資料3
| 平成12年3月7日 社団法人日本雑誌協会 編集委員会・取材委員会・編集倫理委員会 「個人情報保護」プロジェクトチーム |
個人情報保護に関する法制化について、当協会は、昨年10月6日付けの「意見書」および本年1月20日にパブリックコメントとして提出した内容と考え方の変更はありません。今回の法制化専門委員会ヒアリングは、これまでの意見に沿って補足します。
個人情報保護の経緯や、個人情報保護検討部会の「中間報告」から想定しますと、雑誌報道機関に対する公的規制の介入と警戒せざるを得ません。メディアに対する新たな報道規制と受け止めております。
中間報告にあるように基本法に盛り込むべき基本原則(個人情報の収集、個人情報の利用、個人情報の管理、本人情報の開示、管理責任及び苦情処理の5原則)をメディア・報道機関に等しく適用することが果たして妥当なのか、大いに疑問であります。
<1> 雑誌協会の加盟社は、現在86社で、全体の発行雑誌数は1000誌にのぼり、その内容も総合週刊誌、月刊誌、経済誌、文芸誌、児童誌、少年誌、教育誌、学年誌、スポーツ誌、女性誌、娯楽・趣味・教養誌、健康誌などジャンルは多岐にわたり、さまざまな発行形態を持っております。それぞれの出版社、それぞれの雑誌編集において自由闊達なところが言論機関の原点であり、それだけに、出版社の自律と責任が課せられております。
当協会は、雑誌編集倫理綱領を制定しています。編集・取材は、あくまでも各社各誌の方針と判断が基本となりますが、倫理綱領を尊重しながら言論・表現の自由を擁護し、雑誌の使命を果たし、社会の発展に貢献するものであります。
雑誌メディアは、日常的な取材過程の中で、多くの個人情報を収集・保有し、誌面づくりに反映させながら多くの読者の共感を得ています。中間報告で挙げられているように、もし基本5原則をメディアに求めるのなら、表現の自由、言論・報道の自由に重大な支障を与えることになり、到底容認できるものではありません。つまり、情報の収集、予備取材、編集作業、流通、小売りなどの販売に至るまで規制が及び、健全な報道が出来なくなることは明らかに予想されます。当然、国民の知る権利に応えることにならず、社会の利益に支障がでてくるでしょう。特にメディアの情報は本質的にあらゆる権力の監視という役割があり、公共性、公益性と密接な関係を保持しているからです。従って5原則の適用は、問題外と言わざるを得ません。
<2> 具体的な例を挙げます。
@取材をする際、本人の同意が前提となり、逐次本人に確認を求めることになると、人物の紹介、インタビューなどに制約が起きる。
A事件、事故などについて、マスコミは第三者を含めて周辺取材を行うが、個人情報保護法が制定された場合、それぞれの個人から同意を得なければ記事を書くことができない。
B個人のアクセス権が発生し、異議があれば出版社は訂正しなければならない。
C写真取材は大きな支障になる。街頭撮影や野球場、競馬場などの撮影で明らかに個人と判断できる写真は、複数の了解を得なければならない。あるいは、写真にボカシや目線を入れて掲載する必要がでてくる。
Dいかなる場面においても実名は基本的に本人の了解が必要となる。
E大学の合格者名簿、国家試験、叙勲名簿、人事異動などについてもこれまでと同様な取材ができなくなる。
以上のような点は昨年、内閣内政審議室からご指摘された内容です。こうしたことが基本法に盛り込まれるようなことになれば、取材の原則が大きく崩れることにほかなりません。
ここで最も大切なことは、雑誌の記事作成にあたって、例えばその対象になった個人Aの周辺取材、顔写真・履歴などの確認取材、その他裏付け取材などを行う場合、対象個人Aの了解なしには不可能となると、結局ジャーナリズムは成り立たなくなります。さらに政治家、高級官僚、財界人、大学の学長、その他公職につく人物について、いわゆる公人のプライバシーに関わる点が取材対象になるケースが多々あります。その場合、これも個人情報保護の対象になれば記事作成は事実上不可能となり、報道の社会的使命を果たせない典型例になります。
以上、述べたことが法制化を進める過程の中で検討されることになれば、メディア・報道機関の性格上、極めて非現実的であると言わざるを得ません。勿論、報道に携わる立場から、取材源・情報源の秘匿、さらには、人権について十分に尊重しなければなりませんし、各社とも個人情報の取り扱いについては慎重な対応をとっております。こうした取材活動と本来の個人情報保護とは問題が別ではないでしょうか。
<3> 中間報告作成に至るまでの検討部会では、ネットワーク化された社会において個人情報の氾濫が社会問題としてさまざまな形で広がり、プライバシー侵害の問題になっていることを指摘しております。情報が高値で売買されたり、漏洩事件が頻発したり、特に保護の必要な分野は信用情報、医療情報、電気通信情報関係が挙げられています。個人情報保護論議の発端は住民基本台帳法改正にありました。こうした経緯や法制化の趣旨、目的が何故、マスメディアにまで及ぶのか、理解できかねます。
中間報告で提言されているように21世紀に向けたネットワーク社会に必要となる個人情報の保護、個人の尊厳を保障するための趣旨には賛同できます。しかし、前にも述べましたように出版・報道という社会的な性格(公益性、公共性)を考えますと、こうしたデジタル・ネットワーク社会での個人情報保護とは、根本的に馴染まないと考えております。
<4> 雑誌界における個人情報は、読者情報(アンケート調査、愛読者カードなど)、販売・顧客情報などがあります。こうした情報は、各出版社で管理していますが、その処理についても各社で対応し、一定期間、責任をもって保管し断裁廃棄する、あるいは専門処理業者に委託しているのが現状です。読者応募ハガキに関しても膨大な数に達し、データ整理から処理まで課題を抱えています。中間報告の提言を受け、当協会は今後、特別委員会を設置する方向で検討し、何らかのガイドラインを設けて啓蒙を図っていきたいと考えております。
以上