e-Japan重点計画 目次

1.基本的な方針

(1)IT革命の意義

 IT革命は産業革命に匹敵する歴史的大転換を社会にもたらすものである。産業革命が世界を農業社会から工業社会に移行させたように、情報通信技術の活用は、情報流通の費用と時間を劇的に低下させ、密度の高い情報のやり取りを容易にし、世界規模での急激かつ大幅な社会経済構造の変化を生じさせることとなる。この結果、世界は工業社会から高度情報通信ネットワーク社会、即ち情報と知識が付加価値の源泉となる社会に急速に移行しつつある。

 IT革命の推進に向け、我が国政府としてはこれまでも、「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」の策定(1995年策定、1998年改訂)等に着実に取り組んできたところである。

 情報通信分野における我が国の現状を見ると、ハードウェアの製造に関しては世界最高水準の競争力を誇り、また、音声電話や放送については世界でも最高水準の普及率を達成している。しかし、諸外国が情報通信政策の主軸に位置付けているインターネットの普及率は、未だ主要国の中でも低いレベルにあり、またITのビジネスや行政への浸透という点でも我が国の取組は遅れていると言わざるを得ない。これは、地域通信事業の事実上の独占による従量制の下での高い通信料金や、インターネット網が音声電話網の上に作られていること、更には各種規制等制度面にも対応の遅れがあったことに起因している。

 最近時点においては、通信料金の一層の引き下げ、携帯電話によるインターネットへのアクセスの急速な普及、更にはCATV網やDSL*1 技術を活用したインターネットサービスの展開等、様々な点で改善が進んできている。

 しかしながら、IT革命がもたらし得るメリットである経済構造改革の実現、産業活動の効率化や、更には生活の利便性の向上や多様なライフスタイルの実現といった国民生活全般の変化を現実のものとするには、それらの改善ではまだ不十分である。

 したがって、我が国が21世紀においても引き続き経済的に繁栄し、国民全体の更に豊かな生活を実現するためには、情報と知識が付加価値の源泉となる高度情報通信ネットワーク社会にふさわしい法制度や情報通信インフラ等の国家基盤を早急に確立した上で、卓越したハードウェア製造能力等の情報通信分野における我が国の強みを活かす形でIT革命を推進する必要がある。

 産業革命に対する各国の対応がその後の国家経済の繁栄を左右したが、同様のことがIT革命にも言える。即ち、高度情報通信ネットワーク社会の実現に必要な環境整備をいかに早急に行うかが、21世紀における各国の国際競争優位を決定付けることになる。欧米やアジアの国々はそうした環境整備を集中的に進めようとしており、社会経済構造の変化の速度が極めて速い中での環境整備の遅れは、将来取り返しのつかない競争力格差を生み出すことにつながる。

 したがって、「e-Japan戦略」で示されているように、必要とされる制度改革や施策を2001年からの5年間に緊急かつ集中的に実行していく」という方針の下、本重点計画に基づき、政府一丸となって必要な施策を迅速かつ重点的に推進していくこととする。

(2)目指すべき高度情報通信ネットワーク社会の姿

 「e-Japan戦略」では、「我が国が5年以内に世界最先端のIT国家となる」ことが目標とされている。この目指すべき「世界最先端のIT国家」、即ち高度情報通信ネットワーク社会とは、以下のような社会であると考えられる。

 第一に、「すべての国民がITのメリットを享受できる社会」である。5年以内に少なくとも3000万世帯が*2 に、また1000万世帯が超高速インターネットアクセス網*3 に常時接続可能な環境が整備され、必要とするすべての国民が低廉な料金で常時接続できるようになり、更には、2005年のインターネット個人普及率が現時点での予測値である60%を大幅に上回ることとなり、すべての国民の情報リテラシー *4が向上する結果、すべての国民が多様な情報・知識を世界的規模で入手・共有・発信できるようになる。

 第二に、「経済構造改革の推進と産業の国際競争力の強化が実現された社会」である。ITの活用を通じた絶え間ない新規産業の創出と既存産業の効率化により、経済構造の高度化と国際競争力の強化、更にはそれらを通じた持続的な経済成長と雇用の拡大が達成されることとなる。

 第三に、「ゆとりと豊かさを実感できる国民生活と、個性豊かで活力に満ちた地域社会が実現された社会」である。2003年度には電子情報を紙情報と同等に扱う電子政府が実現され、また電子商取引の市場規模が70兆円を大幅に上回るまでに成長し、更には遠隔教育や遠隔医療等も普及することにより、地理的な制約や年齢・身体的条件に関係なく、すべての国民がインターネット等を通じて、いつでも必要とするサービスを受けることができると同時に、様々なコミュニティへの社会参加等を行えるようになる。

 第四に、「地球規模での高度情報通信ネットワーク社会の実現に向けた国際貢献が行われる社会」である。IT関連修士、博士号取得者が増加し、また3万人程度の優秀な外国人人材を受け入れることなどにより、日本において世界最先端の情報通信技術が開発され、また我が国で作られた世界最高水準のコンテンツ*5 が世界に発信されるようになるなど、グローバルなインターネット社会の発展にこれまで以上に大きく貢献するようになる。

(3)基本方針

  1. 官民の役割分担

      本重点計画に盛り込まれているすべての施策の推進に当たっては、その前提として、官民の役割分担が明確となっていなければならない。

      官民の役割分担についての原則は、情報通信分野においては民間が主導的な役割を担うということである。したがって、政府は、公正な競争の促進、規制の見直し等の市場が円滑に機能するような環境整備や、縦割り行政の弊害を排除しつつ、国と地方の連携の強化等を通じて、民間の活力が十分に発揮されるための環境整備を行わなければならない。

      一方、政府は、電子政府の実現、デジタル・ディバイド*6 の是正や基盤的技術の研究開発といった民間主導では実現し得ない部分について、予算の効率的配分に留意しつつ積極的に対応していくことが必要である。

      高度情報通信ネットワーク社会の実現のためには、民間が自由で公正な競争を通じて様々な創意工夫を行い、IT革命の強力な原動力とならなくてはならない。政府としては、本重点計画に盛り込まれた施策を早急に実施することにより、IT革命の推進に向けた民間の積極的・創造的な取組を支援していく。

  2. 5つの重点政策分野

     本重点計画では、高度情報通信ネットワーク社会の実現のために特に重点的に施策を講ずべき5分野、即ち
     (i)世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成
     (ii)教育及び学習の振興並びに人材の育成
     (iii)電子商取引等の促進
     (iv)行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進
     (v)高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保
    に集中的に取り組むこととしている。

     高度情報通信ネットワーク整備と人材育成は、高度情報通信ネットワーク社会の実現に不可欠なインフラを形成することとなる。また、ネットワーク・インフラを活用した取引や活動を活性化するためには、電子政府の実現と電子商取引の促進が必要である。更に、高度情報通信ネットワークの安全性と信頼性の確保は、すべての国民がネットワーク・インフラを安心して活用するためには不可欠な基盤となるものである。

     本重点計画においては、5つの重点分野のそれぞれにおいて、概要以下のような取組を行うこととしている。

     (i)「高度情報通信ネットワークの形成」に関しては、5年以内に超高速アクセスが可能な世界最高水準のネットワークが整備され、国民にとって安価で使いやすいネットワーク・インフラとなるような環境の実現に向け、電気通信事業における大幅な規制の見直しや独占禁止法上の指針の策定等を通じた公正競争条件の整備、光ファイバ等の敷設の円滑化等の施策を推進する。

     (ii)「教育及び学習の振興並びに人材の育成」に関しては、2005年には国民すべてがインターネットを使いこなせるようになる中で、専門的な知識・技術を有する創造的な人材がITのフロンティアを開発していくようになるよう、学校のIT化、あらゆる人へのIT学習機会の付与、大学改革や外国人受け入れによる技術力の抜本的向上等の施策を推進する。

     (iii)「電子商取引」に関しては、2003年に便利で使い勝手の良い電子商取引市場が形成されるよう、電子商取引を阻害する規制の改革や新しいルールの整備、「行政機関による法令適用事前確認手続」の導入、知的財産権の適正な保護及び利用等の施策を推進する。

     (iv)「行政・公共分野の情報化」に関しては、2003年度に、電子情報が紙情報と同等に扱われる効率的でサービスの良い電子政府が実現されるよう、実質的にすべての行政手続の電子化等を行うとともに、インターネット等を通じて世界最高水準の公共サービスが提供されるよう、高度道路交通システム(ITS)の推進等の様々な公共分野におけるITの活用の推進のための取組を行う。

     (v)「ネットワークの安全性・信頼性の確保」に関しては、2005年までに安全で信頼性の高いネットワーク・セキュリティが確立されるよう、個人情報保護法制等の制度面、暗号技術等の技術面、緊急対処体制の整備等の体制面の各面で必要な施策を推進する。

  3. 横断的な課題

     上述の5分野の施策を推進して高度情報通信ネットワーク社会を実現するに当たっては、重点的な対応が必要となる横断的な課題が存在することから、政府として、これらの課題についても積極的な対応を行っていくこととする。

     第一に、情報通信分野では技術が発展の原動力であり、技術革新こそが今後の高度情報通信ネットワーク社会の発展の基盤となる。したがって、IT戦略本部と総合科学技術会議との連携を図りつつ、産学官の協力関係を強化しながらネットワーク高度化技術や高度コンピューティング技術等の基盤技術に関する研究開発を推進し、特に、民間のみでは推進困難な技術に関しては国が率先する形で研究開発を一層推進することが必要である。

     第二に、高度情報通信ネットワーク社会においては、すべての国民がインターネット等を容易にかつ主体的に利用し、個々の能力を創造的かつ最大限に発揮できる環境が実現されることが重要である。このため、地理的な制約、年齢・身体的な条件等に起因する情報通信技術の利用機会及び活用能力の格差の是正を積極的に図っていくことが必要である。

     第三に、IT革命の進展に伴い、雇用面でのミスマッチや有害情報の氾濫を通じた青少年の健全成長への影響といった問題の発生が懸念されることから、これらの新たな問題についても的確かつ積極的に対応していくことが必要である。

     第四に、インターネットは世界的規模で急速に普及していることから、高度情報通信ネットワーク社会を実現するためには、様々なルールや規格などの国際的な調和に向けた取組を積極的に行っていくことが必要である。また、喫緊の課題となっている国際的なデジタル・ディバイドの解消のために、地球規模での国際的な協調・貢献を積極的に行っていくことが必要である。

  4. 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部の役割

     本重点計画に掲げられた施策の着実な実行を確保するため、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は、毎年春に本重点計画の見直しを行うとともに、毎年春と秋に施策の推進状況の調査を行い、その結果を随時公表することとする。また、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は、引き続き、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策で重要なものの企画に関して審議し、その施策の実施を推進することとする。


*1 DSL:
Digital Subscriber Line(デジタル加入者線)の略。電話用のメタリックケーブルに専用モデムを設置することにより、高速のデジタルデータ伝送を可能とする方式の総称。
*2 高速インターネットアクセス網:
音楽データ等をスムーズにダウンロードできるインターネット網のことをいい、現時点ではDSL、CATVインターネット、加入者系無線アクセスシステムを利用したインターネット網が代表的な例。
*3 超高速インターネットアクセス網:
映画等の大容量映像データでもスムーズにダウンロードできるインターネット網のことをいい、現時点では加入者系光ファイバ網を利用したインターネット網が代表的な例。
*4 リテラシー:
読み書きの能力。識字。転じて、ある分野に関する知識・能力。
*5 コンテンツ:
「情報の内容、中身。」。「マルチメディアコンテンツ」や「Webコンテンツ」という使い方をする。「Webコンテンツ」と言った場合には、インターネット上のWebサーバーに掲載されているテキストやグラフィックなどの内容を指す。
*6 デジタル・ディバイド:
デジタル技術(いわゆるIT)の普及に伴い、所持、年齢、教育レベル、地理的要因、身体的制約要因等により、その利用及び習得する機会に格差が生じた状態。社会問題として認識されつつあり、この問題を端的に「デジタル・ディバイド」と呼ぶ。