第3章 行政分野横断的な取組(各論その2)

1 基準認証等制度

 基準・規格及び検査・検定(以下「基準認証等」という。)について、政府は、規制緩和についての第1次見解における当委員会の指摘を踏まえ、各所管省庁が分野横断的な観点からの見直しを行うこととし、またこの見直し作業を規制緩和推進3か年計画の最終年度である平成12年度末までに完了することを目標とするとの方針を閣議決定した。

 当委員会は、政府におけるこうした見直し作業の状況を確認・検証することにより、見直し作業を平成12年度末までに完了するという政府自らが決めた目標の達成に資することを目的として、これまで、基準認証等のうち検査検定の実施主体の在り方等の問題を中心に各所管省庁から見直しの進捗状況についてヒアリングを行ってきた。しかしながら、その結果は、見直し作業が進みつつあることが確認されたものがある一方、一部の所管省庁からは、「自己確認・自主保安化はかえって行政コストの増大を招く」、「民間第三者機関による検査業務の実施は安易な運用を招く」といった意見が出される等、必ずしもその取組状況が十分とは言えないものがあることが確認されるというものであった。

 当委員会は、こうした各省庁の基準認証等についての見直し状況を確認・検証してきた第4ワーキンググループ・横断基準認証分野において、その中間的な状況を「横断基準認証分野における検討結果の中間的整理」として取りまとめ、本年10月に公表した。しかしながら、この見直し作業は本来政府が自らに対して課した課題であり、自らその進捗状況を的確に把握する必要があること等を踏まえると、政府において、各省庁における見直し作業の状況を中間的に取りまとめ、平成12年度当初を目途にこれを公表することとするべきである。

 当委員会は、上に述べた「横断基準認証分野における検討結果の中間的整理」の公表以後も、引き続き、各所管省庁における見直し作業と並行して、基準認証等の見直しについて審議を進めてきたが、その結果、必要な改善措置について差し当たり現時点までに当委員会として結論が得られた事項は、下記(2)中≪必要な改善措置について結論が得られた事項≫に述べるとおりである。これらの事項については政府において確実に実施することが必要である。また、≪必要な改善措置について結論が得られた事項≫として取り上げたもの以外の検査検定制度については、当委員会として、必要な改善措置について差し当たり現時点までに結論を得るには至らなかった。しかしながら、これらについても、検査検定の実施主体、対象とするものの範囲、性能規定化等の基準の枠組み、事後チェックの拡充・強化等について、規制緩和推進3か年計画(改定)に定める観点からの見直しが必要であり、上述のとおり、引き続き各省庁において閣議決定された内容に基づく厳正な対応が必要である。また、これら今回結論を得るに至らなかった検査検定制度については、当委員会としても、今後、審議を進めていくこととしたいが、その際、各省庁が特に留意すべき点を下記(2)中≪上記以外の事項≫において指摘した。

(1)検査検定制度の見直しの方向

(1-1)検査検定制度を取り巻く諸問題

 検査検定制度は、基準認証等の一部であるが、基準・規格(以下単に「基準」という。)に適合することを事業者等の自主的な判断に委ねるのではなく、検査や検定の受検により担保しようとするものである。このような検査検定制度としては、先に当委員会が今年度の論点公開において明らかにしたように、平成11年3月末現在で、11省庁が所管する延べ66制度(共管を含む。根拠となる法律の実数は延べ56)がある。(参考(170ページ)参照)

 それぞれの検査検定制度は、1)製品・施設等についてあらかじめ基準を設定する部分と、2)実際の製品・施設等が設定された基準に適合するかどうかについて検査検定を行う部分とから成り立っている。このうち、基準を設定する部分は、現在は、個別法に基づき、各省庁が独自に構造・形状・材質等の細部にわたる独自の基準(いわゆる仕様規定)を作成することが一般的であり、結果として、WTOのTBT(貿易に関する技術的障壁)協定などで要請されている技術的基準についての国際整合性が欠如した基準が作成されることとなったり、「タテ割り」的で思想が互いに異なる複数の基準が適用され、事業者側のコストを上昇させたり消費者に混乱をもたらしたりするほか、基準適合を示すマークについても、省庁や品目によって異なるものが用いられ、消費者にとって理解しにくいものとなっている例がある(注)等の問題点が指摘されている。さらに、仕様規定については、技術の進歩の著しい分野においては、技術の進歩に迅速・的確に対応して基準を見直すことが困難な場合があるとの問題も指摘されている。

 一方、検査検定を行う部分については、現在は、政府又は政府を代行する者に独占的に検査業務を運営させることが一般的であるため、検査業務に独占に伴う各種の弊害(コストの上昇やサービスの低下等)が発生しがちであるほか、民間検査機関が十分に育たないことや、相互承認を進める際の障害となりかねないこと、さらには、本来、製品・施設の安全等の法益の確保に責任を持つべき事業者側に、政府認証により基準への適合義務が免除されるなど、「官任せ」的な責任意識の稀薄化をもたらすことが懸念されることも指摘されている。

 こうした問題に対応していくためには、基準の設定については、性能規定化を念頭に置きつつ、国際規格の活用を進めること等が必要である。また、検査検定の実施については、製品流通前や設備使用前の規制(事前規制)に重点が置かれている結果、製品流通後や設備使用開始後のモニタリングや定期検査等に基づく流通・使用実態の把握が不十分となったり、基準違反が発生した際の迅速な措置を始めとする事後チェックが十分に機能しなくなっているとの弊害を是正することが必要である。このため、「事前規制から事後チェックへ」との考え方に基づき、事業者責任原則に基づく自己確認・自主保安化を進めたり、検査機関の能力・サービスの向上を図るため、民間検査機関を活用した第三者検査化を抜本的に進めていく一方で、これと併せて、民間検査機関に対する適切な監督・認定の制度の構築や、違反事案に対する摘発・是正体制の整備等、一連の事後チェック制度の拡充・強化とその厳格な実施を図っていくことが必要である。

<表:検査検定制度に係る現状と問題点・対応の方向>
現状問題点対応の方向
基準法律に基づき、各省庁が独自に決める。
国際整合性がない独自の基準になりがち。
政省令・通達等により詳細に規定するため技術進歩に追随しにくい。
国際規格の活用等。
検査検定政府又は政府を代行する者の検査検定の受検を義務付ける。
検査検定業務独占に伴う弊害の発生(コスト・サービス上の問題)。
本来の事業者責任意識の希薄化と、事後チェックの不徹底。
自己確認・自主保安化、第三者検査化等。
事前規制から事後チェックへの転換(事後チェックの拡充・強化とその厳格な実施)。

 このように、検査検定制度には多岐にわたる問題が存在するが、当委員会としては、今年度、これらの問題のうち、特に省庁側の対応が遅れていると考えられる検査検定の実施主体の面に焦点を当て、自己確認・自主保安化の推進や、第三者検査機関の活用を促すべく審議を行ってきた。

 合わせて、検査検定の実施主体の見直しに関連し、一部上記の表に示しているように、検査検定対象の指定、性能規定化等の検査検定基準の枠組み、事後チェックの拡充・強化等の対応の方向についても見解を付している。

(注) このような事例としては、例えば、使用目的は異なるものの、同じ乳幼児用製品でありながら、乳幼児ベッドについての基準は通商産業省が、チャイルドカーシートについての基準は運輸省が作成しており、基準適合マークについても異なる意匠が用いられていることから、安全規制への適合性について購入・使用時に消費者が判断するに当たって分かりにくくなっている事例が挙げられる。

(1-2)検査検定の実施主体について見直しが必要な理由

 検査検定制度の多くは、製品又は施設を対象に、これらが源となって危険・危害が生じるおそれがある場合において、事業者に検査検定を義務付け、基準への適合を確認することによって、危険・危害のリスクを社会的に受容できる程度のものにまで低下させることを目的として行われるもの(強制検査)である。

 強制検査の実施主体を見ると、先に述べたように、政府又は政府を代行する者に限定しているものが多い。我が国の検査検定業務の多くがこのように政府又は政府を代行する者によって行われている理由としては、1)「政府に検査能力がある」、2)「政府は公正中立である」、という2点が考えられる。

 しかしながら、これら2つの理由については、今日、改めてこれを検証してみると、必ずしも実態に即した十分な理由とは言えないことが分かる。

 まず、1)「政府に検査能力がある」、との点については、我が国において、これまで、政府が海外の進んだ技術の受入れ窓口となってこれを民間に普及してきた歴史がある中で、一般的に政府は民間事業者より高い能力を有するものと観念されてきたことによるものと考えられる。しかし、今日では、日本企業の多くは既に国際的にも技術的能力を高く評価されている実態があり、多くの分野において事業者に政府を上回る検査能力があると考えられるほか、検査機器の進歩により、比較的小規模な事業会社においても従来はできなかったような高度・精密な検査を実施することが可能になってきている。このほか、政府や地方自治体が検査検定を行う場合において、検査検定を行うために必要とされる能力や資格が客観的に明確にされていない状況で、単にその職にある者が、検査検定を行うという事例もあり、こうしたものについては、実態を踏まえた見直しが必要である。

 また、2)「政府は公正中立である」、とする考え方についても、政府の実際の行動が公正中立であるかどうかを検証した結果ではなく、単に国民を庇護する主体を政府と観念し、かつ、そもそも政府は公正中立であるべきとの前提に立って、その公正中立性を受け入れているにすぎないと思われる。しかしながら、今日では、ISO/IECガイド25、39、65のように、組織の中立性や行動ルール等について検査機関が従うべきガイドラインが策定されており、欧米諸国においては、これに基づき公正中立性を認定されたULやロイズ、TUV、SGS等の第三者機関が、消費生活用製品だけでなく、消防用機器や医療機器、さらには労働安全機器や大規模発電プラントまでの多種多様な検査を手掛けるようになっている。これに対して、我が国では、公正中立性の担保を主としてその組織が公益法人であるかどうかという外形的な基準に求めていることから、我が国の国内だけを活動基盤とする省庁タテ割り型の公益法人が安全検査の主体を担っているのが実態である。

 このように見てくると、検査検定業務について、1)検査能力を有し、2)公正中立に業務をなし得る主体による実施を求める、との基本は変わらないにしても、そのための方策としては、従来どおり政府又は政府を代行する者による独占を漫然と維持し続けることは適当ではなく、改めて、より実効的なリスクマネジメントを達成するためにはどのような検査検定制度としたらよいかについて、現状の実態を踏まえ、原理・原点に立ち返って、抜本的な見直しを行うことが必要になってきていると言うべきである。

(1-3)具体的な検査検定業務の見直しの方向

 検査検定業務に、より実効的なリスクマネジメントの機能を持たせるための方策としては、1)どのような製品・施設について検査検定が必要で、その際に用いられる基準はどのようなものかを明らかにする業務と、2)実際の検査検定を実施する業務とを明確に機能分担させることが鍵となる。すなわち、政府の役割は、何が検査検定の対象となる製品・施設であり、その際の基本となるべき基準は何であるかを判断し明示することにとどめ、実際の検査検定業務は、能力を有し、かつ公正・中立な主体に広く委ねるべきである。このような役割分担を行うことで、基準自体の適正さが常に検査実施者によって問い直される一方、政府の側も、検査検定の実施主体の業務が適正に行われているかどうかを厳格に監督することが可能となる(注)。さらに、現在の独占制と異なり、検査機関が複数存在することとなるため、検査機関どうしで検査サービスの質やコストについて競争が行われ、より質の高い検査が低コストで行われるようになることが期待される。

 このように個別の検査検定制度について機能分担を進めていく上では、以下の点を基本とするべきである。

(注) 検査検定業務が、政府と人的・資金的に関係の深い特定の法人だけに限定して認められている場合には、そのような主体が誤った検査検定を行った場合、政府が厳格な立場で監督を行うことができないのではないかと受け止められるおそれがある。また、これとは別に、そもそも検査検定業務が政府の権限として行われ、行政処分としての位置付けを持っていると、検査検定の結果が誤っていた場合には、行政処分の撤回を行わなければ是正措置が講じられないと考えられるため、検査検定業務の主体に対して厳格な立場で監督を行うに当たり制約となるおそれが大きい。

(a)自己確認・自主保安化

 検査検定制度のうち、保護法益の面からは比較的危険度が小さいものであって、かつ違反による危害発生の蓋然性も小さいものについては、基本的に政府が関与した検査検定制度を維持する必然性に乏しいことから、現在、政府又は政府を代行する者が行っている検査検定業務を事業者自身に委ね、自己確認・自主保安化する必要がある。

 このように、自己確認・自主保安化を進めることは、単に行政の効率化を進めるとの観点から有効なだけでなく、設計思想に照らした基準の在り方の検証、技術開発動向等を考慮に入れた検査方法の考案と実施を促し、検査結果を迅速に設計・製造及び維持管理過程にフィードバックし、より実効的なリスクマネジメントを達成するとの観点からも有効である。また、このようなプロセスは、優良事業者制度等のインセンティブメカニズムと併用することにより、更にその利点が増幅されるものと考えられる。

(b)第三者による検査・認証の活用

 ある程度の危険度やある程度の危害発生の蓋然性が認められるものについては、国民の安全を確保するために、事業者だけでなく第三者も関与した仕組みを設けることが必要であるが、この場合であっても、直ちに国又は国を代行する機関による検査の受検を義務付けるのではなく、あくまで事業者の自己確認・自主保安を基本とし、これを補完する意味で、第三者の検査を受検すること(お墨付きを受けること)を義務付ける形にするよう検討する必要がある。こうした手法は、欧州におけるニューアプローチ指令に基づく適合性評価手続において主要な役割を担っており、検査の実施主体としてはEU公認検査機関(Notified Body)がこれに当たり、各種の製品について共通の安全マーク(CEマーク)が貼付されることになっている。

 このように、ここにいう第三者とは、製品・サービスの提供者、受領者及び規制者(行政側)のいずれからも独立した主体であって、かつ、検査検定業務を実施する能力を有する者を意味し、例えば、ISO/IECガイド65に適合することが認められた民間の検査会社(諸外国の例で言えば、ULやロイズ、TUV、SGS等の検査会社)がこれに該当する。既に我が国でも、任意の規格に基づいた認証サービスを行う検査機関が多数活動を行っているほか、主として欧米諸国向け輸出製品の検査業務の実施を目的として、先の諸外国における検査会社が既に我が国に日本法人を設立し、活動を行っており、我が国の検査検定制度が第三者検査制度を認めるものとなれば、これらの検査会社がその実施の際の受皿となることが期待される。

 このように検査検定業務に第三者検査機関を活用することは、欧米では既に一般化しているが、我が国においてこのような制度を導入した事例としては、第145回国会において成立した改正法による消費生活用製品安全法第12条に基づく特別特定製品に対する認定検査機関制度が挙げられる。今後、こうした先駆的な検査機関制度の整備に伴い、我が国でも十分な能力を持つに至った第三者検査機関の活動の場が広がることはもとより、国際的に諸外国の第三者検査機関と比肩し得る検査会社が組織され、成長していくことが強く期待される。

(c)政府又は政府を代行する者による検査

 検査検定業務の実施主体については、上記のように、自己確認・自主保安化や第三者検査機関の活用を図るべきであり、政府が自ら又は政府を代行する者を使って間接的に自ら検査を行うのは、違反発生時の影響(危険等)が到底看過し得ない程重大であるなどその危険の大きさ、発生の蓋然性等を踏まえ、国民意識の上からも行政処分権限を持つ官庁が自ら対応すべきものと思われるものに限定する必要がある。

 また、このようなものについても、業務の独占に伴う弊害を取り除き、検査サービスの質の向上を図る観点から、指定検査機関を活用しているものについては、原則として、その指定要件を公益法人に限定することなく、公正・中立性を確保し、かつ、能力を有する民間法人には、その業務を開放すべきである。その際、検査機関相互の競争を可能とする観点から、当然のことながら複数の機関の参入を可能とする必要がある。

 以上のように、当委員会としては、基本的に、1)検査検定が防止しようとする危害の重要性の程度(大規模な災害を防ごうとするものなのか、それともケガの発生を予防しようという程度のものなのか)、2)実際に、検査検定が防止しようとしている危害がどの程度発生しやすいものなのか(かなりの確率で発生し得るものなのか、それとも何十年に一回あるかないかという程度のものなのか)という2つの観点からのスクリーニングを行い、その度合いに応じて、(a)自己確認・自主保安化すべきもの、(b)自己確認を基本に、第三者による検査・認証を組み合わせるべきもの、(c)政府又は政府を代行する者による検査でやむを得ないもの、の3つに分けた。この考え方は、第145回国会において政府提案により提出され、成立した通商産業省関係の基準・認証制度等の整理及び合理化に関する法律の基底にある考え方と基本的に同じである。

 なお、この点に関しては、当委員会における議論においても、「どのようにして確実な検査検定や認証を確保するかということが問題なのであり、危険度の大きさや危害発生の蓋然性については、検査検定の実施主体の在り方とは関連のない問題である」とか、「民間機関による検査の方が国による検査よりしっかりしているものも少なくなく、その意味では最も危険又は最も発生率の高いもの(上記(c)に当てはまる類型)についてこそ民間検査化を提言すべきだ」という意見もあったが、我が国における民間検査会社の成熟度や国民的感情も考慮して、現時点でそこまで踏み込むことはしなかった。しかしながら、この点は、将来、これらの事情が変化した時には当然議論されるべき点であり、実際にフランス等では原子力発電プラント等も民間で検査していると聞いている。

 我が国の検査検定機関が、個別の制度ごとに分立し、かつ、政府又は政府代行機関(そのほとんどが制度上公益法人に限定されている。)による検査検定制度が採られていることの結果、民間検査機関が十分育っておらず国際競争力を獲得していないことは、今や地球規模の経済活動に参加している日本企業の国際競争力と対比して極立っている。基準・規格について各国相互に国際整合化を進めていくという流れの中で、欧米に基盤を有する民間の検査会社がその活動の基盤を国際的に拡大してきており、日本に活動拠点を開設しているものも少なくないことに照らしても、検査検定制度の横断的な見直しと改革は急務である。

(1-4)任意の法定検査の見直しの方向

 これまでの議論では、主として、強制検査を念頭に置いてきた。これは、任意検査においては、事業者が一律に受検を義務付けられるのではなく、受検を希望する者が自主的に検査を依頼することから、本来は規制としての色彩が薄いためである。

 しかしながら、任意検査についても、行政の役割の見直しや、行政効率化という観点から積極的にこれを取り上げ、必要性がないものはこれを廃止するとともに、必要性があるものについても、基本的に強制検査と同様の視点で見直しを行うべきである。

(1-5)検討状況の中間公表

 現在、関係省庁において、閣議決定された見直しの方針に基づき、それぞれが所管する基準認証等についての見直しが行われているが、既に述べたように、この作業はなお途上にあると言わざるを得ない。関係省庁による見直しを平成12年度末までに完了するという政府の掲げた目標を実現していくためには、見直し推進のための関係省庁横断的な仕組みの工夫が必要である。

 このため、規制緩和推進3か年計画の改定に当たり、改定作業の透明性を確保する等の観点から、各省庁が内外からの規制緩和に関する意見・要望についての検討状況を毎年度中間的に公表することとしていることにならい、関係省庁は、規制緩和推進3か年計画の再改定後速やかに、同計画に定める観点からの基準認証等の見直しについての検討状況を中間的に公表するべきである。

 なお、こうした中間的な公表に当たっては、検査検定の実施主体、対象とするものの範囲、性能規定化等の基準の枠組み、事後チェックの拡充・強化等、規制緩和推進3か年計画に定める見直し項目の全体について検討状況を示すべきことは言うまでもない。そのうち検査検定の実施主体に関しては、本見解中の上記の(1-3)(具体的な検査検定業務の見直しの方向)が、閣議決定された見直し方針のうち「自己確認・自主保安を基本とした制度への移行」に係る部分をより具体化し、その視点を示したものであることから、それに即した整理をするよう求める。

(2)個別の検査検定制度についての見解

 当委員会が上記に延べた見直しの視点と基本的な考え方に照らしつつ、所管省庁からのヒアリング等を通じて見直し・検討を行ってきた結果は、以下のとおりである。

≪必要な改善措置について結論が得られた事項≫

 上記(1)(検査検定制度の見直しの方向)に述べた見直しの視点と基本的考え方に照らしつつ見直しを行った結果、必要な改善措置について差し当たり現時点までに結論が得られた事項は、以下のとおりである。

 これらについては、政府において確実に実施することが必要である。

(2-1)簡易専用水道の検査(厚生省)

 簡易専用水道(会社やマンション等で、受水槽を設け、各戸に水を供給するもの)については、水道法(昭和32年法律第177号)第34条の2の規定により、その設置者に対し、地方公共団体の機関又は厚生大臣の指定する者による受水槽及び水質の検査を定期に受検することが義務付けられている。

 この検査は、簡易専用水道の水質を確保するためのものであるが、法律上受検が義務付けられているのは有効容量が10m3を超える受水槽に限られており、有効容量が10m3以下の小規模な受水槽については法律上受検の義務はない。また、有効容量が10m3を超える受水槽についても、その受検率は約85%にとどまっており、有効容量が10m3以下の受水槽について受検義務が無いことと相まって、必ずしも現状においては水質の確保が十分になされているとは言い切れない現状にある。

 このため、簡易専用水道の検査においては、受検率の向上が重要な課題となっているが、この点について、所管省庁は、「簡易専用水道の管理の検査の受検率は、検査対象施設が増加しているにもかかわらず、経年的に向上してきており、今後ともその向上に努めていく必要はあるが、受検が設置者に義務付けられている現行の規制を考えれば、現状の85%という受検率は決して低い数字ではなく、現行の制度の下において、検査体制に問題があるとは受け止めていない」としている。

 しかしながら、簡易専用水道の利用者も、一般の水道利用者と同様、その利用する水道の水質を十分に確保することが必要であり、また、現在法的な受検義務の課されていない小規模な受水槽の利用者をも視野に置いた上で、受検率の一層の向上を図ることが必要である。このためには、現在、簡易専用水道の設置者からの依頼に基づき地方公共団体の機関又は厚生大臣指定検査機関が行っている検査の在り方について再検討することが必要であり、簡易専用水道の管理に関する規制体系全体を見渡した上で、より実効的な水質確保がなされるよう、所要の見直しを行うべきである。

(2-2)浄化槽の検査(厚生省)

 浄化槽については、浄化槽法(昭和58年法律第43号)第7条及び第11条の規定により、新たに設置した場合には使用開始後6月を経過した後2月間に、その後は毎年1回定期的に、浄化槽の外観・内側の目視検査、水質検査等を行うことが義務付けられている。

 この検査は、浄化槽の放流水が公共用水域を汚染することがないよう行われるものであるが、浄化槽の不具合による水質悪化の影響は、浄化槽設置者ではなく下流域の者が被るという特殊性と、検査手数料負担の問題等から、その受検率は、設置後の検査において約63%、定期検査にあっては約13%にとどまっており、地域によってばらつきはあるものの、特に定期検査については、多くの場合、極めて低率にとどまっており、受検率の向上が重要な課題となっている。

 現在、浄化槽の検査を実施できるのは、厚生省関係浄化槽法施行規則第33条において、民法第34条の規定により設立された法人(公益法人)に限定されており、実際には各県の公益法人が実施主体となっている。このように、浄化槽の検査の主体を公益法人に限定していることについて、所管省庁の挙げる理由は以下のとおりである。

  1)検査業務を民間法人に開放した場合、検査受検を促す普及啓発といった非収益部門への取組がおろそかにされると、受検率の向上が達成されないおそれがある。
 2)当該民間法人の所在地と浄化槽の設置場所との距離など地理的条件の差により手数料に大幅な格差が生まれるおそれがあり、競争原理の導入が必ずしもすべての消費者に対する負担軽減とはならない。
 3)浄化槽の検査は、すべて指定検査機関が行うことになっており、検査機関の倒産や撤退によって浄化槽の検査業務が滞ることがあってはならない。

 しかしながら、現在の浄化槽検査の受検率、特に定期検査の受検率を見ると、多くの地域においては、これらの公益法人が必ずしも十分にその職責を果たしているとは言い難い実態にあると言える。むしろ、低迷している受検率を引き上げるためには、公益法人がこれらの業務を独占する現状を改め、能力を有しかつ公正中立な業務の実施が可能な民間法人にも広く業務を開放することにより、民間法人の営業努力によって受検率を引き上げ、併せて検査サービスの質の向上と検査料金の低下を図ることも検討すべきである。このため、浄化槽検査については、こうした手法の可否を含め、受検率向上のため、現在の検査体制について抜本的な見直しに取り組むべきである。

(2-3)農産物の検査(農林水産省)(流通分野(5)の再掲)

 米穀の生産者は、その生産した米穀を主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号。以下「食糧法」という。)の計画出荷米(注)として売り渡す場合等には、その売渡しのとき等に国の検査を受けなければならないこととされている。

 農産物検査については、平成9年12月の行政改革会議最終報告において、「積極的に民営化、民間移譲を検討する必要がある」とされ、これを受けて、国の行政組織等の減量、効率化等に関する基本的計画(平成11年4月27日閣議決定)において「民営検査への移行に向けて所要の法的措置を講ずることとし、平成12年の通常国会を目途に所要の法案を提出する」とされたところである。

 当委員会では、昨年度の第1次見解において、「農産物検査を民営化するのであれば、食糧法施行時からの流通事情の変化等も踏まえ、@検査に対する信頼性の確保の観点や流通の円滑化のための規制は必要最小限のものとし、A産地や流通業者が自らの商品の品質に責任を持つという視点を踏まえ、市場原理を活用して民営化することが必要である」との指摘を行った。さらに、同見解において、「農産物検査の民営化の在り方に対する当委員会の指摘を踏まえつつ、市場原理を活用した関係者のコンセンサスが得られるような新制度の在り方を検討すべきである」とし、今後の検討方向を示したところである。規制緩和推進3か年計画(改定)においても、「農産物検査について、早期民営化に向け、市場原理を活用した関係者のコンセンサスが得られるような新制度の在り方の検討を進める」とされている。

 以上の指摘等を踏まえ、食糧庁において、昨年の農産物検査の実施業務の民営化検討会(食糧庁長官の検討会)の中間とりまとめ(平成10年6月29日)の内容から更に踏み込んだ検討が進められた。本年6月に示された「新たな農産物検査制度のあり方について(案)」では、昨年の中間とりまとめにおいて、検査に対する信頼性の確保のために必要とされていた「一定の要件を満たす個人に対する検査実施者の資格の付与」が削除されるなど、産地や流通業者が自らの商品の品質に責任を持つ検査の在り方を目指すべきという当委員会の指摘に沿って一定の前進が見られたことについては、評価する。

 農産物検査制度については、以上の経緯を踏まえ、検査を実施する民間検査機関の参入の仕組みについて、適切な検査を行うために必要な一定の要件を満たした者が参入できる登録制とするなど、市場原理を活用した関係者のコンセンサスが得られるような制度とすべきであり、今後、早期民営化へ向けて、法制度の整備を急ぐことが必要である。

(注) 計画出荷米:自主流通米及び政府米として、第1種登録出荷取扱業者(農業協同組合等)又は政府に売渡し等を行う米穀

(2-4)自動車検査用機械器具の検査(運輸省)

 自動車分解整備事業場に備える自動車検査用機械器具については、道路運送車両法(昭和26年法律第185号)(注)により、それが一定の技術上の基準に適合することについて、運輸大臣の指定する者の行う検査に合格したものでなければならないこととされている。

 この検査の目的は、これらの機械器具が自動車の点検整備又は自動車検査に用いられ、安全・環境に与える影響が大きいことから、機械器具の一定水準以上の精度等を確保するものであるが、それを行う者の指定基準が具体的に定められておらず、現在は公益法人が一つ指定されているにすぎない。

 検査業務を公益法人に限定していることについて、所管省庁が挙げている理由は以下のとおりである。

 1)営利を目的とする民間法人に自動車検査用機械器具の検査を任せた場合、利潤の追求を目的に安易に手抜き検査が行われるおそれがある。
 2)一般的な製品検査と異なり、手抜き検査を受けた自動車検査用機械器具を用いた自動車分解整備サービスを受けた自動車ユーザー自らがこれを検知し得ず、ブレーキ装置等の故障により事故が起き、検査機器の不具合が判明したときには手遅れになってしまう。
 3)また、排出ガス性能が悪化している場合などでも自動車ユーザー自身が不利益を被らないので必ずしもチェック機能が働かない。

 自動車の安全な運行の確保及び公害防止のため、自動車分解整備事業用の機械器具について国の基準に適合することを求めることには一定の合理性があると考えられるが、検査の基準は、「自動車検査用機械器具に係る運輸大臣の定める技術上の基準」により明らかにされており、その内容は明確であることから、必ずしも公益法人が行わなければならない必然性があるとは考えられない。また、検査機関を指定するための具体的な指定基準が策定されていない状況である。

 このため、自動車検査用機械器具の検査については、公正中立に業務を実施できることが担保されることを前提に、公益法人要件の見直しを含めて指定基準の明確化について検討すべきである。

(注) 同法第80条第1項第1号に基づく同法施行規則(運輸省令)第57条第1項第4号、及び同法第94条の2第1項に基づく指定自動車整備事業規則(運輸省令)第2条第2項。

(2-5)気象測器の検定(運輸省)

 気象庁以外の政府機関又は地方公共団体が気象観測を行う場合、及びその成果を発表するために民間機関が気象観測を行う場合には、気象業務法(昭和27年法律第165号)の規定により、国の行う検定(同法第27条)に合格した気象測器を使用しなければならないこととされている。

 この検定は、気象観測が災害の防止等に重要な役割を果たすものであり、観測値の誤り、観測精度の不統一があると社会的混乱を招くおそれがあることから、その精度を担保するために行われているものである。

 しかしながら、このような目的を達成するためには、必ずしも国が自ら検定のための検査を行う必要はなく、基準に合致していることについて民間の行う検査を活用することが可能であると考えられる。

 したがって、気象測器については、現在の国による検定制度について、一定の能力を有する民間(営利法人を含む。)の検査を受けたものについては、国の検査を省略できる新制度の導入を図るべきである。

(2-6)特定機械等の検査等(労働省)

 ボイラー等、特に危険な作業を必要とする特定機械等については、これを製造し、輸入した者は、製造、輸入等した場合(製造時等検査)及び製造時等検査により交付される検査証の有効期間を更新する場合(性能検査)において、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)の規定に基づき、国又は国の指定した機関により検査を受けなくてはならないこととされている。また特定機械等以外で危険な作業等を必要とする機械についても、同法により、小型ボイラー等については個別検定を、また、動力プレス等については型式検定を、国又は国の指定した機関により受けなくてはならないこととされている。

 これらの検査・検定は、労働安全上重要な機械等について安全性を確保し、もって労働災害の発生を抑止するために行われるものである(注)が、検査業務を行うことができる指定検査機関は、特定機械等の性能検査を除き、製造時等検査代行機関等に関する規則の各規定により、民法第34条の規定により設立された法人(公益法人)であることが要件となっている。

 このように検査業務を行うことができる機関を公益法人に限定している趣旨は、公正かつ中立に業務を実施することを確保するためと考えられるが、例えば特定機械の性能検査については、上記規則第4条の規定により、公益法人以外に、「特定機械等に対する損害保険の事業を行う保険会社で、その役員又は社員の構成が性能検査の公正な実施に支障を及ぼすおそれのないもの」も認められており、公益法人以外であっても公正中立に業務を実施する民間営利会社が存在することは既に労働安全衛生法の体系の中で認められている。

 検査業務の実施を公益法人以外の主体に対しても認めることについては、現在、労働省において、公正性、中立性、技術水準の確保のための判断条件を明確にすることを前提に、検討がなされているところであり、当委員会としては、こうした検討を評価する。労働省においては、公正・中立性が確保され、かつ検査能力を有する主体の判断条件を可能な限り早く明確化した上で、関係法令等の改正手続に着手すべきである。

(注) 事業所で働いている人を災害から保護するという本来の目的から見たとき、現状における災害は、昭和30年代に比較すると3分の1になってきているとはいえ、未だ十分とは言えない状況にある。このため、労働安全法制については、特定機械等の検査だけでなく、職場の安全・環境整備の視点から、システム保証や優良事業者等に対するインセンティブの導入を始めとする抜本的な見直しが必要ではないか。

(2-7)電気通信設備の技術基準適合認定(郵政省)

 電気通信設備については、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第50条の規定により、電話機やモデム等の端末機器について、あらかじめ技術基準に適合していることの認定を受けることにより第一種電気通信事業者による接続検査を受けることが不要となる、端末機器の技術基準適合認定制度が設けられている。

 この制度は、電気通信ネットワークや端末機器の高度化が急速に進展し、高度情報通信社会の基盤として重要性が一層高まっている中で、技術基準に適合しない端末機器が電気通信回線設備に接続されることによって、電気通信回線設備が損傷したり、他の電気通信サービス利用者に悪影響を与えることを防止するために設けられた制度である。

 技術基準適合認定制度については、本年3月から、民間の認定試験事業者による試験結果の活用を可能とする制度が導入されているが、認定業務それ自体は、郵政大臣が指定した認定機関が行うこととなっており、この認定機関は、電気通信事業法第69条の規定により、公益法人でなければならないこととされている。

 電気通信ネットワークは、国民生活や社会経済活動に不可欠な基幹的インフラストラクチャであり、災害発生時の緊急連絡手段等としてライフラインの役割を担うものである。また、こうした電気通信ネットワークでは、一部にでも障害が発生した場合、社会・経済活動の広汎な範囲にわたり重大な影響を及ぼす可能性が大きく、さらに国際的にもその影響が瞬時に及んでいくこととなるため、国民が安心して使用できるよう、電気通信ネットワークの安全・信頼性やセキュリティ等は、極めて重要である。

 しかしながら、こうした事情は、必ずしも端末機器の認定業務を行う資格を公益法人だけに限定する十分な理由であるとは言えず、公正中立性が確保され、かつ能力を有する機関であれば営利法人であっても認定業務を行うことができるよう検討する必要がある。現に、端末機器に係る技術基準適合認定制度と同種類似の制度である電波法上の特定無線設備(携帯電話等)に係る技術基準適合証明については、既に、規制緩和推進3か年計画(改定)において、公益法人要件の見直しについて可否も含め検討することとされているところであり、端末機器についても同様に、現行の指定認定機関制度における公益法人要件の見直しについて検討すべきである。

(2-8)消防用機械器具等の検定(自治省)

 消防用機械器具等の検定は、消防法(昭和23年法律第186号)第21条の2の規定に基づき、消防の用に供する機械器具等について、その製造者等に検定の受検を義務付ける制度である。

 この検定は、火災発生時の初期消火に重要な役割を果たすことが期待されるスプリンクラーや消火器等の消防用機械器具等が、確実かつ安全に機能を発揮することを確保することにより、国民の生命、身体及び財産を火災から保護しようとするものである。

 現在、これら消防用機械器具等の検定業務は、型式承認・個別検定のいずれについても、政府代行機関である日本消防検定協会又は自治大臣の指定する者(同法第21条の46の規定により、公益法人に限定されている。)しか実施できないこととなっている。

 消防用機械器具等の検定業務を指定機関に行わせていることについて、所管省庁は、以下の理由を挙げている。

 1)違反発生時の影響が極めて大きいこと
  消防用機械器具等は、ホテル、百貨店、病院等の公衆の出入りする施設等に公共危険性の排除の観点から設置するものである。これらの施設等において火災等が発生し、初期消火、避難等が奏功しなかった場合に、多数の被害者が発生することは、過去の教訓からも明らかである。このように、消防用機械器具等は多数の人命の危険性に直結している。
 2)人命保護等のための「最後の手段」であること
  火災予防のためには様々な施策が講じられているが、それらにもかかわらず万一火災が発生した場合には、大惨事につなげないための最後の手段となる消防用機械器具等が正常に働くことが各種制度の前提となっているところから、他の物品に比べても特段の安全性が求められている。
 3)国民意識の上からも官庁が対応すべきと考えられること
  国民が日常的に利用しているホテル、百貨店等で火災が発生した場合を考えれば、国民誰もが被害者となり得るが、国民がこれらの施設を利用する際には、当該消防用機械器具等の品質について何らの情報も有していない。したがって、国民意識の上からも、これらの施設については官庁の責任において消防用機械器具等の設置を義務付けるとともに、その品質の確保についても万全を期すことが求められている。
 4)市場原理が有効に機能しない分野であること
  消防用機械器具等は、日常生活において頻繁に使用されるものではなく、事故発生時に初めて使用されるものであることから、国民は製品の良否を普段から判断することができず、しかも、不良品が発見された時には、人命、財産等に取り返しのつかない損害を伴うことが予想される。このような市場原理が有効に働かない分野の製品については、官庁が検定制度により製品の安全性を保証する仕組みが必要である。

 さらに、指定検定機関を公益法人に限定していることについては、所管省庁は、以下のとおり説明している。

 1)検定対象機械器具等については、検定に合格したものでなければ販売等を行ってはならないとされていることからも明らかなように、検定業務は、人命、財産等の国民の安全上の観点から、公益性が極めて強く求められる分野であり、その実施主体についても特に慎重な配慮が必要である。したがって、消防用機械器具等の検定業務は、本来、公益事業を目的として設立され、公益事業を主たる業務として主務官庁の監督を受けるなど、公正性、中立性を有した公益法人に行わせるべきであり、市場原理が働く営利を目的とする法人に行わせることは、仮に法的に国の関与などの規定を置いたとしても、最終的には株主の利益を追求することを目的とする法人であることから、適当でないと考える。
 2)また、消防法上は、指定検定機関の指定に当たって、公益法人であることを必要とするほか、役員の選任・解任の認可、職務上知り得た秘密の守秘義務、罰則の適用に当たってのみなし公務員規定、事業計画、収支予算等の認可、監督上必要な命令、業務の全部又は一部休廃止の許可など、指定検定機関に対する国としての幅広い関与の規定を置いて、指定検定機関の業務の公正性、中立性を確保することにより、消防用機械器具等の検定業務に対する国民の信頼を確保しているところである。仮に株式会社が消防用機械器具等の検定を行うことができるとする場合、同様の国の関与を行わざるを得なくなるが、そのような火災による社会公共の利益侵害を防止するための幅広い国の関与を私的自治を原則とする株式会社に及ぼすことは慎重に検討すべきである。

 消防用機械器具等は、実際に火災が発生した場合において、確実に機能することが求められていることから、その機能を担保するために行政代行機関である指定検定機関による行政処分としての検定が必要であるとしても、既に本節(1-2)(検査検定の実施主体について見直しが必要な理由)において述べたように、検査検定主体の公正・中立性は、それが公益を目的として設立された法人であるかどうかという法人の性格によって認められるものではなく、実際にその法人の組織の機構・運営、審査員の資格・選定方法、審査手順等が公正・中立性を担保できるものとなっているかどうかという観点から判断されるべきものであることから、当委員会としては、その主体を日本消防検定協会以外には公益法人だけにしか認めないとする所管省庁の理由は十分ではないと考える。

 検査能力を有し、かつ公正中立な主体であれば、営利法人であっても検定主体となれるよう措置することとすれば、検査の申請者が主体的に検査機関を選択することができる。また、ガス器具、液化石油ガス(LPガス)器具、火薬庫等の検査検定業務については、既にこうした観点から、公正・中立性が担保された法人であればそれが公益法人であるか営利法人であるかに係わらず指定検査機関足り得るよう措置されているところであり、消防用機械器具等の検定についても、こうした他の制度を参考にしつつ、消防用機械器具の安全性に対する国民の信頼の確保を図ることを前提に、現行の指定検定機関制度における公益法人要件の見直しについて検討すべきである。

(2-9)危険物施設の検査(自治省)

 危険物施設の検査は、危険物施設において事故が発生した場合には、当該施設のある事業所のみならず、周辺住民の生命、財産等にも重大な脅威を与えるおそれがあること等にかんがみ、消防法の規定により、指定数量以上の危険物(石油等)を取り扱う製造所・貯蔵所・取扱所について、その設置の前(同法第11条、第11条の2)及び設置後定期的に(同法第14条の3)、市町村長等が行う検査の受検を義務付けるものである。

 危険物施設の検査については、工事管理を含む保安のための優れた体制を有することが実績からも明らかであると認められる事業所に対して、保安の質を維持させるインセンティブを与えることにより、より適正な危険物の保安が確保されるよう誘導していく仕組みとして、本年3月から、優良事業所については、一定の要件を満たす施設の変更工事に係る完成検査等について、事業所の自主検査結果の活用を図る制度が導入されたところである。

 変更工事に伴う完成検査については自主検査を認めつつ、保安検査については自主検査を認めないこととしていることについて、所管省庁が挙げる理由は以下のとおりである。

 1)昭和50年代中頃より概ね緩やかな減少傾向を示していた危険物施設における事故件数は、平成6年を境にして増加に転じるや年々増加し続けており、特に平成9年中と比較した平成10年中の事故件数の増加率は著しく、平成10年中の事故件数及び一万施設当たりの事故発生率は過去10年で最高の値となった。
  2)現在、消防法において市町村長等による保安検査の対象となっている危険物施設の数は2,796施設(平成10年3月31日現在。以下同じ。)であり、全危険物施設数(551,816施設)のわずか0.5%である。そのうち屋外タンク貯蔵所についてみると、市町村長等による保安検査の対象となる施設の数(2,786施設)は、全屋外タンク貯蔵所数(83,334施設)の約3.3%であり、その他の屋外タンク貯蔵所については事業者自身が行う定期点検によることとされている。これは、屋外タンク貯蔵所の保安検査については、原則自主検査であったところ、昭和49年に発生した水島コンビナートの重油流出事故を受けて、大規模な施設のみを市町村長等による保安検査の対象としたものである。当該検査制度の施行前後の屋外貯蔵タンクに係る漏油事故件数の発生率を比較すると、事業者が自ら定期点検を行う施設と、市町村長等が保安検査を行う施設では、漏油事故の発生率の改善に格段の差が見られ、市町村長等による検査の実施が検査精度の向上に寄与している。
  3)以上のことより、現時点では、消防庁としては、国民の生命、財産等を危険物災害から保護する観点から、保安検査について事業者の自主検査結果を活用する制度の導入については、更に慎重な検討が必要である。

 しかしながら、まず、事故発生率が近年上昇しているとの点については、危険物施設全体を対象としたデータであり、市町村長等の保安検査の受検義務の課されている液体危険物の貯蔵最大数量が1万キロリットル以上の特定屋外タンク貯蔵所等においては必ずしも事故件数は増大しているとは言えない。また、市町村長等の保安検査の受検義務の課されている屋外タンク貯蔵所の数は全屋外タンク貯蔵所の約3.3%にすぎないとする点についても、逆に言えば2,786もの施設が検査の受検を義務付けられていると言え、それが特に大規模なものであることを考慮すると、必ずしもごく一部の施設を対象とした制度とは言えない。

 一方、所管省庁が異なるとはいえ、同様に危険性を有する物質を貯蔵する施設である火薬庫や高圧ガス貯蔵施設については、既に保安検査についても優良事業者に対する自己確認制度が設けられているところである。危険性を有する物質の貯蔵等を行う施設の保安は保安検査だけで確保することはできず、事業者自らの日常的な取組が重要であることを考慮し、優良な管理実績と管理体制を有する事業者に対し、適切な管理を維持するインセンティブを与えることができるような仕組みを検討することが必要であり、危険物施設についても、先に述べた同種類似の制度を参考にしつつ、既に実施に移された変更工事に伴う完成検査に係る優良事業者の自主検査制度の運用状況を踏まえ、保安の確保という要請と検査受検事業者の負担軽減という要請の双方を満たすことが重要であることに配慮しつつ、優良事業所に対して危険物施設の適切な管理を維持するインセンティブを与えることができるような保安検査の在り方について検討すべきである。

≪上記以外の事項≫

 上記≪必要な改善措置について結論が得られた事項≫に指摘した以外の検査検定制度については、上記(1)(検査検定制度の見直しの方向)に述べた見直しの視点と基本的考え方に照らしつつ検討を行ったものの、当委員会として必要な改善措置について差し当たり現時点までに結論を得るには至らなかった。しかしながら、これらの検査検定制度についても、既に述べたとおり、検査検定の実施主体等について規制緩和推進3か年計画(改定)に定める観点からの見直しが必要であり、各省庁において閣議決定された内容に基づく厳正な対応が必要である。

 また、こうしたものに係る問題意識については、当委員会の第4ワーキンググループ・横断基準認証分野が先に「横断基準認証分野における検討結果の中間的整理」として作成・公表したところであるが、今後とも引き続き、こうした問題意識を基本に、審議を進めていくこととしたい。

 これらの検査検定制度の中には、例えば、行政主体があらかじめ一定の行為について許可を要することとし、こうした許可を受けてなされる行為が完了した段階で、改めて、当初の許可の条件どおりなされたかどうかを確認するために検査を求めるタイプのものがある。こうしたいわば許可制度を事後的に担保しようとする検査については、往々にして、「許可を出した主体自らが検査するのが当然である」として、所管省庁において、その検査主体を第三者機関に開放することについて、十分な検討が行われない傾向がある。

 しかしながら、こうした検査については、検査業務に携わる行政機関の職員について、検査対象施設に関する知識・資格について客観的な要件が課せられていないことが多く、検査事務の遂行能力は、事実上、行政機関内における配置換え等での実務経験だけに委ねられている場合が見受けられる。また、職員数に制限があることから、検査の件数が増えるにつれて、事業者に対する迅速な対応に欠けることとなったり、逆に小規模な地方公共団体の場合は検査の件数が少なく、検査業務に係るノウハウの蓄積に必要な十分な事例の積み重ねが期待できない場合があると懸念される。こうしたものについては、単に許可の事後的担保としての当てはめ的な検査であるから、許可権者に委ねるよりも、事業展開に制約が少なく、より実地に即したノウハウを持つ民間検査機関が検査した方が迅速に対応でき、かつ、的確な指摘ができる場合もあると考えられる。

 こうした点について、所管省庁は、民間検査機関の参入により、検査の質・コスト面で現状より悪化するとか、検査部分だけを切り離して民間第三者に委ねれば、かえって手数料の上昇を招くという懸念を表明することが多いが、これらの点についても、前者については、適切な検査事務の遂行能力が確保できなければ市場より退場させるなど事後規制を強化する制度運用を行えば、かえってこれまでの地方公共団体の担当者の当事者意識を高めることが期待されるほか、後者についても、検査申請者に対して地方自治体と民間検査機関という複数の検査機関を選択する自由が提供され、かつ現状の手数料が人件費等を含めて検査にかかるコストを適正に算定・反映して決められる透明性のある仕組みとして開示されれば、これまでの規制の合理化の例を見ても、自治体と民間が競合する市場において申請者が負担するコストが上昇するということは生じないと考える。

 このため、今回上記の≪必要な改善措置について結論が得られた事項≫として取り上げたもの以外の検査検定制度の見直し作業に当たっては、許可の事後的担保としてなされる上記のような検査も含め、閣議決定に基づく基準認証等制度についての分野横断的見直しの一環として、各省庁がそれぞれの所管する制度について真剣に見直しを行うことが必要である。

<参考> 検査検定制度一覧(平成11年3月末現在)
(警 察 庁)
1制度
・遊技機の型式検定等(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)
(科学技術庁)
2制度
・核燃料関係施設の検査等(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)
・射性同位元素使用施設
・使用機器の検査等(放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律)
(文 部 省)
1制度
・教科用図書の検定(学校教育法)
(厚 生 省)
11制度
・病院の検査(医療法)
・クリーニング所の検査(クリーニング業法)
・美容所の検査(美容師法)
・理容所の検査(理容師法)
・食品等の検査等(食品衛生法)
・獣畜の肉等の検査(と畜場法)
・ 食鳥の肉等の検査(食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律)
・廃棄物処理施設の検査(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
・水道施設の検査等(水道法)
・浄化槽の検査(浄化槽法)
・医薬品等の検定(薬事法)
(農林水産省)
11制度
・農産物の検査(農産物検査法)
・漁船の認定等(漁船法)
・種畜の検査(家畜改良増殖法)
・飼料等の検定(飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律)
・家畜の検査等(家畜伝染病予防法)
・動物用医薬品の検定(薬事法)
・肥料の登録等(肥料取締法)
・農機具の型式検査等(農業機械化促進法)
・輸出入植物
・種苗等の検査(植物防疫法)
・農薬の登録(農薬取締法)
・加工食品、木材製品等の農林畜水産物資等の認証(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)
(通商産業省)
13制度
・特定計量器等の検定等(計量法)
・消費生活用製品の検査等(消費生活用製品安全法)
・高圧ガス製造施設等の検査等(高圧ガス保安法)
・火薬類製造施設等の検査(火薬類取締法)
・鉱山坑内用品
・鉱山用工作物等の検定等(鉱山保安法)
・石油パイプライン施設の検査(石油パイプライン事業法)
・石油と高圧ガスを共に扱う第一種事業所の確認(石油コンビナート等災害防止法)
・液化石油ガス貯蔵施設等の検査(液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律)
・電気工作物の検査等(電気事業法)
・電気用品の検査(電気用品安全法)
・ガス工作物、ガス用品の検査(ガス事業法)
・アルコール製造設備、貯蔵設備の確認(アルコール専売法)
・鉱工業品の認定(工業標準化法)
(運 輸 省)
13制度
・石油パイプライン施設の検査(石油パイプライン事業法)
・鉄道
・索道施設、鉄道車両の検査等(鉄道事業法)
・軌道施設の検査(軌道法)
・自動車等の検査等(道路運送車両法)
・自動車ターミナルの確認(自動車ターミナル法)
・核燃料物質等の運搬の確認(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)
・放射性同位元素等の車両による運搬の確認(放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律)
・自動車道の検査(道路運送法)
・船舶の検査(船舶安全法)
・船舶の海洋汚染防止設備の検査(海洋汚染防止法)
・船舶のトン数の測度(船舶法、船舶トン数測度法)
・航空機、飛行場
・航空保安施設、航空運送事業者等の検査(航空法)
・気象測器の検定等(気象業務法)
(郵 政 省)
2制度
・端末機器等の電気通信設備の検査(電気通信事業法)
・無線局、無線機器等の検査等(電波法)
(労 働 省)
1制度
・特定機械等の検査(労働安全衛生法)
(建 設 省)
8制度
・河川に係る許可工作物の検査(河川法)
・許可された開発行為に関する工事の検査(都市計画法)
・許可された宅地造成工事の検査(宅地造成等規制法)
・自動車道の検査(道路運送法)
・軌道の検査(軌道法)
・石油パイプライン施設の検査(石油パイプライン事業法)
・建築物
・建築資材(防火材料)の確認等(建築基準法)
・浄化槽の型式認定(浄化槽法)
(自 治 省)
3制度
・消防用機械器具の検定、危険物施設の検査(消防法)
・石油と高圧ガスを共に扱う第一種事業所の確認(石油コンビナート等災害防止法)
・石油パイプライン施設の検査(石油パイプライン事業法)


目次次へ