資料1−2
大阪府では、昭和60年に、大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例(以下「条例」という。)を施行し、興信所・探偵社業者(以下「調査業者」という。)が部落差別につながる調査、報告を行うことを禁止している。
平成10年6月に、関西中小企業協会から、条例違反行為についての情報提供を受けた後、府では、本事件は部落差別調査をはじめ就職に係わる重大な人権侵害事件であると認識し、その全容を明らかにすることが今後の人権問題の解決に資するとの観点から、全庁的な体制で事件の事実解明と今後の解決方策について取り組んできた。
条例に基づく当該調査業者の事務所への立入検査、関係者への事実確認、取引先企業に対するヒヤリング調査等を行った結果、府内の調査業者2社が、企業から依頼された採用調査に際して、応募者の住所地が同和地区にあるかないかについて調査し、報告していたことが判明した。
平成10年11月13日に、当該2調査業者に対して、再発防止に向けた研修と社内体制の確立を柱とする条例に基づく指示を行うとともに、うち1社を無届営業で告発した。なお、両社は、企業から依頼を受けて行った採用調査に際し、条例違反の部落差別調査だけでなく、思想、宗教、家族の状況など、採用決定に係る本人の適性・能力に関わりのない事項についても情報収集し、企業に提供していたことも判明した。
また、取引先企業等のなかには、調査業者から一方的に応募者の人権を侵害するおそれのある情報が報告されても、それを拒否する等何らの問題提起も行わず受け取っていたケースなど、十分な人権意識をもっていないところもあった。
府では、本事件の問題点を十分踏まえ、再発防止に向け、行政、調査業者、企業、府民が一体となって、今後の取組を推進していくよう、継続的に徹底した指導・啓発を図っていくこととしている。
| 関係条文 | 具体的な違反内容 | 指示等の内容 |
| 7条1項遵守義務 (調査業者の部落差別調査・報告を禁止) |
平成4年及び5年の採用調査において、Y株式会社が行った条例違反の調査を了知するとともに、「調査ができない」等の同社の符号表現を用いて、調査対象者が同和地区に居住していることを依頼企業に対して報告していた。 | ◎調査業を引続き行うにあたって、次の事項を遵守することを指示する。 @社の業務についての条例遵守 A条例を遵守した社内体制の確立 B研修計画の策定と実施 C帳簿の備付けと適正な運用 @〜Bには3年間の報告義務を課している |
| 6条1項届出義務 (開業に際しては届出が必要) |
「府の区域内において、他人の依頼を受けて、特定の個人について個人に関する事項を調査し、かつ報告する営業」(2条2号)にも関わらず、届出がなされていなかった。 | ◎6条1項違反による告発(15条1号・16条) *届出義務違反の科料の規定を適用 |
| 関係条文 | 具体的な違反内容 | 指示等の内容 |
| 7条1項遵守義務 (調査業者の部落差別調査・報告を禁止) |
平成4年及び5年の採用調査において、特定個人又はその親族の居住地が同和地区にあるかないかについて調査し、X株式会社に対して報告していた。 | ◎調査業を行うにあたっては次の事項を遵守することの再確認を指示する。 @社の業務についての条例遵守 A条例を遵守した社内体制の確立 B研修計画の策定と実施 C帳簿の備付けと適正な運用 |
(1) 府に提供されたY株式会社の内部資料と推測される平成4年及び5年当時の履歴書の写し(以下「本件資料」という。)に記載された、同和地区の調査を行ったと推測される調査メモについて、X株式会社及びY株式会社は、当時において、8名分の居住地が同和地区かどうかについて、調査員が調査していた事実を認めた。
また、X株式会社は、調査対象者が同和地区に居住していた事実を、調査ができない等の同社の符号表現を用いて、依頼企業に対して報告していた。(ただし、当該依頼企業等は、部落差別調査の報告を受けたことは否定している。)
(2) 本件資料のうち、同和地区に居住しているかどうかの記載があった8件の調査を担当したY株式会社の調査員は5名おり、すでに退社した3名を除く者について事実確認をしたところ、同和地区についての調査メモを記載したことを認めた。
なお、特定個人の居住地が同和地区に該当するかどうかの記載は、現地調査の際に感じたこと、あるいは自分の記憶にあった事項を記載したものと主張しており、部落地名総鑑又はこれに類したリストの所持については確認できなかった。
(3) X株式会社は、実質的には「府の区域内において、他人の依頼を受けて、特定の個人について、個人に関する事項を調査し、かつ、報告する」(2条2号)調査業としての営業を行っていたにも関わらず、条例に基づく開業時の届出を行っていなかった。また、取引企業等に対しては、調査業者としてではなく、経営コンサルタント業者と称して営業活動を行っていた。
一方、Y株式会社は、X株式会社と商業登記簿上は別法人となっているが、元来、X株カ式会社の調査部門が独立したもので、独自の顧客をもたず、X株式会社からの受注がキ100%を占めていた。両社の実質的な営業形態は、X株式会社が営業部門として企業等から採用調査等の依頼を受け、調査についてはY株式会社が担当し、その調査結果をX株式会社から企業等に報告するなど、実質的には両社が一体となって調査業を営んでいた。(なお、Y株式会社は調査業の届出は行っていたが、条例の自主規制団体として活動しているo大阪府調査業協会(以下「調査業協会」という。)には加盟していなかった。)
(1) 府では、従来から、各企業に対し、採用にあたって就職差別につながる調査を行わないよう指導してきたが、本件資料には、思想、宗教、民族、家族の状況など、採用決定に係る本人の適性・能力に関わりのない事項についてのメモもあった。これについて確認したところ、Y株式会社及び同社の調査員は調査の事実を認めた。
(2) X株式会社は、前職歴の状況や人柄、能力などのほかに、思想、家族の状況など、本人の適性・能力に関わりのない事項も調査報告対象としていた。ただし、その後、報告書の様式が変更され、「思想」欄は削除されている。
(3) 企業等からX株式会社へ調査を依頼する際には、個別に調査項目を指定せず、「採用調査」「履歴書の確認」とする事例が多かったが、思想、家族状況などの項目を調査依頼していた企業等も一部見受けられた。
また、X株式会社と取引を行っていた府の指定出資法人は、履歴書記載事項の確認調査や前職歴調査を依頼していた。
本事件の事実解明と解決方策等の検討に資するため、X株式会社と取引関係にある企業等(約1400社)からも、情報提供のヒヤリングを依頼し、8割以上の企業から協力を得た。
ヒヤリングのなかでは、企業がX株式会社に部落差別調査を依頼した事実については、確認できなかった。一方、X株式会社から企業への報告に関しては、「住所、家族について詳しくは調査できないので報告は差し控えたい」等の一種の符号表現を用いて、調査対象者が同和地区に居住していることを教示するような報告が、近年においてもあったとの情報が複数企業から提供された。しかし、当該報告が、特定個人が同和地区に居住していることを報告したものであったかどうかについては、詳細な事実関係の情報等が残されておらず、府として確証を得るには至らなかった。
本事件の第一の問題として、部落差別調査が行われていた事実がある。調査業者が部落差別につながる調査・報告を行うことは、条例に違反するばかりでなく、憲法が保障する基本的人権の重要な侵害につながる行為であり、こうしたことが、今なお行われていたことを深刻かつ重大に受けとめる必要がある。
同和地区出身者は、その出身だけの理由で、一生を左右する就職を断られたり、結婚に反対されるなど、基本的人権を侵害されるさまざまな差別を受けてきたが、憲法第14条は、「すべて国民は法の下に平等であって人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」としている。
特に、職業選択の自由や就職の機会均等を完全に保障することが同和問題解決の中心的課題であることは、同和対策審議会答申でも指摘されており、府では、同和問題の早期解決を府政の重大課題の一つとして位置づけ、国や市町村とも連携し、総合的な施策を計画的に推進し、府民、調査業者に対して条例啓発に努めてきたが、このような事件が発生したことは、結果として、これまでの啓発が十分浸透していなかったと言わざる得ず、条例啓発の一層の強化が必要と考える。
個人の人生において、就職は、各自の生活基盤を安定させ、自己実現を図り、豊かで文化的な生活を営む重要なスタート地点であり、職業選択の自由、就職の機会均等はすべての人に保障されなければならないものである。このため、府では、企業に対して、応募者の適正・能力に応じた公正な採用選考を指導し、特に6月の就職差別撤廃月間には、重点的な企業啓発を行っている。
しかし、今回の事件では、採用調査において、応募者や家族の思想、宗教、民族などの情報も収集されていたことが判明した。採用調査に関しては、応募者本人の能力・適性に関わる事項に関する調査であって、当該人の権利利益の不当な侵害につながるものでない場合にまで許されないものではないが、企業が、採用にあたって、基本的人権の侵害につながるような調査を行うことは許されないのは明白である。
また、大阪府個人情報保護条例では、府内の事業者に対して、思想、信条等の個人情報や、民族等の社会的差別の原因となるおそれのある情報については、慎重な取扱いを求めているが、今回の事件においては、企業等が応募者の個人情報を収集する範囲や取扱方法などについて、個人情報保護の趣旨が十分尊重されていない例も見受けられた。
したがって、今後、企業に対し、部落差別調査の根絶とともに、公正採用選考を推進し就職に係る人権侵害事象をなくすとともに、個人情報についても適正な取扱いがなされるよう、さらに強く要請し、理解を求めていく必要がある。
当該調査業者の取引先企業等のなかには、自らが調査を依頼していない項目にも関わらず、調査業者から一方的に、採用応募者の人権を侵害するおそれのある情報が報告されていた場合であっても、それを拒否する等何らの問題提起も行わず、漫然と受け取っていたケースなど、十分な人権意識を持っていなかったところもあった。
今回の部落差別調査事件は、条例施行後2件目の事件となる。こうした不当に人権を侵害する調査が、今なお行われていたという現実を厳しく受け止め、企業や府民の人権意識の向上が図られるよう、人権啓発の取り組みを息長く継続的に進めていくことが必要である。
このため、1995年から始まった人権という普遍的文化を社会のすみずみにまで確立しようとする「人権教育のための国連10年」の取組のなかで、府の指定出資法人や民間の諸団体などに対して、各団体における推進組織の設置や行動計画等の策定など、推進体制が早急に確立されるよう、働きかけを行うとともに、今回の事件を今後の人権教育や啓発の生きた教材として活用し、一層の人権啓発と人権教育の取組がなされるよう指導・要請していくことが必要である。
なお、以上のように、企業の人権意識の向上に向けた人権啓発の一層の推進を図るとともに、採用における部落差別事象の発生防止のため、法規制や企業と調査業者で行われている調査システムのあり方などについて、今後、検討していく必要がある。
(1) 当該2調査業者に対しては、平成10年11月13日に、条例に基づき再発防止のための指示等の措置を行い、厳しく指導してきている。なお、2社のうち、1社は調査業を廃業し、残り1社は業務変更し、現在は個人調査を行っていないが、今後も、継続的に適切な指導を行っていく。
(2) また、府内で営業する調査業者は、条例で知事への届出が義務づけられているが、届出を行っているすべての調査業者に対しては、府と調査業協会が共催する研修会等の機会を活用するなど、今後とも引き続き、条例の一層の周知徹底を図っていく。
(3) 調査業協会に対しては、条例の自主規制団体としての機能を一層発揮できるよう、その会員拡大について尽力を要請するとともに、業の社会的信頼の保持と適正化を図るためにカ同協会が策定した「調査業者のガイドライン」の業界への普及啓発について支援するキなど、協会との連携を一層深め、調査業者の人権意識のより一層の向上を図っていく。
企業に対しては、庁内関係部局や各業界団体と連携し、人権意識の向上が図られるよう継続的に指導を図っていく。
(1) 履歴書の写しの提供があった10社
この10社から調査業者に渡された履歴書については、部落差別調査をはじめ、支持政党、講読機関紙、宗教、民族など公正な採用選考の観点から問題となる情報の収集が確認されている。したがって、10社の調査業者に対する具体的な依頼内容や取引状況、調査業者からの報告内容、応募者の採否の状況などについて、詳細な事実確認を続けてきたとカころである。なお、報告書の現物がすでにないこと、担当者等も代わっていることもキあり、引き続き、詳細な事実解明に努めているが、事実確認と併せて、公正採用選考人権啓発推進員制度の徹底をはじめ、当該企業において人権尊重に配慮した社内体制の整備が確立されるよう、指導・助言を継続していく。
(2) 当該調査業者と取引関係にあった企業
当該調査業者と取引関係にあった企業については、採用調査を依頼していた企業と、適性検査、信用調査など採用調査以外の調査を依頼しているだけで採用調査自体は依頼していない企業とがあった。このため、採用調査を依頼していた府内の企業で、思想、信条、家族の状況等の公正採用選考の観点から問題となる情報について調査を依頼していたり、こうした内容の報告がなされた場合に問題意識なく受け取っていた企業を中心に、労働部と連携し、企業訪問等により、公正な採用選考推進のため、必要な啓発を行ってきているが、引き続き、公正採用選考人権啓発推進員制度の徹底等、今後の社内体制の確立等について指導・助言を実施していく。
(3) 府指定出資法人・府関係団体
府指定出資法人・府関係団体については、本事件の重みを十分踏まえ、国連10年の取組を強化するため、「人権教育のための国連10年大阪府行動計画実施プログラムに基づく大阪府指定出資法人・関係団体等指導指針(ガイドライン)」を平成10年9月に策定し、この「ガイドライン」に基づき、指導を続けてきている。
(4) その他の企業
本事件を受けて、平成11年6月28日に、府内業界団体に対して、大阪府知事名で、公正採用選考の確立の要請文を送付したところであるが、今後も引き続き、各種業界団体等を通じて、本事件を教訓にした人権啓発の取組の推進を図っていく。
府民に対しては、条例の周知度を高めるために、10月の条例啓発推進月間をはじめ、あらゆる機会を活用し、府民に対して、啓発を行ってきた。また、その際には、できるだけ多くの府民に認識されるよう、ポスターの車内吊り、電光掲示板など、各種広報媒体を積極的に活用している。今後も、引き続き、府民に対する条例啓発の一層の徹底に努めていく。
本事件では、当該調査業者の取引先企業や調査対象者は、大阪府域だけでなく全国にわたっており、府では、これらすべての取引先企業に対して、ヒヤリング調査等を依頼し、事実解明を行ってきたが、このように対象範囲が広域的な事件については、条例による規制では、一定の限界があることも否定できないところである。
府では、本事件を教訓にして、今後の再発防止を徹底するためには、企業の雇用行為における差別的取扱い等を法的に規制していくことが有効と考えており、国に対して、労働カ関係法の整備や雇用及び職業についての差別的待遇を受けない権利を保障したILOキ111号条約の早期批准の働きかけを続けていく。
本事件を踏まえて、部落差別調査を根絶するため、大阪法務局、府内市町村と一層連携を深め、府民等への条例啓発を引き続き進めて行く。