社会保障改革大綱

平成十三年三月三十日
政府・与党社会保障改革協議会

一 社会保障改革に当たって(はじめに)

○ 社会保障は、国民が一人一人の能力を十分に発揮し、自立して尊厳を持って生きることができるよう支援するセーフティネットである。国民の相互扶助と社会連帯の考え方に支えられたものとして、国民の「安心」と社会経済の「安定」に欠かせないものである。こうした社会保障について、世界に誇るべき長寿国家である我が国にふさわしい持続可能な制度を再構築することこそが、現在の我々の責務である。

○ 現在、我が国においては、二〇二五年には現役世代二人に対し高齢者が一人となる社会になると見込まれるなど、高齢化とともに少子化が急速に進みつつある。さらに、今後の人口構成や子どもの健やかな成長を考え、少子化に的確かつ迅速に対応していく必要があること、健康で豊かな高齢者の増加など国民の生活実態が変化していること、パートタイマーの増加など就労形態が変化してきていることなど、社会保障をとりまく経済社会構造は、大きく変化しており、これらに対応した社会保障の仕組みを構築していくことが喫緊の課題となっている。

○ とりわけ、近年、経済の伸びを大きく上回って社会保障の給付と負担が増大することが見込まれ、また、国・地方の財政は極めて厳しい状況に陥っており、経済・財政との関係が無視できないものとなっている。こうした中で、給付を受ける者と負担する者の不公平感が強く意識され、特に若い世代において社会保障制度の持続可能性や将来の負担増に対する懸念が強くなっており、経済・財政と均衡のとれた持続可能な社会保障制度を再構築し、後代に継承していくことが我々に課せられた重要な課題となっている。

○ このように社会保障の改革は、国政の重要かつ緊急の課題であり、国民の信頼を得るためにも、国民に分かりやすく情報を提供し、その理解を得ながら、明確かつゆるぎない方針の下に進める必要がある。あわせて、若い世代に対し、教育や実践の場を通じて、社会保障についての理解を深めるよう取り組んでいくことも重要である。
 また、改革に当たっては、税制など関連する諸制度の検討を含め、総合的・包括的に進めなければならない。

○ 同時に、社会保障は、消費や雇用の創出を通じて活力ある経済社会を支えるという機能も果たしている。民間部門におけるバリアフリー商品や介護サービスなど高齢者のニーズにあった商品やサービスも含め高齢社会産業の発展という形でも、経済への貢献が期待される分野である。

○ 以上のような基本認識の下、政府・与党が一体となって、次のような理念と基本的な考え方にもとづいて社会保障改革に着実に取り組んでいくものとする。

二 改革の理念

(一)健康で自立して活動できる、いわゆる健康寿命を延ばし、元気で高齢期を過ごせる社会をつくる。これにより、二十一世紀の我が国の高齢社会を明るく活力あるものとする。

(二)安心して子どもを産み育てることができ、家庭や子育てに夢や希望を持てる社会を創る。

(三)年齢・性別・障害の有無にかかわらず、個人がその能力を十分に発揮できる社会を目指す。

(四)利用者の視点に立った効率的で質の高い医療・介護・福祉サービスを提供する。

(五)就労形態の多様化や女性の生活形態の変化などに対応し、個人の生き方の選択によって不合理な取扱いが生じない公正な社会保障制度を目指す。

(六)社会保障の給付について、その範囲や水準がセーフティネットとしての役割にふさわしいものでなければならない。また、将来にわたり負担、特に現役世代の負担が過重なものとならず、経済・財政と均衡のとれたものとすることにより、持続可能な制度を再構築する。

(七)所得や資産を有するなど負担能力のある者は、年齢にかかわらず、その能力に応じ公平に負担を分かち合う。なお、高額の所得や資産を有する者に対する社会保障給付の在り方などについて検討する。

(八)増加する社会保障費用は、利用者負担・保険料負担・公費負担の適切な組み合わせにより確実かつ安定的に賄うこととする。

(九)企業年金や民間保険などの民間部門を活用し、多様な手段の組合せにより年金、医療、介護等のニーズへの対応を図る。

(十)NPOなど民間参入の促進や地域に根ざした取り組みにより、きめ細かなサービスの提供や利用者の選択の幅を拡大する。

三 改革の基本的考え方

(一)我が国の医療のあるべき姿を踏まえて、健康づくりや持続可能な高齢者医療制度への見直しなど、医療政策を総合的に推進する

  1.  国民が生涯を通じた健康づくりや疾病・介護予防に取り組みやすくするため、情報の提供や環境の整備を行う。また、新しい医療技術などの開発や先端的な医学研究を推進し、その成果の活用を図る。

  2.  患者の安全を守るため、医療関係者等と連携を図りつつ、医療の安全確保対策の一層の推進を図る。

  3.  科学的根拠に基づいた医療の推進の支援や、カルテの電子化やレセプトの電算化など医療分野における情報化の推進により、医療の質の向上と効率化のための環境整備を進める。

  4.  健康管理や生活指導等を重視した高齢者の心身の特性にふさわしい医療を確立していく。また、できる限り本人の意思を尊重し、尊厳をもって安らかに最期を迎えられるよう、終末期医療の在り方を検討する。

  5.  多様な医療ニーズへの対応や医療費の適正化の観点から、医療機関の費用の内容など医療費の実態を分析しつつ、医療保険の守備範囲や診療報酬体系、薬価制度、医療提供体制の見直しを図る。

  6.  高齢者医療制度などにおいて、高齢者の経済的能力に見合った適切な負担も求め、これから増加する負担を若い世代とともに分かち合う。

  7.  介護予防や生活支援の取組みなど、地域において高齢者などの自立を支援する活動の充実を図る。このため、自治体、社会福祉法人、NPO、ボランティアなど様々な主体の連携を進める。

  8.  上記の諸点を踏まえ医療や医療費の在り方を改めて見直すとともに、とくに高齢化の進展に伴って増加する老人医療費が、経済の動向と大きく乖離しないようその伸びを抑制するための枠組みを構築する。

(二)意欲に応じて働き、年金と組み合わせて豊かな生活ができるようにする

  1.  働くことを希望する高齢者が働き続けられるよう、当面、定年の引上げや継続雇用などで六十五歳までの雇用を確保していくとともに、多様な就業機会の確保を図る。更に、年齢にかかわりなく働ける雇用環境の在り方について検討を進める。また、高齢者が暮らしやすい生活環境の整備を進める。

  2.  働く女性が能力を十分に発揮できるよう、雇用差別の禁止、女性の積極的な活用など、雇用環境の整備等を推進する。

  3.  障害者については、ノーマライゼーションの理念の下、働く意欲のある障害者がその能力を十分に発揮できるよう、雇用・就労支援の一層の推進を図るとともに、公共施設のバリアフリー化などを進め、社会参加を促進する。

  4.  社会保障制度について、パートタイマー等雇用形態の多様化に対応した制度の見直し、女性の就労など個人の選択に中立的な制度への見直しを進める。

  5.  老後の生活については、公的年金を基本としつつ、勤労収入、私的年金、貯蓄等の自助努力を組み合わせて必要な費用を賄うこととする。この観点から、高齢者の経済状況や男女の就業実態の変化等を踏まえて、年金給付の在り方などについて検討する。また、企業年金や民間保険などの民間部門の活用策を推進する。

  6.  世代間の公平や高齢世代内の公平の視点に立って、公的年金収入に対する課税の適正化等、税制の在り方を検討する。

  7.  若い世代に比べ高齢者が資産を多く保有していることにかんがみ、高齢者が資産を活用して生活費用を賄えるよう、自宅に住み続けながら、その住宅宅地資産を現金化することができるような方法(リバース・モーゲージなど)について必要な環境整備等を推進する。

  8.  世代間扶養の仕組みをとっている公的年金制度において、将来世代の負担を過重なものにしないために、現在行われている年金保険料の引上げの凍結を早期に解除することができるように取り組む。

(三)健やかな次世代を育む社会を目指し、子育てと仕事が両立できるよう、総合的な少子化対策を進める

  1.  子育て家庭を社会全体で支援していく観点から、児童手当などについて、これまでもその拡充に努力してきており、さらに子育て不安の解消や虐待防止、地域交流の活性化など、子育て支援策を推進する。

  2.  育児休業をとりやすく、職場復帰をしやすい環境の整備を進めるなど、仕事と家庭の両立支援対策を充実する。

  3.  低年齢児の受入れ拡大などにより保育所の入所待機を早急に解消するほか、延長保育など保育サービス、放課後児童の健全育成の推進等の充実を図る。

(四)利用者の視点に立った効率的で質の高いサービスを提供する

  1.  医療、介護、福祉などのサービス内容の情報公開を推進し、国民が自ら選択することができるようにするとともに、サービスの質の評価を進める。
     また、社会保険の行政事務について、労働保険との徴収一元化など一層の効率化を進め、国民へのサービスの向上を図る。

  2.  サービスの担い手たる質の高い人材を確保するとともに、誇りを持って仕事に従事できるよう、養成・研修の充実等を図る。

  3.  介護や福祉分野において、NPOや企業など多様な事業者の参入により利用者の選択の拡大を図るとともに、規制改革の推進により、サービスの質の向上とサービスの効率化を図る。

  4.  年金を受給しながら長期入院・入所している者などの負担の在り方等について、給付の重複を調整する観点も踏まえた制度横断的な検討を行う。

  5.  社会保障と密接に関連する住宅、教育、科学技術政策等の関連施策分野との連携を図る。

(五)社会保障の財源の在り方

  1.  今後とも、効率化を図った上でもなお急激な高齢化に伴い増加する社会保障費用については、利用者負担、保険料負担と公費負担の適切な組合せにより、必要な財源を確保する。

  2.  このうち社会保障における公費負担の財源については、行財政改革の推進をはじめ歳出分野の不断の見直しなど財政全体を見直す中で検討する必要がある。その際、税制については、社会共通の費用を広く分かち合うという視点から、二十一世紀の経済社会にふさわしい税体系の在り方について検討する必要がある。

  3.  基礎年金については、平成十二年年金改正法附則において「給付水準及び財政方式を含めてその在り方を幅広く検討し、当面平成十六年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の二分の一への引上げを図る」とされており、この規定をどのように具体化していくかについて、安定した財源確保の具体的方策と一体として鋭意検討する。

四 今後の進め方

○ この大綱で示された改革の理念と基本的考え方に立った社会保障改革の具体的推進方策については、本協議会の下にワーキングチームを設け、協議することとする。

○ その際、早急に講ずべき施策と、中長期的に改革していく課題とを区分し、計画的に改革を行うことが肝要である。特に、医療制度については、昨今の医療保険財政の厳しい状況にかんがみ、検討作業を急ぎ、平成十四年度には、高齢者医療制度の見直しをはじめとする医療制度改革の実現を図るものとする。