10 雇用・労働

 経済活動の国際化や人口の少子高齢化という社会経済環境の長期的変化の中で、雇用流動化に対応した規制改革が求められている。労働市場は、企業内、企業外のいずれにあるかを基準として、内部労働市場と外部労働市場とに分かれるが、このうち内部労働市場に関しては、平成10年に労働基準法の改正が行われ、本年4月1日から施行されている。また、外部労働市場についても、職業安定法及び労働者派遣法の改正が本年6月に実現したことにより、規制改革という点で大きな前進が見られた。後者に係る改正法は7月7日に公布、一部の規定を除き12月1日に施行され、現在に至っている。中でも、職業安定法の改正は、昭和22年の立法以来、半世紀余を経て初めて実現した大幅改正であり、労働者派遣法の改正と相まって、昨年12月の第1次見解の中で示した当委員会の見解の多くが実現を見たことは、これを評価する。

 しかし、規制は細部に宿るともいう。第一線の現場における法令等の運用が変わらなければ、真の意味における規制改革が実現したとは言い難い。そこで当委員会では、本年7月の論点公開において、これら改正法の施行を念頭に置きつつ論点を提示するとともに、労働省を含む関係者からのヒアリングを精力的に行い、10月12日には「雇用の流動化とセーフティネットの整備」というテーマで公開討論を実施した。また、この間、本年10月4日から24日にかけて、職業安定法及び労働者派遣法の改正を受けた政省令、指針及び許可基準の案等についてパブリック・コメント手続が募集され、その回答を通して、改正法に基づく規制について具体的な運用の基準が明らかにされた。その多くは、規制改革に対する労働省の真摯で積極的な姿勢を示すものであったが、そのすべてに当委員会が満足しているわけではない。残された課題も少なくない、というのが我々の率直な感想である。

 また、内部労働市場の問題に関連して、本年の論点公開では解雇規制の在り方にも言及した。この分野における判例法理、いわゆる解雇権濫用法理はもはや確立した感があるが、裁判では訴訟における当事者(インサイダー)間の利害調整のみが行われ、それ以外の者(アウトサイダー)の利害を反映できないという欠陥がある。さらに、裁判に訴えなければ企業による解雇権の濫用を防げないとすれば、労働者やその所属する労働組合の資力によって、労働者間に大きな格差が生じることになる。このように、法律ではなく、判例に専ら解決を委ねた解雇規制の現状を今後どう変えていくのか。セーフティネットの整備という観点も併せて、その在り方の検討を開始するべきではないか。そうした問題提起を我々は行った。

 本年4月の改正労働基準法の施行を含む相次ぐ法改正により、雇用・労働分野の規制改革は一段落したとの声も聞く。しかし、半世紀前に成立を見た法制度を短期間で変えることは難しく、規制改革の歩みはようやく緒に就いたばかりとも言える。これらの改正法の多くには3年後の見直し規定が設けられているが、その間においてこそ改革の方向を明らかにしていく必要がある。その意味で本見解においては、こうした中期的な課題についても検討の対象としたことを最初にお断りしておきたい。

≪その1 外部労働市場をめぐる規制改革≫

(1)職業紹介事業に係る規制の見直し

 平成9年4月の有料職業紹介事業に係る規制緩和を始めとして、この間最も大きな前進を見たのは、職業紹介事業に係る規制の見直しである。

 規制緩和推進3か年計画(改定)においては、1)有料職業紹介事業の取扱職業をネガティブリスト化するとともに、手数料規制を見直すこと、2)有料・無料の職業紹介事業の許可要件並びに許可及び更新許可に係る有効期間を見直すこと、3)無料職業紹介事業の許可制度を見直すこと、4)有料職業紹介事業と労働者派遣事業を兼業する際の許可要件を見直すこと、などの改革の方向が示されているが、改正職業安定法等の成立に伴い、これらの見直しについては平成11年12月1日から(上記の 2)のうち有料職業紹介事業の許可及び更新許可に係る有効期間の見直しについてはILO第181号条約の発効する平成12年7月28日から、また、4)のうち紹介予定派遣に係る要件の見直しについては平成12年12月1日から)施行されることとなった。

 これらの制度改革は、これまで行政改革委員会及び当委員会が行ってきた累次の指摘を基に、規制緩和の方向に沿った形で制度の見直しが行われたものである。当委員会としては、後述するような問題認識は有しているものの、改革が進展したことを評価する。

 ア 有料職業紹介事業のネガティブリストの範囲

 当委員会は、市場原理を通じた労働力の需給調整機能を強化するとの観点から、有料職業紹介事業において取り扱うことができない職業(ネガティブリスト)の範囲を必要最小限にとどめるべきであると指摘してきた。この点について改正職業安定法は、港湾運送業務に就く職業及び建設業務に就く職業とともに、「その他有料の職業紹介事業においてその職業のあつせんを行うことが当該職業に就く労働者の保護に支障を及ぼすおそれのあるものとして命令で定める職業」を取扱禁止職業として定めることとなったが、国外にわたる職業紹介を含め、命令によるこのような取扱禁止職業の指定は当面行わないことで決着を見た。その結果、ブルーカラー職種を含む広範な職業について、有料職業紹介事業を行うことができるようになり、労働市場において官民の競合する分野が飛躍的に拡大したことを評価する。

 イ 職業紹介事業の許可基準とその解釈運用

 改正職業安定法は、有料職業紹介事業の許可基準を法定し、無料職業紹介事業について、これを準用することとしている。しかし、法定された許可基準には、「申請者が、当該事業を適正に遂行することができる能力を有すること」などなお不明確なものが含まれており、当委員会としては、許可基準の解釈及び運用に当たって、許可制の名の下に参入規制が行われることのないよう、許可基準を具体化した明確で合理的な内容の審査基準の案を前もって一般に公表し、パブリック・コメント手続を経た上でこれを定めるよう求めてきたところである。

 当委員会としては、こうした手続を経て今般定められた審査基準が、法律により求められる要件をより具体的に示したものとなったことを評価する。今後はその的確な運用を徹底することが重要であり、特に、ヒアリング等を通じて明確になった以下の運用基準については、その周知徹底を図る措置を講ずるべきである。

  1)許可申請
 許可に要する標準処理期間は80日間とされており、申請者の協力を得ながらこの間に処理すること。また、申請時点では、事業所については賃貸借契約が締結されていればよく、職員についても採用内定でよいこと。(ただし、事前調査の必要があるため、許可予定日の10日程度前にはそれが可能な状態にしてもらう必要はある。)
  2)許可単位
 企業単位の許可に対する要望に関連しては、許可を事業所単位で行うことが基本であるが、手続の簡素化については統括事業所制度があること。
  3)広域紹介
 本年7月に解禁された広域職業紹介については、許可を受けた事業所で、全国ベースの紹介を行うことができ、採用予定地に事業所を持つ必要はないこと。
  4)業務提携
 事業者間の職業紹介業務の提携については、求職者から事前の同意を得るなど、個人情報の保護等を十分行った上で認められること。なお、同一事業者内の情報交換については、個人情報の収集目的の範囲内であれば可能であること(業務提携とは異なる)。
  5)業務内容
 採用を行うのはあくまでも求人企業であり、職業紹介事業者が選考(採用内定)を行うことは、職業紹介の範疇に含まれないことから認められらないが、採用予定者の絞り込みは、職業紹介の一環として行えること。
 なお、以上のほか、職業紹介責任者については、現在は有効求職者500人につき1人の割合で選任することとされているが、事業所側の責任の所在を明確にするためにも、1事業所に1人とするべきであるという意見がある。これについては、有効求職者の意義を現実に即した形で定めることにより対応が可能であるかどうかも含め、改正法の施行状況を見た上で、3年後の制度全体の見直しの際に検討するべきである。

 ウ 無料職業紹介事業の許可制の見直し

 学校等が行う無料職業紹介事業については、職業安定法に基づき、労働大臣への届出制が採られているが、学校等以外の者が行う無料職業紹介事業については労働大臣の許可を受けなければならないとされている。このうち無料職業紹介事業の許可制度については、規制緩和推進3か年計画(改定)により、ILO第181号条約等を踏まえ、その在り方を見直すこととされ、検討が行われたが、その結果、不適格な業者の参入を排除することにより事業運営の適格性を確保し、求職者の利益を保護するとの観点から、従前どおり許可制が維持されることとなった。

 しかしながら、雇用形態や就業意識の多様化が進む中で、職業紹介事業法制全体の在り方については今後とも引き続き必要に応じて見直しが行われる必要がある。改正職業安定法については、施行後3年後を目途に見直しを行うこととされており、無料職業紹介事業の許可制の在り方についても、改正後の無料職業紹介事業制度の活用状況等を勘案しつつ、改正法全体の見直しの一環として検討を行うこととするべきである。

 なお、無料職業紹介事業の許可基準において、事業主体に係る要件が原則として撤廃されたことを評価する。これについては、改正職業安定法が定めるように、労働大臣による取扱職業等の制限はあくまで事業者が申し出た場合に限定されることが許可の運用上も確保されるべきであり、また、実際の運用においてこうした申し出を勧奨するようなことがないよう徹底するべきである。

 エ インターネットの活用と情報公開

 近年、我が国においても、インターネットを経由した商取引(電子取引)が急速な普及を見せており、職業紹介の分野においてもインターネットの活用について積極的に道を開くべきである。しかしながら、現行の法制度は、相対(あいたい)での職業紹介を暗黙の前提としており、ネット上におけるバーチャルな世界での職業紹介を想定したものとはなっていない。また一方では、ネット上において個人情報の保護をいかに図るかといった問題も懸念される。

 現行法上、インターネットを経由した職業紹介は禁止されてはいないが、インターネットを活用したもののうちどのようなものが職業紹介に該当するのかについては、目下のところ、明確な位置付けがなされるまでには至っていない。今後は積極的にインターネットを職業紹介に活用できるよう、その明確な基準を指針等の形で示すことを検討するべきである。

 また、公共職業安定所が収集した職業情報のインターネットによる提供も始まっているが、現状は試行段階にある。インターネットによる職業情報の提供については、2次利用・3次利用のおそれやクラッキング(ハッキング)等の問題があるほか、適格紹介が可能か、求職者間でアクセスの可否による不公平が生じないか等、検討を要する事項が少なくないのも事実であるが、公共職業安定所におけるサービスの向上を図る観点から、当委員会としては、提供される職業情報の内容について今後更に検討するべきであると考える。

 さらに、情報公開という点では、民営職業紹介事業の業務運営要領や労働者募集業務取扱要領を始めとする通達等についても、その内容をオープンにし、事業者や求職者、さらには一般社会によるチェックが働くようにすることが不可欠である。この点については、従前の要領等には、指導監督や取締りに関する部分が含まれていたため、業務運営要領に当たる部分も含めた全体の公開が十分になされないまま行政が行われていたという問題があったが、今回の改正職業安定法の施行に合わせて、業務運営要領等の部分を切り分けた形で通達等の公開がなされることになったことについては評価する。なお、通達等の周知方法としては、インターネットの活用も視野に入れるべきである。

(2)労働者募集に係る規制の見直し

 ア 委託募集に係る規制の見直し

 当委員会は、本年7月の論点公開において、委託募集の許可基準を定めるに当たっては、これが恣意的に運用されることのないよう明確で合理的な基準を定めるとともに、広く第三者に労働者募集を委託できるようにするべきであるとの問題提起を行った。こうした当委員会の指摘を踏まえ、新しく定められた許可基準においては、委託募集を行う事業主及び募集の委託を受ける募集受託者については、法令違反がなく、募集に係る労働条件が適正であること、また、募集従事者については、労働関係法令や事業内容に関して十分な知識を有していること等に限定する形で要件が定められており、その結果、広く第三者に労働者募集を委託できるものとなったことを評価する。

 しかし、ヒアリング等を通じて明確になった運用基準においては、職業紹介事業の許可を取得している人材スカウト型の職業紹介事業者に募集を委託する場合は委託募集の許可は不要とされる一方で、委託募集の許可を要するのはこうした許可を取得していない者に募集を委託する場合に限られるとの考え方が示されており、誰に募集を委託するかにより許可の要否が決まるという点で、許可制の在り方としては多少とも疑問を残すものとなっている。また、このような考え方は、マッチングに関与しない形で募集の受託業務を業として行おうとする者に対して、事実上、職業紹介事業の許可を取得することを勧奨するものともいえ、その意味でも疑問なしとしない。

 以上の点から、委託募集の場合、募集主自身が許可を取得しなければならないという仕組みも含め、委託募集の許可制の在り方について、職業紹介事業法制全体の在り方についての3年後の見直しの中で更に検討を行うべきである。また将来的には、許可制を届出制に移行することを併せて検討すべきであると考える。

 なお、一部では、遠隔地にある企業が離れた地域における労働者の募集を第三者に委託することは認められていないとの誤解があるが、現行法上それが可能であり、かつ何の制約もないことを、職業安定法の改正により通勤圏外の直接募集に係る規制がなくなったこととともに、周知徹底するべきである。

 イ 新規高等学校卒業者を対象とした文書募集

 現在、新規高等学校卒業者は、通達に基づく文書募集の規制により、自由応募が認められ同時に数社の会社訪問が可能な大学生等に比べて、就職先を決定する上で不利な状況に置かれている。一方、このような就職活動が学校教育に与える影響にも大きなものがある。

 こうした中、新規高等学校卒業者を対象とした文書募集の規制の在り方については、学校教育に与える影響等も勘案しつつ、見直しのための検討が進められており、平成11年度中に結論を出す予定となっているが、当委員会としても、その検討状況を注視していく。

(3)労働者派遣事業に関する規制の見直し

 規制緩和推進3か年計画(改定)においては、1)労働者派遣事業の対象業務をネガティブリスト化し、対象範囲を拡大すること、2)有料職業紹介事業と労働者派遣事業を兼業する際の許可要件を見直すこと、などの改革の方向が示されている。平成11年6月の改正労働者派遣法の成立に伴い、これらの事項については平成11年12月1日から(上記の 2)のうち紹介予定派遣に係る要件の見直しについては平成12年12月1日から)実施されることになった。

 これらの制度改革は、これまで行政改革委員会及び当委員会が行ってきた累次の指摘を基に、規制緩和の方向に基本的に沿った形で制度の見直しが行われたものであり、当委員会としては、後述するような問題認識を有しているものの、改革が進展したことを評価する。

 ア 労働者派遣事業のネガティブリストの範囲

 当委員会は、市場原理を通じた労働力の需給調整機能を強化するとの観点から、労働者派遣事業においても、有料職業紹介事業と同様に、事業を行うことができない業務の範囲(ネガティブリスト)は必要最小限にとどめるべきであると主張してきた。この点について改正労働者派遣法は、1)港湾運送業務、2)建設業務、3)警備業務、及び4)「その他その業務の実施の適正を確保するためには業として行う労働者派遣により派遣労働者に従事させることが適当でないと認められる業務として政令で定める業務」の計4つの業務を適用除外業務として定めるとともに、経過措置として、5)物の製造の業務についても、当分の間、派遣事業を行ってはならないと規定している。

 こうした法改正を受け、本年11月に公布された政令においては、医師、歯科医師、看護婦等の行う医療関係業務が政令指定に基づく適用除外業務として規定された。ネガティブリストの範囲がこのように医療関係業務に絞られたことについては、当委員会としても、これを評価する。しかし、以下に見るようにその範囲は極めて広く、これらの業務のすべてを「医師又は歯科医師の下での極めて高度な連携が要求されるものであり、また患者の生命に直接関わるものでもある」との理由(パブリック・コメント手続における労働省の回答)のみから労働者派遣事業の適用除外とすることについては、適用除外について明確で具体的かつ合理的な理由を示したものということは困難である。当委員会としては、その施行状況を今後とも注視していく。

  1)医師法(昭和23年法律第201号)に規定する医業
  2) 歯科医師法(昭和23年法律第202号)に規定する歯科医業
  3)薬剤師法(昭和35年法律第146号)第19条に規定する調剤の業務(医療法(昭和23年法律第205号)第1条の5第1項に規定する病院又は同条第2項に規定する診療所(以下「病院等」という。)において行われるものに限る。)
  4)保健婦助産婦看護婦法(昭和23年法律第203号)第2条、第3条、第5条及び第6条に規定する業務(他の法令の規定により、保健婦助産婦看護婦法第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず、診療の補助として行うことができることとされている業務を含む。)
  5)栄養士法(昭和22年法律第245号)第1条第2項に規定する業務(傷病者の療養のため必要な栄養の指導に係るものに限る。)
  6)歯科衛生士法(昭和23年法律第204号)第2条第1項に規定する業務
  7)診療放射線技士法(昭和26年法律第226号)第2条第2項に規定する業務
  8)歯科技工士法(昭和30年法律第168号)第2条第1項に規定する業務(病院等において行われるものに限る。)

 また、労働者派遣法上の適用除外業務となる建設の業務についても、パブリック・コメント手続における回答を通じて、これが土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備に係る業務をいい、建設工事の現場において直接これらの作業に従事するものに限られることが明確にされ、設計、積算、施工監理(工程管理を含む。)などの業務については、派遣事業の対象業務となることが確認されたことは評価する。

 イ 紹介予定派遣に係る兼業要件の緩和

 当委員会は、職業紹介をする手段として労働者派遣を行うものでないことを労働者派遣事業と職業紹介事業との兼業を許可する際の要件として定めた許可要件(審査基準)の部分については、これを削除し、双方の事業を兼ねることにより紹介予定派遣を行うことを認めるべきであると主張してきた。新たに定められた許可基準においては、上記の兼業要件を維持しつつ、1)派遣業務と紹介業務を明確に区分すること、2)個人情報を別個に管理すること、及び3)労働者の同意を条件とすることなどを要件として、紹介予定派遣を行うことを認めるものとなっている。

 このような形で紹介予定派遣が可能になったことについては、これを評価する。しかし、その実施時期が改正労働者派遣法の施行よりも更に1年遅れ平成12年12月1日まで延期されたこと、及び改正労働者派遣法や改正職業安定法の施行状況いかんによってはさらに実施を延期する余地さえ残されたことについては、これを遺憾とするものである。

 とりわけ、一方で改正労働者派遣法により新たに認められることとなった派遣業務について派遣期間を1年に制限し、1年経過後の雇用義務を派遣先に努力義務として課したことを考えた場合、紹介予定派遣は、こうした雇用義務の履行を実効あるものとするためにも、その確実な実施が必要である。このような観点から、紹介予定派遣については、少なくとも平成12年12月1日には確実に実施できるようにするべきである。

 ウ 派遣期間の制限緩和

 新たに労働者派遣事業の対象として認められることになった業務については、国会における審議を通じて、派遣による常用雇用の代替を防止するとの観点から、上述した雇用の努力義務に加え、1年の期間制限に違反した派遣先に対しては雇入れの勧告を行う旨が定められるとともに、1年を超えて労働者派遣を行った派遣元に対しては罰則が科されることになった。

 しかしながら、派遣労働者の中には比較的長期にわたる派遣を希望する者も少なくない。こうした派遣労働者の多様な要望に応え、派遣労働者の就業機会を確保するためにも、派遣期間の制限については、その例外を拡大することを検討することが適当であると考える。

 例えば、派遣労働者の多様な要望に応えるためには、1年の期間制限の適用を受けない「専門的業務」の範囲を拡大することも有効な方策の一つとなる。これについては、改正法施行後3年を経過した段階において見直しを行う中で、現行26業務の在り方を含めて総合的に検討するべきである。

 エ その他

 以上のほか、派遣元責任者については、現在は派遣労働者100人につき1人の割合で選任することとされているが、有料職業紹介事業における職業紹介責任者と同様、事業所側の責任の所在を明確にするためにも、1事業所に1人とすることに改めるべきであるという意見がある。これについては、改正法の施行状況を見た上で、3年後の制度全体の見直しの際に検討するべきである。

≪その2 内部労働市場をめぐる規制改革≫

(4)解雇規制の見直し

 冒頭に述べたように、解雇権濫用法理は、もはや判例上確立した感がある。しかし、裁判所は整理解雇を含む解雇を容易には認めない傾向にあり、このことが、企業の採用意欲を削いでいるとの指摘もある。解雇が困難であればあるほど(注)、企業は採用を控えることから、従業員数は、定年退職者等の自然減により減ることはあっても、増えることはない。解雇規制には、そのような副作用がある。

 そしてこのことが示唆しているように、解雇規制は在職者には有利に働くが、これから企業に就職しようとする者や一旦企業を辞めて再就職しようとする者には不利に働く傾向がある。つまり、インサイダー対アウトサイダーの関係が典型的な形で見られるのである。

 しかし、我が国のように判例に解雇規制を委ねている国においては、インサイダーの利益を守ることはできても、アウトサイダーの利益は守れない。裁判は、訴訟当事者(インサイダー)間の利害調整を行うには最適であっても、当事者ではない者(アウトサイダー)の利害を考慮することまではできないからである。他方、解雇規制を判例のみに依存する状況の下では、裁判に訴える資力に欠ける者は、いかに不当な解雇が行われようと救済を受けることができないという問題もある。

 以上のような認識の下に、まず解雇をめぐる実態を把握するべきである。また、その実態を踏まえ、解雇規制の在り方について立法化の可能性を含めた検討を行うことが適当であると考える。

(注) OECDの Employment Outlook 1999 によれば、我が国はポルトガル及びノルウェーに次いで、解雇が困難な国とされる。

(5)その他労働基準関係規制の見直し

 平成11年4月1日に改正労働基準法が施行され、高度の専門的知識等を有する者や満60歳以上の高齢者については、労働契約の期間を最長3年とする道が開かれることになった。また、平成12年4月1日からは、企業の中枢部門における企画、立案等の業務を対象とした新たな裁量労働制を実施することが予定されており、その円滑な実施を図ることは極めて重要である。

 しかし、有期労働契約及び裁量労働制については、対象が限定的であるなどの様々な問題点が指摘されている。当委員会としては、改正法の施行状況を見守りつつも、働き方の選択肢を拡大し、多様な働き方を実現する等の観点から、有期労働契約及び裁量労働制について、次のような検討を行うことが適当であると考える。
  1)有期労働契約
 多様な働き方を実現するとともに、新規事業の創出を促進する観点から、新たにベンチャー企業を立ち上げるような場合には、最長3年の有期労働契約がより締結しやすくなるよう、高度の専門的知識等を有する者の基準の運用について配慮すること。
  2)裁量労働制
 現行裁量労働制が対象とする専門的業務は、現在、研究・開発の業務をはじめとする11業務となっているが、働き方の選択肢を増やすという意味において、意見・要望があれば、これを踏まえ、対象業務の在り方について検討していくこと。

≪その3 労働市場におけるセーフティネットの整備≫

(6)労働市場におけるセーフティネットの整備

 労働市場をめぐる規制改革の目的は、自由で公正な労働市場を実現することにある。このような観点から、セーフティネットの整備の問題を取り上げる。

 ア 労働・社会保険の適用の在り方

 労働省の所管する雇用保険については、現在、短時間労働者や派遣労働者ヘの適用の在り方を含む制度全般の在り方について、中央職業安定審議会において議論が進められており、当委員会としてもその動向を注視していく。

 また、厚生省の所管する医療・年金保険に関しても、短時間労働者や派遣労働者への適用の在り方については、今後とも検討を深める必要のある重要な問題であると考える。

 イ 相談窓口の整備等

 労働組合の組織率の低下や就業形態の多様化、労働条件決定の個別化等に伴って、個別的労使間紛争が拡大する傾向にあることから、雇用関係全般の苦情・紛争について相談のできる窓口の整備や、関係法律の遵守をより効果的にする仕組みの在り方について検討することが重要な課題となっている。

 これについては、労働大臣の研究会である労使関係法研究会の報告を受け、現在労働省において、雇用・労働関係全般に係る苦情・紛争の相談体制を始めとした個別的労使紛争処理制度の在り方について検討が進められており、当委員会としても、その動向を注視していく。

 なお、平成10年の労働基準法の改正により創設された、労働条件に関する労使間の紛争について紛争当事者からの申出により都道府県労働基準局長が助言又は指導を行う制度についても、その動向を注視していく。


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