4.内閣機能の強化


(1)基本的考え方
○ 憲法上行政権は内閣に属し、内閣は、直接法律の執行に当たる「行政各部」からの情報を基礎として、国家の総合的な政策の在り方を配慮するという「国務を総理する」立場にある。これは、すぐれて「政治」そのものであり、現在の日本の現状と直面する課題に対処するためには、内閣(及びその首長たる総理)の権能を高めることが必要。
○ 日本のおかれた内外の状況を考えるとき、内閣の機能については、基本政策企画・立案機能、総合調整機能、危機管理機能、情報収集・分析機能、広報機能のいずれの面でも、内閣総理大臣のリーダーシップの下で、思い切った強化を図る必要がある。
○ 政策目標の一元的設定を総理官邸において行い、それを実現するための手段の執行を諸省庁において行うという体制ができるように、省庁の再編成と官邸機能の強化とはリンクして考えなければならない。内閣機能の強化は、内外の重要政策課題について、タテワリの弊害を除去し、緊急時においても平常時においても、総理が省庁を一元的、迅速に指揮監督できるような体制を作ることを目的とすべき。

(2)総理のリーダーシップの在り方

【行政各部への指揮監督】
○ 内閣法6条の下でも、予算編成、外交、危機管理等について、予め閣議で了承を得た基本方針(施政方針演説、所信表明を含む)に従って、総理大臣が個別的な処理をすることは可能であることは、今日既に広く認められ、また憲法との関係もあることから、当面内閣法6条を改正するまでのことはない。むしろ、内閣機能の強化、閣議決定方法の運用改善等により、総理大臣のリーダーシップが発揮しやすくするような環境を整備することが重要。
○ 「いついかなる場合であっても内閣総理大臣は、予め閣議にかけることなしに行政各部に対し指揮監督をすることはできない」という通説及び内閣法制局見解のような解釈自体が疑問。
○ 国が激動の時代に迅速に対応するため、国政全体に責任を持つ総理が決定の権限を持ち得るよう法律やその解釈を改正すべき。具体的には、内閣法6条を改正して、首相の指揮権を強化し、非常事態に際し、行政各部を直接指揮し、また閣議にかけずに緊急な決定をすることができるようにすべきで、これは憲法に違反しない。内閣は憲法上国会に連帯責任を負うが、緊急事態対処後の閣議決定で是認されれば、連帯責任を負うことができるし、閣僚の各方面に対する「分担管理の原則」は内閣法の改正によって変更すべきである。
○ 内閣法6条への追加条項(6条2項)案
(「第4条1項及び第6条1項の規定にかかわらず、大規模な災害、大規模テロ等の社会的混乱、他国との軍事紛争等が生じ、国民多数の生活が重大な危険にさらされた際には、総理大臣は閣議を開く余裕がないときは、閣議にかけることなく、政府及び地方自治体の必要な機関を動員し、また国民の協力を求めて危機管理策を迅速に決定することができる。但し、それらの決定事項は、危機発生後、閣議招集が可能になった時点で、速やかに閣議の事後承諾を求めねばならない。」)
○ 内閣機能を高めるため、内閣を構成する総理大臣と国務大臣の関係、閣議における政策決定の手続等について、内閣総理大臣の政治リーダーシップを明確にする在り方を検討すべき。
○ ロッキード・丸紅事件判決で示されたような「指示」という権限があるとすれば、指示と指揮監督とは実態的にどのように違うのかなどの点についても検討が必要。
○ 内閣総理大臣のリーダーシップは、制度面のみならず、個人的資質や政治的文脈に大きく依存するところがあることに留意することが必要。

【基本方針の発議】
○ 内閣総理大臣による基本方針の発議については、内閣法4条3項の規定に基づき現行法下で可能であるとも解し得ようが、ここでいう「各大臣」の中には、内閣の代表としての総理大臣は含まれないのではないかとの問題が生じる。基本方針発議権は、本来、総理府の長としての総理大臣というよりは、内閣の代表としての総理大臣に帰属すべきものと思われることから、内閣法上、念のために、内閣総理大臣の閣議への発議権に関する規定を新たに設ける方がより適当。
○ 内閣法4条により総理大臣の基本方針発議権は法的に確保されているという解釈が成り立つ以上、法改正による明文化は整合的でなく、むしろ、総理のスタッフ強化等により、総理のイニシアティブを発揮する基盤を形成することが重要。総理が、毎年度の予算編成、各省庁の幹部職員人事等について、基本方針を示すというようなことが考えられる。

(3)内閣運営

【大臣任期】
○ 大臣の任用のあリ方について、1年程度で内閣を改造するのが当然と考えるような運営でなく、1内閣1大臣というように、じっくリと腰を据えて業務に取リ組める運営を目指すべき。特に、大くくリに省庁を再編する場合には、一つ一つの省庁が所掌する業務の範囲が拡大し、省庁間の調整よりまず省庁内部の調整が重要になるため、政治家がつとめる大臣の役割が今以上に重要となる。

【担当相設置】
○ 複数省に関連する課題に、集中的、包括的に対応するため、必要に応じ、担当相を設ける。

【無任所大臣設置】
○ 無任所大臣を必要に応じて増やし、その一部を、時限持別室やプロジェクト・チームとの関連で任命する。

【インナーキャビネット】
○ 関係閣僚会議のインナーキャビネット的運用により、迅速な政策形成と閣僚間での実質的な議論の場を確保する。

【閣議運営方法】
○ 閣議における政策決定の指導性と責任を高めるため、「事務次官会議」による閣議事項の事前調整の名による実質決定の在り方を改め、内閣での討議により決定する在り方にすべき。

(4)総理の補佐体制

○ 首相補佐官を、量・質ともに拡充すべき。また、その一部を時限持別室やプロジェクト・チームとの関連で任命すべき。
○ 総理補佐官や顧問などの総理を補佐する体制については、その時々の総理の個性、政治経歴、考え方等によって選択できる幅を制度的に保障すべき。
○ 国の重要施策の基本的な方向付けや各省庁を通ずる基本的施策に係る総合調整機能は、極力、総理の下で一元的に行われるのが望ましいことから、内閣総理大臣のリーダーシップがより発揮されるよう、総理の補佐体制を充実する(ポリティカル・アポィンティによる任用を検討することも一案)。

(5)内閣官房

【基本的考え方】
○ 我が国の場合は、アメリカ大統領制の場合とは異なり、各大臣が行政事務を分担管理する原則(各省庁からのボトムアップ方式)が採用されていることもあり、内閣における企画・立案は、行政の全般にわたる詳細なものではあり得ず、政策の基本的枠組みないし基本方針の決定が中心であるはず。したがって、このような作業に従事するスタッフ組織は、少数精鋭を旨とし、状況に柔軟に対応のできる比較的小さな組織である方が望ましい。
○ 行政事務を分担管理する各省庁のボトムアップ型の政策形成に依存し切ってきた従来の仕組みを相当程度転換し、内閣が内閣としての政策方針を明らかにし、その方針に従って行政各部の活動が展開されるトップダウン型の行政運営をすべきで、それをバックアップする事務機構・総理大臣の補佐体制の整備が急務。しかし、その機構が重くなりすぎて官僚機構の弊害を生むことのないよう、質の高い機動性に富んだ仕組みを構築することが必要。
○ 総理府を「内閣府」に改組し、総合調整機能は「内閣府」が専管。そのため、「内閣府」には、現在の内閣官房、総理府本府の持つ総合調整に係る権限に加え、内閣法制局、人事院、総務庁をはじめとする総理府の外局等から、法制、組織、予算、人事、計画に関する基本的な権限を移管・統合。現在、総理府本府が行なっている総合調整以外の事務については、外局に移管。内閣法制局、人事院ならびに総理府の外局に置かれている総務庁、経済企画庁、国土庁等の総合調整官庁については、原則廃止。(再掲)
○ 総務庁による組織管理、人事院による人事管理、内閣法制局による法制管理のほか、専ら大蔵省に属してきた財政管理(予算管理)の一部等の総合調整機能は、例えば総理府を改組して設ける「内閣府」のような組織に集中する。このためのスタッフはかなりの規模と数とになるはず。(再掲)
○ 内閣官房と総理府本府、調整官庁の調整事務等をまとめて内閣府とし、調整官庁の実施部門は省庁再編の対象とすべき。(再掲)
○ 内閣官房の「内閣総理大臣室」への改組
 内閣総理大臣に対する助言・補佐機能を強化する観点から、内閣官房を「内閣総理大臣室」に改組し、国の重要施策の企画・立案、広報、情報の収集・分析・管理を行う。内閣に課せられている任務は、高度かつ政治的な判断を要するものが多く、この任務の遂行は、内閣総理大臣の個性と考え方によるところが極めて大きい。したがって、「内閣総理大臣室」は少数精鋭の組織とするとともに、政治任用者を積極的に活用する。

【具体的改革案】
○ 内閣情報局(仮称)の新設
 行政各部の保有する情報への内閣としてのアクセスを高めて政府全体の情報集約化を図るため、内閣情報調査室等を改組し、官房長官直属の高度な情報機能を担う「内閣情報局」を新設する。内閣情報局は内閣法制局と並ぶ機能として位置づけ、情報局長官、副長官をおく。
○ 危機安保室(仮称)の新設
 内閣官房に、特別副長官職とその直属機関である「危機および安全保障管理室、略称=危機安保室)」を新設し、危機管理と安全保障管理の問題への政府としての対応力を強化・集約化し、中央省庁の安全保障政策機能との役割分担も再検討する。
○ 時限特別室(仮称)の新設
 10年前後の予め定めた年限内で、従来の行政枠組みでは取リ組みが遅れた分野や近未来の国際競争を意識した分野(男女平等・育児支援部門、情報通信戦略部門、核融合研究部門、住宅・歩道整備部門、エイズ治療研究部門、高齢者福祉、医療情報開示、環境リサイクルシステム、海外留学支援、宇宙開発、国際金融中枢機能等)を対象とし、内閣として集中的に取り組む「時限特別室」を複数設け、政務と事務の副官房長官直属組織とする。対象分野の企画・立案・調整機能は、担当省庁から概ね内閣官房に移す。
○ 特別プロジェクト・チームの新設
 国際的にもプラス・イメージの課題(世界の乳幼児への予防接種の普及、対人地雷の対策、途上国での就学率の向上等)に取り組むため、総理大臣のイニシアティブや個性が発揮されやすい機動的な特別プロジェクト・チームを、内閣官房に設置する。
○ 女性施策を担当する機関を新設。

【人事の在り方】
○ 高度な情報、分析・企画能力、政治力を持った組織を内閣官房に形成し、政治の側から内閣官房の強化を図るため、政策立案に秀でた非族議員の政治家を1名ないし数名選び、現行の官房副長官(事務)と役割を同じくするような新たな官房副長官(政務)に任命する。この新たな官房副長官は、国会や政党との連絡調整ではなく、むしろ省庁の指導に当たらせ、副長官のスタッフとして、官房内の室体制、補佐官等を充実すべき。
○ 内閣官房の組織のあり方について、現状はあまりに人事が固定的。内閣官房のスタッフを各省から調達する現在の仕組みを前提としても、もっと弾力的な人事とし、総理大臣や官房長官などのイニシアティブで広く各省庁から適任者を抜擢するような任用を考えるべき。
○ 現在の内閣官房5室を大幅に拡充、格上げする。このため、内閣官房5室長は、事務次官並の指定職11号とし、内閣補佐官も10号乃至11号に昇格させ、各省庁との調整権を強化する。
○ 情報収集・分折を担当する部門や人材を、対策を企画、立案、調整する部門や人材と分離し、対策や政策の思惑で情報分析の客観性が損なわれることのないよう注意すべき。また、情報と政策の分離を進めるに当たり、情報の重要性を認め、情報関係の職務的地位を政策関係と同格とする。
○ 「内閣総理大臣室」は、高度かつ政治的な判断を要する任務を処理し、内閣総理大臣の個性と考え方に左右されるため、少数精鋭の組織とするとともに、政治任用者を積極的に活用する。(再掲)

(6)危機管理

【基本的考え方】
○ 大規模な事故や自然災害への対処等の危機管理については、政府の対応の遅れやまずさが指摘されており、この面での内閣機能強化が緊急課題。
○ 我が国の危機管理機能の向上や内閣機能の強化を正当化し、目的を明らかにするため、国際社会でも普遍的な理念として定着しつつあるヒューマン・セキュリティ(人間の安全保障)の概念を、国の安全保障と並んで中心理念として位置づけるべき。
○ 内閣の危機管理機能が強調されるのは、危機が発生した場合に、政府が直ちに何らかの手を打てる体制にあるという安心感自体が国民によって求められているためであり、内閣の危機管理機能の強化には、かなり心理的な要素が絡んでいる。
○ 危機に際し執られる個別的な措置については、緊急を要するものが多いため、必ずしも事前の情報公開等を必要としないが、事後的には、いかなる問題に対しいかなる措置が執られたかを、直ちに公開することが是非とも必要である。
○ 危機管理のための内閣機能については、中央省庁の在り方等の検討とはある程度切り離して考えることができる事項であり、改善がとりわけ急がれている領域でもあることから、早期に方向性を出すことが望ましい。

【総理の指揮監督】
○ 内閣法を改正せずとも、内閣総理大臣は組閣直後の閣議において、緊急事態発生時に人命救助および重大環境破壊阻止等の目的に限り、また緊急事態の内容を限定的に定めたうえで、行政各部を直接指揮監督すること等についての方針の決定を得る。
○ 一定の時間(たとえば48時間)以内に、さらに緊急事態対応が必要である場合には、内閣総理大臣は、以前の概括的閣議決定の方針に基づき自らが立ち上げた緊急事態対処の体制と対処の基本方針を引き続き継続することについて閣議に図り、改めてその事態における基本的な方針についての閣議決定を得る。
○ 総理ないしその意を体した「危機管理官」による行政各部への直接の指揮監督権限を認めることが必要。まず考えられるのは、「危機」の類型を定めて、これらにつき予め閣議の了解を得ること。さらに、予め類型化して想定され得ないケースについての処理を、概括的な形で予め閣議に諮ることも許されると考えるべき。少なくともこういった本当の「危機」の状態にあつては、この限りの例外的処理を認めることは、決して憲法72条や内閣法6条の規定の精神に反するものではない。
○ 首相に対する閣議決定の拘束は、国家非常事態における危機管理の必要上緩和すべきであり、内閣法4条及び6条を改正すべき。これは憲法66条3項及び72条違反にならない。

【特別職の設置】
○ 内閣官房に危機管理等を専門的に担当する官房副長官相当クラスの特別職(「危機管理官」、「官房特別副長官」等)を置き、危機管理に関し、内閣としての観点から対処方針を第一次的に判断し、必要な指示を関係省庁に行い、情報分析や対処について総理大臣、官房長官、官房副長官等に所要の意見具申を行い、関係省庁の事務次官級ないし局長級の会議等を主宰するなどにより、危機管理における総理大臣のヴィジビリティと司令塔としての機能をサポートする。また、平素より関係省庁や自治体における危機管理体制の整備について、内閣の立場から点検と見直しを行う。
○ 「危機管理官」が有効に機能するためには、拘束力を以て、行政各部ないし地方公共団体から報告を聴取する権限が与えられ、また、収集された第一次情報を的確に分析する能力が備わっていなければならない。このため、「危機管理官」は、特別職として、広く行政組織の内外から適任者を選ぶべき。
○ 総理ないしその意を体した「危機管理官」による行政各部への直接の指揮監督権限を認めることが必要。(再掲)

【事務・補佐体制の整備】
○ 「危機管理官」を補佐し、危機管理および安全保障に関する事務を所掌する内閣官房内の機関を設け、第一次的な情報の分析・評価、関係省庁の総合調整、危機対応に関する調査研究、危機管理対応のマニュアル作成・指示、諸外国の危機管理部門との連携・協力、危機管理に関する情報集積等を処理する。このスタッフの専門性を高める人材養成、人事ローテーション等につき工夫する。
○ 「危機管理官」のスタッフ組織をかなりの規模において常置することは、大きな組織上・財政上の負担となることから、そのスタッフ組織は、行政組織の外部の専門家をも含めたネットワーク組織として形成することも考えるべき。
○ 「危機管理官」を補佐する機関は、国民がストレートに理解しやすく、かつ強力な機構が新設されたとのイメージを与えるため、「内閣危機管理局」もしくは「危機管理本部」といった印象の強力な名称とすべき。


行革会議の「中間整理」について第1部 中間整理(目次)

第2部 目次戻る進む