官報資料版 平成12年6月28日




                  ▽中小企業白書のあらまし………中小企業庁

                  ▽我が国のこどもの数……………総 務 庁











中小企業白書のあらまし


中小企業の多様で活力ある成長発展


中小企業庁


 本年四月二十五日、平成十二年版中小企業白書が閣議決定され、国会に報告された。
 今回の中小企業白書は、昨年十二月に中小企業基本法が制定後三十六年を経て全面的に改正された後の最初の白書である。
 新しい中小企業基本法では、中小企業は「我が国経済の活力の源泉」として位置づけ、新たな政策理念として「中小企業の多様で活力ある成長発展」を掲げている。
 しかし、中小企業を取り巻く環境は依然厳しく、その景況の回復の足取りは大企業と比較して重い。その理由として考えられるのは、情報技術革新、資金調達環境の変化など経済社会の構造変化への中小企業の対応の遅れである。
 このような認識の下、今回の白書では、小規模企業を始めとする中小企業が経済社会の構造変化に対応し、課題を克服しようとする姿を描いている。
 また、民需主導の景気回復の牽引力の一つとして期待されている創業については、「創業が活性化される事業環境」の必要条件は何か分析を行うとともに、集積が創業を促進する機能に着目しながら、類型の整理等を行っている。
 さらに、中小企業の動向については、平成十年秋を最悪期とする金融システム不安・信用収縮が中小企業に与えた影響や、これに対する中小企業の対応、政府の対策等を分析するとともに、昨年行われた中小企業政策の基本理念の転換と、その背景について紹介している。
 以下、白書の概要を紹介する。

第1部 構造変化する経済社会での中小企業の挑戦

第1章 構造変化する経済社会での中小企業の挑戦

第1節 情報技術革新と中小企業

1 情報技術革新が中小企業に与えるインパクト
 我が国の企業間の電子商取引は、平成十五年には平成十年の七倍強の六十八兆円に拡大すると予測されており、電子商取引市場の拡大を示していると同時に、これまでの取引形態に大きな変化ある可能性も併せて示している。このように、情報技術革新は、@新たな経営への挑戦を後押しする道具、新たなビジネスチャンスをつかむ道具を提供する等のプラス面と、A従来とは性格の異なる新たな競争に直面する可能性をもたらす等のマイナス面、の両面で大きなインパクトをもたらしており、中小企業に対しても今後もその影響は強まると考えられる。

2 情報技術の導入・活用に当たっての考え方
 情報技術革新がもたらすマイナスの影響を最小限に抑え、プラスのインパクトを最大限に活用すべく、中小企業も何らかの行動を起こす必要があるが、それは必ずしも今すぐに多額の情報システム関連投資を行う必要性を意味しない。逆に、安易な情報システム関連投資に陥ることなく、現時点での自社のレベルや取り巻く環境を見据えつつ、今後の動向をも見越した、冷静かつ計画性のある対応こそが必要である。
 情報システム関連投資を行っている中小企業では情報システム関連投資を行っていない中小企業に比べて売上高が増加している企業割合が大きく、情報システム関連投資は売上高の増加にプラスの効果があると思われる。ただし、売上高が一〇%以上増加する確率への寄与を見ると、情報システム関連投資割合が大きければ大きいほど売上高の増加にプラスの効果があるとは一概には言えず、また、「情報システム関連投資の目的が不明確」の場合は、売上高の増加に対してマイナスの影響を与えている(第1図参照)。この結果は、情報システム関連投資は単に資金を投入すれば良いというものではなく、情報システム関連投資をその目的を明確にしないままに行う場合には、経営成果にはマイナスとなることを示している。
 情報技術の活用も費用対効果を考えながら戦略的に行うべきものであり、情報システム関連投資を特別視するのではなく、@業務の改善・再構築といった経営の合理化のための情報技術の導入、A新たなビジネスに挑戦するなど経営革新のための情報技術の活用など、あくまでも道具・手段として、他の設備投資と同様に是々非々の考え方で投資の意思決定をしていく必要がある。

3 流通・物流分野の情報技術革新
 小売業における情報技術活用の第一歩は、顧客データベース作成、POSシステム導入である。POSシステムは、商品の種類が多く、個々の商品サイクルが短い商品等の売れ筋・死に筋情報を把握することに対しては有効であるが、回転率の低い商品の場合には、売れ筋情報等を把握する必要性が小さく、導入のメリットも小さいと考えられる。このため、POSシステムの導入は、取り扱う商品の特性を踏まえて検討することが必要である。
 情報関連投資を積極的に行っている中小卸売業では、物流効率化投資も積極的に行っている傾向が見られる。小売業の共同情報処理、共同配送なども進展しており、共同仕入れ、共同受発注を行うボランタリー・チェーン、フランチャイズ・チェーンへの加入だけでなく、個々の小売業の独立性を維持しながら、発注、検品など流通加工、配送などの情報処理を共同で行う例も見られる。また、情報化・物流効率化投資に関するノウハウを持たない中小卸売業は、物流関連業務等をアウトソーシングし、得意な仕事に特化することも一つの選択肢であり「サードパーティ・ロジスティクス」と呼ばれる、物流システムの設計から運営・管理まで、物流業務全般を受託する専門業者の事例も見られる。

4 SOHO
 SOHO事業者の年齢は、三十代以下が八割であり、一般の中小企業経営者よりも相当若く、また、その創業時の年齢と比較しても若い。SOHO事業者が創業に要した費用は、百万円未満が八五%であり、自己資金を中心に資金調達している。
 SOHOの業務内容を、SOHO事業者が実際に受注した業務で見ると、「ワープロ、データ入力、文章の校正」、「ホームページ作成」、「デザイン」、「執筆・編集」、「プログラム開発」等となっている。なお、「翻訳」については、SOHO、発注企業ともにSOHOに適すると考えているが、実際の受発注の割合は小さい。
 SOHO事業者の、SOHO事業からの年収を見ると、五九%が百万円未満である。年収の分布を見ると、五十万円未満を中心とする百万円未満の集団と、百〜八百万円を中心とする百万円以上の集団があり、SOHOの年収・売上げは二極化している。パートタイマーの就労調整と同様の就労調整が、SOHOでも行われている可能性が高い。SOHO事業者の中には、1)ベンチャー企業を含む中小企業者が、自宅や小さな事務所で開業している者、2)パートタイム労働の代わりに在宅でインターネットを介して仕事を行っている者、3)本調査では調査対象としていないが、大企業の従業者で在宅勤務を行っている者など、性格の異なる事業者等が混在していると考えられる。
 SOHOが発展するための要望事項を見ると、「インターネット料金の低減」が突出しており、次いで「SOHO事業者と発注企業を仲介する機能」、「最低賃金等のガイドライン」等が挙げられている。

第2節 金融システム改革・規制改革などの構造変化

1 金融システム改革と中小企業の資金調達戦略
 我が国の金融機関は、かつて、事実上の出資とも言えるような長期の安定的な融資を中小企業に対して行ってきたが、現在、各金融機関は、BIS規制への対応、早期是正措置に対応した自己資本比率の引上げ、自己査定を行うなど、経営内容の建て直しを図っており、以前の行動に比べて、貸出先の選別や、リスク管理を徹底してきている。金融機関にとって、顧客別リスク管理は、顧客別収益管理でもあり、金利リスク・信用リスクも含めて顧客ごとに取引採算を把握し、高収益をもたらしてくれる顧客に対してはサービスを充実させ、囲い込みを図り、逆に、低収益の顧客に対しては、金利の引上げや、サービスの削減を行う動きが見られる。一般に中小企業は、大企業に比べて信用リスクは高く、取引ロットは小さいため、このような管理が徹底されるほど、金利や手数料を引き上げられたり、渉外員の訪問回数などサービスが低下することが考えられる。
 中小企業が金融機関に対して抱いていた、「自社が資金面で困難な状況に陥ったとき最終的には支援してくれる」、「自社の資金面のことは当該金融機関に任せておけばまず問題ない」、「当該金融機関が経営破綻することは考えられない」といったかつてのイメージは、薄れてきている。中小企業においては、資金調達先として自らを最も高く評価してくれ、良いサービスを提供してくれる金融機関はどこかを、再検討することも重要である。平成八年以降、最多借入先(メインバンク)を変更したことがある中小企業は一九%であるが、金融機関を変更した理由について見ると、「他機関から有利な条件を提示された」が最も多く、有利な資金調達の追求によるものであるが、以下は、「借入条件を厳しくされた」など、金融機関の貸出態度が厳しくなったことによるものが続いている。
 また、中小企業が金融機関の行動変化に対応するためには、キャッシュフロー(現金収支)を重視するとともに、主体的な資金調達・財務戦略を検討することが重要となっている。そのために重要なことは、事業計画を策定し、それに基づいて計画的な資金繰り計画を行うことである。中小企業の事業計画の有無について見ると、「具体的に事業計画を持っている」と回答した企業は三割にとどまっているが、事業計画を策定するきっかけについて見ると、「いわゆる『キャッシュフロー経営』導入の必要性を認識したため」と回答する企業が二七%となっており、「キャッシュフロー経営」の重要性を認識している中小企業も見られる。
 中小企業が一つの金融機関に取引を集中させると、金融機関から見れば顧客別収益が高まり、中小企業から見れば、より低価格あるいは高水準のサービスを享受できる可能性がある一方、その金融機関を取り巻く環境や、金融機関の経営方針の転換による影響を受けやすくなる。中小企業は、他の金融機関からもっと低い金利で調達できないのか、また、直接金融市場において調達する方法は無いのかといったことを絶えず検討しなければ、資金調達コストを引き下げる機会を逃すことになる。金融機関からの借入れが根雪のように長期化し、中小企業経営者が、借入れを事実上の資本金のように感じているとすれば、信用収縮時の貸し渋り・資金回収の体験で明らかになったように、大きなリスクを抱いていることになっている。したがって、中小企業においては、自らの力量を適切に判断した上で、他の金融機関からの借入れを考えるなど、資金調達先の集中と分散のメリットとデメリットを考えていく必要がある。
 大多数の中小企業にとって間接金融中心の資金調達行動が大きく変化するとは考えにくいが、成長志向で、将来の業績が期待される中小企業は、情報公開(ディスクロージャー)を重視しながら、直接金融の道も探るべきである。我が国でも、中小企業の上場も念頭に置いた直接金融市場の創設・整備が進められている。

2 規制改革と中小企業
 規制改革については、中小企業、大企業とも六割の企業が「賛成」又は「どちらかと言えば賛成」であり、「反対」又は「どちらかと言えば反対」とする比率は企業規模にかかわらず四%未満である。規制改革を受けて、携帯電話、インターネット・プロバイダー、有料職業紹介事業・労働者派遣事業、国内航空、地ビールなどの分野で活躍する中小企業が見られる。

第3節 変化する労働市場、アウトソーシングと中小企業

1 変化する労働市場と中小企業の人材確保への取り組み
 近年、日本経済の構造改革が本格化し、労働市場についても、円滑な労働移動や業績に応じた弾力的な処遇など新たな活力が求められるようになったことに、長引く不況も加わって、一般労働者の減少と終身雇用慣行の変化、非正規従業者利用の拡大、中途採用の活用、個々の従業者に対するきめ細かな評価の一層の進展、フリンジベネフィットの企業規模間格差の縮小と緩やかながらも確実な変化が見られ、大企業と中小企業の雇用慣行の違いが小さくなる方向にある。
 また、大企業は大卒新規学卒者の採用を抑制しており、中小企業にとって優秀な人材を確保しやすい状況とも考えられる。量的には中小企業の人材の確保は進展している。
 しかし、すべての中小企業が人材確保に成功している訳ではない。その理由の一つとしては、大企業の賃金が中小企業を上回っていることが考えられる。しかし、成果等に基づく個々の従業者に対するきめ細かな評価が一層進展することで、中小企業の従業者でも、大企業と遜色ない賃金を得る者が増えていくと思われる。ベンチャー企業を始めとする先進的な企業等では、年俸制の導入やストックオプションを活用している企業も見られ、成果を上げている。

2 アウトソーシング
 大企業においては、自社の経営資源で全ての業務を行おうとする傾向があったが、事業の再構築(リストラクチャリング)を図るための有効な手段として、非効率、高コスト分野を、社外ネットワークを作りながらアウトソーシング(業務の外部委託)することにより、これらのコストを変動費化して景気変動への柔軟な対応を図ったり、自社の経営資源を、コア・コンピタンスに集中することにより経営の効率化を図る企業が増えてきている。
 アウトソーシングを行っている企業(以下、委託企業と言う。)は六割以上ある。大企業が委託している分野について見ると、「情報処理関連」が五割を超え、「施設管理・防犯」、「一般事務処理・総務」、「物流」、「製造」、「研修などの従業員教育」などが続いている。今後は、更に様々な分野がアウトソーシングの対象になると思われる。
 事業所向けアウトソーシング関連ビジネス(受託企業)の事業所数及び従業者数を見ると、事業所数、従業者数ともに増加傾向にある。中小事業所数を見ると、全事業所数の約八割を占めていて、受託企業には、中小企業が多いことが分かる。また、受託企業として活動する中小企業の中には、急成長を遂げ、株式店頭公開にまで至った企業も見られる。
 また、事業所向けアウトソーシング関連ビジネスだけでなく、個人向けサービス業も拡大している。
 一方、アウトソーシング受託企業側が受託業務を行う上での今後の課題を見ると、「人材の育成・登用」については、創業時期にかかわらず高い割合になっている。受託企業の従業者確保について、増員方法は、「専門知識、技能を有した人材の中途採用」が、平成六年以降に創業した企業では九割近くになっており、新たに受託企業として事業活動を開始した中小企業は、雇用創出をもたらす受け皿として、大きな役割を果たしている。

第4節 中小製造業の研究開発等への取り組み

 高度成長期において、我が国の製造業は、大量生産による規模の経済性を発揮して成長してきた。しかし、グローバリゼーションの進展により、世界中の製品が我が国に流入し製品間差別化競争が一層進展しつつある一方、経済の成熟化に伴い人々のニーズが多様化している。このような状況の下では、画一的な製品を大量に生産する従来の生産システムは通用せず、創造性の発揮、そのための研究開発活動等が一層重要になる。
 中小製造業は研究開発を行うための資金や人材等の経営資源が乏しいが、人材の確保・外部資源の活用により研究開発に挑戦している。研究者を中途採用したり、他の中小企業、公設試験所、大学、大企業と連携して研究活動を行うことは、営業利益を上げる効果がある。
 また、自社の研究開発成果を特許で保護し、その活用を通じて次の研究開発投資につなげるほか、他者により特許化された技術を活用するために、特許に積極的に取り組んでいくことも重要である。特許の取得は、中小製造業の売上総利益を上げる効果が認められ、特許・実用新案の導入には、従業者一人当たりの売上総利益を上げる効果が認められる。

第5節 構造変化を受けて業績が分かれる中小流通業

 中小小売店及び中小小売業の主たる活動の場である商店街は、全体としては、その活力を低下させつつある。その原因の一つとして、消費者のニーズに対応していないことが考えられ、実際、消費者の商店街及び大規模小売店舗に対する不満を見ると、商店街に対しては「駐輪場、駐車場等の施設が整備されていない」、「店の種類が少ない」、「価格が高い」等と様々な不満を挙げる消費者が多い(第2図参照)。
 商店街は、計画、開発、所有、管理運営が一元的に行われているため業績が良好な「ショッピングセンター」との商業集積間競争に直面している。したがって、ショッピングセンターと対抗するためには、既存の商店街も、「商店街マネージメント」という考え方を導入することが必要である。
 業績の良い商店街には、「大型店を含む商店数伸び率が高い」、「従業者数伸び率が高い」、「業種転換率が高い」、「開業率が高く廃業率が低い」、「駐車場保有店舗比率が高い」、「平成四年以降に開業した店が多い」といった特徴が見られる。また、業績の良い商店街では「大型店以外の商店の年間販売額伸び率が非常に高い」という特徴も見られ、個々の中小商店の努力と商店街全体の活性化の好循環が生じている。
 中小小売業の経営革新の一つの方向として、消費者のニーズに対応するために、新業態開発(品揃え手法の考案、導入、新たな販売方法の導入、新サービスの付加)や、業態転換を行うことが考えられる。業態転換の効果について分析したところ、業態転換をした小売商店の業績のばらつきは大きく、業態転換にはリスクも大きいと考えられるが、業態転換している小売商店は業態転換していない小売商店に比べて、年間販売額伸び率の平均は高くなっている。
 また、インターネット販売や、通信・カタログ販売は、店舗を出店して販売する場合に比べるとコストが安く、中小企業でも参入しやすいという特徴がある等、小規模商店にとっても、一つのビジネスチャンスになっている。

第6節 少子・高齢化に対応する家事支援サービス業

 高齢化や少子化の進展により、家事支援サービスへの需要の増大が見込まれ、中小企業等による多様なサービスの提供が期待される。保育園が提供するサービスの多様性を運営主体別に見ると、中小企業(認可外保育園)、社会福祉法人等(民間認可保育所)、公立保育園の順にサービスが多様でなくなっている。一方、児童一人当たりのコストを運営主体別に比較すると、中小企業(認可外保育園)のコストが最も低く、社会福祉法人等(民間認可保育所)、公立保育園の順にコストが高くなる。運営主体によるコスト格差の要因としては、公務員、正社員、パートタイマーの比率の違いによる差を含めた保育士等の給与水準の差などによる人件費の違いが大きいことである。しかし保育園の料金について見ると、中小企業(認可外保育園)は、公立保育園、社会福祉法人等(民間認可保育所)よりも料金が高くなっている。コストが高い公立保育園、社会福祉法人等(民間認可保育所)が、コストの低い中小企業(認可外保育園)よりも料金が安いという逆転現象が生じている主たる要因は補助金の違いである。
 介護サービスは、そのほとんどが公的部門及び社会福祉法人により提供されてきた。介護サービス実施主体に占める民間企業の割合は、在来型、施設型合わせても全体の一割に満たない状況である。しかし、介護保険制度の導入に伴い、介護サービスのニーズの増大が見込まれ、民間企業にとってもビジネスのチャンスが大きい。介護サービスに従事する質の高い人材を確保・育成することは容易ではなく、簡単に業容の拡大が図れるものではない。
 家事支援サービスは、多様なニーズにきめ細かな対応が求められる場合が多く、良質な人材の安定的な確保が重要である。家事支援サービスの従業者には被扶養配偶者が多いが、被扶養配偶者である場合は、@住民税が年収百万円(給与所得控除額六十五万円、非課税限度額三十五万円)以下の場合にはかからない、A所得税が年収百三万円(給与所得控除額六十五万円、基礎控除額三十八万円)以下の場合にはかからない、B配偶者控除が被扶養配偶者の年収が百三万円以下であれば受けられる、C年金・医療保険の保険料納付の義務が年収百三十万円未満であれば課されない、D配偶者特別控除が扶養配偶者の年収が一千万円以下で、被扶養配偶者の年収が百四十一万円未満であれば受けられるといった制度や、それに準じた企業等の配偶者手当給付などを考慮して、働く時間を調整している実態がある。労働者の調査では約三割が就労調整を意識しており、その実態が認められる。これらの調査結果によれば、中小企業が営む家事支援サービス業においては、パートタイム労働者を雇用する他の事業者と同様に、就労調整が、経験豊富な従業者を安定的に確保するための障害の一つになっているとの指摘がある。

第2章 活性化する創業・経営革新

第1節 創業・経営革新の事業環境

 米国では、良好な創業・経営革新の事業環境の下で、起業家と関係者が、将来の大きな利益を夢見て共同作業を行い、創業の活性化や、ベンチャー企業の飛躍的な成長を実現してきた(第3図参照)。
 創業は、起業家と投資家などの共同作業で実現される。起業家と関係者にとって、@創業・経営革新の成果が評価される直接金融市場、A弁護士、会計士、弁理士など創業・経営革新に向けた専門的なサービス、B利益を関係者に分配する報酬制度や、ベンチャー企業への投資を促進する税制、C利益の分配とリスクの分担の法的枠組を設計するための会社法制・倒産法制、D創業・経営革新のシーズを提供する大学等研究機関などは、創業・経営革新を支える重要な事業環境である。
 魅力ある創業・経営革新の事業環境を整備するためには、創業・経営革新が活発な国を参考にして、我が国の創業・経営革新の事業環境を点検し、改善する努力を行うことが重要である。

1 直接金融市場
 ベンチャーキャピタリストなどは、リスクを取り、大きなキャピタルゲインを期待して、投資・支援を行う。また、大企業の一部には、ベンチャー企業に投資してビジネスパートナーとして育成しようとする動きもある。
 ベンチャー企業への投資の回収方法には、@株式公開を行い、株式を売却して投資を回収する方法と、A買収・合併(M&A)により、株式を現金や他社株と交換することにより投資を回収する方法がある。
 株式公開等により得られた利益は、スタートアップから参加した人々に分配され、優秀な人材を創業に参加させる原動力になっている。短期間で億万長者になる夢は、米国だけでなく、我が国でも現実のものになりつつあるのである。
 株式を公開するということは、不特定多数の人が株主になり得るということであり、株式公開会社は、1)投資家に最新の経営状況を明らかにするため、証券市場が定めた頻度・時期と開示内容を守って情報を開示するという「適時開示の原則」に従ったディスクロージャーを行うこと、2)投資家向け広報活動を充実させ、会社説明会や年次報告の作成などにより、投資家に自社の経営方針や財務戦略を十分に知らせること、3)社長の個人財産と会社財産とを明確に分離すること、4)経営戦略、会社組織の明確化など社内体制を整備すること、5)利益操作の可能性の排除、連結決算体制の明確化など関連会社を整備すること、6)法令遵守(コンプライアンス)を確立することなどが必要となる。特に、一般投資家を保護するために、ディスクロージャーは重視される。

2 創業・経営革新向け専門サービス
 米国のハイテク産業が集積している地域では、ベンチャーキャピタリスト・ベンチャーキャピタル運営組織、弁護士、会計士や弁理士を始め、投資銀行、コンサルティング、事業性・企業価値の評価、人材派遣、契約生産、安全規制対処、事業所貸し等多様な創業向け専門サービスが発達している。これらの多様な専門サービスは、互いに分業し、ネットワークを形成することにより、相互にリスク分担を行うとともに、その見返りとして、莫大な成功報酬を得ることがある。米国では、起業家や投資家だけが富を手に入れているのではなく、これらの専門サービスの多くの優秀な人材の中からも億万長者が生まれている。
 米国のベンチャーファンド(基金)が、リスクの極めて高いベンチャー企業に投資できる理由としては、1)ポートフォリオを組んで多数のベンチャー企業に投資してリスク分散を図ること、2)優先株にリスクを避けるための条件を付けていることが挙げられる。優先株に付けた条件を活用して、ベンチャーキャピタリスト・ベンチャーキャピタル運営組織は、1)経営者の罷免権を活用してベンチャー企業の経営に関与したり、場合によっては有能な他の経営者に交替させたり、2)持分の希釈化防止条項を活用して、事業がうまくいってから出資して経営権を入手しようとする大手資本に主導権を奪われないようにしている。
 米国会社法では、優先株の権利内容は当事者間で自由に決められるため、ベンチャー企業への投資についての関係者の利害調整の結果をそのまま優先株の条件とすることができる。投資家にとっては、自分の付けた条件が優先株の条件として定款等に記載されるため、他の株主に対抗できるなど法的リスクがなく、安心して投資できるのである。
 米国のベンチャーファンド(基金)は、1)ベンチャーファンド(基金)、投資家やファンドの構成員が二重課税されないこと、2)投資が失敗したときの責任が有限責任となること、という目的を達成するために、ベンチャーファンド(基金)を設立する際に、株式会社(C コーポレーション)ではなく、リミテッド・パートナーシップなどの事業組織形態を選択することが多くなっている。ベンチャーキャピタリスト・ベンチャーキャピタル運営組織とベンチャーファンド(基金)の事業組織形態の組合せにより、二重課税回避と有限責任の両立を図っている。我が国では、「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」が施行され、米国のリミテッド・パートナーシップと同様の事業組織形態を採ることも可能となった。
 弁護士について見ると、米国では、数百人、一千人規模の法律事務所も存在し、これらの法律事務所の一部が、創業企業の経営方針の根幹を決める際に、法律的な視点から、ビジネスプランに関して、最も効率的、かつ、法的リスクの低い方針をアドバイスするなど、戦略的な法務サービスを提供している。我が国の弁護士は、自らの専門分野や実績を広告することが禁じられていたが、平成十二年三月に、日本弁護士連合会(日弁連)は会則を改正し、平成十二年十月から弁護士の広告を原則自由としている。

3 ストックオプションなど報酬制度の現状
 米国でも、かつて(一九七〇〜八〇年代)は、基本給が八割、成果報酬(インセンティブ)が二割程度であったが、一九九〇年代になると成果が重視され、1)基本給、2)インセンティブ(短期・長期)、3)ベネフィット(年金・福利厚生)の三つで構成される「総合報酬」という考え方が一般的になってきている。
 創業時の株式保有が、起業家にとって大きなインセンティブであるが、米国では株式会社(C コーポレーション)他への労務出資が認められており、現金による出資がなくても創業前に独自で行った技術開発や創業への貢献に対して、通常七〇〜九〇%の株式が割り当てられる。その後、エンジェル、外部資金の導入により創業者の持分は三〇〜六〇%程度に希薄化していく。また、創業以降の経営陣や主要な従業員に対しても、一〇〜二〇%程度の株式がインセンティブとして付与されるのが一般的である。
 我が国でも、米国ストックオプション制度を参考にしたストックオプション制度が平成九年に創設された。しかし、米国に比べて利用度は低く、その代わり、いわゆる擬似ストックオプションと通称されているものが普及し始めている。

4 会社法制・倒産法制の現状
(1) 日米の会社法制の現状
 米国では、Cコーポレーション以外の事業組織については、事業組織自体には課税されない「パス・スルー」が認められており、また、事業で生じた損失(キャピタルロス)を出資者の一般所得と通算することができるため、創業直後で赤字が確実に見込まれる事業は、パス・スルーが認められる事業組織を選択している。また、事業が順調に発展し、株式公開を指向する場合には、これらの事業組織を、容易にCコーポレーションに改変することができる。
 我が国では、1)株式会社化することにより、社会的信用力が向上すること、2)株式会社でなければ資本調達が困難であること、3)出資者の募集には有限責任性が不可欠であること、からベンチャー企業の創業に際しても株式会社を選択し、会社の設立が難しい場合には、個人企業の形態をとるケースが多い。
(2) 倒産法制の現状
 米国では、連邦倒産法に基づき倒産の処理がなされる。連邦倒産法は、手続開始の間口が広く、債権者の債権回収行為も債務者に最低限の資産を残すよう制限されており、経済的破綻をきたした債務者が精算によって新たな再出発を目指したり、事業再建によって再び市場に挑戦することを支援している。
 我が国では、破産法による破産手続、商法による特別精算、会社整理手続、会社更生法による会社更生手続、民事再生法による民事再生手続の五つの倒産手続きが規定されている。
 平成十二年四月施行の民事再生法は、和議に代わる新たな個人・法人の倒産処理手続を定めている。民事再生手続は、中小企業にも使いやすく、実効性のある手続として期待されている。企業に余力のあるうちに再生を試みることができ、事業に再挑戦しやすくなることが期待されている。
 なお、我が国の間接金融機関は、融資の際に、個人資産を担保に入れたり、個人保証を求める慣行があるため、事業失敗時には、全財産を失い再起不能となりやすいことが指摘されている。このため、1)創業時の資金調達に対して政府の支援を充実させているとともに、2)ベンチャー企業の創業・経営革新に対しては、当初から直接金融市場を志向したベンチャーファンド(基金)によるファイナンスが行われ始めている。

5 技術移転・創業に対する大学の寄与
 米国主要大学からの特許権実施許諾件数を大学別に見ると、上位にランクされる大学は、スタンフォード大学、カリフォルニア大学、MIT(マサチューセッツ工科大学)等一部の大学であり、実施許諾件数の五〇%は上位十三大学で占められている。これは、創業件数についても同様の傾向であり、米国では大学から相当数の特許権実施許諾や、それを基にした創業が行われているが、その内訳を見ると、質の高い研究が盛んに行われており、技術移転オフィス(TLO)の整備など技術移転プログラムの歴史が長く(十五〜二十年以上)、十分に技術移転ノウハウが蓄積された一部の大学の実績が突出している。
 米国の質の高い研究が盛んに行われている大学の教員は、大学内外において激烈な競争環境に置かれている。大学内部においては「テニュア」(終身雇用の権利)を得る競争にさらされる。テニュアを獲得する要件は、1)科学者の能力(研究の質:研究論文及び出版物、政府補助金の獲得実績、当該研究分野における外部の評価)、2)教育者としての能力(教育の質)、3)大学への貢献能力等の項目が重視される。
 米国の大学教員は、連邦政府機関からの研究費の獲得を目指して、他大学・研究機関の研究者とも競争している。米国の大学における研究費の七割以上が政府研究費に依存しているため、これを獲得できないと研究ができなくなるが、審査は競争的で厳しい。
 米国のTLOも、最初から機能していたわけではなく、一九八〇年代初頭には、大学が生み出す研究成果と民間企業が求めるニーズとにはギャップが存在し、それを埋めるノウハウがない等の事情があった。しかし、時を同じくして一九八〇年代の米国では、専門性を持ったベンチャーキャピタリストを始めとする創業の事業環境が整っていった。これらの相乗効果で、1)大学の技術移転のための法的取扱いや、2)ビジネスの観点からの評価、3)大学技術を用いた創業ノウハウが形成され、TLOは、大学技術の移転や創業を地域全体で支援する活動の中心となっている。

第2節 集積の創業・経営革新促進機能

 集積は、ものづくりを支える基盤であり、地域の産業の力の源泉となっていて、我が国経済や地域の活性化に大きな役割を果たしている。また、グローバル化が進展する中で、国境を越えた集積相互の地域間競争・地域間協力(例えば、シリコンバレーと台湾の新竹)なども活発になってきている。他方、我が国の集積は、産業の海外展開、情報技術革新の進展、近年の経済停滞等によって大きな変革にさらされている。
 集積は、自ら創業することに関心を持つ人材を育てたり、創業後間もない企業がビジネス活動を展開する時に必要な機能を提供すること等から、創業を促進する機能があり、その役割は今後とも重要であると考えられる。

第3節 創業・経営革新の重要性

 我が国の開業・廃業の動向について見ると、平成三年から平成八年にかけての企業ベースでの年平均開業率は二・七%、廃業率は三・二%となっている。昭和六十一(一九八六)年以降、廃業率が開業率を上回っている。
 我が国における中小企業は新規創業を生み出す最も大きな基盤であり、創業する企業は、設備投資を伴うことから、創業の活性化は設備投資の拡大、ひいては需要拡大と生産能力向上の効果を持つと考えられる。また、新規創業は雇用創出効果が大きく、この数年で開業した事業所での従業者数の各業種に占める割合を見ると、製造業で三一%、卸売業で一四%、小売業で二一%となっており、新規開業が雇用創出をもたらしていると言える。
 既存企業が自社を取り巻く環境の変化に積極的に対応する経営革新も、創業と同様に経済の活性化に貢献している。中小企業のうち、新分野に進出した(業種転換を図った)企業とそうでない(業種転換を図ってない)企業との付加価値額と出荷額をそれぞれ見ると、新分野に進出した企業の方が、いずれも高くなっている。既存の企業が、積極的に新たな事業分野に進出したり、新たな技術による製品開発を行ったり、新たな発想でビジネスを展開していく経営革新は、経済の活性化に貢献していると言える。
 我が国は、近年、中長期の経済成長を実現するため、例えば、規制改革などの経済構造改革を推進するとともに、法人課税の実効税率の国際水準並みへの引下げ、個人所得税の最高税率の引下げなどの税制改革を実施しているが、これらの施策の多くは、創業・経営革新をも促進するものである。
 経済構造改革は広範に及んでいるが、個々の規制や各種制度はそれぞれ一定の意義を有しているため、どのような優先順位で、どの程度踏み込んで改革を実施すべきか判断することが難しい面がある。創業・経営革新を促進するという切り口で経済構造改革の個別の事項を評価することは、改革と効果の因果関係が比較的はっきり見えるので、どのような改革をどの程度大胆・迅速に行うべきかを考える一つの視点を与えてくれる。

第2部 近年の中小企業の動向

第1章 金融システム不安・信用収縮と中小企業

第1節 金融システム不安・信用収縮と中小企業(回顧)

1 金融システム不安の経済全体への影響
 バブル経済崩壊後、平成七年四〜六月期以降、景気は回復基調へと転じたかに見えたが、平成九年四〜六月期に入ってから景気は再び後退し、金融システム不安の高まりとともに、実質GDP(国内総生産)は、平成九年十〜十二月期から平成十年十〜十二月期まで5四半期連続のマイナス成長となった。この過程において、政府は、平成十年四月の総合経済対策、同年八月の中小企業等貸し渋り対策大綱、平成十年十一月の緊急経済対策等の一連の対策を講じ、平成十一年一〜三月期には6四半期ぶりにプラス成長へと転じている。
 金融環境の変化について回顧すると、バブル経済崩壊後の不況に対し、日本銀行は一貫して金融緩和基調を継続し、最近ではゼロ金利政策を講じている。
 中小企業から見た金融機関の貸出態度は、大手金融機関の経営破綻が発生した平成九年後半から急速に厳しくなっており、平成十年秋頃に向けて、金融システム不安・信用収縮によるパニック的な状況が発生したと考えられる。
 このような状況が生じた根底には、バブル経済期に蓄積された不良債権の増大に伴う金融機関の経営不安がもたらした金融システムの不安定化、バブル経済期の過剰投資がもたらした企業部門の過剰債務、といった問題があったと考えられる。

2 中小企業の資金調達への影響
 金融機関の中小企業向け貸出額の伸び率はバブル経済崩壊を契機に減少し、平成八年以降はマイナスに転じている。この原因としては、金融機関側のいわゆる「貸し渋り」と中小企業側の資金需要低迷が複合的に関連していたと考えられる。
 また、中小企業の設備投資は、金融機関の貸出伸び率の低下とともに、大幅に減少している。設備投資の落ち込みは、金融システム不安・信用収縮だけでなく、有効需要の不足を背景とした売上高や営業利益の減少の影響も大きいと思われるが、設備投資関数を推計してみると、長期借入難が設備投資の抑制要因となっていることも否定できない。このことから、金融機関の貸出態度の悪化が中小企業の設備投資を抑制した側面もあると考えられる。

3 中小企業倒産の状況
 バブル経済崩壊以降、中小企業の倒産件数は増加し、平成九年から十年にかけてピークに達している。倒産企業の負債金額で見ても、平成四年から六年にかけて減少傾向にあったが、平成七年以降は再び増加している。
 平成九年以降の倒産件数の推移を四半期ベースで見ると、金融システム不安が高まった平成九年十〜十二月期以降、倒産件数は増加に転じた。しかし、信用保証協会の特別信用保証制度が創設された平成十年十〜十二月期以降、倒産件数は大幅に減少している。
 平成十一年の倒産原因を見ても、販売不振、赤字累積・売掛金回収難といったいわゆる不況型倒産が占める割合が高く、資金繰り難を原因とする倒産は減少している。

第2節 金融システム不安・信用収縮が与えた影響と教訓

 金融システム不安の発生以降、最多借入先の貸出態度がどのように変化したかを見ると、平成九年秋から平成十年秋頃にかけては前期に比べて「厳しくなった」と感じる企業が多く、「信用保証付を求められるようになった」、「担保・保証人の追加を求められた」といったように、資金調達難に直面する中小企業が増えていったことが分かる。
 平成十年秋以降は、貸出態度DIがプラスに転じていることからも分かるように、貸出態度が緩くなったと感じる企業が増加している。このことを示す金融機関の具体的行動としては、「信用保証付であれば必要額を貸してくれるようになった」が最も多く、平成十年十月から実施された信用保証協会の「特別信用保証制度」の効果が大きかったと思われる。
 金融システム不安の発生以降、最多借入先から貸出態度を厳しくされた中小企業が、実際にどのように対応したかを見ると、対応の性格は、1)政策金融の利用(信用保証協会・政府系金融機関)、2)金融機関側からの要求条件受け入れ、3)資金需要の見直し(経費節減・リストラ、設備投資計画の縮小等)、4)他の手段による調達(知人等からの借入れ、自社の資産売却等)、の四タイプに大別できる。
 金融システム不安の発生以降、政府系金融機関(商工組合中央金庫、中小企業金融公庫、国民生活金融公庫)及び信用保証協会は、融資制度の拡充及び特別信用保証制度の運用により民間金融機関の補完的な役割を果たし、中小企業の資金調達難の緩和、ひいては倒産件数の減少に寄与してきた。
 政府系金融機関から調達した資金の使途については、「売上減等による赤字補填資金」、「回収条件悪化に伴う運転資金」といったいわゆる後ろ向き需要と、「既存事業拡大資金」などの前向き需要が同程度存在している。
 一方、信用保証協会の保証付借入金の資金使途を見ると、従来の一般信用保証制度を利用した企業では前向き需要と後ろ向き需要が混在しているのに対し、特別信用保証制度を利用した企業では後ろ向き需要の割合が高くなっている。特別信用保証制度が、当時のパニック的な信用収縮という金融情勢に対応し、中小企業の倒産を回避するための緊急避難的措置として機能したことがうかがえる。

第3節 信用保証・資本増強等政府の対策の評価

1 対策の経済効果
 政府は、貸し渋り対策や金融システムの安定化を目的として、平成十年八月に「中小企業等貸し渋り対策大綱」を閣議決定し、特別信用保証制度を創設するとともに、政府系金融機関による融資制度を拡充した。また、同年十一月の「緊急経済対策」では、公的資金による金融機関の資本増強など金融システム安定化策に加え、需要追加策を決定した。このような一連の信用収縮・金融システム安定化策及び需要追加策は、日本経済をデフレスパイラルに陥ることから防ぎ、特に中小企業の資金繰り及び倒産回避に多大な効果があったと思われる。
 政策実施後の中小企業の動向を見ると、特別信用保証制度が実施された平成十年十〜十二月期以降、中小企業の資金繰りについて改善が見られる。
 このような中小企業の資金繰り改善は、倒産件数の減少に大きな効果があったものと思われる。中小企業売上高経常利益率、国内銀行貸出金利、地価要因を説明変数として、倒産件数を推計したところ、平成十年七〜九期までは実績値と良く合っているが、それ以降は大きな乖離が生じており、この乖離が特別信用保証制度を中心とした一連の対策による倒産回避効果とも考えることができる(第4図参照)。こうした倒産回避効果を推計すると、対策後一年間で約七千八百件の倒産が回避されたと考えられる。また、この倒産回避に伴い、雇用者数で約七万七千人が維持されたという計算になる。

2 特別信用保証制度の評価
 特別信用保証制度とは、平成十年秋を最悪期とするパニック的な信用収縮と、その結果としての中小企業倒産の増加などに対応するため、大幅な債務超過により事業継続が危ぶまれる等、いわゆるネガティブリストに該当する場合以外は原則として保証を承諾するなど、保証要件を緩和し、通常の信用保証制度よりも高い一〇%の事故率を許容する制度として実施された。
 このような特別信用保証制度の創設目的を踏まえれば、同制度については、1)「経済的社会的環境の著しい変化による影響を受け、相当数の中小企業者の事業活動に著しい支障が生じ、又は生じるおそれがある場合には、必要な施策を講ずるものとする。」とする中小企業基本法第二十二条に照らして施策を講ずることが適切であったか、2)政策の効果が上がったか、3)同制度を利用して資金調達を行った企業が比較的短期間のうちに倒産状態に陥り、信用保証協会が代位弁済を行った金額もしくは件数が設計上許容されているものと比べて有意に多いかどうか(事故率が高いかどうか)の各点から評価することが適切であると考えられる。
 このうち、1)については、平成十年秋の状況に照らせば、施策を講ずることが適切であったと言え、また、信用収縮については改善が見られるものの依然として中小企業に対する貸し渋りは続いており、今なお臨時異例の措置として同制度を継続する必要があると考えられる。
 2)については、特別信用保証制度を始めとする政府の信用収縮対策・金融システム安定化策や、日本銀行による金融政策が中小企業の倒産やマクロ経済に対して大きな効果を上げたことを、既に見てきた。最近では、金融システム安定化策の進展を反映して、ジャパンプレミアムもほぼゼロとなるなど、我が国の金融システムに対する信頼が回復しつつある。信用収縮については、平成十年秋頃と比較して、企業の貸出態度に対する懸念は薄らいでおり、中小企業についても、資金繰りに対する懸念の改善が見られる。また、特別信用保証制度の制度開始後の一年間の事故率は、本制度の設計上許容されている範囲(事故率一〇%)と比較すれば低い水準で推移している。なお、最終的な事故率は、今後の景気動向にも大きく左右されるため、現時点で予測することは困難であり、今後も引き続き事故率の推移を注視する必要がある(特別信用保証制度には前例はないが、通常の信用保証制度の場合は、保証後二〜三年目以降、事故が落ち着く傾向にある)。
 また、特別信用保証制度については、経済全体の効率性の基準に照らせば淘汰された方が良いと思われる生産性・収益性の低い企業までも温存してしまい、不況期に行われるべき産業界における適切な新陳代謝を阻害しているのではないかという批判があるが、少なくとも従来から行われてきた一般信用保証制度を利用している企業よりも生産性や収益性の低い企業が特別信用保証制度によって温存されたという事実はアンケート結果からは検証できなかった(第5図参照)。

第2章 平成十一年度の動向

1 中小企業の景況感
 平成十一年の我が国経済は、民需の回復力が依然として弱く、厳しい状況をなお脱していないが、各種政策効果やアジア経済の回復などの影響で、緩やかな改善が続いた。
 中小企業の業況判断DIは、平成十年後半に調査開始(昭和五十五年)以来の最低水準を記録したが、平成十一年一〜三月期以降は5四半期連続して改善している。

2 生産・出荷・在庫の動向
 中小企業の生産指数は、景気の山(平成九年三月、暫定)を頂点に、平成十年十〜十二月期まで七期連続で低下した。平成十一年に入ってからはほぼ横ばいで推移したが、七〜九月期から二期連続で緩やかな上昇傾向が続いている。出荷についても、中小企業は平成十一年が前年比〇・〇%の横ばいへと回復した。また、平成十一年の在庫指数が、対前年末比マイナス四・二%と二年連続で低下した。

3 倒産の動向
 平成十一年の倒産件数は前年に比べて減少した。しかし、不況型倒産は全体の三分の一を占め、長引く景気低迷を受けて全倒産件数に占める割合は徐々に上昇してきている。他方で資金繰り難を主因とする倒産は前年に比べて大幅に減少し、全体に占める割合も徐々に低下してきている。

4 設備投資の動向
 平成十一年度の設備投資計画は、大企業、中小企業ともに前年度に引き続き減少となっている。特に、中小企業では、前年度実績において減少幅がわずかながら縮小したが、平成十一年度計画では、再び減少幅が縮小している。このように、需要低迷と景気の先行き不透明感を背景として、中小企業の設備投資は低迷が続いている。今後、中小企業の設備投資が本格的に回復するためには、景気の回復による売上増加、企業収益の改善が前提になるものと思われる。

5 雇用の動向
 総務庁「労働力調査」により、非農林業の規模別雇用者数の推移を見ると、平成十年には三十〜四百九十九人規模の企業が大きく雇用者数を減らしたため、全体の雇用者数は、統計上比較可能な昭和二十九年以降初めて減少したが、平成十一年においてはいずれの規模の企業においても雇用者数が減少し、全体の雇用者数も二年連続して減少することとなった。
 日本銀行「企業短期経済観測調査」から、全産業における雇用に関する過不足感をDIで見ると、平成十年十〜十二月期にすべての規模で調査開始(昭和五十八年)以降で最高の過剰感となったが、十一年一〜三月期(四〜六月期も同水準)はすべての規模でその水準を更新した。その後、やや低下傾向にあるものの、過剰感は依然として高水準にある。
 このように、平成十一年においても中小企業の雇用過剰感は高い水準にあり、雇用者数の動向と考えあわせても、中小企業の雇用吸収力は低下し続けていると考えられる。

第3部 中小企業政策の転換

 中小企業政策の理念が、「大企業との格差の是正」から「独立した中小企業の多様で活力ある成長発展」に転換したことにより、中小企業政策の対象範囲についても、従来の「生産性、賃金等で大企業との格差が存在する層」から、「企業が積極的な事業活動を行う際に必要な各種の経営資源を、市場から調達することが困難な層」を中小企業としてとらえ直す必要が生じた。
 また、昭和四十八年に中小企業の定義を改訂してから二十六年が経過し、その間に物価水準が三倍程度になり、一企業当たりの資本金額もおおむね三倍から五倍に増加する等、経済の実態も大きく変化している。
 そこで、昨年の中小企業基本法の改正に当たり、政策理念の変更と同時に、中小企業の定義も改定された。
 具体的には、製造業その他の事業を営む企業については、資本金基準は一億円以下から三億円以下に、卸売業については、資本金基準を三千万円以下から一億円以下に、小売業については、資本金基準を一千万円以下から五千万円以下となった。
 サービス業については、資本金基準を1千万円以下から五千万円以下に引き上げられるとともに、近年情報サービス業や人材派遣業など一企業当たりの従業員数が多い業種がシェアを拡大していることを踏まえ、従業員数の定義も百人に引き上げられた。
 総務庁「事業所・企業統計調査(平成八年)」再編加工によれば、我が国の中小企業の数は、中小企業の定義の改正後五百八万九千百九十一社となり、一万六千二百六十九社増加し、全企業数に占める中小企業数の比率は九九・七%へ増加した。
 中小企業で働いている従業者(常用雇用者のほか、有給役員、個人業主、無給の家族従業者、臨時雇用者の合計)は、四千百六十七万七千五百三十六人となり、全従業者数に占める中小企業の従業者数の割合は、七二・七%に増加した。


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平成十二年四月一日現在


我が国のこどもの数(十五歳未満人口)


―「こどもの日」にちなんで―


総 務 庁


 総務庁統計局では、五月五日の「こどもの日」にちなんで、我が国のこどもの数(十五歳未満人口)について公表した。その概要は次のとおりである。

1 こどもの数は一千八百五十八万人、総人口の一四・七%で戦後最低
 平成十二年四月一日現在のこどもの数(十五歳未満人口。以下同じ。)は一千八百五十八万人で、前年より三十万人減少した。男女別では、男性が九百五十二万人、女性が九百六万人で、男性が女性より四十六万人多く、女性百人に対する男性の数(性比)は一〇五・一となっている。
 総人口に占めるこどもの割合は一四・七%で、前年より〇・二ポイント低下し、戦後最低となった(第1表参照)。
 こどもの数を年齢三歳階級別にみると、十二〜十四歳が四百九万人(総人口の三・二%)と最も多く、次いで九〜十一歳が三百七十六万人(同三・〇%)となっており、以下、六〜八歳及び〇〜二歳が三百五十八万人(同二・八%)、三〜五歳が三百五十七万人(同二・八%)と、ほぼ同じ数となっている(第2表参照)。

2 こどもの割合は年々低下
 こどもの割合は、第一次ベビーブーム期(昭和二十二〜二十四年)後の出生児数の減少を反映して昭和二十年代後半から低下し、三十一年には三二・六%と三分の一を、四十一年には二四・八%と四分の一を下回った。
 その後、こどもの割合は、昭和四十年代後半には、第二次ベビーブーム期(昭和四十六〜四十九年)の出生児数の増加によりわずかに上昇したものの、五十年代に入って再び低下し、六十三年には一九・五%と五分の一を下回り、その後も低下が続いている(付表1参照)。

3 こどもの割合は沖縄県が最高
 こどもの割合(平成十一年十月一日現在推計)を都道府県別にみると、沖縄県が二〇・〇%で最も高く、東京都が一二・六%で最も低くなっており、その他の道府県は一四〜一六%台となっている。なお、こどもの割合が全国平均(一四・八%)よりも低いのは、十三都道府県となっている。
 平成十年と比較すると、東京都で同率となっているものの、四十六道府県でこどもの割合は低下している。低下幅が大きいのは、長崎県、鹿児島県の〇・六ポイント、岩手県、沖縄県の〇・五ポイントとなっており、低下幅が小さいのは愛知県の〇・一ポイントと、都道府県間で差がみられる(付表2参照)。

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違法な古式銃砲や旧軍用けん銃の回収にご協力を!


違法な古式銃砲は所持できません
 古式銃砲としての適正な登録がされていない古式銃砲は、所持することができません。また、近代実包の発射が可能な古式銃砲(火なわ銃・ピン打ち銃・管打ち銃など)は、登録した銃であっても所有していると銃刀法違反(不法所持)となります。
 最近、銃刀法に定める登録証が交付されている古式銃砲であっても、登録後に改造されるなどいわゆる「違法な古式銃砲」が全国的に相当数流通していることが判明しました。平成八年以降の四年間で、違法な古式銃砲が二百七十八丁も押収されています。
 警察では、違法な古式銃砲を回収していますので、積極的な情報提供をお願いします。

*古式銃砲とは
 おおむね慶応三年以前に我が国で製造され、または我が国に伝来した銃砲で、美術品または骨とう品として文化価値のあるものをいいます。

警察にご相談を!
 古式銃砲をお持ちの方は登録証の内容とよく照らし合わせ、登録証の内容と違うところがあったり、分からないことなどがありましたら、近くの警察までお気軽にご相談ください。

(警察庁)



    <7月5日号の主な予定>

 ▽平成十一年 賃金構造基本統計調査結果の概要………労 働 省 




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