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資料6

高度情報通信社会推進本部

個人情報保護法制化専門委員会ヒアリング資料

平成12年3月9日
日本民間放送連盟

はじめに

 インターネットに代表される電脳社会の発展を背景に、個人情報保護の必要性が緊急の課題であることは理解する。ただし、民放連は「個人情報保護制度が、報道、表現の自由を制約するなら、我々は一切受け入れるわけにはいかない」ことを昨年10月6日の個人情報保護検討部会ヒアリングで表明するとともに、本年1月20日の意見書で「取材・報道活動は本来的に個人情報保護の対象外とすべきだ」と主張した。

 また、1月20日の「中間報告に対する意見書」では、次の3つの問題点を指摘した。

 一つは、「基本原則」を基本法に盛り込むことは、取材・報道の自由を侵す恐れが強い点である。例えば、最近相次ぐ「警察の不祥事」の取材は、収集目的の明確化、本人確認、本人以外(第三者)からの収集制限、本人情報の開示原則などが機械的に適用されれば、事実の正確な取材や裏付け、確認作業などの取材・報道活動全体が成立しなくなることを示している。また本人確認の原則では、放送内容への不当な侵害や取材源の秘匿が侵される恐れがある。

 二つ目は、「適用除外」についてである。報道機関の範囲を政府や公的機関が一方的に認定すれば報道・表現の自由を著しく損なうことになる点である。

 三つ目は「複層的な救済システム」についてである。「司法判断」とは別に「判決」を下す公的な救済システムが作られ、その判断が報道機関に強いられるなら取材・報道の自由への重大な侵害を招く恐れがある。

取材・報道活動を個人情報保護法制化の対象外とすべき理由

@報道において取り扱う個人情報は、基本的にすべて報道目的で収集され、その目的でのみ使用される。犯罪報道をはじめとした公表される個人情報は公共の関心事に属し、公益性を有していることが大前提になっており、放送内容に個人情報が含まれているからといって、即、保護法の対象とすることは筋違いであることは明らかである。

A報道目的で収集蓄積された個人情報は、放送で明らかにする以外、決して外部に出さないのが鉄則となっている。スクープ情報だけでなく、あらゆる情報の原則であり、これが我々の生命線である「取材源の秘匿」ということである。

B個人の権利と報道の自由は明らかに両立する。上記のように厳格な取り扱いをしているのは、情報提供者を含む国民の信頼を損なわず、国民の知る権利を代行する任務をいかなる権力、勢力からの干渉を受けずに遂行する為である。その為には捜査機関の要請でも映像や取材メモの提出、あるいは取材源に関する証言を拒否し続けるのが報道マンの基本倫理なのはご承知の通りである。

 このように報道目的で取材、蓄積した情報の取り扱いは禁欲的なまでに厳格なものであり、この点からも個人情報保護の対象外であることは明らかである。また、報道機関が蓄積した情報が法に基づく管理の対象となること自体、報道への介入を許す危険性は極めて高く、憲法の理念からも到底受け入れるわけにはいかない。

個人情報保護法制化が取材・報道の自由を侵害する具体例

<実例@>『都立広尾病院の消毒液注入死事件』
 この事件は都立広尾病院で去年2月、入院患者が誤って消毒液を点滴され死亡したもの。死亡原因を、病死及び自然死とした虚偽有印公文書作成を行うなど、病院ぐるみの証拠隠蔽を行っていた。東京都の病院事業部も隠蔽に荷担していた。公立病院の治療ミス、および病院、東京都がからむ隠蔽工作事件である。
 この事件はスクープであるが、「個人情報保護のために確立すべき原則」が適用されるとどうなるか、を検証したい。

(1)個人情報の収集

@収集目的の明確化
 投書や垂れ込みではなく、通常の取材の過程でキャッチしたものである。その際はこの問題を聞き出そう、確認しようとの明確な目的があったわけではない。

A収集目的の本人による確認
 この事件は治療に関わっていた医師、看護婦ばかりでなく病院長、副病院長、事務長らも加わり病院ぐるみで隠蔽工作を行っていたものである。本人に確認することは、証拠隠滅に荷担することにもつながりかねず、この点にもっとも苦労した。病院に悟られないようにしながら事実関係の確認をとった経緯については、取材源の秘匿に関わるので明らかにできない。

B適法かつ公正な手段による収集
 日頃からの地道な取材、夜回り等信頼関係から得た情報であり、不正な手段によるものではない。

C本人以外からの収集制限
 事件に関わった本人が隠蔽工作に躍起になっている以上、周辺を固めていくのは当然のこと。それをせずにいい加減な報道をしたら、それこそ問題である。この報道の高い評価は周辺取材が十分為された為だが、どこの誰を取材したかも取材源の秘匿にあたるので明らかに出来ない。

(2)個人情報の利用等
 事件取材の過程で明らかになった広尾病院の実態については、ニュース報道以外では一切使用していない。

(3)個人情報の管理等
 報道目的の情報については、厳正に管理している。

(4)本人情報の開示等
 開示請求はなかったが、具体的な事例に応じて判断する。報道内容への不当な介入につながるような要求には、一切応じないのは当然のことである。

<実例A>『不明女性発見にともなう県警の虚偽発表』

(1)警察が収集制限
 最初の発表は「病院で男が暴れているとの病院からの電話を受け、柏崎警察署員がかけつけ女性を保護しました」というものであった。これが午後9時30分過ぎに集まった50人もの報道陣を前にした県警捜査一課長の公式会見だった。
 実は第一発見者は保健所職員であり、保健所からの一報を受けた柏崎警察署員は「身元確認はそちらで」と出動要請を断っていたことがのちに明るみに出る。ウソ発覚後、刑事部長は「第一発見者に報道陣が殺到し、迷惑がかからないように」と言い訳した。

(2)本人以外からの収集
 その後、不明女性発見当夜の県警本部長の行状が明るみに出た。監察に訪れていた関東管区警察局長と県内の温泉ホテルで図書券麻雀接待を行っていたという。ホテルでは、県警本部長らは浴衣に着替えていたという。ビールを20本以上あけ、銚子も並んだという。これらは個人情報である。
 もちろん収集目的は報道のためである。本来、女性発見事件に絡む取材から県警の不祥事事件まで発展した。当事者(県警も含む)以外の「第三者からの個人情報収集」がなければ、この事実は分からなかった。

(3)目的外の利用
 きっかけは、県警がなんとしても食い止めようとした保健所職員への取材からである。当初は不明女性発見事件、それが県警の不手際、不手際隠し、虚偽発表、責任逃れなどに発展した。これも個人情報の収集・利用ができなければ解明できなかった事件である。

結 論

「 報道機関は、個人情報保護制度が取材・報道の自由、表現の自由を侵害してはならないと主張した。それは報道機関として当然の主張である」、「個人情報保護の思想は、表現の自由を制約とすることを目的とするものではない」−個人情報保護検討部会の堀部政男座長(中央大学教授)は「ジュリスト」99年12月1日号でこのように述べ、さらに表現の自由を確保しつつ、個人情報・プライバシーも保護し、両者のバランスをどうとるかの観点からの議論の必要性を強調された。妥当な考えと思う。しかし、堀部座長のこうした見識が「中間報告」の中に十分に反映されたとは言い難い。「中間報告」では冒頭、個人情報保護の必然性についてマスメディアの発達を挙げた。にもかかわらず、本文では「適用除外」の項でひとこと触れたにすぎない。保護すべき個人情報の範囲も不明確だし、プライバシーの概念についてもあいまいな概念を示すにとどまっている。

 ヒアリングにおける民放連、NHK、新聞協会、雑誌協会の主張は「中間報告」とりまとめの論議にどのように反映されたのか。あるいは本日のヒアリングにおける我々の主張の取り扱いはどうなるのか。

 今後の論議でも報道の自由について十分かつ、我々マスコミの側が納得できる結論が導きだされるだけの議論が行われるのであろうか。検討の日程についても急ぎすぎの感は免れない。

 さきの意見表明でも明らかにした通り、個人情報の保護と報道の自由は衝突するものではなく、国民の大切な価値観として共に尊重され、守らなければならないと考える。報道機関としての「個人情報保護」は自主的な対応に委ねるべきだと考える。たとえば、個人情報保護の一部である人権・プライバシー保護について問題が生じた場合は、平成9年5月にNHKと共同で設置したBRC(放送と人権等権利に関する委員会)が機能していることを付言しておきたい。子々孫々までの禍根を残さない為にも、「報道の自由」の制約につながらない形で「個人情報法制化」への議論を進めていただきたい。

以上