総 理 に き く

日本の活力をどう回復するか

N H K

放送日:平成10年5月27日 午後10:00 〜10:45

総合テレビ、 第一放送

内閣総理大臣

NHK解説委員

NHKアナウンサ

橋本龍太郎

山本 孝

道傳愛子

橋本総理(NHKにて)

【道傳】それでは、総理、どうぞよろしくお願い申し上げます。

【橋本総理】どうぞよろしく、余りいじめないようにしてください。

【道傳】 まず、今月のバーミンガム・サミットは初めての首脳だけの会議ということになりましたけれども、アメリカを始め各国からの日本に向けられている視線というのはどんなふうにお感じになりましたでしょうか。

【橋本総理】一つは、今度のサミット、今言われたように首脳の会合だけを独立させてやった。そして、ロシアが正式に加盟をした。今までと随分様変わりしました。
 そして、当初から予定されていた雇用問題、あるいは国際組織犯罪、そしてアジア経済問題、もちろん、日本の景気回復への努力も聞かれた訳ですけれども、その意味では議論が集約出来ていいやり方だなという感じを持って帰ってきたんです。
 今、その意味では少しほっとしましましたけれども、インドネシアの混乱が頂点に達しようとしていた。そして、直前にインドの核実験があった。そういう意味では実は緊急のテーマが飛び込んだりした訳ですけれども、そういうときに首脳だけというと、率直な話が出来るというのは本当にいいですね。

【山本】 今お話のインドの核実験につきましては、総理が論議をリードをされた訳ですけれども、パキスタンがインドに対抗しまして、また、核実験をやるんではないか、そんな懸念があるんですけれども、パキスタンへはどう自制を求めていかれますか。

【橋本総理】ちょうどそのインドの核の問題の議論をしてすぐにバーミンガムから登外政室長に、私の個人的な代理として、特使として、パキスタンへ飛んでもらいました。そして、シャリフ首相に出来るだけの自制を日本として求めた訳ですが、だんだん状況が厳しくなってきている。そして今日もパキスタンが実験を開始するんじゃないか、そんな話がありまして、ちょうど夕方4時半ごろだったと思います。シャリフさんに直に電話を入れました。そして、日本は唯一の被爆国として、絶対にこれ以上核が拡散するというようなことは避けたい、避けなければならぬ。そして、インドに対しても、我々は非常に厳しい姿勢を取っているけれども、引き続きパキスタンが是非自制してもらいたい。本気で30分くらいの電話になったんでしょうか。
 シャリフ首相は真剣に私の話に耳を傾けていただきましたけれども、同時に国内でだんだん自分が追い詰められている。そして、日本やアメリカはインドに対して厳しい姿勢を取ってくれたけれども、国際社会全体としては、インドに対して甘いんじゃないか。少なくともパキスタンの国民はそういうふうに受け取っている。そして、自分の立場はだんだん追い詰められている。ことにカシミールの帰属の問題で、インドは非常にかさにかかってきている。そういった沈痛な声の感じでした。
 日本側としては今一所懸命に、インド側に対しても、これ以上の脅しのような言葉はやめるべきだと。ほかの国にも協力を求めてインドに対しての自制を働かせるようにしている。
 EUが経済的な制裁も含めたインドに対する姿勢を明らかにした。ちょうど今日日本政府として外務省の高官を一人アメリカに急遽派遣をして、あと一体何が出来るか。パキスタンにすれば自分の国の安全がかかっているわけですから、その点を彼らに安心感を与えて上げなきゃいけない。急遽そういう行動を取ったので、我々も全力を尽くすから、是非あなたも国内を最大限まとめ上げて自制してもらいたい。一所懸命に要請と同時に激励をして、それは喜んではいただきましたが、だんだん自分も追い詰められているんだと。

【山本】 確かに唯一の被爆国ですから、そういう立場から核の廃絶に向けて、どうリーダーシップを取っていくか、非常に大事なこと、むしろ役割は大きくなったと思うんです。

【橋本総理】これは本当に、今まで以上に大きな声で我々はこの問題を言わなきゃならないと思っています。
 そして幸いに、例えばカットオフ条約、この専門家会合を先日日本がジュネーブでリードをして開いたんですけれども、こういうときにはパキスタンは実は来てくれませんでしたが、インドとかそのほかのいろいろ言われている国の人たちも入ってきて一所懸命に議論してくれているんです。だから、大きな声で訴えるだけではなくて、どうやったら本当に核兵器をこれ以上拡散させず、なくしていけるか。我々の出来る地道な努力を積み重ねていく。それはNPTもありますし、CTBTもありますし、こういうものに今入っていない国々に、しかし実は国際社会の最大多数の合意はここに結実している訳ですから、今入らないでいる国に対してそういう姿勢を変えて、もう核をなくそうよ、減らしていこうよ、少しでも地道な努力をしていく。その努力の1つがカットオフ条約の専門家会合の主催なんです。

【山本】 そこで景気の問題に入りたいと思うんですが、この政府の総合経済対策、これはサミットでも大変評価をされたということなんですが、景気そのものは回復の兆しがなかなか見えてこないということで、国民の最大の関心事はいつ景気はよくなるんだろうかということだろうと思いますので、是非先行きの見通しをお聞かせいただきたいと思うんですが、いかがですか。

【橋本総理】これ本当に、一番今頭が痛い問題なんです。そして、幸いに国会が余り遅れずに平成10年度当初予算を成立させてくださいましたから、今、その中で景気に役立つものはどんどん前倒しをしながら実行しています。例えば公共事業などは例年に比べてはるかに前倒しを大きくしました。
 そして、今、総合経済対策を発表して、それに関連する法律案、あるいはこれから補正予算も提出していますが、御審議をいただこうとしている訳です。
 大きく分けるとそこに柱が三つあります。
 一つは、当面、どうやって景気を回復に向けていくか。そのための社会資本整備、7兆7,000 億円というと相当な金額ですけれども、それも出来るだけ将来の国民が、ああ、あの時代にこういうことをやっておいてくれてよかったな、そう言っていただけるようなものに振り向けていきたい。典型的なものはダイオキシンなどに代表される環境、あるいは、これはNHKさんも関係が非常に深いですが、情報通信の高度化、いろんな分野がありますけれども、それには福祉とか教育とか医療とかそういうものもあります。そういう社会資本整備を積極的に進めていくというのが一つの柱です。
 もう一つの柱は、不良債権をなくさなければならぬということです。
 これは実は今までも言われながらなかなか進んできませんでした。要するに金融機関のバランスシートには、一所懸命に引き当てもしてくれている訳ですけれども、ずっと残っている訳です。だけれども、これもバランスシートから落とさなければならない。ですから、そのための手法を講じていこう。これまた後でお話があれば申し上げますけれども、それがもう一つの柱です。
 同時に、そのためにもいろんなことをやっていかななければならないんですが、同時に日本の産業ばかりでなく、いろんな構造を変えていかなければなりません。構造改革の努力というものがどうしても必要ですから、この三つを組み合わせる。それと、特別減税、追加をし、あと2兆円、そして来年2兆円。その特別減税。これを柱にして今対応していこうとしています。
 これは実は一つずつではなくて、総合して動いてくれなきゃいけないんですけれども、私たちは政策減税だとか、いろんなものを外して特別減税と社会資本整備、この大きな柱で大体2%という成長率を見込んでいますが、これはかために見た数字だということも申し上げていいと思うんです。

【山本】悲観論をあおるつもりは全くないんですけれども、最近、デフレを懸念する声が割合目立ちますね。卸売物価が10年9か月ぶりに大幅な下落をしたとか、あるいは3月期の決算の企業の業績が悪くなっているとか、こんなことを理由に挙げておるんですが、そんな心配は全くないということですか。

【橋本総理】これは本当にブラウン管を通じて見てていただく方にも、私を信頼してくれなどといううぬぼれたことを言うつもりはありません。だけれども、自分の日本という国は、私もっと信頼していただきたいと思うんです。そして、端的にその一つの例で言うなら、確かに卸売物価、1つの指標でよく使われますね。だけれども、日本が左右出来ない、例えば原油の値段を調べてください。その低下というのは、町で言えばスタンドのガソリンの値段です。この1年くらいの間に随分下がったんじゃないですか。そういう部分もあるんだということは分かっていただきたい。
 そして、潜在的な、例えば一人一人の国民の勤勉性、あるいは高い教育水準、産業の蓄積、いろんなものがある訳ですけれども、私、本当にもっと日本に自信を持ってほしい。自分の国に信頼を置いてほしい。本当にそう思うんですよ。

【道傳】ただ、さまざまな統計を見てみますと、例えば失業率は過去最悪の3.9 %という数字が出ておりますし、若年層、そして高齢者は特に高い水準を見せている訳です。景気の浮揚に与える影響というのも大変に大きい、こういう安定した雇用の確保というのはどういうふうに図っていかれますでしょうか。

【橋本総理】今度の補正予算の中にも、というよりも総合経済対策そのものの中に雇用のプログラムを入れています。そして、今までに例えば雇用調整給付金その他、あるいは職業訓練の費用、十分賄えるだけの用意はしました。だけれども、今言われた問題はすごい大事な問題でして、特に年齢の上の方々に対しては、今までも日本は実は余り新しい仕事場を社会的に用意してくれようとしなかったんです。ですから、高年齢の方々の失業率というのは、残念ですが、なかなか前から下がりませんでした。
 今度一番心配なのは、本当に若い方々への求人が減ってきている。有効求人倍率が1を割りました。実は1.0 よりあるときは、自分がやりたい仕事にどうしてもと言われると、その職はあいてないかもしれないけれども、どこかで働く場所はあるという状態だった訳です。今回本当に初めて、若い方々に対しても職を求める方の方が多くなっちゃった。
 ですから、これは私たち本当に新たな働き場所をつくり出すという意味で、新しい事業を起してもらわなければなりませんし、そして、新しい事業を起して、そこに雇用をつくっていくというのが一番求められているわけです。
 その意味では、実は福祉の分野でも医療の分野でも、何か仕事を起すというと、何か工場をつくったりというふうにすぐ想像されがちなんですが、いろんな分野で実は人間が足りない。そして、もっと人材がほしいと思っている場所はある訳ですから、一部ミスマッチを起こしている部分をどうやったら変えられるか。
 これは例えば、労働省のやっている職業紹介、これも一つの大事な仕事なんですけれども、人材派遣、あるいはそういうもっと違った切り口でそのミスマッチを解消する工夫というのはまだまだやっていかなければならないと思います。

【山本】景気の低迷が長引くものですから、政府の政策判断にも誤りがあったのではないかという批判、あるいは不満が国民の間に割合あるんですね。この点はどうお考えになりますか。

【橋本総理】私は国民がそう思われるのは仕方がない。それは政府として甘んじて受けなければならないと思うんです。それは私は責任を逃れるつもりはありません。というのは、財政構造改革という問題について、今でも実は国会でよく私がしかられる部分はそういう部分な訳です。だから、これ本当に皆さんにも考えていただきたいのは、これ家庭で言うなら5年間の収入分の借金が既にある訳です。その利払いだけでも収入のうちの2割必要です。元利払いを考えると、収入のうちの3割消えます。
 個人の家庭だったら、例えばこの分野はやめてしまうというようなことも出来ますけれども、国の仕事というのは一遍に全部やめてしまうという訳にいきません。そうすると、本当に利払いをした、残りのお金で家計をやりくりしていく。しかも、今までやってきた責任はそれぞれに続けていきながら、どこかで借金返しを本当にやらなきゃならない。これ以上借金を増やせない。そういう状況の中で、我々なりに悪戦苦闘している。これは事実として、本当に分かっていただきたいんですね。

【山本】その財政構造改革ですけれども、経済状況に応じて赤字国債を増発出来るとか、あるいは財政再建の目標年度を2年先延ばしにしたというようなことで、財政再建の方はどうなったのかということを考える人も多いんじゃないかと思うんですけれども、この旗はちゃんと掲げている訳ですね。

【橋本総理】その旗は降ろせません、今申し上げしたように、年収の5年分の借金が既にある訳です。もう本当に元利を払おうとすれば、収入のうちの3割。利払いだけでも2割我々は今払い続けいる訳です。財政再建というか、財政構造改革というものは、これはやはり私は将来の世代を考えたら我々本当に降ろすことは出来ないと思うんです。

【山本】ところが一方、野党の方は、今この財政構造改革法を凍結するなり廃止をして、景気対策を思い切ってやったらどうかという、こういう主張ですね。そうなりますと、これは聞き入れる余地はないですか。

【橋本総理】ですから、これは私はたち本当に5年分の借金、利払いだけでも2か月分、そういう頭がありましたら、財政構造改革法をつくるときに、突発事態に対応する工夫というのは、実は抜けていたんです。それが今度、例えば本当にその点ではあってほしくないですけれども、阪神・淡路大震災のような大変な災害が起きたときとか、あるいは今のように本当にGDPがマイナスになりそうだとか、マイナスになったとかいう事態、そういうときには弾力的に対応出来る、そういう措置を本当は最初から講じておくべきでした。 ただ、それは実は私たち一所懸命に議論したときに、むしろ将来の世代の負担を減らそうと。少しでも借金返しをしておこうという方に頭がいっちゃっていたんです。ですから、その点は手抜かりでした。そして、今その弾力条項を入れて、そういう事態のときには、赤字国債を増発することを認めていただきたい、国会にお願いしています。
 ただ、それをもし認めていただいた上で、最終の目標年次をそのままにしておきますと、どこかでどんと歳出を減らさなければならないということになりますね。それは極端だし、そのやり方はなかなか国際的にも国内的にも信用していただけませんから、なだらかに傾斜をさせていく。そうすると、期間を延ばさなきゃならない。では、どれくらい延ばすか。 そして、2005年という年を考えたのは、ちょうど戦後世代、ベビーブーマー世代が60歳になる。同時にG10という国際的な一つのグループがありますけれども、その作業の中から、そのころになると、今は日本は国民の貯蓄をたくさん持っているけれども、高齢化のピッチが早いですから、みんなが貯蓄に手をつけ始める。だから、2005年くらいになると日本の貯蓄は減り始めると。はっきりと目に見えて減り始めるだろう。そう言われているものですから、それを超えてというのがいけない。そんなことから2005年という、2年後ろへ目標をずらさせていただきました。

【道傳】そもそもどうなんでしょう。予算というのは修正は出来ないものなんでしょうか。例えば経済の状況に合わせて景気への対応を早くするためにも、例えば野党との話し合いを進めたりとか、現実的には難しいことなんでしょう。慣例としては行われてこなかったことですね。

【橋本総理】そうですね。予算を編成する権限は内閣にある。国会はそれを審議をしていただき、それについて賛否を言われる。修正の権限がない訳では勿論ありませんけれども、今まで慣例的にそれが行われてこなかった。私なりに考えてみると、一つはその修正をするといったときに、時間がもしか長く掛かると、暫定予算という義務的な経費を365 日で割って、何日分という計算をした。そういう予算をつくらなければなりません。これは新しい仕事が何も出来ないということです。そういう期間が長く掛かるんじゃないかという懸念は私一つあったんじゃないかと思うんです。
 もう一つは、変えてもいいなと思うポイントがなかなかそれぞれの与党、野党の考え方の中で共通項がうまく括り出せるかどうか。そういうこともあったんじゃないでしょうか。

【山本】難しいところがありますね。

【道傳】先ほど減税のお話に触れられましたけれとも、税制を考えてみましたときに、所得税ですとか、個人住民税など、恒久化も含めた減税の在り方、税制の在り方というのはどんなお考えていらっしゃいますでしょう。

【橋本総理】税というものを考える場合に、一つは、国とすれば、あるいは地方自治体とすれば、その仕事のための財源というのは当然ありますね。だけれども、それより大事なのは、一所懸命に働いて、そして一所懸命に働いて稼いだ方が、本当に正当に報いられたなと思うような税金というのはどういう姿だろう、そういう発想が一つあると思うんです。 今、特別減税という形で課税最低限をかさ上げしていますけれども、今まで日本の場合にその特別減税をする前は、年収361 万円、これは標準世帯ですけれども、というところが所得税を負担していただくところの線引きでした。
 実はこの部分が日本より高い国というのは主要国ではほとんどありません。言い換えれば、ほかの国では所得税を払っていただいているような方でも日本の場合には負担をしていただかないで済んでいる方がたくさんあるということです。その代わり、年収3,000 万円くらい以上の方には、実はほかの国に比べて非常にたくさん税金を負担していただいています。
 ですから、減税と言われるときに、どの部分を言われるんだろう。高い収入のある方のところを国際水準並みに引き下げろと言われるのかな。ときどき私それは本当に感じるんです。
 その場合に世間は、これは皆さんも含めて、金持ち優遇だなんて言いませんかという質問を本当はしたい部分があるんですけれども。
 一方で所得に対する課税、これは御自分が財産を持っている、その資産運用から出る所得に対する課税もありますね。あるいは年金に対する課税もありますね。実は日本の所得課税の負担率というのは、ほかの国に比べてると世界の中で最低です。
 そうすると、その中で見直すとすれば、そういう資産に対する、あるいは年金に対する、全部を見直さなければなりません。私はそれは見直すと。そして、より公平で透明性を持って、皆さんに納得していただけるような税制にしたい。政府税制調査会はそういう検討に入ってくださいました。
 だから、恒久減税と言われるときに、皆さんはどの部分を言われるんだろう。ほかの国よりも高い、既に高い課税最低限、これをもっと上げろとおっしゃるのかな。そこは据え置いて、高い人の分だけを下げろと言われるのかな。極端な議論をなさる方になると、課税最低限自体ももっと下げて、今よりも多くの方々に負担していただいてもいいんじゃないかとおっしゃる方はあります。私なかなかそんな勇気ないけれども、むしろ所得課税というのは、全部を見直す中で、一番バランスの取れた、みんなが納得していただける、それは何かというのは、サラリーマンの給料袋の中から引かれている部分だけではなくて、御自分の資産運用から出てくる所得、あるいは年金に対するもの、いろんな角度から、もう問題点は随分出ていますから、これを議論していい形をつくっていかなければなりません。

【山本】先ほど金融機関の不良債権の問題にお触れになりましたけれども、抜本的に処理をしていくために公的資金を投入をするという考え方はお持ちになりますか。

【橋本総理】どうして一遍でそこへいっちゃうの。というのは、既に私たちはもし金融機関が破綻したときに、預金しておられる方々に不安を与えないために、17兆円という、これはまさに預金者保護のためのお金をフレームとして用意しています。
 同時にだめなところはつぶれてもらわなきゃしようがないんですけれども、ちゃんとやっていける銀行で、自己資本を増強していこう。これは貸し渋りの問題などにも影響するんですけれども、そういう金融機関がそのために必要なお金を、これは13兆円という枠を用意しました。そのうち2兆円くらいが使われていますけれども。
 問題は実は、一体金融機関が持っている不良債権というのは正確には幾らなのかということなんです。

【山本】そうですね。

【橋本総理】そして、今度大手の金融機関、これはアメリカのSECに並ぶ今までの日本の決算の基準よりも厳しい基準で決算をするようにしました。そうすると、実は従来の基準だと大手金融機関、都市銀行を中心にして、たしか16兆1,000 億くらい不良債権があります。そして、今度の決算で2兆円くらい減っていますという答えが出たはずなんです。ところが、新しい基準でやってみると、これは21兆円くらいになる。5割増しです。だから、バランスシートからどうやって消させるかという話なんです。
 それは今までにもそれぞれの金融機関は、片側に不良資産という項目、片側に引当金という項目、それを帳面上は用意してきた訳ですけれども、大半がこれは土地ですから、いつかまた土地が値上がりするだろうみたいな感じで、これを抱え込んできた。ただ、これを抱え込んでいると、いつまでたっても実は本当によくならないわけです。これは金融機関としても国際的にも信用が出てきません。ですから、これをバランスシートから消すことだということを今私は一所懸命に言っています。そうすると、これは売るのか、それとも担保付き債権の形にして、それを証券の形で売るのか、いずれにしてもそういう処置が必要がなります。
 同時にそういうものの市場が要りますね。だから、その市場をつくらなきゃならないし、土地というのはいろんな権利、義務が重なり合っていますから。

【道傳】先ほど、政権の課題の大きな柱の1つが行革だった訳ですけれども、その行政改革基本法案は今国会で道筋がつく見通しになりました。省庁再編を実効あるものにしていくためには、今後どういうふうに取り組んでいくことを考えていらっしゃいますでしょうか。

【橋本総理】本当にもう大丈夫。

【道傳】どうでしょう。

【山本】心配しますか。

【橋本総理】心配ですよ。だけど、私は本当にこの中央省庁等の改革基本法は国会が成立させてくださるだろうと願っていますし、これが通ることを期待しています。そして、これが出来れば、推進本部をすぐにでもスタートさせます。これは、私というか、内閣総理大臣というか、まさに本部長になって、作業に入らなければなりません。これは実は各省の設置法から何から全部変えていく訳ですから膨大な作業になります。
 そして、意外に皆さんに分かっていただけてないんですごく苦しんでいるんですが、実は地方分権というものが一方で進行しています。これは地方分権推進委員会が非常にたくさんの仕事をしていただきました。もう間もなくこれを地方分権推進計画として発表します。
 同時に、規制緩和撤廃ということで、いわゆる官民の関係、今まで官が口出し過ぎていた部分、事前管理で全部こうやってがんじがらめにしていたものを、その代わり責任は自分たちで持つんですよ、ということで事後のチェックに変える、こういう作業が同時に動いています。それをベースにして、それだけ中央の仕事を減らしてその上で再編する訳です。ですから、地方に渡していく仕事、一方でそういうものを整理していかなければなりません。一方で規制緩和、これは4月1日から新しい3か年計画を動かし始めました。これを進めていく。どんどんスリム化しながら、その上での中央省庁の再編をするのだということがなかなか分かっていただけないんです。
 だから、今日みたいな機会をつくっていただいたのはすごくありがたいので、出来るだけそういう形で身軽にして、そして、いわゆる独立行政法人という言葉を使っていますけれども、官がやっているけれども、民でも出来るねというものは独立行政法人という新しい仕組みに移して、政府自体の抱える仕事の量は減らしていく、それが土台にあるんだというのを是非この機会に分かってください。

【山本】その辺が一番大事なところですよね。民間に移せるものは民間へ、地方へ移せるものは地方へということですね。

【橋本総理】今日、実は面白い話をされた方がありまして、官と民、公と私、どうも今の議論はおかしいと、昔は官と民の間にもう一つクッションがあったと、何だと言ったら、江戸時代に例えば橋を架けるなどというのは、その地域の篤志家がやっちゃった。言われてみるとそうですよ、あるいは堀を掘ったとか。だけれども、今の日本は私と官しかない、公と私が対比される、官と民が対比される。だけれども、実は途中にある官だってやれる、現にやっている。だけど民がやれる、それを全部官の方に切っちゃっているんじゃないですかと言われたんです。これはすごく大事な指摘で、まさにそこが独立行政法人という仕組みになじむ部分なんですね。

【道傳】今の考え方を変えていかなければいけないところがあるのかもしれませんが、外交のことで伺いたいこと、例えば、ロシアとの関係を考えましたときに、北方領土問題に関して、総理から新提案に対しては、秋のロシア訪問でその回答が示される見通しと、今後解決に向けての道筋はどんなふうに見ていらっしゃいますか。

【橋本総理】この提案の中自体は勘弁していただきたいんですよ。それは、エリツィンさんが真剣に検討して、秋にお前が訪ロするときに答えると言っている訳ですから、そして、それは東京宣言に基づいてなされるもの、これはクラスノヤルスクでも川奈でも確認されました。
 同時に、ただ単なる平和条約ではなしにしようよと、協力も一緒に将来に向けて打ち出そうよと、それも結構じゃないかということを言っているんですけれども、これから後、いろいろなレベルでの接触がまだまだ続きます。そして、本当にお陰様でロシアとの間というのは今までに比べるといろいろな層での交流が増えてきました。国会議員レベルもあります、民間の経営者のレベルもあります、若い方々の交流もあります。そういう多層構造のような形に変わってきましたから、この勢いを消さないようにしたい、本当にそう思っておるんですよ。

【山本】エリツィン大統領は2000年のサミットをロシアで開きたいと総理は申し込まれたようですけども、これは結局日本で開くことになるんですか。

【橋本総理】多分私は変わらないだろうと思います。というのは、これは間違いなしにエリツィンさんはそういう提案をされた。私はちょっと待ってくれと、2000年をロシアで開きたいというのは、日本が1年ずれて2001年になるということか、それとも、日本の番のところにロシアが入って日本はずっと後回しにすることかと、その後回しというのだったら絶対にだめだと、だけれども1年ずらす、これは全体のルールのことだから、私もその真剣にあなたの話は聞いた、その上で、G8全部の中で、そのルールの変更についての議論はしよう、そのとおりに実際上は諮った訳ですが、議長国としてのイギリスがこの問題を引き取った格好になっていますけれども、まあ、後送りにされるのはいやだよ、と言っていらっしゃるところはもう出ていますから。

【道傳】アメリカとの日米関係についてはいかがでしょうか。7月には初めての公式訪問を控えていらっしゃいますね。

【橋本総理】これはクリントン大統領から7月に公式訪問をと言われて、私は本当に光栄だと思っているんですが、これは最初に出たインドの話一つを取っても、日本とアメリカが本当に話し合って、地域的に、あるいは国際的にいろいろなことで協力していかなければならない話はいっぱいある訳です。それは連動してパキスタンの問題であり、あの地域全体の安全保障の問題であり、あるいは日本自身の立場から言えば国連改革の問題だってまだ議論しなければなりません。それはいろいろな角度の問題がありますから、クリントンさんも中国から帰ってこられる訳ですから、米中がどういう話し合いをし、それが今度日米にあるいは日中にどういう影響を及ぼすのか、そういう話も当然必要になりますし、やっていかなきゃならない。

【道傳】例えば、対米黒字が拡大しているようなことも懸案の一つにはなりますでしょうか。

【橋本総理】私はそういう議論だって当然出ると思いますけれども、二国間の首脳会談で、問題は余り小さく特定されない方が本当に私はいいと思うんですよ。それは、その時点における状況というのは変化する訳です。それは今度のバーミンガム・サミットだってインドネシアの問題がある程度ありましたけれども、インドの核実験なんというのが飛び込んでくると思っていなかった訳です、みんな。
 そして、それは日米で経済問題というのはそれなりにいつもあります。いろいろな問題があります。だから、そういう問題が話題にならないと私は言うつもりはないんですけれども、それよりも、もっと大きな問題が実は首脳同士では議論され、むしろそういう、例えば、黒字でもいいですし、何か特定分野の経済交渉でもいいんですが、それは、むしろ閣僚レベルであったり、事務レベルであったり、例えば、かつての自動車交渉がそうです。 自動車協議をやっている最中に、ハリファックスのサミットがありました。あのときにも村山さんとクリントンさんの首脳会談がありました。それは触れていますけれども、それは担当閣僚同士の話だとお互いに確認して、もっと大きな議題を議論している訳です。 だから、ベンチマークのような格好で話題に出るということを否定しませんけれども、それだけが会談だと思わないでほしい。

【山本】最後に、国内の政局についてちょっとお尋ねしたいんですけれども、野党は内閣不信任案を出そうと言っております、これに関連しまして、自民党の中には、ひょっとしたらこれは衆参同日選挙があるのではないか、そんな声も聞こえてくるんですが、何かおしゃべりになったことがあるんですか。

【橋本総理】そんな危険な水域に入ったことはないと思うよ。

【山本】可能性はどうですか。

【橋本総理】そして、それほど空白の時間をつくれるのかな、今の景気、経済、あるいは国際的なさまざまな動き、そこでとめましょうよ。

【山本】とめますか。そこで、内閣不信任案は出すということになりますと、自民党は衆議院では過半数を取っておりますからこれは淡々と否決すればいいというお考えですか。

【橋本総理】これは余り気分のいいものではないんですよ。だけれども、それは不信任案を出されれば、それを受けて、これは国会として与党がどう対応していただくか。それは、まあ、賛成されたら辛いな。

【山本】夏は参議院選挙ですが、最大の関心は自民党は過半数を回復するかどうか、ここにある訳ですけれども、やはり目標は過半数を確保するための69議席が目標になるんですか。

【橋本総理】これは政党人として、公認した候補者1人でも落としたくないですよ。それは戦を始める前に、全員の当選を期して闘う。これは政党として当然ではないでしょうか。 殊に私9年前に負け戦の指揮を取って本当に悔しい思いをした。だから、それは1議席でも多く取りたい、そして、それは公認候補の全員当選を期して死に物狂いで闘うという以外にありません。

【山本】自民党の中は早くも勝敗ラインをめぐりましていろいろ意見が出ておる訳ですね。この61だけではちょっと目標が低過ぎるのではないか、しかし、これを下回るとこれは総理の責任論になるのではないか、いろいろなことを言っておりますが、これはどう考えますか。

【橋本総理】これはもう結果です。ただ、今聞かれれば、私は本当に9年前、参議院選で大敗した当時の幹事長ですから、この悔しさというのは本当に骨身にしみていますし、公認した以上はその全員の当選というものを目指して全力を尽くす、私は党だってそれで結束してくれると思っています。

【山本】この61を割ったときの責任はどうだ、というのはもう聞くのはやぼだというお話ですか。

【橋本総理】私は本当にそう思う。むしろ、みんなそれに向けて、全候補者を、公認した以上は当選させるつもりで全力を尽くしてもらうようなチームワークでなければ闘えません。

【山本】恐らくそこまで考えていないとおっしゃるのではないかと思いますけれども、参議院選挙後の政府、党の体制を一新すべきかどうか、その辺りはまだお考えになりませんか。

【橋本総理】だって、私も一新されちゃうんじゃないの、今の質問だと。

【山本】これも選挙の結果ですか。

【橋本総理】だから、それはちょっと考えている暇がまだないですよ。

【山本】総理はずっと内閣支持率が高かったんですが、やや今下降気味ですね。これはやはり気になさりますか。

【橋本総理】評判を気にしていたら仕事は出来ません。だから、自分の責任を果たせるだけに全力を尽くして一日一日果たしていく。

【山本】どうも長時間ありがとうございました。

【道傳】ありがとうございました。

【橋本総理】ありがとうございました。