橋本総理のコロンビア大学における講演

「日米関係―21世紀へのパートナーシップ―」

平成9年6月23日

(はじめに)
 ラングハマー社長より、素敵な御紹介をいただき有り難うございます。
コール副学長、アンダーソン学部長、フォード会長、並びにご列席の皆様、
 本日は、コロンビア大学国際関係行政大学院及び外交政策協会の御協力により、このような場でお話しできることを光栄に思います。また、米日財団のイニシアティヴにより、日米関係に関する講演会シリーズが開始されることを嬉しく思います。
 私は、本日の講演を非常に楽しみにしていました。その理由は、世界で有数の日本研究プログラムを持ち、日米関係の発展にも大きな役割を果たしているコロンビア大学を訪問できることです。もう一つの理由も正直に告白せざるを得ません。それは、私の義理の息子、つまり次女の夫がここコロンビア大学修士課程に在学しており、私の孫がニューヨークにいることです。本日の講演がきっかけとなって将来、孫がコロンビア大学へ入学を希望することになれば、どんなにいいかと思います。

 ご列席の皆様、
 昨日、デンヴァー・サミットが成功裡に幕を閉じました。デンヴァー市民及びアメリカ国民の皆様の暖かいおもてなしに心から感謝します。私もサミットの成功に向け議長のクリントン大統領としっかり協力しました。そして国際社会が21世紀への挑戦に立ち向かう上で、日米協力がいかに決定的な役割を果たすかを改めて感じました。
 日米両国は、戦後わずか半世紀の間に、自由、民主主義といった価値観を共有する、おそらくは近代世界において最も素晴らしいパートナーシップを構築しました。この過程で、アメリカは日本に大きな影響を与えました。終戦後、日本は目覚ましい経済発展を遂げましたが、それは、日米安保体制なしでは不可能でしたし、米国が開かれた巨大な市場を提供し続けることなしにはありませんでした。そして今も創造力と活力にあふれ、世界に範を示し続けるアメリカに私は大きな感謝と敬意の念を有しています。
 マンスフィールド大使が、日米関係を「世界で最も重要な二国間関係」と呼んでから既に15年が経ちました。今や日米関係は、アジア太平洋地域の安定と繁栄の基礎として、また、世界に貢献する協力関係として益々その重要性を高めています。私が、このことをつくづくと感じたのは日米自動車交渉の時でした。自動車協議によって日米関係が緊張したとき、多くのヨーロッパやアジアの友人たちから、この問題で大切な日米関係を傷つけないでほしいと強く訴えられました。自動車交渉は私にとって「世界で最も厄介な二国間交渉」でしたが、この交渉により私は日米関係のかけがえのなさを改めて心に刻みました。剣道5段の私に竹刀を振りかざしたミッキーに今では大変感謝をしています。

 ご列席の皆様、
 日米パートナーシップは、21世紀においても、両国民に安定と繁栄の恩恵をもたらすとともに、平和と進歩の恵みを世界中に及ぼすことができると私は信じております。このような観点から、本日は、日米関係の3本柱、即ち、安全保障、経済、グローバルな協力について、私の描く新時代の日米関係の姿を述べてみたいと思います。

(安全保障関係)
 第1の柱は、日米安保体制です。改めて述べるまでもなく、冷戦後においても、日米安保体制は、アジア太平洋地域の平和と安全の維持に不可欠です。私は、多くのアジアの首脳と話す時、日米安保体制がこの地域の国々に如何に安心感を与えているかをしみじみと感じるのです。他方、緊急事態が発生した際、日米安保体制が効果的に機能するのかという問題は常に問われてきましたし、また、日米安保体制に大きな試練を与えた沖縄の基地問題は依然重要な課題となっています。

 ご列席の皆様、
 私は、新時代に対応したより信頼できる日米安保体制を構築したいと考えています。昨年4月、私とクリントン大統領が発表した「日米安保共同宣言」は、日米安保体制の意義を再確認し、新しい時代における日米防衛協力の方向性を示しました。この宣言に命を吹き込むこと、即ち、この宣言に沿った協力を具体化させることこそが、新時代に対応した日米安保体制の構築であると考えます。

 中でも、緊急時代が生じた際の日米間の協力体制と役割分担を具体的に明らかにすることは最重要課題の一つです。このため、両国政府は、現在、「日米防衛協力のための指針」の見直しに取り組んでおり、今月7日には中間取りまとめを公表しました。この作業は、日米安保条約の枠組みを変更することなく、また憲法の枠内で行うものですが、例えば、日本周辺地域において、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態が生じた際に、日本がいかに責任ある対応をするかは日米同盟の本質に係わることであり、私は極めて重視しています。また、危機に際する日米間の効果的な協力体制の整備は、地域の平和と安定にも一層の効果を及ぼすでしょう。今後とも周辺諸国に十分な説明を行いつつ、日本国内でも議論を尽くしたうえで、この秋には新しい「指針」を皆様にお示ししたいと考えます。

 沖縄の基地問題も忘れてはなりません。私は、総理就任以来、国政の最重要課題の一つとしてこの問題に取り組んできました。幸いこれまでの両国の共同作業により、普天間飛行場をはじめとする11の施設・区域の返還が合意されました。日本国民の日米安保体制に対する幅広い支持にはいささかの揺るぎもありませんが、沖縄の基地問題は、地域住民の理解と協力を得て、日米安保体制の信頼性を高めていくうえで今後とも極めて重要です。引き続き米国のご理解とご協力をお願いしたいと思います。

(経済関係)
 第2の柱は経済関係です。私が描く新時代の日米経済関係は、摩擦への対処のみに力を注ぐのではなく、両国が自らを改革するとともに、より広い視野に立って世界経済をリードするような日米協力を推進することです。

 おそらく皆様の最大の関心は、橋本内閣の推進する改革が日本社会にどれだけ核心に迫る変化をもたらすのか、日本経済は成長を続けるのか、そして日本の金融システムは大丈夫かということでしょう。アメリカにも、日本の改革に対するシニシズムがあるかもしれません。しかし、私がまず申し上げたいのは、私は強い意志を持っており、そして、私達は確かに前進しているということです。
 例えば、主要先進国中最悪の状況にある財政の改革については、2003年度までに財政赤字を現在のGDP比5.4%から3%にすることを目指しています。そして、今月上旬にはこの目標に向けた具体的計画を策定しました。
 規制緩和については、私は、4月に訪米した際、そしてデンヴァーにおいても、クリントン大統領と話し合い、両国間で規制緩和に関する対話を強化していくことにしました。今後とも、日本経済の活性化のため規制緩和を徹底的に行っていきます。
 金融制度改革についても、2001年までに、不良債権の処理を進めるとともに、日本の金融市場をニューヨーク・ロンドン並の国際金融市場として再生させます。そのための「フリー」、「フェアー」、「グローバル」をキーワードとする新しい金融制度の全体像が今月中旬に示されたところです。
 私が現在進めている「6つの改革」は、これまでの日本の改革とは異なり、部分的な改革にとどまるのではありません。戦後、日本を支えてきたシステム全体のパラダイム・シフトを図るものなのです。このような包括的改革には短期的な痛みを伴うかも知れません。しかし、改革の効果は徐々に現れ、21世紀に向けて日本の経済社会は蘇生していくと私は確信しています。

 ご列席の皆様、
 日米両国は世界全体のGNPの約4割を占めており、科学技術開発に最大の資金を投入し、経済活動のフロンティア拡大に先鞭をつけている国です。両国は、二国間経済関係の賢明な運営に注意を払うことはもとより、国際経済全体に対する責任を十分に自覚し、開かれた自由な経済体制の維持と拡大、開発途上国や体制移行国への支援等において一層積極的な役割を果たしていく必要があると考えます。幸い、このための環境は整いつつあります。両国の努力により、これまで自動車、半導体、保険をはじめとする多くの個別問題が解決をみました。また、近年、製造業を中心とした日本企業の現地生産化が進み、米国においても約75万の雇用を創出しています。また、今や米国で走っている日本車の3台のうち2台は、米国内で生産されたものです。このような構造変化により、中長期的に日本の対米貿易収支黒字は減少の方向にあります。これは今後とも日米経済関係に良い影響を及ぼしていくでしょう。

(グローバルな協力)
 日米関係の第3の柱はグローバルな協力です。皆様は、例えば、日米両国が、西太平洋地域でポリオの駆逐に成功し、2000年までに世界からポリオを根絶すべく協力の輪を拡げていること、そしてパラオ等の珊瑚礁保全においても協力していることをご存じでしょうか。このように日米は、既に、より良い地球社会を創造するための協力を積極的に進めているのです。
 アジア太平洋地域では、多くの国々が経済的繁栄を享受する一方、朝鮮半島における緊張など依然として多くの不安定要因が存在します。また、中国の存在感は今後一層大きなものとなるでしょう。21世紀に向けて、この地域の安定と繁栄をいかに確保するかは、両国の将来に大きな影響を及ぼす重要な課題です。そして現在、我々は大切な時期を迎えています。
 本年から来年にかけて、米中間及び日中間で首脳レベルの相互訪問が予定されています。これは、中国との建設的な協力関係を構築していくためのまたとない好機です。私は、このモメンタムを活かし、中国のWTO加盟を含めた諸課題について出来るだけ実質的な成果をあげていくことが必要と考えます。また、1週間後には香港返還という歴史的瞬間を迎えます。私は、自由で開かれた制度の維持を通じた香港の継続的発展を強く期待しています。
 朝鮮半島については、永続的な和平達成のための4者会合が提案されています。私は、本会合実現に向けた米国の努力を高く評価するとともに、北朝鮮が早期にこれを受け入れることを強く希望します。また、北朝鮮の核兵器開発問題に対処するため、日米が韓国とともに設立したKEDOの活動は着実に進展しており、北朝鮮において軽水炉建設のための準備工事がまさに始まろうとしています。
 日米協力は、アジア太平洋に止まるものではありません。中東、ボスニア、中南米、アフリカにも及んでいるのです。このように国際場裡において日本が関与する領域は大きく拡がっており、日本は国連安保理の常任理事国となって、グローバルな問題につき一層積極的に責任を果たしていくべきであると私は考えます。

 ご列席の皆様、
 日米両国政府は、4年前から「コモン・アジェンダ」の名の下に、地球環境を守り、感染症、自然災害、テロといった人や社会に対する脅威に力を合わせて立ち向かうプロジェクトを推進し、大きな成果を上げていることをご存じでしょうか。今朝、私は国連環境開発特別総会に出席しましたが、先進国、途上国を問わず多くの首脳の顔が見られ、環境問題に取り組む国際社会の決意をひしひしと感じました。私は、この問題についてクリントン大統領やゴア副大統領ともよく話しています。本年3月、ゴア副大統領が訪日した際には、コモン・アジェンダの下、子供たちの地球環境に対する理解を深めるための「GLOBE計画」の開発途上国への拡大や、中南米やカリブ地域における1億エーカーの生態系保全のための更なる協力を進めていくことに合意しました。このような環境協力を進めるに当たっては、政府の取組みだけでなく、NGOを含む民間との協力が特に重要です。皆様の御協力をお願いしたいと思います。

 ご列席の皆様、
 私は、「グローバルな協力」という日米関係の3本目の柱こそが、21世紀に向けて日米協力の成果を最も発揮できる分野と思うのです。このことを私はクリントン大統領と話す時、特に感じます。我々の話題は、常に二国間関係を超えて世界中に及ぶのです。

(おわりに)
 本日は、日米関係の3つの柱について私の考えを述べましたが、これらの柱をしっかりと支える土台は、言うまでもなく両国民間の相互理解です。今日も日米間では、ビジネスマン、ジャーナリスト、学者、芸術家、スポーツ選手等益々多くの人々が交流と相互理解を深めています。そして何より、両国の若い方々の交流が一層活発になっていることを心強く思います。本日は、ご列席の皆様の中に、若い方々の顔も多く見られることを嬉しく思います。皆様こそが21世紀のパートナーシップの担い手です。
 戦後まもなく発足した「フルブライト・プログラム」は多数の日本人にアメリカで学ぶ機会を与えました。本年度から日本政府は、「フルブライト・メモリアル・プログラム」を発足させ、まず今年は500人の米国の教員が日本で学ぶ機会を持てるようにしました。行政の世界でさえも、昨年よりマンスフィールド大使の名前で推進されている計画の下、米国の行政官が日本の官庁で研修を行っています。悪名高い「ギョウセーシドー」を体得しているかは知りませんが、お互いに経験と教訓を分かち合っているのです。そして今日、インターネットなどの最先端の通信手段により両国民間の交流と相互理解の機会は更に拡大しています。私は、戦争の惨禍から平和の豊穣へ、不信からパートナーシップへと導いてきた、両国民間の信頼と友情の絆こそが、21世紀においても日米関係の発展と地球社会の繁栄のための最大の原動力となると確信しています。

 最後に、ご列席の皆様とともに、日米パートナーシップの重みを改めてかみしめ、次なる世紀に向けて、我々のため、子供や孫の世代のため、そして世界のため、これを更に育てていく決意を新たにしたいと思います。

 ご静聴ありがとうございました。