2 法 務

(1)ストック・オプション制度の改善

 ストック・オプション制度は、株式会社が、取締役及び従業員に対し、あらかじめ定められた価格でその会社の株式を取得する権利を付与する制度であり、会社の業績が向上し、株価が上昇すれば、ストック・オプションを付与された取締役及び従業員が値上がり分相当額の利益を得ることができるので、会社にとって有能な人材の確保に資し、取締役及び従業員の業績向上へのインセンティブになるとの趣旨から認められたものである。

 平成9年の商法改正により、一定期間内に買い入れた自己株式を付与対象株式とする自己株式方式と新株引受権を付与する新株引受権方式とが認められたが、現在のストック・オプション制度に対しては、付与対象者が、その会社の取締役及び従業員に限定されていること、自己株式方式と新株引受権方式の併用が禁止されていること、新株引受権方式について株主総会の特別決議が必要とされていること、株主の株式買取請求等の行使の結果会社が取得した自己株式を付与の対象とすることができないこと、ストック・オプションの付与を決議する株主総会において付与対象者の氏名及び付与数までも決議しなければならないとされていること等について、経済界から見直しの要望がある。一方で、ストック・オプション制度については、特定の者に時価よりも低い価格で株式を付与することから、株主の利害に大きく影響すること、特に自己株式方式による場合には、自己株式の取得及び保有に伴う弊害を防止する必要があること等の指摘があり、それらの指摘に配慮して現行のストック・オプション制度が設けられたという経緯がある。

 経済界等からの要望を踏まえ、また、株主の権利の保護や自己株式の取得及び保有の制限の趣旨をも考慮し、ストック・オプション制度の公正かつ円滑な運用を実現する観点から、制度の改善を検討すべきである。

(2)コーポレート・ガバナンスの改善

 株主総会制度については、特別決議の定足数を定款で定めることができるようにすること、利益処分案の承認及び取締役の報酬額の決定を取締役会の決議事項とすべきこと、基準日の期間の制限を廃止し、又は緩和すべきこと、株主提案権の行使期限を繰り下げるべきこと、及び電子投票又はファクシミリによる投票を容認すべきことについて、経済界から要望がある。

 一方で、株主総会制度の在り方は、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の在り方に関する重要な問題であり、企業法制の基本問題の一つである。特に、特別決議事項は、いずれも株式会社の組織の根本に関わる事項であり、利益処分案の承認及び取締役の報酬額の決定を株主総会の決議事項としたのは、株主の利益を保護するためである。また、基準日の制度、株主提案権の行使期限、議決権の行使方法等についても、株主の権利の実現に深く関わるものである。

 したがって、株主総会の在り方については、他の関連する制度との関係、コーポレート・ガバナンスに関する議員立法の動向等に留意しつつ、株式会社の経営の効率化を図り、その業務執行の適正を確保することにより、株主の権利を実現するという観点から、会社の機関の在り方、会社の情報の適正な開示の在り方等を含め総合的に検討すべきである。

(3)電子商取引等の基盤づくりの推進

 電子商取引等における認証制度等については、現在その法制的な基盤が確立されていない。電子署名・電子認証に関する制度整備については、郵政省の暗号通信の在り方に関する研究会の報告書(平成11年1月〜6月)において法制度の在り方が提言され、また、通産省の電子商取引の環境整備に関する勉強会(平成11年2月〜7月)において、論点の抽出と対応策が検討されたほか、法務省の電子取引法制に関する研究会(制度関係小委員会)の報告書(平成8年7月〜10年3月)でも検討されてきたところ、本年11月19日に上記3省庁により「電子署名・認証に関する法制度の整備について」がまとめられ、パブリック・コメント手続に付されたところである。これを踏まえて平成11年度中に結論を得て、所要の法律案が次期通常国会に提出される予定である。

 高度情報通信社会における事業活動基盤整備及び電子商取引等の発展のためには、電子認証制度を推進することが重要であるが、推進に際しては、以下の点について配慮すべきである。

 電子商取引を始めとする情報通信ネットワークを通じた社会経済活動は、これまでの社会経済活動に情報通信技術というツールを導入するものであり、社会経済活動における予見可能性を確保するためにも、従来の制度と継続し得る制度でなければならないと考えられる。この観点から法整備等を推進し、電子署名は少なくとも手書き署名や押印と同等に通用するようにすべきである。

 電子認証の信頼性を確保する観点から、認証機関を公的機関が認定することが必要であるという考え方がある。しかし、認証機関の要件・在り方、認証の仕組みの検討に際しては、将来の技術的な発展に対し柔軟に対応できるよう、技術的中立性の確保と過度の規制の排除を考慮に入れる必要がある。また、公平・公正な制度運営を行えるよう、国際的な制度の整合性の確保を考慮に入れつつ、認証サービス事業者が自由に事業活動を行えるとともに、ユーザーが自由にサービスを選択できる制度とすべきである。

(4)法曹人口の大幅増員と関連問題

 ア 法曹人口の大幅増員

 司法試験合格者は最近の数年間は毎年700名程度であったが、本年4月から司法修習生の修習期間を2年から1年6か月に短縮すること等により、平成11年度以降司法試験合格者を1,000人程度へ増加させるため、司法試験法及び裁判所法の一部が平成10年度に改正された。

 規制緩和推進3か年計画(改定)では、「司法試験合格者の1,500人程度への増加については、修習の内容や方法の改善、司法修習生の修習先への受入れ態勢等について継続的に調査・検討を行った上で、国民各層からの意見を反映した新たな中立的立場で行う検討の結果をも踏まえて、適切かつ迅速に検討を進め、早急に結論を得て、所要の措置を講ずる」こととされている。

 本来市民社会における権利確保や紛争解決の手段であるべき司法が、実際には十分機能せず、行政その他により解決が図られている場合が多い。司法が本来の機能を果たすためには、法曹人口の大幅な増加が不可欠である。また、規制緩和が進む中で自己責任の原則が強く求められており、その際の社会的インフラとしての司法の重要性が増している。訴訟のより一層の迅速化を図るためには、欧米諸国と比較しても極端に少ない法曹人口を大幅に増員することは不可欠である。このため、司法試験合格者の1,500人程度への増加については、既往の閣議決定に従い、その着実な推進を図るべきである。

 なお、法曹人口の大幅増員については、現在、司法制度改革審議会において検討が進められており、その検討結果をも踏まえて、適切かつ迅速に実現を図る必要があり、同審議会において、前向きの改革案を可能な限り早期に取りまとめられることを強く期待する。

 イ 司法修習を経ていない者に対する法曹資格の付与の拡大

 司法試験合格の後司法修習を経ない者に対する法曹資格の付与に関しては、現在、裁判所事務官、法務事務官、法制局参事官等、官の部門等における実務経験が司法修習に代わるものとして認められている。しかしながら、国際化、技術の高度化が進む中で、民間企業の下で一定の法務業務に従事する場合にも、司法修習に十分に代替する実務経験と認めることが可能な場合があると考えられる。

 ついては、規制緩和推進3か年計画(改定)の「司法試験合格後に民間における一定の実務経験を経た者に対して法曹資格の付与を行うための具体的条件等を含めた制度的な検討」につき、司法試験合格者数の1,500人への増加問題についての検討の一環として、早急に結論を出すべきである。

 ウ 外国法事務弁護士と弁護士との提携

 外国法事務弁護士と日本の弁護士との特定共同事業(以下「特定共同事業」という。)については、平成10年8月の外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(以下「外弁法」という。)の改正により、一定の緩和、拡充が行われたが、外国法事務弁護士は日本人・日本企業間における日本法に関する法律事務が行い得ないことから、特定共同事業も完全なパートナーシップとは言えないものとなっているほか、外国法事務弁護士による弁護士の雇用については依然として禁止されたままとなっている。

 外国法事務弁護士による弁護士の雇用を禁止する理由としては、雇用関係に伴う指揮命令権を通じて脱法行為を行うおそれがあることなどが挙げられているが、雇用主である外国法事務弁護士又は被雇用者である弁護士が仮に脱法行為を行えば当然それぞれ外弁法又は弁護士法に基づく懲戒を受けることとなる以上、雇用そのものを禁止する合理的で具体的な根拠に乏しいと言わざるを得ない。また、外国法事務弁護士による弁護士の雇用禁止規定をあたかも弁護士業務の独立性の要であるかのように言う議論も聞くが、弁護士の独立性は弁護士の使命又は職務として多年確立されてきたものであって、外国法事務弁護士による弁護士の雇用を認めたとしても、それゆえに弁護士の独立性が損なわれるとは到底考え難い。このように、外国法事務弁護士による弁護士の雇用を法律によって禁止することは必ずしも合理的な理由は見出せず、当委員会としては、内外の要望等を踏まえ、外国法事務弁護士による弁護士の雇用を禁止している外弁法の規定を見直し、廃止することを検討すべきであると考える。

 しかしながら、この問題についての検討は長時間を要するであろう現況を踏まえれば、その間、日本法及び外国法を含む包括的、総合的な法律サービスを我が国の国民・企業が受け得る環境を整備することが急務である。また、外弁法の改正で特定共同事業は緩和・拡大されたものの、その内容は未だ限定が残っているため、限定の境界が曖昧になることによる不都合が生じることも考えられる。

 このため、当面、外国法事務弁護士と弁護士による包括的・総合的な協力関係に基づく法律サービスがあらゆる事案について提供できるよう、特定共同事業の目的に関する規制を見直すなど所要の措置を検討すべきである。


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