本 文参考資料

高度情報通信社会推進本部

電子商取引等検討部会報告書



「電子商取引等の推進に向けた日本の取組み」

平成10年6月

− 目  次 −
はじめに
T.電子商取引等をめぐる内外の動向
   ・ 国内動向
   ・ 国際動向
U.電子商取引等推進の意義
   ・ 検討のスコープ
   ・ 電子商取引等を推進する目的と意義
V.電子商取引等推進に当たっての原則
W.個別論点
   ・ 電子認証
   ・ プライバシー保護
   ・ 違法・有害コンテンツ対策
   ・ 消費者保護
   ・ セキュリティ・犯罪対策
   ・ 取引一般に関わる制度
   ・ 電子決済・電子マネー
   ・ 知的財産権
   ・ ドメインネーム
   ・ 税
   ・ 関税
X.電子商取引等推進のための政府の取組み
Y.今後の進め方
参考資料




電子商取引等検討部会名簿
座長大山永昭東京工業大学教授
  池田 茂日本電信電話鰹務取締役
  内田 貴東京大学教授
  神田秀樹東京大学教授
  黒住昌昭(株)三和銀行常務取締役
  富野七子主婦連合会専門委員
  畠山靖朗(株)伊勢丹専務取締役
  堀部政男中央大学教授
  松尾 明公認会計士
  三村明夫新日本製鐵鰹務取締役




はじめに

 我々は今、かつての産業革命に匹敵する「デジタル革命」の時代を迎えようとしている。情報通信技術の進歩により、あらゆる事象はデジタル情報化され、ネットワークを通じ瞬時に、それを必要とする世界中の全ての人々の間で共有・交換されることとなる。これにより、産業革命以降の大量生産・大量消費の時代が終わり、情報そのものの蓄積・流通を基礎とする新しい時代が始まろうとしている。

 こうした変革期には、様々な競争が発生し、新たな潮流にうまく乗ることのできた国家が新しい時代のリーダーシップを獲得することになる。

 我が国は今、まさにこのような競争に直面している。折しも新時代の価値交換の基礎となる電子商取引等の国際的ルール作りについて、米欧が昨年基本政策を発表し、また、日米欧三極内でのバイ協議やOECD、UNCITRAL等のマルチ協議の場で電子商取引等をめぐる国際的議論は急速に深化しつつある。我が国もこのような新時代のルール設定を積極的にリードしていかなければ、たちまち新ルール下での落伍者となり、国際社会における従前のプレゼンスを失うことになりかねない。新ルールに適したビジネス環境を提供できなければ、ボーダレスなデジタル革命の時代において、その国の産業・経済の活力は低迷してしまうからである。

 幸い我が国は、先導的な実証実験の結果、暗号方式の分野等において国際的注目を集めており、また、民間団体が策定したガイドライン等は、国際的ルール作りの基盤的取組みとして、国際的議論の進展に大きく貢献している。

 新時代に対応するための解決策が、民間の自由な取組みの中から生まれていることは、民間主体の自由な競争こそが流れの速い新潮流に追いつけるものであることを示唆して象徴的である。こうした自由な取組みを不用意に規制しようとすれば、まさに「角を矯めて牛を殺す」ことになりかねないだろう。

 こうした先端的な成果にも関わらず、我が国における電子商取引等の普及発展は世界の先頭を切っているとは言い難い。これは、我が国経済が停滞期を迎え、情報化関連投資が冷え込んでいることにも原因があるが、他面、電子商取引等が発展しやすいビジネス環境を国が十分に提供できていないことも少なからず影響している。電子商取引等をめぐる諸課題について、政府がどのように対応しようとしているのかが不分明であるため、民間経済主体も、電子商取引等の本格的導入を躊躇せざるを得ないのである。このことは、国際的ルール作りへの国としての貢献においても、当然不都合を生じている。確かに、全ての省庁が足並みを揃えて十分な取組みを成しえているとは言い難いことも事実である。

 本検討部会は、このような問題意識から、電子商取引等の推進に当たっての基本的な考え方や主要な課題の整理を目的として、平成9年9月8日、高度情報通信社会推進本部長(内閣総理大臣)決定により、同本部の下に開催が決定された。これまで合計15回の会合を開催し、実証実験・各種プロジェクト実施団体、関連業界代表、民間認証機関及び関係省庁等と意見交換を行うとともに、電子商取引等推進の意義、原則、個別論点及び今後の取組みについて精力的に検討を行ってきた。

 今般、これまでの検討結果を踏まえ、また、去る5月に発表した「中間とりまとめ」に対する反響等も受けて、現段階における本検討部会の基本的な考え方を報告書「電子商取引等の推進に向けた日本の取組み」として整理することとした。限られた時間の中で、明確な結論を出すに至らなかった個別論点も少なくはないが、電子商取引等推進の基本原則として民間主導、政府による環境整備、国際的な調和を明確に打ち出すことができた点は、非常に有意義であると考えている。今後、この基本原則の下に、政府において個別論点について早急に検討が行われることを期待している。

T.電子商取引等をめぐる内外の動向

○電子商取引等の推進に向けた我が国の取組みのあり方を考えるに当たって、まず、現時点における電子商取引等をめぐる国内外の動向をレビューし、以下のとおりとりまとめておくこととする。

【国内動向】

 我が国は、平成13年度(2001年度)までの期間を来るべき高度情報通信社会の実現のための助走期間と位置づけ、この間に、各種の必要な対応策のすべてを集中的に講ずることにより、民間の努力と相まって世界最高レベルまで我が国の情報通信を高度化し、我が国のすべての分野の取引において電子商取引の本格的普及を実現することを目指している。(「経済構造の変革と創造のための行動計画」平成9年5月16日閣議決定)

 このような観点から、これまで先進的な電子商取引等の導入を加速的に進めるため、民間企業における自主的な対応を中心としつつも、これを促進するための環境づくりとして、業種の特性に応じた先導的モデル実証実験や基盤的技術開発、また、安全・低廉かつ多様・大量な通信サービスが提供されるよう総合的なインフラ整備や競争環境の整備等が精力的に行われてきた。これまで、平成7年度、8年度の累次の補正予算においても積極的な支援策が講じられてきたが、今般の総合経済対策においても、このような電子商取引等の推進のために、従前以上の規模の対策が講じられることとなっている。

 また、これまでの民間での先進的取組みや実証実験等を通じて浮き彫りになってきた課題について、その経験を活かしながら、電子商取引等についての制度的課題に関する検討も、官民様々な枠組みで活発に行われている。

 民間レベルでは、電子商取引実証推進協議会(ECOM)が、電子商取引を巡る技術・制度の各課題に関し検討を行っており、これまで認証局運用やプライバシー保護等に関するガイドラインや電子マネー標準利用約款等の成果を挙げている。また、サイバービジネス協議会は、個人情報保護のガイドラインの策定を行ったほか、国際相互接続や電子マネー等に取組んでいる。これらの取組みの中には、世界初のものも少なくなく、国際場裡での議論の際にしばしば引用される等高い評価を受けている。このほか、(財)金融情報システムセンターや社会安全研究財団等種々の民間団体でも、実証実験や制度的検討が進展している。また、プライバシーに関するマーク付与制度については、(財)日本情報処理開発協会において昨年来の検討を経て、この4月に運用が開始されており、また、(財)日本データ通信協会においても、登録・マーク付与制度の運用を開始している。

 政府レベルでは、電子商取引等の関連する広範な領域に応じて、数多くの省庁において検討が行われており([参考1]参照)、本検討部会の設置以降の動きだけを見ても、次のように非常に多くの検討成果報告が行われている。昨年11月に通商産業省「電子商取引環境整備研究会」が中間論点整理を、昨年12月には、郵政省「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会」が最終報告書を発表したほか、警察庁「時代の変化に対応した風俗行政の在り方に関する研究会」が提言書を提出した。本年3月には、法務省「電子取引法制に関する研究会(制度関係小委員会)」、通商産業省「消費者取引研究会」、「大規模プラント・ネットワーク・セキュリティ対策委員会」、郵政省「高度情報通信社会に向けた環境整備に関する研究会」、警察庁「情報システム安全対策研究会不正アクセス対策法制分科会」が、また、5月には、郵政省「通信・放送の融合と展開を考える懇談会」が、6月には、大蔵省「電子マネー及び電子決済の環境整備に向けた懇談会」、郵政省「ペイメントシステムの変革時代における個人金融サービスの在り方に関する調査研究会」が、それぞれ報告書をとりまとめた。

 また、関連する制度の整備も進展しており、年少者に悪影響を与える性的なコンテンツをインターネット等を用いて客に見せる営業を規制等する「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律」や国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存を容認する「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」が既に今通常国会で成立している。

【国際動向】

 前述のように、米欧の基本政策が昨年発表されたことも受けて、電子商取引等に関する広範な課題について、基本原則の形成と個別課題の解決に向けた国際的な議論が国際場裡の様々なレベルにおいて、急速に本格化している。

 UNCITRALでは、電子商取引に関するモデル法制定が行われており、1996年には電子商取引一般についてのモデル法が採択され、その後、電子認証に関するモデル法策定作業が進められている。

 OECDでは、プライバシー、消費者保護、セキュリティ、税等が議論されており、本年10月には電子商取引についての初の閣僚級会合がオタワで行われる予定である。オタワ会合においては、電子商取引を推進するための原則及び諸課題に対する具体的政策の方向について、産業界の意見も採り入れつつ議論がなされる予定であり、国際的な議論を進める上での大きなステップの一つとなろう。

 WTOでは、電子商取引に関する関税についての議論が進展し、去る5月のWTO第2回閣僚会議において、電子商取引に関する包括的な検討作業を行い、その結果を来年の第3回閣僚会議に提出することとし、それまでの間、電子送信に関税を賦課していない現状を維持することにつき国際的な合意が形成され、閣僚宣言として採択された。

 WIPOでは、1996年12月にWIPO著作権条約及びWIPO実演・レコード条約が採択されており、また、データベースの新たな保護制度についての検討が予定されている。

 APECでは、昨年11月に採択された首脳宣言・閣僚声明において、電子商取引の重要性が示され、電子商取引に関する諸課題を検討するべく作業計画の作成が合意された。

 このような中、米国は、昨年7月にクリントン大統領が発表した「グローバルな電子商取引のための枠組み」において提唱した民間主導、規制最小限との基本姿勢の下に、国際的議論をリードしようとしている。この背景には、自国の力強い情報産業への自信と国家戦略を垣間見ることができる。

 他方、欧州は、昨年4月に発表した「欧州電子商取引イニシアティブ」において、適正な規制枠組みの創出を企図しており、例えば、プライバシー保護については、EU指令に基づき各国が法整備を行っている。さらに、本年2月には、電子商取引に関する国際憲章の策定を提唱し、欧州主導でマルチの場での議論を進めることを模索している。

 こうした米欧二極の主導権争いの中で、昨年12月の米欧サミットの際に電子商取引に関する米欧共同声明が発表されたが、これを機に両者の基本哲学の相違が解消されるということにはならなかった。

 日米では、昨年来政府ベースでの精力的な協議が進められてきたが、去る5月に、本検討部会の中間とりまとめが発表されるのを待って、日米共同声明が合意され、バーミンガム・サミットにおける日米首脳会談に際して発表された。今回の共同声明においては、民間主導、規制最小限の立場で日米間の実質的な合意がなされた。日米欧の三極の中で、先ず日米の実質的合意が成ったことは、今後の国際的議論の帰趨に大きな影響を与えることになる。

 今後、日欧間でも、共同声明策定に向けた政府間の協議が活発化していくが、日米欧三極の実質的合意形成に向けた我が国の調整的役割は、非常に大きなものと言えるだろう。

 なお、民間レベルでも、大西洋ビジネス・ダイアログ(TABD)、日米財界人会合、日EU産業人ラウンド・テーブルの枠組みを活用しながら、積極的な意見交換がなされている。

U.電子商取引等推進の意義

【検討のスコープ】

○ 「電子商取引等」として、どのような範囲のものを考えるかは、どのような分野のどのような制度を構築するために論ずるか等、その検討の目的によって広狭異なる。

○ 本検討部会では、電子商取引等の推進のための基本的な考え方、課題等を明らかにしていくという基礎的かつ広範な使命を有するため、電子商取引等推進に当たり解決すべき課題をできる限り幅広く検討の視野に入れるべく、「電子商取引等」を最も広く捉え、累次ヒアリング等を行ってきた。

○ したがって、「電子商取引等」については、グローバルに展開されるインターネット技術を利用した商取引のみならず、コンピュータとネットワークを利用して行われるあらゆる経済主体によるあらゆる経済活動と最も広く捉えつつ、個々の検討課題に応じ、必要があれば適宜限定した定義を設けることとする。

【電子商取引等を推進する目的と意義】

○ 電子商取引等を推進することによってもたらされる効用は、次のとおりである。

<社会的効果>
 ・ 様々な社会コストの低減を通じ、国民生活全般にわたり、高コスト構造の是正、生活の利便性の向上や余暇の創出等がもたらされる。また、通信ネットワークの拡大等による新たな人間関係の形成等を通じ、国民生活の多様化がもたらされる。
 ・ 「大量生産・大量消費」から「情報資源の蓄積・流通」への価値のパラダイムシフトがもたらされ、ひいては環境・資源等社会的な問題への取組みにつながる。
 ・ ネットワークを通じ、国境を越えた取引等が瞬時に行われることとなり、従来の社会・経済構造が大きく変貌を遂げ、また、様々な局面における国際的な関係が進展し、国際化の動きが一層促進される。

<経済的効果>
 ・ ネットワークを通じた、グローバルでボーダーレスな最適化を目指す経済活動が発展することにより、全世界的な競争が促進され、地球規模での経済構造の変革がもたらされる。
 ・ 企業の生産性の向上や企業組織の改革及び流通の合理化、仲介業務の効率化等がもたらされ、我が国経済の構造改革を推進するための原動力となる。
 ・ 電子商取引等への取組みのための各産業界による投資が、景気の拡大を牽引し、最近足踏み状態にある我が国経済情勢の打開にもつながる。
 ・ 電子商取引等の進展により、情報通信関連技術の開発が促進され、それらを活用した様々な分野におけるニュービジネスが創出されるとともに、雇用の拡大につながる。

○ これらを我が国の現状に照らして考えると、電子商取引等の推進は、我が国にとって特に重要性・緊急性が高い。
 すなわち、我が国の経済構造改革の推進や景気浮揚、ひいてはグローバル・コンペティションの中での我が国企業の競争力強化が喫緊の課題である今日、電子商取引等の推進は、そのいずれの課題に対しても最も有効な方策の一つである。

○ このように我が国にとって緊要な課題でありながら、電子商取引等の推進に向けた政府一体となった取組みについては、十分に進んでいるとは言えない。

○ 電子商取引等は本質的にグローバルなものであり、過去1年来、特に電子商取引等のルール等の基盤形成に関する国際的な議論は急速に進んでいる。我が国がこの議論に有意な貢献をし、かつ、電子商取引等の基盤形成期に我が国として十分な対応をしておかなければ、非常に展開の速い電子商取引等の国際的潮流に取り残される可能性が大きい。むしろ、我が国の技術力や文化的価値観、商慣行等を踏まえつつ、積極的役割を担うべきである。

○ 本検討部会による検討は、我が国政府の基本的スタンスを明らかにすることにつながるものであり、電子商取引等の推進を図る上で、極めて重要な役割を果たすことになる。

V.電子商取引等推進に当たっての原則

○ 情報通信技術の進歩の速さや電子商取引等の多様な可能性にかんがみれば、電子商取引等の発展は、原則として民間主導で行われるべきである。

○ 政府の役割は、このような民間活力を引き出す環境の整備が基本となる。
 ただし、政府は、電子商取引等に対して不必要な規制や制限を課すことを避けるべきであり、規制等の関与を行う場合であっても、かかる関与は、明瞭かつ透明でなければならず、取引等当事者にとって不確実性をもたらすものであってはならない。
 具体的に、どの分野において、どのような政府の関与が妥当かについては、個々の分野毎に議論すべきである。

○ また、電子商取引等のボーダレスな性質にかんがみ、国際機関や諸外国等との調整を行い、我が国の立場を生かしながら国際的な調和の確保やグローバル・スタンダードについての議論に積極的に取組んでいくことが極めて重要である。

W.個別論点

○ 電子商取引等が広く普及し健全な発展を遂げていくためには、取引等の安全性・信頼性を確保し、取引等当事者にとっての不確実性をできる限り除去する必要がある。
 電子商取引等は、従来の経済活動の手法を電子化するものであることから、基本的には従来の取引に適用されていた基本的考え方やルールが適用されるものである。
 しかし、電子商取引等に特有の問題や、必ずしも電子商取引等に固有の問題ではないが、電子的情報の流通の活発化に伴い、新たな対応が必要となる問題がいくつかあり、これらについては、従来の考え方では十分に対応することが困難と思われる。これらの課題については、日進月歩の技術進歩の展開も見据えつつ、ルールの一層の明確化や所要の見直し等も含め、新たに検討し、解決を図らなければならない。

○ 本検討部会では、このような観点から種々の議論を進めてきたが、国際的な議論の動向も踏まえつつ、我が国の方針を明らかにすべきものとして次の論点を抽出した。

【電子認証】

 電子認証は、ネットワークを介してデータのやりとりをしている相手が真に本人であること、及びデータが改変されていないことを確認するためのものであり、電子商取引等の信頼性を確保する上で基本的な要素である。

 しかし、求められる認証のレベルや機能は取引形態によって千差万別であること、様々な認証方法や技術が急速に発達していること、また、本件に関する国際的議論も引き続き活発に行われていることから、取引当事者同士がその取引形態に応じて、必要な認証を自由に選択できるようにしつつ、公的関与のあり方も含め、認証システム全体のあり方について引き続き検討を行っていく必要がある。

 もちろん、電子認証の信頼性について判断材料となる情報が提供されることは重要であり、民間でのガイドラインの整備等による自主的な対応が促進されるべきである。

 政府には、このような電子認証技術の発展やガイドラインの整備等の自主的取組みの促進とともに、海外に法規制を導入する国がある場合にも、それが必要最小限であり、かつ、他国の認証を差別的に取り扱って国際電子商取引等の障壁となるようなものにならないよう働きかけていくことが期待される。さらに、政府は、信頼できる電子認証の公正かつ中立な国際標準を確立する動きを積極的に支援していくべきである。また、商業登記制度など現行取引においても認証等の用に供されている公的制度に基礎を置く電子認証制度や電子公証制度の整備についても検討が行われていくことが期待される。

 いわゆる電子署名については、手書きの署名や記名押印と少なくとも同等の法律効果を与えることとすべきであり、関係当事者の権利義務及び責任に関する基本的なルールの明確化を含め、そのための検討を進める必要がある。

 なお、UNCITRALにおいて1996年より行われているモデル法作成作業に引き続き積極的に参加するとともに、こうした国際的な議論との整合性にも十分留意する必要がある。

【プライバシー保護】

 情報通信技術の発展により、電子化された情報をネットワークを介して大量かつ迅速に処理することが可能となっており、また、蓄積、検索、利用、改竄も容易であることから、プライバシー保護の必要性が以前にも増して急速に高まっている。電子商取引等の発展には自由な情報流通が不可欠であるが、その前提として、プライバシーについては確実な保護が図られなければならない。

 しかし、個人情報の内容や用途、収集の方法は、業種業態毎に異なるため、基本的には、業種業態毎に民間によるガイドラインの整備、登録・マーク付与制度の実施等の自主的対応が早急に推進されるべきである。一方、個人信用情報や医療情報等、機密性が高く、かつ、漏洩の場合の被害の大きい分野については、法規制等の公的関与が十分検討されるべきである。

 政府には、民間による自主的取組みを促進するとともに、法律による規制も視野に入れた検討を行っていくことが求められる。また、プライバシーの侵害に対する消費者の不安感を除去するため、事業者に対し個人情報の保護内容について消費者に十分な情報を提供するよう促すとともに、消費者相談窓口の充実に努めるべきである。こうした取組みにおいては、1980年に既に合意を得ているOECDプライバシー保護ガイドラインや、昨今OECD等で行われている国際的議論との整合性にも十分配慮する必要がある。

 なお、行政機関の保有する個人情報については、国においては、昭和63年(1988年)制定の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」により適切な保護を行っている。また、地方公共団体においては、昨年4月現在、行政機関の保有する個人情報については全体の4割程度の団体で、民間部門の保有する個人情報については159団体で、独自の条例を設け適切な保護を図っており、今後ともプライバシーには十分配慮する必要がある。

【違法・有害コンテンツ対策】

 違法・有害コンテンツの問題は、ネットワークの急速な普及により大量の情報が広範囲に流通し、居ながらにして様々な情報を即時に受発信できるようになった結果、一層大きな問題となってきている。これを放置することは、ネットワークに対する社会的信頼性を失わせて電子商取引等の発展を阻害するとともに、青少年に対する悪影響も懸念される。

 現行法でいうわいせつ物の頒布や名誉毀損に当たる違法なコンテンツの発信は、ネットワーク上でも当然違法であり、規制されなければならない。

 違法ではないが青少年に悪影響を与える等の有害なコンテンツについては、コンテンツへのアクセスは利用者の主体的意思に基づいて行われるものであり、かつ、現在の技術ではコンテンツの発信者が利用者の年齢等を知ることは困難であることから、利用者(保護者等)の側がフィルタリング・システム等の技術的手段を使用することや民間の自主規制を基本とした対応を図るべきである。

 政府は、違法コンテンツの取締の実効性を高め、性的なコンテンツをインターネット等を用いて客に見せる営業の規制等をすべく新たに整備された法律の適正な運用等に努めるとともに、フィルタリング・システム等技術の向上やネットワーク・プロバイダーの自主的なガイドライン作成の促進、さらには発信者・利用者双方の啓発等を図ることが期待される。

【消費者保護】

 従来の商取引同様、電子商取引等においても消費者は知識や情報の偏在等により弱い立場に置かれることが多い。電子商取引等における消費者トラブルは近年増加しており、取引に関する十分かつ適切な情報の提供や、トラブルの未然防止措置・救済措置などを整備することにより、消費者が従来の商取引と同水準の保護を得られるようにすべきである。また、取引が国境を容易に越えてしまうこと等の電子商取引等の特性については十分考慮していく必要がある。

 従来の消費者保護法制が様々な取引実態や事業者による自主的対応等を基に構築されてきたことにかんがみれば、まずは現行法制における解釈の明確化や苦情処理体制の整備と並行して、事業者によるガイドラインの整備等の自主的対応を促進し、必要に応じて法的制度の見直し等が検討されるべきである。また、OECDにおいてガイドライン策定に向けて行われている活発な議論に積極的に参加し、国際的整合性の確保や国際的な協力体制の確立に努めるべきである。

 なお、ネットワークを介して消費者に直接に送信される宣伝・広告については、誇大広告・虚偽広告等の広告の内容自体の問題は基本的に薬事法、旅行業法等既存の枠組みで対処されるべきであるが、宣伝・広告の一方的送り付けについては、広告審査、苦情処理に関する体制の整備やフィルタリング技術の開発・普及が促進されるべきである。

【セキュリティ・犯罪対策】

 電子商取引等の発展のためには、その基盤インフラであるネットワークが、不正アクセスやコンピュータウィルス等の侵害的行為の脅威から守られ、安全性が確保されていることが極めて重要であり、このような侵害的行為に対しては、その的確な防止・検挙・訴追がなされるよう、法整備のあり方を含め、取締りの徹底方策について検討するべきである。

 政府としては、今後ネットワークにかかる新たな犯罪への対応に前向きに取組む必要があるが、このようなネットワーク上の犯罪行為においては、行為者の特定が事実上極めて困難であり、その取締まりには限界があると考えられ、犯罪の発生自体を抑止することが重要であることから、犯罪の脅威を受ける側の防御措置の確立が肝要である。そのためには、これらの犯罪行為への対策の必要性に関する啓蒙はもとより、技術開発の促進や不正アクセス対策、暗号技術の不正利用対策等のセキュリティ対策について、ガイドラインの整備のほか、必要に応じた法的環境整備の検討が求められる。なお、その際、1992年のOECD情報システムのセキュリティに関するガイドラインや昨年採択されたOECD暗号政策に関するガイドラインに定められた諸原則に従うべきことは言うまでもない。

 また、ネットワークを利用したマネー・ロンダリング等、ネットワーク固有ではない従来型の犯罪についても、その対策について、現実の商取引等についての規制との均衡に十分配慮しつつ、必要最小限の法的規制を視野に入れた検討を進めるべきである。

【取引一般に関わる制度】

 取引当事者間のルール設定は、従来の取引同様、私的自治を原則として当事者間において行われるべきである。ただし、取引当事者間によるルール設定の際に参照すべき電子商取引等における慣行等がまだ確立していない現時点においては、モデル約款やガイドラインは、法律関係を明確にし、取引についての不確実性を除去する点で特に有用であり、これらの策定にかかる取組みが促進されるべきである。

 また、電子商取引等は、対面・書面による意思表示を前提とした現行民商法が想定していない局面が考えられるため、既存の方式要件や、無権限取引、債権譲渡の第三者対抗要件等については、新たに検討を行って、ルールの明確化が図られなければならない。また、約款の効力や契約への取込みについても十分検討が行われる必要がある。ただし、取引の多様性と急速な技術進歩や、1996年採択されたUNCITRAL電子商取引モデル法等の国際的な議論との整合性にも十分配慮し、取引実態の蓄積を見極めつつ、電子商取引等の円滑な発展を阻害することがないように留意すべきである。

【電子決済・電子マネー】

 電子決済・電子マネーは、現在揺籃期にあり、未だ典型的な形態が確立しておらず、今後も様々な新たな形態が生じていくものと思われる。その意味で、民間部門の技術開発や創意工夫など自由活発な試みを促進することが当面重要となる。他方、利用者の保護と決済システムの安定性の確保は、電子決済・電子マネーが利用者からの信認を得て、発展するために不可欠の前提である。

 政府としては、この二つの要請のバランスを取りながら、当面、民間の動きを見守りつつ、この新たな分野について必要最小限の法的環境整備の検討を行っていくべきである。

 具体的には、今後、電子マネー・電子決済にかかる公正な取引ルールと利用者保護のあり方、電子マネー発行体の適格性要件、電子マネー発行体の破綻時の対応等について、十分な検討が行われる必要がある。

【知的財産権】

 電子化された情報はそもそも複製、改竄が容易であるとともに、ネットワークや大容量電子媒体の普及によって、特段資金も技術もない一般人でも容易にコンテンツを発信できる環境が整ってきている。電子商取引等の発展には、こうした情報技術の特性を踏まえた知的財産保護に関するルール作りが必要である。しかし、電子商取引等と関連する知的財産権問題においては、関係当事者間の利益の調整が複雑で、かつ、技術的解決が困難なものも多い。

 政府としては、1996年に採択された新条約などWIPOにおける検討の成果を踏まえつつ、知的財産権法制の見直しを推進するとともに、その他関連法制度等も含めた幅広い観点から適切な知的財産保護のあり方を検討していくべきである。また、知的財産管理技術の開発を積極的に支援することも求められる。

 なお、電子商取引等の発展のためには、これを支える基盤技術の工業所有権の保護も不可欠である。

【ドメインネーム】

 ドメインネームはインターネットに接続されるホスト・コンピュータを表すインターネットにおける住所としての役割を有している。この登録、管理の制度は、国際的に開かれ、公平で、かつ、市場原理に基づいたものであるべきである。

 また、登録された商標権の侵害が生じないよう、ドメインネームの登録の際の商標権への配慮や苦情処理体制のあり方等の検討が必要である。

【税】

 電子商取引等の発達により、経済取引が複雑化・国際化し、誰が、いつ、どこで、どのような取引を、どれだけ行ったか、といった取引の実態を正確に捉えることが今後更に困難になっていくと考えられ、それに伴って、適正な課税のあり方を検討していく必要がある。

 電子商取引等への課税は、公平、中立、簡素であるとともに、電子商取引等が国際的規模で行われることから、国際的に見て二重課税や課税漏れがないよう、国際的整合性を確保することも重要である。こうした観点から、OECDにおける検討が進展するよう、我が国としても努力していくべきである。

【関税】

 我が国においては、電子的に伝送されるコンテンツには関税がかかっていない。電子商取引における関税の取扱いについては、本年5月のWTO第2回閣僚会議において、来年の第3回閣僚会議までに包括的な検討を行うとともに、それまでの間、電子送信に関税を賦課していない現状を維持する内容の閣僚宣言が採択されたところであるが、今後も引き続き、国際的な電子商取引等を促進する観点から、WTOの場等における具体的な議論に積極的に参加するべきである。その際には、WTO協定との関係を十分整理する必要がある。また例えば、各国の実務において、ソフトウェアがCD等の媒体に記録されて輸入される場合とインターネットを通じて伝送される場合とで、課税の取扱いについての整合性をどう考えるかといった点を含め、関税にかかる法的・実務的観点からの検討を早急に行う必要がある。

X.電子商取引等推進のための政府の取組み

 前記個別論点毎の課題の検討等に限らず、政府は電子商取引等の推進及びその市場の育成のために、以下の課題に取組むべきである。

○ 電子商取引等が進展し、国民生活のあらゆる局面に浸透していくためには、政府は所要の環境整備を早急に行う必要がある。

 電子化された活動の基盤となるネットワーク等の信頼性及び安全性の向上、高度化、多様化を促進すべく基盤技術の開発や標準化、相互運用性の確保等に努めるとともに、安全・低廉かつ多様・大量な通信サービスが提供されるよう、総合的なインフラ整備や競争環境の整備を図っていくことが喫緊の課題である。さらに、高度情報通信分野への投資の促進やベンチャー・ビジネスなど活力のある産業の育成に向けた施策が期待される。

○ また、高齢者・身障者を含め、ありとあらゆる者が電子商取引等に参加できるよう、利用者インターフェイスの向上や情報リテラシー教育の充実が図られねばならない。

○ さらに、このような環境整備ばかりではなく、政府自体が経済活動の主要な主体であることから、公的調達等の電子化や歳入歳出の電子化、行政との関係における申請・保存の電子化、ワンストップ・サービスの実施等行政サービスの向上などにも率先して取り組んでいく必要がある。これらの課題の多くについては、平成9年12月20日に閣議決定された「行政情報化推進基本計画の改定について」において、その推進が盛り込まれているところであり、その着実な実施が進められるべきである。

Y.今後の進め方

【政府における早急な検討】

○ 「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決 定)において、「政府は、電子商取引の本格的な普及に向けて検討すべき制度 的課題の全てについて早急な検討を行い、その結果を踏まえて、平成13年 (2001年)までに必要な措置を講ずることとすべきである」とされている。 この検討及び措置は、出来る限り前倒しされるべきであり、かつ、本検討部会 における検討結果を踏まえて行われなければならない。

【関係省庁による一体的な取組み】

○ 具体的な検討は、各々の個別論点を所掌する関係省庁やそれらに設けられた各種審議会・研究会等においてなされるばかりでなく、電子認証やプライバシー保護といった多くの関係省庁にまたがり、かつ、政府として早急に方針を明確化すべき論点については、高度情報通信社会推進本部の下、関係省庁が連携して一体的な取組みを推進する必要があり、そのための体制整備を行うべきである。

【基本方針の見直し】

○ また、「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」(平成7年2月高度情報通信社会推進本部決定)については、本検討部会による検討結果を踏まえ、我が国がとるべき戦略を練り直すとの観点から、全体的な見直しを行うべきである。この見直しに際しては、高度情報通信社会の推進は、従来からの公共分野の情報化に加え、電子商取引等について、最新の情報通信技術の成果を活用して民間活力が十二分に発揮できるような環境の整備を主眼に据える新たな時代へと発展してきていることを十分認識し、これに対応したものとすることが重要である。

【フォローアップ】

○ なお、電子商取引等をめぐる国際的議論も、今後、一層急速に展開していくものと考えられるとともに、技術の急速な進歩に伴う新たな課題の顕在化、既存の課題に対する技術的解決の進展など、電子商取引等をめぐる環境は引き続き時々刻々と変化していくものと考えられる。したがって、最低限年に1回は、電子商取引等に関する政府の取組みのフォローアップを実施し、高度情報通信社会推進本部に報告を行うべきである。