閣議決定・施策の解説等

構造改革と経済財政の中期展望

平成14年1月25日
閣 議 決 定

はじめに

(「構造改革と経済財政の中期展望」の意義)
 我が国経済は、バブル崩壊後十年の長きにわたり低迷を続けている。この間、戦後の経済発展を支えてきた企業システムや政府の仕組みは時代の変化に対応できず、むしろ経済の重荷となっている。また、少子化・高齢化の進展や中国等の追い上げに伴う競争力の低下といった状況の下で、国民の間には閉塞感が広がっている。

 しかし、我が国は基礎学力の高さ、豊富な個人金融資産、社会の安定、豊かな自然など諸外国にも誇り得る重要な基盤を現在も持っている。問題はこうした基盤を維持し、さらに強くすること、そして、国民一人一人が自らの個性や能力を十分に発揮し、新たな創造を行うことができる経済社会を構築することである。こうした取組みにより、絶え間なく革新的な技術や工夫が生み出され、様々な環境変化にも機敏かつ柔軟に対応する効率的な経済活動が展開されることとなる。

 この「構造改革と経済財政の中期展望」(以下、「改革と展望」)は、日本が目指す経済社会の姿と、それを実現するための構造改革を中心とした中期的な経済財政運営について明確な将来展望を示している。この将来展望が国民によって共有され、構造改革への共感が深まることによって、改革は加速され、その実を結ぶこととなる。

(構造改革が目指す日本の姿)
 構造改革が目指すのは「人」を何よりも重視する国である。人は経済成長や付加価値の源泉である。また、経済社会が激しく変化する中で、人的資産はどのような変化にも自ら適応できるという意味で最もリスクに強い資産でもある。

 人の能力と個性の発揮を大切にし、人が活躍できる仕組み、人を育む社会環境、人と自然環境の調和を目指す。国民がこの国に生きることに誇りを持ち、世界の人々にとっても魅力のある国造りを進める。それは、経済の活性化にも大いに寄与する。また、雇用の拡大、活力ある高齢社会の構築、地域経済の活性化などの課題にも積極的な挑戦ができるようにする。

 IT革命の進展などを背景に、経済活動のグローバル化の潮流は21世紀においてさらに強まるとみられる。改革を進めることを通じて、貿易、投資のみならず、研究開発や文化芸術、スポーツなど幅広い分野で国民が世界の中で一層活躍し、貢献することを目指す。

 不良債権処理の促進、規制改革、財政構造改革などを中心とする構造改革への取組みを継続することにより、その効果は峠を越えるように加速的に現れ、今後2年程度の集中調整期間の後は中期的に民間需要主導の着実な経済成長が実現される。また、財政や社会保障制度を持続可能なものとしていくことができる。

(「改革と展望」の性格と役割)
 「改革と展望」に盛り込まれた政策は、政府として実行すべきものである。また、政府部門に関する目標は、その時々の経済財政状況を踏まえつつ、政府としてその実現に努めるべきものである。民間部門に関する数値等は、一定の政策を前提とした将来展望である。

 「改革と展望」の役割は、経済財政の中期ビジョンを示し、短期と中期の経済財政政策の整合性を確保すること、財政・社会保障の中長期的な持続可能性を提示すること、経済財政政策の合理性などについての説明責任を果たすことである。

 「改革と展望」の対象期間は2002年度〜2006年度の5ヵ年とする。なお、プライマリーバランス注の黒字化達成などに関しては、より長い期間を視野に入れている。

 なお、「改革と展望」は「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(平成13年6月26日閣議決定)を基礎としており、両者を一体として構造改革を推進する。また、経済の変動等に適切に対応するため、「改革と展望」は毎年度改定することとする。本「改革と展望」を決定することにより、「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」(平成11年7月8日閣議決定)は終了することとする。

(経済運営との整合性)
 対象期間中の経済財政政策は、「改革と展望」を踏まえて安定的に運営する。ただし、財政の自動安定化機能に配意する。また、デフレスパイラルが懸念されるなど景気が極めて厳しい状況の下では、柔軟かつ大胆な政策運営を行う。
 日本銀行においても、「改革と展望」を踏まえつつ適時適切な金融政策運営を行うことが期待される。

1.日本の経済社会についての現状認識

(1)脆弱な経済構造
 90年代の我が国経済社会を振り返ると、バブルの崩壊やアジア諸国の工業化など経済構造が激変する中で、変化への対応が後手後手に回り、新たな変化への積極的なチャレンジは概して低調であった。民間需要は低迷し、財政支出等による累次の景気対策が実施されたものの、バブル崩壊後(1992年度〜2000年度)の我が国の実質成長率は1.2%、名目成長率は0.9%と低迷した。これは80年代の実質成長率4.6%、名目成長率6.8%と比べても、また先進諸国の90年代の実質成長率(先進7ヶ国(日本を含む))2.5%程度と比べても際立って低い。

 不良債権処理の遅れ、厳しい雇用情勢、財政赤字の拡大とそれによる将来の増税不安、急速な少子化・高齢化等による社会保障制度の持続可能性への不安などが消費や投資を抑制し、民間需要を低迷させてきた。バブル崩壊後の平均で民間需要の成長率は0.5%に止まった。

 民間需要の低迷等はデフレ状況を継続させ、不良債権を発生させている。バブル崩壊後の平均でみても物価(GDPデフレータ)上昇率はマイナスを記録し、特に最近4年間はマイナスが続いている。

 供給面では、種々の規制や非効率な政府活動による高コスト構造、環境変化に適応できない企業システムや人材育成システムなどがサプライサイドの弱体化を招いてきたと考えられる。生産性の上昇率は80年代の1.7%程度から90年代には0.5%程度に低下した。

 中国等の追い上げや日本国内の高コスト構造などにより、産業の国際競争力が低下しており、多くの地域において産業空洞化ともいえる状況が生じている。

(2)限定的な社会活動
 ボランティア、NPOなどの活動は、法律の整備などによりある程度の拡大をみせたものの、未だ限定的であった。また、都市環境や保健、介護など社会のネットワークが形成されることによってはじめてより良質なサービスの供給が可能になる、いわゆる社会需要は潜在的に拡大しているが、十分に充足されていない。

(3)公的部門の非効率性
 財政に関する受益と負担の関係の希薄化や事前規制型の諸制度等は、依存体質(モラルハザード)や既得権を生み、構造的に非効率を発生させている。

 経済の低迷が続く中で、景気の安定を重視した財政運営がなされ、財政支出の規模が拡大する一方、数次の減税もあって税収は減少してきた。それは景気の下支えに一定の効果を持ったが、持続不可能な財政構造(財政赤字は増加し、政府の長期債務残高は累増)と、歳出の質の低下(国民の利便性の向上や産業の活性化等に十分な効果を持たないケースも指摘されている)といった問題を生んでいる。

 その結果、政府が財政支出の拡大等を行っても、財政赤字の拡大が将来の増税への懸念を生み、それが消費を抑制したり、歳出の質の低下に伴って民間の消費や投資が誘発される効果が低下するなど、財政支出が経済を活発化させる効果が弱まる傾向もみられる。

 社会保障制度については、急速な少子化・高齢化などを背景に、制度の持続可能性、世代間・世代内の公平性などの問題が生じている。

(4)構造改革を進めない場合の問題
 我が国の近年の産業動向をみると、中国等の追い上げにより、従来、経済成長の重要な原動力となってきた製造業においても、国際競争力を失いつつあるものがある。また、経済に占める非製造業のシェアが拡大してきているが、その生産性は平均的には製造業を下回っている。更に雇用面では、今後、生産年齢人口が減少していく。

 こうした状況の下で、民間部門、公的部門の双方で構造改革を推進し、創造性、効率性を高めていかなければ、日本の潜在成長率は趨勢的に低下していかざるを得ない。

 構造改革が仮に実行されない場合、実質経済成長率は2010年度までの平均で1/2%程度の低い水準に止まるものとみられる。また、財政面では、国と地方のプライマリーバランスの赤字は拡大し、政府の債務残高のGDP比も発散的に上昇する。

 この場合、国債に対する信頼性が低下し、長期金利が急上昇し、景気後退に到るリスクが高まっていくと考えられる。そうした状況では、景気後退に対処するために財政支出を拡大しても、それが持続可能なものとはみなされず、景気を下支えする効果も限られる。このようなリスクが現実のものとなる場合、成長率は0%に近い低成長に止まるとみられる。

2.中期的に実現を目指す経済社会の姿

 我が国は、基礎学力の高さ、豊富な個人金融資産、社会の安定など経済発展にとって必要不可欠な基盤を現在も有している。問題はこうした基盤を生かして国民が持てる力を国内さらには世界の中で十分に発揮できるようにすることである。その際、国が行うべきことは、そうした環境を整備することであり、現実に経済社会を活性化していくのは国民である。政府と国民がそれぞれ役割を果たすことにより、国民一人一人が能力と個性を発揮する社会が構築される。また、雇用の拡大、活力ある高齢社会の構築、地域経済の活性化などの課題にも積極的な挑戦が可能になる。同時に、民間部門の旺盛な活力と簡素で効率的な政府に支えられた民間需要主導の着実な経済成長が中期的に実現され、財政や社会保障制度も持続可能なものとなっていく。

(1)「人」を何より重視する経済社会
 経済成長や付加価値の源泉は人である。また、人と人が交流や連携を広げ、協力を深める中で、新たな創造が生み出される。国民がこの国に生きることに誇りを持ち、海外の資本や外国人にとっても魅力のある国造りを進める。

 経済社会が激しく変化する中で、人的資産はどのような変化にも自ら適応できるという意味で最もリスクに強い資産でもある。人的資産を効果的に蓄積し、それを十分に生かすために、格段に大きな努力が払われるべきである。

 (i)「人」が能力と個性を磨き、伸び伸びと発揮する
 国際競争力のある大学の実現に向けた改革など高等教育の抜本的見直し、自ら考え、創造する力を持った人材の育成、児童・生徒の能力や適性に応じた教育機会の提供等を目指した初等中等教育の多様化・活性化などにより、人材大国の実現を目指す。また、個人が能力や個性を発揮し、挑戦することに対して、いろいろな社会レベルで、「称える」ことを通じて社会の価値観が形成され、社会の躍動感が生まれる。

 (ii)「人」が活躍できる仕組みの構築
(再挑戦が可能な社会)

 一人一人が自由な選択と自己責任の下で何度も挑戦できる社会を目指し、制度改革を進める。仮に事業に失敗しても、努力をすれば再挑戦することが可能な社会、転職すること自体が不利にならず、能力が適正に評価される社会としていく。こうした取組みや高コスト構造の是正を通じて、今後5年間で創業の倍増を目指す。

(生涯現役社会、男女共同参画社会の構築)
 高齢化は、社会の活力を失わせると受けとられがちであるが、働き、学び、社会参加できる期間が伸び、一人一人の生きがいが広がることでもある。課題は、高齢者の年齢を固定的に考えることなく生涯現役でいられる社会の仕組みをつくることである。高齢化の進展により、年齢を基準とした雇用システムは合理性を失ってきている。技能・知識の習得など個人の努力や各企業における能力に応じた賃金・就業体系の導入など雇用システムの弾力化によって、生涯現役社会の一つの姿として、例えば70歳を超えても多様な形態で働ける活力ある高齢社会を実現することが望まれる。高齢者が活躍し、若者も努力と学習によって可能性に挑戦できる社会を目指す。
 また、性別にかかわらず個性と能力を十分に発揮し、社会参加できる男女共同参画社会を実現することも重要な課題である。このため、仕事と育児の両立のための環境整備を進めるとともに、女性の就業を始めとするライフスタイルの選択に中立的な社会制度の構築を進める。
 こうした取組みにより、年齢や性別にかかわらず誰もが能力に応じ、適切な報酬を受け、生きがいをもって働ける社会を目指す。
 誰もが伸び伸びと活躍できる社会を形成すること、子どもを産み育てやすい環境を整備することなどにより、少子化傾向にも変化が期待される。

(グローバルな活躍、貢献)
  経済活動のグローバル化の潮流は、IT革命の進展などを背景に21世紀においてさらに強まるものとみられる。世界経済の安定に向け多角的な努力を継続するとともに、新ラウンド立ち上げによるWTO体制の維持・強化に積極的に取り組み、FTA(自由貿易協定)等地域レベルでの新たな連携の在り方につき、東アジア諸国等との対話を進めていく。更に、グローバル化の進展を前提として、大学改革や規制改革などの制度全般の見直しを進めることにより、貿易、投資のみならず研究開発や文化芸術、スポーツなど幅広い分野で国民が世界の中で活躍し、貢献することを目指す。同時に、外資による対日投資や海外の技術者、研究者等の日本での活躍が拡大することを目指す。

 (iii)「人」を育む社会環境、自然環境の形成
(簡素で効率的な政府とNPO等の活躍)
 社会が柔軟で効率良く機能するためには、国民に対して説明責任を果たし、簡素で効率的な政府が必須である。また、社会需要の拡大などに対応して民間企業、NPO等の活躍の場が拡大する。

(個性ある地域の構築)
 それぞれの地域の多様な発展なくして国の発展はあり得ない。市町村合併の推進等地方の行財政構造改革を推進することなどにより、地方が「自助と自律の精神」のもと、人材、自然、歴史、文化といった多様な資源を活かし、知恵と工夫でそれぞれの地域の魅力、個性を発揮することが可能となる。そうした中で、都市と農山漁村の共生と対流、観光交流が進み、おいしい水、きれいな空気に囲まれた豊かな生活空間が形成される。また、社会の構造改革の基礎として、住民の安全と治安を確保することにより、安心して暮らせる社会を構築する。

(循環型経済社会の構築など環境問題への対応)
 循環型経済社会の構築、ゴミゼロと脱温暖化の社会づくり、自然との共生など環境問題への総合的な対応を行い、安心で活気と魅力に満ちた生活環境を創造し、美しい日本を形成する。また、循環型経済社会に向けた対応により、民間の技術開発や製品開発が活発化し、新たなビジネスモデルが形成され、新規需要や雇用が創出される。環境問題への対応から生まれた日本の技術・ノウハウ・製品などが、世界のモデルとなって美しい地球造りに貢献する。

(2)雇用・高齢化・地域経済等の課題への積極的な挑戦
 国民がこれらの問題について感じている不安の背景には、個人や社会が持てる力を十分発揮できていないという状況がある。それを克服することは、新たな発展の契機ともなる。政府は環境を整備し、国民、企業、NPO等が多様な挑戦を行う。

(雇用拡大への挑戦)
 雇用創出の鍵をにぎるものは民間需要主導の持続的な経済成長である。同時に、雇用創出効果の高い歳出への重点化、規制改革などの構造改革を進め、雇用を創出するとともに、労働力需給のミスマッチを縮小し、失業率をできる限り低くするよう努め、雇用不安の軽減を目指す。働き方に対する価値観の多様化に伴う様々な就労形態を実現しつつ、ワークシェアリングについても議論を深める。また、都市環境、介護など、国民と政府、企業、NPO等によるネットワークを形成することにより良質なサービスの供給が可能になるいわゆる社会需要が顕在化され、新たな雇用が創出される。

(活力ある高齢社会への挑戦)
 生涯現役社会に向けた取組みの推進や持続可能で公平な社会保障制度に向けた改革により、高齢化に伴う将来不安を軽減することを目指す。それにより、将来世代の負担を軽減する展望も開けていく。その結果、高齢者のみならず、若い世代も安心して消費ができるようになり、消費性向も上昇する。

(地域経済活性化への挑戦)
 公共投資の削減等が地域経済に及ぼす影響については、「改革先行プログラム」(平成13年10月26日)などを推進するとともに、上記の「(個性ある地域の構築)」を通じ新規雇用を創出することなどによって克服することを目指す。また、PFIの積極的な活用により、民間の事業機会を創出し、地域経済の活性化を目指す。

(3)強靭な経済、財政の実現
(デフレの克服)
 今後2年程度の集中調整期間は、中期的に民間需要主導の成長を実現するための重要な準備期間である。この期間において最も重要なことはデフレを克服することである。そのため政府・日本銀行は一体となって強力かつ総合的な取組みを行う。政府としては、民間需要・雇用の拡大に力点を置いた構造改革、すなわち、重点化、効率化などを中心とする財政構造改革、規制改革等を推進し、不良債権処理を促進する。同時に、当面、デフレスパイラルに陥ることを阻止するため、「緊急対応プログラム」(平成13年12月14日)を推進する。この期間は、厳しい内外経済環境が続いていること、構造改革の効果が顕在化するのにはある程度の時間を要することなどから、ゼロ近傍の成長を甘受せざるを得ない。しかし、これらの施策に取り組むことにより、集中調整期間において、景気は厳しいながらも回復に向けて動き出す。こうした動きを受け、デフレも克服され、物価上昇率はプラスに転じると見込まれる。

(民間需要主導の持続的成長の実現)
 集中調整期間の後は民間需要主導の着実な成長が実現する。経済社会の仕組みは相互に関連し合っているので、一部を変えるだけではその効果は十分に現れない。活力に溢れる民間部門と簡素で効率的な政府を目指した構造改革に継続的に取り組み、経済社会の仕組みが全体として変化する段階に到れば、その効果は峠を越えたように加速的に現れる。更に、デフレが克服されることにより、経済の好循環が回復する。これらの結果、消費や投資が安定的に拡大し、2004年度以降は実質11/2%程度あるいはそれ以上、名目21/2%程度あるいはそれ以上の民間需要主導の着実な成長が見込まれる。停滞産業から成長産業へ資源が移動する中で、成長産業では力強い拡大を実現するなど日本経済のダイナミズムは甦る。また、財政の健全化に向けた動きは、金利を安定化させる効果を持つ。更に、デフレの是正は、これまで上昇してきた実質金利を抑える効果を持つと見込まれる。

(構造改革が効果を発揮するメカニズム)
 構造改革は、新規需要や雇用を創出し、創造的な企業活動を促進することなどを通じて経済成長を促す。具体的には、以下のようなメカニズムが働くものと見込まれる。

  1. 不良債権処理の促進、証券市場の構造改革や規制改革の進展等により、投資が拡大すると同時に、起業、創業が促進される。
  2. 財政赤字の削減、持続可能な社会保障制度の構築などにより、将来不安が軽減され消費が拡大する。
  3. 雇用を生む効果の高い歳出への重点化、規制改革などが進むことにより、雇用が創出されるとともに、労働力需給のミスマッチが縮小する。
  4. 歳出の質の改善、規制改革の推進、競争政策の強力な実施等を通じ、生産性が上昇する。
  5. 女性や高齢者が就業しやすい仕組みを構築することにより、女性、高齢者の労働力率が上昇する。

(空洞化の阻止)
  規制改革や政府活動の効率化を通じて、高コスト構造を是正すること、人的資本の蓄積や技術力を強化すること、更に以下に示す新たな成長のエンジンを本格的に始動させることなどにより、産業の国際競争力を高め、空洞化を防ぐ。また、こうした取組みを通じて、地域経済を活性化する。

(新たな成長のエンジン)
 日本経済の新たな成長のエンジンはサービス産業、貿易財産業の双方に存在する。高齢化社会や循環型経済社会への対応など、消費者のウォンツ(潜在的需要)を充足するサービスと製造が組み合わさった産業が拡大し、真に豊かな国民生活が実現される。
 日本は先進国の中で最も急速に高齢化社会を迎える。このことは我が国にとって課題であると同時に新たな可能性が到来することでもある。職住近接や豊かで快適な居住空間の構築など高齢化社会に対応したシステムを創造する。また、日本は狭い可住面積の中で、人口と経済活動が高度に集中しており、環境制約が世界で最も厳しい国の一つである。これも環境問題に関心の高い国民のライフスタイルに影響を与え、新たな需要を喚起する契機となる。循環型経済社会への対応を通じて、民間の技術開発や製品開発が進められ、廃棄物処理やリサイクルが市場経済にビルトインされた新たなシステムを日本が生み出す。さらに、高齢化社会や循環型経済社会に対応したモデルを世界に提供し、各国の国民生活の充実に貢献するとともに、ビジネスチャンスを拡大する。
 日本の住宅ストックの質は未だ高いとはいえず、質の高い住宅に対する潜在的需要は大きい。規制改革、住宅市場の改革などの制度改革を推進することにより、住宅投資を拡大する。
 貿易財産業については、東アジア地域等と連携を深めコスト削減を図るとともに、研究開発分野、工程間・部品間で緊密な連携を必要とする組立産業、販売など利用者に直結する分野等に資源を重点的に配分し、産業の高付加価値化を一層進める。更に、東アジア地域等は、今後、経済成長に伴って、財・サービス需要や資金需要が拡大し、多くのビジネスチャンスが生まれる有望な市場にもなる。我が国は、貿易や投資等を通じて、東アジア地域等と共に発展することを目指す。

 こうした新たな成長の実現に向け、科学技術は重要な基礎要素となる。ライフサイエンス、情報通信(IT)、環境、ナノテクノロジー・材料などは、近年技術革新がめざましく、産業分野への広範な波及性・応用性、技術としての基幹性を有している。こうした先端技術を産業化するためには、基礎研究と応用技術の橋渡しをする仕組み(テクノロジー・プラットフォーム)、産学官の連携強化、知的財産の適切な保護と積極的な活用などが重要であり、このような取組みにより、ベンチャーを始めとする競争力の高い事業の創造、中小企業を中心とした経営革新の促進や地域経済の活性化を目指す。

 IT革命を積極的に推進することにより、産業活動の効率化、生活の利便性の向上や多様なライフスタイルの実現といった国民生活全般にわたる変化をもたらす高度情報通信ネットワーク社会を実現し、活力と豊かさにあふれた経済社会の形成を目指す。

(変化に対応できる企業システム)
 成長や発展は絶え間なき新陳代謝によって生み出されるものである。更に近年においては、IT革命によって、環境変化のスピードは速まり、波及効果はグローバル化している。規制改革、企業法制の見直し、証券市場の構造改革等を通じて、様々な変化に機敏かつ柔軟に対応でき、革新的な技術や工夫を従来以上に生み出すことを可能にする企業システムを構築する。

(効率的で持続可能な財政への転換)
 配分の重点化、諸制度の改革、さらには事務事業の効率化、PFIの活用などを中心とする財政構造改革を推進することにより、歳出の質を改善するとともに、歳出を抑制する。国と地方のこうした取組みを通じて簡素で効率的な政府を実現し、「改革と展望」期間中の政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)は現在の水準を上回らない程度とすることを目指す。また、受益と負担の関係についても引き続き検討を行うこととする。

 着実な経済成長と適切な財政構造改革なくして財政の健全化はあり得ない。上述の民間需要主導の着実な成長と財政構造改革の結果、国と地方を合わせたプライマリーバランスの赤字は縮小し、そのGDP比は最終年度前後には現状(2000年度4.3%)の半分程度に低下すると見込まれる。更に、「改革と展望」の対象期間の後も、その期間と同程度の財政収支改善努力が続けられ、民間需要主導の着実な経済成長が継続するとすれば、2010年代初頭にプライマリーバランスは黒字化することとなる。また、政府の債務残高の対GDP比の動向も、金利の安定が継続すれば、同じ頃には改善すると見込まれる。

 我が国の人口が2008年頃までには減少に転じること、2010年〜2015年頃にかけ、これまで労働力人口の中核であったベビーブーム世代が年金受給者となることなどを考慮すれば、2010年代初頭にはプライマリーバランスを黒字化することが望まれる。

 ここで述べた経済財政の将来展望は、現時点で得られる情報を最大限活用して行った予測を参考としているが、変化の激しい時代にあって、予測には不確実性を伴う。特に、プライマリーバランスなどの財政収支の見通しには、税収の変動など不確実な要素が多い。したがって、上で示したプライマリーバランス均衡の達成時期の見込みなどについては、相当の幅を持って見る必要がある。また、構造改革による需要創出効果などについても、継続的な点検が必要である。「改革と展望」は毎年度改定することとしており、仮に経済がその想定から大きく外れる状況(例えば世界経済の著しい悪化により外需が急減する場合や、逆に構造改革の進展などによって、予想以上に企業業績等が改善する場合など)が生じる場合には、財政健全化のペースなども見直す必要がある。

3.構造改革を中心とする経済財政政策の在り方

(1) デフレの阻止と不良債権問題の解決
 デフレと不良債権問題は密接に関連しつつ、近年の日本経済を低迷させてきた。2つの問題に対する総合的な取組みを強化する。

(デフレの阻止)
 デフレは、@企業等の実質債務を増加させるとともに、A実質金利の高止まりや実質賃金の上昇を生み、企業収益を圧迫することなどを通じて、企業の投資など民間需要を抑制している。デフレの阻止は民間需要主導の持続的成長を実現するために政府と日本銀行が緊密な連携の下に取り組むべき最重要課題である。デフレの阻止に向けた政府の主たる役割は、構造改革を通じ民間需要を創出することにある。また、不良債権処理を促進することにより、後述するような民間需要への好影響が期待される。同時に、都市の再生や不動産市場の構造改革等により地価の下落に歯止めをかける。日本銀行は本「改革と展望」を踏まえつつ適時適切な金融政策を行うことが期待される。こうした対応により、集中調整期間において景気は厳しいながらも回復に向けて動き出す。また、こうした動きを受け、デフレも克服され、物価上昇率はプラスに転じると見込まれる。なお、物価動向を適切に把握する等の観点から、将来の物価動向を市場がどう織り込んでいるかを把握することに寄与するとされ、米英等で導入されている物価連動債等を含む新たな方法や現行の物価統計の在り方、分析手法などについて幅広く検討を行うこととする。

(不良債権問題の抜本的解決)
 不良債権処理を促進し、今後2〜3年以内に確実に不良債権を最終処理し、同時に他の分野における構造改革を推進することにより、遅くとも3年後には正常化する。これにより、@銀行収益の改善を通じた金融仲介機能の回復、A企業の整理・再建等のプロセスを通じた企業の過剰債務問題の改善、生産性の低い企業、産業に滞留している資源の新たな成長分野への移行、B金融システムへの信頼回復による投資や消費への好影響、を通じて経済成長を促進する。その際、中小企業については、その特性も十分に考慮し、再生可能性、健全債権化について、キメ細かく的確な判断を行うとともに、健全な中小企業の連鎖的な破綻を招かないよう十分に配意する。

(2) 活力ある経済社会を目指した規制改革、制度改革
 規制改革、司法制度改革を含む広範な制度改革を進め、競争政策を強力に実施することなどにより、事前規制型の仕組みを事後監視型に改め、国民一人一人が能力と個性を発揮でき、努力した者が報われる環境を整備するとともに、消費者・生活者本位の経済社会システムを実現する。これらの政策は、高コスト構造を是正し、投資の収益率を高め、産業の国際競争力を強化する。更に、国民が幅広い分野で国際的に一層活躍することを可能にする。また、新たなサービス等の供給を可能にし、民間需要を拡大する。

(人材大国)
 活力に富み国際競争力のある大学づくりの一環として、国立大学の再編・統合を促進する。国立大学を早期に法人化して自主性を高めるとともに民営化及び非公務員化を含め民間的発想の経営手法を導入することを目指す。大学教育に対する公的支援については、競争原理を導入するとともに、第三者評価による重点支援を通じて、世界最高水準の大学を育成する。同時に、質の高い教育研究活動のため、継続的な第三者による評価認証制度の導入、時代の変化等に対応した柔軟な大学設置等の促進、国立大学の法人化に伴う大学事務のアウトソーシングの促進などの規制改革を推進する。また、寄付金、受託研究等の扱いが公私の大学で相互に競争的になるようにすることを検討する。
 自ら考え、創造する力を持った人材の育成、児童・生徒の能力や適性に応じた教育の充実や教育機会の提供を目指すなど初等中等教育の多様化・活性化等教育改革の推進を図る。また、文化芸術等を通じ豊かな心と多様な個性を育む。
 奨学金事業の充実や個人の能力開発など個人重視の施策を推進することにより、有為な人材を育てる。社会人のキャリアアップの充実を図るため、パートタイム学生の位置付けの明確化と社会人受入体制の整備を一層促進する。また、都市部における教育研究環境の整備を充実するため、大学の設置等に関する規制を緩和する。

(頑張りがいのある社会システム)
 個人の潜在力を十分に発揮させるために、個人の意欲を阻害しない「頑張りがいのある社会システム」を構築する。
 預貯金中心の貯蓄優遇から株式投資などの投資優遇へという金融の在り方の転換や起業・創業の重要性といった観点も踏まえ、税制を含めた諸制度の在り方の検討を深める。
 今後5年間で創業を倍増するとの目標の下、大学発ベンチャー等産学官の連携を深め、起業を促す環境整備を進める。また、知的財産の包括的かつ適切な保護をWTO等の下で国際的に確保することが重要である。

(生涯現役社会、男女共同参画社会の構築)
 年齢や性別にかかわりなく能力に応じて働ける社会を構築していく。定年延長や継続雇用の促進、募集・採用における年齢制限の緩和、有期労働契約、派遣労働など雇用の選択肢の更なる拡充、雇用に関する性による差別の撤廃等を通じ、働きやすい・雇いやすい環境づくりを進める。また、女性の就業意欲を阻害しないよう、社会保険制度等を見直す。同時に、高齢者や子どもたちにとって何が幸せかという視点に立って、多様な保育・介護ニーズに対応できるよう、保育・介護サービスの拡充と質的向上に向けた規制改革を進める。こうした取組みにより、高齢者の意欲と能力を活かせる雇用システムの構築、女性の社会進出の円滑化を図る。また、NPO、ボランティア活動を促進する。更に、子どもを産み育てやすい環境を整備し、少子化の流れを変えるため、積極的な対応策を社会全体で進める。

(科学技術創造立国)
 「科学技術基本計画」(平成13年3月30日)に基づき、科学技術の戦略的重点化、科学技術システム改革を進める。科学技術の戦略的重点化については、特に、国際的に卓越した基礎研究及び21世紀に必要となる新しいテクノロジーとして、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野など産業競争力と質の高い国民生活の基盤となる科学技術分野における重点的な研究開発を進める。
 科学技術システム改革については、競争的資金の改革・拡充等優れた成果を生み出す研究開発システムの構築を図るとともに、科学技術を軸として、地域経済を支え、世界に通用する新事業やベンチャー企業の創造を推進するなどの観点から、民間企業の研究開発の促進や国・大学から民間企業への技術移転の促進に資する環境整備など産学官連携の推進及び地域科学技術の振興を図る。

(世界最先端のIT国家の実現)
 2005年までに世界最先端のIT国家となることを目標に、「e-Japan重点計画」(平成13年3月29日)及び「e-Japan2002プログラム」(平成13年6月26日)に基づき、重点的かつ戦略的にIT施策を積極的に実施する。
 なお、これらの施策を推進するに当たっては、施策の重複の排除等の観点を踏まえ既存の施策を大胆に見直すとともに、研究開発の推進、国際的な協調及び貢献の推進といった横断的な課題についても積極的な対応を図る。

(地方の自立・活性化)
 「国土の均衡ある発展」の本来の考え方を活かすため、「個性ある地域の発展」、「知恵と工夫の競争による活性化」を重視する方向へ施策の重点化を進める。
 水道など地方公営企業への民間的経営手法の導入を促進し、介護福祉、まちづくり、リサイクルなど地域社会において社会事業を担うNPOの支援強化など地方の活性化を図る。また、意欲と能力のある経営体に施策を集中すること等により、農業の体質強化・国際競争力の強化に向けた農業構造改革を推進する。更に、経済特区といった考え方についても検討を深める。

(都市の再生)
 経済社会活動の中心となる都市の魅力と国際競争力を高め、その機能を十分に発揮させるため、都市再生プロジェクトの推進や民間都市開発投資の促進等を通じ、魅力ある都市の再生を実現する。
 従来の行政主導の取組みから、民間の力が最大限発揮できるよう、「都市再生のために緊急に取り組むべき制度改革の方向」(平成13年12月4日)に沿って、民間の事業計画に基づいた都市計画の変更が可能になるよう法改正するなど緊急に制度改革に取り組む。
 これらに加え、住宅に係る制度改革を推進し、良質な住宅ストックに対する国民の潜在的需要の充足を目指す。

(循環型経済社会の構築など環境問題への対応)
 廃棄物・リサイクル処理などの環境技術の実用化に向けた研究・開発・先駆的取組み等を進めることにより、経済活動の環境への負荷を低減するとともに、環境セクターの創出・拡大を図る。また、廃棄物の発生抑制、リサイクルの促進、不法投棄の防止等により「ゴミゼロ社会」の構築を目指すとともに、京都議定書の実施に向けて、国民各層一体となった取組みの推進・健全な森林の育成等を含め脱温暖化の社会づくりを推進する。

(3) 政府の在り方
 「民間でできることは民間で」、「地方でできることは地方で」を原則に、簡素で効率的な政府を構築する。また、国民に対して十分な説明責任を果たす透明性の高い政府を目指す。

(官民の役割分担)
 民間需要主導の持続的成長は、旺盛な活力にあふれた民間部門と簡素で効率的な政府を実現することによって初めて可能となる。このため、官民の役割分担を見直し、特殊法人等改革、財政投融資改革、公益法人改革等を進めるとともに、民間企業、NPO等の活躍の場を拡大する。更に、財政投融資については、行財政改革の趣旨を踏まえ、民間ではできない分野・事業に特化する等対象分野・事業の重点化を図るとともに、時々の社会経済情勢を踏まえ、セーフティネットの構築等真に政策的に必要と考えられる資金需要には的確に対応する。

(国と地方の役割分担)
 地方分権を推進し、自立した国・地方関係を確立するという観点から、地方分権改革推進会議における調査審議を踏まえ、国と地方との役割分担の見直しに取り組む。
 地方の自律性を高めるためには、地方行財政の効率化を前提に、自らの判断で使える財源を中心とした「自助と自律」にふさわしい歳入基盤を確立することが重要である。そうした観点から、地方税を充実確保することとし、国と地方の役割分担の見直しを踏まえつつ、国庫補助負担金の整理合理化や地方交付税の在り方の見直しとともに、税源移譲を含め国と地方の税源配分について根本から見直しその在り方を検討する。その際、国・地方それぞれの財政事情や個々の自治体に与える影響等を踏まえる必要がある。

(歳出面での改革)
 財政支出を真にニーズの高い分野に集中し、歳出の費用対効果を改善する。このため、事務事業の評価基準の改善、一般競争入札の拡大等競争性の向上、公共事業の効率化を通じたコストの縮減、外部委託やPFIの活用、国・地方の一般会計(普通会計)、特別会計等についての財政の説明責任と透明性の向上などを推進する。また、こうした取組みにより、歳出の質を改善し、民間需要や雇用を創出する効果を高める。
 今後、高齢化の進展により、社会保障の面からは歳出増大圧力が高まるが、各分野における構造改革により、国と地方の歳出を抑制する。

国の公共投資については、その時々の経済動向を勘案しつつ、「改革と展望」の対象期間を通じ、景気対策のための大幅な追加が行われていた以前の水準を目安に、その重点化・効率化を図っていく。また、地方の公共投資の水準についても、国と同一基調で見直していくべきである。その際、公共投資の重点配分、コスト縮減、PFIの活用等を進めることなどにより、行政サービス水準の確保に努めることとする。社会保障については、医療制度改革を始めとする持続可能で公平な制度に向けた改革を推進することなどにより、可能な限り抑制する。総人件費については、定員削減の実行等により極力抑制する。その他の一般歳出(物件費等)についても、聖域なく徹底した見直しを行うとともに配分の重点化を行うことにより、厳しく抑制する。

(政府の大きさ)
 国と地方を通じた上記の改革努力により、「改革と展望」期間中の政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)は、現在の水準を上回らない程度とすることを目指す。

(国民負担の在り方)
 簡素で効率的な政府の実現に向け歳出面の改革を推進しつつ、受益と負担の関係についても引続き検討を行うこととする。また、将来にわたって持続可能な社会保障制度の構築や地方の自立など真に必要な行政サービスのために、今後必要となる財源をどのように確保していくのか、構造改革の進展などを踏まえつつ検討を行う。

(21世紀にふさわしい税制)
 税制は政府活動のための財源を調達する基本的な仕組みであり、持続可能な財政の確立に向けて、経済の市場化、国際化、少子化・高齢化という観点から、貯蓄・消費行動、投資・起業行動、労働供給・就業形態に対する誘因をも考慮しつつ、公平・中立・簡素の原則を踏まえた税制改革を行っていく必要がある。その際、所得、消費、資産等の適切な課税ベースの選択、できるだけ広い課税ベースの確保、政策目的に対して有効な政策手段であるかの検証等、幅広く税制を見直していくことが不可欠である。

(新しい行政手法)
 公的部門に企業経営的な考え方や手法を導入する「新しい行政手法(ニューパブリックマネジメント)」について、中期的な財政運営との関連も含め諸外国の事例を検討しつつ、政策プロセスの改革を図る。また、公務員制度改革を進める。

(4)社会資本整備の在り方
 戦後50年以上にわたる社会資本の整備により、国民生活の安全性や利便性は飛躍的に向上し、経済発展を支える産業的基盤もつくられた。現在も国民生活や経済活動にとって必要不可欠な公共投資は多数あるが、分野別配分の硬直性や、受益者による費用の負担が極めて少ない制度の下で、ややもすると必要性の低い公共投資までが行われがちであるなど改善すべき点が多い。真に必要性の高い公共事業を選択し、最も効率的に整備する仕組みを確立しなければならない。
 また、現下の厳しい財政状況や国民経済に占める公共投資の規模が欧米諸国などに比べ非常に高いこと等を考えれば、投資規模についても見直しが必要である。なお、道路等の「特定財源」についてはその在り方を見直す。

(公共投資の配分の重点化)
 これまでの整備の進展度、整備の緊急性、経済社会の中長期的な変化、国民のニーズの変化等を踏まえ、真に必要な分野に投資を集中する。
 また、政策目的に照らし、公共事業以外のより適切な政策対応がないか事前に十分審査することが必要である。例えば、平成14年度予算において農林水産関係分野が取り組んでいるような、公共事業から公共事業以外の政策手段への転換(ハードからソフトへの転換)の努力を今後も改革の方向に沿って継続する。
 地域間の予算配分については、それが合理的なものとなるよう、整備状況を踏まえて弾力的な配分を行う。

(公共投資の規模、効率化、PFIの活用)
 公共事業の効率性・透明性の向上に向け、事業評価の改善(第三者によるチェック、事後評価結果の同種事業への活用、評価手法の改善など)、コスト縮減、法改正により適用範囲の拡大等が行われたPFIの一層の活用、既存ストックの有効活用、一般競争入札の拡大等競争性の向上、過度の入札制限の見直しなど具体的な取組みを進める。
 目的が類似する社会資本については、計画の段階で厳格な調整を行い、重複的な投資を防ぐ仕組みをつくる。また、建設、維持、管理、運営それぞれについて、可能なものは民間に任せることを基本にする。
 公共投資の規模については、上記の「(歳出面での改革)」で示したように取り扱うほか、特殊法人等が行う公共事業については、特殊法人等改革の趣旨を踏まえ、厳しく見直す。

(公共事業関係の計画の見直し)
 公共事業関係長期計画は、今後の方向性を明らかにし、事業の着実な推進を支えている面もあるが、他方、資源配分を硬直的なものとし、経済動向や財政事情を迅速に事業へ反映することを困難にしている面がある。こうしたことから、まず各計画の必要性そのものについて見直しを行う。その上で、今後とも策定することが必要と判断される場合には、計画策定の重点を、その分野の特性を踏まえつつ、従来の「事業量」から計画によって達成することを目指す成果とすべきである。また、計画に基づく事業であっても、厳正な事前評価により事業の必要性が検証されたものを実施するなど、効率化のための取組みを強化すべきである。全国総合開発計画等についても、望ましい国土の実現の観点から、関係各分野の施策遂行が総合的な効果を発揮することが必要である等の視点に基づき、抜本的にその在り方について見直しを行う。本「改革と展望」の策定をもって、公共投資基本計画についてはこれを廃止する。

(5)持続可能な社会保障制度
 社会保障制度は、国民にとって最も大切な生活インフラであり、国民の生涯設計における重要なセーフティネットである。これに対する信頼なしには、国民の安心と生活の安定はあり得ないし、経済発展の阻害要因ともなる。このため、社会保障制度は、経済と調和し、将来にわたり持続可能で安心できるものとなるように再構築していかなければならない。また、併せて、生涯現役社会を目指した取組みを進めることも、社会保障制度の持続可能性を高めていく上で重要である。

(社会保障の総合化)
 年金、医療、介護、雇用等の社会保障制度について、機能分担の見直し、重複給付の是正、保険料徴収の効率化等、社会保障の総合化の観点から、計画的に見直しを進める。
 更に、ITの活用により、社会保障番号制の導入と個人に社会保障に関する情報提供等を行う仕組みの構築に向けて検討を進める。

(医療サービスの効率化の徹底と医療保険制度の改革)
 国民皆が必要な医療を安心して受けられるという国民皆保険制度を守っていくために、平成14年度に医療制度の改革を行う。
 また、更に、一元化を含む医療保険制度の在り方、新たな高齢者医療制度の在り方、診療報酬体系の在り方等医療制度の将来方向についても検討していくことが必要である。

(持続可能な年金制度の構築)
 年金制度については、今後とも給付と負担の均衡を図りながら、持続可能な制度に向けて、国民の信頼を高めていくことが重要である。
 このためにも、年金制度の意義や役割について国民、特に若い世代の理解を深める取組みが不可欠であるとともに、国民年金の未納未加入問題について厳正な適用と保険料徴収の推進など徹底的な対策に早急に取り組む必要がある。
 また、就労形態の多様化・個人のライフスタイルの多様化等に対応した制度設計の見直し、勤労収入等のある高齢者に対する年金給付の在り方の見直し、世代間・世代内の公平を確保するための年金税制の見直し、年金保険料引上げの早期凍結解除、平成12年度改正法附則(「当面平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の1/2への引上げを図るものとする」と規定。)への対応、年金積立金の在り方のほか、将来に向けて持続可能な制度を構築するための具体的な方策について、議論を深めていく必要がある。

(介護サービスと医療の適切な役割分担と在宅介護サービスの推進)
 介護保険制度は順調に定着しつつあるが、高齢者医療と介護サービスの適切な役割分担を果たすためにも、介護サービス、特に在宅サービスについて、更に利用を促進していく必要がある。
 このため、ケアマネジャーによるサービス利用の支援等の充実を図る。また、PFIの活用等を図りながら、ケアハウス、生活支援ハウスの整備などを行うとともに、官民資産を活用した中所得者向け「安心ハウス構想」についてもビジネスモデルとしての構築を含め検討を行い、在宅サービスを利用しやすい高齢者用の施設や住宅の普及を図る。

(子育て支援対策の充実)
 平成16年度までに、PFIの活用をはじめ公設民営の推進等によって保育所等への児童受入れ数を拡大する保育所待機児童ゼロ作戦を推進する。また、放課後児童クラブ等の放課後児童受入れ体制の整備を進める。
 更に、地域によっては、平成17年度以降においても、保育所や、幼稚園における預かり保育、保育ママ、自治体における様々な単独施策等による児童受入れ数の拡大が必要となる可能性が高く、保育所等の整備に当たっては、公設民営の推進、民間参入の促進をしていくことが必要である。

(6)地方行財政制度の改革
 地方の個性に応じた効果的な行政サービスを効率的に提供するためにも、行政サービスの権限を住民に近い場に移し、地方が自らの選択と財源で施策を実施できるようにする。このためには、自治体の行財政基盤を拡充するとともに、国と地方の役割分担に応じて、事務事業の在り方や、その財源の在り方など総合的に改めていく必要がある。

(自治体の行財政基盤の拡充)
 「市町村合併支援プラン」を積極的に実施するなど、市町村合併をより強力に推進し、目途を立てすみやかな市町村の再編を促す。
 また、今後の地方行政体制の在り方について、地方分権や市町村合併の進展に応じた都道府県や市町村の在り方、団体規模等に応じた事務や責任の配分(例えば、人口30万以上の自治体には一層の仕事と責任を付与、小規模町村の場合は仕事と責任を小さくし都道府県などが肩代わり等)など、地方制度調査会における調査審議を踏まえ、幅広く検討する。

(国・地方の役割分担に応じた事務事業の在り方と地方歳出の見直し)
 国が地方に関与・要請するのは、国が国民に最低限保障すべき行政サービス水準に関するものや、便益が地域に限定されず全国的、広域的に及ぶもの、効率性等の観点から全国統一的に定めることが望ましい国民の諸活動等に関する準則に関するものに限定する。また、その上で国が設定する基準などについても、地方が独自性をより発揮できるようにするとの観点に立って、その水準の抜本的な見直しを行う。
 国が地方に要請する仕事の洗い直し・縮小に応じて、補助金や地方交付税、あるいは地方財政計画により財源を手当てする歳出の範囲・水準を縮小する。このことは、地方が自由に独自の行政サービスを選択し提供する範囲が増えるということである。
 今後、経済財政全体のバランスも考慮して、地方の自律性向上や、保障すべき行政サービス水準の見直し、及び効率化の観点などの改革とあわせ、地方の歳出の見直しを、国の歳出の見直しと歩調を合わせつつ行う。

(国・地方の役割分担に応じた地方財源の在り方)
 地方税については、地方行財政の効率化を前提に、自らの判断で使える財源を中心とした「自助と自律」にふさわしい歳入基盤を確立する観点から、その充実確保を図ることが重要である。このため、国・地方の財政健全化の取組みを進めつつ、先に「(国と地方の役割分担)」で述べた考え方にしたがって、地方の自立のために今後必要となる税財源を具体的にどのように確保していくのか引きつづき検討する。また、地方税収の基盤となる経済力の発展や、サービス水準と負担を考えた税の水準について、各自治体の自主的な判断や努力が望まれる。
 法人事業税の外形標準課税については、今後、各方面の意見を聞きながら検討を深め、具体案を得たうえで、景気の状況等も勘案しつつ、平成15年度税制改正を目途にその導入を図る。
 地方交付税については、地域間の経済力・財政力に大きな差があることを踏まえつつ、今後、国・地方を通ずる行財政制度の在り方を見直していく中で、その在り方を見直していく。また、交付税の算定については、国の関与の廃止・縮小に対応して、できるだけ客観的かつ単純な基準で交付額を決定するような簡素な仕組みにしていく。また、段階補正、事業費補正等の見直しなどをはじめ、地方の自主的・効率的な財政運営を促す方向に見直していく。
 国庫補助負担金については、地方分権推進計画等を踏まえ、国の関与が特に必要なものに限定し、一層の整理合理化を推進するとともに、「国は大きな方向のみ定め、地方にできることは地方に任せる」との観点から、統合補助金の活用等により地方の裁量を一層高める。
 地方債については、18年度の許可制から協議制への移行を円滑に行うなど、地方公共団体が自ら資金調達できる環境を整備していく。