金融再生トータルプラン(第1次とりまとめ)

平成10年6月23日
政府・与党金融再生トータルプラン推進協議会

T.はじめに

 我が国経済を早急に立て直し、再び活性化させるためには、経済停滞の根本原因の一つである金融機関等の不良債権問題について、その実態を明らかにするとともに、担保不動産の有効利用に至る総合的な施策により、不良債権のバランスシートからの抹消等の実質的な処理を早急に進め、資金の円滑な供給という金融本来の機能を回復させる必要がある。
 このような考え方の下、先の総合経済対策(4月24日)に盛り込まれた、@債権債務関係の処理、A土地・債権の流動化、B土地の有効利用、という「入口から出口まで」のパッケージの施策について、具体的推進を図るとともに、さらに金融システム再生のための実効ある施策に取り組むため、去る5月22日に、政府・与党一体となって総合的に協議を行う場として、「政府・与党金融再生トータルプラン推進協議会(以下「協議会」という。)」を設置したところである。
 我が国経済の現状を踏まえると、金融機関の不良債権問題等に対する対応は、少しの猶予も許されない状況にあり、必要な施策については早急にその具体化を図ることが求められており、政府・与党において可能なものから順次作業を進めることとしている。
 本協議会では、政府・与党におけるこれまでの議論の成果について「金融再生トータルプラン(第1次とりまとめ)」として、以下のとおりとりまとめることとした。

U.具体的施策の推進

1.土地・債権流動化と土地の有効利用

(1)債権債務関係の迅速・円滑な処理

@ 臨時不動産関係権利調整委員会(仮称)の創設
 あっせん、調停等当事者の合意に基づく手続を通じて不動産担保付不良債権等に係る債権債務関係等を整理するために、臨時不動産関係権利調整委員会(仮称)を設置することとし、所要の法案を次期国会に提出する。
 法案の骨子は、概ね以下のとおりとする。

A 債権放棄に係る税務上の取扱いの明確化
 合理的な再建計画に基づく債権放棄により発生する損失については、税務上損金の額に算入する旨の一般的取扱いについて、その一層の明確化を図るため、

等を明らかにする旨の法人税基本通達の改正を行った(6月8日公表)。

B 適正評価手続(デュー・デリジェンス)の確立
 デュー・デリジェンスを導入するに当たり、担保不動産又はこれらに関する権利の経済的価値を判定し、債務者の資産状況をも考慮した債権の適正な価値を決定するための適切な手続、特に将来収益予想に基づいた収益還元手法を活用するための適切な手法を確立することが求められている。このため、まずは、不良債権の担保となっている不動産の鑑定評価に当たって不動産鑑定士が留意しなければならない事項をとりまとめる。具体的には、社団法人日本不動産鑑定協会と協力し、不良債権の担保不動産の売却を想定して、

等について、検討を進めており、夏頃までに所要のとりまとめを行う。
 なお、共同債権買取機構(CCPC)は、不良債権買取業務を再開するに際して、客観的な適正評価手続により買取価格の決定を行うこととしている。

C 競売手続の迅速・円滑化
 競売手続の迅速・円滑化を図るため、民事執行法の一部改正等の法整備を行うこととし、そのための法案を議員立法として次期国会に提出する。併せて実務の運用改善のための措置を講ずることとする。具体的内容は、概ね以下のとおりとする。

D サービサー制度の創設
 債権の管理及び回収を業として行ういわゆるサービサーを、弁護士法の特例として創設することとし、そのための法案を議員立法として次期国会に提出する。サービサー法(仮称)の骨子は、概ね以下のとおりとする。

E 共同債権買取機構(CCPC)の機能拡充等
 共同債権買取機構(CCPC)は、その機能拡充等のため、以下の措置を講ずる。

F 金融機関の自己競落会社の機能拡充
 金融機関の自己競落会社についても、民間都市開発推進機構をはじめ、関係各方面と連携しつつ、保有する土地の有効利用を推進することが望まれている。このため、担保不動産の自己競落に関し、原則として裁判所が公告した最低売却価額によることとされている要件を撤廃することとし、去る6月8日に、自己競落会社に関する金融機関に対する通達を廃止した。また、同時に、自己競落会社につき土地の有効利用に努めること、流動化の検討に努めること等をガイドラインにより明確化したところである。

G 資産担保証券(ABS)の流通市場の整備
 不動産投資市場の整備の一環として、投資家が株式や債権と比較して投資判断を行う際の指標となる不動産インデックスや、不動産を裏付けとする資産担保証券(ABS)のうち公募のものに係る情報開示(ディスクロージャー)の基準について検討を進めている。
 本検討を踏まえ、先般成立した特定目的会社(SPC)法の9月施行に向けて、同法に基づき発行される資産担保証券について、資産流動化計画及び証券取引法上の情報開示等、所要の措置を講じていくこととする。

(2)土地の整形・集約化と都市再開発の促進

@ 都市再開発を強力に進めるための仕組みづくり
 都市再開発事業を迅速化するため、「再開発緊急促進制度要綱(仮称)」を速やかに制定し、緊急かつ重点的に実施すべきものとして建設大臣が認定した事業について、その実施に必要な都市計画の決定・変更、施行の認可等の手続を迅速かつ適切に行うことにより、事業の早期の実現を図る。
 また、都市再開発法の認可手続きを迅速化するよう地方公共団体を指導するとともに、引き続き民間再開発を円滑に進めるための方策について法制面の課題を含め検討する。

A 住宅・都市整備公団の積極活用
 既成市街地の低未利用地を活用し、土地の整形・集約化と再開発、まちづくりを促進するため、住宅・都市整備公団の技術力とノウハウを集中的に活用することとし、公団内に土地有効利用事業推進本部を設置した(6月22日)ところである。また、土地取得のための臨時の出資金(2,000億円)・財政投融資(1,000億円)の適切な活用、特定再開発事業(土地区画整理事業)の面積要件の緩和を行い、官民共同により土地の有効利用を促進する。

B 民間都市開発推進機構を活用したプロモート体制の構築
 低未利用地における民間再開発事業を推進し、土地の流動化と有効利用を促進するため、共同債権買取機構を始めとした関係機関と連携して、民間都市開発推進機構に時限的に都市開発、金融、行政、法律、会計・税務等の専門家を集めた都市開発プロモート機関(「再開発・土地有効利用支援センター」)を設置した(6月22日)ところである。同センターにおいては、民間再開発の事業化に際して様々な問題に直面している民間事業者等に対し、不動産情報の調査・収集・提供、土地の有効利用のための調査・助言・計画の提案等の業務を積極的に行うこととしている。また、土地取得業務に必要な民間借入金に係る政府保証の枠(平成10年度末までに1兆円)を5,000億円拡大し、同業務の積極的な推進を図る。

(3)公的土地需要の創出
 民間の事業意欲が大きく後退している中で、防災性の高い安全なまちづくりや高齢者・障害者等に優しいまちづくり、中心市街地活性化などによる都市の再生などの事業の実施に必要な公共的用地の取得を積極的に推進するための諸施策を広範に講じる。先般成立した平成10年度補正予算において、公共用地先行取得のため国における事業費3,174億円(国費1,781億円)を計上した(この他、地方公共団体の事業費8,000億円)ところであり、速やかに事業を実施していくこととする。

2.金融機関の不良債権の実質的処理、経営健全化等

(1)金融機関の不良債権の実質的処理
 金融機関の不良債権問題の実質的処理のためには、金融機関経営に対して市場規律を徹底することにより、不良債権処理のため取組みを促進することが重要である。そのため、米国証券取引委員会(SEC)と同等の、より強化された基準により不良債権のディスクロージャーを徹底するとともに、本年4月に導入された早期是正措置において、公認会計士の関与の下で、金融機関の資産の自己査定に基づく適正な償却・引当を進め、さらに、これを銀行検査等により厳正にチェックすることとしている。これらの措置と、バルクセール、共同債権買取機構への売却等の債権流動化とが相まって、不良債権をバランスシートから落とすなど、その実質的処理を推進する。こうした観点から、6月22日に発足した金融監督庁は、緊急的対応として、主要19行に対し、集中的に検査を行う。

(2)金融機関の経営健全化
 金融機関においては、リストラの徹底と責任ある経営体制の整備が求められており、金融機関のリストラ状況その他経営内容の実態について、一層の情報開示を促進することにより、市場規律の下で、各金融機関のリストラを促していく。また、本年3月に資本注入が行われた銀行については、「経営の健全性の確保のための計画」の履行状況を預金保険機構の金融危機管理審査委員会よりできる限り早くこれを公表することとする。

(3)いわゆる「受皿銀行構想(ブリッジバンク構想)」について
 金融機関がその不良債権のディスクロージャーを徹底し、適切な償却・引当を進め、バランスシートからの抹消等の実質的処理を進めていく場合、経営困難に陥る金融機関が出てくることも懸念される。この場合、前回の預金保険法改正により、預金者保護のため整理回収銀行が受け皿になりうる措置が講ぜられたので、民間の受皿銀行が見出せなくとも、預金者保護には支障がないが、一方、健全でありながら新たな取引銀行を見出せない借り手に対する更なる適切な配慮が必要となる。このような配慮を行いつつ、破綻処理の一層の円滑化を図り、内外の信認を得られるような金融システム再生の道と健全な借り手保護を両立させる方途を検討することが重要である。このため、いわゆる「受皿銀行構想(ブリッジバンク構想)」について、負担や資金調達の問題及び借り手のモラルハザードの問題等も踏まえ、十分な検討を行い、7月のできる限り早い時期に具体的内容を明確にする。

V.おわりに

 不良債権処理の問題は、今や国政の最重要課題の一つであり、緊急な対応が求められている。金融再生トータルプランについては、今回の第一弾のとりまとめに止まらず、上記のいわゆるブリッジバンク構想の具体化を含め、全体像を可及的速やかにとりまとめることとする。特に、臨時不動産関係権利調整委員会(仮称)の創設、いわゆるサービサー制度の創設、及び競売手続の迅速・円滑化等早急に法整備が必要なものについては、次期国会に所要の法案を提出し、その成立を目指すこととする。

 我々は、本トータルプランが実行に移されることにより、金融が、経済活動に必要な資金を供給するという、その本来の機能を回復するとともに、金融システムの再生と安定化が図られ、その国際的信認が回復することを期待している。同時に、土地・債権の流動化を通じ、不動産取引の活性化と土地の有効利用の促進がもたらされ、これらが相まって、我が国経済の活性化と立て直しにつながるものと考えている。