第1章 規制改革の基本的な考え方

 泰山の瀝(したたり)石を穿(うが)つ。規制改革の取組とは、正にこうしたものではなかろうか。

 政府は昨年3月に規制緩和推進3か年計画を策定し、規制改革・緩和の着実な推進を図っている。この結果、規制の設定・改廃に係る意見提出手続が施行され、また、本年10月1日現在、計画で決定された917事項のうち、734事項(約80%)が既に実行に移されている。こうした個々の事項の多くは細かな規制の緩和・廃止ではあるが、このような一つひとつの措置を積み重ねることにより、硬直化した現在の我が国の社会構造に風穴を穿つことができると我々は確信するものである。

 昨年1月に設置された規制緩和委員会は、本年4月6日、行政改革推進本部長(内閣総理大臣)決定により規制改革委員会(以下「当委員会」という。)と改称された。これに伴い、当委員会は、狭義の規制緩和・撤廃のみならず事前規制型行政から事後チェック型行政に転換していくことに伴う新たなルールの創設、規制緩和の推進に併せた競争政策の積極的展開等につき調査審議することとされた。また、当委員会における審議の結果、一般に規制と観念されないものであっても、規制改革の推進に密接に関連するものとして検討が必要と判断される事項(例えば補助金、税等に係るもの)がある場合には、それぞれの関係機関に対し、所要の問題提起等を行っていくものとされた。さらに、本年6月には、審議の一層の充実を図るため、委員の追加がなされるとともに、参与の委嘱を行った。

 このように拡充された体制の下で、当委員会は内外からの規制緩和に関する意見・要望のヒアリング、関係省庁・団体等との意見交換等ワーキング・グループを含め192回に及ぶ会議を開き、調査審議を行った。その過程で、本年7月末には57のテーマにつき論点を公開し、そのうち5テーマについては論点を更に明確にして国民に示すべく10月から11月にかけて公開討論を実施した。

 今年度のテーマ選定においては、個々の規制が他の制度と相まって果たす役割・影響について全体的に判断すべきとの観点から、テーマをできる限り大括(おおくく)りした。また、昨年度に引き続き取り組んでいる行政分野横断的な取組においては、本年度は基準認証等制度及び公的資格制度を取り上げた。

 この見解では、7月末の論点公開で提起したテーマ等についての考え方と結論を第2章以下に示すが、本章では、規制改革の意義、規制改革がなぜ急がれるのか、これまでにどのような効果が上がっているのか、また規制改革に当たって重視する視点は何か等についての基本的な考え方を示す。

1 規制改革の意義

 昨年12月15日の規制緩和についての第1次見解(以下「第1次見解」という。)において、当委員会は「『規制改革』という視点」の重要性について指摘した。すなわち、「事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことに伴う新たなルールの創設や、規制緩和の推進に併せて市場機能をより発揮するための競争政策の積極的展開、自己責任原則の確立に資する情報公開及び消費者のための必要なシステムづくりなどにも規制の緩和や撤廃と一体として取り組んでいく」という「『規制改革』という視点が今後ますます重要になってくる」との考え方である。

 以後1年間の審議を経た現時点での当委員会の考え方を述べる。

 一国の制度は、その社会及び経済の状況、文化、伝統、国民の価値観、さらにはその国を取り巻く外交関係等様々な環境と密接な関係を有する。制度が環境に最も適合しているとき、その国家は繁栄を謳歌するし、一度(ひとたび)環境変化への対応を誤れば、繁栄は容赦なく過ぎ去る。

 我が国の制度も、その制度の下で生活し活動する国民及び企業も、経済社会の環境変化への不断の適合に努めており、戦後半世紀の日本の高度経済成長も、こうして環境に適合してきた結果である。しかし、小規模な変化への対応と大規模な変化への対応とでは、自ずとその方法が異なる。従来の微修正型では対応できない問題については、新たに制度の基本的な部分から設計し直さなければならない。現在、我が国が直面している経済の停滞等の諸問題は、経済社会の大規模かつ急激な環境変化への対応が遅れてしまったことに原因があると考えられる。

 具体的には、現在我が国が直面している環境変化は、経済のグローバル化、少子高齢化、情報化、環境問題といった、景気の循環とは質的に異なる構造的な変化であることに十分留意する必要がある。

 経済活動のグローバル化の中で、日本企業の海外進出や外国企業の国内市場参入など国境を越えた企業の活動が増大しており、自国の国内制度はもとより各国の国内制度がより規制の少ない形に調整されることが求められている。

 また、少子高齢化が進む中、雇用・労働分野や医療・福祉分野等では規制を見直していく必要が高まっている。

 さらに、情報機器やインターネットの普及等の情報化の進展は、国内・国際間の情報伝達のスピードを早め、企業が国を選ぶ時代の中で、情報化社会に対応した国内制度の形成が急務となっている。

 加えて、環境問題の深刻化は、有限な資源の下で、地球全体の環境保全を図りながら、持続可能な発展を実現する新たな経済社会のシステム構築を要請している。

 規制改革とは、以上のような現在我が国が直面する構造的な環境変化を的確に把握し、又は先取りし、適切な処方箋に基づき規制の全体を再構築していく作業にほかならない。多くの場合それはまず既存の規制の緩和・撤廃を求める作業であるが、見直しの結果必要な場合には、例えば競争政策や消費者政策の観点等から新たなルールを確立し、新たな責任を求める作業ともなる。そして、こうした作業により経済社会を活性化し、そこから生じる富を福祉、環境対策、教育等必要な分野に投資することにより、豊かな国民生活を実現することが、規制改革の究極の目的なのである。

 以下には、まず、当委員会の現状認識を述べ、次に、現在の環境変化に最も適合していくために、規制改革に当たり重視すべきいくつかの視点を挙げる。

2 急がれる規制改革

 現在、我が国の経済は、民間需要の回復力が弱く、厳しい状況をなお脱していないが、各種の政策効果の浸透に加え、アジア経済の回復等の影響もあって、緩やかな改善が続いている。これは、公共投資、住宅減税による住宅投資の持ち直し等現内閣の積極的な経済政策の効果と外需の好調による面が大きい。ただ、一方で、財政状況は深刻化しており、そうした状況下で、今後景気が本格的に回復に向かうためには、政策効果が下支えしている間に民間需要が回復に向かっていく必要がある。

 当委員会が取り組む規制改革の目的の一つは、正にこの民間経済の活性化のために経済社会の基盤を再整備することにある。すなわち、現在、多くの企業が直面している問題である、コストダウン、規模のメリットの追求、アウトソーシング、新規ビジネス分野への迅速な参入等の要請に対して制度として対応すること、民間主導による経済が持続的な成長を達成していく基盤としての一層の経済社会の構造改革を図ることが緊急の要請となっている。

3 規制緩和の効果

 規制緩和は、累次の閣議決定等に沿って着実に推進されており、多様で豊かな国民生活の実現、経済の活性化、各国との相互の整合性の実現、国民負担の軽減等、その効果が国民に広く認識され、その重要性はますます高まっている。

 主な個別分野について振り返ってみると、情報通信分野では、携帯・自動車電話端末の売切り制導入、移動体通信料金の事前届出制への移行等により、料金の低廉化が進むとともに、携帯・自動車電話の普及率が爆発的に高まるなど規制緩和の効果は国民の生活に深く浸透してきている。運輸分野では、需給調整規制の段階的廃止等により、新規参入が促進されるとともに、運賃設定の多様化が進み、利用者の選択の幅が広がってきている。また、金融分野では、日本版ビッグバンを目指したいわゆる金融システム改革法等により、資産運用手段の多様化、資産流動化の促進、株式売買委託手数料の自由化等が進み、金融機関が魅力あるサービスを提供できるとともに、利用者も資金の調達・運用における選択の多様化が図られてきている。さらに、労働分野では、有料職業紹介事業、労働者派遣事業の対象業務のネガティブリスト化等を通じて、経済社会情勢の変化に対応した効果的な労働力需給調整機能が強化されてきている。

 これら以外にも多くの規制緩和が実施されており、こうした規制緩和のマクロの効果について経済企画庁が平成11年3月に行った試算によれば、「規制緩和により消費や投資が拡大された効果を需要効果と定義すると、90〜97年度の需要効果は、年平均8.2兆円程度(名目GDP比1.73%程度)であり、90〜95年度に比べ23.4%増と大幅に増加したとみられる」。また、物価レポート’99(平成11年11月公表)によれば、「規制緩和関連品目全体で、98年度の消費者物価の「生鮮食品を除く総合」指数を、0.4%程度引き下げる効果を持ったとみられる。99年に入って、引下げ効果は0.1%程度となっているが、消費者物価が極めて安定している中で、依然無視できない効果を持っている」。

 このように規制緩和が国民経済に及ぼす効果は実証されており、当委員会としても引き続き積極的に取り組むことの重要性を改めて認識している。

4 規制改革に当たり重視する視点

 現行の規制緩和推進3か年計画(改定)(平成11年3月30日閣議決定)では、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくこと及び行政の在り方についていわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本とするとともに、@経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限との原則の下、規制の撤廃又はより緩やかな規制への移行、A検査の民間移行等規制方法の合理化、B規制内容の明確化、簡素化、C規制の国際的整合化、D規制関連手続の迅速化、E規制制定手続の透明化の6項目を重視すべき視点としている。また、当委員会は昨年度の第1次見解において、@国際性の視点、A効率的な規制緩和の視点、B「規制改革」という視点、C国民の理解と協力を得る視点を重視することを明らかにした。

 規制緩和推進3か年計画(改定)及び第1次見解に示されているこれらの基本的考え方や視点に加え、規制改革を進めるに当たって当委員会が重要と考える新たな視点を以下に挙げる。

 (1)選択の自由と多様性の確保

 近年の景気の低迷、先行き不透明感の中で、ますます周囲の様子見(ようすみ)に徹して決断をしない、あるいは他人と異なる判断を避ける風潮が増大しているように見受けられる。仮にこのような風潮が続けば、我が国の活力、国民生活の豊かさが失われ、国際社会においてなすべき貢献もできなくなるものと危惧する。

 歴史的に見ても、我が国国民が創意工夫に乏しい民族とは考えられず、現在の我が国の画一性の原因は、主として制度的環境に求められる。

 規制が、たとえ結果的にでもあれ、個人の創意・工夫を制約し、また、リスクを冒さず他人と同じことをやっていればよいというぬるま湯体質を温存する原因の一つとなっているなら、そうした規制は速やかに見直さなければならない。また、同様の観点から、個人の創意・工夫を妨げるような私人間の行為についても厳しく見直されるべきであり、競争政策や法務の分野を中心に、新たなルールの確立とその遵守のための仕組みの検討が必要と考える。

 国民には多様な価値観があり、そこから多様なシーズやニーズが生まれる。サービスの提供主体を限定し、サービスの在り方につき、人的要件、施設要件、価格・料金その他の内容を規制してきたこれまでの公的規制の在り方は、国民に代わって「良いもの」を選択してやるという姿勢そのものである。排除すべきは、そうした公的規制の在り方ではないか。目指すべきは、質や安全性等についての一定の基準を満たした多様なサービスを容認し、国民の多様な価値観の選択を支援することではないのか。

 (2)新しいサービス・商品と技術開発の環境整備

 我が国経済の現状を打破するためには、新しいサービス・商品と技術開発が行いやすいように環境を整備することが一層重要になっている。例えば、情報通信分野においては、オープン化の流れが顕著であり、自由な接続を低廉なコストで可能にすることが新たなビジネスを生み出すことにつながるケースや電波の有効利用により新分野を開拓する動きがある。

 また、過去においても、規制の在り方が技術開発や商品化活動の成否を左右している例が見られる。自動車の排気ガス規制を端緒に、厳しい環境規制に適合するエンジン開発への真摯な取組によりエンジンの性能が飛躍的に向上したことは周知の事実である。金融の分野においても、いわゆるビッグバンにより、資産運用手段の多様化、販売チャンネルの拡大、株式手数料の自由化等、金融機関による技術開発や商品化の面において著しい進展が見られている。こうした事実に照らせば、規制の在り方を目的に合致させ、斬新なコンセプトに基づく技術革新やサービス・商品の創出がなされる環境を整備することにより、我が国の経済社会のダイナミズムを復活させることが重要である。

 (3)コストの認識

 一般に規制のコストと言う場合、それは個々の規制についての許認可等の申請手続に係る事務費用や時間費用、許可等が下りない場合の機会費用等の総体として認識されることが多い。こうした規制のコストの低減を目指すことが規制改革の重要な目的であり、次の3つのポイントがあると考える。

 第1に、規制についての社会全体のトータルコストを把握することが必要である。このためには、まず、一つ一つの規制やその運用について、各行政機関がコストをより強く意識することが必要である。行政機関は規制の運用主体として規制に係る行政のコストを負担する立場にあるが、規制を受ける立場にある民間主体のコスト感覚までは共有できない場合が多い。行政に求められるのは、個々の規制について、規制の運用主体としての自らのコスト及び規制を受ける側のコストの総和を把握する能力である。

 また、現在の複雑な経済社会においては制度変更の影響が広範囲に及ぶことも多く、規制の廃止に伴い社会全体から見て様々な新たなコストが生じることもあり得る。例えば、法による規制が廃止されれば、当該法規制に係るコストは消滅し、諸々のメリットが生じるが、仮にそれに代わる規制を地方公共団体が条例等で手当てする場合や民間団体の自主規制が導入される場合には、新たな規制コストが生じる。規制改革を進める際には、規制に係るコストを社会の内部で移転するだけでは意味がなく、規制に係るトータルコストを社会全体としてどのように下げていくかという視点が重要である。また、こうしたコストを検討する際には、次世代に無用の負担を強いないという観点から、将来に向けて的確な洞察力を持つことも重要である。

 第2に、規制が潜在的に多様な可能性の芽を摘んでいることによる機会コストである。かつて、道路運送事業や電気通信事業の規制緩和がされた当初、誰が今日の宅配便や携帯電話の爆発的な普及を予想したであろうか。市場原理の最大の利点は、供給側の技術革新・投資意欲と需要側の消費との相乗効果から生じるダイナミックな発展の可能性である。規制の現状を維持するコストには、そうした可能性を抑制することにより失われた機会費用も含まれる。多様な可能性に発展の機会を確保することは、規制改革の重要な目的である。

 第3に、規制改革・規制緩和の議論に関して、「スピードの観念が無い」、「時間が掛かり過ぎる」といった指摘がよくなされる。時間の掛かる改革はその間の時間コストを発生させ、また、時期を失した規制改革はその効果を充分に発揮できない。さらに、小出しの改革は将来の更なる改革を期待して投資を躊躇(ちゅうちょ)させるという意味から、時として有害ですらある。本年度中を目途に行われる規制緩和推進3か年計画の再改定作業に当たって、従来にも増して、規制改革のスピードの重要性を踏まえた積極的な対応をされるよう希望する。

 (4)行政関与の在り方

 行政の活動領域やその関与の在り方については、平成8年12月に行政改革委員会が「行政関与の在り方に関する基準」を取りまとめ、公表した。この中で、過剰な行政関与のために自己責任原則が歪められ、市場原則が必ずしも有効に機能しない状況を変革するために、行政関与の在り方を見直すに当たって次の3つの基本原則が挙げられている。
  @ 「民間でできるものは民間に委ねる」という考え方に基づき、行政の活動を必要最小限にとどめること
  A 「国民本位の効率的な行政」を実現するため、行政サービスの需要者たる国民が必要とする行政を最小の費用で行うこと
  B 行政の関与が必要な場合、行政活動を行っている各機関は国民に対する「説明責任(アカウンタビリティ)」を果たさなければならないこと

 これに関しては、行政改革プログラム(平成8年12月25日閣議決定)により各省庁がその行政活動を見直し、または新規施策を講ずるに当たり、最大限に尊重し、その判断基準を活用することとされている。

 規制改革を進めるに当たっても、こうした原則を踏まえることが重要である。特に、可能な限り市場原理を活用し行政の関与を必要最小限にとどめるとの観点から、規制制度の見直しを推進するとともに、情報公開を推進し規制の効果と負担について国民への説明責任を果たすなどの行政責任の遂行と透明性の確保が重要と考える。

 (5)国民、企業等の担う役割

 規制改革を進める上で又は規制改革後の社会において、国民や企業等が担う役割についても我々は考慮すべきである。

 第1に、規制改革の結果として起こり得る不利益への対応についてである。もとより、改革の推進に当たり、こうした不利益を最小限にする努力が必要となることは言うまでもないが、こうした努力によっても何らの不利益を誰にも生じさせない改革というものは稀であろう。必要な代替措置、経過措置等を講じつつ、必要な改革を進めていくに際しては、このことについて国民が理解し、柔軟に対応していくことが重要となる。

 また、規制の緩和・撤廃に合わせたセーフティネットの検討も必要であり、規制改革委員会と改められたことも踏まえ、当委員会としても、雇用・労働や医療・福祉の分野を始めとしてこれを意識した検討を行った。

 第2に、経済社会の自律的な活動の主体として、規制改革の成果を活用し、その果実を社会に還元していくということである。厳しい経済状況の下で、構造改革の一環として規制改革を進めていくことがなぜ重要なのかと言えば、それは、その結果として個人や企業等の自由な創意・工夫により新規産業が成長し、経済のパイが拡大し、景気・雇用状況等の改善が図られ、その結果国民生活が豊かになることが期待されるからである。

 国民及び企業等の皆様には、来年度以降、是非とも我が国経済社会の発展・拡大に寄与する起業家精神と創意・工夫に溢れた規制改革要望を期待したい。

 第3に、規制改革後の社会における国民・企業等の私人間のルールに基づく責務である。企業等や国民の選択の自由の裏付けとなる自己責任原則の確立に資する情報公開の徹底、消費者と企業等の間及びそれらと政府の間の適切な関係を規律する必要なシステムづくりとその適切な運用(これには、競争政策や行政手続法、製造物責任法(PL法)など様々なものが含まれる。)も、言うまでもなく規制改革の射程に含まれる。規制改革後の社会では、国民も企業等も、自己責任原則の下で、新たなルールに基づき各々の主体が責任を分担することが求められる。そうした意味で、規制改革後の社会のルール、責任分担の認識が重要であり、また、そうした社会のインフラとしても、司法改革が求められる。

5 規制改革の推進に向けて

 以上、規制改革を進める際の重要な視点を挙げてきたが、最も重要なのは、こうした視点を踏まえ、我が国の社会を変革しようとする意志である。近年のアジア諸国の勃興、世界規模の競争の激化の中で、我が国社会や国民が現在の豊かさを維持するためには、社会及び国民が不断に質的向上を図ることが求められる。そして、そのためには、国民一人ひとりの不断の努力と、その努力が適正に評価される経済社会のシステム構築とが不可欠である。

 変革には、常に障害や困難が伴う。しかし、それらを乗り越えていく逞(たくま)しい改革の意志と現在我が国の社会及び国民の持つ能力をもってすれば、21世紀に向けて新たに豊かな社会を構築することは、十分に可能であると考える。

6 各論の概要

 本見解の各論は、行政分野別見直しの指摘事項を扱う第2章と行政分野横断的な取組を扱う第3章とに分かれる。

 このうち、行政分野別の各論において扱っている課題は、おおむね以下のとおりである。

【競争政策等分野】競争政策における透明性の確保として、合併等の事前届出に係る事前相談等の在り方を新たに取り上げている。このほか、独占禁止法第21条及び第24条の見直し、著作物の再販売価格維持制度の見直し、民事的救済制度の検討状況など独占禁止法関係の課題を取り上げるとともに、消費者契約法(仮称)の動向を取り上げている。

【法務分野】昨年度に引き続き法曹人口の大幅増員と関連問題を取り上げているほか、今年度は新たに、コーポレート・ガバナンスの改善及びストック・オプション制度の改善を取り上げるとともに、情報通信分野にも関係する問題であるが、電子商取引等の基盤づくりの推進を取り上げている。

【金融・証券・保険分野】「他業禁止」に係る規制の見直し、イノベーションに伴う新たな金融商品・サービスの提供等の促進、事前規制型行政から事後チェック型行政への速やかな移行という大括りの視点に沿って、それぞれ具体的な論点を取り上げている。

【エネルギー分野】需要家利便を増進するとの観点から、各種エネルギー相互の競争促進策について取り上げ、電力供給システムの見直しと競争の促進、ガス事業における競争の更なる導入について提言している。

【情報通信分野】基本問題として、電気通信の接続や料金の問題を取り上げるとともに、最近の電波を利用した新たな技術の展開をも踏まえ、電波の有効利用の問題を取り上げている。また、行政の情報化の推進は、国民に対する行政サービスの向上という観点から重要な課題である。

【運輸分野】事業者間の競争環境の整備等の観点から、混雑空港の発着枠の配分方法と発着枠の増加、貨物運送取扱事業の運賃・料金規制の見直し、内航海運暫定措置事業の進捗状況、自動車損害賠償責任保険の政府再保険、高速道路における自動二輪車の二人乗り等を取り上げている。

【流通分野】消費者の利便性の重視と流通業の新たな形態を踏まえた規制の見直し及び卸売業の構造変化を踏まえた規制の見直しという大括りの視点の下、具体的には医薬品販売業等に関する様々な規制の見直しを取り上げている。このほか、注目される大店立地法の適切な運用の確保を取り上げるとともに、昨年度に引き続き、農産物検査の民営化の在り方を取り上げている。

【住宅・土地、公共工事分野】都心部等の都市内の土地の有効利用促進方策、都市郊外部における計画的な土地利用転換・保全という大括りの視点の下で具体的な論点を扱うとともに、建築基準法改正(性能規定化)の実施状況及びPFI構想の具体化を取り上げ、さらに個別の規制緩和要望に応じた問題を取り上げている。

【医療・福祉分野】医療分野については、医療分野における法人形態の在り方、保険者機能の在り方、医療における広告・広報及び情報開示等の多様な課題を取り上げている。また、福祉分野については、介護保険制度の円滑な実施に関連する問題を取り上げるとともに、少子化対策として、保育所に係る制度の見直し等を幅広く取り上げている。

【雇用・労働分野】外部労働市場をめぐる規制改革として、職業紹介事業、労働者募集及び労働者派遣事業に関する規制の見直しを取り上げるとともに、内部労働市場をめぐる規制改革として、解雇規制の見直し及びその他労働基準関係規制の見直しを取り上げ、さらに、労働市場におけるセーフティネットの整備を取り上げている。

【教育分野】教育の国際化の推進と教育へのアクセスの拡大、外国人留学生の受入れ促進、学校経営の自由化・弾力化、学校法人及び大学設置認可の弾力化・透明化、教育への補助の効率化、さらには、インターネットを用いた高等教育の促進(教育面における産学連携)及び研究面における産学連携の問題を取り上げている。

【保安・環境ビジネス分野】保安四法関係の規制の見直し及び廃棄物の再生利用認定制度について、昨年度指摘事項のフォローを行っている。

【基準認証等に関する意見・要望等への対応の分野】輸出入関連手続、医薬品等・食品関連、電気用品など、規制の緩和・見直しについて具体的に意見・要望のあった事項を取り上げている。

 以上が、第2章の行政分野別見直しの概要であるが、第3章では、行政分野横断的な取組として、基準・規格及び検査・検定及び公的資格制度の見直しを取り扱っている。これらはいずれも、規制緩和推進3か年計画(改定)において、政府自らが計画期間内に見直して改革を進めるとの方針を定めているものであり、その促進を図る観点から、当委員会としても取り上げている。

【基準認証等制度(基準・規格及び検査・検定)】閣議決定の内容を敷衍(ふえん)し、検査検定の実施主体について、具体的な見直しの方向を明らかにするとともに、現時点までに当委員会として結論が得られた個別の検査検定制度についての見解を述べている。

【公的資格制度】業務独占資格等については、閣議決定された16項目の見直しの基準・視点等に基づき101資格を横断的に調査審議した。司法書士、弁理士、税理士の訴訟代理等、合否判定基準の公表、試験問題の公表・持ち帰り、合否発表の迅速化等を提言している。また、必置資格等についても、政府として早急に見直しを行うべきであり、必置の必要性の見直しなどの見直しの基準・視点を整理して提示している。

 なお、この基準認証等の見直し及び業務独占資格等の見直しについては、政府における見直し作業の透明性を確保し、その促進を図る観点から、規制緩和推進3か年計画の再改定後速やかに各省庁における検討状況の中間的な公表を行うよう求めている。


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