菅総理の冒頭発言


G8サミット
2011年5月26日〜27日
ドーヴィル、フランス

 3月11日、我が国観測史上最大の地震と津波に見舞われて以来、世界中から頂いた支援と連帯に対し、心から感謝申し上げます。特に、ここにお集まりの皆さまからも、お見舞いの電話や励ましのお手紙を頂き、訪日されたサルコジ大統領からは、直接の激励を頂きました。
 福島第1原子力発電所事故の、1日も早い事態の収束に向けて、 各国から様々な支援を頂いていることに、改めて感謝します。世界の英知と技術を結集し、事態は少しずつ安定化しています。事故の早期収束に向けて、引き続き全力を挙げます。来年1月までには、冷温停止の状態に持って行きます。
 我が国のビジネスと観光は、通常どおり行われています。原発周辺地域を除けば、東京を含め、放射性物質のレベルは減少しており、人体に全く危険はありません。
 また、経済活動は急速に復興しており、新幹線は早期に全面的に復旧し、空港と港湾も活動を再開しました。生産拠点も、被災したものの6割強が復旧し、残り3割弱も夏までに復旧する見込みです。
 私は昨年のムスコカ・サミットにおいて、「財政運営戦略」及び「新成長戦略」を説明しましたが、その後、さらに「包括的経済連携に関する基本方針」を策定し、新たな成長の実現に取り組んできました。震災後もこうした方針を堅持するとの「政策推進指針」を、先週、閣議決定しました。現下の状況を「日本の新生」の重要な機会と捉え、震災復興に全力で取り組みます。


(原発:福島を収束)
 原発の事故によって、国際社会にご心配をかけたことを重く受け止め、遺憾の意を表します。
 当面の課題は、原子炉を冷却し、安定状況に持って行きたい。来年1月までに、放射性物質の放出を抑制し、管理することであり、工程表に従い、これを達成すべく取り組みます。また、最大限の透明性をもってすべての情報を国際社会に提供します。さらに、「事故調査・検証委員会」を既に立ち上げました。この調査委員会は、「行政からの独立性」、「世界への公開性」、「包括性」という「三つの原則」に基づいて活動します。外国人専門家の意見もいただきます。その結論は全て公開し、今後の原子力安全の確保に向けて、積極的に貢献します。
 放射線被害から全ての人々を守ることは、最大の課題です。我が国では、食品については規制値を上回るものは出荷制限の措置を講じ、工業製品についても安全性を確保しています。G8各国におかれては、我が国との取引については、科学的根拠に基づいて対応されるようお願いいたしします。


(「エネルギーの未来を拓く4つの挑戦」)
 今回の震災及び原発事故を受けて、我が国はエネルギー基本計画を見直します。これまでの「原子力エネルギー」と「化石エネルギー」という2本の柱に、「自然エネルギー」と「省エネルギー」という 2本の柱を加え、4本の柱を打ち立て、エネルギーの未来を切り開くべく、4つの挑戦を行っていきます。

(1)原子力:安全性の向上
 第1の挑戦は、原子力の更なる安全性の向上です。今回の事故は自然災害と原子力事故の同時発生であること、 複数の原子炉事故の同時進行であること、事故の長期にわたる継続進行であることという3つの点で前例のない経験でした。この経験を教訓として、国際社会と共有していくことは我が国の責務です。
 地震・津波対策を含めた最高水準の原子力安全を目指して取り組むとともに、今回の事故に関する情報を迅速に国際社会に提供します。世界の専門家との協力により、事故の徹底的な原因究明を実施します。検証作業から得た知見に基づき、国際原子力機関(IAEA)を中心として行われる、原子力安全基準の策定をはじめとする取り組みに最大限貢献します。
 その観点から、来年後半、「事故調査・検証委員会」の検討も踏まえ、原子力安全に関する国際会議を日本でIAEAと協力して開催したいと考えており、是非G8各国の参加をお願いします。

(2)化石燃料:環境負荷
 第2の挑戦は、化石燃料の環境への負荷を大胆に削減することです。化石燃料が、中長期的にも世界のエネルギーの6割以上を占めることが見込まれる中、化石燃料の徹底した効率的利用を進め、二酸化炭素の排出削減を極限にまで図っていきます。
 例えば、分散型電源の普及を加速化し、従来の大規模火力発電では廃棄していた大量の未利用熱の有効利用を図ります。石炭ガス化複合発電(IGCC)技術に燃料電池を組み合わせることにより、熱効率を5割増加させ、二酸化炭素の排出を削減します。

(3)再生可能エネルギー:実用性の飛躍的拡大
 第3の挑戦は、再生可能エネルギーの利用の飛躍的拡大です。我が国が、今回の地震と津波から学ぶべきことは、「自然の恐怖」ではなく、むしろ「自然と共生」し、「自然の恵み」を最大限に活用することです。
 未来に向けて、我が国として再生可能エネルギーを基幹エネルギーの1つとして加えるべく、実用性の飛躍的な向上に挑戦します。
 発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を、2020年代の出来るだけ早い時期に、少なくとも20%を超える水準となるよう、大胆な技術革新に取り組みます。その一歩として、太陽電池の発電コストを2020年には3分の1、2030年には6分の1まで引き下げることを目指し、さらに日本中の設置可能な約1千万戸の屋根のすべてに、太陽光パネルの設置を目指します。また、日本の技術力を結集し、大型洋上風力、藻類などからの次世代バイオマス燃料、バイオマスエネルギーや地熱について、本格的導入を目指します。

(4)省エネルギー:可能性の限りなき追求
 第4の挑戦は、省エネルギーの可能性の限りなき追求です。今回の震災は、エネルギー消費を際限なく増加させ続ける社会のあり方を自問する契機となりました。
 我が国は、経済や社会を省エネのかたちに変革し、新しいワークスタイルやライフスタイルの創造を後押しします。
 我が国では、古くからの生活の知恵として、路地に打ち水をして外気の温度を下げ、窓にすだれを懸けて日射しを避けながら自然な風通しで涼をとってきました。こうした伝統的な知恵と最先端の技術を組み合わせることで新しい街作り、家作りが始まろうとしています。例えばスプリンクラーやドライミストにより、都市部の日中温度を引き下げます。空気を床下や壁に取り込んで冷暖房効果を高めます。
 同時に、自然エネルギーやコジェネ技術をスマートグリッド 技術と融合させ、大規模集中型システムから地域やコミュニティの特徴を活かした省エネ効果の高い分散型システムへの転換を図ります。被災地でもモデル的実験を行います。
 以上の4つの挑戦を通じて、21世紀型の新たな社会のあり方を創造していきます。このことこそ、未曾有の試練に直面した我が国が国際社会に示しうる、最高の感謝の形と信じます。冒頭発言の機会を頂き、サルコジ大統領の配慮に感謝します。