官報資料版 平成12年10月11日




                  ▽科学技術白書のあらまし……………科学技術庁

                  ▽毎月勤労統計調査(六月分)………労 働 省











科学技術白書のあらまし


―平成11年度科学技術の振興に関する年次報告―


「平成11年度科学技術の振興に関する年次報告(平成12年版科学技術白書)」は、去る6月9日に国会に提出され、同日公表された。

科学技術庁


はじめに

 この報告は、科学技術基本法(平成七年法律第一三〇号)第八条の規定に基づく、科学技術の振興に関して講じた施策に関する報告である。
 本報告では、第1部及び第2部において、広範多岐にわたる科学技術活動の動向を紹介し、第3部の科学技術の振興に関して講じた施策を理解する一助としている。
 第1部では、「二十一世紀を迎えるに当たって」と題して、二十世紀における人類の発展と、それに貢献した科学技術の発展を振り返るとともに、二十一世紀における社会と科学技術との新たな関係の在り方について解説した。第2部では、各種のデータを用いて、我が国と主要国の科学技術活動を比較した。

第1部 二十一世紀を迎えるに当たって

・人類は、その誕生以来、着実に発展を遂げ、とりわけ二十世紀後半には、人口の急増を始めとして、あらゆる面で人間活動が飛躍的に発展した。
・二十世紀における人間活動の発展に、科学技術が大きく貢献してきた一方で、そのような科学技術文明は、モノの大量生産、大量消費、大量廃棄を伴い、かけがえのない地球の環境破壊や資源の枯渇が懸念されてきており、今後は、科学技術によって得られる知識を活用して、地球と共生できる道を築き上げることが求められている。
・また、近年、高度情報通信社会を目前にし、生命にかかる膨大な知識や情報が社会にもたらされていることなどから、二十一世紀は、科学技術によって生み出される知識や情報が、二十世紀にも増して社会の発展の大きな鍵となることは間違いない。
・しかしながら、今日の科学技術社会が、このような変革に対応する準備を十分に整えていない状況にかんがみ、二十世紀を振り返り、二十一世紀を展望して、新たに構築すべき科学技術と社会の関係の在り方について検討する。

第1章 人類社会の変化

・二十世紀を通して人類社会が大きく発展してきた足跡を、広く社会現象を表す代表的な指標の推移を概観することで振り返る。
(1) 人口の急増
・十九世紀の初頭に約十億人であった世界人口は、二十世紀に入るまでに約十六億人になり、一九五〇年以降に爆発的に増加し、一九九九年には六十億人に達した。
・今後、世界人口の増加は鈍化することが見込まれているものの、二〇二五年には七十八億人、二〇五〇年には八十九億人に達すると予想されている。
・我が国においては、二十世紀初め約四千四百万人であった人口は、平成十一年(一九九九年)に約一億二千七百万人に増加し、以後、平成十九年(二〇〇七年)には約一億二千八百万人に達するものの、その後減少に転じ、平成六十二年(二〇五〇年)には一億人にまで減少すると推計されている。また、平成六十二年(二〇五〇年)には、人口の年代構成のピークが七十歳代になると推計されており、高齢化社会が深化していく。
・世界全体の平均寿命は、過去半世紀の間に、男性で四十五年から六十三年に、女性で四十八年から六十八年に伸びた。
・特に日本は、現在世界の最長寿国であり、女性でみると、一九二〇年ごろの四十三年から最近は八十四年を超え、二〇五〇年には八十六年になると予想されている。
(2) 人間活動の成長
・食料生産量が二十世紀の人口の変化に大きく関係している。世界の三大穀物(小麦、米、トウモロコシ)の総生産量は、一九五〇年ごろから急激に増加してきている。
・このような生産量の拡大には、農業技術の飛躍的発展が寄与している。
・また、人類はモノ作りの活動を拡大させ、鉱工業を発展させた。鉱工業を支える金属などの原料生産量も、一九五〇年ごろから飛躍的に増大した。
・このような鉱工業の拡大に伴い、人類はエネルギー消費量を増大させてきた。二十世紀に入ると鉱工業や輸送のためのエネルギー消費が飛躍的に伸び、それを担う化石燃料の消費量も二十世紀の中頃から急激に増加した。
・このような人類の諸活動の拡大は、経済発展を促した。世界総生産は一九九〇年のドルに換算して、二十世紀初頭の約二兆ドルから現在では約三十兆ドルに増大したとされている。特に今世紀後半の成長は著しい。
・このように、二十世紀の人間活動の成長は、大量生産に象徴されるように、モノの豊かさを社会の豊かさに投影させるものであった。
(3) 成長の限界
・化石エネルギー資源において現在推定されている可採年数は、石油や天然ガスなど五十年前後のものもあり、二十一世紀中に枯渇の危機に直面することが懸念される。
・また、生産活動に伴う有害物質の排出等による自然環境の悪化から、我が国においては、近年、ダイオキシン類、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)等の化学物質による人の健康への影響や環境汚染に、国民の関心が高まっている。
・さらに、地球温暖化、オゾン層破壊、酸性雨などの、地球規模の環境問題が深刻化している。
 ○世界的に気温の上昇がみられ、過去百年間に世界全体で約〇・六度、我が国では約一度上昇した。地球温暖化に大きく寄与している二酸化炭素の大気中の濃度は、ここ千年ほど年平均二百八十ppmであったものが、二十世紀後半に急増し、一九九七年には三百六十三ppmに達した。
 ○太陽光線に含まれる有害紫外線を吸収し、地上の生物を守っているオゾン層が、大気中に放出されたCFC(クロロフルオロカーボン)等のオゾン層破壊物質によって破壊されているほか、酸性雨など地球規模での環境変化を示す指標をみると、その多くが急激な悪化を示している。
・以上のように、二十世紀における人類社会の発展の形を、二十一世紀にこのまま延長させることが不可能であることは明らかである。
・二十一世紀においては、新たな発展の形に対応した、社会の仕組みを変えていくとともに、我我自身の意識においても、量的な豊かさから質的な豊かさへというように、価値観の転換が求められている。

第2章 二十世紀の科学技術の人類社会への貢献と今後の課題

・二十世紀における科学技術の歩みに焦点を当て、社会に多大な影響を及ぼした科学技術上の出来事について振り返る。

第1節 二十世紀の科学技術の展開と社会への浸透

・歴史的に科学と技術はそれぞれ異なる事柄として理解され、発展してきた。
・十九世紀末になると、科学と技術の距離が少しずつ近づき始めた。科学が純粋な知的好奇心によって行われる学問という性格だけではなく、科学の有用性が新たな側面から認識されるようになった。
・科学と技術が国家の存立にとって重要であるとの認識が、第二次世界大戦を契機に飛躍的に強まり、二十世紀後半には科学が社会・経済の発展の基盤として注目されるようになってきた。同時に、科学と技術の融合がみられるようになった。
・二十世紀の科学技術の展開と社会への浸透を、人類社会へ与えた効果の観点から以下の四つに分け、概括的に振り返った。

1 究極像への接近―より小さく、より遠く―

(1) 相対性理論―伸び縮みする空間・時間―
・互いに加速度を持たない系の間の関係を記述する特殊相対性理論と、それを一般化した系にも適用可能とした一般相対性理論が確立され、空間と時間はどこでも同じであるという、それまでの常識を覆した。
・相対性理論は、ウラン原子核分裂の発見とともに原子力エネルギー利用の道を開き、核兵器、原子力発電を可能にすることで人類社会に計り知れない社会的・経済的影響を与えることになった。
(2) 量子力学―極微の世界へ―
・極微の世界で、原子や電子にどのような相互作用が働くのか、それらが多数集まってできる物質の構造はどうなっているのかを説明する理論体系である量子力学が、多くの研究者によって確立され、その後、半導体の技術開発など多くの分野にその理論が採り入れられている。
(3) クォークの発見―物質を構成する素粒子の追求―
・物質を構成する分割不可能な究極の単位である素粒子は、一九二〇年代まで、陽子、中性子、電子、光子の四種類と考えられていたが、一九三〇年のサイクロトロンの発明以後、様々な素粒子が発見され始め、現在では、陽子や中性子などを構成する基本粒子である「クォーク」が六種類確認されている。
(4) DNAの二重らせん構造の発見―分子生物学の誕生―
・一九五三年にデオキシリボ核酸(DNA)の二重らせん構造が発見され、対になった鎖を結ぶ四種類の塩基が遺伝子の本体とされ、生命の設計図を突きとめた。
・遺伝子を知ることは、遺伝病の診断・治療、品種改良、ホルモンの生産等、広範な技術開発への応用を導くものとして期待される。
(5) 膨張する宇宙―ビッグバンによる宇宙の誕生―
・一九二九年、宇宙は膨張し続けていることが明らかになり、一九四六年には、宇宙は超高温・超高密度の火の玉から始まったとするビッグバン宇宙論が提唱された。
・ビッグバン宇宙論は、その後、宇宙背景放射が発見されたことにより、標準的な宇宙論として理解されるようになった。
(6) 新しい科学の方向性―複雑系の科学の出現―
・今世紀までの科学研究の方法論は、全体を要素の集合体とみなし、その要素の最小単位(根源)を探るという要素還元的手法が基本であった。
・しかしながら、最近では、気候変動や生命現象などのように、複雑な現象を扱う局面が多くみられるようになり、コンピュータの進歩と相まって複雑な現象を支配する機構を明らかにしていこうとする「複雑系の科学」が出現してきている。

2 モノの発達

(1) 移動・輸送技術―より速く、より遠くへ―
・現代文明の象徴とされる自動車は、鉄道による固定的な「線」上の移動だけではなく、「面」上での移動を飛躍的に発展させるとともに、鉄道や航空機など他の手段と比較して、輸送量において群を抜く存在になっている。
・飛行機は、一九〇三年の人類初の動力飛行からその歴史が始まり、高速・長距離輸送手段として二十世紀に大きく発展した。
・しかし、これら交通機関が消費する化石エネルギーは膨大であり、資源の枯渇、排気ガスに含まれる有害ガスや二酸化炭素による環境問題などへの関心が高まっている。
(2) 宇宙開発技術―宇宙時代の幕開け―
・一九二六年に液体燃料ロケットの打上げ実験が成功したのを皮切りに、一九五七年には人類初の人工衛星の打上げに成功し、さらに一九六一年には人類初の有人宇宙飛行を成功させ、ついに、一九六九年には、人類が月面に降り立ち、人類の歴史に偉大な一歩を刻んだ。
・その後、繰り返し利用可能な宇宙往還機「スペースシャトル」が、現在までに約百回のフライトを行い、地球や宇宙に関するデータ収集や実験など数多くの功績を残してきている。
(3) 大量生産技術―大量生産・大量消費へ―
・一九一三年、米国のヘンリー・フォードが自動車の生産にコンベア・システムを導入し、一九一四年の一年間に、それによって生産された自動車は、他の自動車メーカー二百九十九社の合計生産台数より多かった。
・さらに、第二次世界大戦後になると、自動制御技術、知能化(インテリジェント化)を達成し、メカトロニクスと呼ばれる新たな製造技術を生み出すに至った。
・大量生産技術の向上の結果、「大量生産・大量消費・大量廃棄型社会」が到来し、家電機器が各家庭に急速に普及するようになった一方で、生態系や環境に打撃を与え、再生不能の資源を大量に消費することとなった。
(4) 合成化学の発展―衣料から医療までの素材革命―
・十九世紀後半のアニリンなど、合成染料の製造に代表される合成化学の発展は著しく、後の合成医薬品の時代をもたらした。
・また、化学肥料の大量生産を可能にしたアンモニアの合成やナイロンの開発のほか、近年、「新素材」と呼ばれる新たな材料が出現し、広範な用途に用いられるようになっている。
・一方で、合成化学などの化学工業では、種々の化学薬品を使用し、重金属を取り扱う場合もあり、多くの産業廃棄物が発生することから、公害問題を引き起こしやすい一面を持っている。
(5) エネルギー―脱化石エネルギーへの模索―
・原子力エネルギーについては、一九五一年に米国の高速炉(EBR―1)によって世界初の原子力発電が行われた。我が国では、昭和二十九年(一九五四年)に原子炉築造のための基礎研究費及び調査費として初めて原子力予算が計上され、昭和四十一年(一九六六年)に商業的な原子力発電が始まった。
・現在の世界の電力電源の構成割合をみると、原子力発電は不可欠な電力の供給源となっている。
・自然エネルギーを始めとした新たなエネルギーに対する関心が近年特に高まってきているが、このような自然エネルギーだけでは将来の電力需要を担うことは不可能である。高速増殖炉と核融合の着実な研究開発が必要である。
(6) 半導体の登場―現代技術の礎石―
・一九四八年に発明されたトランジスタによって、エレクトロニクスが一躍多くの産業分野に浸透していった。
・一九五九年には集積回路(IC)が発明され、その後、超高度集積回路(LSI)、超LSIと、ほぼ三年間に四倍のペースで半導体の集積度は飛躍的に上がり、現在では集積度が数百万にも上る超々LSIの時代に入っている。
・半導体は、現代文明の象徴である電子機器やコンピュータ技術を支える礎石であり、「電子社会」に暮らす現代人の家庭生活や職場など様々な場面に大きく関係し、それを支え、さらに発展させるため、不可欠な役割を果たしている今世紀最大の発明の一つである。
・また、半導体を発光源とすることによって小型化が可能になったレーザー技術は、光通信、センシング、情報処理、分光分析、医療、レーザー加工、レーザー再生装置など、あらゆる分野で幅広く利用されている。

3 情報通信の発達

(1) 無線通信の発展―マス・メディアの出現―
・一九二〇年に世界初のラジオ放送が米国で、日本では、大正十四年(一九二五年)に開始された。一九三一年にはテレビの実験放送局が米国で開設され、十年後の一九四一年に正式放送が開始された。日本での本格的なテレビ放送は昭和二十八年(一九五三年)からである。
・その後、ラジオ、テレビをはじめとするマス・メディアの発展は目覚ましく、現代人の最大の情報源となり、新たな文化の発信地として重要な役割を担うとともに、国民生活を支える重要な基盤としての役割を果たすようになった。
(2) コンピュータ―高度情報通信社会への扉―
・一九四五年に世界最初のコンピュータである真空管式電子計算機「ENIAC」が完成した。その後の計算速度や記憶容量の向上、装置の小型化の進展は目覚ましく、現在のパーソナルコンピュータは、重量で約一万五千分の一、消費電力で約一万三千分の一、処理速度で約一万倍になった。
・コンピュータは、製品の品質向上や新製品の創出などに貢献するとともに、金融・保険業など非製造業にも大きな影響を及ぼしている。
・また、コンピュータは、コンピュータ断層撮影(CTスキャン)などエレクトロニクス機器の発展とともに、医学や医療に大きな影響を与えている。
・今後は、コンピュータが社会に浸透するのに伴い、コンピュータを取り巻く環境やソフトウェアに起因する問題の解決も急務である。
(3) コンピュータネットワークの発達―情報伝送の網―
・世界中のコンピュータをつないだネットワークであるインターネットが、一九九三年ごろから爆発的に普及し始めた。インターネットに接続されているホストコンピュータの数は、増加の一途をたどっている。
・コンピュータネットワークの利用は個人の生活を大きく変えるとともに、企業内で情報の共有を促し、勤務の態様を変革することにより、企業を活性化している。
・光ファイバーネットワークが実現すると、情報伝送量は電話網の数千倍になる。このため映像情報を容易に伝送できるようになり、遠隔教育、在宅勤務、ホームショッピング、遠隔医療診断などの新しい情報サービスが可能となる。
・ネットワーク利用率が高まるにつれ、ネットワークにかかわる犯罪及び不正行為が大きな社会的問題となっており、セキュリティ技術及び利用者のセキュリティ意識の向上が不可欠となっている。
(4) デジタル化技術―0と1が世界を変える―
・現在では、情報通信機器と家電機器とがデジタルネットワークを介して融合し始めており、「情報家電」と呼ばれる分野の進展が目覚ましい。
・衛星放送などの放送分野のデジタル化によって、チャンネル数が増大すること、高画質・高品位化、画質が劣化しにくくなることなど、数多くの価値が付加されている。
・デジタル化されたデータは、コンピュータの利用によって加工、蓄積、検索が可能になるため、さまざまな応用が可能となる。

4 ライフサイエンスの進歩

(1) 病原菌の発見と治療薬の開発
・結核の予防薬である「BCG」が発明され、それまで不治の病として恐れられていた結核による死亡者数の減少に緒を与えた。
・そのほか、二十世紀には、梅毒の病原菌である「梅毒スピロヘータ」の発見と、その治療薬「サルバルサン」の開発、糖尿病の治療に有効な「インシュリン」の抽出、細菌感染に対する特効薬となる「ペニシリン」の抽出、ウィルス抑制因子である「インターフェロン」の発見が相次いだ。
(2) 医療装置の発達
・人体の各組織間や異物のX線吸収の差を利用して画像を求める「X線撮影」の普及、心臓で周期的に発生する微弱な電流の変化を測定・記録する「心電図計」などの発明は、診断や治療において重要な役割を果たしている。
・このほか、コンピュータ断層撮影(CTスキャン)、磁気共鳴映像法(MRI)、超音波診断等の画像診断技術や、ガンマ線等を利用したがん治療技術が次々に開発され、既に実用化されている。
・さらに、現在、ホウ素中性子補足療法(BNCT)、陽子線等によるがん診断・治療、重粒子線がん治療装置(HIMAC)等の放射線を利用したがん治療の研究等が行われている。
(3) 医療手段、治療法の発達
・ABO式血液型の発見は、免疫学や遺伝学などの基礎となったのに加え、安全な輸血を可能にした。
・一九五四年に腎臓移植、その後、一九六七年に心臓移植の手術が初めて成功し、二十世紀に臓器移植が人間の免疫機構の解明とともに進展した。近年、欧米諸国においては年間三千件以上の脳死心臓移植が実施されるなど、脳死臓器移植は実績を重ねており、日常医療として定着している。
・一九六八年には日本でも心臓移植手術が行われたが、患者の死後、脳死の定義や医師の倫理といった問題を提起することとなり、一九九七年(平成九年)の「臓器の移植に関する法律」の施行まで、脳死臓器移植が行われることはなかった。
(4) バイオテクノロジーの展開
・一九五三年のDNAの二重らせん構造の発見により、生命現象はDNAを中心としたものであることが認識され、その後、生命現象の解明は、飛躍的な進展を遂げてきている。
・一九七三年には遺伝子組換え実験が成功した。現在では、遺伝子組換え技術による新薬や治療法の開発等、医療分野への応用、病気に強い農作物の開発等、農業分野への応用など、様々な分野に広がりをみせている。
・一方、遺伝子組換え作物や遺伝子組換え食品の安全性の確認を求める声が高まっていることから、国際的に、適切な規制の枠組みの整備・検討が進みつつある。
(5) 二十一世紀を切り開くライフサイエンス
・現在、世界的な協力により進められているヒトゲノム計画により、DNAの全塩基配列が解明され、遺伝子の機能解明が進むことが期待されている。これにより、がんやアルツハイマー病などの治療薬の開発、診断・治療法が飛躍的に進展することが期待される。また、個人の体質に合わせた「オーダーメイド医療」が可能となることからも注目されている。
・一九九七年のクローン羊「ドリー」の誕生を契機に、世界的にクローン技術に対する関心が高まってきている。
・遺伝子組換え技術やクローン技術の進展により、農業分野における技術の進展が期待されているほか、ヒトの成長ホルモン等の生産や臓器移植用の動物の生産も可能とされており、二十一世紀にはこれらの分野で社会における計り知れない利用が開拓されていくものと考えられる。
(6) 生命倫理等の問題
・臓器移植においては、特に我が国では脳死を死と認めるか否かに関し長らく議論が行われてきたが、現在は、「臓器の移植に関する法律」に基づく臓器移植の経験等を踏まえ、公正・的確な脳死判定の実施に対する徹底した情報公開と、臓器提供者及び被提供者双方の個人情報保護等の問題が議論されている。
・クローン個体産生手法の人への応用は、人間の尊厳の確保という観点から、世界的に大きな関心を呼び起こすことが予測される。また、人の生命の萌芽であるヒト胚を用いる研究については、厳格な規制の枠組みの構築を含め、各国で検討が進められている。
・今後、遺伝子の機能が解明されてくると、個人の遺伝的形質による新たな差別の発生が懸念される。遺伝子に関する個人情報の保護と、遺伝的形質の相違による社会における様々な差別発生の防止について、しっかりとした検討が必要である。

第2節 科学技術に対する国民の理解の現状

・ここでは、国民の科学技術に対する関心が、どのような現状にあるかを考察し、さらに、科学技術に関し社会の理解を得るための取組の状況を紹介する。

1 科学技術に対する国民の関心

(1) 世論調査等にみる国民の科学技術に対する期待
・国民は科学技術の発達が「個人の生活の楽しみ」、「物の豊かさ」などに貢献したと評価しており、将来の科学技術には、「安全性の向上」、「効率性の向上」などに果たす役割を期待している。
・また、科学技術の情報に関心のある人や、科学者や技術者の話を聞いてみたいと考えている人の割合は増えてきている(第1図参照)。
・一方で国民は、科学技術が専門家にしか分からなくなるのではないか、悪用・誤用されるのではないか、進歩に自分がついていけなくなるのではないかなどといった科学技術の発達に対する不安感も抱いている(第2図参照)。
(2) 科学技術と社会との間の課題の顕在化
・科学技術が我々の生活の向上に様々な貢献をしてきたのに伴い、科学技術と社会との関係において、種々の課題を抱えてきていることが明らかになってきている。
(生命倫理問題)
・出生前診断の技術の実用化は、障害児の差別につながるとして反対するなど、国民の間に医学・医療への先端的技術の応用に対して、生命の尊厳の観点から否定的な考えがみられる。
・人工呼吸器などにより、脳機能の不可逆的な停止である脳死の状態が生じるようになったことから、脳死を人の死とするかどうかという科学技術の進歩に伴う問題が生じることとなった。
(原子力問題)
・原子力の利用は、私達の生活に多くの利便と恩恵をもたらしているが、我が国の原子力との関わりが原子爆弾から始まったこと、放射線や放射能に関する正確な知識が必ずしも一般国民に十分浸透していないことなどから、原子力に対する批判的な見方や、安全性に関する不安が根強く存在する。
・高速増殖炉原型炉もんじゅのナトリウム漏洩事故、アスファルト固化処理施設の火災爆発事故などは、事故そのものの重大さよりも、事故処理に当たっての組織的な対応や、事故に関する情報の開示の方法等に大きな問題があり、加えて関係者による虚偽報告や隠蔽工作も明らかとなって大きな社会問題となった。
・さらに、昨年発生した株式会社ジェー・シー・オーの臨界事故は、社内で作成していた作業手順書をも無視した作業が原因であったため、我が国の技術者の倫理観や、社会的責任意識の低下に対する危機が叫ばれることとなった。
・原子力という技術が社会に受け入れられるためには、平和利用と安全確保が必須の条件であり、できる限り情報の開示を行い、透明性を高めていくとともに、組織及びそこに働く技術者等の倫理観や社会的責任意識の重要性を認識し、その充実に取り組む必要がある。
(ものづくり能力)
・最近、宇宙開発、原子力安全管理、鉄道保安等の分野で事故が発生し、これまで、我が国が得意分野としてきた品質管理等を含む「ものづくり能力」が懸念されるようになった。

2 科学技術に関する国民の理解を深めるための取組の現状

・科学技術に関する活動は、本質的には社会に対して透明性の高いものであるが、その高度な専門性のために、関係者だけが理解する論理や情報を内包し、閉鎖的と見られかねない面をもっている。
・したがって、科学技術社会は、常にそのような認識をもち、透明性の確保に心がけ、社会との間の溝を埋める努力をしていかなければならない。
(1) 科学技術関係の情報公開の進展
・科学技術の成果は、論文や特許情報等、広範な場を通じて公開されている。科学技術行政の面でも、既に、各種審議会の審議の公開、議事資料の公開を始めとして、幅広く公開されている。
・このような情報についてはインターネットを通して迅速かつ広範に国民の手に届くようにされ、また、一部ではインターネットを通じて国民の意見を公募する段階にきている。
(2) 原子力行政に係る情報公開と国民参加の促進
・原子力委員会や原子力安全委員会では、部会等の審議の公開、報告書案の公開、一般からの意見募集などを進めている。

第3章 二十一世紀における科学技術と社会の関係

・今世紀、科学技術が社会のあらゆる面に深く関わってきたことを踏まえ、二十一世紀に望まれる科学技術と社会の関係の構築に向けた取組を示す。

第1節 科学技術が社会に果たす役割

・人類が二十一世紀に持続的に発展していくためには、科学技術のさらなる発展を図ることにより、新たな知の構築ができる社会を実現させていくことが求められている。

1 二十一世紀社会に期待される科学技術

・二十一世紀に求められる科学技術への期待の一部を以下に例示する。
・二十一世紀初頭に取り組むべき具体的な科学技術の方向性については、現在検討が進められている新たな科学技術基本計画において示されていくことになる。
@循環型社会
・二十一世紀、人類社会は省エネ・省資源・リサイクル化の徹底等により、地球への負荷の少ない循環型社会の構築を図っていくことを余儀なくされている。
・そのために、例えば、
 ○循環型社会に適合した産業を実現するため、地球環境への排出をゼロに近づけていくゼロエミッションや、生産の段階において、その解体物や循環を考慮していくインバース・マニュファクチュアリングといった概念を導入していくための科学技術
 ○二酸化炭素の発生を抑制するために、主要な発生源である化石エネルギーの消費について、利用効率を向上させるための技術開発
 ○資源制約等を受けない、核燃料サイクル技術や核融合発電技術、自然エネルギーの利用技術等新たな技術体系の確立
 が求められる。
A高度情報通信社会
・高度情報通信社会は、在宅勤務、遠隔地医療、電子商取引などを実現し、社会・経済活動に大きな変革をもたらすとともに、「時間」、「空間」、「エネルギー」という資源を節約する。
・コンピュータの高速化技術、シミュレーション技術等の計算機科学技術の進展は、気候変動などの複雑な現象の解明や予測を可能とし、人類に対して適切な対応手段を提供する観点から、その取組が求められる。
Bライフサイエンス
・難病の克服等、未解決な課題は依然存在しており、特にがん、エイズなどの予防・治療法の確立が求められている。
・ヒトゲノムの解析はその全体像が明らかとなる段階に至り、二十一世紀には、新薬開発、遺伝子診断、オーダーメイド医療へと飛躍的な展開が期待されている。
・遺伝子組換え技術やクローン技術の進展により、食料の増産や優良形質を持った家畜の大量生産等、農業分野における生産の向上等が可能となる。
・これらの期待に対して、ライフサイエンスの成果が大きく貢献する。
C基礎科学
・基礎科学の分野での研究成果は、人類の知的好奇心や探求心を満たしたり、思いがけず社会での応用を生み出し、開花していくものもあるため、人類社会の共通の知的資産として、二十一世紀においても生み出されていくことが望まれる。

2 二十一世紀に必要となる科学技術と社会の新しい関係の構築

・二十一世紀に、人類社会の発展に貢献する科学技術への期待は今世紀以上に大きいため、知識創造の源泉である科学技術の振興は、ますます重要になる。
・社会における活動の多くが科学技術の知識に支えられるようになり、科学技術と社会との距離がより一層接近する。
・国民自らが、そこで開発されようとしている科学技術の内容に関する十分な知識を持ち、その社会的意義について主体的に考え、その活動に係る意思決定に参画していくことが求められる。

第2節 知識基盤社会への対応

1 知識基盤社会への移行

・二十一世紀の社会は、科学技術を中心とする新たな知識の旺盛な開発と、社会への適用を求めている。経済社会においては、知識と情報をいち早く獲得した者が生き残るといった競争が激化する。また、科学技術と社会はますます接近する。
・このように、二十一世紀の社会は、産業や国民の生活など社会のあらゆる活動が知識を基盤として急速に展開される「知識基盤社会」へ移行していく。

2 知識の創造と活用及び社会への浸透

(1) 我が国における知識の創造と活用及び社会への浸透の現状
・知識基盤社会へと移行していく中で、我が国が引き続き最先進国の一国としての地位を確保していくために、我が国独自の強力な知識の開発がなされなければならない。
@「知」の創造と活用
・現在、論文数、特許出願数等からみて、我が国は世界最高水準の高い質の知識の創出、革新的な技術とその応用といった点で、特に米国との格差が依然大きく、研究成果の蓄積が十分といえる状況にはない。
・将来の社会のありさまを見据え、先見的にブレークスルーとなる革新的知識を創出し、蓄積するとともに、それを社会において活用していくための取組を強化していくことが必要である。
A科学技術知識の社会への浸透
・国民が科学技術に関する知識を得て、適切な判断能力を身につける最大の機会は教育である。また、大人は科学技術に関する情報を得、絶えず発展する科学技術についての知識を吸収していく機会をもつことが大切である。
・知識基盤社会においては、広く国民が科学について学び、理解する態度をもつことが望まれる。
(2) 知識の統合
・最近では、地球環境問題のように、各々の科学技術分野の研究を別々に進めていては調和のとれた解決策を見いだし得ないような課題や、エネルギー問題のように、成果が社会に脅威をも与える可能性があり、研究を多面的な視点から俯瞰しつつ進めるべき課題が顕在化している。
・このため、異なる分野、さらには人文・社会科学を含め、二十世紀までに蓄積した膨大な知識や、今後新たに生み出される知識を整理・統合して、再構築していくことが必要である。

3 基礎研究の振興

・二十一世紀において、革新的な科学技術の知識を創出していくには、基礎研究をより一層振興していくことが必要である。
・独創的な研究成果が続々と生み出されるためには、柔軟かつ競争的で、国内外に開かれた研究環境をより一層整備すると同時に、研究人材の資質の向上を図っていくことが重要な課題である。
(競争的な研究環境の拡充)
・近年、我が国で拡充されてきた競争的研究資金は、一件あたり三年から五年で一億円以上のものが多かったのに対し、研究者を対象にしたアンケート調査によれば、研究室単位または個人単位の研究体制を望む研究者が多く、また、大半の研究者が年間五百〜二千万円の資金規模を望んでいることから、今後は、中規模で小回りが利く、使い易い研究資金の充実を求めているという実情を踏まえて、競争的研究資金の充実を図っていく必要がある。
・また、大学においては研究スペースの確保に、国研等や民間企業においては資金運用などの事務処理の支援体制に、問題があると多くの研究者が感じていることから、研究者が確保した研究費を有効に活用し、研究が円滑に行えるような体制を、各機関の実情に応じて整備していくことが必要である。
(研究人材の流動性の確保)
・これまで、国としては、国立大学及び国立試験研究機関等について任期付任用制の導入等を行ってきているが、流動的な環境が実現している研究組織はまだ少数である(第3図参照)。
・今後、研究者が、雑務にわずらわされることなく研究に集中できる環境を整備することに加え、公正な業績評価、評価に応じた適切な処遇と報酬を実現する柔軟性を持った研究体制を整備することが、人材の流動化に必要である。
(若手研究者の育成)
・我が国では、ポストドクター(以下ポスドク)等の若手研究者の育成・拡充を図っており、その量的な面では充実しつつある状況にある。
・しかし、ポスドクは、社会的に確立した地位を得たという状況にはなく、本来目指した役割を担うまでには必ずしも至っていない。ポスドクは研究現場の流動化を推し進めていくための主要な制度であり、研究現場への定着が図られるよう努力が必要である。

4 科学技術教育・教養の充実

・知識基盤社会は、国民すべてが担っていかなければならないため、科学技術に関する基礎的な知識を身につける最大の機会である教育と、教育課程を終えた大人が、絶えず発展する科学技術の知識を得ていくための機会を充実していくことが望まれる。
(1) 若者の科学技術離れ
・二十一世紀を担う若者に焦点を当てると、最近では学力低下、科学技術離れなどの問題が頻繁に取り上げられている。
・一九九五年(平成七年)の国際比較調査によれば、中学生の数学及び理科の平均的学力において、我が国は依然としてトップレベルにあるが、これらの教科に対する意識は低い状況が示されている。また、このような意識は最近さらに低下している(第4図参照)。
・現在の大学生全体の平均的な学力水準が、以前に比べて低下しているという指摘や、一般的に学ぶことに対する意欲、関心、動機、心構えが以前に比べて劣っているのではないかとの指摘がなされている。
(2) 科学技術を身近なものにするために
・博物館や科学館等において、子供の関心を引きつける工夫や、大人にとっても楽しめる高度な展示物を取り入れるなど、国民各層が科学技術を身近に体験できる拠点を、質・量ともに一層整備・充実していくことが必要である。
・また、大学や研究所などの研究施設を一般に公開する等により、最先端の科学技術の情報に触れる機会を拡充していくことも有効である。
・子供の世代に科学技術に関心を持たせるためには、初等・中等教育の授業に、実験や体験型の学習を取り入れ、自ら学び考える力を養い、問題解決能力を育成することが必要である。
・また、教師自身が、常に先端の科学技術に接することのできる状況を作るなどの努力をしたり、教師の指導方法の工夫・改善を図ることが必要であり、教師の研修機会の拡充を図ることも大切である。
・さらに、大学においては文理融合型の教育が求められ、自然科学だけでなく、人文・社会科学系の教育活動・組織の充実が不可欠である。

第3節 科学技術に対する信頼回復

・科学技術が高度化・複雑化してきていることに加え、科学技術にかかわる者の社会に対する配慮が十分ではないともみえる行為により、国民の中に不安感、不信感が増大してきた。このような不安感、不信感を払拭し、信頼の回復に努めることが必要である。

1 科学技術者の社会的責任意識の高揚と倫理観の徹底

・研究者に対して行ったアンケート調査によると、大半の研究者は研究成果に対する責任意識を持っているものの、一割強の研究者は自らの研究成果が世の中に悪影響を与えても、それは使用者責任と考えている。
・科学技術は社会的な行為であり、社会生活の隅々にまで大きな影響を及ぼしていることに加え、国家や社会から公的支援を受けているということから、まず、科学技術者には社会的な責任意識の高揚が問われなければならない。
・科学技術者一人一人においては、自らの研究等に対する社会の負託や、自らの行為が社会に与える影響の予測を徹底し、それに対する社会的責任の認識や倫理観の徹底に努めていくことが必要である。
・また、科学技術者は国民に説明する責任を負っており、今後は、実際に一般社会へ語りかけていくことが求められる。科学技術者は、科学技術が社会の発展の基盤となる知識を生み出し、それが社会にどのような影響をもたらすかを伝え、社会との対話を通じ、共通理解を深める必要がある。
・その際、社会のために説明責任を果たすという消極的な姿勢ではなく、自らの研究活動の社会的意義、役割等について認識を深めるとともに、自分の研究に対する社会からの要請を汲みとり、今後の研究の展開への示唆や、刺激を得ることができるという積極的な認識をもって取り組むことが重要である。

2 科学技術者の社会的責任意識の高揚と倫理観の徹底のための組織的な取組

・科学技術者の社会的責任意識や倫理観の徹底のためには、科学技術者個々の努力に委ねるだけではなく、我が国全体の問題として、組織的な取組を行っていくことが必要である。
・そのためには、学校教育や企業内教育における倫理教育や安全教育の充実等を通して、国、地方公共団体、事業者、労働者、国民一般がそれぞれの役割に応じて、積極的な取組を行い、社会全体での倫理意識や安全意識を高めることが重要である。
・例えば、研究開発活動を行う民間企業では、研究者・技術者の倫理観等についての社内基準等を設けている製造業は半数近くに上るが(第5図参照)、今後も、このような倫理規定等の整備を進めるとともに、有効に機能させる方策や、教育の場における技術者の倫理教育の充実が図られるべきである。
(技術者教育認定制度及び技術士制度における職業倫理の徹底)
・大学等の高等教育機関において、技術者倫理なども含めた一定水準の教育を受けていることを保証する技術者教育認定制度構築への取組が進められており、これらの活動を通じて、技術者倫理に関する教育の充実が図られることが期待されている。
・さらに、技術士法に基づく技術士制度の改善を行うこととしているが、その一環として、技術に携わる者の責務として、公共の安全、環境の保全等に留意し業務を行うことが技術士活動の前提である旨の社会的な責務を追加することとしている。

第4節 国民の手にある科学技術

・知識基盤社会において、国民自らが科学技術に関する知識を深化し、その社会的意義について、より主体的に考え、その活動に係る意思決定に参画していくための方策等について述べる。

1 国民による科学技術への参画

(1) 国民の積極的な参画
・これからの国民は、進んで科学技術の知識の涵養に努めるとともに、積極的な情報収集、意思表示や情報発信を行い、科学技術政策の企画立案及び決定の過程に参画することによって、社会的ニーズに対応した科学技術活動の健全な発展を促すことが求められる。
・諸外国には、例えばオランダの「コンストラクティヴ・テクノロジー・アセスメント」や、デンマークの「コンセンサス会議」など、国民参加の仕組みを整備しているところがある。
(2) 国民参加プロジェクト
・現在政府主導の「ミレニアム・プロジェクト」の中で、国民参加のプロジェクトとして、新たな千年紀を切り開くのにふさわしい意見の募集や、革新的な技術開発プロジェクトの公募を実施している。
・この「ミレニアム・プロジェクト」における取組を好例として、今後とも科学技術行政において、国民参加型の施策が展開されることが重要である。
(3) NPO等の活用
・国民は、組織的に研究者から生きた知識を学習する機会が与えられれば、科学技術に関する知識を吸収することができ、また、多様な活動を通じて適切な判断力を身につけるとともに、そこから集約された意見を公表することによって、行政の決定に一定の役割を担うことができるものと考えられる。
・科学技術にかかわる活動を行うNPO(non−profit organization)やNGO(non−governmental organization)がその活動を活発化し、国民生活に密着した科学技術活動を行っていくことによって、国民の科学技術に対する意見の集約を図っていくことが期待される。

2 国民への科学技術情報提供の充実

(1) 科学技術情報提供の仕組みの構築と、それを担う人材(インタープリター)の養成
・国民の求めに応じて、随時、科学技術の知識等をより専門的に、場合によっては個別に、国民へ解説する仕組みを導入することが求められる。さらに、今まで科学技術に関心を持たなかった人に対しても、関心を喚起するような機会をつくることが必要である。
・このため、科学技術と国民との橋渡し役を務める「インタープリター」の養成が求められる。
(情報伝達の仕組み)
・近年の情報通信技術の急速な進展に伴い、コンピュータネットワークや多チャンネルの衛星放送など、新たな情報伝達媒体を活用した効率的、効果的な情報流通が可能となってきている。
・また、従来行われている手段として、書籍やまんが等の出版や講演会の開催、さらには、電話、面談等による伝達も含め、あらゆる可能性から情報の伝達に効果的な手法を模索していくことが求められる。
(インタープリターに求められること)
・インタープリターは、科学技術に関する専門的な内容が分かり、最新の知見を理解することが求められるため、研究者はもとより、技術者、学校の教師、さらには現役から退いた教師などを活用することが有効であると考えられる。
・研究職以外に興味のある職種として、研究開発の企画部門に次いで、科学技術の普及・啓発に関する仕事を挙げる研究者が多く、インタープリターの供給源として期待されている(第6図参照)。
・また、科学技術を国民に分かりやすく伝えるための手法を身につけたインタープリターを養成することが必要である。例えば、様々な分野の研究機関等において開設する見学会や研修を充実させたり、科学ジャーナリストや教育関係者等を講師に招いた養成講座を設置したり、実際に国民に説明する際の模範となる分かりやすい実験や講演を紹介したビデオやテキスト等を、インタープリターに提供することが有効である。
(情報の質)
・国民に対して発信される情報の質としては、科学技術に全く無関心な層の関心を喚起するための情報から、かなりの関心を有した層の知的好奇心に十分応えるだけの情報に至るまで、対象とする層に対応して多種多様であるべきである。
(2) 科学ジャーナリズムへの期待
・従来、科学ジャーナリズムが科学技術に関するインタープリターとしての機能を果たしてきた。世論調査の結果では、国民が科学技術の情報源として、マスメディアに大きく依存していることが分かる。
・今後、科学ジャーナリズムには、科学技術についての情報を分かりやすく、中立的・多面的な視点で、公正な事実として国民に提供することが、国民の科学技術に対する関心の喚起、理解の増進等を図るうえで求められる。
・さらに、科学技術に精通したジャーナリストを育成・確保し、専門家等の解説や分析などを積極的に取り入れた報道を展開することなどが期待され、今後は、我が国の科学ジャーナリズムのより一層の質的・量的な充実が求められる。

第5節 新たな科学技術行政体制への期待

・二十一世紀を迎える平成十三年一月、中央省庁は再編され、科学技術行政体制は新たな枠組みの下で推進されることになり、内閣府の総合科学技術会議の下、文部科学省で学術と基礎研究分野を融合させながら、科学技術を戦略的に進めるための体制が整備される。
(1) 科学技術政策立案体制
(総合科学技術会議)
・総合科学技術会議は、科学技術に関する総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策、予算・人材等の資源配分の方針、国家的に重要な研究開発の評価等を所掌する。
・本会議は、現行の科学技術会議が人文科学のみにかかるものを除外していたのに対し、自然科学分野と人文・社会科学分野を総合した科学技術の総合戦略について取り扱うこととなるため、知識の統合、再構築が求められる二十一世紀の知識基盤社会においては、時宜を得たものとなる。
・本会議は、国民に分かりやすい明確な目標を提示するなど、科学技術政策の基本方針を示し、総合調整していくことが期待されている。
(文部科学省)
・文部科学省は、知識基盤社会において豊富な知的資産を作り出す中心的な担い手である大学での研究と、社会的・経済的ニーズに対応した研究開発を振興する等、学術・科学技術行政を総合的に推進するほか、教育行政、生涯学習行政、科学技術行政と一体的に取り組むことで、国民一人一人への、科学技術教育についても期待されている。
(2) 国立試験研究機関の独立行政法人化による理想的な研究開発システムの実現
・国立試験研究機関が独立行政法人化されると、従来の事前管理手法から厳正な評価に基づく事後チェック型に移行し、弾力的な組織・人事・財務運営が実現されることにより、研究機関の特性と機能を最大限に活かした優れた研究成果の創出とその活用が行えるようになる。
・そのような柔軟な組織・人事管理が可能になることから、研究人材がより意欲を持って挑戦することを促す環境が整備され、研究人材の資質向上が図られることが期待される。

むすび

 人類は、石や木を手にして以来、多くの道具を発明し、使いこなすことによって、その限られた能力を拡大し、大きな力をもって、地球を支配するまでになってきた。なかでも、二十世紀に人類は、科学技術を原動力として、様々な道具を生み出し、これまでにない発展を遂げた。
 しかし、人類は、自らが創造した道具によって、有り余る力を発揮し、自らを、そして母なる地球をきずつけるまでになってしまった。このような二十世紀の人類のありさまを振り返り、二十一世紀、人類は、地球と共存していく知恵を持って、道具を作り、使っていかなければならない。
 また、二十世紀の終盤になって、人類は、知能と生命の領域にこれまで以上に深く立ち入り、その能力を操作、拡大する技を身につけつつある。人類の新たな発展のために、この技は是非とも有効に生かしていかなければならない。ただし、今度は、地球や自分自身をきずつけることのないように、また、すべての人類が恩恵を享受できるように、その技を使いこなす人類普遍の知恵を持たなければならない。
 人類は、二十一世紀の入り口にいる。時間は絶えず流れており、今日と明日が別世界のように変わることはない。したがって、第1部で取り上げたことの中には、既に始まっていることもあるし、二十一世紀に入っても一向に始まらないこともあるに違いない。しかし、あとから振り返ってみると、連続した変化の集積の中から、時代の転換点が見えてくるものである。時間を大まかに捉えると、二十一世紀が二十世紀後半の発展の延長にないことは多くの人々の共通した認識である。このことは二十世紀の終わりから二十一世紀の初めのどこかに、時代の転換点が埋まっていることを示唆している。厳密に、二〇〇一年が転換年であると決めるのは適切ではない。過去、現在、未来を適切に捉えた中で、変化を着実に続けていくことが人類に与えられた任務である。第1部はそのような観点から、二十世紀を振り返り二十一世紀を展望した。二十一世紀の科学技術活動が、過去の足跡の上に立ち、適切に未来を見据えて、その方向性を適切に転換しつつ、人類の永遠の幸福と発展に役立つことを希望する。


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賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査 平成十二年六月分結果速報


労 働 省


 「毎月勤労統計調査」平成十二年六月分結果の主な特徴点は、次のとおりである。

◇賃金の動き

 六月の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は四十八万六千四百四十二円、前年同月比は一・〇%増であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十八万三千八百六十七円、前年同月比〇・六%増であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十六万五千六百八十四円、前年同月比〇・三%増、所定外給与は一万八千百八十三円、前年同月比は五・二%増であった。
 また、特別に支払われた給与は二十万二千五百七十五円、前年同月比は一・七%増であった。
 実質賃金は、一・九%増であった。
 きまって支給する給与の動きを産業別に前年同月比によってみると、伸びの高い順に不動産業三・二%増、運輸・通信業二・〇%増、金融・保険業一・三%増、鉱業及び電気・ガス・熱供給・水道業一・二%増、建設業及び製造業〇・九%増、サービス業〇・三%増、卸売・小売業,飲食店〇・九%減であった。

◇労働時間の動き

 六月の調査産業計の常用労働者一人平均総実労働時間は百六十・三時間、前年同月比〇・七%増であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は百五十・八時間、前年同月比〇・五%増、所定外労働時間は九・五時間、前年同月比四・四%増、所定外労働時間の季節調整値は前年比〇・二%増であった。
 製造業の所定外労働時間は十三・四時間、前年同月比一四・五%増、季節調整値の前月比は〇・三%増であった。

◇雇用の動き

 六月の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・二%減、常用労働者のうち一般労働者では一・〇%減、パートタイム労働者では二・九%増であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、前年同月を上回ったものはサービス業一・八%増、電気・ガス・熱供給・水道業一・五%増、不動産業一・一%増、運輸・通信業〇・一%増であった。前年同月を下回ったものは建設業〇・一%減、卸売・小売業,飲食店一・三%減、製造業一・六%減、金融・保険業二・九%減、鉱業三・五%減であった。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者二・四%減、パートタイム労働者三・八%増、卸売・小売業,飲食店では一般労働者二・八%減、パートタイム労働者一・四%増、サービス業では一般労働者一・三%増、パートタイム労働者四・四%増であった。








十月の気象


 平均的な年では、十月の前半までは、引き続き日本付近に停滞する秋雨前線の影響で、東日本を中心にぐずついた天気が続きます。
 十月も後半になると、移動性高気圧と低気圧が交互に通過するようになり、天気は数日の周期で変わります。移動性高気圧は、大陸から乾燥した低温の空気を運んできて、スポーツや行楽に適したさわやかな秋晴れをもたらします。
◇霜降
 二十三日ごろは二十四節気の一つ、霜降です。これは、霜が降りるほど寒い季節となったという意味です。秋の晴天の夜には、地表の熱が宇宙空間に放出される放射冷却現象により、気温が著しく低下することがあります。このため、上旬ごろには北海道の内陸部で初霜が観測され、下旬ごろには、東北地方から中部地方でも初霜が観測されるようになります。
 また十月には、初霜のほかに初雪、初氷、初冠雪といった冬の便りも届き始めます。
◇山歩きなどには最新の気象情報を
 日中暖かく夜間冷え込む日が続くと、美しい紅葉が見られます。紅葉は十月上旬に北海道から始まり、約二か月かかって北から南、高地から平地へと進み、十一月下旬には九州南部で見られます。カエデの紅葉の一番美しい時期は、主な山岳が初冠雪を迎える時期と重なります。
 秋には、紅葉狩りをかねて登山やハイキングに出かける機会がありますが、秋の天気は変わりやすく、晴れが一転して雨になったり、気温が急激に低下し雪が降ったりすることがあります。山などにお出かけの際には、最新の気象情報を確認してください。
(気象庁)



    <10月18日号の主な予定>

 ▽労働白書のあらまし……………………労 働 省 

 ▽法人企業動向調査(六月調査)………経済企画庁 

 ▽労働力調査(六月)……………………総 務 庁 




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