高度情報通信社会推進本部

資料5

意  見  書

2000年2月29日

高度情報社会推進本部
個人情報保護法制化専門委員会
  委員長 園 部 逸 夫 様

教育情報の開示を求める市民の会
代表世話人 山 口 明 子
  寝屋川市三井が丘1丁目5-10-305
  TEL  072-832-4540

 先に個人情報保護検討部会への意見書で申しあげたところと重複する部分もありますが、個人情報保護法制化について、若干の点に絞って意見を述べます。

T. 個人情報保護法は、現在、検討部会としては民間部門を含めた基本法制定の方針で進まれていると承知しておりますが、私たちは、まず公的部門の所有する個人情報を対象とする基本法を制定し、次いで対象を民間部門にも拡げるべきであると考えます。
 その理由は以下の通りです。

1.情報公開法と同様、まず国の国民に対する責務を明確に規定すべきです。

 個人情報保護法は情報公開法とは表裏の関係にあります。昨年成立した情報公開法制定の過程で、私たちは度々、この法律に自己情報開示請求権が盛り込まれることを求めました。それに対して行革委・行政情報公開部会は「情報公開法要綱案の考え方」において、「その趣旨は理解できる」としながらも、「本人開示の問題は個人情報保護制度の中で解決すべき問題である」として「国民からは医療、教育関係情報を中心として本人開示を求める意見・要望が強いことを踏まえ、関係省庁において個人の権利利益の保護を図る観点から、本人開示の問題について早急に専門的な検討を進め、その解決を図る必要があると考える」と述べられました(「行政情報部会報告」51〜52頁)。
 このような経緯からしても、情報公開法がまず国の行政機関の保有する情報の公開について規定し、現在、次第に特殊法人等に対象範囲を拡げるための検討が始まっている現状から見ても、公的機関の保有する個人情報を対象とする法律が先に制定されるべきであると考えます。

2.改正住民基本台帳法施行の条件整備のためであれば、なおさら、公的機関の規制を先行させるべきです。

 現在、個人情報保護法制定が俄に日程に上がったのは、情報公開法制定の過程で判明した上記の問題を解決するためというよりは、昨夏強行された住民基本台帳改正の過程において、プライバシーの侵害を危惧する反対意見に対して「個人情報保護に万全を期すために速やかに措置を講ずる」との付則を設けたためであり、このように急ピッチで法制化が進められているのも、2002乃至3年の改正住民基本台帳法施行に間に合わせるためであろうと推察します(報道によれば、来年の通常国会に上程されるとのことです)。しかし、改正住民基本台帳法によって個人情報を収集するのは国と自治体であり、これへの対策として制定されるのであれば、当然、公的部門の所有する個人情報を対象とする法律の制定を急ぐべきです。これまでの経緯を見れば、公的部門の所有する個人情報を対象とする個人情報保護法制定が先行するべきであるのに、検討部会設置以後、民間機関を含むオムニバス法制定に方向転換されたのは納得できません。

3.国と国民との関係に比して、国民との関係が一様ではない民間部門をも規制の対象とすれば、その規制は曖昧で緩やかなものにならざるを得ないのではないかと思います。

 国は国民に対してその個人情報を保護すべき責任があります。さらに、すでに多くの自治体で行政機関の保有する個人を対象とする個人情報保護条例が制定されており、情報公開法の場合と同様に、国は自治体の制度を参考に、個人情報保護法を策定することは比較的容易であろうと考えます。しかし、今般俄に民間機関の保有する個人情報をも対象とする個人情報保護法を制定しようとすれば、民間機関と個人との関係は必ずしも一様ではなく、また明確でありません。個人情報保護検討部会の堀部座長自ら、「マスメディアは、包括的な個人情報保護法となると、自らも規制の対象となることがあり得ることを認識していないように思えてならない」(1999.6.19. 朝日新聞「論壇」)と述べておられますように、民間部門をも包括するとなると、利害関係が錯綜して明確な一定の方向性を出しにくく、いわゆる玉虫色の規定となり、結果として有効な個人情報保護を果たし得ないのではないかと危惧されます。実際、新聞・放送関係の団体は、個人情報保護について規制をしないように意見書を出していることが報じられています。マスコミは自分にかかってくるかもしれない「規制」への対応に注意を奪われ、公的機関の保有する個人情報のあり方への追及が鈍っているようです。マスコミのスタンスは情報公開法制定時とは明らかに変わりました。
 他方、市民の感覚からすれば、個人情報を保有している民間部門というのは、多くの場合、行政機関と同様、明らかに「個人情報を収集する側」です。ところが、公的機関ではないとして、同様に「個人情報を収集する側」でありながら、民間部門にはより緩やかな規定が適用されることになれば、法が目指すべき個人情報保護が充分に果たされるか否かについて不安を感しざるを得ません。

4.個人情報を実際により多く収集し、しかも実態が不明なのは公的機関です。

 実際に個人情報を多く収集し、保有しているのは公的機関です。しかもその収集・保有について、承諾を求められた記憶もないというのが市民の実感です。民間の保有する個人情報の不適切な流出・流用はしばしば話題に上がり耳目を集めるために、公・民ともに規制すべきという論は一見当を得たものに見えますが、それは、実際には遙に多く流用・濫用されている公的機関の保有する個人情報から目を逸らせるための論ではないかとさえ疑われます。公的機関の流用・濫用はそのときには市民の目には見えず、その流用の結果が民間に及んで初めて市民が知ることになる場合が多いのです。例えば昨夏の宇治市の個人情報漏洩事件でも、私たちがそのことを知ったのは、市が収集した情報が民間に流れて来たからですが、収集・管理の責任は宇治市長にありました。

5.ヨーロッパとはかなり異なる日本の民間企業を急いで同じテーブルに着かせようとすれば、その言い分を聞かざるを得ないでしょう。

 もちろん、私たちも民間部門について全く規制をしなくて良いと言っているわけではありません。ただ、最初は公的部門を対象としてきちんとした基本法を策定する方がよいということです。現在の日本の企業の実態を見ますと、残念ながらオムニバス法を採用しているとされるヨーロッパ諸国における企業とは姿勢が異なり、むしろ利益第一主義に立っているという印象を受けます。このような企業を説得し、同じテーブルに着かせるにはかなりの時間を要すると思われますが、改正住民基本台帳法の施行までに個人情報保護法を制定しようとすれば、民間部門の主張を大幅に取り入れた、極めて規制の弱い曖昧なものになりかねません。この点からも、現在急いで民間部門を含む法律を策定することは結局個人情報保護の実を挙げえないのではないかと危惧されます。
 この危惧は決して思い過ごしではありません。先日の新聞(2000.1.27.朝日新聞秋田版資料h)に秋田県が制定を目指している個人情報保護条例に関し、有識者懇談会が「民間が保有する個人情報を保護するために行政が規制を加えないことを条例中に明記するよう」県に要望したという記事がありました。個人情報保護法に関してもこういう現象が起きないと言えるでしょうか。

6.国が民間部門を含めた緩やかな基本法を定めれば、地方自治体のこれまでの個人情報保護の姿勢が後退する惧れがあります。

 現在、1400余りの自治体でいわゆる電算機条例が、そのうち300近くの自治体にはマニュアル情報を含個人情報保護条例が制定され、運用されています。地方自治体では3治体と市民との努力によって個人情報保護制度が築き上げられてきました。国の個人情報保護法はこれらすでに実施されている個人情報保護条例を参考に制定され、さらに法の制定によって自治体における個人情報保護も歩を進めることが期待されます。個人情報保護法の制定が自治体の制度の後退をもたらすものであってはなりません。
 しかし、現在意図されている民間部門をも含む個人情報保護法は、現在の個人情報保護条例よりは後退した内容にならざるを得ないと懸念され、さらにこれが個人情報保護条例の改悪に繋がるのではないかと惧れます。
 もし公的機関を対象とする基本法がつくられ、その制度に国民が親しむなら、個人情報保護についての一定の国民的理解が形作られるでしょう。そのあとにつくられる民間部門を対象とする保護法も、国民の個人情報保護に関する常識に反することは許されないはずです。その方が、少し時間がかかっても、真に個人情報保護を可能にする制度が整備されるのではないかと考えます。拙速は慎むべきです。

 以上に述べたような理由により、私たちは、個人情報保護法はまず公的部門の保有する個人情報を対象に制定され、次いで民間部門に広げるべきであると考えます。
 また、それでも、改正住民基本台帳法施行の要件は満たされるはずです。

U. 新たに制定される個人情報保護法は、現在の法の不備を改め、次の内容を必ず盛り込んでください。

  1. 法の目的は、憲法第13条が保障する基本的人権の一部としてのプライバシーの権利(自己情報コントロールの権利)を保護するものであることを明確にすること。
  2. 個人情報保護の対象にはマニュアル情報を含むこと
  3. 公的機関(個人情報を収集する者)の義務として以下のことを定めること
  4. 個人(自己情報を収集される者)の権利として以下のことを保障すること
    自己情報の開示・訂正・削除・利用中止については、明確に法律上の権利として規定すること
    自己情報開示については、原則として適用除外を設けないこと。特に医療・教育情報についての現行個人情報保護法の規定は基本的人権を著しく侵害するものであり、このような規定は絶対に設けないこと
  5. 請求拒否に対しては行政不服審査法の手続きに従って不服申立てを認めること
    第三者機関として個人情報保護審査会を設け、処分の適否についての諮問を義務づけること
  6. 悪質な不適正処理を行った者に対しては厳罰を以て臨むこと

 「中間報告」には、罰則規定に消極的な姿勢も見受けられます。実際の運用の困難を考え、規定の空文化を避けるためかと存じますが、個人情報を収集される側からしますと、一旦個人情報が誤って収集されあるいは流用・漏洩されて生じた被害は、ほとんど回復を望むべくもありません。従って犯罪予防のためにも厳罰規定は必要です。
 現在の条例の運用を見ますと、収集・管理・使用についての規定は、実際に守られているかどうかを市民が知る機会はありません。それを知るのは、上述のように民間に流出した場合ですが、その他に、たまたま開示請求をして、という場合が多いのです。
 例えば、最近では、西宮市民が調査書・指導要録の開示請求をしていた裁判で、大阪高裁は全面開示の判決を下しました(1999.11.25. 資料A)。判決を受けた請求者らが開示を求めたところ、西宮市教委は調査書・指導要録の原本の大半を廃棄しており、しかもそれは法令に違反した行為であることがわかりました(資料B)。市教委は1991年の学校教育法施行規則の改正時にその内容を誤って解釈し、誤った通知を1992年に各学校に出していました。しかし市教委はその解釈が正しいと思い込み、誤りを指摘する人も全くなかったため、現在4万人以上の指導要録が違法に廃棄されてしまいました。このような事態が発覚したのは、指導要録を開示請求する人があり、その請求に対応するなかで初めて明らかになったことです。またこれを契機に新聞社が調査した結果、同様なことは神戸市でも昨年起こっていたことが今回判明しました(資料C)。
 また高槻市では、保護者が子どもの小学校指導要録を開示請求して見てみたところ、4年時の評定はそのとき記載されたものではなく、後で3年時と5年時の評定を平均して記載されたものであることが判明しました。そこで削除請求が出され、個人情報保護審査会はこの請求を認めるべきだと答申し(資料D)、市教委はこの答申に従い、他の児童の分も訂正されることになりました。これもそもそも違法な記載でありましたが、そのような記載があったこと自体、指導要録の開示請求がなければわからないことでした。
 開示請求は自分に関する情報を知りたいという目的からですが、そのことによって、実施機関の違法な処理が判明し、改善される場合は少なくありません。実施機関は教育情報の開示を拒む理由に「知らせると本人の自尊心を傷つけ向上心を阻害し、学校・教師との「信頼関係」を損なう」「教師がこのことをおそれてありのままを記載しなくなり、指導要録・調査書の記載が形骸化・空洞化して指導要録・調査書の機能を果たさなくなる」と繰り返してきました。しかし開示によってこのような支障が生じたとの報告はまだありません。反対に、開示によって明るみに出たのは実施機関の不適法な処理の事例でした。つまり評価の内容に関してトラブルが生じるよりも、条例自身が検証の手段を持たない収集・管理・利用の適切さを事実上検証する役割をも果たしているのが自己情報の開示です。
 このような現実のなかで、国の個人情報保護法がまたしても教育情報の開示を拒むことになれば、地方自治体への悪影響が懸念されます。多くの自治体の多くの住民の努力で広げられてきた医療・教育情報の本人開示が、一片の法律によって再び閉ざされることのないよう、強く求めます。

V. 基本法を民間部門を含むオムニバス法でという方針が変更できないなら、基本法には 上述の基本的な条件を必らず盛り込んでください。
 また、いくつかの分野において個別法を制定するとすれば、個別法は基本法の下位法 として、基本法の規定を遵守すべきことを明記してください。

 行政情報公開部会の「要綱案の考え方」には、「本人開示は、個人の権利利益の保護のための制度の一つと考えられ、行政部門と民間部門を通ずる問題として、その保有機関による収集の制限、適正な管理保護等の保護の仕組みの中で検討されなければ十分な解決を得ることができないものである。」とあります(「行政情報公開部会報告」51頁)。
 私たちはこの考え方に全く賛成です。最終的には民間部門をも含めた個人情報保護制度が整備されなければなりません。だから私たちは、情報公開法が成立すれば、個人情報保護制度整備の準備が始まることを期待していました。ところがその準備は、あまりにも思いがけない、改正住民基本台帳法施行のための単なる条件整備のような形で始まり、しかも、その目的は、「個人の権利利益保護」だけではなく、「個人情報の有効な活用」との調和が前提とされています。これでは、「要綱案の考え方」で述べられているような実効ある個人情報保護制度が整備されるとは考えられません。
 民間部門を抱え込み、最終報告は4月という限られた時間の中で、まるで促成栽培されるような個人情報保護法がその名にふさわしいものであり得るのか、私たちは大きな疑念を抱かざるを得ません。

 私たちのこの疑念が単なる誤解であり、個人情報保護法がその名にふさわしい個人情報保護・基本的人権擁護の実を挙げうる法律として誕生することを期待しております。
 そのためにも、以上の私たちの考えを法制化に生かしていただくよう強くお願いいたします。

以 上