第3回個人情報保護法制化専門委員会議事要旨

資料2

医療分野における個人情報保護について

平成12年2月16日
厚    生    省


1 基本的考え方

○ 患者に対する適切な診断・治療等を行うためには、医師等の医療従事者が患者等から正確かつ詳細な情報を得ることが不可欠である。
 特に近年科学技術の進歩や生活習慣病等の慢性疾患の増加などにより、医療分野における個人情報の範囲は広範囲なものとなってきている。

○ また、医療現場におけるチーム医療の進展、医療関連サービスの外部委託化の進展、介護サービス等他サービスとの連携、医療分野における情報化の進展等により、個人医療情報が流通する範囲は、医療機関内外において拡大しつつある。

○ これらの情報の多くは極めて個人的な情報であり、また、その漏洩等が直接的に患者の社会的な評価等に関わるおそれもあるため、個人医療情報については、その保護を一層図っていく必要がある。

○ しかし、一方で、医学・医術の進歩や公衆衛生の向上及び増進のためには、診断・治療等を通じて得られた個人医療情報を活用して研究等を行い、新たな治療法・医療技術の開発・普及等を進めていくことが不可欠であり、個人医療情報については適正な情報の利活用を図っていく必要がある。

2 医療分野における個人情報保護の現状

○ 医療分野における個人情報については、主として、刑法及び医療関係法規において、資格又は業務に着目した守秘義務規定を広く設けることにより、その保護を図っているところ。

○ このほか、民間の取組みとして、日本医師会等が倫理規定等を定め、個人医療情報の保護を図っている。

(1)守秘義務規定

○ 守秘義務規定は、個人の秘密の保護を目的とすると同時に、医療関係者が患者の秘密を漏泄するおそれがあれば、患者が安心して情報を提供できなくなり、結果として有効・適切な医療が行われなくなることから、患者の医療関係者に対する信頼を確保することを目的としている。

【資格に着目した守秘義務規定】

@ 刑法

○ 刑法第134条(秘密漏示)
 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産婦、弁護士、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

○ 医師の刑法上の守秘義務規定に関する特別規定
 ・ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(第53条)
 @ 精神病院の管理者、指定医、地方精神保健福祉審議会の委員若しくは臨時委員、精神医療審査会の委員若しくは第47条第1項の規定により都道府県知事等が指定した医師又はこれらの職にあった者が、この法律の規定に基づく職務の執行に関して知り得た人の秘密を正当な理由がなく洩らしたときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
 A (略)

 ・ このほか、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(第67条)、麻薬及び向精神薬取締法(第58条の19)に同様の規定がある。

A 個別の資格法上の守秘義務規定

○ 診療放射線技師法第29条(秘密を守る義務)
 診療放射線技師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。診療放射線技師でなくなつた後においても、同様とする(罰則30万円以下の罰金)。

 ・ このほか、臨床検査技師、衛生検査技師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、臨床工学技士、義肢装具士、救急救命士、歯科衛生士、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師及び精神保健福祉士について、各資格法に同様の守秘義務規定が置かれている。

【業務の特性に着目した守秘義務規定】

○ 精神保健医療関係
 ・ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(第53条)
   @ (略)
   A 精神病院の職員又はその職にあった者が、この法律の規定に基づく精神病院の管理者の職務の執行を補助するに際して知り得た人の秘密を正当な理由がなく洩らしたときも、前項と同様とする。

○ 感染症医療関係
 ・ 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
 (第68条)
  感染症の患者であるとの人の秘密を業務上知り得た者が、正当な理由がなくその秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

○ 臓器移植関係
 ・ 臓器の移植に関する法律(第13条)
  前条第1項の許可を受けた者(以下「臓器あっせん機関」という。)若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由がなく、業として行う臓器のあっせんに関して職務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない(罰則50万円以下の罰金)。

○ その他、結核予防法、薬事法、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法、麻薬及び向精神薬取締法、母体保護法、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律、国民健康保険法、社会保険診療報酬支払基金法に同様の規定がある。

(2)その他の関連規定

○ このほか、医療分野における個人情報の保護については、関係法規において、個人情報の適正な管理、本人等への情報提供等を規定し、その保護を図っているところ。

【個人情報の保護に関するその他の関連規定の例】

  ・ 医療法(情報提供、適正管理)

  第1条の4
  1 (略)
  2 医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。

  第21条
  病院は、厚生省令の定めるところにより、次に掲げる人員及び施設を有し、かつ、記録を備えて置かなければならない。ただし、政令の定めるところにより、都道府県知事の許可を受けたときは、この限りでない。
  一〜十三  (略)
  十四 診療に関する諸記録
  十五〜十七 (略)

 ・ 医師法(適正管理)

  第24条
  1 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
  2 前項の診療録であって、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、5年間これを保存しなければならない。

 ・ 臓器の移植に関する法律(適正管理、情報提供)
  第10条
  1 医師は、第6条第2項の規定による臓器の摘出又は当該臓器を使用した移植術(以下この項において「判定等」という。)を行った場合には、厚生省令で定めるところにより、判定等に関する記録を作成しなければならない。
  2 前項の記録は、病院又は診療に勤務する医師が作成した場合にあっては当該病院又は診療所の管理者が、病院又は診療所に勤務する医師以外の医師が作成した場合にあっては当該医師が、5年間保存しなければならない。
  3 前項の規定により第1項の記録を保存する者は、移植術に使用されるための臓器を提供した遺族その他の厚生省令で定める者から当該記録の閲覧の請求があった場合には、厚生省令で定めるところにより、閲覧を拒むことについて正当な理由がある場合を除き、当該記録のうち個人の権利利益を不当に侵害するおそれがないものとして厚生省令で定めるものを閲覧に供するものとする。

(3)民間での取組み例

○ 日本医師会
 「医師の倫理」(昭和26年)において、「患者に接するには、慎重なる態度を持して、忍耐と同情の誠を示し、その診療所の一切の秘密は絶対に厳守すべきである。」旨規定。
 また、診療情報の提供については、医師・患者の相互信頼関係を樹立し、治療効果を上げるために極めて重要であるとの考えから、「医師が患者に積極的に診療記録の開示等を含めて懇切な診療情報の説明・提供する」ことを求める「診療情報の提供に関する指針」(平成11年4月)を医師の倫理規範として策定するとともに、苦情処理機関として平成12年1月から全都道府県医師会に診療情報に係る相談窓口を設置。

○ 日本薬剤師会
 「薬剤師倫理規定」(昭和43年)において、「薬剤師は、職務上知り得た患者等の秘密を、正当な理由なく漏らさない」旨規定。

○ 日本看護協会
 「看護婦の倫理規定」(昭和63年)において、「看護婦は、対象のプライバシーの権利を保護するために、個人に関する情報の秘密を守り、これを他者と共有する場合については、適切な判断のもとに対応する。」旨規定。

3 「中間報告」に対する意見

○ 高度情報通信社会推進本部個人情報保護検討部会が昨年11月にとりまとめた「我が国における個人情報保護システムの在り方について」(中間報告)においては、個人情報保有者の責務として5つの基本原則を掲げる等新たな個人情報保護システムに関する基本的考え方等を提言するとともに、医療情報分野について、「既存の法規制等について検討を加えた上で、これらの改正も含め、個別法の整備について、別途検討していく必要がある」との提言が行われているところ。

○ 既に個人情報保護検討部会における審議においても議論があったように、個人医療情報については、適切な医療提供や公衆衛生の確保等のために、中間報告に示された5原則を一律に適用することが不適当な場合もあり、これらについては、今後十分に検討していく必要がある(下記「4.「中間報告」に示された5原則に係る主な論点」参照)。

4 「中間報告」に示された5原則に係る主な論点

(1)個人情報の収集
 ア 収集目的の明確化
 イ 収集目的の本人確認
 ウ 適法かつ公正な手段による収集
 エ 本人以外からの収集制限(本人の利益保護)
  (例外の例)
  ・法令の規定に基づく収集
  ・本人の同意がある場合など

○ 公衆衛生の確保等公益上の必要から情報を収集する場合

 〔問題点〕
 客観的なデータの収集等が困難になるおそれ

 〔検討の方向〕
  →情報収集手続きのルール化を行うこと等を前提に、公衆衛生の確保等の公益上の必要から行う調査等については、基本法において適用除外とすることが適当ではないか。
  例)
  ・がん登録事業等の調査研究事業
  ・感染症関係法令に基づく感染症発生動向調査等
  ・医薬品等による副作用等の報告等

○本人の利益を図ることが明らかな場合

 〔問題点〕
 適切な医療サービスの提供等に支障が生じるおそれ

 〔検討の方向〕
  →本人の利益を図ることが明らかな場合については、基本法において適用除外とすることが適当ではないか。
  例)
  ・診療時における配偶者等からの情報収集(特に精神医療、小児医療)
  ・保健・医療・福祉の連携の下に総合的なサービスを提供する場合における各サービス提供主体間の情報交換

○統計調査

 〔問題点〕
 客観的なデータの収集等適切な調査の実施が困難になるおそれ

 〔検討の方向〕
  →統計調査については、基本法において適用除外とすることが適当ではないか。

(2)個人情報の利用等
 ア 明確化された目的外の利用・提供の制限
 イ 目的外利用・提供の場合の本人の同意及び本人の利益保護

○公衆衛生の確保等公益上の必要から情報を利用・提供する場合

 〔問題点〕
 公衆衛生の確保等の公益上必要な調査の実施が困難になるおそれ

 〔検討の方向〕
  →目的外利用手続きのルール化を行うことを前提に、公衆衛生の確保等の公益上の必要から行われる調査等については、基本法において適用除外とすることが適当ではないか。
  例)
  ・がん登録事業等の公衆衛生上の調査
  ・レセプト情報に基づく医療費分析等
  ・検診等の情報に基づく地域保健の推進

○統計調査

 〔問題点〕
 客観的なデータの収集等適切な調査の実施が困難になるおそれ

 〔検討の方向〕
  →統計調査については、基本法において適用除外とすることが適当ではないか。

※ 現行個人情報保護法においては、第9条第2項において、@保有機関が法律の定める所掌事務の遂行に必要な限度で処理情報を内部で利用する場合、A専ら統計の作成又は学術研究の目的のために処理情報を提供するときを本原則の適用除外としている。

【参考】EU指令
<目的外の収集利用>
第6条第1項
(b)特定された明示的かつ適法な目的のために収集され、それに続いてこれらの目的と相容れない方法で処理されないこと。ただし、歴史的、統計的又は科学的な目的のために引き続き行われる処理は、構成国が適切な保護措置を定めている場合には、これと相容れないものとはみなされない。
(e)データが収集される、又はそれに続いて処理される目的に照らして必要とされる期間内に限りデータの識別主体が可能な形で保存されること。この際、歴史的、統計的、科学的な利用のために長期間保存される個人データに関して適切な保護措置を定めなければならない。

<特別なデータの収集利用処理の例外>
第8条第1項
  ……健康又は性生活に関するデータの処理は禁止しなければならない。
同条第3項(除外規定)
  ……第1項の規定は、データ処理が予防学的医療、医療診断、看護もしくは、治療の提供、健康管理サービスの運営目的のために必要な場合、並びに国内法又は国の管轄機関が定めた規則により、職業上の守秘義務を負うその他のものによってデータ処理される場合には適用されない。
同条第4項
  ……重要な公共の利益を理由として、国内法又は監督機関に決定により第2項の規定に加えて、適用除外を規定する事ができる。

(3)個人情報の管理等
 ア 個人情報の内容の適正化、最新化(取扱目的に必要な範囲内)
 イ 漏洩防止等の適正管理

 ○医療機関の職員、診療報酬関係事務従事職員

 〔問題点〕
 医療機関の職員等の一部については守秘義務規定が未整備

 〔検討の方向〕
 →個別法を改正し守秘義務規定等を整備することを検討
 例)
  ・保健婦、看護婦、准看護婦
  ・歯科技工士
  ・個人医療情報を扱う事務職員
  ・資格を有さない研究者、その補助者  等

○統計調査

 〔問題点〕
 統計調査で収集された個人情報は調査時点のものであり、これを最新化することは、収集目的等からみて困難である。

 〔検討の方向〕
  →統計調査については基本法において適用除外とすべきではないか。

(4)本人情報の開示等
 ア 個人情報の保有状況の公開
 イ 本人からの開示の求め
 ウ 本人からの訂正の求め
 エ 本人からの自己情報の利用・提供拒否の求め
 (イ、ウ、エ共通)
  原則として応じなければならない。
  期間、費用、方法
  拒否できる場合
  拒否の際のその旨及び理由の提示

○カルテ等の診療に関する個人医療情報

 〔問題点〕
 カルテ等の診療に関する個人医療情報については、がんのように、一律に本人に開示(告知)する事が適当でない場合も存在。
 また、カルテ等に含まれる情報は医師等の専門的知見に基づく情報や医師等の思考過程等多様な情報も含まれており、これらについて本原則を一律に適用することの可否については検討が必要。

 〔検討の方向〕
 →カルテ等に記載された情報のうち、医療従事者の個人情報では なく、患者の個人情報に該当するものを明らかにした上で、当該患者の個人情報について、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがある場合、第三者の利益を害するおそれがある場合等には、開示しないことができる取扱いとすべきではないか。

○配偶者、家族等の第三者から個人情報を収集した場合

 〔問題点〕
 当該第三者の利益を侵害するおそれ(例:精神医療)

 〔検討の方向〕
  →第三者の利益を侵害するおそれがある場合については基本法において情報保有者の判断により求めに対し拒否できる取扱いとすべきではないか。

 ○本人開示を原則とした場合、情報収集等に協力が得られなくなる可能性があるもの

 〔問題点〕
 客観的なデータの収集等が困難になるおそれ

 〔検討の方向〕
  →開示請求を拒否できる場合のルール化を行うことを前提に、基本法において情報保有者の判断により求めに対し拒否できる取扱いとすべきではないか
  例)
  ・がん登録事業       
  ・医薬品等による副作用等の報告等

 ○統計調査

 〔問題点〕
 客観的なデータの収集等が困難になるおそれ

 〔検討の方向〕
 →統計調査については基本法において適用除外とすべきではないか
 なお、統計の真実性の確保の観点から、現行統計関係法では、いったん収集された個票については開示等を認めないものとしている。

【参考】EU指令
第11条第2項
 第1項の規定(データ主体以外の第三者から情報を収集した場合にデータ主体に対して収集者の身元、収集の目的等を情報提供しなければならないと規定)は、特に統計目的、又は歴史的、科学調査の目的の処理のためのものであり、当該情報の提供が不可能であり若しくは過度の困難を伴う場合、又は、記録、開示が法律により、明示的に規定されている場合には、適用されない。構成国は、このような場合に、適切な保護措置を定めなければならない。
第13条第2項
 構成国は、特にデータが特定の個人に関する措置又は決定のために利用されるのではない場合に、十分な法的保護措置に従って、明らかにデータ主体のプライバシーを侵害するおそれがない限りにおいて、立法措置により、第12条に規定された権利(データ主体のアクセス権)を制限する事ができる。これには、データが科学的調査目的のためにのみ処理される場合、又は統計を作成する目的のためにのみ処理される場合、必要な期間を超えないで、個人的な形式で保存されている場合がある。

(5)管理責任及び苦情処理
 ア 管理責任及び責任者の明確化
 イ 苦情処理・相談窓口の設置及びその適正な処理

 〔問題点〕
 個人情報の保護の観点から、各制度における個人情報の管理責任の明確化、苦情処理・相談体制の一層の充実を図る事が必要。

 〔検討の方向〕
  →個人情報を適切に管理できる体制、苦情等への対応体制の整備を図ることを検討

5 「基本的な法制」に関する意見

○ 情報の保護と利活用の調和
 医療情報については、一層の保護を図っていく必要があるが、一方で、医学の進歩、公衆衛生の確保等のためには、個人情報の利活用が不可欠であり、基本的な法制の検討に当たっては、医療情報の取扱いについて、適切な保護という観点とともに適正な利活用の確保という観点から、個人医療情報の有する特殊性に十分配慮することが必要。
 EU指令においても、統計的又は科学的な目的のために行われるデータ処理や治療の提供等のために必要なデータ処理について、一部の原則の適用を除外する等の特別な取扱いがされているところ。

○ 「個人医療情報」の範囲の明確化
 医療分野において取り扱われている個人情報は、多岐にわたっており、今後の検討に当たっては、個別法の整備により一層の保護を図るべき「個人医療情報」の範囲について、明確化を図っていく必要がある。
 また、医療情報については、医療機関や医療保険関係機関のほか、情報保有者として様々な事業主体、個人が想定されるが、これら医療情報を取扱う全ての事業者等について、どこまで厳格な情報の保護を求めることが適当かについても検討する必要がある。