第1章 規制緩和の今後の進め方


 政府は、平成7年度から3年間の規制緩和推進計画(以下本章において「第1次計画」という。)を実施し、規制緩和に取り組んできた。その成果は、例えば、運輸分野における需給調整規制の廃止方針とその時期の確定、有料職業紹介のネガティブ・リスト化(原則自由化)、情報通信分野における需給調整規制を始めとする諸規制の撤廃、外為法の抜本改正を始めとする金融システムの改革などであり、それぞれ、制度を根幹から見直す規制緩和が大きく進展しつつある。

 この第1次計画の成果を踏まえて、本年3月、平成10年度から12年度までを計画期間とする新たな規制緩和推進3か年計画(以下本章において「新3か年計画」という。)が策定された。

 規制緩和委員会は、本年5月以降、内外からの規制緩和についての意見・要望のヒアリング、関係省庁・団体などとの意見交換など、ワーキング・グループを含め合計132回に及ぶ会議を行い、調査審議を行ってきた。その過程で、8月には67の調査審議テーマを概定・公表し、9月にはそれらのテーマについての論点を公開した。さらには、論点の相違をより明らかにするための公開討論を6テーマについて行った。  今回の見解では、8月に概定したテーマ等についての考え方と結論を第2章以下で示すが、本章では、今日における規制緩和の意義や今後重視すべき視点などについての考え方を示す。

  1. 今日における規制緩和の意義

     今日、我が国の経済は極めて厳しい状況にあり、政府は、本年4月の総合経済対策に加えて、去る11月16日、緊急経済対策を決定したところである。

     緊急経済対策に盛り込まれた様々な対策が着実に実施され、景気が回復することはもとより重要であるが、経済の持続的成長を可能とする基盤をつくり出すためには、それに加えて経済社会の構造改革をより一層強力に進めていかなければならない。このための政策手段として規制緩和の重要性は、より一層大きくなっている。

     にもかかわらず、「規制緩和は聞き飽きた」「規制緩和は出尽くした」「景気回復のためには規制緩和のスピードを緩めるべきだ」といった意見さえ聞かれることがある。しかし、第2章以下に示すように、依然として多くの分野において規制緩和を進めなければならない事項が残されている。

     規制緩和の推進による自由な競争を通じ、新たな産業・事業やサービスが生まれ、雇用の場が創出され、物価が抑制されるなどの効果があることは、これまでの我が国の経済を見ても十分に理解される。一方で、規制緩和の推進により、競争が激しくなったり、雇用面への影響が生じたりすることを懸念する声もある。しかし、痛みがあるからといって改革を進めないのでは、前進はない。これらの痛みに対処するための適切な手当てを講じつつ、前向きの姿勢で取り組む必要がある。

     不況の今こそ規制緩和を進め、自由な競争を通じて日本経済を活性化することが重要である。規制緩和の歩みを止めてはならない。

  2. 今後重視すべき視点

     新3か年計画では、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくこと及び行政の在り方についていわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本とするとともに、1) 経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限との原則の下、規制の撤廃、又はより緩やかな規制への移行、2) 検査の民間移行等規制方法の合理化、3) 規制内容の明確化、簡素化、4) 規制の国際的整合化、5) 規制関連手続の迅速化、6) 規制制定手続の透明化、という6項目を重視すべき視点としている。

     規制緩和委員会は、新3か年計画に示されているこれらの基本的考え方や視点を踏まえつつ、今後さらに以下のような視点も重視して、政府における新3か年計画の改定作業とその実施を監視していく。

    (1)国際性の視点

     国際的な大競争時代の今日においては、各国の制度そのものが競争にさらされている。その制度のうちで最も典型的なものの一つが規制制度である。

     そのような国際性の視点から、第1に、各省庁においては、その省庁が担当する分野の行政が、世界各国でどのように行われているかを、インターネットなども活用し常時積極的に情報収集を行い、公開に努めるべきである。外務省も、在外公館における活動の一つとして、その国の規制についての幅広い情報収集や分析という業務に注力することが望まれる。

     第2に、規制の国際的整合化を一層推進することが大切である。その際、対応する国際規格が存在せず、我が国の規格が国際規格として適切な場合や、国際規格が不適切な場合などは、積極的に国際提案を行っていくなど、制度・基準の国際的なルールづくりに貢献していくことも重要である。

     第3に、規制緩和の推進に関しては、経済協力開発機構(OECD)、アジア太平洋経済協力(APEC)、世界貿易機関(WTO)などの場においても重要な課題として取り上げられてきている。このうちOECDにおいては、1997年(平成9年)5月に、規制改革に関し、広範な規制改革計画の採択や、諸規制についての審査体制の整備など7項目からなる政策勧告が行われ、現在そのフォローアップが進められている。このような国際機関の動向や政策提言に照らし、我が国の規制緩和の進め方を考えていくことも重要である。

    (2)効率的な規制緩和の視点

    ア 行政分野横断的な見直し
     我が国の規制の在り方を新3か年計画の計画期間である平成12年度までに見直すためには、規制緩和を効率的に進めることが極めて重要である。
     新3か年計画の特徴の一つは、個別行政分野における規制緩和に加え、これまでの規制緩和の推進において見直しの俎上に載らなかった事項を新たな課題として発掘し、改革を進めるため、行政分野を通ずる横断的な見直しに本格的に取り組むこととしたことである。
     行政分野横断的な見直しは、個別規制に共通する問題点を整理することにより、規制の在り方を統一的に改革していこうとする戦略であり、規制緩和の総論と個別規制緩和との間の橋渡しとなるアプローチであるとともに、規制緩和を効率的に進めるためにも重要である。このような行政分野横断的な見直しを推進していくに当たっては、以下のような視点も重視していくべきである。
     第1に、各省庁が所管行政の規制について、新設する場合も含め、その効果と負担について国民への説明責任を果たすことができるシステムを確立する必要がある。このことは、中央省庁等改革の一環として行われる政策評価機能の充実強化とも密接な関係を有している。
     第2に、同種類似と判断される行政については、最も低い規制レベルに他の分野の規制を整合させていくという考え方を確立していく必要がある。これは、貿易自由化との類推で言えば、特定の国との間で最も低い関税率を他国にも適用する「最恵国待遇」に相当する考え方であり、言わば「トップランナー方式」ともいうべきものである。
     第3に、介護、農業など、これまで法人の形態によっては参入が厳しく制限されていた分野において、近年参入できる法人の形態の範囲を拡大する仕組みについて検討、実施が進められつつある。しかし、他の分野においては営利法人の参入が原則禁止とされている場合も多く残っている。それらの分野についても新規参入を促進し、競争を通じたサービス向上とコスト低下を図るため、原則自由・例外禁止の方向に向けた検討を進める必要がある。

    イ 実施時期の明確化、内容・手順の具体化
     新3か年計画の中には、行政分野横断的な見直しについても、また、個別分野の規制緩和事項についても、その実施時期や内容・手順のはっきりしていないものがある。これらや新3か年計画の改定に際して新たに盛り込む事項について、実施時期の明確化、内容・手順の具体化などに努める必要がある。

    (3)「規制改革」という視点

     規制緩和という用語が、規制の緩和はもとより撤廃も意味していることは、相当程度認識されつつあるが、さらに、事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことに伴う新たなルールの創設や、規制緩和の推進に併せて市場機能をより発揮するための競争政策の積極的展開、自己責任原則の確立に資する情報公開及び消費者のための必要なシステムづくりなどにも、規制の緩和や撤廃と一体として取り組んでいくことが重要になっている。そのような意味で、「規制改革」という視点が今後ますます重要になってくる。

    (4)国民の理解と協力を得る視点

     規制緩和を効果的かつ効率的に進めていくためには、規制緩和についての国民・事業者の理解と協力を得ることが重要である。
     そのため、総務庁は、規制緩和白書の作成に当たり、より国民の関心を高め、理解を深めるための工夫に努めるべきである。同じ趣旨で、経済企画庁は、規制緩和の経済効果についての数量的な分析を、新3か年計画の改定までに公表すべきである。

  3. 新3か年計画の進捗状況

    (1)行政分野横断的な見直し

     新3か年計画の行政分野横断的な見直しには、1) 事業参入規制の見直し、2) 認可、届出等の見直し、3) 資格制度の見直し、4) 基準・規格及び検査・検定の見直し、5) 許認可等の審査・処理の迅速化・簡素化、6) 許認可等の審査基準の見直し、7) 行政手続法の遵守、周知、8) 規制の設定、改廃に係るパブリック・コメント手続及び9) 規制の新設審査等の項目がある。
     これらの項目の中で、政府自らの取組が相当程度に具体化されたものは、5) 許認可等の審査・処理の迅速化・簡素化、7) 行政手続法の遵守、周知、8) 規制の設定、改廃に係るパブリック・コメント手続及び9) 規制の新設審査等である。
     5) 及び8) については、計画の中に実施時期あるいは結論を得る時期を明示したことが進捗に結び付いたと思われる。9) についても、各省庁が規制の新設による効果、国民の負担などについて検討し、その結果を「毎通常国会終了後速やかに公表する」としたことが、ある程度効果を挙げている要因と言えよう。
     このほか、1) については、行政改革委員会がその最終意見(平成9年12月12日)で指摘した需給調整規制を、3) については、業務独占資格を中心とする資格制度を、当委員会がテーマとして取り上げ調査審議を行ってきた。

    (2) 行政分野別措置事項
     新3か年計画に盛り込まれた15分野624事項については、同計画に沿って、政府において本年10月1日現在でフォローアップを行った結果が当委員会に報告された。その内容は、技術的検討などのために遅れ気味になったごく一部の事項を除いて、ほぼすべての事項が予定どおり進捗している。



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