法務省説明資料(平成9年5月7日)

出入国管理業務について,治安・保安関係機構との関係,あるいは外交当局との関係において,組織の在り方をどう考えるか。

1 出入国管理行政の主な業務は,入国・在留を認める外国人の範囲を我が国の経済・社会全般に与える影響等を総合的に考慮して決定し,その政策に基づいて個々の外国人の入国・在留の許否及びその条件を決定し,法に違反して入国・在留した者を国外に退去させることのほか,日本人の出国及び帰国の際の確認等その適正な出入国管理を実施することであるが,さらに,外国人の身分関係及び居住関係を明確にするための外国人登録及び難民の認定も出入国管理行政の重要な業務である。

(1)これらのうち入国・在留許可関係業務に関連する制度として,外務省が所管する査証制度があるが,査証とは,外国に駐在する領事官が入国条件等を認定した形式的なものであって,これをもって直ちに入国等許可の意味を有するものではなく,入国・在留の許否の判断は専ら外国人の入国・在留管理という国内政策の観点からなされるべきものであるから,入国等の許否を決定する権限は,国内政策の企画立案・執行の衝に当たり,国内に調査機関を有する出入国管理当局に属させるべきである。現にその受入れの在り方が我が国の経済,社会に大きな影響を及ぼす就労や研修等の目的により入国したいとして査証発給の申請がなされた場合等は,あらかじめ法務省の審査を経て交付された在留資格認定証明書を提示する場合を除き,在外公館限りで発給の可否を決定することなく,原則として外務省が法務省に個別に協議した上で査証を発給している。なお,査証の発給に関しては,外務省と法務省との間で定期的に連絡会議を開催し,それぞれの業務を所管する立場から相互に意見交換を行うなどの協力体制が確立している。

(2)次に治安・保安関係機構との関係では,退去強制手続は我が国に違法に入国・在留する外国人に対して国の退去強制権を実現するための行政手続であるのに対し,刑事訴訟手続は犯罪を犯した者を処罰する国家刑罰権を実現するための司法手続であり,両者はその目的,手段を異にする別個の国家作用である。しかしながら,退去強制事由とされている不法行為の多くは刑罰の対象とされていることから,退去強制手続と当該外国人に対する刑事手続との間に一定の関係があることも事実であるので,治安・保安関係機構との間では,中央レベル,地方レベルにおいて定期的な協議の場を設ける等により協力関係を強化しているほか,現場において不法就労外国人を対象とした摘発を行うに当たっては,必要に応じて出入国管理当局と所轄警察署との合同摘発を積極的に実施している。また,昨今大量に発生した密航事案の処理や尖閣諸島の問題の処理等に当たっては,警察庁,海上保安庁との緊密な協力関係の下で,事案の適正な処理に当たっている。また,大量避難民が発生した場合においても密接な協力関係の下に対応することとしている。さらに,薬物犯罪の捜査に関して,警察官又は麻薬取締官等からの通報があり,かつ,一定の要件を整えている場合には,いわゆる「コントロールド・デリバリー」の一環として,麻薬等の所持に係る上陸拒否事由の該当性を問うことなく上陸許可の証印を行う等の捜査協力を行っている。

(3)出入国管理,税関及び検疫は,所管行政庁が法務省(出入国管理),大蔵省(税関),農林水産省(動植物の検疫)及び厚生省(人の検疫)と幾つかに分かれているところ,行政目的,審査・検査の対象等はそれぞれ全く異なり,業務遂行に必要な専門性等も互いに異質であり,ただ空港・海港の現場に事務所を設置し専門職員を配置して業務に当たらせているという点においてのみ共通するにすぎないが,いずれの組織も空港の利用状況等が直接に事務に影響することから,運輸省を加えて課長級の連絡会議を設け情報の交換等に努めている。

2 出入国管理業務は,外国人の受入政策の立案からその具体的実施,違反の摘発・排除までの各業務を一つの組織が一体的・統一的に行うことによって初めて実効性のある効率的な出入国管理行政の実現が可能となるものであって,入国管理局の担当する業務の一部について他省庁の業務と表面上の類似性が認められることをもって他の組織に一体化させたりあるいは出入国管理業務を分割してこれをそれぞれ別の組織にゆだねるというようなことはかえって行政の実効性と効率性を損なうことになる。
 外国人の入国・在留管理は,国際的な人的交流を円滑に進めるとの観点からの受入政策に基づいて行われるべきものであり,これを治安機関にゆだねることとした場合,入国・在留管理が専ら犯罪捜査の観点から行われることとなり,出入国管理の本来の在り方とは相いれない結果を招来することになる。
これらを踏まえれば,出入国管理,在留管理,退去強制,外国人登録,難民認定といった幅広い入管行政を一体的・統一的に所掌し得る組織としては,法秩序の維持,権利の保全等を主な使命とする法務省が最もふさわしいと考えられるところ,入管行政を取り巻く諸情勢を見ると,外国人労働者問題,不法就労問題,大量避難民問題等の難問が山積しており,法務省としては関係省庁との緊密な連携,協力体制の下で,これらの処理に当たってまいりたい。

公安調査庁の今後の在り方についてどう考えるか。

1 破壊活動防止法及びその運用の今後の在り方について

(1)およそ世界の民主主義国家と言われる国々においては,団体組織による政治目的を持った破壊活動を,公共の安全確保ないしは基本的法秩序維持の上で,最も悪質かつ危険なものとし,これら破壊的団体の結社の禁止や解散,活動の制限,財産の没収などを規定した法規を整備し,これを執行する機関を有している。そして,我が国に比べて過激派やその他の組織によるテロ事件の発生件数が多いフランスなど諸外国においても,団体規制法が実際に適用されるケースは必ずしも多くないものの,団体規制法及びその執行機関は,それぞれの国の基本的法秩序を守るための最後の安全装置としてその存在意義が認められているのが実情である。我が国においては,公安調査庁が団体規制のための日常的な調査活動を続けてきたことが,破壊的団体を闘争面で自己抑制させ,その勢力拡大に歯止めを掛けてきており,オウム真理教に対しても同教団に対する規制請求手続を進めたことが,教団に自制をもたらし,危険性を低減させたと公安審査委員会も認めるところであって,破壊活動防止法及び公安調査庁の存在が公共の安全の確保の上で効果を発揮している。
 ところで,団体規制法は必要な際には迅速に適用されるべきであり,今回のオウム真理教に対する規制手続の経験にかんがみると,手続の迅速性,刑事事件の進行との整合性などの点で改善すべき余地も少なくない。そのため,公安調査庁としては,今回の規制手続について早急に総括し,問題点を整理した上で,より適切かつ迅速な団体規制を図るため,今後の団体規制の在り方について検討を進める所存である。

(2)破壊活動防止法は団体規制のための法律であるところ,破壊的団体を規制するためには,当該団体が,@団体として,A暴力主義的破壊活動(内乱,外患誘致・援助,政治目的を持った殺人,強盗などやその予備・陰謀,教唆,せん動等)を実行し,B継続又は反復して将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれがあると認めるに足りる十分な理由があることを証明する必要がある。このため,同法の執行機関である公安調査庁は,これら規制要件を証明するため,全国に公安調査官を配置して,当該団体の組織や活動状況,あるいはその周辺情報を収集しており,その調査過程において収集した重要情報については,国家行政組織法第2条の趣旨にのっとり,政府・関係機関に提供している。この点で,公安調査庁は団体規制のための機関であると同時に,情報機関的機能を有する組織といえる。

(3)破壊活動防止法の運用に関し,こうした機能を有する公安調査庁としては,今後,前記のとおり団体規制請求事務の一層の効率化を図るとともに,複雑かつ混迷化する内外公安情勢の下で,その情報機能を積極的に活用することによって,内閣の危機管理や政府・関係機関の公安問題に係る重要政策の決定に必要な情報機能の強化などに寄与したいと考えている。例えば,内閣において各政府関係省庁の関連情報を統合して分析するような体制が検討されるとするならば,その際,公安調査庁が調査業務を通じて収集した情報を組織的,恒常的に提供するなどして,相応の貢献を果したいと考えている。

2 警察,内閣情報調査室等との今後の関係について

 内閣の情報機能の強化の観点から,現在,各省庁の縦割り弊害の是正が言われ,情報関係機関についても一体性の強化が課題となっているところ,一体化に関しては,以下のような問題点が指摘されている。

(1) 情報収集の目的が機関ごとに違うこと
 公安調査庁,警察,内閣情報調査室等各機関の情報収集は,それぞれの所掌事務,すなわち公安調査庁は破壊的団体の規制のために,警察は個人の生命,身体及び財産の保護並びに犯罪の予防,鎮圧等のために,そして内閣情報調査室は内閣の重要政策の決定に寄与するために行っている。これら各機関がその任務・目的を達成するために行っている情報収集活動が,その過程において一見重なり合うかのように見える部分があること,あるいは情報収集という共通の機能を有していることをもって,これを重複ととらえることには疑問がある。
 また,情報は複数の機関がそれぞれの異なった専門的角度から収集することによって質的に高度化し,確度も担保され,情報の偏りや情報操作等の危険も複数機関が存在することによって回避し得ると考えられるので,主要な外国の例に見るように情報収集活動においては,むしろ複数の機関が存在する方が望ましい。
 加えて,そもそも公安調査庁は,団体規制事務遂行の必要上,情報を収集しているのであり,これは「破壊的団体の規制に関する調査」という法的枠組みの中で行っているものである。したがって,公安調査庁の団体規制機能と情報収集機能はコインの「表」と「裏」のような密接不可分の関係にあるのであって,情報機能のみをとらえて関係機関との統合を検討することは,また,そのために,規制調査体制が大きく変容することは,公安調査庁の本来の役割の遂行に支障を生ずるおそれがある。

(2)権力の過度な集中を招く可能性があること
 そもそも破壊活動防止法制定時,公安調査庁が警察機構とは別に法務省の外局として設置されたのは,その任務・目的が警察業務とは全く異なるという理由のほか,団体規制事務が結社の自由や表現の自由など憲法の保障する基本的人権と密接に関連することから,戦前の治安維持法時代の反省を踏まえ,強制権を持つ警察に権力が集中することを避けたことなどによるものである。もとより,現在の警察を当時の警察と同視することはできないが,人権と重大なかかわりのある,権力的色彩の濃い行政分野については,今日においてもその趣旨は維持されてしかるべきものと思われ,権力の過度の集中を招来するおそれのある組織の再編については避けるべきものと考える。また,団体規制処分は当該団体が暴力主義的破壊活動を行ったことを規制要件にしながらも,破壊活動を行ったことを訴追するものではなく,将来の危険性を除去するための行政処分であるところ,団体規制のための調査を警察に担当させることとなれば,行政処分としての調査と刑事訴訟法による捜査との境界があいまいとなる。
このような問題点はあるものの,公安調査庁としても情報関係機関がそれぞれの立場に固執することは避けるべきと考えており,この観点から,例えば内閣の情報機能の強化策として,各機関からの情報を統合・分析し,重要政策の決定に反映させることができるシステムを内閣に確立することが有益ではないかと考えている。

登記,供託業務の独立機関化についてどう考えるか。

1 登記,供託の業務は,国の基本政策に密接な関係を有する業務である。不動産登記は,国民の最も重要な資産であり経済活動の基盤である不動産の権利を公的に証明する(登記をしないと第三者に権利を主張することができない。)制度,会社の登記などの商業登記は,経済活動の基盤である会社その他の法人について法人格を付与し,代表者などの法人をめぐる権利関係を公的に証明する制度であり,また,供託は,これが受理されることにより債務の消滅という債権債務関係の基本を確定する効果をもたらす制度であって,いずれも国民の財産,権利関係をめぐる基盤(インフラ)をなしている。

2 このように,登記,供託の業務は,国民の経済活動の重要な基盤となる権利関係を確定し,これを保全し,さらには公証する業務として,経済活動の基礎をなしているため,国の重要な政策課題の実現に当たって,その企画立案部門と連携を保ちながら,制度を改正し,あるいは運用することが求められる。

(1)不動産登記制度は,農地法や土地区画整理法などの土地関係法令,根抵当権や建物の区分所有権など不動産に関する所有権,担保権などに関する民事基本法の改正に伴って改正がされるなど,不動産登記を基盤とする不動産法制ないし金融担保法制と密接な連携を保ちながら運用されてきた。また,商業登記制度については,社債制度の改正や最低資本金の新設など会社制度の改正に伴う制度改正が極めて頻繁に行われている。供託制度は,民事執行法・民事保全法の制定などの手続法の改正に伴い,不動産登記制度と併せて大きな改正がされてきている。

(2)したがって,登記,供託業務を基礎とする重要な政策の企画立案に当たっては,このような政策の実施の観点から登記,供託手続の改正を企画立案する必要があり,また,実体法制度を企画立案する場合には常に登記,供託制度の適正な運営を踏まえなければならない。このため,企画立案に当たる民事局が執行に当たる法務局の現場とのフィードバックを通じて法令の改正を行い,また通達等の運用指針を示す形で行われている。
 最近の例でいえば,阪神・淡路大震災に際して,民事局が,関係省庁と密接に連絡を取る一方で,倒壊したマンションの滅失登記に必要な新たなコンピュータ処理のプログラムを開発するなど具体的な事務処理の方法につき,現場である大阪法務局・神戸地方法務局と緊密な協議を重ねた上で,10万棟に及ぶ倒壊建物につき職権による滅失登記を行ったほか,特設相談所の開設や登録免許税の免除の取扱い等,被災者の負担軽減に資する措置を速やかに執ることができた。また,最低資本金制度の導入に当たっても,300万社を超える経済活動の主体となる会社のうち最低資本金を満たしていない会社が一定の時期に解散したものとみなされることから,民事局と現場である登記所とが一体となって,その趣旨,具体的な登記手続等の事前の周知の徹底を図ることにより,経済界の混乱を避けるとともに,最低資本金を達成するための増資の登記の申請が一時期に集中して登記所の業務が停滞することがないようにしつつ,各登記所との協議を通じて登記の円滑な処理体制を築いたことによりスムーズな制度の導入が実現できたものである。
 供託についても,その200を超える根拠法令は多種多様で,公職選挙法の改正やプリペイドカード法の制定など国民の選挙権等の適正な行使に関わる制度や国民経済の発展の基礎となる新たな制度の創設に関連して供託制度の創設が次々と行われており,これらの法改正が供託実務の取扱いを踏まえて行われることが必要である。
 このように,政策の企画立案とその実施との間における一体となった行政活動を維持することができる組織体制が不可欠であり,今後行われる経済構造改革のための債権・不動産の流動化,金融の自由化・国際化,電子取引に対する対応など重要な政策課題を円滑に実施に移していくためにも,企画立案と実施の一層緊密な連携が必要となる。

3 登記,供託の業務は,国民の基本的な権利義務関係を確立する業務であるという性質上,その業務は実体的な権利関係を正確に反映することが常に求められ,またこれに対する国民の高い信頼が制度の不可欠の基盤となっているため,厳正,公平,中立な業務の遂行が求められるところであり,国の業務として遂行される必要がある。
 登記の業務は,経済活動の重要な基盤となる国民の基本的な権利義務関係を確立するというその業務の重要性にかんがみ,戦前は裁判所によって事務を扱うものとされていた準司法的要素をもつ制度であり,供託とともに単に事実を記録するといった定型的業務ではなく,法律的な権利義務関係を独立的地位を有する登記官又は供託官が厳格に審査して,登記又は供託の申請を受理するか却下するかを決定し,これに対しては不服申立をする手続も設けられている。
 また,不動産登記は,不動産に関する権利関係だけでなく,その前提となる不動産の表示をも登記する制度であり,そのため,登記官には実地調査権が与えられ,事務処理の正確性が期されている。このような制度的裏付けによって,不動産登記簿は,その記載内容の正確性にかんがみ固定資産税等の課税の資料ともされている。

4 我が国の登記,供託業務は,法務局において総合的な民事法務行政の一環として運営されており,その法務局の組織の中から,登記,供託の業務のみを独立機関化させることは,組織の分散・弱体化を招き,その運営が非効率になるばかりでなく,法務行政に対する国民の高い信頼を損なうおそれがある。

(1)現在,法務局では,登記事務のみを主に扱う660箇所の出張所を除いた330箇所の本局及び支局において,登記,供託を始め,国籍・戸籍などの民事法務行政を主体としつつ,人権擁護行政及び国の利害に関係のある訴訟に関する事務などの訟務行政まで,いずれも国が直接行うべき事務を総合的に扱う体制が採られており,約1万2,500人の法務局職員のうち登記業務に従事する職員を除いたものは2,400人程度にすぎず,取り分け支局においては,これらの限られた職員が多岐にわたる法務局の業務を兼務している場合も多い。

(2)また,法務局では,登記を軸としながら,他の戸籍・国籍などの民事法務行政及び訟務・人権擁護行政など法務に関する総合的な知識経験を有する職員を養成しつつ組織・人事の管理が行われており,このような幅広い法律的知識を有する職員が法律に基づき正確かつ公正に国民の権利保全のための事務に当たることにより,国民の期待と信頼に応える組織・体制を築いている。

5 登記,供託業務を独立機関化するためには,登記特別会計など,登記,供託事務を支える財政構造についても抜本的な見直しが必要である。
 登記事務は,登記特別会計によって営まれているが,その歳入の半分強は,登記簿の謄本の交付請求等における手数料によって賄われているが,残りは一般会計からの繰り入れによっている。登記事務のうち,利用者から手数料を徴収するものは,登記簿の謄本の請求等に限られており,登記事務の最も重要な部分である登記申請の審査については,登記の申請に当たっては,登録免許税の徴収はあるが,手数料徴収の対象とはなっておらず,また,登記簿謄本等の請求であっても,国の職員等が職務上請求する場合には,手数料を納めることを要しないとされている。
 また,供託については,特別会計にも独立採算にもなっていない。

人権擁護行政について,人権問題を巡る今日の状況を踏まえ,今後の組織の在り方をどう考えるか。

1 法務省の人権擁護機関の概要

 国民の人権を擁護するための国の機関は,中央機関として法務省人権擁護局,地方支分部局として8法務局に人権擁護部,42地方法務局に人権擁護課がそれぞれ設けられているほか,全国280箇所の法務局・地方法務局の支局においても,人権擁護事務を行っている。
 また,人権擁護委員法に基づき,全国の各市町村(特別区を含む。)に,民間のボランティアである約1万4,000人の人権擁護委員が配置され,これらを総称して法務省の人権擁護機関と呼んでいる。
 法務省では,このように,全国にくまなく張り巡らされた組織を有し,これらが有機的つながりを持ち,一体となって,幅広い人権擁護活動を行っているところであり,地域の実情や必要に応じたきめ細かい人権擁護活動が可能な体制となっている。

2 人権擁護行政の内容

 法務省の人権擁護機関が行う人権擁護行政の役割は,人権侵害の発生を予防するために,国民に人権尊重の意識を醸成させるための啓発を行い,不幸にして人権侵害が発生した場合には,事実関係を調査し,その結果に基づき,加害者に対し,自主的,自発的に人権侵害の状態を解消させ,あるいは将来の発生を防止するための措置を講ずることにあり,法務省の人権擁護機関では,人権思想の普及高揚のための啓発活動及び人権侵犯事件の調査処理を主たる業務としている。
 また,人権擁護局では,国民の裁判を受ける権利を実効あらしめるための貧困者の訴訟援助に関する事項(法律扶助)を所管しており,これを通して国民の人権擁護を図っている。

3 幅広い施策の企画,立案及び実施

(1)人権擁護局は,国連等の国際的な動向にも対応した幅広い施策を企画,立案,実施している。最近の動向としては,「人権教育のための国連10年」が平成6年12月,国連総会で決議され,我が国においても,平成7年12月,閣議決定により「人権教育のための国連10年推進本部」が内閣総理大臣を本部長,法務大臣等を副本部長として設置され,本格的な取組が行われているが,人権擁護局は,平成8年12月に公表された「人権教育のための国連10年国内行動計画中間まとめ」の作成において,重要な役割を果たした。

(2)同和問題に関する差別意識の解消に向けた啓発に関しては,平成8年5月の地域改善対策協議会の意見具申を踏まえた同年7月の閣議決定において,今後広く人権啓発に再構成して推進すべきとされたことに伴い,従来総務庁が行っていた「地域改善対策啓発活動事業」(都道府県及び財団法人権教育啓発推進センターに対する委託事業等)が法務省に移管され,平成9年度以降は,人権の擁護に関する事項を所管する法務省(人権擁護局)において,「人権啓発活動」としてこれらの委託事業等を実施することとなるなど,人権擁護局の果たすべき役割がますます大きくなっている。

(3)個別の人権問題に対する取組に関しては,人権擁護局では,これまで様々な人権問題について,積極的に取り組んできているが,例えば,近年,「いじめ」,虐待等の子どもの人権問題がクローズアップされている現状を踏まえ,「子どもの人権専門委員」(人権擁護委員の中から指名)を創設し,子どもの人権の擁護を図るための主体的,重点的な取組を行うなど,社会の状況に即した人権擁護活動を行っている。

(4)このように,人権擁護局は,幅広い施策を企画,立案,実施しており,今後も様々な人権問題に主体的に取り組んでいく方針であり,本年4月,新たに「人権啓発課」を設置し,社会のニーズに応じた適切な啓発活動ができるよう,組織・体制の充実を図ったところである。

4 法務省の今後の役割

 国民の基本的人権の保障は憲法の最も重要な基本原理であり,すべての国家活動の指導原理であることから,国の行政機関はいずれもそれぞれの立場から国民の人権に配慮した施策を行っているが,社会秩序の維持及び国民の権利保全をその重要な使命とする法務省においては,特に人権擁護局,法務局,地方法務局及びその支局並びに人権擁護委員という人権擁護を専門に担当する全国機関が設けられており,これら機関が日本国憲法施行以来一貫して人権擁護の任に当たってきたところ,今後も全国的組織を有する専門機関として更に積極的な役割を果たすことが期待されているところである。
 そして,人権擁護施策推進法(平成9年3月25日施行)に基づき法務省に設置された人権擁護推進審議会は,人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項並びに人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項を調査審議することとされており,同審議会において,人権に関する内外の諸情勢を踏まえた人権擁護行政の組織・体制の在り方も審議されるので,法務省としては,その審議の結果も踏まえて,今後とも人権擁護に積極的に取り組んでまいりたい。

5 オンブズマン制度など新たな組織の在り方を求める意見について

 諸外国には,オンブズマン制度を含め,様々な形態の人権擁護制度が存在するが,国の人権擁護体制の在り方は,その国の司法制度や人権状況等と密接に関連するものであり,人権擁護推進審議会においては,法務省の人権擁護機関の組織・体制の在り方を含めて審議される予定であるが,その際にはオンブズマン制度を含めた諸外国の人権擁護制度をも視野に入れた検討が行われることになる。


行政改革会議(目次)第12回議事概要