官報資料版 平成12年11月8日




                  ▽建設白書のあらまし…………………………建 設 省

                  ▽平成十二年四〜六月期平均家計収支………総 務 庁











建設白書のあらまし


―平成12年 国土建設の現況―


建 設 省


 「平成十二年 国土建設の現況」(建設白書)は、さる七月二十八日の閣議に配布の後、公表された。
 白書のあらましは、次のとおりである。
◇    ◇    ◇

 これまで我が国の住宅・社会資本の整備は、経済成長や国民生活水準の向上を目指して、国民の財産・生命の保全や、ゆとりとうるおいのある豊かな生活を着実に実現し、我が国が世界第二位の経済大国となる基礎を築き上げてきた。
 現在、我が国の経済社会は、少子高齢社会の到来の下、環境問題の深刻化と循環型社会への移行、インターネットの急速な普及等のIT(情報技術(以下「IT」という。))革命の進展等の大きな変革の流れの中で、我が国の住宅・社会資本整備のあり方も、抜本的な変革が求められている。
 今回の白書では、明治以降の国土建設の歴史を振り返るとともに、こうした昨今の経済社会の変革を分析しながら、住宅・社会資本整備の検証と、『日本の魅力』の源泉となる、安全かつ創造的で活力ある国土づくりや、美しい景観のまちの育み方について明らかにすることにより、住宅・社会資本ストックを大切に使い、国民との対話の中で進められる新しい国土マネジメントの姿を描いてみたい。

第1章 我が国の住宅・社会資本整備の回顧と現況

第1節 明治期以来の国土づくり・まちづくりと住宅・社会資本整備の回顧

 明治以降の我が国の社会資本整備を振り返ってみる。公共投資の配分をみると、治水、鉄道、道路、生活基盤と、時代の要請に合わせて投資の重点は変わってきており、社会の要請に対して的確に対応してきたといえる。近年においては、情報通信インフラや物流ネットワーク、都市構造再編等、新たな経済発展基盤への投資が重視されてきている。今後も少子高齢化による地域の人の動向、国際競争力確保への対応等も十分見極めながら、真に必要な分野への重点的投資を行うべきである。
 現在、人口増加社会から人口減少社会への転換、最適工業社会から多様な知恵の時代への転換、経済社会の国際化・情報化の本格的な展開など大きな転換期を迎えている中で、建設行政においては、@最重要課題の一つである環境問題への対応として、「環境の内部目的化」による美しく健全な国土・地域づくりと、環境への負荷の少ない循環型社会の形成に向けた取組み、A「国土建設」から住宅・社会資本ストックの有効活用や、自然環境の保全等を含めた総合的な「国土マネジメント(整備・利用・保全)」への転換による美しく安全な国土、安心でゆとりある快適な暮らし、魅力と活力ある都市・地域づくり等が求められる。

第2節 公共事業における公共の福祉の優先

 戦後の住宅・社会資本整備は着実に大きな成果を挙げてきた反面、私権と公共事業の関係には大きな課題が残されている。
 社会資本整備や都市計画は、安全で快適なまちづくりや道路・河川など社会経済基盤の整備を通じて、『公共の福祉』(個々の人間の個別利益に対して、それを超え、ときにそれを制約する機能を持つ公共的利益)を増進するために行われるものである。しかしながら、現実には、公共事業における一坪地主運動に見られるように、事業に反対する立場から、事業の遅延を意図して用地買収を手間取らせるような活動が行われ、公共事業の進捗に大きな障害となっているケースも見受けられる。事業の公共性及びその結果としての私権に対する公共の福祉の優先・尊重に関する意識を国民全体が向上させ、一定の公正な手続きに基づいて適正に決定された事業に対しては、その決定を尊重する、という認識を持つことが期待される。
 公共事業に臨む行政側の姿勢としては、事業の計画段階から、関係する情報や行政の方針を公開したり必要な説明を行い、意見聴取や住民参加など住民と対話する機会を設けるとともに、事業の採択等においては整備効果の定量分析等の事業評価などを併せて進めていく必要がある。同時に、地域住民の側としても、事業が実施されたことによって地域全体あるいは国全体の国民の暮らし・経済に与える影響など、一個人の私権を超えた公共の問題についても考慮するという「公の精神(パブリックな問題についてパブリックな立場で考える視点)」を醸成し、そうした意識を持ちながら事業に積極的に関わっていく姿勢が大切である。

第3節 住宅・社会資本整備の現況

 我が国はこれまでの一貫した公共投資の積み重ねにより、急速に社会資本ストックを形成してきた。その結果、我が国の住宅・社会資本整備の水準は着実に向上し、総体としては、未だに欧米水準に達したとはいえないものの、指標によっては達したものもある。しかし、もともと、住宅・社会資本の整備水準を国情や条件の異なる欧米水準と比較して一つの目標とする考え方は、豊かさを実現するという目的のためにはかなり大雑把な捉え方であり、今後は、「整備した結果、利用者のニーズをどれだけ満足させたか」という利用者の立場に立ったアウトカム指標の確立も必要になってくる(第1表参照)。
 また、「国土の均衡ある発展」という視点から住宅・社会資本整備の現況を見ると、一人当たり所得や交流可能性の面で地域格差は縮小傾向にあるが、下水道普及率など社会資本整備に関しては地域格差が残されている。「国土の均衡ある発展」は@基礎条件の改善、A地域間格差の是正、B人口と産業の適正な配置の三つの面が中心と考えられており、これらはなお重要であるが、これまでの達成度や地域の「自立の促進」「個性の発揮」「持続可能性」等の要請に調和した概念がより強く求められている。

第4節 住宅・社会資本整備の検証と今後のあり方

1 住宅・社会資本整備に対する新たなニーズ
 我が国の高齢化社会へ向かうスピードは他の西欧諸国に比較して二倍も速く、二〇五〇年には六十五歳以上の人口は総人口の三二%になると予測される。建設省においては、「生活福祉空間づくり大綱(平成六年)」により、住宅・社会資本整備を進める上で少子高齢社会に対応することは、その目標の一つとして内在化されており、近年では、まちのバリアフリー化を促進するために、特に鉄道駅と周辺道路、駅前広場等については「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」の活用や、高齢者等が自動車交通に頼らない「歩いて暮らせる」コンパクトなまちづくりを進めている。また、高齢者が安心、快適に自立して生活できる居住環境を整備することも必要である。
 また、住宅・社会資本の品質の確保は重要な課題である。建設省においては、平成十年二月に「公共工事の品質確保等のための行動指針」を定め、公正さを確保しつつ、良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達する責任を「発注者責任」として明確にした。また、コンクリート落下による一連の事故を受けて、建設省・運輸省・農林水産省により「土木コンクリート構造物耐久性検討委員会」が設置され、平成十二年三月に提言が取りまとめられた。さらに、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が平成十二年四月一日に施行され、住宅性能を契約の事前に比較できるよう新たに性能の表示基準を設定するとともに、客観的に性能を評価できる第三者機関が設置されるほか、性能評価を受けた住宅に関わるトラブルに対しても紛争処理の円滑化、迅速化が図られることとなった。

2 公共投資の効果
 公共投資は、豊かで安全な国民生活や経済発展の基盤となる社会資本整備を担う財政支出であり、安全な国土、安心でゆとりある快適な暮らし、魅力と活力ある都市・地域づくりや経済発展の基盤づくりを果たす役割がある。その効果としては、それによって形成された社会資本が国民一般に利用されることにより、長期にわたって経済を活性化させ、国民生活を豊かにするというストック効果と、公共投資の実施が短期的な有効需要を創出するというフロー効果がある。
 まず、ストック効果については、国民の日々の暮らしや経済活動の中で、便利で効率的になった、経済活動が活性化してきたという形で実感できることが多い(第1図参照)。また、社会資本には、国内経済における生産活動の中で、「労働力」や機械設備等の「民間資本」という生産要素と同様に経済を活性化させる効果(社会資本の生産力効果)があり、社会資本ストックの伸び率が大きいときはTFP(全要素生産性)の伸び率も大きいという関係が認められる(第2図参照)。
 次に、フロー効果について見ると、公共投資は、民間需要の低迷が続きデフレ・スパイラルの懸念もあった経済状況において景気の大きな下支え効果を果たしてきたほか、公的需要の波及効果を通じてGDPを押し上げる「乗数効果」や、建設部門のみならず幅広い産業分野における生産を誘発する「生産誘発効果」を有している(第3図第4図第5図参照)。
 また、公共投資の拡大が最近の財政赤字の主な原因であるとする議論があるが、我が国財政をみるに(第6図参照)、平成十一、十二年度においては、減税の実施や景気後退に伴う税収不足のための特例公債によるところが大きい。なお、道路特定財源制度は、道路整備を推進するため受益者となる自動車利用者がそのための費用を負担するという制度である。

3 社会資本整備における効率性・透明性の追求
 公共事業は国民からの税金等の負担により賄われているものであり、社会資本の利用者である国民の満足を得られるようなサービスを提供することが最重要課題となってくる。個別の公共事業の整備効果については、公共事業の効率性・透明性の向上に向けた取組みとして、事業採択段階における費用対効果分析の活用を含む事業評価を、今後とも着実に実施することなどが重要である。また、国、地方公共団体ともに、公共工事のコスト縮減と品質確保への不断の努力や、透明性の高い公共事業の入札・契約制度の改善に引き続き取り組むことも同時に課題となってくる。一方、どの事業を採択していくかについても、国民の納得が得られる形で説明をする責任(アカウンタビリティ)をまっとうするとともに、国民に対してのコミュニケーションを促進することも必要となってくる。これらの前提として、国民の判断と行政への信頼の基となる情報を可能な限り適切に公開することを忘れてはならない。また、PFIの手法を活用することで、財政資金の効率的使用を図りながら、より国民のニーズに効率的にこたえることも今後重要となってくる。

4 住宅・社会資本の維持修繕
  〜ストック・メンテナンスの世紀〜
 社会資本のストック効果が発揮されるには、適切な維持管理を適時行うことにより、長期にわたって国民の社会経済生活において活用されることが必要となる。
 「建設工事着工統計調査報告」(建設省)によると、建設市場全体でみて、元請完成工事高に占める維持・修繕工事高は十三兆四千億円(平成十年)となっており、全体の一七・五%を占めている(第7図参照)。
 将来生じる社会資本ストックの維持・更新の需要を見るため、建設省所管公共投資総額が一定の伸びで将来にわたり推移すると仮定して、新規投資額、維持投資額、更新投資額及び災害復旧投資額の割合がどのように変化していくか、一定のモデルにより推計を試みると、構築してきたストック量の増加に併せて維持・更新工事がこれまでになく大きな部分を占めていることが分かる。このため、公共事業の内容としては、新規投資を中心に新たな社会資本を提供する視点ではなく、既に築いた社会資本ストックを長期間にわたって使用する視点からの維持・更新による社会資本整備が中心となることに留意しなければならない。
 また、我が国の住宅ストックに着目すると、今後の住宅需要は、人口減少社会になると推計されることや、高齢者世帯の増加、また人口移動も定住化の傾向を迎えることから、既に過去における住宅ストックの蓄積等をかんがみれば、新規住宅建設に対する需要は次第に減少してくるものと考えられる。今後は、老朽化・陳腐化の進んでいる高度成長期のストックの適切な更新を図る一方で、循環型社会への移行を目指し、限りある資源を有効に活用していくためにも、新しい住宅へのニーズに対応し、住宅を壊して建て直すことを繰り返すのではなく、耐久性の高い住宅ストックの形成を促進するとともに、適切な診断を踏まえ、今あるストックに必要な維持修繕を加えることにより良質な住宅ストックを維持管理し、長く大切に使っていくという視点が必要となってくる。
 今後、住宅・社会資本の維持・修繕、更新に当たっては、次のような政策的観点に立った具体的対策が必要になろう。
@ライフサイクル・コストの重視
Aリフォーム市場の活性化
B更新等を契機としたユニバーサル・デザインの導入等、新しいニーズへの対応
C安全性・耐震性に優れた国土構造、都市構造への対応

第2章 創造的で活力ある二十一世紀の国土をつくるために

第1節 グローバルな視点からの国土づくり・まちづくりの方向

 我が国は、戦後の高度経済成長を通じ、高品質なモノを大量に生産する技術を有した輸出中心の工業国として国際競争力を確保した。しかし、バブルの崩壊を契機とした景気の低迷に加え、国際環境の変化を受け、我が国の国際競争力は低下を余儀なくされている。例えば、欧州有数のビジネススクールであるIMD(国際経営開発研究所)が毎年国別の競争力を順位付けし発表しているが、その二〇〇〇年版の報告によると、我が国は四十七か国中、十七位となっており、九〇年代前半に上位にあったことと比べると大きく低迷している状況にある(第8図参照)。これからは、現在競争力が優位にある国では見られるが我が国には不足している「海外の資本、人材、技術、さらには交流人口(観光客等)を呼び込む魅力」を高めるという視点が重要になる。産業面に限らず生活面を含め「魅力的な国」を創り上げていくことが、今後人口減少を余儀なくされる我が国の活力創出のための一つの方向となり得るものであり、国土や社会資本においても、その方向に沿った整備・活用が求められる。
 そのため、国際拠点空港や国際拠点港湾の整備はもとより、それらを連絡する国内幹線道路ネットワークの連携のとれた整備を行い、都市内物流を含めた物流システムの効率化と物流コストの低減を図ることが重要となってくる。特に大都市圏における物流の効率化、交通の円滑化に関し、環状道路の整備の遅れによる影響が指摘されている。東京圏を例にとってみても、放射道路の整備率が九割に達しているのに対し、環状道路の整備率は二割にとどまっており、これはロンドンやパリと比較しても極めて低水準である(第9図参照)。
 この結果、首都圏中央連絡自動車道の内側では渋滞ポイントが約六百箇所にも及び、また、東京圏の都市部では都心部に発着点のない交通の流入等の影響により旅行速度が極めて低くなっている。三環状九放射の自動車専用道路網が完成すれば、これらの不経済な状況が改善されるほか、自動車から排出される二酸化炭素や窒素酸化物等も大幅に減少することが見込まれる。また、環状道路は、過度に中心部に一極集中した構造から、周辺の拠点的な都市を中心に自立性の高い地域を形成し、相互の機能分担と連携・交流を行う分散型ネットワーク構造の構築に重要な役割を果たし得るものでもあり、早急に整備していく必要がある。しかし、環状道路の完成までには、なお相当の期間がかかると予想されるため、@ITS(高度道路交通システム)の活用やA交通需要の管理を行うことで都市内の物流の効率化、交通の円滑化を図る必要がある。
 次に、活力ある国土を形成するための「海外からの交流人口の拡大」策については、多様な都市の魅力を楽しむ「都市観光」による交流の拡大に可能性がみられる。例えば、東京商工会議所が外国人を対象に「東京の魅力」を尋ねた調査によれば、日本や東京の個性・文化・景観に魅力を感じている人は多くなっており、必ずしも新奇性のある施設や名所、イベント等のみが観光資源になるものではないといえる(第10図参照)。したがって、このような@『日本の個性や歴史・文化的視点を意識したまちづくりや景観づくり』、さらにはA『おもてなしの心(ホスピタリティ)に溢れた接客精神の醸成』を各都市・地域が行うことで観光資源を掘り起こすことになり、あわせてB『交流・観光手段である道路や交通機関の利便性を高める』ことが、交流・観光対象としての我が国の潜在的「魅力」を引き出し、向上させる基本的な条件であると考えられる。また、このような「観光」以外にも、大規模な国際会議や展示会などの開催による交流拡大も有効な手段となり得る。
 現在国際競争に欠かせないインフラとして、世界的に注目を集めているものがIT(情報技術)であり、我が国がこの分野で遅れをとることは許されない。このITの進展・普及は、経済構造や経済活動から個人の生活様式まで、様々な局面に影響を与えることが考えられる。特に、仕事の内容によっては在宅勤務・SOHOを促進させることが考えられ、今後、職住一体又は近接の生活様式が普及することになれば、居住者を引きつける生活環境が整っていることが重要となるため、地域の活性化の観点からも、生活環境に配慮したまちづくりを行っていくことが求められる。また、光ファイバーの敷設による道路、河川、下水道などの高度な管理や、地理情報システム(GIS)の活用による災害対応や環境管理など、社会資本においてもITの果たす役割は大きく、最近では都市計画マスタープランの策定過程においてインターネットを活用して住民の意見を募るなど、公共事業への住民参加の手段としても重要になっている。
 また、世界的に地球環境問題が人類共通の優先課題と認識される中、国レベルで環境問題に積極的に取り組むことが国際競争に参加する前提条件となっている。例えば、地球温暖化については、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等)の削減に向けて国際的な取組みが行われており、住宅・社会資本分野においても、住宅・建築物の断熱化等による省エネルギー化、自動車交通の円滑化によるエネルギー効率の向上、二酸化炭素排出の少ない都市構造の形成等の取組みを行っている。今後の国づくり・まちづくりは、国、地方公共団体、企業や住民が協力することによって、環境と共生し、持続的な発展が可能となる「魅力的な国」の形成を実現する段階に入っており、住宅・社会資本の果たし得る役割は大きい。

第2節 ローカルな視点からの国土づくり・まちづくりの方向

 二十一世紀は全国的に高齢化を伴った人口減少が進行し、国土の「広大なる過疎化」がもたらされることにより、我が国全体の活力が失われることが危惧されている。一方で、高速道路網等が着実に整備されてきたことにより、地域間の交流が活発化しており、今後さらに交通ネットワークが整備されていくことに伴い、地域間交流は飛躍的に高まる可能性を有することになる。このような中で、居住・交流両面において、『魅力ある都市圏・生活圏への選択と集中』の傾向が強まることが予想され、それぞれの地域が利便や魅力を求めて集まる定住人口・交流人口を確保するために一層の努力を余儀なくされる「地域間競争の時代」が本格的に到来しようとしている。
 また、全国的な高齢化を伴う人口減少は、社会資本整備・管理の面においても大きな課題を投げかける。「人口規模と住宅・社会資本整備水準のミスマッチ」による国土管理の非効率性の問題や、財源の制約、さらには既存の社会資本ストックの維持補修や更新費の増大などを考えると、今までのように全国各地においてフルセットの社会資本整備を目指すことは必ずしも効率的ではなく、その地域の発展にとって真に必要なものを戦略的に整備していくという姿勢が必要になってくる。その際、公共事業にはさらなる重点化・効率化・透明化が求められる一方、競争を通じた個性ある地域づくりによる活力や魅力の維持拡大の視点から、創意工夫をする地域に対するインセンティブを与えることも重要である。
 地域の発展にとっては、ITの進展も大きな影響を及ぼし得るものである。インターネット等を活用した情報発信への取組みが、地域の活性化にとって重要な手段の一つとなりつつあり、個性ある地元情報を発信し、地域の魅力をアピールすることにより、交流人口が増加していく可能性がある。また、インターネットによる通信販売という新たな手法の浸透により、地方部においても大都市に集中する消費者を対象として、地元特産品・工芸品等の販売を行うことができるようになり、地域産業にとって重要なツールとなりつつある。また、先に述べたように、在宅勤務・SOHOといった職住近接・一体の形態が増加することが考えられ、生活環境に配慮したまちづくりの行われた地域が選択される可能性が高い。このSOHOに関しては、地域経済の活性化に資する産業の育成・支援という観点から、地域の活性化をにらみ各自治体においてその支援の動きが広まっている。このようにITの進展は、地域の活性化にとって有用なツールとなるものであると同時に、人々の生活様式の変化に伴ったまちづくりを地域に促す大きな圧力となっているといえよう。
 また、交流を生み出すためには、地域の人々がその地域において生き生きとした生活を送る土台が築かれていることが重要であり、「持続可能な暮らし」に向けた生活環境づくりを行い、「地域の魅力」を増大させる基盤を整えることが、地域の活性化のためには不可欠である。そのため、地域が活性化し今後安定的な成長を遂げ持続していくための基本要素である「医・職・住」に、地域ごとに特色のある他のサービス(「遊・学」など)を付加し、その充実を各地域が図っていくことが必要となる。特に地域全体から見た「住」環境の整備の重要性についてみると、バリアフリー化のほか、美しい景観やリフレッシュできる公園等の「遊」空間、生涯学習や地域文化・歴史・産業と連携した「学」空間、拠点都市との交通利便性、などが魅力的な「住」環境の要素となるが、これからの高齢社会においては、このような魅力的な「住」環境の形成を図る上で、住宅や福祉に関する公的サービスだけでなく、地域の人的資源を活用しつつ、高齢者の自立支援をはじめ地域社会(コミュニティ)の「住」を支えるソフトな仕組みをつくっていくことが重要になる。高齢者や障害者の自立を支援するNPO等、地域の人的ネットワークは、個人の自主的な参加を通じて、地域で支える福祉社会づくりに寄与するだけでなく、社会に貢献しようとする「公たる自覚」を醸成し、コミュニティの新たな活力となろう。
 さらに、競争力の確保の観点からは、地域の拠点都市を中心とした一定の広がりをもった都市圏レベル、広域的な生活圏レベルでの連携(市町村合併や広域連合など)が必要になる。このような連携により、先に述べた人口減少の進行に伴う国土管理の非効率性等の問題や、既存の社会資本ストックの維持補修や更新費の増大による新規投資の圧迫の問題は緩和される可能性がある。むしろ、広域的視点から、戦略的なプロジェクトや公共施設の整備、土地利用などを行うことができるようになり、効率的な地域づくり・まちづくりを推進していくことが期待できるというスケールメリットが注目される。

第3節 良質な住宅・社会資本を生み出す建設産業の新たな競争力

 日本経済が長期間にわたり低迷し、産業競争力の強化が焦眉の急となっている現在、我が国の住宅・社会資本の整備を担う建設産業についても、建設投資の低迷と建設業者数の増加、コスト縮減の要請など、公共投資を取り巻く環境の大きな変化、建設市場の国際化による競争の激化などから、その経営環境が極めて厳しくなっており、大きな構造変化に直面している。また、近年(平成二年から十年)における全要素生産性(TFP)の成長率を産業別に比較した場合、建設業はマイナス五・一%と低下しており(第11図参照)、これは、マクロでみた建設業の実質労働生産性の低下にも対応している(第12図参照)。

1 建設産業における市場環境整備への取組み
 建設産業は、企業間の公正な競争を通じ、二十一世紀の経済社会のニーズにこたえられる創造力と活力を有する産業となることが求められている。このような建設業の再生は、基本的には、各企業の自己責任、自助努力によって進めていくべきものであるが、行政においても、将来展望を提示し、企業の多様な選択を可能にする環境整備と競争性を重視した公正な市場環境整備を行うことが必要である。このような観点から、量的な側面だけでなく質の面をも重視した経営への転換、企業の連携強化による経営力・技術力の充実など、新たな企業経営の展開が進められており、大手クラスを中心に総合建設会社の再生に向けた努力を促し、企業自身による「経営組織の革新」と「連携の強化」の動きが加速するような競争的な市場環境の整備を進めているところである。
 建設産業においては、従来から「重層下請構造」が存在し、これが契約関係の明確化、労働条件の改善、取引関係の自由化等を図ろうとする場合の構造的な問題となっていることが指摘されていた。このような建設産業の構造改善については、昭和六十三年の中央建設業審議会の答申以降、数次にわたりプログラムを策定し、行政、業界団体が一体となった取組みを推進することにより、労働時間の短縮や人材の確保、契約や代金支払の適正化、経営の改善、雇用の調整等の分野において、一定の成果を上げてきた。今後とも、不良・不適格業者の排除の徹底、元請業者や下請業者からなる協議会等の自主的な取組みの推進、経営改善や情報化による生産性の向上、優秀な人材の確保・育成と雇用労働条件の改善等の課題について、自主的かつ重点的に取り組むべきテーマを明らかにするとともに、各事業者団体と行政の役割分担についても明らかにして、具体的な取組みを進めることが求められる。

2 建設産業における労働生産性の向上
 現下の厳しい建設市場の環境の下では、元請、下請を問わず、現状のまま全ての建設業者が生き残ることは不可能である。今後は建設市場における競争が一層激化すると予想され、@コストダウン、A品質、商品開発能力、提案力による差別化、の二つの局面で競争力の強化が求められる。一方、建設市場におけるこのような競争の激化と、まもなく労働力人口の減少が推計されていることを踏まえると、長期的にみて有効な生産性向上策と考えられるのは、建設産業の単品受注の現場生産という性格から、現場の総合管理監督を担う技術者と、直接施工を担う建築大工、鳶、土工、塗装等の専門工事業の現場の施工管理や直接施工を担う職長や技能者の資質の向上を図ることである。つまり、建設産業はヒトで成り立つ産業であり、労働者の有する能力で品質やコストが大きく左右される産業であるから、その観点からの生産性の向上を目指すべきである。

3 建設産業におけるIT革命の方向性
 建設産業に課せられている生産性の向上という課題にこたえるためには、前述のような人を大切にする施策を中心にした現場の労働生産性の向上に加え、ITの活用による生産性の向上を図ることが必要である。
@生産性の向上により建設生産システム全体の改革をもたらす
 ITの活用により、現場施工を担う部門から、営業、設計、財務管理、資材調達を担う部門まで、全部門が共通の問題意識をもち,情報共有を進めるコカレント・エンジニアリングにより、例えば現場で生じた問題をリアルタイムで設計部門においても把握して、現場と同時進行型で解決策の提案ができ、また現場においても、設計部門の指示を待たずとも設計情報をもとに暫定的な問題解決が可能となるなど、生産プロセス全体の生産性が向上する。
A「ストック・メンテナンスの世紀」への対応
 リフォーム(維持・補修・改修)市場の拡大に伴い、各企業とも過去に施工した建築物などの基本的な数値データ、クレーム情報と対応記録、定期的な診断結果などを電子情報化した履歴情報の有無が、受注の際の大きな武器になり、企業対消費者(B to C)の取引が拡大し、将来の大きなビジネス・チャンスを生むと考えられる。
B電子商取引等による建設資材の商流・流通システムの改革を促す
 我が国でも、製造業の分野でインターネットによる部品調達が本格化し、調達部門の雇用削減・配置転換、調達コストの削減に効果を挙げはじめている。建設産業においても、公共工事のコスト縮減などの観点から、電子商取引による資材調達の合理化が将来期待され、建設CALS/ECの平成十六年までの全面導入を目標とした取組み等が行われている。

第3章 安全な国土づくり・まちづくり

 安全な国土づくり・まちづくりに向けて、国及び地方公共団体は、治水事業などの国土保全事業や道路の防災対策、構造物の耐震化等のハード面での対応を積極的に講じ、災害の予防に大きな成果を挙げてきたが、例えば治水施設の整備率は欧米諸国の河川と比較しても不十分であるほか、道路においては防災対策が必要な箇所が未だ数多く存在する等、引き続き、ハード面での対応が重要である。
 また、近年頻発している激甚な災害に対応するため、計画的な国土保全施設等の整備及び迅速な災害復旧を重点的に実施するとともに、施設能力を超えるような大規模な災害に対しては被害を最小限に食い止めるためのソフト・ハード両面での危機管理体制を確立することが必要である。
 このようなことから、災害が発生した場合においても、被害を受けることをある程度容認した上で、被害を最小限に抑え、壊滅的な被害を回避するといった考え方を取り入れることの必要性が認識された。このため、災害に対するソフト面での対応として、初動期の情報収集体制の確立、総合的な防災情報ネットワークの整備、住民の災害の危険性に対する認識の向上、住民との連携強化、災害の現場におけるボランティアによるきめ細やかな活動との連携、災害に対する調査研究体制の充実等により、災害を最小限に食い止めることの重要性が認識された。今後は、自主防災活動への参加を増やすことにより、地域で自立した個人として暮らすとともに、コミュニティの一員としての「公」の意識も育むため、防災における町内会・自治会等の役割に代表される「コミュニティの機能」が、初期の情報収集面等において期待される(第13図参照)。

第4章 美しい景観のまちを育むために

 「美しい景観のまち」は人々の生活に快適さ、豊かさ、ゆとりを与えることで、人々のまちに対する新たなニーズにこたえるばかりではなく、美しい景観に魅了された人々を引き付け、まちに活気を呼び起こすことにより、まちの国際競争力の源泉となるソフトパワーを持つ。
 しかし、これまでの我が国の都市景観を振り返ると、必ずしも賞賛されるべきものばかりではなく、反省すべき点が多い。総理府の実施した世論調査「住宅・宅地に関する世論調査(平成十年十二月)」においても、我が国の景観については、否定的な評価を持つ人が多いことが分かる(第14図参照)。
 景観のよいまちを形成することについては、「総論」としては「賛成」される場合が多いであろう。行政としても、良好なまちなみ・景観を形成するための手法として、都市計画法、建築基準法等の法律や、都道府県・市町村の条例等などにより、まちづくりの基本的な方針や規制誘導策を示している。しかし、「各論」に入ると、各地で「合意形成のプロセスの失敗」と「守るべき資産や景観の喪失」が起こっている。「住宅・宅地に関する世論調査」においても、規制による良好な景観づくりは望まれておらず、むしろ、個人や会社など不動産の所有者が景観に関する認識をもち、自主的に規約を結ぶことで景観を担保する、という方向性が望まれていることが分かる(第15図参照)。
 このように、良好な景観を形成するには、次のような五つの要素がある。
@どのような景観のまちをつくるのか、というビジョンの作成
Aリーダー・専門家
B住民のコンセンサス
C住民の主体的な活動
D公共施設の整備との一体化
 景観をテーマとしてまちづくりに住民が「参加」し、議論を尽くしてコンセンサスを得た上で、行政と住民が各施策を統合してそれぞれの役割を実践(統合化・総合化)していく「造景」の仕組みづくりこそが、環境と共生した美しい景観のみならず、地域の文化や個性を生み育てる住民の誇りや愛着、地域への一体感(アイデンティティ)や公共心などを醸成させ、魅力ある地域社会(コミュニティ)を再生する原動力になると期待している。

第5章 二十一世紀初頭の国土への展望

 我が国は、二〇一〇年から二〇二五年にかけて高齢化が世界最高の水準に達すると予測されているが、この時期には東京をはじめ多くの都市圏で人口の減少が進むものと推計されている。こうした少子高齢化や人口減少がもたらす社会・経済・地域・暮らしへの影響については、少なくとも、戦後ほぼ一貫して需要後追いの対応となり、大きな問題を残した都市の過密構造が緩和され、道路ネットワークの整備と連携しながら、既成市街地の再構築をはじめ活力と魅力に溢れるコンパクトな都市構造への再編や環境への負荷の少ない循環型社会を目指す上で、好機到来と考えることができる。
 したがって、これからの国づくりの目標を、国家と地域(コミュニティ)の魅力づくりに不可欠な「活力と美しい環境」を創造することに向けることが大切である。これからの四半世紀は社会経済の大転換期の中で、内外の人々が日本を魅力的と感じる新たな国土づくり・まちづくりに向かう時代と位置づけることができる。
 建設省は、平成十三年一月から、中央省庁等改革により北海道開発庁、国土庁及び運輸省と統合し、新たに国土交通省として再編される。国土交通行政は、人々の身の回りから国土全体の姿まで、国民の暮らしや経済社会、安全の確保、環境や地域と幅広く密接に関連している。そのため、行政に対する国民の多様なニーズと時代潮流に対応したニーズの変化を的確に把握しつつ、幅広い行政分野にわたり、総合性を発揮することが必要であり、計画、事業、規制、融資、税制など、多様な施策手法が活用されている。これらにより、今後、国土構造の大転換が求められる中で、統合のメリットをいかした、よりよい行政サービスの提供を目指し、二十一世紀の我が国の国づくり・まちづくりを支えていくこととしたい。


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平成十二年四〜六月期平均家計収支


―消費支出(全世帯)は実質〇・八%の減少―


総 務 庁


◇全世帯の家計

 前年同期比でみると、全世帯の消費支出は、平成九年十〜十二月期以降六期連続の実質減少となった後、十一年四〜六月期は実質増加となり、七〜九月期以降四期連続の実質減少となった。

◇勤労者世帯の家計

 前年同期比でみると、勤労者世帯の実収入は、平成九年十〜十二月期以降五期連続して実質減少となった後、十一年一〜三月期は実質増加、四〜六月期は同水準となり、七〜九月期以降四期連続の実質減少となった。
 前年同期比でみると、消費支出は、平成十年七〜九月期は実質減少、十〜十二月期は実質増加、十一年一〜三月期以降五期連続の実質減少となり、十二年四〜六月期は同水準となった。

◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は、一世帯当たり二十七万八千七百五十一円。
 前年同期に比べ、名目二・七%の減少、実質一・八%の減少。

◇季節調整値の推移(全世帯・勤労者世帯)

 季節調整値でみると、全世帯の消費支出は前期に比べ実質二・五%の増加。
 勤労者世帯の消費支出は前期に比べ実質二・三%の増加。













    <11月15日号の主な予定>

 ▽経済白書のあらまし…………………経済企画庁 

 ▽労働力調査(七月)…………………総 務 庁 

 ▽毎月勤労統計調査(七月分)………労 働 省 

 ▽月例経済報告(十月報告)…………経済企画庁 




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