別紙2

内閣機能の強化(案)

(佐藤幸治委員)

T 基本的な考え方

(1)日本国憲法上、内閣は「国務を総理すること」を主要な任務とする存在であることを重く受け止めるべきである。

(イ) 日本国憲法65条は、「行政権は、内閣に属する」と定める。ここにいう「行政権」が何かについては、従来種々論じられてきた。積極的定義づけも試みられたが、多様な行政活動を包摂しつつ意味のある定義はなかなか困難で、結局、国家の作用のうち、立法と司法とを除いた残余の作用であるという消極的定義が一般にとられてきた(いわゆる行政控除説)。

とはいえ、「行政権」の特徴は指摘することができる。憲法73条は「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ」として七つの事務を掲げ、その冒頭の1号は「法律を誠実に執行し、国務を総理すること」と定めているが、ここに「行政権」の特徴の端的な表現を見ることができる。本号に「法律を誠実に執行し」とは、より正確にいえば、内閣は「法律を誠実に執行させるようにする」という意味である。つまり、直接法律の執行に当たるのは基本的に「行政各部」であり、「内閣」はそれら「行政各部」の上にあって、法律が誠実に執行されるよう配慮し、全体を統轄する地位にある、ということである。

「内閣」は、法律の執行に関連して各種の問題に直面する「行政各部」からの情報に接すべき立場にあり、そのような情報を考慮しつつ国家の総合的・戦略的方向づけを行うべき地位にある。「国務を総理すること」とはまさにその趣旨であり、「国務が適当の方向を定められ、その方向性を取って進むよう、処理することである」(佐々木惣一)といわれる所以である。行政権者は外交関係の処理権能を付与されるのが例であり、日本国憲法もそうであって(73条2号・3号参照)、内閣は、対外政策も含む総合的・戦略的見地に立って、国政のあり方を追求することになる。これは、優れて「政治」そのものである。

(ロ) 従来、わが国にあっては、この内閣の「国務を総理する」権能、「政治」の権能は、やや軽視される傾向があった。それについては種々の背景・事情が考えられるが、明治憲法体制下で培われた「行政各部」中心の行政(体制)観が大きく作用していたものと思われる。「行政改革の理念と目標」において明らかにしているように、「行政各部」中心の行政(体制)観、行政事務の各省庁による分担管理原則は、生産力の拡大ないし欧米先進国へのキャッチアップという単純な価値追求が大きな命題であった時代には適合的であったとしても、国家目標が複雑化し、時々刻々変化する内外環境に即応して迅速かつ賢明な価値選択・政策展開を行っていかなければならない現今の状況下にあって、その限界ないし機能障害を露呈しつつある。

われわれは、この現今の状況を直視し、「国務を総理する」という内閣の高度の統治・政治の作用に注目する必要がある。

(2)内閣がそれに託された 「国務を総理する」任務を十全に遂行するためには、内閣の「首長」である内閣総理大臣の指導性発揮が極めて重要である。

(イ) 「行政各部」中心の行政(体制)観は、内閣総理大臣の指導性発揮に対して抑止的含意を伴った。日本国憲法66条1項は、内閣総理大臣をもって内閣の「首長」と定めるが、当初、本条にいう「首長」について、明治憲法下の内閣官制の各大臣の首班と同じく「合議体の主宰者」の意味であると解する説が有力に主張された。すなわち、首長は、内にあってはその合議体の議長となり、その事務を指揮監督し、外に対してはその合議体を代表する任務をもつものである、という。憲法上、内閣総理大臣は、国務大臣を任意に罷免できるなど、一般国務大臣に優越する地位を認められているが、内閣の合議体の一員としては、どこまでも他の国務大臣と対等の地位に立つ者であり、そうでなければ合議体は成立しえない、とする。この説が、総理大臣の指導性発揮に対する消極的姿勢と結びつくのは自然であろう。

(ロ) しかし、今日の学説の大勢は、現代国家における大統領ないし内閣総理大臣の政治指導性の重要性に着目している。そして、日本国憲法の解釈論として、内閣総理大臣の国務大臣の任免権を重視し、任免権者が任免される者と同格でありうるはずはないとし、内閣総理大臣の大統領制型国政指導を読み取ろうとする説もあるところである。もっとも、この説は少数説にとどまり、通説は、日本国憲法のいう「首長」をもって、明治憲法下の首班たる地位と、他の国務大臣がその補助的機関たるにとどまる大統領などの地位の中間に位置するものと捉えている。それは、一方では、内閣総理大臣が直接国会によって選出され、国務大臣の任免権及び訴追の同意権をもち、また行政各部の指揮監督権を有する意味において、他の国務大臣の上位に位し、内閣全体を統率する立場にあるとみるとともに、他方では、行政権は合議体たる内閣に帰属し、その責任もまた内閣全体として負うことを考慮しようとするものである。

この通説的見地に立つとしても、内閣総理大臣の優越性と、内閣の合議体性のいずれをより重視するかによって、具体的内実において幅が生じうるところである。しかし、内閣が現代国家の要請に応える機能を発揮するためには、その「首長」たる内閣総理大臣の政治指導性が決定的意義を有するとみる点では共通している。因みに、ドイツの憲法65条は、「連邦総理大臣は、政治の基本方針を定め、これについて責任を負う。この基本方針の範囲内において、各連邦大臣は、独立に、かつ自らの責任において、自己の所轄事務を指揮する」と定め、イタリアの憲法95条1項は、「内閣総理大臣は、政府の一般政策を指揮し、それにつき責任を負う。内閣総理大臣は、各大臣の活動を推進し、調整し、政治的及び行政的指針の統一を保持する」と定めている。

(ハ) 以上の点は、議院内閣制の変貌ないし議院内閣制についての理解の変化からも指摘されうるところである。議院内閣制下にあって、国政に民意を反映させる方法には、1)国民のなかの様々な意見をいかに忠実に議会に反映させるかを第一義的に考え、どのような内閣(政策プログラム担当者)を作るかは議員・政党間の話し合い・交渉に委ねるという行き方と、2)議会と内閣とを一体的に考え、選挙にいかなる政策プログラムを誰に担当させるかの意義を担わせようとする行き方とがある。わが国の憲法学の大勢は、従来1)の行き方を念頭においてきた。

しかし、イギリスは、早くから2)の行き方をとってきた(イギリスの総選挙は、実は総理大臣の選挙であると早くからいわれてきた所以である)。そしてわが国にあっても、国民主権の下にあって重要なのは、国政に民意を反映させることであって、追求すべきは2)の行き方であるという見解が次第に有力になってきている。

(3)内閣が「国務を総理」し、内閣総理大臣が内閣の「首長」にふさわしい指導性を発揮できるようにするためには、それにふさわしい内閣の機能のあり方を工夫し、内閣及び内閣総理大臣の補佐・支援体制の強化を図ることが不可欠である。

(イ) 従来、内閣の補助機関として内閣官房が設けられ、「閣議事項の整理その他内閣の庶務、閣議に係る重要事項に関する総合調整その他行政各部の施策に関するその統一保持上必要な総合調整及び内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務を掌る」(内閣法12条2項)ものとされるとともに、内閣総理大臣を主任の大臣とする総理府は、総理が直轄すべき事務の実施(栄典等)、事務の連絡調整等を行うものとされ、制度上、内閣事務と分担管理事務とを明確に分離する建前がとられてきた。

その背景には、すでに示唆したように、行政事務の各省庁による分担管理原則を基礎とし、内閣及び内閣総理大臣の役割を限定的に捉え、したがってその補助機能も控えめなものとして理解しようとする発想が働いていたように思われる。上記の内閣法12条2項にいう「総合調整」も積極的なものではなく、むしろ消極的な性質のものと解する傾向があった。

そして、内閣官房と総理府に同種の組織が裏表の関係で存在し、人的にも大部分が併任関係にあるなど補佐体制として未整序かつ不十分であり、また、総理府は、次元の異なる多種多様な事務案件を渾然と抱えるなど、その性格の曖昧さが指摘されてきた。

(ロ) もとより、これまで、補佐機構の拡充の必要を説く見解も根強く存在し、実際、昭和61(1986)年の内閣官房組織令改正によって五室体制が敷かれ、平成8(1996)年の内閣法改正によって内閣総理大臣補佐官が新設される(内閣法14条の2)などの試みがなされてきた。

しかし、上述のように、内閣が「国務を総理」し、内閣総理大臣が内閣の「首長」にふさわしい指導性を発揮できるようにするためには、従来の補佐体制に抜本的な変革を加え、補佐・支援体制の格段の強化を図る必要がある。

(4)上記の内閣機能の強化は、日本国憲法のよって立つ権力分立ないし抑制・均衡に対する適正な配慮を随伴すべきである。

(イ) 内閣機能の強化は、従来の統治権力の構造に大きな変化をもたらす契機を秘めている。内閣機能の強化にあたっては、日本国憲法がよって立つ権力分立ないし抑制・均衡のシステムを不当に変質せしめることのないような適切な配慮が伴わなければならない。

まず、国と地方公共団体との間に、統治権力の適正な配分が図られなければならない。地方分権の推進は、この課題にかかわるものである。

次に、国のレヴェルにあって、国会と裁判所の改革を促さなければならない。これまで、国会が「国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」(憲法41条)ことにふさわしい機能を果たすようにするため、種々の国会改革案が提示されてきたが、実現を見ていない。内閣機能の強化に関連して、国会がその立法機能とともに、行政に対するチェック機能を強化することが喫緊の課題であることを銘記すべきである。

司法権の担い手である裁判所も、「法の支配」の徹底のために、より大きな役割を引き受けなければならない。日本国憲法の下で、司法裁判所はまさに「法の支配」の旗手として大きな期待がかけられた。しかし、司法裁判所が実際にそのような期待に応えてきたかどうかは疑わしい。その理由として、訴訟というものに関する国民の意識のあり方、裁判所の活動をしばりすぎる実定法律制度、裁判に時間がかかりすぎること、法曹人口の不十分さと法曹界の意識のあり方、等々の諸事情が考えられうる。しかし、規制緩和を推進し、行政の不透明な事前規制をできるだけなくし、事後監視・救済型社会への転換を図ることは、司法の役割増大を帰結し、国民がアクセスしやすい司法とすることを不可欠とする。

そうした意味で、早急に司法改革に取り組む必要があるといわなければならないが、司法改革への端緒とする趣旨も込めて、今回の行政改革の一環として、いわゆる独立行政委員会等が果たしてきた行政審判機能(準司法手続)を拡充し、かつ、国民にとってのその有用性をより理解しやすいものとするなどの工夫が検討されて然るべきものと思われる。

(ロ) 適正な抑制・均衡の確保という視点は、中央省庁の大括り再編成についても、生かされなければならない。すなわち、省庁間に主従関係が生じたりすることのないようにするとともに、相互提言システムを導入し、省庁間の活発な政策論争を国民の前に提示せしめるなどの工夫が求められる。また、いわゆる独立行政委員会の存在理由も、このような観点から評価される必要があろう。

(ハ) 上述のところからも明らかなように、適正な抑制・均衡のシステムを維持し、個人の自由の保全にかかわる「法の支配」を確保する基礎的条件は、情報公開法制の確立である。平成8年12月、行政改革委員会が明らかにした情報公開法要綱案は、その冒頭に、「この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する国民の権利につき定めることにより、行政運営の公開性の向上を図り、もって政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民による行政の監視・参加の充実に資することを目的とするものとすること」をうたっている。内閣機能の強化も、この情報公開法制の確立と不可分の関係において捉えられなければならない。

U 具体的措置

(1)内閣機能の強化

(イ)基本的視点

(i) 日本国憲法は、「行政権は、内閣に属する」とする(65条)とともに、「行政各部」ないし「主任の国務大臣」について言及している(72条・74条)。Tで述べたように、従来、この「行政各部」ないし「主任の国務大臣」を基礎的なものとして解し、「内閣」はいわばその連合体であるかのごとく捉える傾向があった。しかし、Tで明らかにしたように、行政権はあくまで「内閣」に帰属し、「行政各部」ないし「主任の国務大臣」はその内閣の統轄下にあってその所管の事項につき個別に責任を負う存在であることを確認すべきである。

(ii) 日本国憲法は、内閣がその権能を行使する場合の方法について明示するところがない。それは、憲法が、国会について、議事手続きや会議の公開制について定め、また、裁判所について、厳格な裁判の公開原則について定めていることといかにも対照的である。そのことは、転変する政治状況のなかで、内閣が閣僚の自由かつ率直な討議をふまえつつ、機敏かつ実効的な意思決定ができるよう、内閣の機能のあり方については基本的に内閣自身の意思に委ねる趣旨と解される。

因みに、内閣法4条は、「内閣が其の職務を行うのは、閣議によるものとする。」(第1項)、「閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。」(第2項)、「各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる」(第3項)と定め、閣議の定足数や議決方法については、明文の規定を置いていない。

(iii) このように、憲法及び内閣法が閣議の議事手続きや公開制について何ら規定を設けていないということは、閣僚間の実のある率直な議論を期待してのことであって、閣僚はそのことの意義を十分に考慮し、秘密の保持についても配慮しなければならない。省庁の大括り再編は、閣議における議論を実質化し、閣僚の責任を一層重いものとする意味合いをもつことに留意すべきである。

なお、省庁の目的別編成の狙いは、省庁間の争いが所掌をめぐる権限争いに堕することなく、むしろ目的(省庁)相互間の活発な政策論争を国民の前に提示せしめることにあるが、そのことと閣議のあり方そのものとは区別して考えられなければならない。また、「行政改革の理念と目標」やT(4)で述べたように、行政情報一般の公開制の徹底を図る必要があるが、そのことと閣議そのものの非公開制とは矛盾しない。

(iv) 以上の点をふまえ、内閣が「国務を総理する」にふさわしい機能を果たせるようにするため、次のような具体的措置を講ずることが考えられる。

(ロ)具体的措置

(i) 閣議の議決方法

従来慣行としてとられてきた閣議の全員一致制は、明治憲法下の場合と違って、日本国憲法上の不可避的な要請ではなく、過去の経験と今般の行政改革の理念と目標に照らし、内閣機能の強化・活性化のため必要とあれば、従来の慣行にとらわれることなく、多数決制(特別多数決を含む)の採用も考えられてよい。

閣議の議決方式については、従来、全員一致制説が通説であったが、多数決制説も有力に主張されてきたところである。全員一致制説は、内閣の一体性と連帯責任制を根拠とするが、多数決制説は、各大臣が平等に天皇を輔弼していた明治憲法(55条1項参照)下の場合と異なり、内閣総理大臣が他の大臣を任意に罷免することのできる権限をもち優越的地位を占める現行憲法体制の下、多数決で足りるとすることにも根拠があり、内閣一体性の原則と多数決とは必ずしも矛盾しないとする(少数派は決定に従いともに責任を負うか、あるいは、責任を負えぬとして辞職するか、罷免されるかのいずれかを選択できる)。

なお、多数決の場合、内閣総理大臣の意に反する決定がなされる可能性が指摘されることがあるが、内閣総理大臣が閣議を主宰し、また国務大臣を任意に罷免することのできる憲法体制下にあって、そのようなことは起こりえないと解される。

因みに、事務次官会議で了承された議題でなければ閣議にかけられず、閣僚が議題にないことを発言すると“不規則発言”として忌避される傾向があったと指摘されることがあるが、上述のように、行政権が合議体たる内閣に帰属し、具体的には閣僚間の実のある自由かつ率直な討議を通じて行使さるべきものとすれば、そのような「傾向」は憲法の趣旨に適合しないものとして改めらるべきである。

(ii) 関係閣僚会議

複雑化・困難化する行政課題に関し内閣として迅速かつ効果的に対処するため、関係閣僚会議を機動的に開催する必要がある。イギリスのサッチャー内閣がその指導性を発揮するにあたって、内閣の各種委員会を活用したことはよく知られている。

もっとも、既にこれまでも、政治主導で随時関係閣僚会議が設置されてきた。しかし、結局のところ、政治的演出に終わる場合が多く、運営は官僚組織によるボトムアップで、実質的論議に乏しいのが実状であったようである。こうした実状に鑑み、関係閣僚会議がその実質的意義を発揮するような工夫が必要であり、その設置にあたっては、設置目的を明確にし、目的達成後は速やかに廃止し、また、構成員を関係の深い閣僚に限定するなど、実効性・機動性重視の運営を図るべきである。こうした関係閣僚会議がその実質的意義を発揮するのは、内閣及び内閣総理大臣の企画・立案機能の強化及び国政の基本方針の決定とその実現に向けての指導力の強化の文脈においてであって、具体的には、トップダウン的運用の下で総理大臣の発意による事案を関係閣僚間で実質的に議論し、その実現の方向づけを与える場として意義を発揮することが期待される。

また、閣僚間での実質的な討議の促進を図るため、閣僚懇談会の活用が図られて然るべきであろう。

(iii) 特命事項担当大臣

複数省にまたがる案件について、内閣としての統一的なコンセンサスの形成やイニシアティブの発揮を行うため、その必要に応じ、特命事項担当大臣を置くことが考えられる。この種の試みは従来にもないわけではないが、いずれも権限の裏付けや補佐機能が不十分で、既存の縦割り省庁、分担管理大臣の権限との摩擦のなかで有効に機能したとはいい難いといわれる。したがって、特命事項担当大臣を置き、それが任務を有意的かつ効果的に遂行しうるようにするためには、閣議了解等の形式によって当該大臣の任務(関係大臣との関係)を明確にするとともに、当該大臣を補佐する組織を機動的に整備するなどの工夫が必要であろう。

因みに、特命事項担当大臣を置くといっても、それは格別の事柄ではなく、すでに示唆したように、「主任の国務大臣」も、いってみれば、固定的な特命事項担当大臣ともいうべき存在にすぎないことに留意すべきである。

なお、省庁の行政目的別大括り再編成を追求した場合、当然のことながら国務大臣の数は減少することになる。そしてそのことは、すでに示唆したように、閣議における議論を実質化し、内閣機能を強化するのに寄与するものと考えられる。ただ、特命事項担当大臣を設置することの意義を考えるとき、国務大臣の数は大括り省庁の数に比例して機械的に減少するわけではなく、現行法上の数(内閣法2条1項は、「内閣は、首長たる内閣総理大臣及び二十人以内の国務大臣を以て、これを組織する」と定める)ほどではないとしても、相当数に及びうるということになろう。

(iv) 各省幹部人事に対する内閣関与の強化

従来、各省幹部の人事については、「閣議了解」という形で内閣が関与してきたが、実質的には各省任せになっていたといわれる。しかし、「行政各部」に対する「内閣」の優位性を明確にするため、中央省庁の事務次官、局長クラスの任命に関し、各大臣に制度上の任免権を残しつつ、「内閣の承認を得て各大臣が任命する」というように改めることが考えられうる。

(2) 内閣総理大臣の指導性の強化

(イ)基本的視点

T(2)で述べたように、日本国憲法が内閣総理大臣をもって内閣の「首長」であるとするのは、内閣がその機能を十全に果たす上で内閣総理大臣の強い指導性が重要であるという認識を表わすものである。それは、内閣総理大臣をもって「政治の基本方針を定め」(ドイツの憲法)ないし「政府の一般政策を指揮し」(イタリアの憲法)、それにつき「責任を負う」立場の者と捉える外国の憲法と通ずるものである。つまり、内閣は、それぞれの行政事務を分担管理する大臣の単なる集合体ではなく、総理大臣の「政治の基本方針ないし一般政策」を共有しつつ、一体となって国政にあたる合議体ということになる。そしてこのように理解することは、内閣が「国会に対し連帯して責任を負ふ」(66条3項)と矛盾するものではない。因みに、イタリアの憲法95条2項は、「各大臣は内閣の行為につき連帯して責任を負い、その所管の行為につき個別に責任を負う」と定めている。

(ロ)具体的措置

(i) 内閣総理大臣の基本方針・政策の発議

内閣総理大臣の地位・立場について、上記のような基本的視点に立つならば、内閣総理大臣が内閣の「首長」たる立場において、閣議にあって自己の国政に関する基本方針(対外政策や安全保障政策の基本、行政・財政運営の基本やマクロ的経済政策、予算編成の基本方針等はもとより、個別事項であっても国政上重要なものを含みうる)を発議し、討議・決定を求めうることは当然の帰結となる。

現行の内閣法はこの点を明らかにしておらず、すでに言及した4条のような規定があるのみである。そこで、内閣総理大臣のかかる発議権を内閣法上明記すべきであるという積極論が主張される一方、内閣総理大臣は、閣議の主宰者として、また、国務大臣として、案件の如何を問わず閣議に発議することが内閣法上認められているのであって(同法4条3項参照)、法改正をするまでもないとする消極論とがある。後者の見解は、基本方針・政策の発議権を規定することは、あたかも内閣総理大臣にかかる発議を義務づけるような感じにならないか、また、明文化によって、内閣総理大臣の発議権が基本方針・政策にかかるものに限定される、あるいは他の国務大臣の発議の内容が限定される、との誤解を生まないか、を懸念する。

しかし、内閣法の趣旨・構造は、内閣総理大臣の「首長」性につき、あくまで「合議体の主宰者」にとどまるという見解(T(2)(イ)参照)との結びつきで理解される傾向があったところであり、内閣総理大臣についての上記の基本的視点とは適合しにくい面を有している。内閣総理大臣についての上記の基本的視点に立ち、かつ、法律はあるべき姿をできる限り忠実に表現すべきものであるとの観点に立つならば、内閣総理大臣が内閣の「首長」として国政に関する基本方針について発議することができる旨を内閣法上明記すべきであるということになろう。この内閣法4条の改正は、内閣主導の政策立案と積極的調整の実現、企画・立案機能を強化するための補佐・支援体制の充実という内閣機能強化全体の出発点をなすものである。

(ii) 行政各部に対する指揮監督

日本国憲法72条は、「内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する」と規定している。本条について、「代表」とは元来対外的関係について成立する観念であり、対内的関係では成り立たない、つまり、行政各部の指揮監督は同じ行政機構中の関係であるから、個々に行政各部を指揮監督するとは、内閣を「代表して」行うのではない、とする見解がある。しかし、一般的には、「内閣を代表して」とは「行政各部を指揮監督する」にもかかるものとして理解されている。その根拠は、行政権は合議体たる内閣に属するものであり、また、内閣と行政各部とは相互に別個の存在である、という点にある。そして、内閣法6条にいう「閣議にかけて決定した方針に基いて」も、自衛隊法7条に「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高指揮監督権を有する」とあるのも、この趣旨を受けてのものとされる。

通常の場合において、内閣総理大臣が行政各部を直接指揮監督する必要がどの程度存するかは一つの問題である。国政全般に対し基本的な責任を負う内閣総理大臣が、行政各部の扱う個別的行政事務にかかずり合うことは必ずしも好ましいことではなく、担当大臣がその所管事項につきそれぞれ責任を負う体制は合理的なものといえよう。ただ、このような体制を自己目的的にかつ形式的に受け止めることは妥当ではなく、内閣総理大臣が内閣のもつ行政の統轄・総合調整任務を実施するため果たすべき役割がありうると解される。

問題は、特に危機管理に関して生ずる。「閣議にかけて決定した方針に基いて」を厳格に解するならば、危機管理の局面において、迅速かつ適切な措置をとることが困難になる。この危機管理の局面において、どのような手順・方法で当該危機に臨むかについての枠組みを予め閣議で決めておくというようなことが考えられるが、内閣法はそのようなことを許容するか(内閣法制局は、想定される事態に備え、内閣としての基本的な方針を予め定めておけば、その都度閣議を開いて方針を決める必要はないとの見解を明らかにしている。大森(政)政府委員〔平成8年6月11日〔衆〕内閣委〕参照)。本会議も、「内閣の危機管理機能の強化に関する意見集約」(平成9年5月1日)において、「突発的な事態の態様に応じた対処の基本方針について予め所要の閣議決定をしておき、内閣総理大臣が迅速に行政各部を指揮監督できるようにすること」を求めたところである。

しかし、こうした対応ですべての「危機」をカヴァーしうるか、カヴァーしようとすれば、白紙委任のようなものにならないか、それならば、むしろ、事後的に閣議にかけて承認を得ることを要求する方が適切ではないか、等々の疑問もありうるところであり、そして、このような重要な事柄については、内閣法上明確に定めるべきではないかの見解が生じることになる。さらに、国防にかかわる緊急事態を想定するとき、事柄は一層難しい課題をはらんでいる。

(3)内閣及び内閣総理大臣の補佐・支援体制の強化

(イ)基本的視点

上述のように、内閣がそれに託された「国務を総理する」任務を遂行し、そのため内閣総理大臣が内閣の「首長」にふさわしい指導性を十全に発揮できるようにするには、それらを補佐・支援する体制を格段に強化することが必要である。

この補佐・支援体制は、その中心的機能である、1)基本方針の策定、2)総合調整、3)危機管理の各面にわたって内閣及び内閣総理大臣を補佐・支援するものであり、それにふさわしい組織原理と活動方法を備えなければならない。内閣及び内閣総理大臣は、多様な情報とその正確な分析の上に立って、総合的戦略を立て、機を失せずにそれを実現して行く指導性が求められているのであり、その補佐・支援体制は、情報の収集・分析力、総合的な判断力・構想力、機動性、柔軟性を備えていなければならない。

(ロ)具体的措置

(i) 全体的な組織設計に関わる問題

補佐・支援体制に関する全体的な組織設計として、1)内閣及び内閣総理大臣を補佐する組織を統合し、総合戦略、総合調整、管理、総理大臣直轄実施事務等の一体的実施によって、内閣及び内閣総理大臣の指導性の強化を図ろうとする行き方(仮に統合型と名付ける)と、2)主として内閣総理大臣を直接補佐する組織(内閣官房)と、ややルーティン的な各省間の調整機能ないし各省横断的な共通的管理機能等を担当する組織(内閣府)とを分離し、前者(内閣官房)について総合戦略機能ないし政府部内における最終的調整機能に特化し・専念せしめようとする行き方(仮に分離型と名付ける)とがありうる。さらに、2)の分離型については、内閣官房と内閣府と二元的に捉える行き方(仮に分離型―その1と名付ける)と、内閣府の機能について、例えば、管理事務、直轄事務又は外局の管理事務とその他の調整事務とを区別し、それぞれの機能を有効に発揮させるため、総務省といったものを別途設置しようとする行き方(仮に分離型−その2と名付ける)とがある。

統合型か分離型かといっても、その区分自体に決定的な意味があるわけではない。例えば、統合型も、内閣官房の機能とその他の機能とを区別しているのであり、にもかわらず何故に内閣府という大組織に両者を包摂しなければならないのか、大組織化によって真に内閣及び内閣総理大臣の指導性の強化につながるのか、換言すれば、総合戦略のように機動性を要する事務と管理・総理大臣直轄実施事務のようなルーティン的な事務とが組織的に一体化することによって、かえって内閣官房の本来的事務の効率的遂行を阻害することにならないか、などの疑問がありうる。他方、分離型については、総合性が失われ、結局のところ、内閣及び内閣総理大臣の補佐体制の弱体化を帰結するのではないか、といった疑問がありうる。

ただ、統合型であれ分離型であれ、両者に共通した関心は、いかにして「強い内閣官房」を作るかである。そこで、まず、「強い内閣官房」のあり方について検討する。

(ii) 内閣官房

(a) 「内閣官房」という名称は内閣の補助機関であることを含意するが(実際、国会との連絡・調整事務、閣議事項の整理等内閣の庶務・管理事務を行う)、その実質は内閣の「首長」たる内閣総理大臣の活動を直接に補助・支援する機関と解するものとする。

かかる「内閣官房」の機能としては、1)企画・立案、2)総合調整、3)危機管理、4)安全保障、5)情報、6)広報、が考えられる。総合戦略という場合、主として1)と2)をその内実とし、具体的には、すでに述べたように、対外政策や安全保障政策の基本、行政・財政運営の基本やマクロ的経済政策、予算編成の基本方針等はもとより、個別事項であっても国政上重要なものを含みうる。因みに、内閣総理大臣の基本方針・政策の発議に関し、内閣法4条の改正の必要についてすでに言及したが((2)(ロ)(i)参照)、内閣官房の事務に関する内閣法12条2項に関し、企画・立案を含めるべく法改正をする必要があろう。

(b) このような機能を担うべき「内閣官房」は、内閣総理大臣の最も近いところにあってその指導性の発揮を支える最も重要な組織であり、内閣総理大臣により直接選ばれた政治任用スタッフによって基本的に担われるべきものである。こうした観点から、現行法上3人以内に限定されている内閣総理大臣補佐官の数を増やすとともに、有効な活動を行いうるよう、その執務環境や補助者等の体制を整える必要がある。秘書官については、現在の派遣元省庁の固定化を排除するとともに、柔軟な任用を可能とするため、現在のように内閣法で定数を定めることを改めるべきである。また、行政の内外から優れた人材を登用する人事ルールを確立し、出向元の固定化・各省の定例的人事への依存を避けるような工夫が必要である。さらに、内閣官房の定数管理を柔軟なものとし、例えば、企画・立案機能を向上させるため、必要に応じ内閣審議官等について内閣総理大臣の自由裁量で相当数任用できるようにすることも必要であろう。他方、情報機能・危機管理機能等の専門性の高い分野に関する人材については、在任期間の長期化を図ることも必要である。

(c) 「内閣官房」の組織のあり方も、現行の五室にこだわらず、時の内閣総理大臣の意向に沿った柔軟かつ弾力的な運営が可能なものでなければならない。このことは、特に企画・立案、総合調整を担当する部門について妥当する。必要に応じ部外の専門家も活用するなど、内閣総理大臣の要請に広範かつ機動的な対応が可能となるような組織運営が必要である。

ただ、情報担当部門については、別途考える必要がある。情報機能については、1)「情報と政策の分離」の観点(政策的意図や価値判断にかかわらず情報そのものがトップに伝わることの重要性)、及び2)情報分析業務の専門性、に照らし、内閣官房の組織として、独立かつ恒常的な組織を設ける必要がある。内閣官房の組織としての性格上、情報担当部門は基本的には情報収集のための現場活動を実施する機関はもたず、情報の集約・分析・評価にたずさわる組織とすべきである。情報収集系については、政府全体としての情報の正確性を確保し、情報機関の肥大化を回避する趣旨から、多元性を維持すべきである。また、内閣総理大臣への報告が適時適切に行われるようにするため、情報伝達ルートは柔軟かつ多元的であるべきである。そして、関係省庁間の情報の共有と内閣への集約、分析・評価の相互検証を進めるため、「情報コミュニティ」の考え方を確立し、現在事実上開催されている「合同情報会議」を内閣官房の正式な機関として位置づけ、有効に機能しうるような配慮を施す。以上の観点をふまえ、現在の内閣情報調査室を強化する必要がある。

危機管理については、本会議で了承された「内閣の危機管理機能の強化に関する意見集約」(平成9年5月1日)は、「国民の安全・安心」を基本に据え、内閣が政府全体の指令塔としての役割をより効果的に果たせるようにするため、内閣官房に、危機管理を専門的に担当する官房副長官に準ずるクラスの職を置くべきものとし、その任務の例として、1)突発的事態に際し、内閣として必要な措置について第一次的に判断し、初動措置について関係省庁に適宜連絡・指示を行い、その他突発事態への対処につき、総理大臣、官房長官等を補佐し、2)平素より、内外の専門家等とのネットワークを構築し、危機の類型別に政府としての対応策を研究しておくとともに、関係省庁における危機管理体制の整備等について、内閣の立場から点検・見通し等を行うこと、をあげている。そして、「意見集約」は、こうした体制の整備にあわせて、突発的な事態の態様に応じた対処の基本方針について予め所要の閣議決定をしておき、内閣総理大臣が迅速に行政各部を指揮監督できるようにすることを求めている。こうした措置は、「意見集約」もいうように、「いわば当面必要な措置」であって、今後危機管理体制の整備に向けて一層の工夫と努力が必要である。そのためには、現在必ずしも十分機能しているとはいい難い「内閣安全保障室」を「危機管理室」に改組し、国防に関係する事項や大規模な自然災害を含むすべての危機管理につき、内閣総理大臣を適切かつ有効に補佐できる体制を整備する必要があるのではないか。

内閣及び内閣総理大臣の指導性が国民に的確に認識され、内政・外政に関する政策が国民の間で広く理解されるようにするため、広報機能は「内閣官房」の担うべき重要な機能である。広報機能の強化にあたっては、戦略性(内閣官房の総合戦略の一環として、政府全体としての広報戦略の策定、時々の必要に応じた重要な広報テーマの設定等、広報企画力の充実)、機動性(日常・一般的な問題に対する報道対応、緊急時の報道対応の充実)、専門性(広報に関する専門的知識・技術)、国際性(海外への情報発信)、が重要な要素として留意さるべきである。こうした広報機能の重要性に照らし、独立の組織である広報室に担わせることも考慮に値し、総合戦略部門と十分な連携をとりつつ効果的な活動をすることが期待される。広報に関する専門的知識・技術をもち、また海外のセンスをももった人材を登用し、さらに、広報官の政治的任用の可能性も考慮されてしかるべきである。

(iii) 内閣府(及び総務省)

(a) 内閣官房の生命は、内閣総理大臣と直結しつつ、総合戦略性と機動性を発揮するところにあり、その内閣官房を上記のように強化した場合、ややルーティン的な調整機能や各省横断的な共通的管理機能、あるいは内閣総理大臣直轄実施事務は、内閣官房とは別の組織に担わせることが適当ではないか。内閣官房は基本的に政治的任用者に担われる存在であるのに対し、ルーティン的な調整的機能や調査機能、各省横断的な共通的管理機能等は、むしろ継続性のある専門性豊かな官僚によって担われる方が適切ではないか。統合型の場合、その組織(内閣府)の事務の質・量からみて、官房長官が全体を掌握することは可能であろうか、仮に複数の担当大臣を置いた場合、その全体の調整はいかにして図れるか。

そのように考えると、内閣官房とは別に内閣の機関として「内閣府」を置き、マクロ経済、科学技術、男女共同参画、防災等の調整事務、管理・人事・監察の管理機能、賞勲等の現総理府本府の実施機能、宮内庁・防衛庁・金融監督庁等の現総理府外局の実施機能を担わせることになろう。

なお、内閣官房の総合戦略機能や内閣府の調整機能を補完し、外部資源を活用しつつ効果的に内閣及び内閣総理大臣を補佐・支援するために、経済財政、科学技術、防災といった国政全般にわたる基本テーマ別に、有識者からなる総理の諮問会議を内閣府に置くことが考えられる。

かかる内閣府については、内閣総理大臣の下、内閣府全体を統轄する内閣府大臣(国務大臣)一人を置く型と、テーマごとに担当大臣を置く型とが考えられうる。

(b) もっとも、上記の事務のなかには、内閣の事務と位置づけることが必ずしも適当でないものがある。栄典、公式制度等の直轄事務や宮内庁、防衛庁、金融監督庁等の外局管理事務等がそれである。そうした点を考慮すれば、総務省といったものを別途設置し、それに担当させることが適切かもしれない(分離型―その2)。なお、総務省の事務として、管理・人事・監察の管理事務も含める意見もある。

総務省については、内閣総理大臣が主任の大臣とされる場合であっても、別に総務大臣を置く必要があろう。


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