労働省説明資料(平成9年5月7日)[その1]

労働行政の沿革とその後の環境変化に照らし、労働行政と福祉その他の国民生活に係る行政との関係及び組織のあり方についてどう考えるか。

1 労働行政の役割

一人一人が、持てる能力を十分に発揮し、労働を通じて日本社会を支える側にまわるようにすること。
一人一人が尊厳を持って働くことができるようにすること。
労働に関するセーフティネットを提供すること。

 イ 労働行政は、労働者が仕事に就くための準備をする段階から、労働市場において就職活動を行い、就職して働き、場合によっては転職し、現役のうちに引退後の生活設計をし、引退するまで、すなわち、労働者の全職業生活に関する政策を一体的に展開している。
 ロ 産業構造の変化や景気の状況に応じて、雇用対策、職業能力開発に関する施策を展開し、完全雇用の達成、経済社会が必要とする人材の育成・確保、失業者や転職希望者の就職の促進を図っている。
 ハ また、労働者が尊厳を持って働くことができるよう、安定した労使関係を維持していくための枠組みの整備・確保、職場における安全衛生や最低労働基準の確保、差別の解消など雇用における男女の機会均等の実現等を図っている。
 ニ さらに、失業したり、職場で災害にあった場合に、失業給付、労災補償給付を支給し、それらの人々が再び仕事に就くことを支援している。

2 最近の諸情勢と労働行政の課題
 我が国社会は、世界的に例のない超高齢社会を迎えるとともに、国際的な大競争時代に直面。このような情勢変化を踏まえ労働行政を展開することが必要。

(1)超高齢・少子化社会

超高齢・少子化社会を乗り切っていくためには、すべての人がその能力を高めつつ、これを最大限発揮し、労働を通じて社会に貢献することが必要。このため、すべての人が働きやすい環境の整備が重要。その結果、労働によって社会を支える人が増加し、国民負担の軽減にも寄与。

 労働力人口が減少していく社会において、労働力供給が経済発展のボトルネックになるという懸念がある。このため、高齢者や障害者が生産性の高い仕事に就くことができるような環境づくり、家族的責任を有する労働者が子育てや家族の介護をしながら働けるようにするための両立支援の充実、中途採用でも不利に取り扱わない雇用慣行が広がりつつある中で子育てを終わった女性が再び仕事に戻る際の条件の整備を図るなど、高齢者、女性や障害者を含め、すべての人がその能力を向上し、働きやすい環境を整備する。これは、経済社会の発展を支える人材の確保という面でも重要。

(2)大競争時代

大競争時代に対応していくためには、我が国の経済社会が必要とする人材が確保されることが必要。このため、人材の育成及び円滑な就職ができるような労働市場政策が重要。この際、民営職業紹介事業などの規制緩和も推進。

 イ 大競争時代にあって、産業構造、職業構造の大規模な転換が生じるが、我が国経済社会が環境変化に対応できず、経済社会の活力が失われれば、「大失業時代」となる恐れ。
  1)産業構造の転換や職業生涯の長期化の下で、それまで働いていた産業、職業で働き続けることが困難な労働者が増えるが、産業間の労働移動が適切に行われず、離職者が円滑に新しい仕事に就くことができなければ、失業期間の長期化、それに伴う就業意欲の減退が生じる。
  2)我が国経済社会の活力の素となる新しい産業は、それを支える有能な人材を求めている。新規産業に必要な人材の育成・確保ができなければ、雇用がボトルネックとなり、当該産業の発展が阻害され、ひいては、経済社会全体の発展も阻害される。
 ロ 少子化の進展により労働力人口が減少し、労働力不足社会になる可能性もある。しかし、社会全体として労働力不足となったとしても、ミスマッチから、労働力不足と高失業が併存することも十分あり得る。
 ハ 我が国の経済社会の発展のためには、知識集約型の産業、ベンチャー型の企業が伸びていくことが必要。これらの産業を担っていく人材を育成するとともに、創造的な仕事をするために適した働き方ができるよう、労働基準のあり方を見直すことが必要。
 ニ さらに、大競争時代を迎え、我が国産業は従来にもまして厳しい状況に直面するものと予想され、今後我が国経済が国際的優位性を保ちつつ豊かな社会を構築していくためには、引き続き良好な労使関係を維持していくことが不可欠。

(3)市場原理と自己責任の原則の確立

(1)、(2)の環境の下で、今後の我が国経済社会の活力を維持していくためには、 「市場原理と自己責任の原則の確立」により、経済活動の活性化を図り、経済社会全体のパイを大きくすることが必要。
この場合、「市場のルール」を定めるとともに、「市場の失敗」に対応するための必要なセーフティネットの提供が必要。

イ 労使では経済的な力関係が異なるため、自己責任の原則を適用する前提として、労働市場において守られるべきルールが必要。すなわち、労使間での話し合い及び紛争になった場合の解決のためのルールとともに、労使間の話し合いで決定される賃金、労働時間等の労働条件に関し、その前提として最低限の労働条件や安全衛生を確保するためのルールが必要。これは、国際社会における公正な競争条件を確保するという観点からも重要。また、これらのルールの設定に当たっては、労使の合意形成のための対話が不可欠。
 ロ 企業の自由な経済活動が行われるための基盤として、労働者のセーフティネットが整備されていることが必要。このため、失業した労働者に対し、失業給付を支給しつつ、無料の職業紹介サービスを提供して、円滑に次の仕事に就くことを支援し、あるいは、職場で災害にあった労働者に対し、回復のために必要な給付を支給し、仮に障害が残った場合にも、残された職業能力が活かせる仕事に就くことを支援することが必要。これによって、失業したり、災害にあった労働者が再び社会を支える側に回ることが可能になる。

3 行政体制のあり方

2で示したような課題に的確に対応していくために、労働行政は経済社会を支えていく者を対象として、労働者及び労働市場に関わる政策を一体として展開できる行政体制とすることが必要。

イ 労働行政は、今後、2で示した課題に対応していく必要があるが、これらの課題は、相互に複雑に関連するものであり、一体のものとして、政策の展開を行うことが必要である。すなわち、年齢、性、能力などが異なる人々をできるだけ社会を支える側に立たせ、経済社会の多様な人材のニーズに応えていくためには、総合的かつ一体的な労働政策が必要。
 ロ 労働行政は、我が国の経済社会が必要とする人材の育成、供給について責任を負っており、経済社会の発展を雇用の面から支えている。すべての産業は、それを担う人材なくしては成り立たないことから、労働行政は、一般的な産業行政のみならず、建設行政、運輸行政、農林水産行政、福祉行政、医療行政などと密接な関係がある。
   その面では産業行政との関わりも深いが、労働行政の基本的なスタンスは、経済の担い手であるとともに、生活者でもある労働者が、尊厳を持って職業生活を送れることであり、しばしば、産業の視点から政策を実施する産業所管省庁との間で政策的な議論を行っている。
 ハ 労働行政は、女性、高齢者や障害者を含め、働くことによって収入を得て自分で生活する者、すなわち社会を支える側の立場の人を対象としているのに対して、福祉行政は、何らかの事情で働くことができず、社会が生活を支えなければならない人を対象としており、その対象となる人の違いから、行政を展開する視点が異なっている。
   すなわち、労働行政においては、女性、高齢者、障害者等の雇用対策を実施しているが、これらの対策は、これらの人々が社会を支える側にたって社会に参加できるようにするため、雇用に関する様々な対策の一環として実施しているものである。
 ニ なお、現在国民生活全般に関わるものとして実施されている行政の中には、公的年金制度、保育・介護施設、生涯学習など、労働者の職業生活とも密接に関わるものがある。これらについては、これまでも連携を取りながら実施してきた。省庁の枠組みを見直す際に、労働者に密接に関わる行政が整合性を持って実施される体制とすることが必要であり、その観点から、組織のあり方、連携のあり方を検討すべきである。

4 労使関係及び労働基準に関する補論

(1)労使関係について

 良好な労使関係は我が国経済社会の発展の基盤として不可欠であり、今後とも、様々なレベルでの労使の意思疎通・合意形成に努めていくことが必要

 イ 我が国の労使関係については、戦後の激しい労使対立の時代があったにも関わらず、労使の絶えざる努力と行政による労使関係安定のための環境整備によって、良好な労使関係を築き上げ、様々な経済社会の激動の時代を乗り切ってきた。このような良好な労使関係については、国際的にも高く評価されている。
 ロ 今後、経済社会システムの大変革が求められているが、この大変革は直接・間接に労働問題に係わるものであり、これを成し遂げるためには、職場・地域・産業・国家のあらゆるレベルでの労使の意思疎通・合意形成に向けての労使関係者の不断の努力が不可欠であり、それを促す枠組み・基盤の整備に果たす行政の役割の重要性は変わるものではない。

(2)労働基準について

 我が国の労働条件は基本的には高い水準となっているが、市場原理だけに委ねると最低限の労働条件や安全衛生の確保が困難になる分野が存在。国が最低限必要な労働条件や安全衛生の確保を図り、尊厳を持って働けるようにすることが必要。

 イ 現在我が国では賃金水準等を中心に全体的には国際的に高い水準に到達しているが、国際競争力に優れた分野から構造的な改善を余儀なくされる低生産性の分野までを含む重層的な産業構造の中にあって、規制緩和等を背景に進展すると見込まれる構造変化やそれに伴う経営上の厳しい対応を考慮すると、労働条件の決定を市場原理のみに委ねれば、例えば長時間残業やサービス残業の横行など、人間が尊厳を持って働く環境が確保されなくなる恐れ。世界的な経済競争がある中で、国際的な公正労働基準の確保は、その前提として国際的に認識されているところ。こうしたことから、労働基準の的確な履行を図っていくことは、公正な競争を確保しつつ、円滑な構造改革を進める上でも不可欠である。
   一方では、これからの産業構造の変化を見通したとき、知的、創造的な活動により新しい付加価値や事業分野の創出が望まれる中で、現行の労働基準が画一的にすぎるという問題も生じており、今後時代の変化に即応した労働基準とし、その適切な浸透・定着を図っていく必要性も大きい。
 ロ 安全衛生については、労働災害による負傷者が年間62万人に及び、とりわけ死亡者が2400人に達している。また、仕事に起因する健康障害も多く、過労死と呼ばれる事態も跡を絶たない。職場で負傷し、死亡することは本来あってはならないことであり、国が安全確保の最低基準を定め、徹底した労働災害の防止を図ることが必要である。
 ハ イ及びロに述べた最低基準の履行確保については、当事者の自己規制に期待できないことから、事後規制のみでは公正な競争条件を確保できない事態、とりわけ安全衛生に関して労働災害により労働者の安全や健康に支障が生じ労働者の保護に欠ける事態は避けられない。
   したがって、このような最低基準の履行を確保するための労働基準監督官の巡視による指導が不可欠であり、これを基本としつつ、労使の自主的な取組の支援や事後的な厳正な措置と相まって、適正な労働条件の形成、労働災害の防止の徹底を図っていくことが必要である。

職業紹介事業の民営化又は独立機関化についてどう考えるか。

1 経済構造改革に対応した雇用対策が必要

 経済構造改革に対応するために、公共職業安定所と民間の職業紹介事業が相まって円滑な労働力需給調整を図っていくことが必要。

 イ 人口の高齢化や経済のグローバル化が進む中で、政府全体として経済構造の改革に取り組んでいくことが必要となっており、今後、労働力の流動化が一層進展するものと考えられる。このような中で、我が国が高失業社会に陥らずその活力を維持していくためには、新たな産業分野等における雇用機会の創出を行うとともに、失業者の再就職促進や企業間・産業間の失業なき労働移動を強力に推進していくことが重要な課題。
 ロ このため、公共職業安定所と民間の職業紹介事業が、それぞれの特性を活かしつつ、両者相まってその機能を強化することにより円滑な労働力需給調整を図っていくことが必要。

2 公共職業安定所によるセーフティネットとしての無料の職業紹介事業が必要

 国は勤労権を保障するため国民に就職の機会を提供する職業紹介事業を行う責務を負っている。
 公共職業安定所の、すべての求職者と事業主に対して公平かつ無料で職業紹介サービスを提供する役割は極めて重要。また、一体的に運営される雇用保険事業や各種雇用対策と相まって、雇用の安定に大きく寄与。今後とも社会のセーフティネットとして維持されるべき。

 イ 国(公共職業安定所)は、次のような理由によって職業紹介事業を行う責務を負っている。
  1)憲法第27条に規定される勤労権は基本的人権である社会権の一つであって、国に対する国民の権利であるが、国はこれを職業紹介事業と雇用保険事業を通じて実現する責務があること
  2)行政改革委員会をはじめ各界の意見においても、公共職業安定所は無料で職業紹介を行う公的インフラとしてその機能の強化を図るべき旨の指摘がなされていること
  3)行政改革委員会の官民分担の基準において、行政は職業選択の自由や勤労の権利などの機会均等確保(公平性の確保)に努めるべきこととされていること
  4)諸外国においても、職業紹介事業及び雇用保険事業は国の出先機関により一元的に運営されるのが通例であること
  5)ILO第88号条約においては、職業安定組織は国の指揮監督の下にある職業安定機関の全国的体系で構成され、無料で、かつその職員を公務員としなければならない旨が規定されていること
 ロ すべての求職者と事業主に対して公平かつ無料で職業紹介サービスを提供できる公共職業安定所の役割は極めて重要。したがって、公共職業安定所の職業紹介事業は、一体的に運営される雇用保険事業や各種雇用対策と相まって今後とも社会のセーフティネットとして維持されるべき。
  1)公共職業安定所は、有料職業紹介事業がサービスを提供することが困難な「高年齢者や障害者などの就職困難者」「地方の求職者や事業主」「高度の経験や専門的技術を持たない一般の求職者」「高額な紹介手数料を負担することが困難な中小企業の事業主」「緊急に就職する必要のある失業者」等をはじめとした、すべての求職者と事業主に対して公平に無料で職業紹介サービスを提供していること
  2)公共職業安定所の職業紹介事業は、国が行う雇用保険事業や各種雇用対策(例えば失業給付の支給、企業間・産業間の失業なき労働移動の支援、中小企業の新分野展開に対する助成、障害者の法定雇用率達成指導、就職困難者の雇い入れ助成等)と一体不可分に運用されており、それらが相まって雇用の安定に大きな役割を果していること
  3)公共職業安定所は雇用保険制度等を通じて失業者の約9割に相当する求職者(年平均有効求職者数約198万人)を捕捉しており、これらの求職者に求人開拓を行いながら職業紹介を行うことにより年間約154万人の就職を斡旋し、労働力需給調整に直接・間接に大きく寄与していること
  4)公共職業安定所は年間637万人分の求人を把握して公開しており、この情報を活用して、職業紹介を受けずに直接求人事業所に応募する者も相当数存在すること

3 職業紹介事業をすべて民営化することは不可能

 労働力の需給調整機能を高めるためには、民間の有料職業紹介事業の機能強化が必要。
 しかしながら、公共職業安定所の、公平かつ無料で職業紹介サービスを提供するという社会のセーフティネットとしての機能は必要。

 イ 経済構造改革を進める中で労働力の需給調整機能を高めるためには、民間の活力やノウハウを活かした労働力需給調整が円滑に行われるような環境整備を行うことも必要。このため、平成9年4月からは、有料職業紹介事業について取扱職業の原則自由化を図ったところであり、さらに今後更なる規制緩和について検討していくこととしている。
 ロ しかしながら、有料職業紹介事業の取扱職業の範囲が自由な諸外国の例をみても、有料職業紹介所の職業紹介は、高額の手数料が徴収できる管理者、専門・技術者等が中心であり、国も公共職業安定所を通じて無料の職業紹介事業を行っている。
 ハ したがって、国が公共職業安定所を通じて、高年齢者や障害者、地方の求職者や事業主、中小企業の事業主等をはじめとしたすべての求職者と事業主に対して、公平に無料で職業紹介サービスを提供するという社会のセーフティネットとしての機能は必要。

4 公共職業安定所の行う職業紹介事業の独立機関化について

 職業紹介事業の独立機関化については、現在のところ、その仕組みや効果・問題点等が不明。
 また、経済情勢に対応した機動的な対策の立案・実施が困難などの問題点がある。
 したがって、独立機関化は困難。

 イ 公共職業安定所の行う職業紹介事業については、これまでも、全国をコンピューターネットワークで結ぶ総合的雇用情報システムの導入を図ることなどの情報化や効率化を進めてきたところであり、現在でも効率的な業務運営に不断に努めている。
 ロ 一方、職業紹介事業の独立機関化については、その仕組みが不明であるとともに、次のような問題点がある。
  1)経済対策は刻々変化する経済情勢に応じ機動的に講じられるべきものであり、雇用対策はその重要な柱。その一環である職業紹介を独立機関によって遂行することとすれば、現在のように機動的に対策を実施することが困難となること
  2)政策立案機能と政策執行機能との分離により、現場で把握した求人求職動向などを雇用対策に的確に反映させることが難しくなること

雇用保険、労災保険関連業務と他の社会保険関連業務との一体的運営についてどう考えるか。また、その民営化又は独立機関化についてどう考えるか。

第1 雇用保険

1 雇用保険業務と他の社会保険業務との一体的運営について

 雇用保険は職業紹介と一体不可分の関係にあるが、他の社会保険とは関係が薄い。
また、厚生年金保険、健康保険は民間が加入者の4割前後に相当する部分を運営しており、雇用保険とは適用範囲が異なる。
このため、これらを一体的に運営することはできない。

 雇用保険と他の社会保険は、次のようなことから一体化することは困難である。
  1)雇用保険は職業紹介と一体不可分の関係にあるが、厚生年金保険・健康保険とは関係が薄いこと
・雇用保険(=失業保険)は、職業紹介と一体的に運営することにより、求職者に対して職業紹介・職業相談を行う中で、雇用保険受給の要件となる就職の意思の確認を行ったり、求職者に対する就職活動の促進の働きかけを効率的に行うことが可能となっており、その結果、求職者が積極的に就職活動をしないで失業給付だけを受け取る事態を防止し、失業給付の濫給を防止することが可能。
・諸外国においても失業保険は職業紹介と一体的に運営されるのが通例。実際に、イギリスにおいては、失業保険を、職業紹介から分離して失業保険給付事務所によって運営していたところ、求職者が積極的に就職活動をしないで失業給付だけを受け取る事態を引き起こし、失業給付の濫給が生じたため、従来失業給付事務所と職業紹介事務所が運営していた事業を一元的に取り扱う機能をもつ「雇用サービス事務所」を設立することとなり、これによりサービスが効率化したとの評価。
・このようなことから、求職者の再就職の促進を円滑に行うために失業保険と職業紹介を一体的に行うことの重要性については、平成8年4月のG7雇用関係閣僚会議(リール雇用サミット)の議長総括においても指摘。
・このように、雇用保険は職業紹介との関係が極めて深いことの一方で、健康保険、厚生年金保険とは関係が薄い。
2)民間による運営部分を持つ厚生年金保険・健康保険との一体的運営はできないこと
・雇用保険は国が一括して管掌しているのに対して、厚生年金保険においては厚生年金基金が加入者の約37%について、また健康保険においては健康保険組合が加入者の約44%についてそれぞれ事業を運営しており、そもそも適用範囲が異なる制度であるため、これらを一体的に運営することは不可能。

2 雇用保険業務の民営化について

 国は勤労権を保障するために労働者の求職活動や雇用を支援する雇用保険事業を行う責務を負っている。
雇用保険事業の民営化は諸外国においても例がない。
雇用保険と職業紹介は一体的に行われるべきであり、仮に雇用保険業務を民営化すれば、失業給付の濫給、利用者サービス低下などの問題が生ずるため不可能

 イ 国(公共職業安定所)は、そもそも次のような理由によって雇用保険事業を行う責務を負っている。
  1)憲法第27条に規定される勤労権は基本的人権である社会権の一つであって、国に対する国民の権利であるが、国はこれを職業紹介事業と雇用保険事業を通じて実現する責務があること
  2)行政改革委員会の官民分担の基準において、行政は職業選択の自由や勤労の権利などの機会均等確保(公平性の確保)に努めるべきこととされていること
  3)諸外国においても、職業紹介事業及び雇用保険事業は国の出先機関により一元的に運営されるのが通例であること
  4)ILO第88号条約においては、職業安定組織は国の指揮監督の下にある職業安定機関の全国的体系で構成され、無料で、かつその職員を公務員としなければならない旨が規定されていること
 ロ また、雇用保険事業の具体的な民営化の手法としての自賠責方式については、諸外国においても例がなく、同方式を採用することは、雇用保険と職業紹介の一体性が損なわれ、失業給付の濫給、利用者サービス低下、業務の複雑化と非効率化、負担の不公平化など次のような問題が生ずる。
  1)求職者の就職意思確認・再就職促進・失業給付の濫給防止が困難であること
・雇用保険の保険事故である「失業」の認定は、自賠責保険における「自動車事故」のような客観的事象の認定とは異なり、就職の意思という内面の意思の確認を必要とする。公共職業安定所においては、雇用保険と職業紹介を一体的に運営することにより、このような確認や求職者の再就職促進、失業給付の濫給防止を図ることが可能となっているが、職業紹介機能をもたない民間においては困難。
  2)利用者サービスが低下すること
・雇用保険は、公共職業安定所において職業紹介と一体的に運営することにより、求職者にとって両方のサービスを同時に受けることが可能となっているが、雇用保険給付は民間保険会社で受け職業紹介は公共職業安定所で受けることになると利便性が悪くなり利用者サービスが低下。
・現在の公共職業安定所の全国ネットワークに比して、民間保険会社ではそのようなネットワークがないため、居住地などに関わりなく公平にサービスを受けることが難しくなる。
  3)業務が複雑かつ非効率となってしまうこと
・雇用保険の保険事故である「失業」の認定は、公的機関である公共職業安定所において行うこととなるが、その具体的認定の手続については、1回の確認で足りる自賠責とは異なり、一定期間(4週間)ごとに行う必要があり、そのたびごとに民間保険会社と公共職業安定所の間で、膨大なデータ交換を行わなければならないこととなり、業務が極めて複雑かつ非効率。
  4)現在のファンドの移行が困難であること
・雇用保険制度においては、景気変動等に対処するため必要な費用を積立金として保有しているが、制度の変更に際して、この積立金の管理を個々の民間会社に別々に行わせることは技術的にも極めて困難。
  5)ファンドの規模が小さくなれば保険数理上非効率であること
・仮に現在のファンドを各民間保険会社に分割してそれぞれで管理すると、ファンドの規模が小さくなり、保険数理上非効率。
  6)失業発生率の高い事業主が加入を忌避されるおそれがあること
・失業の発生状況は、業種や地域によって異なることから、不況業種の事業主などが雇用保険への加入を忌避されるおそれが存在。
  7)強制加入を担保することが難しいこと
・雇用保険制度について自賠責方式を採る場合、法律で義務付けられている車検の際に保険契約を締結しているかどうか確認される自賠責保険と異なり、締結強制を担保する仕組みがないこと

3 雇用保険業務の独立機関化について

 雇用保険業務の独立機関化については、現在のところ、その仕組みや効果・問題点等が不明。
 また、経済情勢に対応した機動的な対策の立案・実施が困難等の問題がある。
 したがって、独立機関化は困難。

 イ 公共職業安定所の行う雇用保険事業については、これまでも、全国をコンピューターネットワークで結ぶ雇用保険トータルシステムの導入を図ることなどの情報化や効率化を進めてきたところであり、効率的な業務運営に不断に努めている。
 ロ 一方、雇用保険事業の独立機関化については、その仕組みが不明であるとともに、次のような問題点がある。
  1)経済対策は刻々変化する経済情勢に応じ機動的に講じられるべきものであり、雇用対策はその重要な柱。その一環である事業主に対する助成金や労働者に対する失業給付の支給等の支援を独立機関によって行うこととすれば、現在のように機動的に対策を実施することが困難となること
  2)政策立案機能と政策執行機能との分離により、現場で把握した事業主や労働者の動向などを雇用対策に的確に反映させることが難しくなること

第2 労災保険

1 労災保険関連業務の位置付け

 労災保険行政は、労働基準監督行政及び労働安全衛生行政といわば車の両輪として、緊密かつ有機的な連携の下に行われているものであり、これを切り離すことは労働災害防止及び適切な災害補償を阻害。

イ 労働基準法、労働安全衛生法等は、最低労働基準を定めるほか、事業主に対して、労働災害の防止について厳しい責務を課すとともに、労働災害の発生に伴う災害補償責任を課している。労働基準監督行政及び労働安全衛生行政は、こうした事業主の責任を履行させるため、事業主等に対して適切な監督や指導を行うもの。一方、労災保険行政は、こうした事業主の災害補償責任を保険制度によって履行することにより、被災労働者の迅速かつ公正な保護を図るもの。
 ロ 労災保険においては、保険給付の事業のほか、中小企業労働者の安全衛生や健康確保に必要な事業や各種の労働災害防止団体に対する支援事業など労働災害防止のための労働福祉事業を実施している。このように、労災保険行政は労働基準監督行政や労働安全衛生行政と有機一体のシステムとして行われており、これを分離することは不可能。
 ハ また、労働基準監督行政及び労働安全衛生行政と労災保険行政は、それぞれの行政の遂行を通じて蓄積された事業場や労働災害に関する情報、医学的知見を互いに共有し、緊密な協力・連携を保ちながら各々の行政の効果的な推進を図っているところ。
 ニ なお、労災保険の保険料は全額事業主が負担しており、その保険料率は事業の種類ごとに過去の労働災害の発生状況を反映して設定するとともに、個別事業主の災害防止努力を促進するため、個々の企業ごとの労働災害の多寡により保険料率を増減させるメリット制を導入するなど、労働災害の発生と保険料負担のあり方を有機的に連携させることにより、労働災害の防止に寄与。

2 労災保険業務と他の社会保険業務との一体運営について

 労災保険は労働災害防止と一体不可分の関係にあるが、他の社会保険とは関係が薄く、制度の趣旨、内容が全く異なる。
 また、厚生年金保険、健康保険は民間が加入者の4割前後に相当する部分を運営しており、労災保険とは適用範囲が異なる。
このため、これらを一体的に運営することはできない。

 労災保険と他の社会保険は、次のようなことから一体化することは困難であると考えられる。
  1)上記1のとおり、労災保険は労働基準行政及び労働安全衛生行政と緊密かつ有機的な連携の下に行われており、これらと分離することは労働災害の防止、適切かつ迅速な災害補償の実施に支障を生じること
  2)労災保険制度は、無過失賠償責任に基づく事業主の災害補償責任を事業主の全額負担により担保するものであり、こうした使用者責任は諸外国においても確立されたものとなっている。したがって、労災保険制度は、労働者保護の観点からも必要なものであり、こうした使用者責任に基づかない他の社会保険との単純な一体化は不適切であること
  3)労災保険は国が一括して管掌しているのに対して、厚生年金保険においては厚生年金基金が加入者の約37%について、また健康保険においては健康保険組合が加入者の約44%についてそれぞれ事業を運営しており、そもそも適用範囲が異なる制度であるため、これらを一体的に運営することは不可能であること

3 労災保険業務の民営化について

 自賠責方式による労災保険業務の民営化については、労働基準監督行政及び労働安全衛生行政の一体性が損なわれ、業務上外の適正な認定や労災の的確な予防が図られなくなるなどの問題が生ずるため不可能。

 労災保険事業の具体的な民営化の手法として、例えば自賠責方式を採用する場合には、労災保険と労働基準監督行政及び労働安全衛生行政の一体性を損なうこととなるので不可能であり、あえてこれを行うならば次のような問題を生ずる。
  1)災害が業務上のものか業務外のものかの判断は国が行うべきこと
・労災保険制度は、労働基準法に基づく罰則のある事業主の災害補償責任を担保するものであり、その判断は事業主の刑事罰の存否に関わる。
・職業性疾病等の判断は、最新の法律的かつ医学的知見を駆使した極めて高度な判断を要する場合が多く、これを公平・公正に行うためには統一的な判断の仕組みが必要。すなわち、一定の基準により定型的な判断をするものではなく、民間の判断になじまない。
  2)利用者サービスが低下すること
・現在の労働基準監督署の全国ネットワークに比して、民間保険会社ではそのようなネットワークがないため、居住地などに関わりなく公平にサービスを受けることが難しくなる。
  3)長期的に安定的な運営が確保される必要があること
・民間保険会社は業務の廃止の可能性があり、長期的に安定して給付を行うことが必要な年金給付を行えなくなるおそれが存在。
  4)現在のファンドの移行が困難であること
・労災保険制度においては、年金受給者への給付のための積立金の保有など長期的運営を前提として制度が組み立てられており、制度の変更に際して、この積立金の管理を個々の民間会社に別々に行わせることは技術的にも極めて困難。
  5)ファンドの規模が小さくなれば保険数理上非効率であること
・仮に現在のファンドを各民間保険会社に分割してそれぞれで管理すると、ファンドの規模が小さくなり、保険数理上非効率。
  6)災害発生率の高い事業主が加入を忌避されるおそれがあること
・労働災害の発生状況は、業種や地域によって異なることから、災害多発業種の事業主などが労災保険への加入を忌避されるおそれが存在。
  7)強制加入を担保することが難しいこと
・労災保険制度について自賠責方式を採る場合、法律で義務付けられている車検の際に保険契約を締結しているかどうか確認される自賠責保険と異なり、締結強制を担保する仕組みがないこと

4 労災保険業務の独立機関化について

 労災保険業務の独立機関化については、現在のところ、その仕組みや効果・問題点等が不明。
 また、労働基準監督行政及び労働安全衛生行政との連携がとれなくなる等の問題点がある。
したがって、独立機関化は困難。

 イ 労災保険業務については、各種給付業務の迅速・適正化を図るとともに、被災労働者に対する情報の即時提供、行政サービスの向上を図ること等を目的として全国をコンピューターネットワークで結ぶ労災保険行政情報管理システムの導入を図るなど情報化や効率化を進めてきたところであり、効率的な業務運営に不断に努めている。
 ロ 一方、労災保険事業の独立機関化については、その仕組みが不明であるとともに、次のような問題点がある。
  1)労災保険を独立機関化した場合には、国が直接実施する労働基準監督行政及び労働安全衛生行政との連携がとれなくなること
  2)政策立案部門と政策執行部門との分離により、相互のフィードバック機能が低下するおそれがあること
・労災保険事業の運営に当たっては、本省の政策立案機能と第一線機関の政策執行機能が一体不可分の形で運営され、機能の効率化が図られているが、独立機関化した場合、相互の問題点のフィードバックが困難となり、このような機能が低下するおそれが存在。


その1/その2

行政改革会議(目次)第12回議事概要