(2)規制改革委員会の活動
規制緩和委員会は、平成11年4月6日、行政改革推進本部長(内閣総理大臣)決定により規制改革委員会(以下「当委員会」という。)と改称された。これに伴い、当委員会は、狭義の規制緩和・撤廃のみならず事前規制型行政から事後チェック型行政に転換していくことに伴う新たなルールの創設、規制緩和の推進に併せた競争政策の積極的展開等につき調査審議することとされた。また、当委員会における審議の結果、一般に規制と観念されないものであっても、規制改革の推進に密接に関連するものとして検討が必要と判断される事項(例えば補助金、税等に係るもの)がある場合には、関係機関に対し、所要の問題提起等を行っていくものとされた。こうした組織改変が、上記(1)で述べたように、委員会の検討対象が従来型の規制緩和から更に踏み込んだものへと質的な拡充を遂げつつあったことを反映したものであることは言うまでもない。また、平成11年6月には、審議の一層の充実を図るため、委員・参与の追加を行った。
規制改革委員会としての初年度に当たる昨年度の「規制改革についての第2次見解」(平成11年12月14日)(以下「第2次見解」という。)においては、当委員会は、規制改革とは、「現在我が国が直面する構造的な環境変化を的確に把握し、又は先取りし、適切な処方箋に基づき規制の全体を再構築していく作業」と位置づけ、「多くの場合それはまず既存の規制の緩和・撤廃を求める作業であるが、見直しの結果必要な場合には、例えば競争政策や消費者政策の観点等から新たなルールを確立し、新たな責任を求める作業ともなる。」と、その内容を明らかにした。そして、「こうした作業により経済社会を活性化し、そこから生じる富を福祉、環境対策、教育等必要な分野に投資することにより、豊かな国民生活を実現することが、規制改革の究極の目的」と、その目的を明らかにした。
(3)今年度の取組と視点
今年度、当委員会は、以下のような新たな取組に着手した。
第1に、当委員会は、従来、各種要望を基にその年の検討テーマを選定してきたが、今年度は、社会・経済の変革に戦略的に取り組むとの観点から、委員会内部にIT、環境の2つのタスクフォースを設置し、必要な問題点のリストアップを行った。これは、この2つのテーマが「現在我が国が直面する構造的な環境変化」のうち、特に緊急性を有する大きな問題であることともに、今後の規制改革を進める上での、典型的な2つのパターンであると考えたことによる。
すなわち、情報機器やインターネットの普及等のIT化の進展は、そうした情報機器の存在あるいは情報産業の巨大化を予定していない既存の規制制度の大幅な変更を要請する。この分野の規制改革は、既存規制のIT化に対応した緩和・撤廃あるいは競争促進的な市場構築を求める。「書面主義の見直し」や「NTTの在り方」の問題はこの例に当たる。
また、環境問題の深刻化は、有限な資源の下で、地球全体の環境保全を図りながら、持続可能な発展を実現する新たな社会・経済システムの構築を要請しているが、我が国の環境関係の規制は未整備あるいは不十分な点も多い。したがって、この分野の規制改革は、ルールづくりといった側面が強くなる。本年度、当委員会が取り上げた「市街地の土壌汚染の処理に関する法制化の検討」の問題はこの例に当たる。
第2に、本年7月に発足したIT戦略会議において、「電子商取引の促進のための規制改革等諸制度の総点検」を行うこととされ、内閣官房を中心として、規制改革委員会と連携し、関係省庁による総点検作業が行われた。
こうした流れを踏まえ、この総点検を整理するとともに、当委員会としてITをめぐる課題に取り組む基本的な考え方を中間的に取りまとめた「ITに関する規制改革について〜『電子商取引の促進のための規制改革等諸制度の総点検』を中心として〜」を9月20日に公表した。政府はこの総点検を基に「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律案」を第150回国会に提出し、11月17日、同法律は成立したところである。
第3に、本年度、規制改革をより国民に開かれた形で議論するとの趣旨で、公開討論を拡充した。当委員会は、これまでも、枢要なテーマについて国民に論点を明らかにするとの趣旨で公開討論を実施してきたが、主として会場のスペースの制約で、マスコミ以外については公開討論の傍聴は制限されていた。当委員会は、昨年度、実験的に一般傍聴を可能とする公開討論を開催したが、その経験を踏まえ、今年度は基本的に全ての公開討論で一般傍聴を受け入れた。また、情報通信をテーマにした公開討論については、当日、会場に来られない人のために、インターネットによるライブ中継を実験的に行った。
さらに、今年度は、初めての試みとして、「規制改革の在り方や進め方」を巡る、総論部分の公開討論を開催した。従来、公開討論は、その年の個別のテーマ・各論について行われてきたが、昨今、市場競争の促進が不平等な社会を作るのではないか等の懸念から「規制改革」の在り方あるいは進め方について各方面で多様な議論がなされている。そこで本年度は、「規制改革」の是非も含めたテーマを正面から取り上げ、公開討論を行った。この公開討論では、市場原理、グローバルスタンダード、セーフティネット、公(パブリック)の概念等について規制改革に賛成、反対それぞれの立場の出席者により、激しい討論がなされた。その内容については、既に公表済みであるので改めて触れないが、当委員会は、規制改革という我が国の社会や経済、個人の生活や企業の活動に大きな変化を求めるテーマについて、国民の間に多様な意見が存在すること、そうした多様な意見が公開の場で議論されることは極めて重要なことであると考えている。当委員会は政府の政策決定手続の重要なプロセスを担っており、これまでも広く国民の多様な意見を受け付け、それを基に真摯に検討を行うこと、意思決定手続の透明化とアカウンタビリティを確保することに努めてきたが、今年は特にこの点に十分な配意をし、多様な意見を広く取り入れた。
イ パブリック・コメント手続
「規制緩和についての第1次見解」(平成10年12月15日)(以下「第1次見解」という。)を受けて、政府は平成11年3月、「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続(いわゆるパブリック・コメント手続)」を閣議決定した。これは、規制の設定又は改廃に伴い政令、省令等を策定する過程において、国の行政機関等が政令、省令等の案を公表し、この案に対して国民、事業者等から提出された意見・情報を考慮して、意思決定をする手続である。
これにより、規制の設定又は改廃に関し、@行政の意思決定過程の公正が確保され、透明性の向上が図られる、A国民、事業者等の多様な意見・情報を考慮して、行政機関の意思決定がなされることとなる。
規制改革に国民の声を反映させる手続として、各行政機関はその積極的な活用に努めるべきである。
ウ 情報公開法
平成11年5月、情報公開法が成立し、平成13年4月から全面施行される予定である。当委員会は、第2次見解において、「可能な限り市場原理を活用し行政の関与を必要最小限にとどめるとの観点から、規制制度の見直しを推進するとともに、情報公開を推進し規制の効果と負担について国民への説明責任を果たすなどの行政責任の遂行と透明性の確保が重要」との考え方を明らかにした。
こうした観点から、情報公開法の円滑な施行が求められる。
エ 個別の規制改革(緩和)措置
これまでの主な個別分野の規制改革(緩和)について振り返ってみると、@情報通信分野では、携帯・自動車電話端末の売切り制導入、移動通信料金の事前届出制への移行等により、料金の低廉化が進むとともに、携帯・自動車電話の普及率が爆発的に高まるなど規制緩和の効果は国民の生活に深く浸透してきている、A運輸分野では、需給調整規制の段階的廃止等により、新規参入が促進されるとともに、運賃設定の多様化が進み、利用者の選択の幅が広がってきている、Bエネルギー分野では、戦後電力・ガス会社の地域独占であったこの分野に「小売の自由化」を取り入れ、本格競争の活性化を目指している、C金融分野では、日本版ビッグバンを目指したいわゆる金融システム改革法等により、資産運用手段の多様化、資産流動化の促進、株式売買委託手数料の自由化等が進み、金融機関が魅力あるサービスを提供できるとともに、利用者も資金の調達・運用における選択の多様化が図られてきている、D住宅・土地、公共工事分野では、土地利用規制の合理化が図られ、土地の有効利用が促進するとともに、住宅の品質確保の促進等に関する法律の制定による住宅性能表示制度の導入、建築基準法の性能規定化、いわゆるPFI法の制定による公共施設等の整備等への民間の資金・ノウハウの活用等が図られている、E福祉分野では、介護保険制度の導入により、在宅や通所サービスへの民間参入が促進され、民間活力の活用が図られている、F労働分野では、有料職業紹介事業、労働者派遣事業の対象業務のネガティブリスト化等を通じて、経済社会情勢の変化に対応した効果的な労働力需給調整機能が強化されてきている等、規制改革(緩和)は、累次の閣議決定等に沿って、着実に推進されている。また、生産性の向上、価格低下、多様で豊かな国民生活の実現、経済の活性化、各国との相互の整合性の実現、国民負担の軽減等、規制改革(緩和)の効果が国民に広く認識され、その重要性はますます高まっている。
(2)規制改革(緩和)の効果
規制改革(緩和)に伴う需要拡大効果、生産性向上効果、物価引き下げ効果等の経済効果について、経済企画庁が、昨年3月に「近年の規制緩和による経済効果の改訂試算」を、本年1月に「近年の規制改革の経済効果―利用者メリットの分析」を、5月に「90年代の雇用政策が失業率に与えた影響について」、9月には「規制改革分野における雇用再配置の動向」を取りまとめ、公表した。
また、総務庁も、本年度委託調査で、規制改革の効果分析を行っているところである。
「近年の規制緩和による経済効果の改訂試算(平成11年3月)」によれば、情報通信、大規模小売店舗法、定期借地権付住宅、車検等の分野について規制緩和により消費や投資が拡大した効果(需要効果)が平成2年度から平成9年度の年平均で8.2兆円、価格低下で利用者が支出を節約できた効果(利用者メリット効果)は同期間で6.6兆円と試算された。
「近年の規制改革の経済効果―利用者メリットの分析(平成12年1月)」では、国内電気通信、国際電気通信、国内航空、電力等8分野について規制改革による料金・価格の低下による利用者のメリット(消費者余剰)の増加が平成10年までの累計で8.6兆円程度と試算された。
「90年代の雇用政策が失業率に与えた効果について(平成12年5月)」では、
90年代に行われた@雇用調整助成金など短期・一時的な雇用維持政策、A労働者派遣事業や有料職業紹介事業の規制緩和等労働市場のマッチング機能強化策の効果を分析し、前者は90年代半ばに平均0.2ポイント程度の失業率押し下げ、後者については90年代を通じて0.2ポイント程度の押し下げ効果があり、平成10年度には規制改革の進展などにより0.3ポイント程度と効果を強めたと試算された。
「規制改革分野における雇用再配置の動向(平成12年9月)」では、運輸・通信業、卸売・小売業、飲食店等の分野について平成4〜6年、平成10〜11年の期間合計で、110万人程度の入職者の押し上げ、140万人程度の離職者の押し上げ効果があったと試算された。ただし、離職者については、その試算の前提となる廃業率が景気循環に左右される程度が強いため、景気循環の影響を除いて試算すると、合計で90万人程度となる。
今年度、総務庁で行われている「規制改革の経済効果分析」は、効果分析の対象を従来の調査より広く取って、その効果を定量的に試算できるものは試算し、データの制約等で定量的分析が困難な場合には定性的な分析を試みたものである。したがって、効果を総額で表す性格のものではないが、@定量的に把握できるものについては、成長分野である電気通信分野、大規模店舗立地や電力、石油といった市場規模の大きな分野を中心に既に大きな効果が試算された。また、A規制改革(緩和)が90年代半ば以降進展したため、現時点では未だその恩恵を受ける実例が乏しく、数字としては大きな効果とならないものの、今後、次第にその効果が増大していくことが確実なものが多いこと、B資料の制約などから数字では計算できないが、消費者の選択肢の拡大等の利便性やコスト削減に確実に効果を挙げているものも多いこと等が明らかにされた。(その概要については、巻末「参考」参照。)
このように、規制改革の取組の効果は、着実に結実しつつあり、既に大きな成果を収めているものも多く、今後更に累積的に効果が増大することが期待される。また、規制改革の効果は、景気停滞期より、景気回復期に力強く現れることは米国経済の例を見るまでもなく明らかである。したがって今後我が国経済が自律的な回復基調となったとき、すなわち消費や投資が拡大する局面で、規制改革によって、より幅広い機会や自由が保証されていることの効果が、更に大きく現れるものと考えられる。
(2)規制改革に当たり重視する視点
規制緩和推進3か年計画(再改定)(平成12年3月31日閣議決定)(以下「規制緩和推進3か年計画(再改定)」という。)では、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくこと及び行政の在り方についていわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本とするとともに、@経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限との原則の下、規制の撤廃又はより緩やかな規制への移行、A検査の民間移行等規制方法の合理化、B規制内容の明確化、簡素化、C規制の国際的整合化、D規制関連手続の迅速化、E規制制定手続の透明化の6項目を重視すべき視点としている。また、当委員会は第1次見解において、@国際性の視点、A効率的な規制緩和の視点、B「規制改革」という視点、C国民の理解と協力を得る視点を重視することを明らかにした。さらに、昨年の第2次見解では、@選択の自由と多様性の確保、A新しいサービス・商品と技術開発の環境整備、Bコストの認識、C行政関与の在り方、D国民、企業等の担う役割を重視することを明らかにした。
規制改革を進める際に重視すべき視点は、ほぼこれで網羅されていると考えるが、以下にはこれを補足する形で当委員会の考えを述べる。
イ 社会的安定機能(セーフティネット)の確保
先に述べた我々の目指す活力ある競争社会の構築は、従来の過度の平等主義からの決別を意味するとともに、一方で適切な競争の前提条件の整備を要求する。すなわち、失敗も含む競争の結果を個人の自己責任に求めるためには、少なくとも、教育、雇用、起業等の機会が可能な限り平等に与えられる必要がある。例えば、住所、親の職業や経済力、性別、年齢等本人の責に帰すことが適当でない事柄によって、享受できる教育の内容を含めた機会に差が生じたり、就職の機会に差が生じたりすることは、社会正義に反するのみならず、人的資源の有効活用という意味で社会的な損失でもある。本年7月に採択されたIT沖縄憲章においても取り上げられているデジタルディバイドの問題もこのような事態の発生を阻止するためのものである。
また、医療・福祉、雇用等については、ナショナルミニマムを明らかにし、政府が一定の健康で文化的な生活のレベルを確実に保障するとともに、それ以上の水準に関しては消費者の選択肢を確保するとの観点も重要である。
さらに、競争原理が機能する前提として、倒産や失業した人に対して、相応のセーフティネットが保障され、セカンドチャンスが与えられることが必要である。特に、今後、経済構造改革の進展に伴い、短期的に職を失う人が増加することが予想され、こうした人達を支援し、その新しいチャレンジを側面から援助するセーフティネットを早急に整備する必要がある。社会システムとして、競争に一旦は失敗した人達あるいは子育て、親の介護等何らかの理由で一旦は職場から離れた人たちが、いつでも、何度でも新しい分野に再挑戦できる、あるいは容易に適正な条件で職場に復帰できるような開かれた複数のルートを整備する必要がある。
当委員会は、活力ある競争社会の前提条件として、上記の全てを含む概念としての、広義のセーフティネット構築の必要性を指摘したい。従来から規制改革を論じる際にセーフティネットの必要性については指摘されてきたところであり、当委員会も、第2次見解においてセーフティネットの必要性に言及するとともに、個々の分野では一定の検討を行った。
政府は、早急に、日本の現状に適合したセーフティネットの内容について国民的な検討を行い、所要の措置を講じるべきである。特に、少子高齢化が急速に進む中で、国民の将来生活に対する不安感を取り除くことが重要であり、ナショナルミニマム達成のため国民全体が負担しなければならない費用と将来受け取ることのできる給付の水準を明らかにし、我が国の福祉のグランドデザインを提示して国民の判断を仰ぐことが重要である。また、セーフティネットについては、手厚過ぎれば、上記アの倫理観の歪みを引き起し、逆に薄過ぎれば、健康やその他不可抗力により不幸にして失敗した者等に対しての保障が十分でないとともに、競争社会の不確実性が強調される結果、人々の挑戦心を減退させる可能性があるという点に、十分に留意すべきである。
ウ 規制の実効性の確保
本年、いくつかの企業の不祥事がマスコミを賑わせた。もちろん、大多数の企業はこうした不祥事とは無縁に真摯な活動をしていると信じるが、全体から見て少数でも、こうした事件が連続すると、「こうした企業の不祥事があるのに、企業活動をより自由にする規制改革をこれ以上進めて良いのか」という疑問が国民の側に浮かんで来かねない。本来、企業の社会的責任は市場経済の前提であり、それを守らない企業は市場から淘汰されなければならない。今回不祥事が隠されず公になり、当該企業が社会的な制裁を受けたのは市場経済がある程度まで有効に機能している証左である。規制改革はこうした市場経済の働きを更に強め、そうした不祥事の未然な防止に貢献するものである。企業にはこうした市場経済の基本を自覚し適正な企業活動の展開を期待したい。
また、今回の一連の不祥事は、そもそも規制が全く守られず、違法状態が生じていたという点で、日本の規制制度に規制の実効性の確保に関する重大な問題があったことを示している。我が国の規制制度については、その内容は詳細であるが、その実効性については、主として行政職員の人的制約等により、著しくルーズなことがよく指摘される。しかし、規制は、一片の条文として存在することに意味があるのではなく、社会に規範として適用され、遵守されることにより、初めて意味を持つ。たまたま発覚した者のみが、実質的な意味で規制の対象となるというのでは、法の要請する平等原則に反するだけでなく、そもそもの規制目的を達成することも困難である。
規制の実効性の確保には、人的及び予算上の措置が不可欠な場合が多く、困難を伴うが、そうした制約条件の下で、必要な体制を確保するよう努めるべきである。また、抜き打ち検査等も積極的に活用するとともに、ルール違反に対する厳正な処罰が必要である。さらに、規制改革の観点からは、昨年、建築基準法の建築計画の確認・検査等について、独立・中立的な民間機関が確認、検査等を行うことを認める制度を導入し、これにより建築確認・検査の実効を挙げようとの取組がなされたことも参考になる。民の側の検査やモニター制度に対するイニシアチブを積極的に取り入れ、官の側の不足を補い、相まって必要な規制の実効性を高めるべきである。
(2)残された課題
これまで述べたように、当委員会は、精力的に活動してきたが、諸々の要因により、十分な取組ができない、あるいは十分な成果を挙げ得なかった部分も存在する。
イ 規制改革以外の分野との連携
当委員会は規制改革に関係する部分について検討を行ってきたが、行政組織、予算、税制、補助金、特殊法人、地方行政等の規制改革関係以外の部分の改革については、それぞれ別の組織で検討が進められてきた。
しかし、今後上記アに記したような社会・経済の構造改革の観点からの戦略的な規制改革の推進を図るためには、他の分野の改革の議論と連携を取りつつ、整合性のある形で議論を進めていく必要がある。
また、こうした制度全体のドラスティックな見直しを行うには、政治のリーダーシップが不可欠である点を指摘しておきたい。
ウ 消費者・生活者参加の仕組み作り
規制改革を進める際に、国民が消費者・生活者として主体性をもって参加する社会的システムの確立が不可欠である。
この点について、当委員会は第2次見解において、「企業等や国民の選択の自由の裏付けとなる自己責任原則の確立に資する情報公開の徹底、消費者と企業等の間及びそれらと政府の間の適切な関係を規律する必要なシステムづくりとその適切な運用(これには、競争政策や行政手続法、製造物責任法(PL法)など様々なものが含まれる。)も、言うまでもなく規制改革の射程に含まれる。規制改革後の社会では、国民も企業等も、自己責任原則の下で、新たなルールに基づき各々の主体が責任を分担することが求められる。」と指摘した。
国民が消費者として必要な情報を分かり易い形で容易に入手できることは、市場が有効に機能するために不可欠な前提である。規制改革のためのインフラとして、こうしたシステムの整備を進める必要がある。
また、国民が生活者として構成している家庭、地域等の共同体、そして近年その活動が注目され、現に自治体等では政策立案に際して様々な分野での活用が始まっているNPO、NGO等の諸団体の規制改革への積極的な参加をどのように得ていくかも、今後の課題である。
エ 今後取り組むべきテーマ
a 地方規制、民民規制
地方公共団体が講じている規制(いわゆる「地方規制」)、民間事業者又は事業者団体による事業活動の規制(いわゆる「民民規制」)の問題は、国民や事業者の自由な活動を制約するという意味では国の規制と何ら変わるところが無く、国が規制を緩和・撤廃しても、その一方で地方規制、民民規制が強化されては、規制改革の実効が上がらない点は、既に行政改革委員会最終意見(平成9年12月)で指摘されているとおりである。
当委員会は、政府の行政改革推進本部の下に設置されているため、地方規制については地方自治の趣旨から個別テーマとして取り上げることはせず、また、民民規制についてもそれが民間の活動の一部ということで、同様に個別テーマとしては取り上げなかった。したがって、これらの問題については、以下に当委員会としての基本的な考え方を示す。
「地方規制」には、@法律の運用の際に地方公共団体が要件を上乗せ等して運用するもの(例えば、都道府県知事の許認可に際し、法律の要件以上の付加的な要件や書類の提出を求める等)、A地方公共団体が条例などに基づき運用しているもの、等がある。このうち、@については、法律や条例の厳格な適用の要請に基づき、そうした上乗せは、あくまで法律・条例等とは無関係な任意の協力を求めるものとしての行政指導にとどまるべきである。Aのケースでは、地方分権の趣旨にのっとり、基本的には当該地方公共団体の自治権が尊重されるべきであるが、当該条例による規制がいわゆる法律の上乗せ、横出し等に当たる場合等には、そうした上乗せ、横出し規制を当該法律が許容しているか、その運用も含めてのチェックが必要である。
また、各地方公共団体が類似の規制を行う場合、可能なものについては、その内容や申請書類の様式について統一を図り、複数の地方公共団体にまたがって活動している事業者の利便を図ることが望ましい。
さらに、地方公共団体の政策や発注等において、地元の事業者等を優遇する例が見受けられるが、これらについても自由な市場による競争の促進を原則とする規制改革の視点から見直されることが望まれる。
「民民規制」は、@業界団体が現行の各種制度の「解説」あるいは自主的な基準等の形で定めているもの、A民間慣行として存在するもの等があり、その形式、内容、担保等は千差万別である。仮に、これらの民民規制が競争制限的な機能を果たす場合には、公正取引委員会その他の関係行政機関がその是正に強力に取組み、厳正に対処すべきである。
また、経済構造改革の観点からは、業界団体が競争制限的な機能を果たす民民規制に関与しているような場合には、当該業界団体の機能や仕組みの是非にまで遡った議論が必要と考える。
なお、民民規制の背景に競争制限的な行政指導等行政の関与がある場合には、行政は早急に見直すべきである。
b 更なる規制改革
既に述べたように、規制緩和から規制改革への流れの中で、経済の活性化を図るとの観点から、金融、情報通信、住宅・土地、運輸、エネルギー、流通等産業活動に直接関係が深い規制分野については、比較的早い時期から重点的な規制緩和・改革の取組がなされてきた。むろん、これらの分野でも、未だ規制改革は不十分であるが、相対的には、医療・福祉、雇用・労働、教育といった従来市場原理には馴染まないと言われてきた分野(社会的分野)において、規制緩和・改革の本格的な取組の開始が遅かったこととも相まって、規制改革の取組が遅れている。
今後の規制改革においては、各分野において従来以上の取組を求めたいが、特に、以下の分野について精力的な取組がなされるべきである。
【社会的分野】
【その他の分野】
オ 司法改革
規制改革により、事前規制型から事後チェック型の社会への転換を図るためには、社会のインフラたる司法の充実が求められることから、早急に法曹人口の大幅な増大を基本とした司法改革を図るべきである。現在、司法制度改革審議会で議論が行われているが、真に実効ある司法改革が行われることが期待される。また、その際、ADR(裁判外紛争処理メカニズム)を活用した紛争処理システムについてもあわせて検討すべきである。
(3)新たな推進体制の在り方
「規制改革」を、「我が国の個々の規制制度について、基本精神にまで遡っての点検と、それに基づき、必要に応じて、規制の体系の抜本的な見直しを図る一連の作業」と考えるならば、我が国の規制改革は未だ道半ばである。
今後、政府において、更なる規制改革を推進していくためには、内閣、特に内閣総理大臣のリーダーシップの下、官民挙げてこの問題に取り組む体制として、民間人を主体とし、客観性をもった提言をすることができる審議機関を制度的に確立することが望ましい。この審議機関においては、これまで同様、個別の規制改革を着実に進めるとともに、政府において策定される規制改革のための推進計画を監視し、さらに、社会・経済の構造改革の観点から、個々の規制のみならず、関連する制度も含めた見直しに幅広く取り組む機能が求められる。また、このような機関については、集中的な取組を行うことが必要であり、適切な期限を設けてその任務に取り組むことが適当であると考える。
(2)今後の課題
今年度、当委員会がIT関連のテーマ・論点として議論し、検討して取りまとめたものを推進していくことが重要である。ここでは上記ITに関する見解において取り上げた事項に関連して述べる。
書面一括法の成立を受けて、一定の書面については電子媒体での書面の代替が認められるところとなるが、残された@対面行為の義務付け、A事業所、人員などの必置規制、B書類保存義務、などについても各省庁は所管分野におけるこうした規制についての考え方を整理すべきである。この点に関しては、平成12年11月27日にIT戦略会議において策定された「IT基本戦略」の中で、早急に実施すべき分野として、「民間同士の書面交付義務以外の対面行為、事務所の必置等の電子商取引を阻害する規制についてもこれを改革する」とされており、これを踏まえて改革を推進していくことが必要である。
各論にも記載されているように、既に当委員会でも、これらのもののうち、各種団体など民間からの要望が高く、かつ改革の必要性が高いものについては、個別の分野での検討を行っているが、例えば書面の電子媒体への代替を許容しても、その後に対面でかつ事業所内で説明する義務が生じるなどといったことになれば、書面のみを電子化しても商取引の簡素化にはつながらない。ついては、今後、書面以外の残された課題について、上記ITに関する見解の考え方も踏まえ、所管省庁において各法制度の中で個々の規制の見直しの検討を行うとともに、商取引のプロセス全般におけるIT化の動きを加速するという観点からも、政府全体としても検討を進めるべきである。そのために、総点検のフォローアップを早期に行う必要があると考える。
また、電子政府については、上記の「IT基本戦略」の中で「2001年度中に、インターネットを活用した行政手続、行政運営等が可能となるよう個々の手続に求められる書類の削減・標準化、書面の提出・保存を求める法令の見直し等を行う」とされており、その検討を政府において精力的に行う必要がある。
これらの動きにより、また「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」の施行によって、上記の分野をはじめとして、ITに関わる様々な分野での改革が一層促進されていくことになると考える。
当委員会は、ITに関する見解の中でも述べたように、当委員会では、ネットワークを作ることはIT化の目的ではなく、経済発展のための手段であり、IT化を契機とした様々な分野の規制改革がなされることによってはじめてIT化の促進が意味あるものになると考えている。また、単に現在ある手段を電子的手段に置き換えることだけではなく、IT化や社会経済情勢の変化に対応し得るように現在のシステムそのものを変えていくように規制改革を進めていくことが必要であると考えている。そのためにも、市場原理に基づき、民間は競争を通じて様々な創意工夫を行い、政府は公正な競争条件が担保されるような環境整備に努めるという役割分担の明確化が必要である。このような条件の下、高度情報通信ネットワーク社会の形成を積極的に促進することが重要であり、そうした観点から、従来にもまして、規制改革のスピードアップを図るべきであると考えている。
| 分野 | 情報通信インフラの整備 | コンテンツの拡大 | 主体の育成 |
|---|---|---|---|
| 情報通信 | ● 通信と放送の融合への対応
・放送分野における通信と放送の融合への的確な対応 ・通信と放送の融合を踏まえたコンテンツ問題への的確な対処 ●電気通信事業者のネットワークにおける競争条件の整備 ・電気通信事業者によるネットワーク構築の柔軟性の確保 ・線路敷設問題 ・NTTの在り方 ●周波数割当配分ルールの制定 |
●行政の情報化の推進(各種申請の電子化、オンライン化)電子化 | |
| 競争政策等 | ●電子商取引における景品類の規制に関する運用基準の明確化
●下請取引に関する電子受発注の促進 ●電子商取引の広がりを視野に入れた著作物の再販売価格維持制度の見直し |
||
| 法務 | ●商業帳簿等等の電子化
●株主総会の召集通知の電子化電子化 ●株主総会における議決権行使の電子化 ●電子媒体による株式会社の公告の実現 ●登記のオンラインによる一括申請及び登記事項のコンピュータ化 |
●無議決権優先株の発行枠拡大及び優先株発行手続の簡素化等
●1株当たり純資産額規制の廃止及び株式分割時における株式発行授権枠の拡大 ●検査役調査制度の改善 ●ストック・オプション制度の改善 |
|
| 金融 | ●インターネット等での取引に係る社員の雇用形態の見直し
●インターネットによる保険販売に係る事業方法書の認可基準の明確化 |
●有価証券届出書等の記載事項の見直し | |
| 運輸 | ●旅行契約における書面交付義務の見直し | ||
| 流通・農業 | ●インターネット上の取引を前提としていない各種法制度の見直し
・通信販売における通知の電子化 ・割賦販売における通知の電子化 ●医薬品のカタログ販売における範囲の見直し |
||
| 住宅・土地、公共工事 | ●不動産特定共同事業の手続要件の緩和電子化建設工事請負契約の電子化 | ||
| 医療・福祉 | ●遠隔医療の促進
●ネットワークによる医療機関間の連携 ●レセプト電算化の推進 ●EBMのための大規模データベースの整備 ●医療に係る各種コード体系の標準化 ●患者情報の保護 ●薬局機能の高度化 ●介護給付業務にかかわるIT化の推進 |
||
| 雇用・労働 | ●インターネットを通した職業紹介 | ||
| 教育 | ●大学におけるインターネットを活用した授業での単位取得の実現
●コンピュータを利用した教科指導の促進 |
||
| 基準認証・輸出入手続 | ●輸出入申告手続の電子化
●高度道路交通システム(ITS)の推進 |
平成12年5月16日 規制改革委員会事務室作成