9 医療・福祉

 医療・福祉分野における公的サービスの改革は、我が国の主要課題の一つとなっている。社会の急速な少子高齢化は、新たな医療・福祉サービスの提供を要請する一方、今後予想される低水準の経済成長と相まって、トータルコストの抑制と負担の見直しを迫っている。「多様で良質な医療・福祉サービスをいかに効率的に提供するか」、それが改革のテーマである。改革の遅れは現世代の安心を損ない、次世代への負担を増加させることとなる。

 医療・福祉の多くの領域では、サービス提供の主体が法令によって限定されており、そこに多額の税と社会保険料が投入されている。これらの領域では、これまで、安定的なサービス提供を優先する政策が採られてきたが、今後は、新たなニーズへの対応やサービスの向上を図るため、利用者の選択によるサービス提供主体間の競争の促進や提供主体の多様性の確保が必要である。その際、制度目的と整合を採りつつ、多様なサービス提供主体ができる限り公平な条件の下でサービスの充実を図り得るようにすることが望ましい。さらに、公的部門と民間部門との適切な役割分担の見直しも求められる。民間部門のサービス供給が一定水準に到達した分野や地域では、公的部門の撤退や民間部門では困難な領域への専門化が要請されるという一般原則が、医療・福祉分野においても、それらの分野の特性を踏まえつつ、適用されることが望ましい。

 医療・福祉サービスの改革には、資金や人材の再配分が必要である。目的を明確にしつつ、配分基準や配分方法の見直しは欠かせない。また、サービスの質の維持を目的にしてきた施設・設備の必置要件や人員配置基準についても、本質的な部分を見定め、環境の変化により不要になったり合理性を欠く部分については、規制を廃止又は改革すべきである。

 このようなサービス提供者側の改革とともに、利用者が多様で良質なサービスを選択しやすくする仕組みを導入することが重要である。このような観点から保険者の機能強化や、被保険者(利用者)の選択の自由については特段の工夫が求められる。また、選択を可能とするにはその前提としてサービス提供者側の情報をできる限り開示・提供することが肝要である。多額の税等を投入する分野としても、経営主体の財務内容の公開を含め、情報開示のシステムの整備を進めなければならない。

 さらに、医療・福祉分野、とりわけ医療分野においては、システムの効率化や利用者の選択を容易にするため、様々な視点からのサービスの標準化を図るべきである。他の医療・福祉先進国においても多様な制度の導入が試みられている。我が国の実情に適した制度の構築を精力的に進めることが必要である。

 今年度も上述のような観点を軸に様々なテーマを取り上げた。医療・福祉分野は、新たな産業の展開や雇用の創出が期待される分野でもある。多様で良質な、効率の高いサービスの提供が、この分野の健全な発展の鍵を握っている。

≪その1 医療分野における規制改革≫

(1)医療分野における法人形態の在り方等

 ア 国公立病院と民間病院の役割分担の在り方

 国公立病院については、これまで国民・地域医療の確保に大きく貢献してきたが、近年の民間医療機関の量的・質的充実に伴い、地域ごとに医療提供体制の在り方を決定するに際して、医療機関の機能に応じて、それぞれの地域における実状を踏まえた取組が求められている。今回、当委員会では、国公立病院のうち国の開設する医療機関に着目し、その中で医療機関数の最も多い国立病院・療養所を中心に検討を行った。

 国立病院・療養所については、国立病院・療養所の再編成・合理化の基本指針(昭和60年制定、平成8年改定:厚生省)においてその役割を国の施策として特に推進すべき政策医療の実施を担うこととし、基本的・一般的医療については、他の医療機関に委ねることとしている。現在、この方針に沿って、政策医療を遂行できない施設については、統廃合、経営移譲による民営化等を推進しており、平成11年の再編成見直し計画においては、平成11年12月現在、国立ハンセン病療養所13施設を除き計211施設ある国立病院・療養所を153施設にまで整理することとしている。

 また、国立病院・療養所の経費負担については、区分の明確化を行い、いわゆる一般医療は診療収入により賄い、政策医療等本来採算に乗らないとされた経費については一般会計から繰り入れることとしている。また、近年、一般会計からの繰入れ額は経営改善により減少している(平成6年度の2,588億円(繰入率24.9%)から平成11年度には1,418億円(繰入率13.2%)へと減少)。

 国立病院・療養所については、民間医療機関との役割分担をより適切なものとするため、今後とも政策医療の在り方を検討しつつその遂行を役割の基本とし、その再編成を計画に基づき着実に行うことが重要である。なお、政策医療の在り方の検討に際しては、新たに政策医療として期待される医療を取り込む一方で、広く実施が可能になった医療については一般の医療機関に委ねるなど、医療環境、社会状況等の変化に適切に対応するという観点も重要である。

 また、国立病院・療養所は、国立高度専門医療センター及び国立ハンセン病療養所を除き、平成16年度に独立行政法人に移行することとされており、企業会計を原則とした会計基準の導入等により、一層効率的・効果的な政策医療の遂行が期待される。

 国立病院・療養所以外の国公立病院についても、同様に民間医療機関との適切な役割分担を確保する観点から、その役割の明確化と必要に応じて業務を見直す等の取組を進めることが重要である。

 イ 民間病院の資金調達手段の多様化

 医療費の患者負担割合の増大など医療費の適正化に関する取組が進んでいる。そのような状況の中で民間医療機関による適切な医療の提供を確保する観点から、銀行等からの借入れに限らない資金調達手段の多様化の検討が重要である。

 厚生省では、平成11年度の医療経営安定化事業において調査・研究を実施するとともに、医療審議会において医療機関の資金調達について検討を行っているが、上記の観点から、資金調達手段の多様化について引き続き検討を進めるべきである。

 ウ 医療機関経営に関する営利法人の参入の検討

 医療サービスの質の向上には医療機関間の適正な競争の促進が重要であり、このため様々な取組が必要とされているが、医療サービスの提供主体についても、同様の観点から多様性が重要である。

 福祉分野においては、在宅サービス(通所サービスを含む。)に関して多様な主体の参入機会が増加しており、特に来年度から施行される介護保険法においては、在宅介護分野への営利企業の参入が認められている。現在、医療機関の経営主体については、原則として営利を目的とする者でないこととされているが、医療分野においても営利法人の参入を期待する声がある。

 以上のような状況を踏まえ、企業による病院経営について、問題点や課題を整理し引き続き検討していくべきである。

(2)病床規制の見直し

 都道府県が定める医療計画においては、病床の適正配置及び効率化の観点から、医療圏の設定及び医療資源の一つとしての必要病床数について定めており、都道府県知事は、二次医療圏が当該医療計画で定められている必要病床数を超えている場合(病床規制地域)等には、病院を開設しようとする者等に対し、病院の開設又の病床数の増加に関して勧告することができることとされている。また、都道府県知事は、病床過剰地域において、医療法に基づく勧告を受けそれに従わない病院等から保険医療機関の指定申請があったときは、申請された病床の全部又は一部を除いて保険医療機関の指定等を行うことができる。必要病床数の算定にあたっては、医療を受ける者や医療を提供する者、学識経験者等の委員により構成される都道府県医療審議会における審議等により、客観性や透明性の確保が図られている。

 病床規制は都道府県における人口当たりの病床数の地域間格差を縮小させ、医療資源の適正配分を推進する観点から意義はある。しかし、制度上、病床過剰地域では新たに病床を設けることが困難になっており、結果として医療資源の新たな投入が困難になっている地域がある。

 病床規制については、病床を急性期病床と慢性期病床に区分するなど当委員会の第1次見解を踏まえて見直しを検討し、平成11年度中に結論を得ることとされている。医療審議会の「医療提供体制の改革について(中間報告)」(平成11年7月1日)においても、急性期の患者のための病床と慢性期の患者のための病床の区分の機能分化とそれに関する人員配置基準、構造設備基準を設定する必要があるとしている。これを踏まえ、病床規制については、急性期患者のための病床、慢性期患者のための病床を区分する制度の導入を早急に進めるべきである。

 同時に、サービスの多様化、質の向上、コスト削減を促進する観点から、非効率な病床利用となっている医療機関に対して、その改善を促すための措置や、病院の廃業等に伴う不足病床の発生を活用し、新規参入を促進する積極的な方策を検討すべきである。

 さらに、必要病床数算定式の在り方について、医療資源の適正配分を推進するため、現行の算定式を見直すことについて、検討すべきである。

(3)レセプト処理の電算化

 診療報酬請求書及び診療報酬明細書の様式は省令によって定められており、保険医療機関又は保険薬局はこれらを磁気媒体又はフレキシブルディスクで提出できることとなっている。磁気媒体による請求は厚生大臣が定める地域に所在する保険医療機関又は厚生大臣が指定した保険医療機関に限定されており、平成11年4月現在、207の医療機関でその体制が整備されているが、全医療機関数の0.2%に過ぎず、医療機関のレセプト処理の電算化が進んでいない。

 したがって、医療機関、審査支払機関及び保険者における事務処理の合理化、効率化の観点から、完全ペーパーレス化による電算処理化を一層推進すべきである。

 医療機関からの磁気媒体によるレセプト提出の普及は、医療機関、審査支払機関及び保険者の事務処理の迅速化・効率化に資するものであり、また、将来の医療情報ネットワークの基盤となることが期待されることから、医療機関からの磁気媒体によるレセプト提出を一層普及・推進するため、積極的に広報活動を推進するとともに、今後、その普及状況を見つつ、必要に応じて普及方策についても検討すべきである。

(4)保険者機能の在り方

 ア 保険者による被保険者への情報提供等

 当委員会の第1次見解を踏まえ、規制緩和推進3か年計画(改定)では、保険者が被保険者に対して保険医療機関に関する情報を積極的に提供し、被保険者が医療機関を選択しやすくなるような仕組みの導入を検討することとされており、これについて検討を進めて早急に結論を得るべきである。

 本来、保険とは、契約概念の下、負担と給付の関係においてリスクマネジメントを果たすものであるが、日本の医療保険制度においては、その機能が十分ではなかった。したがって、今後は、保険者のリスクマネジメント機能を強化するためには、国民皆保険制度の維持を前提としつつ、被保険者、保険者、医療機関それぞれに対して保険の契約概念を徹底することにより、保険者間及び医療機関間の競争を促進することが重要であると考える。

 イ レセプト一次審査の自由化

 診療報酬の審査・支払については、昭和23年の厚生省の通牒によって、健康保険組合が保険医である医療機関と契約し、その診療報酬を審査支払機関を通じることなく直接支払うことは保険医制度の健全な運営を阻害するものとされている。このため、保険者は社会保険診療報酬支払基金などの審査支払機関にレセプトの一次審査を委託し、自らは二次チェックを行い、審査支払機関に疑義がある場合には再審査請求を行っている。

 しかしながら、診療報酬の審査・支払は、健康保険法及び国民健康保険法上、保険者の本来的な役割であり、保険者がレセプトの審査を行うことは、医療機関による診療報酬の過剰・不正請求の抑制、審査事務への競争原理の導入による効率化にも資するものである。

 保険者がレセプトの審査を行うことについては、1)保険者自ら必要な医師等を確保し、現行の審査支払期限内(約40日)において診療内容の適正な審査を行うことができる体制を整えなければならないこと、2)医療機関において保険者ごとに請求先を変えなければならないこと、3)レセプト内容の疑義の調整機構が複雑になることなどの問題が生じることが挙げられているので、このような問題も踏まえつつ、審査支払機関への委託を行わずに保険者がレセプト審査を行うことの可能性について、当事者の意向も考慮しつつ、検討し結論を得るべきである。

 ウ 民間保険事業者による健康保険組合の事務処理の委託等

 民間活力の利用および合理化、業務の集約化の観点から、保険者(健康保険組合)と民間企業(保険関係者等)が契約し、後者が健康保険組合の事務処理を委託できるように検討すべきである。このような仕組みにより、保険者の経営基盤が強化されることは、保険者機能の強化にも資するものである。

 保険者機能の強化については、国民皆保険制度の下での保険者の在り方と密接に関係することから、保険者の単位、規模等と併せて中期的に検討することが重要であると考える。また、保険者による医療機関の選択の視点から第三者による医療機関の評価の結果を利用するとともに、保険者が行う審査、点検に際し、必要に応じ、適切な範囲で、請求に係る医療機関の情報を入手できる仕組みについても中期的な課題として検討することが重要であると考える。

(5)医療費体系の在り方

 良質な医療の提供のためには、地域医療計画による効率的かつ連携の取れた機能的な医療提供体制の整備と併せて、各医療機関の適正な競争を可能とする環境の整備も重要である。その観点から、医療費体系を機能的な医療提供体制にふさわしいより公正でより効率的なものとする検討が重要である。

 ア 医療費体系とコスト評価の在り方

 診療に要するコストの全体は、医師の技術料のほか医療提供組織としての人件費や材料費等の維持管理費、建物・設備の減価償却費等の投資的経費、関連サービス等の諸経費も含めて成り立っている。しかしながら、医療費の償還に関する体系である診療報酬体系には、元来、投資的経費、維持管理費等について、医療機関の形態を考慮して評価する仕組みがない。このため、現在の診療報酬体系に代えて、投資的経費等を含む医療費の全体を適切に評価する新たな医療費体系の必要性が指摘されている。

 投資的経費については、厚生省の医療保険福祉審議会がまとめた診療報酬体系のあり方についての意見具申(平成11年4月16日)において、一律な価格となる診療報酬ですべて対応するのではなく、補助金等の他の仕組みとの組合せで対応すべきとの方針が示され、現在、中央社会保険医療協議会の場で具体的な方策について検討が行われている。

 医療機関の形態に応じた投資的経費の公正な評価は、良質かつ適切な医療の効率的な提供とその再生産を可能にする観点及び良質な療養環境の確保の観点から重要であり、その評価に関する検討を急ぐべきである。また、維持管理経費等の評価についても検討を進め、それらを含めた医療費体系の整備を図るべきである。なお、医療費の評価に際しては、都市部と地方におけるコスト差や収支状況の違いを踏まえて検討することも重要と思われる。

 さらに、今後とも医療を取り巻く環境の変化に応じて医療費体系の見直しが適切に行われることが重要であり、定期的な見直しに関する手続を制度上に組み込むなど、必要な措置を検討すべきである。

 なお、医療費体系の見直しに当たっては、医療に関わる多様な関係者の意見を適切に反映する仕組みが必要である。

 イ DRG-PPSの導入

 現在の診療報酬体系は、出来高払いを基本としているが、医療提供体制の整備と高齢化が進展した現在においては、費用対効果に問題があることが指摘されている。このため、医療費の償還に新たな方法を導入する必要性が生じている。医療費の償還には種々の方法があるが、DRG-PPSはその一つであり、既に米国等においては導入されているが、我が国では現在検討段階にある。

 DRG(diagnosis related groups)とは、各種疾病を人的資源、医薬品、医療材料等の医療資源の必要度から、統計上で意味のある数百程度の診断群に整理・分類し、それに基づき管理を行う手法である。これと医療費の包括払い(PPS:prospective payment (pricing) system)を組み合わせ、DRGにより分類した各診断群ごとに、その標準的な治療法に要する経費から医療費包括払いの支払額を定める方法がDRG-PPSである。

 DRG-PPSの導入に向けた検討状況については、医療保険福祉審議会から出された前述の診療報酬体系のあり方についての意見具申において、出来高払いと包括払いの最善の組合せを目指すべきこと及び段階的に包括払いを導入すべきことが示されており、さらに急性期入院医療の診断群別定額払い方式について、昨年より国立病院を中心とする10施設において183診断群に関して試行中である。

 DRGについては、医療の標準化による医療の質の向上という観点から重要な手法であり、DRG等の管理手法の普及を促すため必要な措置を講じるべきである。また、診断名等の用語の標準化、根拠に基づく医療(EBM: evidence based medicine)についても併せて推進することが、DRGの普及にとって重要である。

 さらにDRG-PPSについては、医療費体系の合理化の観点から重要であり、その導入に際して必要となるデータの収集と具体的な導入方法の検討を急ぐべきである。

 その際、既に海外において得られているデータ及び導入されている制度を参考とすることが重要である。

 また、PPSの欠点として粗診・粗療を招く可能性があるとの指摘があるため、具体的な問題点について併せて検討を進めるべきである。

(6)医療における広告・広報及び情報開示等

 ア 広告規制の見直し

 現在、医療に関する広告については、客観性を欠く情報や不正確な情報から患者を保護する観点に立って、医療法において、原則として広告を禁止した上で、医師又は歯科医師である旨、診療科名、紹介することができる他の病院の名称又は診療所の名称等について広告することが認められている。

 患者が良質な医療の提供を受けるためには、適切な医療機関を選択するに十分な情報が必要となる。このため、より幅広い情報提供の必要性が指摘されており、この観点から広告規制の見直しが進められている。

 医療分野の広告規制の見直しに当たっては、客観性・正確性の確保に留意しつつ、患者の病院選択に必要な項目を明確に示す観点から、広告事項の拡大が検討されている。医療審議会の中間報告(平成11年7月1日)においては、今後は、医療機関や医療従事者についての事実や客観的な情報など検証可能な事項については、幅広く広告できることとすべきであるが、診療内容に関する事項など検証が困難なものについては、その広告の可否について慎重な検討を加えた上で、個別に広告し得る事項としていくことが望ましいとされている。これを踏まえ、引き続き広告事項の拡大について検討し、早急に結論を得るべきである。

 なお、医療機関の広告の在り方については、病院と診療所を取り立てて区別する必要はない。

 また、患者が適切な医療機関を選択できるようにするためには、医療機関の機能評価に関する情報が重要であり、このため、第三者機関による客観的な評価結果について広告事項に取り入れることが重要である。医療機関の機能を評価するに当たっては、客観性及び学術性に基づくとともに、医療機関による患者サービスへの配慮、院内環境向上のための取組や、さらに患者の視点に立った診療の実践のための取組等を十分に尊重することが重要である。なお、競争によって評価の質を高める観点から、多様な評価機関が存在することが望ましい。

 さらに、患者への十分な情報提供のためには、本来、医療機関が地域社会と連携を深めることが重要であり、情報発信や地域活動への参加などの積極的な広報活動をすべきである。広告規制の見直しに当たっては、そのような観点を含めて検討することが望ましい。

 イ 診療情報の開示

 診療情報の開示については、医療審議会から出された医療提供体制の改革についての中間報告(平成11年7月1日)において、インフォームド・コンセントの理念に基づく医療を一層推進する観点から重要であり、医療従事者の自主的な取組みが医療現場に定着することや、3年を目途に環境整備の措置を推進することが必要であるなどとされている。医療機関におけるカルテ開示の自主的な取組を促進するとともに、環境整備を早期に推進すべきである。

 ウ 医療情報の整備

 医療情報の整備は、標準化した医療を確立する上で、極めて重要である。

 これに関しては、規制緩和推進3か年計画(改定)により、患者の治療前の状態、治療方法及び治療後の状態を的確に把握するためのデータベースの構築に向けて、病名、処置、医薬品、手術等の用語及び記述方式の標準化を進め、平成12年度までのできるだけ早期に標準化を終了することとされており、その取組を注視する。

≪その2 福祉分野における規制改革≫

(7)介護保険法の円滑な実施

 平成12年4月から実施予定である介護保険法(平成9年法律第123号)により、従来措置制度を基本としていた老人福祉の分野が、個々の利用者が民間事業者等により提供されるサービスを選択する制度に変わる。この制度の趣旨が「利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス・福祉サービスを総合的に受けられる仕組みを創設する」というものである以上、民間事業者の市場への参入を容易にし、利用者が享受するサービスの選択肢を広げる実質的な方策が担保されなければならない。また、サービスの質の確保についても、制度的な配慮を欠かすことができない。当委員会では、当該制度の趣旨を最大限尊重しそれが徹底されるよう、今年度、個々の地域における介護サービス事業への民間参入、特別養護老人ホームへの民間企業の経営参入、有料老人ホームのサービス提供を論点として取り上げた。

(7-1)個々の地域における介護サービス事業への民間参入

 ア 事業者指定の公正の確保

 個々の地域における介護サービス事業(注1)への民間参入という論点では、特に居宅サービス事業(注2)及び居宅介護支援事業(注3)への民間参入について、懸念される点を取り上げた。多様な事業主体による多様なサービスの提供を確保することは、介護保険法の重要なねらいの一つであり、介護保険法の施行に当たっては、都道府県及び市町村において等しくこの制度の趣旨が徹底されることが必要である。そのためにも、1)一定の要件を満たした居宅サービス事業者及び居宅介護支援事業者に対して都道府県知事が公正な指定を行うこと、及び2)当該指定を受けた事業者に対して地方公共団体が可能な限り情報提供を始めとする公正な対応を行うことを確保しなければならない。

(注1) ここでは、「介護サービス事業」とは、居宅サービス事業、居宅介護支援事業及び施設サービス事業の総称をいう。その事業を行う者を「介護サービス事業者」という。
(注2) 訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、痴呆対応型共同生活介護、特定施設入所者介護又は福祉用具貸与を行う事業をいう。その事業を行う者を「居宅サービス事業者」という。
(注3) 居宅要介護者等が指定居宅サービス等の適切な利用等ができるよう、当該居宅要介護者等の依頼を受けて居宅サービス計画を作成するとともに、当該計画に基づく居宅サービスの提供が確保されるよう、指定居宅サービス事業者その他の者との連絡調整その他の便宜の提供を行い、及び介護保険施設への入所を要する場合は介護保険施設への紹介その他の便宜の提供を行う事業をいう。その事業を行う者を「居宅介護支援事業者」という。

 イ 事業者の情報公開及びサービスの質の評価

 多様なサービス提供主体の参入を促し、介護サービスの供給量を増加させる一方で、様々な介護サービス提供主体の間において公正な競争を確保することによって介護サービスの質の向上を担保する手段も重要となる。多数の介護サービス事業者の中から利用者が自己に最適な事業者を選択するのみならず、介護支援専門員(注)が利用者にとって最適な介護サービス事業者を選択することを可能とするためには、利用者及び介護支援専門員に対する情報提供の充実が不可欠である。その一環として、複数の中立的な第三者による明確な指標に基づくサービス内容の評価の実施、及びその結果を公表するための仕組みを早急に検討し、その実現に向けて必要な支援を行うべきである。

 また、その仕組みの検討の中で、特別養護老人ホームに対して平成5年より都道府県により実施されている特別養護老人ホーム・老人保健施設サービス評価事業についても、評価内容、方法等の見直しを図るべきである。

(注) 要介護者からの相談に応じ、及び要介護者等が心身の状況等に応じ適切な居宅サービス又は施設サービスを利用できるよう市町村、居宅サービス事業者、介護保険施設等との連絡調整を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有する者として厚生省令で定めるものをいう。

 ウ 事後チェック体制の整備

 介護サービスが個人の生命、財産、プライバシー等の基本的な人権と深く関わらざるを得ない業務であることにかんがみ、介護保険法施行後の状況を注視し、必要に応じ、介護サービス事業者についての指定要件の基準等の見直しも行うべきである。

 また、事後的なチェック体制を整備し、介護サービス事業者と利用者との間の契約の締結、履行の状況等も含め監督していくことが必要である。監督の結果、客観的に事業者として不適格であると見なされる場合には必要な指導を行い、なお改善が見られない事業者については市場から早期に排除するべきである。

(7-2)特別養護老人ホーム

 特別養護老人ホームについては、当委員会の第1次見解の指摘を踏まえ、規制緩和推進3か年計画(改定)において、「特別養護老人ホームに対する民間企業の参入については、入所者が生活拠点を失うことがないよう、他の事業活動が特別養護老人ホーム事業に直接影響を及ぼさない仕組みの検討と併せ、社会福祉法人制度の見直しや介護保険施行を含めた規制緩和の効果等を踏まえつつ、今後更に検討し、結論を得る」こととされている。

 また、雇用創出・産業競争力強化のための規制改革(平成11年7月13日産業構造転換・雇用対策本部決定)においても、「特別養護老人ホームを営む社会福祉法人の資産等の要件を緩和するための措置を早期に講じる。特に、特別養護老人ホームに係る社会福祉法人の設立要件を緩和し、施設用地について、都市部以外の地域においても、国又は地方公共団体以外の者からの借受けでも認める。」とされている。

 ア 特別養護老人ホームの施設基準等の見直し

 特別養護老人ホームを営む社会福祉法人の資産要件のうち、施設用地については、都市部以外の地域においても国又は地方公共団体以外の者からの敷地の借受けを認めるべきである。また、集中的な調理技術の発展を考慮すれば、食事を施設外で調理し搬入する選択肢を認めるよう見直しを行うべきである。

 また、省令改正(注1)により、平成12年4月から介護職員又は看護婦、看護士、准看護婦若しくは准看護士の配置基準が、約4対1から3対1に引き上げられる。これに伴い、従来、非常勤の直接処遇職員(生活指導員、寮母及び看護婦若しくは准看護婦)の直接処遇職員の総数に占める比率の上限を2割と規定していた取扱い(通知(注2))が廃止されることとなる点を評価する。

(注1) 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第46号)
(注2) 養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準の施行について(昭和41年12月16日厚生省社会局長通知)

 イ 特別養護老人ホームへの民間企業の経営参入

 民間企業による特別養護老人ホームの経営参入については、介護保険法施行後の施設介護サービスの提供状況等の効果を踏まえつつ、事業の継続性や安定性を確保する仕組みの検討や社会福祉法人制度の見直しを含め、その推進に向けて早急に検討すべきである。

(7-3)有料老人ホーム

 ア 有料老人ホームへの指導の徹底

 有料老人ホームへの入居希望者の情報提供に関して、厚生省及び社団法人有料老人ホーム協会において、公正取引委員会の意見を踏まえた、利用者の側に立った情報提供の形態、内容の適正化を図るための取組がなされており、この点につき評価する。

 また、有料老人ホームが介護保険法に基づく指定を受けたことを入居者に告知しないことによる「二重徴収」の問題については、既に指定基準により、有料老人ホームが介護報酬を代理受領する場合は、入居者の同意を得ることが義務づけられているが、この点については周知徹底を図るべきである。

 さらに、有料老人ホーム設置運営指導指針において、提供される介護サービス内容を契約書等に明示することとされているとともに、有料老人ホームの経営状況や将来の見通しについて入居者等の理解に資するために財務諸表や事業収支計画の情報公開が図られているが、この点についても指導を徹底すべきである。

 イ 介護保険施行後のサービス区分の明確化

 有料老人ホームの提供するサービスについては、利用者保護及び介護保険法の適正な施行を確保するため、保険給付によるサービスと通常のサービスの区分等、利用者に対して明示すべき事項について指導を行うべきである。

 ウ 有料老人ホームの重要事項説明書等の見直し

 介護保険法の施行により、一定の基準を満たす有料老人ホームの介護サービスは特定施設入所者生活介護サービスとして介護保険給付の対象となる。こうした中で、有料老人ホームの健全な発展に資するため、有料老人ホーム設置運営指導指針に定める契約の内容や重要事項説明書の記載内容などについて、介護保険法の施行に伴う、所要の見直しを行うべきである。

(8)少子化対策の推進

(8-1)需要に応える多様な保育サービスの提供

 公立以外の民間保育所の設置経営は、原則として社会福祉法人によることとされている。このため、企業やNPO等が経営する保育所は、現在、保育サービス水準の如何を問わず、認可保育所として公的補助を受ける対象となっていない。

 厚生省の調査によれば、保育所への入所待機児童(注)の数は、都市部を中心として、平成9年4月には全国に約4万人存していたが、平成11年4月には約3万2千人となっており、減少傾向にある。

 しかし、そもそも近くにニーズに合った利用可能な認可保育所がないなどの理由により、申込み自体が行われていない場合には、待機児童数にカウントされないことがあるなど、保育所への入所を待機している児童は、数値で示されている需要とともに、これを上回る潜在的需要も考慮していく必要があると考えられる。

 労働統計によれば、近年、女性の社会進出等が進む中で、家事・育児の制約のために、就業を希望しているにもかかわらず家庭にとどまっている者がいまだ相当数おり、また、0(ゼロ)歳児保育、延長保育、夜間保育、休日保育等保育サービスの多様化に対するニーズも高いことから、保育サービスに対する潜在的なニーズは、単に保育所への入所待機児童数で示される水準よりも高いと認められ、このような状況が、家族が子供を持ちたくても持てない一つの原因となっていると考えられる。

(注) 保育所入所申込書が市区町村に提出され、かつ、入所要件に該当しているものであって、現に保育所に入所していない児童を指す。

 ア 児童の保育に係る福祉サービスへの民間企業の参入

 少子化問題解決のためには、保育所への入所待機児童数の動向と併せ、保育の潜在的ニーズにも配慮した保育サービスの量的拡大は必要であり、適切な保育サービスを提供する企業等の民間法人にも認可保育所への道を幅広く開くため、平成11年度中に、社会福祉法人以外の民間法人も認可保育所の設置主体として認めるための所要の措置を講ずるべきである。

 これにより、保育サービスの多様化と質の向上を図り、利用者の需要に応じた魅力ある保育サービスの提供が可能となるものと考えられる。

 なお、都道府県が保育所を設置認可する際の基準を示すに当たっては、民間事業者の事業の継続性・安定性の確保等に留意しつつも、その他の面においては民間事業者がその他の主体と差別的な取扱いを受けないような指針とすべきである。

 また、地方公共団体が、保育サービスに対する住民の多様なニーズに応えるため、市民ボランティアを始めとする様々な先進的・試験的な取組を積極的に育成・支援することを期待する。

 イ 在宅保育サービスの普及

 児童の保育サービスについての多様な需要に的確に対応する観点から、いわゆる保育ママ(特別の施設を不要とする自分の家庭で他人の子供の保育を行う者)やベビーシッター(主として他人の家庭で直接子供の保育をする者)などの在宅保育サービスについては、透明性の確保に配慮したサービスが適切に提供・利用されるよう支援を講ずるべきである。

(8-2)保育所の設置、運営、利用に係る制度の見直し

 保育サービスの提供主体に関する規制の在り方を見直すことなどにより需要に応え得る多様な保育サービスの提供を確保していくとともに、認可保育所の施設要件、定員要件、利用や運営に係る仕組みについても見直しを行い、潜在的需要を含めたより広範な国民の保育ニーズに応えていくための条件整備を進めていく必要がある。

 ア 保育所の設置に係る制度(調理室の必置規制等)の見直し

 認可保育所の設置に係る規制の見直しについては、その設置を容易にするため、平成11年度中に施設の自己所有規制を緩和し、賃貸方式を認めることとされており、その実施へ向けた取組を注視する。

 また、認可保育所では、調理室を設け、調理員を置くことが義務付けられている。

 この調理関係の規制については、平成10年の児童福祉施設最低基準の見直しにおいて、1)保育所内の調理室を使用すること、栄養士による配慮が払われていること等の要件を満たしていれば調理の業務委託を行うことができ、2)調理業務の全部を委託する施設にあっては調理員を置かないことができることとされている。

 今後、調理室の在り方については、保育所設置者に対して過度の負担となっていないか、子どもの成長段階や体調に応じた離乳食やアレルギー、アトピー等への配慮が十分行われるか、安全・衛生面及び栄養面での質の確保等に十分留意できるか等を考慮する必要がある。調理室の必置規制については、調理、保存技術等の進歩も考慮し、平成10年の見直しの実施状況等も踏まえながら、例えば、食事を施設外で調理し搬入する選択肢を認めることの可否を含め、引き続き緩和を検討すべきである。

 イ 夜間保育所に係る規制の見直し

 夜間保育所については、先般の労働基準法の改正により女性労働者に対する深夜業の規制が平成11年4月から解消されたことにより、一層のニーズの拡大が見込まれるが、平成11年4月1日現在、全国で43か所にとどまっている。平成11年度中に、昼間の保育所と併せて夜間保育所の入所定員について、30名以上から20名以上に変更されることとされており、その実施へ向けた取組を注視する。さらに、今回の定員要件緩和後の夜間保育所の設置状況や延長保育の推進状況等を踏まえつつ、夜間の保育需要に対する施策を推進するべきである。

 また、昼間の保育所の施設に夜間保育所を併設して夜間保育を実施する保育所において、保育所の調理員が調理を行う場合には、既に調理室については兼用を認めているが、調理員についても兼務を認めることについての検討を行い、早急に結論を得るべきである。

 ウ 休日保育の推進

 収入を目的とした仕事を続けている女性については、かなりの割合で休日に仕事をしており、家庭環境により異なるものの、休日保育に対する潜在的な需要は根強いと認められる。休日保育の取組は、平成11年度において、保育所で休日保育を実施する場合に、どのような実施体制が実態に合った効果的なものかを検証するため、全国81か所(平成11年11月17日現在)で試行的に休日保育事業が実施されている。その実施状況や利用状況等を踏まえながら、早急に休日保育を推進するべきである。

 エ 利用の申込み、利用者に対する直接補助方式

 措置制度の下では、一応利用者の希望を採ってはいたものの、保育所の最終的な選定は市町村の裁量に委ねられていたが、これについては、児童福祉法(昭和22年法律第164号)の改正により、平成10年4月から、保護者が保育所を選択して利用できる仕組みに改められるとともに、保育所も保護者の依頼を受けて、申込書の提出を代行できることとされるなどの改善が図られている。

 しかし、この場合であっても、保育所は取次ぎを行っているにすぎず、市町村が審査事務を行い最終調整の上保育所への入所決定を行う仕組みは変わっていない。また、市町村が審査・最終調整の上入所決定を行うため、決定の時期が遅くなるとの指摘もある。このため、速やかに保育の可否を決定するよう市町村を指導するとともに、児童福祉法の改正による新しい入所方式の実施状況等を踏まえながら、長期的には、保護者が直接保育を希望する保育所に申し込み、当該保育所が保育の可否の審査・決定を行うことができる仕組みの導入ができないか、その可否について検討すべきである。

 また、利用者と施設との直接契約を検討する際には、保育の質の確保に留意しつつ、保育に係る公的負担の平準化を図るとともに、多様な事業者間の対等な競争の促進等を通じ、保育所の利用者の選択を広げる観点から、保育所に対する補助ではなく、利用者への直接補助方式の導入ができないか、その可否について検討すべきである。

 オ 入所決定の弾力化のための仕組み

 乳児の年間の入所数が大きく変動していることにかんがみると、保育ニーズは年間を通じてかなり変動していると考えられる。平成10年度及び11年度において、保育所の入所定員が弾力化されるとともに、平成10年度から、最低基準上の保育士定数の2割までは非常勤の保育士でも可能とされたことは、評価する。

 今後、利用者の利便性を更に高めるため、1)定員の弾力化を活用した保育所入所受入枠の拡大、2)保護者が育児休業を取得する際、休業開始前に既に保育所へ入所していた児童がいる場合には、継続して入所できるようにすること、また、3)保護者が求職中でも入所できるようにすること等について市町村を指導すべきである。


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