気候変動枠組条約第三回締約国会議における橋本総理開会宣言

平成九年十二月八日(月)

 大木議長閣下、及びエストラーダ大使、並びにご列席の皆様、

 気候変動枠組条約第三回締約国会議閣僚級会合の開催に当たり、日本国民を代表して、皆様を心から歓迎申し上げるとともに、京都府、京都市をはじめ地元の関係者の皆様にお礼を申し上げます。

(基本認識)
 人類はこれまで、地球上の資源を利用し、特に、産業革命以来、大量の化石燃料を使用し、繁栄を築いて参りました。その一方、近年の爆発的な開発は地球環境に様々な歪みを生じさせてきました。とりわけ、地球温暖化問題は人類の生存に直接関わってくる深刻な問題であります。
 この問題の抜本的な解決のためには、今後、百年単位の長期にわたる努力が必要であります。その壮大な挑戦がまさに、五年前のリオ・サミットを経て始まろうとしています。

(直面する課題)
 先ず第一に、ここ京都に於いて地球規模の取り組みに向けた確実な第一歩を踏み出さなければなりません。
 私は、先進締約国に対しては、意味があり、現実的で衡平な法的拘束力のある削減目標への合意を、また、途上締約国を含めた全締約国に対しても対策の強化に進んで取り組んでいくよう、訴えたいと思います。
 重要なことは、この問題を自らの問題と考え、それぞれの国が見せかけだけでなく、可能な限りの努力を傾注することであると考えます。
 我が国は、二〇〇〇年以降の厳しい削減を進めるため、具体的な実効ある対策を総合的かつ計画的に講じていく考えであり、私自らリーダーシップをとり、官邸を中心に対策の実施とフォローアップを進めていきます。

(エネルギー効率改善のための制度の整備)
 第一の取組は、エネルギー効率の改善のための制度の整備です。具体的には、ある程度長期間の目標年を念頭において、自動車・電機機器等の製品分野ごとに、技術的に想定しうる限り最高水準のエネルギー消費基準を作り、その達成のためのエンフォースメントを定めていきたいと思います。
 二酸化炭素の削減のために厳格なルールを定めることは、経済に悪影響を及ぼすと考えられる方がいらっしゃるかもしれません。しかしながら、私は、きちんとしたルールの設定こそが、かえって、商品の品質向上や生産コスト削減のためのイノベーションの引金を引く契機となると考えます。そして、それが、設備投資を促進し、新たな需要を創出し、新規産業を生み出し、さらには、地球環境の保全と経済発展のトレードオフを終結に導くのです。
 事実、我が国は、石油危機後、省エネルギーによりエネルギー効率を三割も改善し、世界最高水準の省エネルギー国家となりましたが、その間、平均経済成長率は三・三%と持続的な成長を果たしています。

(長期的課題)
 地球温暖化対策の第二は長期的な取組であります。
 この京都会議の初日に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のバート・ボリーン名誉議長が述べられましたように、「大気中の二酸化炭素濃度を五五〇ppm以下で安定化させるためには、二一〇〇年までに世界中の一人あたりの年間二酸化炭素排出量を、炭素換算で一トン以下に抑えること」、すなわち、先進国においてはおよそ現在の三分の一にまで削減することが必要です。これを実現するためには、私が、六月の国連環境開発特別総会でも「グリーン・イニシアティブ」の名の下で強調したとおり、革新的技術開発を国際協力により加速的に進める必要があります。
 我が国は、長期的視点に立って、これまで省エネルギー技術や原子力発電をはじめとする非化石エネルギーの導入に努めてまいりましたが、これらに加え、二酸化炭素の固定化等、様々な、より革新的な技術に関する基礎研究を推進しております。これらの技術が実用化されるならば地球温暖化問題に対する一大ブレークスルーとなりましょう。

(途上国問題)
 我が国は、途上国による地球温暖化防止の努力に協力するために、人材育成、最優遇条件での円借款の供与、技術・経験の移転を三本柱とする「京都イニシアティブ」を、先月、APECの場で発表しました。
 更に、この度、円借款について、温暖化対策の対象分野を拡大するとともに、温暖化対策で重要な中進国についても、金利を引き下げることと致しました。また、世界銀行やアジア開発銀行等国際開発金融機関、国連開発計画及び国連環境計画の環境分野での活動を、引き続き支援していくこととしております。
 他の先進国に対しても、この京都会議の成果を踏まえながら、途上国が行う取組への支援の強化を行うよう要請致したいと思います。
 ここで、途上国の皆さんに理解していただきたいのは、先程日本の経験を申し上げましたが、地球環境問題に取り組むにしても、経済発展にプラスになる方法があるのだということです。即ち、適切なルールの設定は、エネルギー効率の向上を通じて、経済成長と二酸化炭素の排出削減を同時に実現することが可能なのです。

(結語)
 さて、現実に目を向ければ、京都会議は、これから始まる閣僚級会合の三日間のみとなりました。これまでの議論において、各国の主張も煮詰まってきましたが、事の本質、困難さに鑑み、具体的な成果を収めるためには、高度な政治的判断が不可欠と考えます。将来の世代に恥じることのない合意に向けて、これからの三日間、各国関係者が、希望と熱意をもって精力的に取り組まれることを心から望みます。
 私自身、各国首脳の政治的決断を促すため、直接、働きかけを行うつもりであります。

 最後に、世界各地から集まった各政府関係者、NGO、産業界の方々など多くの参加者に心からお礼申しあげるとともに、ここ京都においてそのすべての英知を結集していただくよう強くお願いしたいと思います。

 歴史的な古都、京都において人類の最も新しく真摯な挑戦である地球温暖化問題の解決に向けての最終交渉が成功裡に行われることを強く強く念願して、気候変動枠組条約第三回締約国会議閣僚級会合の開会に当たってのスピーチと致したいと思います。

 ご静聴ありがとうございました。