T 行政改革の理念と目標

  〜なぜ今われわれは行政改革に取り組まなければならないのか〜

1 従来日本の国民が達成した成果を踏まえつつ、より自由かつ公正な社会の形成を目指して「この国のかたち」の再構築を図る。

わが国は、敗戦の廃虚のなかで、新しい日本国憲法を制定し、「天皇が統治する国家」から「国民が自ら統治に責任を負う国家」へと大きく転換し、復興と欧米へのキャッチアップを国是として懸命に努力し、「経済大国」とも呼ばれる国家に到達した。深刻な挫折に端を発しつつも、近代史上、明治維新期に次いで、日本民族のエネルギーが白熱し、眩いばかりの光彩を放ったこの半世紀は、経済的繁栄というかけがえのない「資産」をもたらしたが、同時に、膨大な財政赤字、国民の生活の隅々にまで張り巡らされた規制の数々や、社会の画一化と閉塞感という巨大な負の遺産をも残し、この国の行く末に暗い影を落として過ぎ去ろうとしている。かつて国民の意欲を喚起し、社会に活力をもたらした同じシステムが、今や、機能不全に陥り、社会の閉塞感を強め、国民の創造意欲やチャレンジ精神をむしろ阻害する要因となりつつあるのである。

今回の行政改革は、「行政」の改革であると同時に、日本国憲法下にあっても、国民が、「官」によって統治されるという意識から脱し切れず、行政に依存しがちであった「この国のあり方」自身の改革でもある。日本国憲法第13条がうたう「個人の尊重」とは、一人ひとりの人間が独立自尊の自由な自律的存在として最大限尊重されなければならないという趣旨であり、そのような個人の集合体である「われわれ国民」が、国政の担い手としての自覚をもち、個人の尊厳と幸福に重きをおく自由で公正な社会を築き、国家の健全な運営に自ら責任を担うこと、これこそが行政改革の究極の理念、目標である。それは、自由な合理主義的精神と「公」の思想に富む明治維新期の人間像を想起しつつ、日本の国民がもつ伝統的特性の良き面を、日本国憲法のよって立つ「個人の尊重」と国民主権の理念に則り洗練しようとする試みであり、故司馬遼太郎氏の語る「この国のかたち」の再構築にほかならない。

2 「この国のかたち」の再構築を図るため、まず何よりも、肥大化し硬直化した政府組織を改革し、重要な国家機能を有効に遂行するにふさわしく、簡素・効率的・透明な政府を実現する。

今回の行政改革の要点は、制度疲労のおびただしい戦後型行政システムを改め、自律的な個人を基礎とする、自由かつ公正な社会を形成するにふさわしい21世紀型行政システムへと転換することにある。

まず何よりも、徹底的な規制の撤廃と緩和を断行し、民間に委ねるべきは委ね、また、地方公共団体の行う地方自治への国の関与を減らさなければならない。「公共性の空間」は、決して中央の「官」の独占物ではないことを銘記すべきである。

次に、戦後型行政の問題点、すなわち、個別事業の制約に拘束された政策企画部門の硬直性、利用者の利便を軽視した非効率な実施部門、不透明で閉鎖的な政策決定過程と政策評価・フィードバック機能の不在、各省庁の専権的・領土不可侵的所掌システムによる全体調整機能の不全といった問題点の打開を図らなければならない。

そのためには、行政の総合性、戦略性、機動性の確保という観点に立って、内閣・官邸機能の思い切った強化や中央省庁の行政目的別大括り再編成、企画立案機能と実施機能の分離を図るとともに、行政の透明性の確保の視点から、行政情報の公開と国民への説明責任の徹底、政策評価機能の向上を図らなければならない。また、行政の効率性の確保という観点に立って、官民分担の徹底による現業の大幅縮小や独立行政法人制度の創設による民間能力の活用等を推進し、絶えず行政が国民と市場によってチェックされるような仕組みを作り上げなければならない。

3 そのような政府を基盤として、自由かつ公正な国際社会の形成・展開を目指して、国際社会の一員としての主体的役割を積極的に果たす。

わが国が上記のような自由かつ公正な社会の実現に向けて努力を傾注することは、立憲主義諸国との価値観の共有を強め、国際社会における公正なルール作りに向けてわが国が積極的に参画していく基盤が整うことを意味している。

わが国の国際的地位の向上や国際情勢の激変に伴い、国際社会は、この国に対し、経済価値の追求のみを国是とする行き方をもはや許容していない。今後日本が、経済的な面での貢献にとどまらず、国際社会が直面する新たな課題に対し、独自の提案や価値の発信を行い、また、公正なルール作りに向けて積極的な参画を行うことは、われわれが日本という国家に生きることに誇りや愛着をもつことを可能にするとともに、自らのうちに多様な意見や生き方を許容する多元的な社会を形成・維持することに寄与するであろう。「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(憲法前文)というわれわれの願いは、われわれが多様な価値観と異なった歴史的背景をもつ諸国家の人びととともに悩み、未来を展望し、困難な諸課題に真正面から立ち向かうことによってのみ可能とされるのである。

4 21世紀日本に向けてのわれわれの決意と希望

以上のような日本と世界の未来像を胸に抱き、われわれが生きるこの国と社会を少しでもその理想に近づけるように試みること、すなわち、「この国のかたち」を見つめ直し、その再構築を図ることが、今日最もわれわれに求められていることである。われわれが目指す行政改革は、断じて、行政改革のための行政改革、スリム化のためのスリム化、中央省庁の看板の掛け替えや霞が関のみを視野に置いた改革ではあってはならない。21世紀日本のあるべき国家・社会像を視野の中軸に据え、改革の具体像を描き、行政改革をいわば突破口として、この国の社会・経済システムの全面的転換の端緒を開くこと、これこそがわれわれに与えられた使命である。

今、われわれの目の前には、「黒船」も「瓦礫」も存在しない。あるのはわれわれの意思、そして日本の将来に対する希望と勇気である。われわれは、自らの意思によって、勇気をもってこの大きな転換への具体的ステップを踏み出す瞬間を迎えている。


中間報告目次 ←戻る 進む→