官報資料版 平成12年10月25日




                  ▽土地白書のあらまし………………国 土 庁

                  ▽原子力安全白書のあらまし………原子力安全委員会

                  ▽月例経済報告(九月報告)………経済企画庁











土地白書のあらまし


―平成11年度 土地の動向に関する年次報告―


国 土 庁


 政府は、土地基本法第十条の規定に基づき、「平成十一年度 土地の動向に関する年次報告」及び「平成十二年度において土地に関して講じようとする基本的な施策」(土地白書)を六月九日に閣議決定した。
 本年の土地白書は、例年同様三部構成となっており、第一部「土地に関する動向」では、まず、我が国の土地をめぐる百年の歴史を振り返るとともに、今日、我が国の土地市場が実需中心の市場となってきており、土地の有効利用を促進していくためには、土地市場の条件整備と有効利用に向けた施策の展開が重要であることを指摘している。
 具体的には、収益性重視の不動産鑑定評価や土地情報の整備・提供、不動産証券化に向けた環境整備、定期借地権制度・定期借家制度の活用の重要性を指摘している。また、大都市における基盤施設の整備や、地方における地域の実状に応じた土地利用面の取組の重要性を指摘している。
 次に、土地の有効利用に向けた施策の推進状況を記述している。具体的には、土地・住宅税制の改正等、これまで講じた各般の施策を報告している。このほか、土地の利用・所有・取引の動向や地価の動向についても、最新の状況を紹介している。
 以下、第一部の概要について紹介する。

T 我が国社会経済と土地問題

〈第1章〉土地をめぐる百年

 本年は、二十世紀最後の年に当たることから、この百年間の我が国の土地をめぐる状況について、社会経済の変化に伴う土地利用の変遷や地価の動向、土地に関する諸制度の進展等を振り返る。

第1節 土地利用の変化と土地に関する計画制度の変遷

1 土地利用面積の変化
 宅地の面積については、昭和初期からほぼ一貫して増加しており、特に高度経済成長期以後に急激な増加が見られた。田畑については、一時期を除き横ばいで推移したが、昭和三十年代後半をピークに、その後減少している(第1図第2図参照)。

2 都市的土地利用の変遷
 明治初期には、旧城下町における武家地の官公庁等公共施設用地や軍用地への利用転換、開港や工場開設、鉄道駅の開設等に伴う都市の形成が見られた。さらに、明治後期以降の工業化の進展によって、都市の過密化と住工の混在が生じ、都市基盤整備等が進められた。また、関東大震災後、東京では急速に郊外の宅地化が進行した。
 第二次世界大戦後の復興を経て、高度経済成長期には、人口と産業の急速な三大都市圏への集中が起こり、都市部における都市基盤施設の整備や、郊外における大規模ニュータウンの建設等が進められた。いわゆるバブル期の地価高騰時には、大都市中心部における低・未利用地の発生、大都市圏における住宅立地の遠隔化が問題となった。
 バブル崩壊後は、住宅立地の都心回帰の傾向など、市街地が郊外へ拡大を続けてきた、これまでの土地利用にも変化の兆しが見えているが、大都市の既成市街地の再編や、地方都市の中心市街地活性化等が課題となっており、その解決が急務となっている。

3 農林業的土地利用の変遷
 明治から昭和初期にかけては、国営の開墾事業等が行われ、全国の農地は増加した。戦後は、農地の緊急開拓等が行われた。
 高度経済成長期に入ると、農地の転用が進み、都市郊外の農村地域のスプロール化による農業生産条件や住環境の悪化が指摘された。また、昭和五十年代半ば頃から、特に中山間地域において耕作放棄地の増大が見られ、国土保全の観点からも課題とされている。このためには、農村における土地の農業上の利用と他の利用との適切な調整を図ることや、条件不利地域における耕作放棄防止対策等による農地の確保が必要とされている。

4 都市的土地利用に関する計画制度の進展
 東京市区改正条例の制定(明治二十一(一九八八)年)、都市計画法等の制定(大正八(一九一九)年)と適用地域の全国への拡大(昭和八年)により、都市計画制度が整備された。
 戦後には、都市基盤整備、宅地造成に関して、土地区画整理法(昭和二十九年)等が制定された。昭和四十年代に入ると、都市的土地利用の拡大と農業的土地利用との競合、郊外におけるスプロール化の進行が目立つようになり、計画的な土地利用と開発に対する規制の必要性が高まったため、都市計画法の全面改正(昭和四十三年)等が行われた。

5 農地・森林の利用に関する法制度の進展
 農地の権利移動や転用を許可制とする農地法(昭和二十七年)が制定された。農業振興地域の整備に関する法律(昭和四十四年)により、農業振興施策を農用地区域に集中させるとともに、農地転用を規制する仕組みが整備された。食料・農業・農村基本法(平成十一年)においては、農地の確保及び有効利用のための国の責務が定められた。
 森林に関しては、保安林制度などを柱とする森林法(明治三十(一八九七)年)及び国有林野法(明治三十二(一八九九)年)が制定された。戦後に入り、戦中の乱伐と戦後の大量伐採によって荒廃した森林の保全を図るため、森林法(昭和二十六年)等が制定された。

6 国土利用計画法及び土地基本法の制定
 我が国における土地問題の重要性にかんがみ、土地利用計画体系の総合性の確保等のための国土利用計画法(昭和四十九年)、土地についての基本理念及び土地政策の基本等を定めた土地基本法(平成元年)が制定された。

第2節 地価の動向

 この百年間の地価の動向についてみると、地価が特徴的な動きを示したことは戦前に一度あり、また戦後の経済復興が一段落ついた昭和三十年代以降については、昭和三十年代半ば、昭和四十年代後半、いわゆるバブル期の三回の地価高騰が認められる(第3図参照)。
(大正八(一九一九)年頃を中心とする地価の動き)
・第一次世界大戦後の復興需要への期待、貿易収支黒字による外貨流入と低金利などが地価上昇の要因として挙げられる。
(昭和三十年代半ばの地価高騰)
・工業用地や住宅用地需要の増大が、地価高騰の背景として挙げられる。
(昭和四十年代後半の地価高騰)
・事業用地や住宅用地需要の増大に、ニクソンショック後の過剰流動性の増大と投機的な需要が加わった。
(いわゆるバブル期の地価高騰)
・都心部の業務地の地価上昇を契機に、過剰流動性、住宅の買換え需要と投機的需要が原因となり高騰した。
(バブル崩壊後の地価の動向)
・仮需要の減少により地価は下落に転じ、ここ数年、厳しい景気動向を反映して、地価の下落が見られた。
 直近の地価公示によれば、地価の二極化が鮮明となっており、その背景には、我が国の社会経済が構造的に変化する中で、土地市場においても需給関係が変化し、我が国の地価が実需を反映して形成されていることなどが指摘されている。

第3節 土地の所有と利用をめぐる法制度の変遷

 我が国の近代的土地制度は、明治政府が近代的な私的所有権を認め、土地の自由な取引を認めたことから始まる。その後、借地法及び借家法(大正十(一九二一)年)が制定され、昭和十六年には、正当事由制度が導入された。また、マンション供給の増加をうけて、建物の区分所有権に関する法律(昭和三十七年)が制定された。
 バブル崩壊後、土地の有効利用の実現が課題となっている中で、平成三年に定期借地権制度、平成十一年に定期借家制度が創設され、その活用が期待されている。

第4節 土地をめぐる諸制度の沿革

1 不動産鑑定評価制度
 不動産の鑑定評価が業務として行われたのは、明治三十年頃から政府系金融機関が担保融資の目的で始めたものが最初である。
 昭和三十年以降の地価高騰をうけて、宅地の流通の円滑化等に資するため、不動産の鑑定評価に関する法律(昭和三十八年)が制定され、さらに合理的な地価形成を図るため、地価公示法(昭和四十四年)が制定された。昭和三十九年には、最初の不動産鑑定評価基準が策定され、平成二年に現在の不動産鑑定評価基準が策定された。

2 土地税制
 近代的税制の第一歩は、明治六年の地租改正であった。戦後は、シャウプ勧告に基づいて固定資産税が創設された。
 地価高騰が社会問題化してくると、個人譲渡所得に対する分離課税制度の導入(昭和四十四年)や、法人の土地譲渡益課税制度、特別土地保有税(昭和四十八年)などの措置が講じられた。特に、バブル期の地価高騰に対しては、地価税の創設を始めとする土地保有税、譲渡益課税の強化措置が講じられた。
 これに対し、土地取引の沈静化など土地を取り巻く社会経済情勢が変化する中で、新総合土地政策推進要綱(平成九年)で、土地政策の目標が「地価抑制」を基調とするものから「土地の有効利用の促進」に転換された。土地税制においても、このような土地をめぐる状況等を踏まえ、厳しい経済情勢にもかんがみて、地価税の課税停止(平成十年)や、地価高騰期の投機的取引の抑制を主眼とした制度が廃止されるなどの措置が講じられた。

3 不動産金融制度
 明治維新後、近代的所有権の確立によって不動産担保金融が制度化され、商工業の旺盛な資金需要に対し大きな役割を果たした。割賦販売形式による分譲住宅の供給も、明治期後期から始められている。昭和期において、不動産担保債権の流動化手法として、抵当証券が制度化(昭和六年)されたが、実施件数は少なかったといわれている。
 戦後においても、不動産担保金融は、民間設備投資への資金供給に大きな役割を果たした。戦後の民間銀行の貸付残高に占める不動産担保貸付残高の割合を見ると、高度成長期やバブル期には若干高くなっているものの、おおむね二〇%台で推移している。住宅金融の分野では、昭和二十五年に住宅金融公庫が創設された。
 近年、不動産特定共同事業法(平成六年)、SPC法(平成十年)が制定され、間接金融が中心であった不動産金融の分野で、不動産の証券化・小口化が、新しい手法として注目されている。

4 地籍に関する情報整備
 近代国家としての土地に関する調査は、地租改正が基礎となっており、その際に調製された地図のほとんどは、精度等の問題を有しているものの、その後、土地台帳付属地図として取り扱われ、土地台帳制度が不動産登記制度に取り込まれた昭和三十五年以降も、公図として利用されてきた。
 戦後、国土の実態を正確に把握することが強く求められ、国土調査法(昭和二十六年)が制定された。さらに、国土調査促進特別措置法(昭和三十七年)が制定され、地籍調査が強力に推進されることとなった。
(まとめ)
 この百年の土地をめぐる歴史を振り返ると、我が国が近代国家として成長していく中で多様な土地利用が進み、これに対応して土地に関する諸制度が整えられてきた。これらの取組が、我が国の近代化と経済発展を支えてきたことは言うまでもない。
 しかし、経済発展や急速な都市化等を経て、土地利用についての様々な課題が存在している。また、今日、土地をめぐる状況は、右肩上がりの地価上昇の時代とは異なるものとなっており、土地に関する国民や企業の意識は変化し、土地取引においては実需が中心となるなど、転換点を迎えており、これに的確に対応し、土地の有効利用に向けて取り組んでいくことが重要となっている。

〈第2章〉土地を取り巻く社会経済の変化と土地の有効利用のための課題

 近年の土地市場の構造的変化が社会経済に与えた影響を把握するとともに、土地の有効利用に向けて土地市場の条件整備や土地利用の課題に、どのように対応していくべきかについて考察する。

第1節 国民の土地に関する意識の動向

 国土庁が実施した「土地問題に関する国民の意識調査」(平成十二年一月に全国の二十歳以上の者三千人を対象に実施。回収率七二・八%。以下「国民の意識調査」という。)の調査結果。

1 国民の土地資産の有利性、土地の所有・利用に関する意識
(土地資産の有利性に関する意識)
 土地の資産としての有利性の意識に関して、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産である」と考えるか尋ねたところ、「そう思う」と回答した者と「そうは思わない」と回答した者の比は、ほぼ一対一に近づいている(第4図参照)。
(土地所有に関する意識)
 土地・建物を所有しておきたいという意識は依然として強く、持ち家志向は高い。しかしながら、土地を所有したいとする理由については、土地を有利な資産と考える意識は低下している。

2 国民の居住に関する意識
(望ましい住宅の形態)
 望ましいと考えている住宅の形態についてみると、一戸建てを望ましいと考える割合が依然として高い(八一・一%)ものの、年々減少している。
(住み替え時の重視点)
 実際に住居を選択する際の重視点について尋ねたところ、全体としては、重視する点として「家賃、住宅価格」(四一・一%)、「住居の広さ」(三六・八%)を挙げる者の割合が高い。これを年代別にみると、ライフ・サイクルの中で、家族の増加や子供の成長など家庭環境が変化するに伴って、求める住居の広さや周辺環境に対するニーズが異なっていることが分かる。
(まとめ)
 国民の土地・建物を所有しておきたいという意識は依然として強く、持ち家志向は高い。しかしながら、土地を所有したいとする理由については、土地を有利な資産と考える意識は低下してきており、生活の安定と利便性を重視する方向が見られる。
 また、国民の居住に関する意識については、依然として一戸建てへの志向が強い中、年代などによって違いが見られ、国民の求める居住環境へのニーズは多様化していると考えられる。

第2節 企業の土地に関する意識と所有・利用の動向

 国土庁が実施した「土地所有・利用状況に関する企業行動調査」(平成十二年一月に、資本金一千万円以上の、札幌市、仙台市、東京都区部、名古屋市、京都市、大阪市、広島市及び福岡市(八大都市)に本社を置く企業九千社を対象に実施、回収率四四・二%。以下「企業行動調査」という。)等の調査結果。

1 土地所有に対する意識
 企業においても、従来のように土地を有利な資産と考える意識は低下しており(第5図参照)、資産価値の増加を期待するのではなく、利用を前提とした資源としての側面を重視する傾向が見られる。

2 企業の土地の所有・利用の動向
(機能別の土地・不動産の購入・売却の状況)
 国土庁の「企業経営の変革と土地に関するアンケート調査」(全国の上場企業、店頭公開企業約三千三百社を対象として、平成十二年一月から二月にかけて郵送による配付・回収で実施。回収率は二八・五%。以下「企業経営調査」という。)をもとに、オフィス機能・生産機能・物流機能の各機能別に、平成七年から平成十一年の最近五年間における企業の土地・不動産の購入・売却の動向をみた。
 施設の購入については、業種別では、不動産業、金融・保険業において事務所建物等を、エネルギー・運輸・通信業においては物流施設を購入した企業数の割合が高い。
 施設の売却については、業種別では、金融・保険業において、何らかの形で事務所建物等や寮・社宅を売却した企業数の割合が高い。施設を売却するに至った経営上の要因としては、事務所建物等、生産施設、寮・社宅のいずれにおいても、「既存施設の統廃合(遊休化、低稼働)」を挙げる企業が多かったことから、保有不動産が遊休化し、低稼働であったことが経営上の問題となっていたことをうかがうことができる。

3 未利用地の動向と企業の土地利用に関する意識
(未利用地の動向)
 法人の土地の売却が行われる中で、法人が保有する未利用地は、「平成十年法人土地基本調査」速報集計結果によると、平成十年一月時点で四百五十平方キロメートルで、平成五年(六百四十三平方キロメートル)に比べ減少している。
(未利用地に関する意識)
 企業行動調査により、未利用地を所有する企業に、当該土地が未利用地となっている理由を尋ねたところ、「売却を検討したが、売却できなかった」(二九・九%)を挙げる企業の割合が最も大きく、年々増加していることに加えて、「利用計画はあるが、時期が来ていない」を挙げる企業の割合が大きく低下してきていることから、企業においても、あらかじめ土地を取得しておくといった行動様式が薄れてきていることをうかがうことができる。
(土地利用に関する意識)
 土地の利用・活用等について、一般的な認識として、過半数の企業で低・未利用地の活用の必要性を認めており、また、「土地は活用したいが、新たな借入れはしたくない」と考える企業の割合も過半数あることから、企業においては土地保有のコストを認識しながらも、なかなか有効な解決策を見いだすことができない状況にあることがうかがえる。
(まとめ)
 企業においても、従来のように土地を有利な資産と考える意識は低下してきており、土地について、資産価値の増加を期待するのではなく、利用を前提とした資源としての側面を重視する方向が見られる。
 また、現に保有する土地を有効利用する必要性についても、企業の認識は高い。

第3節 土地市場の変化と経済活動への影響

 我が国の土地市場は、バブル崩壊後の地価の下落などにより、土地の利便性や収益力が重視されるようになっている。

1 収益力重視の傾向
 土地市場における収益力重視の傾向について、高度商業地(東京都千代田区、中央区)における地価の形成要因を分析すると、「実効容積率」との相関が最も高く、「最寄り駅からの距離」の相関が低下する一方、「地積」、「前面道路幅員」の相関が高くなっている。
 こうした変化は、土地市場の変化と密接に関わっていると考えられる。すなわち、零細な敷地であったり、十分な幅員の道路が整備されていなければ、容積率が十分生かされず、土地の収益力が上がらない。一方、その土地自体の収益力とはあまり関係なく価格水準が決められていた駅前近くの土地においては、本来の収益力が価格に反映される傾向が強まったためと考えられる。

2 住宅選択の傾向
 土地市場が変化する中で、国民の住宅に対する意識にも、資産としての価値よりも利便性を重視して住宅を選択する動きが出てきている。
(マンション立地の都心回帰の傾向)
 東京圏の新規マンション立地は、郊外から都心部への回帰傾向が見られる。
(都市中心部のマンション居住者の意識)
 都市中心部のマンションに居住する者の意識を、「新築マンション入居者動向調査」(平成十二年一月に東京都心区、大阪市中心区及び仙台市などの地方都市の中心部に立地する新築マンションに居住する三千世帯を対象に実施。回収率二二・八%)で見ると、現在のマンションを選んだ理由として、立地条件や利便性・安全性を重視する傾向が高いことがうかがわれる。
(今後の住み替え意向)
 今後の住み替え意向については、永住志向を持つ者の割合は、年代が高くなるにつれて高くなっている。これまでマンションは、一戸建ての持ち家に住む前段階といわれてきたが、実際にはマンションでの永住を考える者も多く、価値観が多様化してきていることがうかがえる。

3 土地市場の変化と企業経営の動向
 (1)企業経営の動向
 これまでは、土地を保有していれば、地価の上昇に伴って企業の含み益も増加したため、長期的にみれば土地を保有していることが有利と考えられてきた。しかしながら、地価の下落などにより、土地の有効利用による収益を重視した市場へと土地市場が変わりつつあることを受けて、土地の含み益に依存した企業経営は変革を迫られており、企業経営調査によれば、今後、企業の経営方針は、売上重視から利益重視へ、資産重視からキャッシュフロー重視へという傾向がますます強まると考えられる。
(不動産に対する考え方の変化)
 こうした中で、企業の資産保有に対するスタンスも大きく変化しており、遊休地化した保有不動産の売却などによる資産の効率化が求められるようになってきている。また、情報化の進展や新会計制度の導入といった動きも、こうした流れをさらに進めるものと考えられる。
 (2)収益性を重視した企業の動向
(外資系企業の動向)
 外資系企業については、「外資系企業の不動産投資の実態と意識に関するアンケート調査」(平成十二年一〜二月に国内に所在する外資系企業約三千三百社を対象に実施。回収率二二・〇%)によると、所有より賃借が有利と考える傾向が強く、立地は都心区に集中している。
(情報関連産業の動向)
 情報関連産業については、東京都渋谷区を中心とした、インターネット関連サービス業、ソフトウェア業などのベンチャー企業の集積地が「ビットバレー」と呼ばれ、新規産業の創出・成長が新たなオフィス需要の発生・拡大を招いた事例として注目されている。

4 企業金融の変化と土地市場
 経済の低迷や地価下落による土地の担保価値が減少する中で、間接金融優位・コーポレートファイナンス中心であった不動産関連投資の資金調達について、土地の有効利用につながる優良なプロジェクトに対して、円滑に資金が確保できるよう新たな途を開くことが重要となってきており、不動産の証券化が注目を集めている。
 こうした不動産の収益性に着目した資金調達は、対象不動産の収益に関する基礎的な情報の的確な把握を必要とし、投資家の判断に資するような市場の条件整備が求められることを意味し、土地市場に大きな影響をもたらすと予想される。

第4節 土地市場の条件整備

 市場の構造的変化(利便性・収益性を重視した実需中心の市場構造)に対応して、土地市場の条件整備を行う必要がある。

1 収益性を重視した不動産の鑑定評価
 商業地の不動産の鑑定評価においては、鑑定評価の三手法のうち、特に収益還元法を重視して不動産を評価しようとする動きが強まりつつある。
(具体的な取組)
 (社)日本不動産鑑定協会は国土庁と協力して、平成十年に不良債権担保不動産の鑑定評価に当たって留意すべき事項を、平成十一年にはSPC法に係る不動産鑑定評価上の留意事項を取りまとめている。
 今後の不動産投資信託などの集団投資スキームに対応する観点からも、これまでの収益性を重視した鑑定評価の取組を踏まえた、実務的な手法の検討が進められている。
(収益性重視の不動産鑑定評価を行うに当たっての課題)
 このように収益性を重視した不動産鑑定評価手法の改善が進められているが、我が国において収益還元法を適用するに当たっては、次のような点に留意する必要がある。
 第一に、我が国では、賃料や還元利回り・割引率などの収益情報を市場で入手しにくいため、収益価格の適切な算定に不可欠な還元利回りなどの設定に難しい面がある。また、商業用不動産に関する賃貸借慣行として、建物の賃貸借期間を原則二年間とすることなどの事情もあって、不動産の長期的な収益見込みが立てにくい面がある。
 第二に、どのような賃貸用不動産にも収益還元法が有効とはいえないことである。従来、我が国では、戸建住宅やファミリー型マンション等については、賃貸住宅としての供給自体がそもそも少なく、現時点では一般に収益還元法が適用しうる賃貸市場が成立していない状況にある。
 今後、より精度の高い収益価格の算定のためには、前記のような収益還元法の性格を十分認識しながら、我が国において収益還元法を的確に適用するための条件整備を図る必要がある。

2 土地情報の整備・提供
 我が国では、合理的な地価形成に資するよう昭和四十四年に地価公示制度が創設され、その充実が図られてきた。また、不動産指定流通機構では、平成九年から一般向けに不動産市況の情報提供が進められてきた。
 実需に基づく地価形成が行われるようになる中で、収益を重視した土地取引の前提として、取引価格や賃料などの収益性に関する情報の整備・提供が重要となっている。しかし、我が国においては、プライバシーを侵害するおそれがあるのではないかという懸念や、守秘義務の問題から、行政機関や民間による個々の土地に関する売買価格や賃料といった情報の提供は、ほとんど行われてこなかった。
(新たな取組)
 このような中で、SPC法に基づく特定目的会社のうち、証券取引法の規定が適用される場合には、投資家保護の観点から、対象不動産の価格や賃料収入の開示が義務付けられた。また、国有財産の効率的な利用を図るためには、情報公開が重要であるとの観点から、平成十二年一月から、一般競争入札等による国有財産の売払いの契約金額について、売払相手方の同意を得た上で公開されており、四月から国有財産情報公開システムが運用されている。
 このほか、国土庁において、平成十二年度から三大都市圏を対象に賃料インデックス調査を実施することとしており、民間においては、投資家の投資判断等に資することを目的として、不動産投資インデックスの作成が進められている。
 今後とも、土地市場の条件整備の一環として、土地情報の整備・提供のあり方について、検討を進めていく必要があると考えられる。その際には、プライバシーや守秘義務の問題について配慮するとともに、どのような形で情報の収集及び提供が行われるのが適切であるか、諸外国の例も参考にしながら検討していく必要がある。

3 不動産証券化に向けた環境整備
 近年、不動産関連投資における新たな資金調達手法として、不動産の証券化に向けた取組が始まっており、個人等の金融資産の有効活用の観点からも注目されている。
(不動産の証券化と土地の有効利用)
 土地の有効利用により既成市街地の再構築などが進められていくよう、有効利用に向けた不動産関連投資に必要な資金の円滑な確保を図り、事業を起こしやすい環境を整備していくためには、資金の調達手法の多様化を通じて、資金の確保を図ることが重要になる。
 一般の投資家から幅広く投資を募ることで資金を調達する仕組みである不動産の証券化は、こうした土地の有効利用に向けた事業を実現し、良質なストックを形成していくための投資促進の一手法として、大きな意味を持つものと位置づけられる。
(不動産の証券化に向けた条件整備)
 証券化に向けては、収益力を重視した不動産鑑定評価、対象不動産の収益情報に関する情報の開示・提供、不動産投資インデックスの整備・提供、不動産投資顧問業等、関連サービス産業の育成といった条件整備が求められる。
(不動産証券化の新たな動き)
 資金運用型スキームによる不動産の証券化に向けた制度化がなされたところであり、今後、こうした証券化商品の多様化の動きを通じて、不動産関連投資が促進されるものと思われる。

4 定期借地権制度・定期借家制度の活用
 定期借地権制度・定期借家制度は、「土地の所有から利用へ」という土地政策の理念に即し、土地の有効利用に資するものであり、一層の活用と普及が重要になっている。
 平成十二年三月から施行された定期借家制度の活用については、貸主・借主双方の合意を踏まえた契約により、建物の返還時期が明確に定められることから、明渡しの際のトラブルが回避されるだけでなく、収益の見通しも確実になるという特徴を生かすことができ、これにより、ファミリー向け賃貸住宅の供給、老朽化した建物の建て替え等を通じた土地の有効利用が進むものと期待される。

第5節 大都市圏及び地方圏における土地の適正利用に向けて

 国民のゆとりある生活空間の実現のため、大都市圏では都市再構築に向けた既成市街地の再編、低・未利用地の活用、地方圏では中心市街地の活性化や地域独自の土地利用調整など、土地の適正利用に向けての取組が重要な課題となっている。

1 都市再構築に向けた土地利用の課題への対応
 都市再構築に向け、既成市街地の再編を図る観点から土地利用についてみると、市街地における大きな問題点は、公共施設に配分されている土地が不足しており、十分な基盤施設が整っていないこと、狭小な敷地規模の土地が多いこと等にある。

 (1)大都市の既成市街地における基盤整備の必要性と効果
 東京都区部の容積率の充足状況について、地理情報システム(GIS)を用いて分析すると、指定容積率が十分に利用されていない地区が広く分布している。
 次に、道路整備の効果を見るため、すべての道路を指定容積率を満たすのに必要な道路幅員にして試算したところ、利用可能となる延床面積が大幅に増加する結果となったことから、道路整備は土地の有効利用に与える効果が高いことがうかがえる。
 また、道路拡幅に併せて敷地統合を行うことが、土地の有効利用の観点から、より効果的であると考えられる。
 (2)低・未利用地散在地区における土地の有効利用
 都心部の低・未利用地の面積は、いわゆるバブルの崩壊後減少し、バブル前の量にほぼ近づいている状況にあるが、これらの低・未利用地の有効活用は、既成市街地の再編の観点から大きな課題である。
 都心部において、狭小な敷地規模の低・未利用地が散在する典型的な地区(以下「低・未利用地散在地区」という。)である新宿区N地区、中央区K地区、中央区M地区の三地区について、現在、低・未利用地となっている敷地の状況を見ると、敷地条件が悪い敷地は、いずれの地区においても約九割を占めた。特に低・未利用地については、その有効利用の阻害要因として、敷地条件の悪さが大きな影響を及ぼしていると推測される。
 また、担保不動産の状況を推定するために、中央区K地区を取り上げて試算を行ったところ、抵当権価格の収益価格に対する割合(担保カバー率)が一を超える担保不動産は、全敷地のうち約二割を占める結果であった。このような担保不動産は特に低・未利用地に多いわけではないが、収益に基づかない過大な抵当権が設定されていることが、低・未利用地の有効利用が進まない原因の一つであると推測される。
 今後、都心部の低・未利用地散在地区においては、以上のような点に十分配慮して、土地の有効利用を進めていく必要がある。
 (3)低・未利用地における定期借地権の活用
 国土庁の実施した「地方公共団体における定期借地権の活用に関する状況調査」(都道府県・東京特別区・政令指定都市・県庁所在市の計百十八団体を調査対象。平成十二年二月実施。回答率は七八・〇%)によると、十七団体が「地方公共団体、関係団体で土地の定期的利用(期間を限った利用)を行っている」、五団体が「定期借地権等を設定して、民間の事業者が定期的利用を行っている」と回答しており、定期借地権制度の活用をはじめとした土地の定期的利用が、低・未利用地の活用方策として認識されつつあることが分かる。
(事例)横浜ベイサイドマリーナ地区(横浜市所有地)
 横浜市は、もともと木材港であった金沢区白帆に、マリーナ整備を含む海洋性レクリエーション拠点の形成を目指した再開発を進めていた。第一期の開発事業にあたっては、バブル崩壊の状況の中、景気動向が不透明なため、企業の開発事業への投資意欲は減退していたと考えられたこと、当該地域の早期熟成を図るには、賑わいをもった先導的な施設の立地として、大規模な商業施設を誘致する必要があったことから、分譲方式ではなく、十年間の事業用借地権による土地貸付手法を採用したものである。

2 地域における土地利用の課題への対応
 地方圏は豊かな自然や景観に恵まれ、固有の産業・文化・伝統等を有し、安心して暮らせる魅力ある地域を形成してきたが、近年多くの都市の中心市街地が衰退するとともに、郊外においては、開発により自然環境や景観が失われつつある。
 (1)まちづくりと国民の意識
 近年、多くの都市で、居住人口の減少・高齢化、商業環境の変化、モータリゼーションの進展への対応の遅れ等を背景として、中心市街地の衰退、空洞化が深刻な問題となっている。
 国民の意識調査によれば、住んでいるまちの中心部に関して「活気がない」とする者が、地方圏では五一・三%と半数を超えており、大都市圏(三五・八%)に比べ高く、特に地方において、中心市街地の活性化が重要な課題として認識されていることがうかがえる。
 平成十年に中心市街地活性化法が制定され、市街地の整備改善施策を充実するとともに、商業等の活性化施策を講じている。平成十二年四月十五日現在で、二百十五市町村、二百十八地区において基本計画が策定されており、市街地の整備改善と商業等の活性化を車の両輪として、それぞれの地域において、各種の事業が総合的に推進されることが期待される。
 (2)地域の実状に応じた土地利用調整の取組
 土地利用に関連する行政について、地域の総合的な行政主体である市町村の役割が大きくなっている。身近な自然や景観の保全など、地域ごとの土地利用調整の課題に、地域の実状に詳しい地方公共団体が多様な取組を行っている事例を紹介する。
(事例)穂高町
 穂高町は、昭和四十年代以降は、ベッドタウンとして一貫して人口が増加し、特に高速道路ICの開設に伴い、平坦地の土地利用規制が相対的に緩い地域での住宅の蚕食的な開発や、幹線道路沿いでの大型店の進出が進んでいる。そのため、社会資本整備の非効率化や、美しい景観の喪失が懸念され、このような問題を解決していくために、平成十年に土地利用調整基本計画が策定された。
 土地利用調整基本計画は、「土地利用の基本方向」、「土地利用誘導区域」及び「特に土地利用の調整が必要と認められる地域において土地利用調整上留意すべき事項」からなっている。
 「土地利用誘導区域」として、用途地域以外において、九つのゾーンが設定され、特に、課題となっている「優良農地の保全」は、土地利用の基本方向の一つとして定めている。土地利用誘導区域の設定に当たっても、農地エリアを「田園風景保全ゾーン」、「農業保全ゾーン」、「農業観光ゾーン」と細かく定めるとともに、虫食い開発が見られる地域や、用途地域周辺の既存の集落を含む一帯、町内の主要幹線道路沿いに「集落居住ゾーン」を設定することにより、新たな宅地需要に対応している。
 また、土地利用誘導区域ごとに、定性的な土地利用方針の提示とともに、立地可能な施設の用途をきめ細かく定めている。

U 土地の動向

〈第3章〉土地利用の動向

 我が国の国土面積三千七百七十九万ヘクタールのうち、六六%を占める森林(二千五百十一万ヘクタール)及び一三%を占める農用地(四百九十九万ヘクタール)は、いずれも微減の状況が続いており、五%を占める宅地と三%を占める道路は、逐年増加傾向にある。
 また、平成十年の土地利用転換面積は三万四千七百ヘクタールとなっており、近年、減少傾向にある。

〈第4章〉土地所有・取引の動向

 我が国の国土のうち、約八五%を占める宅地・農用地及び森林・原野について、所有主体別の状況を見ると、平成十年度では国公有地が三七%(うち国有地が二八%、公有地が九%)、私有地は六三%となっている。
 土地取引件数は、平成九年、十年と減少したが、平成十一年は、全体としては微増となっている。圏域別には、東京圏など大都市圏で増加している。

〈第5章〉地価の動向

 平成十二年地価公示により昨年一年間の地価の動向を概観すると、
 大都市圏においては、住宅地は前回公示とほぼ同じ下落幅であり、商業地は下落幅にやや縮小傾向が見られ、一割未満の下落となった。
 地方圏においては、住宅地は横ばい、商業地は前回公示とほぼ同じ下落幅であった。
 この結果、全国平均では、住宅地は△四・一%、商業地は△八・〇%となった。
 また、大都市圏を二十七の地域に分けて、地価の動向を分析すると、
・住宅地では下落幅が拡大した地域と縮小した地域がほぼ半数ずつ(前回はすべての地域で下落幅が拡大)
・商業地では下落幅が縮小した地域は半数以上(前回は、ほとんどの地域で下落幅が拡大)
となり、大都市圏の地価は、下落幅が縮小する動きが見られる。

V 土地政策の推進

〈第6章〉土地の有効利用に向けた施策の推進

第1節 土地政策の基本方向
    ―新総合土地政策推進要綱等の推進と今後の課題―

(新総合土地政策推進要綱の決定)
 平成九年二月に政府は「新総合土地政策推進要綱(「新要綱」という。)」を閣議決定し、土地政策の目標をこれまでの地価抑制から、「所有から利用へ」との理念の下、土地の有効利用による適正な土地利用の推進へと転換した。
 新要綱に基づいて、都市計画法・建築基準法の改正によるマンション等共同住宅の容積率規制の緩和や、容積率の引き上げ等を行う高層住居誘導地区の創設、低・未利用地の散在する既成市街地内の地区整備を進める敷地整序型土地区画整理事業の創設等の諸施策が推進されている。
(土地の有効利用促進のための検討会議提言)
 平成九年十一月に政府の関係閣僚と与党の政策責任者により構成される「土地の有効利用促進のための検討会議」において、その提言が取りまとめられた。
 同提言においては、当面、バブル期に講じられた措置の見直しの検討を図るとともに、バブル期に生じた土地利用の混乱の回復など、市街地の再生・整備のための措置を講ずること、特に、土地を有効に利用しようとする者の投資意欲が顕在化しにくい状況を踏まえ、実需を喚起するための施策を重点的に実施するなど、土地取引の活性化を図ることが示されている。
 このような背景の下に、平成十年度の土地税制改正において、地価税の課税の停止、土地譲渡益課税の大幅な見直し等、所要の見直しが行われた。また、不動産等の証券化を促進する「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」の制定(平成十年六月)、国土利用計画法に基づく届出勧告制の改善(平成十年六月)など、法制度の見直しを含めた諸施策が推進されている。
(土地の有効利用・取引の活性化に向けた施策の展開)
 景気の低迷を反映して、住宅地を中心に需要が潜在化し、平成九年夏以降、土地取引件数が急速に減少した。また、バブル期に生じ、塩漬け状況となっている、いわゆる虫食い土地についても、その流動化を促進する必要性が指摘されるようになってきた。
 このため、政府は、需要の潜在化が見られる住宅地について、住宅金融公庫の金利の引き下げなどの貸出し条件の改善を図るとともに、平成十一年度税制改正において、住宅ローン控除をはじめとする税制改正を決定するなど、需要の拡大を図る観点からの施策を講じた。
 不良債権担保不動産についても、その流動化を図る観点から、平成十年四月の総合経済対策及び政府と与党による金融再生トータルプランに基づいて、@債権債務関係の迅速・円滑な処理策の実施と併せて、A土地の集約化と都市再開発の促進、B都市再構築のための公的土地需要の創出などの施策を実施していくこととされた。実施された主な施策は、債権債務関係の迅速・円滑な処理として、不良債権担保不動産の適正評価手続(デュー・デリジェンス)の確立、競売制度の迅速・円滑化等、土地の集約化と都市再開発の促進として、都市基盤整備公団や(財)民間都市開発推進機構による土地の有効利用のための土地取得等である。
(土地政策審議会提言)
 最近の社会経済構造の変化を踏まえ、土地に関する諸制度の中には見直しを行う必要のあるものが生じてきており、土地政策審議会では、国土庁長官の要請を受け、@住宅ローン減税のあり方、A流通課税の改善の方向、B収益を重視する方向での不動産鑑定評価制度の確立、C土地情報の開示・提供の仕組みの整備、D大都市の既成市街地の再編の方向(虫食い土地の集約・整理・再編・活用策を含む)、E総合的な土地利用計画制度の実現の方向について、平成十一年一月十三日に意見を取りまとめた。

第2節 土地利用計画の整備・充実

1 土地利用計画の意義と新要綱等に示された方向性
 適正な土地利用に当たっては、適正かつ合理的な土地利用計画が立てられ、それに即した利用が図られることが不可欠である。国土利用計画等の広域的な国土利用の方向を踏まえ、市町村における総合的な土地利用計画と地区ごとの詳細な土地利用計画を策定し、その有機的な連携を図ることが必要である。

2 土地利用計画の整備・充実に関する施策の実施
 土地の有効利用の前提である総合的な土地利用計画の整備・充実を図るため、都道府県における土地利用に関する総合計画である土地利用基本計画の充実強化の一環として、市町村レベルにおいて、土地利用の誘導方向等を示す土地利用調整基本計画や、地区住民による土地利用調整に関する協議会の設置等、住民の参加の下に、地区レベルにおいて土地利用のあり方やそれに向けての整備手法等を示す地区土地利用調整計画の策定等を推進している。

第3節 低・未利用地の有効利用の促進等

1 国土利用計画法の遊休土地制度
 国土利用計画法の遊休土地制度については、遊休土地制度の円滑な運用及び国土の適正かつ合理的な利用の推進に資するよう、遊休土地等の利用又は保全の方向付けを行う遊休土地等利用促進計画の作成を、市町村等に対して推進しており、平成十年度より、市町村等が遊休土地等の所有者に対して、コンサルタントを派遣できることとしている。

2 市街化区域内農地を活用した計画的なまちづくりの促進等
 最近の市街化区域内農地については、小規模な農地が基盤整備が不十分なまま散在し、宅地化する農地と保全する農地とがモザイク状に混在している。
 このような場合、道路や公園等の都市基盤が十分に整備されないまま市街化が進む、いわゆるスプロール開発を防止しながら進めることが重要であり、土地利用計画に従い、良好な環境の形成に配慮しつつ、その有効利用を促進することが必要である。
 このため、道路等の基盤整備を進めつつ、宅地化する農地と保全する農地をそれぞれ有効に活用するための事業手法、支援措置が必要となっている。
 農住組合制度は、農地所有者等の自発的発意により設けられる農住組合が、まちづくりに必要な基盤整備から、住宅建設や当面の営農の継続に必要な農地の利用・保全事業等を一貫して行うもので、市街化区域内農地における農と住の調和した良好なまちづくりを進めるため、財政的支援措置の拡充等を行い、同制度の積極的な活用を図っていく必要がある。
 なお、新規農住組合の設立期限の到来に当たり、今後、農住組合制度が一層活用されるよう、制度改正の必要性について検討されている。

第4節 土地に関する情報の整備・提供

1 土地取引情報等の整備・提供
 適切な土地取引が行えるような条件を整備するには、土地取引に関する情報の収集、整理、分析及び提供が重要である。このため、国土利用計画法に基づく届出情報の活用を進めるため、データベース化を行う等の充実を図っている。
 また、土地市場において透明性・効率性を確保し、土地取引の円滑化を図る観点から、土地情報の提供を一層充実し、促進していくことが求められている。このため、取引価格や賃料といった個別の土地に関する情報について、開示・提供の具体的な仕組みの構築に向けて検討を進めるとともに、国、地方公共団体等が、保有する土地情報のインターネットを通じた提供を充実することとしている。

2 地価に関する情報等の整備・充実
 地価に関する情報等については、地価公示による公示価格及び都道府県地価調査による基準地価格を公表しており、これらについては、インターネットを通じた情報提供も行っている。引き続き公示価格及び基準地価格の情報提供に努めるとともに、三大都市圏を対象に、用途別・地域別の賃料インデックス調査を検討・試行し、さらに、三大都市圏の高度商業地における現実の複合不動産の収益価格を算定し、割引率等の算定過程を含め、その結果を公表する収益価格調査を引き続き実施する。

3 土地基本調査速報集計結果の概要
 我が国の土地の所有・利用の状況を総合的に把握するため、全国の法人及び世帯を対象として、平成十年に、法人の所有する土地については、「法人土地基本調査(指定統計第百二十一号)」を実施し、世帯の所有する土地については、平成十年住宅・土地統計調査の結果データを転写し、「世帯に係る土地基本統計」として集計を行った。平成十一年十二月に速報集計結果を公表し、平成十二年度には報告書を公表する予定である。

4 国土調査の推進
 国土調査については、その緊急かつ計画的な促進を図るため、昭和三十七年に国土調査促進特別措置法が制定され、同法に基づく平成二年度を初年度とする第四次国土調査事業十箇年計画によって、昨年度まで、その推進を図ってきた。
 しかしながら、この国土調査の進捗率は、地籍調査が四三%となっているなど、依然として低い水準となっている。このため、さらに新たな十箇年計画を策定し、今後とも国土調査の計画的な実施を促進する必要があることから、平成十二年三月に、国土調査促進特別措置法の一部が改正され、今後は、平成十二年度を初年度とする第五次国土調査事業十箇年計画に基づいて地籍調査を推進する。
 地籍調査の実施に当たっては、調査が立ち遅れている都市部に重点を置きながら、国土の全域にわたり均衡のとれた進捗が図られるよう、調査の積極的な推進に努める必要がある。また、地籍調査を強力に促進するため、一筆地調査において外部技術者を活用する途を開いたり、客観的な資料に基づいた境界確認案を用いることによる立会の弾力化を図る必要がある。

5 地理情報システム(GIS)の整備等
 現在、一部の市町村では既にGISを導入し、固定資産税に係る事務の効率化、都市計画業務、農地管理、道路及び地下埋設物の管理等、様々な分野で利用されているが、今後、多くの市町村でGISが導入されるためには、多くの部門で共通に利用できるような地図データからなる基図の迅速な整備・活用等が必要である。
 この基図の整備を一層促進する観点からは、基礎的な地図データの一つとして、地籍図の整備が急がれる。さらに、都市部の進捗の遅れている地域においては、土地区画整理事業等、他事業による確定測量の成果の積極的活用や、測量の基礎となる基準点を先行的に設置することによる民間の土地取引や開発行為等に当たっての測量成果の活用を図るとともに、必要最小限の情報である官民境界の先行的調査等を進めることが、基図の迅速な整備上求められている。
 さらに、政府においては、GISの効率的な整備及びその相互利用を、関係省庁の緊密な連携の下に促進するため、地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議において、「国土空間データ基盤の整備及びGISの普及の促進に関する長期計画」を策定し、各種施策を推進している。

第5節 土地・住宅税制の活用

 土地・住宅税制については、新要綱や提言等を背景とし、また現下の厳しい経済状況等を踏まえ、平成十一年度においては、従来の住宅取得促進税制を住宅ローン控除制度に改組し、平成十一年、十二年の二年間に限り、その税額控除の対象となるローン残高の限度額や控除期間が大幅に拡充されたほか、登録免許税や不動産取得税等の流通に係る諸税の軽減措置等が講じられた。
 平成十二年度においては、宅地に係る固定資産税の抜本的な見直しをさらに推進する等の観点から、負担水準の高い商業地等の税負担を抑制しつつ、負担水準の均衡化を促進する措置が講じられた。平成十一年度に改組された住宅ローン控除制度については、平成十一、十二年の二年間に限って大幅に拡充された措置を、平成十三年六月三十日までの居住分についても適用することとした。




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原子力安全白書のあらまし


原子力安全委員会


 原子力安全白書は、原子力安全について国民の理解と信頼を得るため、これらの諸施策を積極的に公表することとして、昭和五十六年以降ほぼ毎年、閣議配布を経て公表されているものである。平成十一年版原子力安全白書については、平成十二年七月七日の閣議に配布、公表した。
 本白書は、第一編、第二編及び資料編から構成されており、第一編では、「原子力安全の再構築に向けて」と題し、平成十一年九月に発生した東海村ウラン加工工場における臨界事故を中心に、それらに関する調査審議状況や、事故から得られた教訓を踏まえた原子力安全の今後の考え方を特集している。
 続く第二編では、原子力安全委員会及び安全規制機関における過去約一年間(平成十一年一月〜平成十二年三月)の活動や、原子力施設全般に関する安全確保の現状を紹介している。
 また、資料編では、原子力安全委員会関係の各種資料、安全確保の実績に関する各種資料等を取りまとめている。
 本白書第一編の概要は、以下のとおりである。

第一編 原子力安全の再構築に向けて

はじめに

 我が国の原子力研究、開発及び利用の歴史では、当初は原子力の技術が発展途上にあったことから、技術的な原因によるトラブルが起こり、その都度、原因を究明して対策をとり、克服してきた。しかしながら、近年では、技術的な原因による事故・故障等が発生する一方で、関係者の安全に対する緊張感の欠如や、原子力技術に潜在するリスクに対する認識不足により、原子力に対する社会的信頼を大きく損ない、不信を増大させる事例が起きてきた。原子力関係者の安全に対する緊張感の欠如や、リスクに対する認識不足が顕在化して、今回の(株)ジェー・シー・オー(以下JCO)における臨界事故につながったとも考えられる。このような事態を招いた根底には、セイフティーカルチャー(安全文化)の明らかな欠如があると考えざるを得ない。
 今回の白書の特集では、我が国の原子力開発利用史上、最悪の事故となったJCOウラン加工工場における臨界事故について、事故概要、原因究明、再発防止に向けた対応策等について述べるとともに、その他、平成十一年を中心に、主な問題への対応を紹介し、それらを受けた原子力安全確保体制の整備強化に向けた国や安全委員会の新たな取組について示すことにする。

第一章 (株)ジェー・シー・オーウラン加工工場における臨界事故について

第一節 事故の概要

1 事故の発生
 茨城県東海村にあるJCOウラン加工工場の転換試験棟において、平成十一年九月二十九日より、作業員三名がウラン粉末から濃縮度一八・八%の硝酸ウラニル溶液の製造を行っていた。核燃料物質は、ある条件を満たすと、核分裂連鎖反応が一定の割合でおこる「臨界」になるが、今回の事故が起きた加工施設では、核燃料物質が臨界にならないように、核燃料物質の質量、濃度や容器の形状により厳重に規制され、安全に管理されていた。しかし、JCOウラン加工工場では、国の許認可内容を逸脱する作業(ステンレス鋼製容器の使用、沈殿槽への大量のウラン注入)により、平成十一年九月三十日、我が国原子力開発利用史上、最悪の臨界事故が発生した。

2 事故後の対応
 政府は対策本部を設置し、事態の終息と防災のための対策を講じた。臨界は、沈殿槽の外周を流れる冷却水を抜くことで終息した。また、我が国で初めて、地方公共団体による地元住民への避難、屋内退避勧告がなされた。重篤な被ばくをした作業員三名については、懸命な治療が行われたが、二名が亡くなられた。

第二節 原因究明・検討結果

1 ウラン加工工場臨界事故調査委員会、健康管理検討委員会での検討
○ウラン加工工場臨界事故調査委員会での検討
 原子力安全委員会では、事故の原因を幅広い見地から徹底的に究明し、万全の再発防止策の確立に資するため、政府対策本部決定を受け、「ウラン加工工場臨界事故調査委員会」(委員長:吉川 弘之日本学術会議会長)を設置し、十月八日に初会合を開催、計十一回の会合を行い、中間報告及び最終報告を取りまとめた。事故の直接的原因としては、セイフティーカルチャー(安全を確保するという意識)の欠如を背景に、事業者が守るべきルールを守らなかったこと等をあげ、安全規制上の問題では、国がJCO転換試験棟の安全管理を十分に把握できなかったことなどをあげた。
 また、事故調査委員会は、再発防止に向けた今後の取組として、いわゆる「安全神話」や「絶対安全」から、リスクを基準とする安全の評価が重要であると指摘している。
○原子力安全委員会「健康管理検討委員会」の周 辺住民等の健康管理のあり方の検討
 科学技術庁が行った周辺住民を含む個人の線量の評価作業と並行して、安全委員会では健康管理検討委員会を設置し、周辺住民等の健康管理についても検討を行い、報告書を取りまとめた。この報告の中で、健康管理のあり方として、住民の被ばく線量はごく低く、放射線による健康への影響が現れるとは考えられないものの、住民の不安に適切に対応するため、健康診断、健康相談を当分の間行うことが適切であるとしている。

第三節 原子力災害の再発防止及び発生時の緊急時対処強化に向けた国の対応

1 行政庁の対応
 科学技術庁や通商産業省をはじめとする関係省庁においては、原子力施設の安全確保のための法改正や枠組みの構築に加え、緊急時対応能力の強化に向けた取組を実施している。具体的には、
 ・原子炉等規制法の改正による定期的な保安規定遵守状況検査の義務付けや、加工施設の定期検査の義務付け等
 ・原子力災害対策特別措置法の制定による原子力防災体制の整備
 ・平成十一年度第二次補正予算による原子力安全・防災対策の強化
等が行われた。

2 原子力安全委員会の役割と体制の強化
 原子力安全委員会においても、行政庁の設置許可後の規制に関する調査の実施等、安全確保のための取組について決定(平成十一年十一月十一日「原子力の安全確保に関する当面の施策について」及び平成十二年一月十七日「原子力安全委員会の当面の施策の基本について」)した。これらの施策は、平成十二年四月に安全委員会の事務局機能を科学技術庁から総理府に移管し、その独立性と機能を強化したことと並行して、着実に実施されるよう取り組んでいるところである。

第二章 その他の主な問題への対応について

第一節 日本原子力発電(株)敦賀発電所二号炉における冷却材漏えいについて

1 概要
 平成十一年七月十二日、日本原子力発電(株)敦賀発電所二号炉で、一次冷却系の再生熱交換器から約五十一立方メートルの冷却材が、格納容器内に漏えいした。当初、漏えい箇所がなかなか特定できず、隔離するまでに約十四時間を要したこと、漏えい量の把握に手間取ったこと及び事後の除染に多くの作業を要する結果となったことなどから、国民に多くの不安を与える結果となった。

2 原因究明
 通商産業省と日本原子力発電(株)は、損傷した部分を再生熱交換器の中段胴本体から切断して、民間調査機関に移送して調査を行った。安全委員会も通商産業省から十回にわたり調査報告を受けるとともに、委員会において、独自に専門家を招いて意見聴取を行った。その結果、事故の原因として、再生熱交換器の特殊な構造に起因する流量変動による応力と、温度差のゆらぎによる応力が重なった高サイクル熱疲労という技術的な現象によるものであることが判明した。

3 再発防止策と今回の漏えいから得られた教訓について
 通商産業省では、今回の再発防止の具体的対策として、高サイクル熱疲労割れを防止する設計の採用、高サイクル熱疲労に関する統一的基準の検討等を実施した。また、亀裂を早期に発見するため、再生熱交換器及び類似箇所について点検、検査を充実させることとし、さらに、万一同様の事態が発生した際は冷却水漏えい量や、除染作業による放射線被ばく量を低減化する方策をとった。原子力安全委員会では、再発防止策の実施状況について、随時行政庁に報告を求め確認することとしている。今回の漏えいの原因は技術的なものであり、未然防止、拡大抑止が課題である。

第二節 その他の問題への対応について

1 英国原子燃料会社によるデータ不正
 平成十一年九月、BNFLによる関西電力(株)高浜発電所三号機及び四号機のMOX燃料の品質保証用のデータ不正問題が発生した。これは、測定すべき燃料ペレットの直径の測定データが、作業員によりねつ造されたものであり、BNFLのMOX燃料加工工場においても、品質管理の重要性の認識が弱い等、このデータ不正の根底にも、JCO臨界事故と同じセイフティーカルチャーの問題が認められる。
 通商産業省では、平成十二年三月、「BNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会」を設置、六月に原子力安全委員会に再発防止対策等の報告がなされた。安全委員会としては、この不正の問題及びその後の経過について、極めて遺憾と考えており、行政庁の今後の取組について適宜報告を求めるとともに、事務局機能の強化を踏まえ、より的確な助言、指摘ができるように努めている所存である。

2 放射性物質の金属スクラップへの混入等
 平成十二年四月に和歌山県、五月には兵庫県で、金属スクラップへの放射性同位元素の混入が発見された。また、核原料物質であるモナザイトが、各地に法令上の手続きを経ずに保管されている状況が明らかになった。関係省庁において、現場の安全確保や所要の捜査等を実施し、再発防止策について、関係省庁連絡会議等を通じて検討されている。安全委員会では、適宜報告を受け、放射性物質の適切な管理、安全確保等を要請している。
 これらの問題は、国民生活の中に、放射性の物質が管理されずに入り込んでいることを示すものであり、国民の生活を守り、安心した生活を確保する観点から、今後とも適切な対応が必要である。

第三章 原子力安全の再構築に向けた対応について

第一節 原子力安全確保体制の強化について

○原子炉等規制法の改正
 JCO事故で顕在化した、原子力安全規制の抜本的強化の必要性を踏まえて、原子炉等規制法の改正を行った。具体的には、厳しい緊張感を持続するための枠組みを整備するため、
 ・加工事業に対し、定期検査制度の追加
 ・事業者及び従業者が守るべき保安規定の遵守状況に係る検査制度の創設
 ・規制行政庁に原子力保安検査官を置き、全施設に配置して検査等を実施
 ・事業者が行う保安に係る従業員教育の義務づけ
 ・安全確保改善提案制度の創設
などの抜本的強化を行った。
○原子力安全委員会事務局機能の強化
 JCO事故を受けた原子力安全確保に関する体制強化の中で、安全委員会は、独立性と機能の強化を図るため、平成十二年四月に、事務局機能が従来の科学技術庁原子力安全局から総理府(内閣総理大臣官房原子力安全室)へと移管された。安全委員会は平成十三年一月の省庁再編により、新たに設置される内閣府へ移行することになっており、その際には、百人規模に拡充された独立の事務局が設置される。
 また、安全委員会では、設置許可段階のダブルチェックに加え、設置許可後も行政庁の実施する安全規制活動に対する規制調査活動を、平成十二年度から本格的に実施することにしている。
○ソフト面での対応強化
 JCO事故の直接の原因は極めて単純であるが、このような事故の再発を防止するという立場に立つとき、問題が決して単純ではないことが理解できる。事故を防ぐには、携わる者すべてが、機器・設備の整備、改良の徹底などのハード的対応のみならず、手順の遵守、日常的な教育訓練など、ソフト面での対応を通じて、事故につながる要因を徹底的に取り除くことが必要である。その普遍的原則である「安全を最優先する」というセイフティーカルチャーの醸成を図ることが重要である。

第二節 安全と安心の再構築に向けて

○情報の公開
 今回の事故で損なわれた原子力に対する信頼を回復し、国民が安心できる原子力安全対策を実現するために、安全確保への地道な取組はもとより、国民が必要としている情報を適時的確に伝え、情報を共有していく環境を構築することが重要である。原子力安全委員会では、従来、本会議や部会の審議の公開、インターネットでの会議資料の公開などの情報提供に努めるとともに、平成十二年五月、国民が原子力の安全確保や安全委員会の活動に対し、随時意見を述べ、質問ができるよう、原子力安全意見・質問箱を設置した。また、地方原子力安全委員会の開催や各種シンポジウムの開催などを通じ、関係者を含め、国民一般とより近い関係の構築に努めている。
○原子力災害対策特別措置法の制定
 JCO事故では、初動段階での事故状況の把握が遅れ、防護対策の検討や決定を行う上で、大きな制約となった。これらの反省にたって、原子力災害対策特別措置法が制定され、
 ・迅速な初期動作と国、都道府県、市町村の有機的連携の確保
 ・原子力災害の特殊性に応じた国の緊急時対応体制の強化
 ・原子力災害における事業者の役割の明確化
などが規定された。
○原子力防災の実効性の向上に向けて
 原子力安全委員会については、応急対策への助言、内閣総理大臣への意見具申など、原子力災害時の役割が明確化され、緊急時に技術的助言を行うために緊急事態応急対策調査委員を設置した。また、我が国の原子力防災体制の技術的・専門的事項を規定している防災指針の改訂や、原子力災害時の緊急医療体制のあり方についても検討を行っている。
○原子力防災訓練
 原子力防災体制は、異常事態が発生した場合に備え、住民の安全を確保するための体制であり、不安感を増大させるものではなく、安心を醸成するものである。防災訓練を通じて原子力防災対策が実効性をあげていくことを期待しており、安全委員会としても積極的に参画し、原子力防災体制の強化に一層努力していく所存である。

終章 原子力安全委員会として決意を新たに

第一節 原子力安全委員会の認識

 安全委員会では、今回のJCO事故を機に、当委員会の独立性、機能の強化が図られたことを非常に重く受け止めている。これは、この事故の重大性を示すとともに、国民からの期待の現れであると認識している。国民の信頼を得られるよう、今後とも原子力の安全確保に全力を尽くす決意である。
 原子力の安全確保の第一義的な責任が事業者にあることは明確であり、問われる責任は大きい。これに加え、国の役割は、事業者の安全確保策を支援・補完し、国民の安全を守ることである。原子力安全委員会は、原子力利用に関し、安全確保のための規制に関すること、障害防止の基本などについて企画し、審議し、及び決定する責務を負っている。従前の考え方と活動では、安全委員会の包括的責務が十全には果たしきれなかったことを深く反省し、国民の信頼に応えられなかったことに重い責任を感じている。

第二節 原子力安全委員会の決意と今後の活動

 JCO事故を踏まえ、所要の法整備が行われる中、平成十三年一月の中央省庁再編に伴う安全規制体制の変更が間近に迫っている。このような原子力安全行政の転換点にあたり、安全委員会は、決意を新たにして、今後の役割と責任を果たしていくことに全力を傾け、以下を基本的な視点として活動する。
 ・国民の期待に応える主体的な活動
 ・強化された体制・機能を活かした活動
 ・国民から信頼される安全規制の追及
 ・整合性のとれた、より分かりやすい原子力安全システムの構築
 ・国民との双方向の意思疎通
 以上の決意を新たに、与えられた使命、役割を果たし、国民の期待に応えていくため、以下の施策を着実に実施していく所存である。
 ・安全審査指針類の整備、ダブルチェックの厳正な実施、規制調査等を通じた安全確保
 ・安全目標の策定等について検討を推進
 ・原子力災害対策特別措置法の制定を受けて、事故・緊急時対応の体制整備等を推進
 ・「原子力安全意見・質問箱」や「地方原子力安全委員会」等を通じて、情報公開をさらに推進
 ・専門部会の再編と事務局の強化を推進
 ・活動の自己点検と事故調査委員会の報告書のフォローアップを実施

おわりに

 原子力安全の再構築には、安全委員会、行政庁、地方公共団体、事業者、個々の作業者それぞれが、自らの役割を確実に果たし、総力をあげ取り組むことが必要である。
 JCO事故でダメージを受けた我が国原子力安全の再構築は、まだ実施途上である。安全委員会では、原子力安全の要としての役割を果たすため、これまでに述べた決意の下、原子力安全確保のための施策に全力を傾け、国民の期待に応えられるよう、努力していく覚悟である。


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月例経済報告(九月報告)


経済企画庁


概 観

 景気は、厳しい状況をなお脱していないが、緩やかな改善が続いている。各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響に加え、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが続いている。
 需要面をみると、個人消費は、収入が下げ止まってきたが、おおむね横ばいの状態が続いている。住宅建設は、マンションなどは堅調であるが、全体ではおおむね横ばいとなっている。設備投資は、持ち直しの動きが続いている。公共投資は、前年に比べて低調な動きとなっている。輸出は、欧米向けに減速がみられるものの、基調としてはアジア向けを中心に緩やかに増加している。
 生産は、堅調に増加している。
 雇用情勢は、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しいものの、残業時間や求人が増加傾向にあるなど改善の動きもみられる。
 企業収益は、大幅な改善が続いている。また、企業の業況判断は、業種や規模によってはなお厳しいが、全体としては改善が進んでいる。一方、倒産件数は、やや高い水準となっており、負債金額の増加がみられる。
 政府は、引き続き、景気回復に軸足を置いた経済・財政運営を行い、景気を自律的回復軌道に乗せていくよう全力を挙げつつ我が国経済の動向等を注意深く見ながら適切に対応する。また、経済構造改革に迅速かつ大胆に取り組む。今後、日本新生プランの具体化のための新たな経済政策を取りまとめることとしている。

 我が国経済
 需要面をみると、個人消費は、収入が下げ止まってきたが、おおむね横ばいの状態が続いている。住宅建設は、マンションなどは堅調であるが、全体ではおおむね横ばいとなっている。設備投資は、持ち直しの動きが続いている。公共投資は、前年に比べて低調な動きとなっている。
 十二年四〜六月期(速報)の実質国内総生産は、前期比一・〇%増(年率四・二%増)となり、うち内需寄与度は一・〇%となった。
 産業面をみると、生産は、堅調に増加している。企業収益は、大幅な改善が続いている。また、企業の業況判断は、業種や規模によってはなお厳しいが、全体としては改善が進んでいる。一方、企業倒産件数は、やや高い水準となっており、負債金額の増加がみられる。
 雇用情勢は、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しいものの、残業時間や求人が増加傾向にあるなど改善の動きもみられる。
 輸出は、欧米向けに減速がみられるものの、基調としてはアジア向けを中心に緩やかに増加している。輸入は、アジアからの輸入を中心に、増加している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、基調としてはおおむね横ばいとなっている。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、八月は月央にかけて百七円台から百九円台で推移した後、月末には百六円台に上昇した。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、おおむね横ばいで推移している。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、八月は八月十一日に日本銀行がゼロ金利政策を解除したことを受けて上昇した後、月末にかけてもやや上昇した。長期金利は、八月は上昇した。株式相場は、八月は上旬に一進一退で推移した後、下旬にかけて上昇した。マネーサプライ(M+CD)は、八月は前年同月比一・七%増となった。また、企業金融のひっ迫感は緩和しているが、民間金融機関の貸出は依然低調である。

 海外経済
 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、個人消費などに減速がみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、二〇〇〇年一〜三月期前期比年率四・八%増の後、二〇〇〇年四〜六月期は同五・三%増(速報値)となった。個人消費は伸びが鈍化している。設備投資は大幅に増加している。住宅投資は伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は特殊要因もあり減少している。物価は総じて安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、依然高水準である。連邦準備制度は、八月二十二日に、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準と公定歩合の据置を決定した(それぞれ六・五〇%、六・〇〇%)。なお、今後の物価及び景気動向に対するリスクの見通しはインフレ方向とした。八月の長期金利(十年物国債)は、低下基調で推移した。株価(ダウ平均)は、上昇基調で推移した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランス、イギリスでは、景気は拡大している。鉱工業生産は、ドイツでは増加している。フランスではこのところ横ばいで推移している。イギリスでは伸びが緩やかになっている。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準ながらも低下している。イギリスでは低水準で推移している。物価は、ドイツでは輸入物価の上昇がみられるものの総じて安定している。フランスでは総じて安定している。イギリスでは安定している。なお、欧州中央銀行は、八月三十一日、物価の中期的な上昇圧力を抑制するため、政策金利(短期オペの最低応札金利)を〇・二五%ポイント引き上げ、四・五〇%とした。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポはやや高まっている。物価は安定している。貿易は、輸出入ともに大幅な増加が続いている。韓国では、危機後の急回復に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている。貿易は、輸出入ともに大幅な増加が続いている。
 国際金融市場の八月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、ほぼ横ばいで推移した。
 国際商品市況の八月の動きをみると、CRB商品先物指数は、上旬はほぼ横ばいで推移し、中旬から上昇した。原油スポット価格(北海ブレント)は、月初から上昇基調で推移し、下旬にかけては三十ドルを上回って推移した。

1 国内需要
―設備投資は、持ち直しの動きが続いている―

 実質国内総生産(平成二年基準、速報)の動向をみると、十二年一〜三月期前期比二・五%増(年率一〇・三%増)の後、十二年四〜六月期は同一・〇%増(同四・二%増)となった。内外需別にみると、国内需要の寄与度は一・〇%となり、財貨・サービスの純輸出の寄与度はマイナス〇・〇%となった。需要項目別にみると、民間最終消費支出は前期比一・一%増、民間企業設備投資は同三・三%減、民間住宅は同〇・八%減となった。公的固定資本形成は前期比一三・六%増、政府最終消費支出は同一・三%減となった。また、財貨・サービスの輸出は前期比三・九%増、財貨・サービスの輸入は同四・九%増となった。
 個人消費は、収入が下げ止まってきたが、おおむね横ばいの状態が続いている。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で六月一・八%減の後、七月(速報値)は二・六%減(季節調整済前月比〇・六%減)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比三・六%減、勤労者以外の世帯では同〇・二%増となった。形態別にみると、財、サービスともに減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比一・六%減、勤労者世帯では同二・五%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で六月二・〇%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で六月一・〇%減の後、七月(速報値)は〇・五%減(季節調整済前月比〇・三%減)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で六月三・四%減の後、七月(速報値)四・九%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で六月五・〇%減の後、七月四・三%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で八月(速報値)は五・〇%増となった。また、家電小売金額(日本電気大型店協会)は、前年同月比で七月は一六・二%増となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、七月は前年同月比で国内旅行が六・一%減、海外旅行は五・七%増となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で六月一・八%増の後、七月(速報)は〇・一%減(事業所規模三十人以上では同〇・五%減)となり、うち所定外給与は、七月(速報)は同三・九%増(事業所規模三十人以上では同五・一%増)となった。実質賃金は、前年同月比で六月二・六%増の後、七月(速報)は〇・六%増(事業所規模三十人以上では同〇・二%増)となった。また、民間主要企業の夏季一時金妥結額(労働省調べ)は前年比〇・五四%減(前年は同五・六五%減)となった。
 住宅建設は、マンションなどは堅調であるが、全体ではおおむね横ばいとなっている。 新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で六月は四・九%増(前年同月比一・二%減)となった後、七月は八・〇%減(前年同月比〇・八%減)の九万七千戸(年率百十六・四万戸)となった。七月の着工床面積(季節調整値)は、前月比八・六%減(前年同月比〇・二%減)となった。七月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比二・七%減(前年同月比八・七%減)、貸家は同一七・一%減(同一〇・八%減)、分譲住宅は同〇・八%増(同三一・四%増)となっている。
 設備投資は、持ち直しの動きが続いている。
 当庁「法人企業動向調査」(十二年六月調査)により設備投資の動向をみると、全産業の設備投資は、季節調整済前期比で十二年一〜三月期(実績)一・九%増(うち製造業一・八%減、非製造業四・五%増)の後、十二年四〜六月期(実績見込み)は二・三%増(同九・五%増、同二・一%減)となっている。暦年計画では、前年比で十一年(実績)六・〇%減(うち製造業一〇・六%減、非製造業三・五%減)の後、十二年(計画)は〇・三%増(同三・一%減、同二・〇%増)となっている。
 なお、十二年四〜六月期の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」(全産業)でみると前年同期比で二・二%増(うち製造業三・四%増、非製造業一・六%増)となった。
 先行指標の動きをみると、当庁「機械受注統計調査」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整済前月比で六月は一四・四%増(前年同月比二八・二%増)の後、七月は一一・七%減(同一七・九%増)となり、基調は回復への動きがみられる。
 なお、七〜九月期(見通し)の機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整済前期比で一〇・七%増(前年同期比三〇・〇%増)と見込まれている。
 民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、このところおおむね横ばいで推移していたが、七月は季節調整済前月比一六・一%減(前年同月比七・〇%減)となった。内訳をみると、製造業は季節調整済前月比九・三%減(前年同月比四六・三%増)、非製造業は同二二・三%減(同一六・二%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資は、前年に比べて低調な動きとなっている。
 公共機関からの建設工事受注額(建設工事受注動態統計調査・大手五十社)は、前年同月比で六月は二・五%増の後、七月は一〇・三%減となった。また、公共工事請負金額(公共工事前払金保証統計)は、前年同月比で六月は七・三%減の後、七月は一六・七%減となった。

2 生産雇用
―企業収益は、大幅な改善が続いている―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産・出荷は、堅調に増加している。在庫は、七月は減少した。
 鉱工業生産(季節調整値)は、前月比で六月一・九%増の後、七月(速報)は、化学、電気機械等が増加したものの、一般機械、輸送機械等が減少したことから、〇・七%減となった。また製造工業生産予測指数(季節調整値)は、前月比で八月は電気機械、一般機械等により三・九%増の後、九月は電気機械、輸送機械等により、三・四%減となっている。鉱工業出荷(季節調整値)は、前月比で六月二・七%増の後、七月(速報)は、資本財、耐久消費財等が減少したことから、一・七%減となった。鉱工業生産者製品在庫(季節調整値)は、前月比で六月横ばいの後、七月(速報)は、輸送機械、化学等が増加したものの、電気機械、一般機械等が減少したことから、〇・一%減となった。また、七月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数(季節調整値)は一〇一・二と前月を二・七ポイント上回った。
 主な業種について最近の動きをみると、一般機械では、生産は七月は減少し、在庫は三か月連続で減少した。輸送機械では、生産は七月は減少し、在庫は二か月連続で増加した。化学では、生産は七月は増加し、在庫も七月は増加した。
 第三次産業の動向を通商産業省「第三次産業活動指数」(六月調査、季節調整値)でみると、前月比で五月〇・九%増の後、六月(速報)は、金融・保険業が減少したものの、サービス業、卸売・小売業,飲食店等が増加した結果、一・三%増となった。
 雇用情勢は、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しいものの、残業時間や求人が増加傾向にあるなど改善の動きもみられる。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、六月〇・五九倍の後、七月〇・六〇倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、六月一・一〇倍の後、七月一・〇八倍となった。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、六月は前年同月比一・一%増(前年同月差五十八万人増)の後、七月は同一・〇%増(同五十三万人増)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、六月前年同月比〇・二%減(季節調整済前月比〇・〇%)の後、七月(速報)は同〇・一%減(同〇・二%増)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比一・一%減)、産業別には製造業では同一・五%減となった。七月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差二万人減の三百十四万人、完全失業率(同)は、六月四・七%の後、七月四・七%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では六月前年同月比一五・五%増(季節調整済前月比一・一%増)の後、七月(速報)は同一二・四%増(同〇・二%減)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比一三・四%増)。
 また、労働省「労働経済動向調査」(八月調査)によると、「残業規制」等の雇用調整を実施した事務所割合は、全体としては低下傾向にある。
 企業の動向をみると、企業収益は、大幅な改善が続いている。また、企業の業況判断は、業種や規模によってはなお厳しいが、全体としては改善が進んでいる。
 大企業の動向を前記「法人企業動向調査」(六月調査)でみると十二年四〜六月期の売上高、経常利益の判断(ともに「増加」−「減少」)は、売上高は「増加」超幅が拡大し、経常利益は「増加」超に転じた。また、十二年四〜六月期の企業経営者の景気判断(業界景気の判断、「上昇」−「下降」)は「上昇」超に転じた。
 また、中小企業の動向を中小企業金融公庫「中小企業動向調査」(六月調査、季節調整値)でみると、売上げD.I.(「増加」−「減少」)は、十二年四〜六月期は「減少」超幅が縮小し、純益率D.I.(「上昇」−「低下」)は、「低下」超幅が縮小した。業況判断D.I.(「好転」−「悪化」)は、十二年四〜六月期は「悪化」超幅が縮小した。
 企業倒産の状況をみると、件数はやや高い水準となっており、負債金額の増加がみられる。
 銀行取引停止処分者件数は、七月は一千五十六件で前年同月比一六・〇%増となった。件数の業種別構成比を見ると、建設業(三三・七%)が最大のウエイトを占め、次いで製造業(一九・八%)、小売業(一六・九%)の順となった。

3 国際収支
―輸出は、欧米向けに減速がみられるものの、基調としてはアジア向けを中心に緩やかに増加―

 輸出は、欧米向けに減速がみられるものの、基調としてはアジア向けを中心に緩やかに増加している。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で六月八・二%増の後、七月は八・一%減(前年同月比六・三%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、電気機器等が増加した。同じく地域別にみると、アジア等が増加した。
 輸入は、アジアからの輸入を中心に、増加している。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で六月三・二%減の後、七月は五・八%減(前年同月比一一・四%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、機械機器等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、アメリカ等が増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、六月に一兆一千七十六億円の黒字の後、七月は九千二百七十三億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、基調としてはおおむね横ばいとなっている。
 六月の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、貿易収支の黒字幅が拡大し、サービス収支の赤字幅が縮小したため、その黒字幅は拡大し、七千百七十億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、経常移転収支の赤字幅が縮小し、貿易・サービス収支の黒字幅が拡大したものの、所得収支の黒字幅が縮小したことから、その黒字幅は縮小し、一兆八百三十九億円となった。投資収支(原数値)は、七千七百七十三億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、八千二百四十五億円の赤字となった。
 八月末の外貨準備高は、前月と同じ三千四百四十九億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、八月は月央にかけて百七円台から百九円台で推移した後、月末には百六円台に上昇した。一方、対ユーロ円相場(インターバンク十七時時点)は、八月は上旬に百一円台から九十七円台に上昇した後、中旬は九十八円台から九十九円台で推移し、下旬には九十四円台まで上昇した。

4 物価
―国内卸売物価は、おおむね横ばいで推移―

 国内卸売物価は、おおむね横ばいで推移している。
 八月の国内卸売物価は、パルプ・紙・同製品(段ボールシート)等が上昇したものの、電気機器(電子計算機本体)等が下落したことから、前月比保合い(前年同月比〇・二%の上昇)となった。輸出物価は、契約通貨ベースで上昇したことから円ベースでは前月比〇・一%の上昇(前年同月比三・六%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで上昇したことに加え、円安から円ベースでは前月比〇・五%の上昇(前年同月比四・六%の上昇)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・一%の上昇(前年同月比〇・二%の上昇)となった。
 企業向けサービス価格は、七月は前年同月比〇・七%の下落(前月比〇・一%の下落)となった。
 商品市況(月末対比)は「その他」等は下落したものの、石油等の上昇により八月は上昇した。八月の動きを品目別にみると、天然ゴム等は下落したものの、灯油等が上昇した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で六月〇・三%の下落の後、七月はその他工業製品の上昇幅が縮小した一方、公共料金(広義)が下落から上昇に転じたこと等により〇・三%の下落(前月比〇・三%の下落、季節調整済前月比保合い)となった。なお、総合は、前年同月比で六月〇・七%の下落の後、七月は〇・五%の下落(前月比〇・二%の下落、季節調整済前月比〇・三%の上昇)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で七月〇・七%の下落の後、八月(中旬速報値)は、繊維製品が上昇から下落に転じたこと等により〇・八%の下落(前月比〇・一%の下落、季節調整済前月比〇・一%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で七月〇・九%の下落の後、八月(中旬速報値)は一・三%の下落(前月比〇・一%の下落、季節調整済前月比〇・二%の下落)となった。

5 金融財政
―短期金利はゼロ金利政策の解除を受けて上昇し、長期金利も上昇―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、八月は八月十一日に日本銀行がゼロ金利政策を解除したことを受けて上昇した後、月末にかけてもやや上昇した。長期金利は、八月は上昇した。株式相場は、八月は上旬に一進一退で推移した後、下旬にかけて上昇した。M+CDは、八月は前年同月比一・七%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレートは、八月は八月十一日に日本銀行がゼロ金利政策を解除したことを受けて上昇した後、下旬はほぼ横ばいで推移した。二、三か月物は、八月は八月十一日に日本銀行がゼロ金利政策を解除したことを受けて上昇した後、月末にかけてもやや上昇した。
 公社債市場をみると、国債利回りは、八月は上昇した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、七月は前月比で短期は〇・〇〇八%ポイント低下し、長期は〇・一〇〇%ポイント上昇したことから、総合では〇・〇一八%ポイント上昇し一・七五七%となった。
 マネーサプライをみると、M+CD(月中平均残高)は、八月(速報)は前年同月比一・七%増となった。また、広義流動性は、八月(速報)は同三・四%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関(全国銀行)の貸出(月中平均残高)は、八月(速報)は前年同月比四・三%減(貸出債権流動化・償却要因等調整後二・〇%減)となった。八月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が一千二百五十億円となった。また、国内公募事業債の起債実績は八千二百六十六億円(うち銀行起債分一千八百億円)となった。
 「全国企業短期経済観測調査」(全国企業、六月調査)によると、資金繰り判断は「苦しい」超が続いているものの、引き続き改善の動きがみられる。金融機関の貸出態度は、引き続き改善の動きがみられ、「緩い」超に転じている。
 以上のように、企業金融のひっ迫感は緩和しているが、民間金融機関の貸出は依然低調である。
 株式市場をみると、東証株価指数(TOPIX)は、八月は上旬に一進一退で推移した後、下旬にかけて上昇した。日経平均株価もほぼ同様の動きとなった。

6 海外経済
―原油価格、再び上昇―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、個人消費などに減速がみられるものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、二〇〇〇年一〜三月期前期比年率四・八%増の後、二〇〇〇年四〜六月期は同五・三%増(速報値)となった。個人消費は伸びが鈍化している。設備投資は大幅に増加している。住宅投資は伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は特殊要因もあり減少している。雇用者数(非農業事業所)は七月前月差五・一万人減の後、八月は同十・五万人減と減少しているものの、政府部門を除く民間非農業雇用者数は増加した(一・七万人増)。失業率は八月四・一%となった。物価は総じて安定している。七月の消費者物価は前年同月比三・五%の上昇、七月の生産者物価(完成財総合)は同四・一%の上昇となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、依然高水準である。連邦準備制度は、八月二十二日に、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準と公定歩合の据置を決定した(それぞれ六・五〇%、六・〇〇%)。なお、今後の物価及び景気動向に対するリスクの見通しはインフレ方向とした。八月の長期金利(十年物国債)は、低下基調で推移した。株価(ダウ平均)は、上昇基調で推移した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランス、イギリスでは、景気は拡大している。四〜六月期の実質GDPは、ドイツ前期比年率四・七%増、フランス同二・七%増(速報値)、イギリス同三・六%増(改訂値)となった。鉱工業生産は、ドイツでは増加している。フランスではこのところ横ばいで推移している。イギリスでは伸びが緩やかになっている(鉱工業生産は、ドイツ七月前月比三・五%増、フランス六月同〇・六%減、イギリス七月同〇・〇%減)。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準ながらも低下している。イギリスでは低水準で推移している(失業率は、ドイツ八月九・五%、フランス七月九・七%、イギリス七月三・七%)。物価は、ドイツでは輸入物価の上昇がみられるものの総じて安定している。フランスでは総じて安定している。イギリスでは安定している(消費者物価上昇率は、ドイツ八月前年同月比一・八%、フランス七月同一・七%、イギリス七月同三・三%)。なお、欧州中央銀行は、八月三十一日、物価の中期的な上昇圧力を抑制するため、政策金利(短期オペの最低応札金利)を〇・二五%ポイント引き上げ、四・五〇%とした。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポはやや高まっている。物価は安定している。貿易は、輸出入ともに大幅な増加が続いている。韓国では、危機後の急回復に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている。貿易は、輸出入ともに大幅な増加が続いている。
 国際金融市場の八月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、ほぼ横ばいで推移した。モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)をみると、八月三十一日現在一一三・五、七月末比〇・六%の増価となっている。内訳をみると、八月三十一日現在、対円では七月末比二・五%減価、対ユーロでは同四・五%増価した。
 国際商品市況の八月の動きをみると、CRB商品先物指数は、上旬はほぼ横ばいで推移し、中旬から上昇した。原油スポット価格(北海ブレント)は、月初から上昇基調で推移し、下旬にかけては三十ドルを上回って推移した。


言葉の履歴書


火中の栗

 古代から日本人に親しまれた秋の味覚の一つは栗(くり)。栗の実は焦茶色や黒土色をしているので、語源は涅(くり)(水底によどんだ黒い泥)からきたとされますが、定説ではありません。
 焼いて食べることの多い栗は、気をつけないと爆(は)ぜる危険性があります。爆ぜた栗がすぐ見つからないこともあるのは、夏目漱石が「栗はねて失せけるを灰に求め得ず」という俳句に詠んでいるとおりでしょう。
 「栗を焼くには芽を欠いて焼け」は、実の先端部を取って焼けば大丈夫と教えたことわざです。
 「火中の栗を拾う」といえば、他人にそそのかされて火の中から栗を拾うような、危険な愚行の例え。猫が猿のために栗を取ってやけどするイソップの寓話(ぐうわ)に由来しています。
 フランスの詩人ラ・フォンテーヌの寓話詩「猿と猫」も、猿のベルトランにおだてられた猫のラトンが、炉の中から苦心して失敬した栗をずるい猿に食べられてしまう話。「火中の栗を拾う」は一見、中国からきた故事成句にみえますが、もともと西洋ダネだったわけです。
(『広報通信』平成十二年十月号)



    <11月1日号の主な予定>

 ▽厚生白書のあらまし……………………………………………………………厚 生 省 

 ▽単身世帯収支調査結果の概要(平成十二年一〜六月期平均速報)………総 務 庁 

 ▽家計収支(六月分)……………………………………………………………総 務 庁 

 ▽消費者物価指数の動向(八月)………………………………………………総 務 庁 




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