることもできる。)以上であることが必要とされる。第150回国会で農地法が改正され、従来の制度で、都道府県知事が下限面積について独自の面積を定める際、農林水産大臣の承認が必要としていた制度が廃止され、上記の独自の面積を定める際の基準が省令で定められることとされた。この法改正は、公布後6月以内に施行される予定であるが、その円滑な施行を図るとともに、省令で定める運用の基準についても、より、地域の担い手の実態に応じた弾力的な運用が可能となるよう措置すべきである。

ウ 中山間地域等直接支払制度
 上記イのとおり、中山間地域の土地利用の混乱を防ぎ、中山間地域の荒廃や産業廃棄物処理場等の無秩序な立地を防止するために、当該地域の土地利用(多くの場合に農業系の土地利用)を計画的に保全することも有効であるとの観点から、当委員会は、今年度から実施される中山間地域等直接支払制度に注目している。制度の的確で効果的な運用を担保する観点から、中山間地域等直接支払制度について、その実施状況、効果について必要な検証を行い、公表すべきである。また、その検証に基づき、中山間地域農業をめぐる諸情勢の変化、農用地の維持・管理の状況等を踏まえ、必要に応じて制度の見直しを行うべきである。

(4)公共事業におけるパブリック・インボルブメントの活用、環境アセスメントの充実

ア パブリック・インボルブメントの活用
 当委員会が第1次見解以来指摘してきた、都心部の土地の有効利用、郊外部の土地の計画的な開発・保全、あるいは今年指摘する中山間地の保全の前提となるのは、必要な場所に、必要な公共施設等が、迅速に整備されることである。そうした施設整備の際に、現在の国民の価値観の高度化・多様化、地域によっては、あるいは施設によっては一定程度の整備が既になされているとの状況、更に国民の間で専門家あるいは行政といったその分野の玄人への信頼が揺らいでいる状況を考え合わせると、事業の必要性・正当性について住民、利用者等の関係者に対して十分な説明を行い、意思決定の透明性とアカウンタビリティを高めるとともに、住民、利用者等の関係者の意向・反応を事業に係る意思決定過程に反映するといった「合意形成の過程における関係者の満足度の向上」が従前以上に求められると考える。
 こうした要請に応える方法の一つとして、事業の計画策定のできるだけ早期の段階から、パブリック・インボルブメントを導入し、情報公開を行い、住民、利用者等の関係者からの意見・提案を案作成過程に反映するよう努めることが考えられる。こうした観点からは、@東京都と建設省が現在事業凍結中の東京外かく環状道路の練馬〜世田谷区間において、地下構造を基本とし、計画づくりの初期の段階から住民や利用者等の意向を計画づくりに十分反映させる手法を採用したことや、A横浜市において恩田元石川線(仮称)の都市計画の案作成の段階から「住民参加の道路づくり」の試みを行ったこと、B多摩川において平成9年の河川法改正により河川整備計画の策定に地域住民等の意見を反映させる手続きが導入されたことに伴い、住民の意見を計画原案に反映させるために、市民団体と共同で運営する流域懇談会で議論を行っていることが、今後の公共事業の進め方の一つの形を示唆していると考えられる。
 もとより、公共事業の計画から実施までの事業の流れは個々の事業種別ごとに異なり、また、同種の事業であっても、その具体的内容、場所等によりパブリック・インボルブメントの要請の度合いあるいはその進め方も異なると考えられる。国の各公共事業部局は、従前における取組も踏まえ、それぞれの事業の計画策定手続におけるパブリック・インボルブメントの在り方を検討し、直轄事業について早急にモデル的に導入を進めるべきである。その際、パブリック・インボルブメントと計画の決定手続や環境アセスメントとの関係を整理し、不必要な手続や調査の重複等といった無駄が起こらないように配慮することが必要である。また、こうした検討やモデル事業の状況を踏まえ、一定の成案を得た段階で、その検討成果を地方公共団体に提示し、あるいは、取組事例を取りまとめ・発表する等、地方公共団体におけるパブリック・インボルブメントの導入を支援すべきである。
 さらに、パブリック・インボルブメントは計画案作成の段階の制度であることから既に計画が決定された事業はその直接の対象とはならないが、そうした場合にも決定された計画に必要以上に拘泥することなく、計画決定後の状況の変化を踏まえ住民、利用者等の関係者の意向等に柔軟かつ適切に対応することが求められると考える。

イ 環境アセスメントの充実
 環境影響評価法は平成9年6月に公布され、同年12月及び10年6月に一部が施行された。この結果、平成10年6月からは手続の一部(方法書手続)が実施可能とされていたが、昨年6月に環境影響評価法が全面施行された。当委員会は、このアセスメントの全面施行の状況を注視してきたが、現時点では全面施行後に環境影響評価法に基づくアセスメントに着手し、事業の実施に至った事例が未だ無く、現行制度について意見を述べる状況にない。環境アセスメント制度の円滑かつ実効ある活用を期待する。

(5)都心部等の都市内の土地の有効利用促進方策(※)

ア 都市計画法改正の円滑な施行
 第147回国会において、都市計画法が改正され、都市計画制度全般について抜本的な制度改正が図られた。これにより、@商業地域内であって適正な配置及び規模の公共施設を備えた土地の区域において、土地の高度利用を図るため、未利用となっている建築物の容積の活用を可能とする制度の創設、A用途地域内であればどこでも地区計画を定めることができるよう、地区計画を定めることができる土地の区域に関する要件を再整理、B道路、河川等の都市施設について当該施設を整備する立体的な範囲等を都市計画に定め得ることとするとともに、立体的な範囲を定めた場合における建築行為の許可基準の特例の新設、C都道府県又は市町村は、都市計画を決定しようとするときは、決定理由を記載した書面を添えて、当該都市計画の案を公衆の縦覧に供するとともに、都市計画の決定手続について、条例で必要な規定を定め得ることとすること、D市町村は、地区計画策定手続を定める条例において、住民等から地区計画の案となるべき事項等を申し出る方法を定め得ることとすること、の措置が講じられた。
 この法改正は、公布後1年以内に施行される予定であるが、地方公共団体が制度を十分に使いこなせるよう、可能な限り早期に、運用に当たっての技術的助言を作成し、改正法の円滑な施行を図るべきである。

(6)都市郊外部における計画的な土地利用転換・保全(※)

ア 都市計画法改正の円滑な施行
 都市計画区域、市街化区域及び市街化調整区域の線引き、開発許可については、第147回国会において都市計画法が改正され、必要な制度改正が図られた。これにより、@開発許可制度について、一定の宅地水準の確保のため、技術基準については法令で定めつつ、地域特性に応じて地方公共団体が条例で基準を強化又は緩和できるようにすること、A市街化調整区域について全国一律の基準により開発を抑制するのではなく、区域内の状況に応じた開発許可基準になるよう、弾力化を図ること、B三大都市圏等の一定の都市計画区域以外について、線引きするか否かを、原則として都道府県が選択できることとすること、その際、線引きしない非線引き都市計画区域のうち用途地域が定められていない土地の区域において、その良好な環境の形成又は保持のため当該地域の特性に応じて合理的な土地利用が行われるよう、特定用途制限地域制度を導入すること、の措置が講じられた。
 この法改正は、公布後1年以内に施行される予定であるが、地方公共団体が制度を十分に使いこなせるよう、可能な限り早期に、運用に当たっての技術的助言を作成し、改正法の円滑な施行を図るべきである。

イ 農振農用地の指定に係る基準
 近年、都市郊外部で大規模商業施設が立地する際等に、土地利用規制上の問題が生じるケースがあり、その際、いわゆる農振農用地区域における農地転用の問題として生じる場合も少なからずある。すなわち、農振農用地区域内の農地及び採草放牧地の転用については、農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならないこととされていることから、その転用に当たっては、農用地区域からの除外が前提となる。
 現行制度では、農振農用地区域内の土地を同区域から除外する場合、当該農地の重要性、周辺農地への影響に加え、転用後の土地利用目的の公益性等をも勘案しつつ判断されているが、昨年7月の農業振興地域の整備に関する法律の一部改正を受けて、従来通達で定められていた農用地区域の基準についても政令等で明確化され、本年3月20日に施行された。その後、農林水産省において、法・政省令の運用の技術的助言及びパンフレット(4月)、質疑応答(4月〜9月:順次)、運用に関する課題事例集(10月:Q&A形式)を公表し、運用の適正を図っているところである。
 今後、制度が適切に運用されることを期待する。

ウ 土地利用に係るマスタープランの拡充
 我が国の国土全体の土地利用については、都市計画法、農業振興地域の整備に関する法律、森林法、自然公園法、自然環境保全法といった個別法による土地利用規制が、それぞれの個別の固有の法目的の実現のためになされている。
 こうしたそれぞれの規制の調整等を図る観点から、マスタープランである国土利用計画法の土地利用基本計画の機能の強化が図られる必要がある。こうした観点から、国土庁においてなされる土地利用に係る個別規制法に基づく諸計画に対する上位計画としての土地利用基本計画が果たすべき機能についての検証及び充実・強化すべき方策の検討を、当委員会は注視してきた。
 現在までの議論を踏まえて、@現行の都道府県が策定する土地利用基本計画の内容の詳細化の必要性、A計画の策定手続の在り方と策定支援方策、B国土利用計画と全国総合開発計画、各圏域のブロック計画との関係の整理の必要性について、今後の制度の改正も含めて、更に検討を進めるべきである。
 また、都市計画のマスタープランについては、第147回国会において都市計画法が改正され、市街化区域及び市街化調整区域の「整備、開発又は保全の方針」を拡充し、線引きと独立した都市計画のマスタープランとしてすべての都市計画区域で策定することとされた。この法改正は、公布後1年以内に施行される予定であるが、地方公共団体が制度を十分に使いこなせるよう、可能な限り早期に、運用に当たっての技術的助言を作成し、改正法の円滑な施行を図るべきである。

(7)建築基準法改正(性能規定化)の実施状況(※)

 従前、建築基準法においては、建築物の工法・構造につき、素材・仕様等を詳細に指定していたが、平成10年6月の建築基準法の一部改正により、基準の性能規定化が図られ、本年6月に施行された。当委員会は、この円滑な施行のために注視をしてきたが、同制度はパブリックコメントなど必要な手続きを経て、円滑に施行され、現在、この新たな制度に基づき性能検証を受けた建築物が建築されつつある。当委員会は、これを評価する。
 今後、制度が適切に運用されることを期待する。

(8)PFIの具体化(※)

 公共施設等の整備等に関しては、国及び地方公共団体と民間事業者との適切な役割分担並びに財政資金の効率的使用の観点を踏まえつつ、当該事業により生じる収益等をもってこれに要する費用を支弁することが可能である等の理由により民間事業者に行わせることが適切なものについては、できる限りその実施を民間事業者にゆだねるとの基本理念の下、そのための条件整備を図ることが必要である。
 こうした考え方を踏まえ、昨年7月、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」が成立し、9月に施行された。同法に基づき、本年3月には、総理府に設置された民間資金等活用事業推進委員会の議を経て、内閣総理大臣が「民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針」を定めた。これに基づき、現在までに全国で十数件の事業について、実施方針が定められるなど所要の手続が進みつつあるところである。
 当委員会は、各事業ごとに、民間事業者の参加意向、制度内容も異なることから、民間事業者の意向も踏まえ、各々の事業に適した官民の役割分担・責任分担の在り方、公共施設等の設置・管理に関する法律その他関係法について、当該法令を所管する官庁等が個別具体的に検討することが必要であるとの基本的な考え方の下、基本方針に基づき各個別の事業の具体化に向けた検討状況を注視してきた。現在、PFIは順調に活用され始めているが、今後、PFIが更に円滑に活用され、公共施設等について一定の支払いに対し最も価値の高いサービスを提供するという形(Value for Money)で、国民に対して低廉かつ良好なサービスが提供されることを期待する。