官報資料版 平成12年11月15日




                  ▽経済白書のあらまし…………………経済企画庁

                  ▽労働力調査(七月)…………………総 務 庁

                  ▽毎月勤労統計調査(七月分)………労 働 省

                  ▽月例経済報告(十月報告)…………経済企画庁











経済白書のあらまし


―新しい世の中が始まる―


経済企画庁


 平成十二年七月十四日、経済企画庁は、「新しい世の中が始まる」を副題とする「平成十二年度年次経済報告」を公表した。二十世紀を締めくくる白書となる本年度の経済白書は、昭和二十二年度の「経済実相報告」以降、通算五十四回目の白書であり、経済企画庁が公表する最後の白書ともなる。
 今回の白書の特徴は、二十一世紀に向けて持続的発展のための条件を模索していることである。我が国経済は、各種の政策効果や、アジア経済の回復などの影響に加え、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きも徐々に現れており、景気は、緩やかな改善が続いている。この自律的回復に向けた動きを持続的発展につなげるために必要な条件を探るため、ITを始めとする新技術と公的部門の改革に焦点を当てて議論している。

第1章 最近の日本経済

 日本経済は九七年春以降、景気後退局面に入っていたが、各種の政策効果により下げ止まり、その後アジア経済の回復にも助けられて、緩やかな改善が続いている。景気回復過程における在庫調整→生産増→企業収益増という動きがみられる中、九九年後半には設備投資にも持ち直しの動きがみられている。第1章では、第1節で景気の現状を点検し、第2節では、景気の先行きに大きな影響を与えるポイントとそれに対応する政策について考察している。

第1節 自律的回復に向かう日本経済

 日本経済は九七年春以降、景気後退局面に入り、実質GDPは九七年十〜十二月期から5四半期連続の減少となったが、九九年度前半にはプラスに転じた。九九年七〜九月期にはアジア経済の回復などを背景とした輸出増があったものの再び減少し、十〜十二月期には民間最終消費支出が減少したことなどから続けてマイナス成長となった。しかし、二〇〇〇年一〜三月期には、民間設備投資及び民間最終消費支出の増加などからプラス成長となり、九九年度は〇・五%増と三年ぶりにプラス成長となった(第1図参照)。第1節ではこうした日本経済の動きを、生産・設備投資・個人消費・公共投資など個別項目の動向について詳細に分析している。

1 在庫調整と生産
 鉱工業生産は、需要の回復が弱い中、輸出の増加にも助けられて、緩やかに増加を続けている。在庫調整も終了した。鉱工業生産の九九年七〜九月期以降の緩やかな増加には、IT関連とアジア向けを中心とした輸出が大きく寄与している(第2図参照)。また、前回の回復局面と比較すると、今回の初期段階での増加は大きい。
 生産者在庫は、九八年一〜三月期をピークに調整が続き、バブル崩壊後の最低水準を下回った後、二〇〇〇年一〜三月期には増加に転じるなど、全体として調整が終了したこと等を指摘している。
 また、在庫管理技術の発達の影響についても分析し、製造業の売上高に比べた在庫は長期的には低下しているものの、在庫水準DIの予測と実績の差が近年縮小しているとは言い難いことなどから、意図せざる在庫増減は依然存在しているとの結論を得ている。
 第三次産業は、運輸・通信業や金融・保険業が伸び、緩やかに増加している。ただし、卸売・小売業等の低迷で、回復テンポは前回局面と同程度である。

2 持ち直しの動きが明確になっている設備投資
 民間設備投資は、持ち直しの動きが明確になっている。製造業では、九九年七〜九月期以降、IT関連需要を背景とした電気機械等に牽引され持ち直している。非製造業では、リースなどのサービス業が九九年七〜九月期より増加に転じたほか、卸・小売業にも増加がみられる。こうした、設備投資の持ち直しの背景を、期待需要要因、キャッシュフロー要因、貸し渋り要因、ストック調整要因などを考慮した設備投資関数をもとにして分析すると、平均的にみれば、キャッシュフロー要因の改善があったことが分かる。また、九九年後半にかけて、製造業の中小企業や非製造業の大中堅・中小企業では、資金調達環境が改善しているほか、非製造業の中小企業では期待需要要因の減少幅も縮小傾向を示している。しかし、債務返済を優先している産業もあることには留意する必要がある。民間設備投資の動きを過去の局面と比較すると、前回の回復局面をやや上回るテンポとなっている。
 また、企業の設備過剰感は低下しているが、過去と比べると過剰感の水準は依然として高く、企業によっては生産設備の調整が続く可能性が高い。
 先行指標とされる機械受注や設備投資計画の動向は、ともに改善傾向がみられることを指摘している。設備投資と投資採算性との関係については、期待成長率の低迷、過剰設備の存在等により、最近は過去と比較して、関係が希薄になっていると思われる。

3 企業収益及び過剰債務の改善
 需要が弱い中、企業収益は改善している。経常利益の水準は、製造業では九六、九七年頃、非製造業では大企業が過去最高水準となっている。中小企業でも、八九年頃や九七年頃の高い水準にまで改善している。全体では、前回の景気の山である九七年一〜三月期を越えている。こうした収益回復パターンの特徴としては、特に非製造業で売上高の回復が遅れている中で、製造業・非製造業ともに人件費、変動費などを抑制して利益を回復させていることが挙げられる。また、上場企業の三月決算をみると、経常利益ベースでは十二兆円を超える大幅な増益となったものの、一方で多額の特別損失を計上したことから、最終損益は二兆円という低水準にとどまった。これは、事業再編などのリストラ効果に加え、企業が二〇〇〇年三月から順次導入される「連結会計」、「時価会計」、「退職金給付会計」といった新会計基準への対応を迫られたことによるものと思われる。
 企業の業況判断はなお厳しいものの、改善している。
 企業債務の現状は、九八年度に債務比率は上昇したが、その後キャッシュフローが増加することで負担感は減少している。「設備」・「雇用」・「債務」の三つの過剰は、足下で改善が見られるが、今次の後退局面の初期までは戻っていない。
 設備投資と雇用の関係は、製造業では、雇用の改善の方がより進んでいる傾向にあるが、非製造業ではサービス業を除き設備と雇用はほぼ同様に改善している。設備と債務の関係は、製造業では、過半の業種で設備と債務がほぼ平行して改善しているが、非製造業では、建設・不動産等を除き債務の方がやや改善が進んでいる。
 倒産件数は、九八年十月に中小企業金融安定化特別保証制度が導入されて以降、九九年初めまでは大幅に減少したが、二〇〇〇年三月に再び増加し、保証制度が導入される前の水準に近づいている。二〇〇〇年になってからの倒産を要因別にみると、販売不振、赤字累積、売掛金回収難といったいわゆる不況型倒産の割合が大きくなっている。また、特別保障を利用した企業の倒産は二〇〇〇年五月は三百五十三件となり、やや増加している。

4 依然として厳しい雇用情勢
 従来の雇用調整は、賃金の調整が雇用者数の調整よりやや先行し、ともに伸び率の調整であった。しかし、今回は賃金と雇用がほぼ同時に、双方ともマイナスの領域に踏み込んだ形で行われた。
 雇用者数は減少が続いている。内訳をみると、常用雇用は減少し、臨時・日雇は増加が続いている。足下では大企業で雇用が増加しているが、中小企業では減少している。完全失業率は二〇〇〇年二月に四・九%と既往最高となったが、この背景としては、需要不足による失業とともに、構造的・摩擦的な要因による失業も増加していることがある。雇用者数と賃金の調整は共に進み、労働分配率は低下している。
 雇用の調整に関しては、景気の緩やかな改善もあって、求人及び残業時間はすでに増加に転じ、雇用過剰感には改善もみられるようになった。ただし、景気回復に伴う雇用の増加は昔より緩慢になっている。
 賃金の調整に関しては、賃金はボーナスの動きを反映して減少が続いていたが、持ち直しの動きがみられる。ただし、最近では収益の伸びに対する賃金の伸び率が小さくなる傾向がある。

5 横ばい状態にある個人消費
 個人消費は、消費税率引上げ前の駆け込み需要とその反動等の後、経済や暮らしに対する先行き不透明感等から、九七年秋口以降低迷してきた。九八年度は小幅ながら増加に転じたが、九九年七〜九月期、十〜十二月期は減少し、二〇〇〇年一〜三月期は再び増加となった。過去の回復局面と比較しても、消費の改善はやや遅れている。
 消費の動向をみるために、まず所得の動きをみると、定期収入の低迷に加えて、夏・冬の賞与が大きく減少したため、可処分所得が減少したことが分かる。次に、消費者マインドについてみると、消費者マインドの悪化が九七年以降の消費の低迷の一因となっていたが、消費者マインドは最近改善がみられ、収入が増加していけば、消費も徐々に回復する状況にあると思われる。しかし、将来に関する不確実性は高まっており、これが消費を抑制する要因となっている。耐久財支出は、ストック調整や耐久年数の長期化から低迷してきたが、パソコン販売の好調さや、ストック調整の進展など明るい動きもみられる。また、主として住宅ローン負債の増加により住宅ローン負債比率が上昇していることから、住宅取得のための負債が家計支出に影響を与えている可能性がある。

6 景気の下支え役を果たしてきた住宅建設
 低迷が続いてきた住宅建設は、九九年度前半は低金利や住宅ローン減税の政策効果等によって持家が盛り上がり、九九年後半は、持家に代わって分譲マンションが増加し、景気の下支え役を果たしてきた。
 持家については、特に住宅金融公庫の融資を受けた建設が大きく増加したが、逆に、年後半には、基準金利の上昇もあり、減少傾向となった。
 分譲マンションについては、用地取得など着工までに時間がかかるため、住宅減税の影響が持家よりも遅れて現れたが、低金利、価格低下などを背景に、マンション販売は好調を持続しており、住宅減税の期限の延長もあることから、二〇〇〇年半ば頃までは堅調に推移するものと思われる。このように景気の下支え役を果たしてきた住宅建設であるが、今後も、これまでのように大幅に増加していくとは考えにくい。

7 輸出入を通じたアジア経済との好循環
 輸出入数量は、アジア向けを中心に増加している。半導体等IT関連製品が輸出入にプラスに寄与しており、また、中国からの繊維製品輸入も急増している。九九年に入り、円高にもかかわらず輸出数量が増加した背景には、アジア経済の急速な回復やアメリカの好景気の持続などがあると思われる。
 国際収支の動向をみると、貿易収支黒字及び所得収支黒字が減少した結果、経常収支は黒字幅を縮小している。資本収支は、対内株式投資等による資本流入の結果、赤字幅を縮小している。
 また、円高の影響と対応力についても分析し、輸出の価格転嫁率の上昇や先物市場等を通じた企業のリスクヘッジの多様化により、企業の円高対応力は長期的に上昇していることを指摘している。

8 安定続く物価
 約二年にわたり下落傾向が続いていた国内卸売物価は下げ止まり、おおむね横ばいで推移した後、二〇〇〇年三月には九一年十月以来八年五か月ぶりに前年同月比プラスとなった。一方で、消費者物価は九九年五月以降横ばいで推移したあと、十〜十二月期前年同期比〇・二%の下落、二〇〇〇年一〜三月期同〇・二%の下落と、わずかながら前年を下回る水準で推移している。
 国内卸売物価が前年比プラスに転じたにもかかわらず、消費者物価がマイナスになっている理由としては、@石油製品価格の上昇は、販売競争の激化等により消費者物価の方が小さいこと、A賃金の低迷、規制緩和等により消費者物価のみに含まれるサービス価格の上昇率が鈍化していること、B低価格専門店等に代表される消費市場の業態の変化が挙げられる。
 輸入原油価格は、九九年三月から二〇〇〇年三月までに九五・六%上昇したが、国内卸売物価でみた石油製品価格の上昇は二三・三%にとどまり、消費者物価でみた石油製品価格の上昇は五・八%にとどまった。この背景としては、@生産者及び流通段階における、コスト削減と利益の圧縮によるマージン率の低下、A過去に比べて石油備蓄が高水準に確保されていることによる不安感の低下があると思われる。
 九八年には、日本経済がデフレスパイラルに陥るのではないかと懸念されたが、景気が改善し、需給要因が改善していることから、デフレスパイラル懸念は一頃よりも後退したと考えられる。しかし、インフレを加速しない失業率(NAIRU)は、現在の失業率も低いため、労働市場からの物価押し下げ圧力はなお存在している可能性がある。

9 景気を下支えした公共投資
 民間需要の回復力が弱い中、公共投資は需要面から景気を下支えする大きな役割を果たしてきたが、九九年七〜九月期以降は減少している。
 公共工事着工は、九九年一〜五月には前年を上回り、その後低調となったが、年度末には減少幅が縮小している。国に比べて地方の着工が減少していることや、中小企業に配慮した受注が行われているとみられる。
 二〇〇〇年度予算の基本的な考え方は、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、民需中心の本格的な景気回復を実現するとともに、我が国経済社会の構造改革の推進を図ることである。公共事業関係費は、前年度当初予算と同額(九兆四千億円)を確保し、公共事業等予備費は、前年度と同額の五千億円を計上した。

10 金融面の動向
 金融市場は、ゼロ金利政策等の影響を受け、長期金利・短期金利は共に低い水準で推移している。貸出の低迷等を背景に、マネーサプライは一層減少幅を拡大している。但し、マーシャルのkは過去最高水準を更新している。金融市場は安定し、流動性は後退した。株価は上昇基調で推移してきたが、二〇〇〇年四月半ば以降は、米国株式市場の調整等を背景に弱含みで推移している。なお、四月後半の日経平均株価の下落については、日経平均株価の銘柄入替が新旧系列の間に一種の断絶をもたらした影響が大きかったと思われる。
 不良債権の開示の拡充や、自己査定の精度向上により、九五〜九六年の景気回復時に比べて、不良債権の処理状況は格段に透明性を増し、その処理もより適切に進められていると考えられる。今後の景気や資産価格の動向にもよるが、大手銀行については不良債権問題はほぼ峠を越えたものと考えられる。もっとも、地域銀行の一部や、地域銀行より規模の小さい業態のなかには、相対的に自己資本比率の低い金融機関が見られ、こうした金融機関の貸出行動が抑制的になるリスクについては、引き続き注視が必要と考えられる。
 貸出は低迷している。いわゆる「貸し渋り」に対する政策対応は、貸出の増加に一定の効果を上げたものの、資金需要の弱さを反映して、貸出動向の低迷が続いている。今後の貸出の増加のためには、景気の本格的回復に加えて、金融機関にリスク管理体制等の整備を促す方向で金融検査を実施していくことや、債権流動化市場が着実に成長していくことが重要である。

11 今回の回復局面の特徴
 今回の回復局面の特徴として、@政策効果やアジア経済の回復、アメリカ経済の好調による輸出増にも支えられて改善が続いてきたこと、Aリストラの進む中での回復であるため、一部では収益の改善の割に設備投資に慎重であり、また雇用者数は減少が続き、賃金が上昇に転じる力が弱いため、消費の回復が遅れていること、B新技術要因の影響を受けた回復であること、を指摘している。

第2節 自律的回復のシナリオ

 我が国経済は、緩やかな改善が続いている。設備投資の持ち直しなど、前向きの動きが出てきており、この動きの家計部門への波及が始まりつつある。今後の景気を展望する上で重要なのは、@海外経済や政策運営の動向、Aリストラにより回復が緩やかになる可能性、B新技術の影響の不確実性である。
 @については、アメリカ経済には先行き不透明感もあるが、財政金融政策にかなりの余地があり、アジア経済については、生産する情報関連財に対する需要は当面続くと思われる。景気を下支えしてきた政策について考えると、財政支出の減少は相応の景気抑制効果を持つため、まずは景気の本格的な回復を確実にする観点から、経済運営に万全を期すことが必要であり、金融政策は、豊富で弾力的な資金供給を行うなど、引き続き適切に運営することが期待される。
 Aについては、リストラを伴った回復ではあるものの、二〇〇〇年に入って定期給与がプラスに転じるなど、賃金面では持ち直しの兆しもみられており、家計所得は緩やかに増加し、消費も緩やかに回復していく可能性が高い。
 Bについては、企業はIT関連投資に慎重な側面もみられるが、これは一方で、IT関連の過剰な投資が将来の供給力過剰を招くことが起こりにくいことを意味すると思われる。
 政府は、景気の状況を注視しつつ機動的な対応を行っていくとともに、IT革命、循環形成、介護ビジネス・高齢者と女性の能力発揮を戦略的政策課題と位置付け、強力かつ総合的に政策展開を行っていく必要がある。

第2章 持続的発展のための条件

 我が国経済は、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが徐々に強まっている。この自律的回復を確実なものとするためには、家計や企業が日本経済の長期的な発展の可能性に関して、明るいイメージを持てる状況にしていくことが必要である。第2章では、第1節において、まず明治維新以来の日本経済の発展を簡単に振り返り、その発展の要因を検討している。第2節においては、過去の発展の特徴を踏まえたうえで、持続的発展のためにはどのような条件を満たす必要があるかについて論じている。

序 明治以来の日本経済

 明治維新以来の日本経済を振り返ってみると、一人当たり実質国民所得は約二十八倍になるなど、大きく発展してきたことが分かる。この間、経済構造は大きく変化し、第一次産業から第二次産業へ、そして第三次産業へと労働と付加価値がシフトした。
 日本経済がこのような大きな発展を遂げた背景には、@人材を重視し、教育に資源を投入し、人材が能力を発揮するような環境を整備してきたこと、A外国の文物を柔軟に吸収し、日本の状況に合わせた改良を行ったこと、B時々の経済情勢や発展段階に応じた経済体質を作り上げたこと、があった。

第1節 新技術と日本経済

 最近の情報技術革新の長期的インパクトは明らかではないが、過去の蒸気機関、電力、自動車等に匹敵する大きな技術革新の波である可能性が高くなってきた。第1節では、最近の技術革新が経済に与えている効果について分析し、その上で技術革新に対応し、技術革新を生み出す人材の育成や労働市場のあり方、企業組織の変革、政府の政策対応などについて考察し、知恵の時代における日本経済の成長のイメージについて考えている。

1 IT等の新技術の経済への影響
 IT等の新技術が経済に与える影響を需要・供給・雇用・金融面に分けて分析してみると、まず、需要面への影響では、IT関連の設備投資は最近の景気改善にプラスに寄与し、IT関連の資本ストックが民間企業資本ストック全体に占める割合も、九〇年代後半以降、上昇が目立っている。消費においても、関連支出は消費の下支え要因となり、こうしたIT関連消費財の価格低下テンポは速く、実質消費は名目でみるより大きく増加している(第3図参照)。
 次に供給面への影響だが、製造業の全要素生産性は伸び率を高め、アメリカと同様に、九〇年代後半から生産性の向上に寄与していることが確認できる。
 また、技術の経済成長に与える寄与を計測すると、IT関連財を生産している業種を中心に、技術・知識が生産性の向上に寄与している。
 雇用面の影響は、情報伝達のコストが低下したこともあり、ホワイトカラー、特に中高年層の労働需要が減少する一方で、情報関連の新規求人数が増加していることに加え、派遣労働者数も九九年半ば以降増加傾向にある。また、テレワークなどを通じた在宅勤務等による労働供給が増加している。
 金融面への影響は、インターネットを通じた金融取引の電子化をもたらし、消費者の利便性を向上させる一方で、IT等の新技術が金融資本市場の不安定性を増加させる危険性もある。

2 新技術の特性
 本項では、新技術の特性を整理した上で、新しい時代の経済のイメージを考えている。新技術の特性としては、@一見無関係に見えた分野を関連付けた新サービスが登場すること、A価格はITに乗りやすい情報であるため、価格低下をもたらすこと、Bスピードが要求されるため、いかに早く実用化するかが重要になり、実践能力が高い人材が、柔軟で機動的に動ける組織でビジネスを行う必要があること、C消費者参加型やネットワーク型消費の拡大をもたらすことである。また、インターネットのように、IT関連の商品やサービスの中にはネットワーク外部性があるため、普及率がある水準を超えると急速に上昇する性質を持っているものもある。
 このような特性に従い、新しい時代の経済では、資本、労働に加えて技術・知識も経済成長にとってより重要な要素になること、短期間で収益は縮小に向かうため、先行者が安泰とは限らないことが考えられる。また、景気循環が平準化するかどうかは、今のところ定かではない。

3 新技術と人材
 これからの知恵の時代には、労働者一人一人は知識、技術を身につけ、それをさらに発展させていくことが期待される。また、与えられた課題に取り組むだけでなく、自ら課題を設定して積極的に調整していく人材が求められる。労働市場も、能力次第で機会や賃金が得られるよう柔軟な構造に変化していくことが重要だ。
 現状の教育システムをみると、大学教育は、大学の進学率は上昇しているものの、職業上必要な知識の育成の場としての期待には十分応えていないといえる。企業内教育訓練は、豊富な職業教育訓練の機会を得ているが、集合研修のような全員一律型の教育訓練が主流であり、選択・選抜型への移行は進んでいない。社会人教育・生涯学習を受ける人の割合は、アメリカに比べて少ない。これからの「知恵の時代」に適応した教育を実施するためには、学校教育の質重視への転換、受験勉強よりも入学後の教育の重視、新技術に対応できる専門性のある人材の育成、学校での情報教育や高齢者のIT対応力の向上、社会人・生涯教育の充実が必要である。
 こうした教育を行っていくとともに、変化の時代に即した労働市場を整備し、多様な人材が適切な職に就けるようにすることが必要である。正社員以外のパート・派遣労働者、高いスキルを持った高賃金雇用の増加、高学位新卒や中途採用市場の拡大が望まれる。

4 新技術と組織
 八〇年代に、我が国はロボットの導入が円滑に進み、製造業の生産性の向上に貢献したが、今回のITの導入は比較的遅れた。その理由として、ロボットは一部の生産工程を丸ごと代替したが、情報のスクリーニング、分析、判断などは、ITによって代替するのが困難であること、また、ITは人間関係に関する技術でもあるので、その導入で生産性を上げるには、人事システムを含め、組織の再編が必要となることが考えられる。ITが企業間関係に与える影響としては、外部組織との取引にかかるコストが減少すること、最も得意な機能に特化した小規模起業を促進することが考えられる。これらの影響を背景に、アメリカでは外注化が進んできたが、日本では、これまで企業間の長期的な関係が消費者ニーズへの対応を促進してきたこともあり、企業間の密接な協力の必要性を増す分野では、引き続き長期的取引関係が維持される可能性がある。
 ITが企業組織を分権化するか集権化するかは、中央と現場間でやりとりされる情報の性質に依存し、現場の情報が標準化される場合は集権化が進むと思われる。いずれにしても、企業を改革し情報の流れを変えると、当初はストレスが発生するため、組織の革新を実現するためには強いリーダーシップが必要である。

5 日本経済の体質と新技術
 技術の発達と社会・経済の体質は、相互依存関係にある。我が国社会・経済の特性と新技術の相性について具体的な事例で検討すると、まず日本におけるコンビニの成長が挙げられる。コンビニの存在は、夜間の人通りが少ない住宅地でも、二十四時間営業やATMの設置、公共料金の決裁を可能としてきた。横断的な物流の拠点として、eコマースと結びつける動きもみられる。また、我が国では、少子化の進む中で、子供関連産業の成長が顕著である。家計支出に占める子供関連の支出は上昇傾向にあり、アニメやゲームなど、子供関連産業では世界をリードする分野も見られる。最近のIT関連消費は若年層中心であるが、今後の技術革新を経済成長に結び付けるには、潜在的な購買力が大きい高齢者層のニーズに応えていく必要がある。高齢者におけるパソコンや携帯端末の普及率はかなり低いが、高齢者に使いやすいITの開発によって、需要が拡大する余地もある。高齢化は、生産能力の点では弱みであるが、医療・バイオ・介護分野などで巨大な市場を作り、大きな技術開発を生み出す。我が国は基礎的な教育が行き届いており、日本語を理解しない人はいない。こうした環境は、インターネットのような基礎的な共通インフラが、相当高い普及率を達成する可能性を示唆している。中小企業の保有する優れた技術は、我が国の製造業の国際競争力に大きく貢献してきたが、優れた技術を持っている企業の中には、自社技術を宣伝するだけの資金力がないために、また潜在的な需要を見極めることが困難であったために、特定の大企業を中心に取引を行ってきたものも多い。しかし、インターネットを用いた中小企業間のネットワークを通じて、一社だけでは困難な商品開発が容易になることや、特殊分野で高い技術力を持っている中小企業が、インターネットを使用して世界を相手に顧客を探し、売上を大きく拡大していく可能性がある。
 我が国は、IT分野において、アメリカに出遅れた感は否めないが、新技術関連分野には、先発のメリットが必ずしも大きくない分野も多く、ハード面の情報通信技術の進歩と、我が国の社会・経済の特質を組み合わせることによって、新しい成長分野を切り開いていく余地は十分残されている。

6 知的競争のルール
 付加価値の源泉が「情報や知識」にシフトするのに応じて、「情報や知識」を生み出す活動が一層重要となる。知的財産権制度はこうした活動を促進するための重要な仕組みである。
 知的財産権制度の中の特許制度に着目すると、審査期間の短縮や紛争解決のスピードアップなどを図る必要がある。
 また、旧来の我が国の産業技術開発は、欧米の基本技術を導入し、製品製造段階において独自の技術を付加するという「キャッチアップ」型技術開発が主流であった。我が国と欧米の技術格差が縮小し、東南・東アジア諸国などの技術力が大幅にレベルアップしている現状を考えると、今後は、我が国においても、産業のフロンティア部分で創造性の高い技術開発、あるいは産業の基本となるような技術開発へのチャレンジが一層求められる。したがって、こうした技術開発を行うインセンティブを確保する方向に特許制度自体がシフトする必要があり、「プロパテント政策」の推進は、今後、一層重要になる。ただし、バランスを欠いた「プロパテント政策」は、権利者以外の自由な経済活動に対する阻害要因となる可能性もあるため、透明性、権利の安定性に十分配慮しつつ制度設計を行っていくことが必要不可欠である。
 国際的な競争が強まる中で、大学等の知識資本を産業で活用することが重要な課題になっている。産業上の活用可能性は政府が適切な判断を下しにくい観点であり、市場による評価に対して、大学や研究者が積極的に対応する仕組みが必要になる。こうした仕組みの一つに、大学が自ら開発した研究成果について特許を取得し、その実施許諾料を大学の収入源として活用するという考え方がある。アメリカなどでは、知的財産権に関する大学と産業界のリエゾン機能を果たす機関の活動が充実している。

7 経済政策への含意
 知的競争のグランドを整備する上での政府部門の役割は、知的財産分野に限定されたものではなく、広範な分野で、従来にも増した適切な政策対応が求められている。知的競争のための環境整備としては、情報アクセスコストの低減や電子認証等のルールの確立、サーバーテロ対策、国際的取引の紛争の処理といった情報ネットワークに関するインフラの整備や、独占禁止法の明確な運用、規制対象等の明確化、縦割り行政の弊害防止、行政の電子化やインパク(インターネット博覧会)の推進が重要である。
 今後の財政金融政策の方向性としては、財政支出の構造を知的基盤整備重視へシフトし、教育の情報化や情報ネットワークに関するインフラの整備を行う必要がある。また、直接金融の育成によるリスクマネーを供給するため、情報開示を進展させ、家計が高めのリターンと引き換えに、適切に分散されたリスクをとれるようにすることが必要である。
 技術革新等に伴う物価下落と金融政策の関係については、技術革新などの要因によって物価が下がる場合に、個別の価格低下を許容する一方で、全体的な物価水準が中長期的に安定して推移するようにすることが一つの考え方である。市場経済の資源配分機能を活用する一方で、国際化、情報化に伴う相場の不安定性が拡大するようであれば、これを軽減する必要もある。

第2節 持続的発展のための公的部門のあり方

 我が国は、九〇年代に入って厳しい不況を経験する中で、公的債務が大幅に増加したが、経済が許容し得る公的部門の規模や債務には限りがある。第2節では、持続的な経済発展と公的部門の活動が両立していくための条件を検討している。

1 日本の公的部門の評価
 我が国の一般政府支出の対GDP比率は、他の先進国と比較すると低い。これは、高齢化の進展度合いがまだ低いことに加え、福祉サービスが家庭内で供給されてきたこと等が要因として考えられる。諸外国においては、冷戦終結による国防費の減少に加え、社会保障支出の増勢を抑制するとともに、投資的支出を減少させたこともあり、九〇年代に入って政府支出の規模の縮小が見られる。しかし、我が国の政府支出の規模は逆に増大している。
 二十一世紀に向けた公的部門の課題としては、公共サービスの持続可能性の保持、政府部門の効率性の向上及び公共サービスの提供方法の改善、社会保障の給付水準・範囲の見直しを行いつつ経済の活力を維持することを挙げている。
 海外では、民間委託やエージェンシー化など執行部門の外部化と業績評価による管理を組み合わせた、民間企業的な経営手法を導入することにより、行政部門の効率化や透明性の向上を図る動き、「ニュー・パブリック・マネージメント」が見られる。こうした民営化や民間委託にあたっては、業者の新規参入が確保され、競争が保たれることが必要である。

2 過去の財政赤字の解決パターン
 公共サービスの持続可能性については、最近の財政赤字の拡大によって、大きな懸案事項となっている。我が国の財政赤字は、九〇年代に大幅に増加した。一般政府財政赤字は、九一年度と九八年度を比べると四十三兆円拡大している。財政赤字を構造赤字と循環赤字に分けてみると、経済対策など裁量的な財政政策を含む構造要因による部分が多い(第4図参照)。今後景気が本格的に回復すれば、裁量的な財政赤字は縮小するが、それでも財政赤字の解消は困難である。
 我が国の財政赤字が大きいのは、不況期に積極的に財政政策を活用してきたこと、国から地方への移転額が国際的に見て大きいこと等、制度的に負担が見えにくいことなどが考えられる。
 財政赤字が今後持続可能かどうかの三つの基準として、@公債残高のGDP比率が発散するかどうか、A財政と社会保障を含めた将来世代と現世代の負担格差が妥当かどうか、Bクラウディング・アウトやインフレーションなどの財政赤字の経済への影響が耐え得るものかどうかが挙げられる。日本の財政赤字は、@の基準からみると持続可能性を満たしていない。近年の一般政府のプライマリー・バランスは、九二年以降赤字であり、名目経済成長率も長期金利を下回って推移している。これは、公債残高の対GDP比が発散経路にあることを示唆している。次にAの基準を見るために、世代間負担の大きさを図る一つの目安として、世代会計を取り上げると、日本は先進国中、最も世代間格差が大きい国の一つである。また、年齢構成が将来も現在と同じ状態が続くと仮定して計算すると、我が国の現役世代と将来世代の負担格差は大幅に縮小する。こうしたことから、我が国においては、高齢化が財政や社会保障制度の持続可能性に与える影響は特に深刻であるといえる。Bの基準から見ると、これまでのところ長期金利の上昇といった形でマクロ経済に悪影響を及ぼすには至っていない。このように、我が国の財政赤字の経済への影響は、これまでのところ小さいが、ストックとしての債務は簡単に減らないため、今後金利が上昇したときに利払い費増加による財政圧迫の可能性がある。
 九〇年代における欧米諸国の財政赤字削減の経験を振り返ると、EU通貨統合や冷戦終結などが財政再建のインセンティブとなり、OECD諸国平均の一般政府赤字の対GDP比は、九一年の三・三%から九九年には一・二%に低下している。景気要因を反映する循環収支をみてみると、アメリカは九七年以降は黒字となっており、歳出、歳入にわたる様々な制度的努力による構造収支の改善に加えて、景気拡大が財政収支の改善にある程度寄与したと見られる。
 財政再建過程の経済状況については、米国では内需中心の景気回復が見られたが、イタリアやスウェーデンでは、可処分所得の低迷により消費が低迷する中、外需主導の回復となった。これら三か国の経験から、財政再建は景気の自律的回復がはっきりしてから行うことが重要であること、国民の将来に対する不確実性を低下させ、将来の効率的な政府の姿がはっきりと分かるような形で財政再建を行うことが、財政再建によるデフレ効果を緩和する上で重要であること等に留意する必要があると思われる。

3 公的部門の経済安定化機能
 我が国では、財政政策が景気対策として重用されてきた。その理由としては、財政赤字が長期金利の上昇等の副作用をもたらす度合いが低いことや、ビルト・イン・スタビライザー効果が国際的にみると小さいこと、社会資本整備の水準がまだ低いことがある。
 財政政策の基準としては、GDPギャップを財政政策で埋めるという発想は、計測する際に恣意的な要素を排除できないこと等の計測上の問題や、政府が、資本がすべて稼動されることを保証することは、経営者に対して長期的にはモラルハザードを引き起こす可能性があることなどから不適切である。しかし、ビルト・イン・スタビライザーのみでも厳しい不況には不十分であり、財政政策は、景気の底割れ懸念があるような厳しい局面においては、何らかの積極的な役割を果たすことも求められる場合もあることは否定できない。
 消費と財政赤字の関係をみると、中立命題は、最近成立しやすくなっている可能性があるが、厳密には成立せず、財政政策の景気安定化機能は認められる。
 地方財政をみると、地方公共団体でも国と同様に税収減、景気対策による公共投資等の増加などにより、厳しい状況になっている。当面は景気を民需中心の本格的回復軌道に乗せ、行財政の簡素効率化を推進するとともに、地方分権を進め、国の権限委譲に合わせて地方の財政面における自己決定権と自己責任を確立することが求められる。
 財政投融資についても検討している。これまでの制度は、豊富な原資が貸付事業の肥大化を招く可能性があることや、政策コストの不透明性といった問題点が指摘されている。今後、政府は、財政投融資改革により、財投債や財投機関債によって、真に必要な資金だけを市場から調達する仕組みへと抜本的に転換する必要がある。

4 公的支出のファイナンス方法とその経済的含意
 我が国の一般政府債務残高は、先進国中、最も高い水準に達している。六百兆円にのぼる一般政府債務の多くは、家計の保有する一千三百兆円の資産により、郵便貯金、簡易保険、年金を原資とする財政投融資と、生命保険等の民間金融機関を通じて間接的にファイナンスされている。貯蓄投資バランスをみると、九〇年代に入ってから、法人部門の投資超過が大幅に縮小する一方で、財政赤字の拡大が家計の貯蓄を吸収している(第5図参照)。
 日本の国債市場の特徴は、国際的にみると、公的金融機関の公債保有割合が高く、非居住者の保有割合が低いこと、他の先進国と比べて流動性に欠けるといったことが挙げられる。今後は、国債の年限の多様化を図り、国債の流動性を高めること、ひいては国債の円滑な市中消化に貢献する必要がある。

5 持続的発展のための公的部門の課題
 公的部門のあるべき姿は、透明性を高める中で、国民の選択によって決められるべきものであるが、考えられる課題としては、以下のようなものである。
 @現在の巨額の財政赤字は持続可能ではないので、財政赤字の削減は相応の需要抑制効果をもつ可能性はあるが、中・長期的には削減していくことが望ましく、財政赤字の削減と並行して、民間の設備投資が活発化するような施策を講じていくことが重要である。具体的には、技術革新を支える政策の推進や社会保障の総合的ビジョンによる不確実性の低下、介護保険の円滑な実施と介護サービスの振興、高齢者の消費環境の整備等が挙げられる。
 A政府支出の効率的利用を促進するように構造改革を進めるべきである。具体的には、コスト意識を希薄にさせたまま政府支出を増加させるような制度的誘因を排除するとともに、公共サービスの費用・効果の正確な把握に努め、効率性を高める必要がある。

おわりに

 厳しかった不況も、強力かつ大胆な政策が奏効し、自律的な回復に向けた動きが出てきた。今回の景気回復局面の特徴は、各種の政策を総動員したことによって、財政赤字が大幅に累積し、その先行きに関する国民の不安が増していること、企業は経営効率への志向性が強く、雇用面を含め、固定費の増加を伴う行動には比較的慎重であり、景気改善の家計への波及が弱いことにある。しかし、情報技術を始めとする新技術の影響を受けた回復であり、情報技術の進展を生産性や生活水準の向上に結び付けていく可能性が開けてきた。
 九〇年代は、日本経済にとって栄光の時代とは言い難い状況であったが、二十世紀全体を振り返ると、経済面での我が国の発展は目覚ましいものがあった。いたずらに悲観論に陥ることなく、いかに時代の変化に柔軟に対応していくかについて、前向きな検討が必要である。
 世界経済には情報技術に代表される新しい技術革新の波が押し寄せてきている。新技術は、これまでの大量生産型技術に比べて、いくつかの新しい特徴をもっている。我が国が出遅れた分野もあるが、日本の事情に即した発展の分野は十分に残されている。技術開発を促進していくためには、新しい時代のインフラとして知的競争の環境を整備していくことが必要である。
 深刻な不況がようやく一段落するに伴って、中長期的な公的部門の姿を描き、その中で財政の位置付けを検討し、合意していくことの必要性が高まっている。この問題に対して、本白書の分析を踏まえれば、@景気の本格的回復を確実にしつつ、A民間部門の潜在的な需要を発現する諸政策を講じつつ、B政府部門の効率化を促進しつつ、公的部門の改革を進め、中長期的な観点から財政赤字を削減していくことが望ましい。
 経済の国際化・情報化に伴い二十一世紀は不確実性の高まる時代だが、これを不安の増大に結び付けるのでなく、可能性・希望・挑戦の増大に結び付けていくことが重要である。


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七月の雇用・失業の動向


―労働力調査 平成十二年七月結果の概要―


総 務 庁


◇就業状態別の人口

 平成十二年七月末の就業状態別人口をみると、就業者は六千四百八十九万人、完全失業者は三百七万人、非労働力人口は四千二十万人で、前年同月に比べそれぞれ八万人(〇・一%)減、十二万人(三・八%)減、七十二万人(一・八%)増となっている。

◇就業者

(1) 就業者

 就業者数は六千四百八十九万人で、前年同月に比べ八万人(〇・一%)の減少となっている。男女別にみると、男性は三千八百二十二万人、女性は二千六百六十八万人で、前年同月と比べると、男性は十六万人(〇・四%)減、女性は九万人(〇・三%)増となっている。

(2) 従業上の地位

 就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百六十一万人、自営業主・家族従業者は一千百八万人となっている。前年同月と比べると、雇用者は五十三万人(一・〇%)増、自営業主・家族従業者は五十六万人減となっている。
 雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非農林業雇用者…五千三百二十九万人で、五十二万人(一・〇%)増、三か月連続の増加
 ○常 雇…四千六百五十六万人で、十万人(〇・二%)減、三か月ぶりの減少
 ○臨時雇…五百五十一万人で、五十四万人(一〇・九%)増、平成八年九月以降増加が継続
 ○日 雇…百二十二万人で、八万人(七・〇%)増

(3) 産 業

 主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○農林業…三百二十七万人で、十四万人(四・一%)減
○建設業…六百五十万人で、一万人(〇・二%)減
○製造業…一千三百四十六万人で、十五万人(一・一%)減、平成九年六月以降減少が継続
○運輸・通信業…四百七万人で、十八万人(四・六%)増、四か月連続の増加
○卸売・小売業,飲食店…一千四百五十八万人で、三十二万人(二・一%)減
○サービス業…一千七百二十八万人で、四十五万人(二・七%)増、五か月連続の増加
 また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○建設業…五百三十四万人で、一万人(〇・二%)増
○製造業…一千二百三十二万人で、二万人(〇・二%)増
○運輸・通信業…三百八十四万人で、十四万人(三・八%)増
○卸売・小売業,飲食店…一千百七十七万人で、十八万人(一・五%)減
○サービス業…一千四百八十九万人で、五十七万人(四・〇%)増

(4) 従業者階級

 企業の従業者階級別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜二十九人規模…一千七百二十六万人で、六万人(〇・三%)減、十か月連続の減少
○三十〜四百九十九人規模…一千七百五十一万人で、二十七万人(一・六%)増、二か月連続の増加
○五百人以上規模…一千二百七十九万人で、二十一万人(一・七%)増、十か月連続の増加

(5) 就業時間

 七月末一週間の就業時間階級別の従業者数(就業者から休業者を除いた者)及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜三十五時間未満…一千四百六十三万人で、一万人(〇・一%)減少
 ・うち一〜三十時間未満…一千五十九万人で、十八万人(一・七%)増加
○三十五時間以上…四千八百九十九万人で、十二万人(〇・二%)増加、二か月連続の増加
 ・うち四十九時間以上…一千八百二十六万人で、百十三万人(六・六%)増加、十三か月連続の増加
 また、非農林業の従業者一人当たりの平均週間就業時間は四十二・九時間で、前年同月に比べ〇・四時間の増加となっている。

◇完全失業者

(1) 完全失業者数

 完全失業者数は三百七万人で、前年同月に比べ十二万人(三・八%)減と、三か月連続の減少となっている。男女別にみると、男性は百九十万人、女性は百十七万人で、前年同月に比べ、男性は五万人(二・六%)の減少、女性は七万人(五・六%)の減少となっている。
 また、求職理由別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非自発的な離職による者…九十九万人で、六万人減少
○自発的な離職による者…九十九万人で、四万人減少
○学卒未就職者…十二万人で、四万人減少
○その他の者…八十七万人で、五万人増加

(2) 完全失業率(季節調整値)

 季節調整値でみた完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は四・七%で、前月と同率。男女別にみると、男性は四・九%、女性は四・三%で、前月に比べ男性は〇・一ポイントの上昇、女性は〇・三ポイントの低下となっている。

(3) 完全失業率(原数値)

 完全失業率は四・五%で、前年同月に比べ〇・二ポイントの低下となっている。男女別にみると、男性は四・七%で〇・一ポイントの低下、女性は四・二%で〇・三ポイントの低下となっている。

(4) 年齢階級別完全失業者数及び完全失業率(原数値)

 年齢階級別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 [男]
○十五〜二十四歳…三十八万人(四万人減)、九・五%(〇・六ポイント低下)
○二十五〜三十四歳…四十四万人(二万人増)、四・八%(〇・二ポイント上昇)
○三十五〜四十四歳…二十一万人(三万人減)、二・七%(〇・四ポイント低下)
○四十五〜五十四歳…三十四万人(五万人増)、三・六%(〇・五ポイント上昇)
○五十五〜六十四歳…四十五万人(二万人減)、六・七%(〇・二ポイント低下)
 ・五十五〜五十九歳…十七万人(四万人減)、四・二%(〇・九ポイント低下)
 ・六十〜六十四歳…二十八万人(二万人増)、一〇・六%(〇・九ポイント上昇)
○六十五歳以上…七万人(三万人減)、二・三%(〇・八ポイント低下)
 [女]
○十五〜二十四歳…二十六万人(四万人減)、六・九%(〇・八ポイント低下)
○二十五〜三十四歳…四十万人(一万人増)、六・八%(〇・一ポイント上昇)
○三十五〜四十四歳…十九万人(同数)、三・七%(同率)
○四十五〜五十四歳…十八万人(二万人減)、二・六%(〇・四ポイント低下)
○五十五〜六十四歳…十三万人(同数)、三・一%(〇・一ポイント低下)
○六十五歳以上…二万人(同数)、一・〇%(同率)

(5) 世帯主との続き柄別完全失業者数及び完全失業率(原数値)

 世帯主との続き柄別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○世帯主…八十四万人(六万人減)、三・一%(〇・二ポイント低下)
○世帯主の配偶者…三十八万人(二万人増)、二・六%(〇・一ポイント上昇)
○その他の家族…百三十五万人(七万人減)、七・三%(〇・四ポイント低下)
○単身世帯…四十九万人(二万人減)、六・二%(同率)












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賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査 平成十二年七月分結果速報


労 働 省


 「毎月勤労統計調査」平成十二年七月分結果の主な特徴点は、次のとおりである。

◇賃金の動き

 七月の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は四十三万六千四百六十七円、前年同月比は〇・一%減であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十八万四千八百七十八円、前年同月比一・一%増であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十六万六千五百十六円、前年同月比〇・九%増、所定外給与は一万八千三百六十二円、前年同月比は三・九%増であった。
 また、特別に支払われた給与は十五万一千五百八十九円、前年同月比は二・三%減であった。
 実質賃金は、〇・六%増であった。
 きまって支給する給与の動きを産業別に前年同月比によってみると、伸びの高い順に不動産業九・〇%増、金融・保険業四・四%増、建設業一・七%増、製造業一・六%増、電気・ガス・熱供給・水道業一・〇%増、運輸・通信業及び卸売・小売業,飲食店〇・七%増、鉱業〇・二%増、サービス業〇・一%増であった。

◇労働時間の動き

 七月の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は百五十七・〇時間、前年同月比〇・六%減であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は百四十七・四時間、前年同月比〇・八%減、所定外労働時間は九・六時間、前年同月比三・二%増、所定外労働時間の季節調整値は前月比〇・六%減であった。
 製造業の所定外労働時間は十三・六時間、前年同月比一二・四%増、季節調整値の前月比は〇・二%減であった。

◇雇用の動き

 七月の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・一%減、常用労働者のうち一般労働者では〇・五%減、パートタイム労働者では一・七%増であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別によってみると、前年同月を上回ったものは不動産業二・〇%増、サービス業一・八%増、電気・ガス・熱供給・水道業一・四%増、運輸・通信業〇・三%増であった。前年同月を下回ったものは建設業〇・一%減、卸売・小売業,飲食店一・〇%減、製造業一・五%減、金融・保険業二・六%減、鉱業二・九%減であった。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者一・九%減、パートタイム労働者一・四%増、卸売・小売業,飲食店では一般労働者〇・八%減、パートタイム労働者一・四%減、サービス業では一般労働者一・一%増、パートタイム労働者五・四%増であった。










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月例経済報告(十月報告)


経済企画庁


概 観

 景気は、厳しい状況をなお脱していないが、緩やかな改善が続いている。各種の政策効果やアジア経済の回復などの影響はやや薄らいでいるものの、企業部門を中心に自律的回復に向けた動きが続いている。
 需要面をみると、個人消費は、収入が下げ止まってきたが、おおむね横ばいの状態が続いている。住宅建設は、このところ堅調であったマンションの着工が減少したが、全体ではおおむね横ばいとなっている。設備投資は、持ち直しの動きが続いており、製造業では投資意欲の強まりがみられる。公共投資は、前年に比べて低調な動きとなっている。輸出は、欧米向けに減速がみられるものの、アジア向けを中心に緩やかに増加している。
 生産は、堅調に増加している。
 雇用情勢は、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しいものの、残業時間や求人が増加傾向にあるなど改善の動きが続いている。
 企業収益は、大幅な改善が続いている。また、企業の業況判断は、業種や規模によってはなお厳しいが、全体としては改善が進んでいる。一方、倒産件数は、やや高い水準となっており、負債金額の増加がみられる。
 政府は、経済を自律的な回復軌道に乗せるため引き続き景気回復に軸足を置きつつ、我が国経済を二十一世紀にふさわしい構造に改革する。このため、日本新生プランの具体化策等を中心とした新たな経済対策の策定を行い、それを踏まえ平成十二年度補正予算の編成を行う。

 我が国経済
 需要面をみると、個人消費は、収入が下げ止まってきたが、おおむね横ばいの状態が続いている。住宅建設は、このところ堅調であったマンションの着工が減少したが、全体ではおおむね横ばいとなっている。設備投資は、持ち直しの動きが続いており、製造業では投資意欲の強まりがみられる。公共投資は、前年に比べて低調な動きとなっている。
 産業面をみると、生産は、堅調に増加している。企業収益は、大幅な改善が続いている。また、企業の業況判断は、業種や規模によってはなお厳しいが、全体としては改善が進んでいる。一方、企業倒産件数は、やや高い水準となっており、負債金額の増加がみられる。
 雇用情勢は、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しいものの、残業時間や求人が増加傾向にあるなど改善の動きが続いている。
 輸出は、欧米向けに減速がみられるものの、アジア向けを中心に緩やかに増加している。輸入は、アジアからの輸入を中心に、増加している。国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、九月は上旬に百六円台から百五円台に上昇した後、十月上旬にかけて百九円台まで下落した。
 物価の動向をみると、国内卸売物価は、おおむね横ばいで推移している。また、消費者物価は、安定している。
 最近の金融情勢をみると、短期金利は、九月はおおむね横ばいで推移した後、月末から十月上旬にかけて上昇した。長期金利は、九月は上旬に上昇した後低下し、以後おおむね横ばいで推移して、月末から十月上旬にかけてやや低下した。株式相場は、九月は下旬にかけて下落した後、月末から十月上旬にかけてやや上昇した。マネーサプライ(M+CD)は、九月は前年同月比一・九%増となった。また、企業金融のひっ迫感は緩和傾向にあるが、民間金融機関の貸出は依然低調である。

 海外経済
 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、年初に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、二〇〇〇年一〜三月期前期比年率四・八%増の後、二〇〇〇年四〜六月期は同五・六%増となった。個人消費は増加している。設備投資は大幅に増加している。住宅投資は伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。物価は総じて安定している。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、依然高水準である。連邦準備制度は、十月三日に、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準と公定歩合の据置を決定した(それぞれ六・五〇%、六・〇〇%)。なお、今後の物価及び景気動向に対するリスクの見通しはインフレ方向とした。九月の長期金利(十年物国債)は、ほぼ横ばいで推移した。株価(ダウ平均)は、大きく下落した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランス、イギリスでは、景気は拡大している。鉱工業生産は、ドイツでは増加している。フランスではこのところ横ばいで推移している。イギリスでは増加している。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準ながらも低下している。イギリスでは低水準で推移している。物価は、ドイツでは、エネルギー価格の上昇から消費者物価上昇率がやや高まっている。フランスでは総じて安定している。イギリスでは安定している。欧州中央銀行(ECB)は、十月五日、物価の上昇圧力を抑制するため、政策金利(短期オペの最低応札金利)を〇・二五%ポイント引き上げ、四・七五%とした。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポはやや高まっている。物価は安定している。貿易は、輸出入ともに大幅な増加が続いている。韓国では、危機後の急回復に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている。貿易は、輸出入ともに大幅な増加が続いている。
 国際金融市場の九月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、増価基調で推移した。
 国際商品市況の九月の動きをみると、CRB商品先物指数は、上旬は強含んだものの、その後は下落基調で推移した。原油スポット価格(北海ブレント)は、上旬に三十七ドル台まで上昇したが、その後は下落し、下旬には三十ドルを下回って推移した。

1 国内需要
―設備投資は、持ち直しの動きが続いており、製造業では投資意欲の強まりがみられる―

 個人消費は、収入が下げ止まってきたが、おおむね横ばいの状態が続いている。
 家計調査でみると、実質消費支出(全世帯)は前年同月比で七月二・六%減の後、八月(速報値)は四・一%減(季節調整済前月比二・三%減)となった。世帯別の動きをみると、勤労者世帯で前年同月比二・九%減、勤労者以外の世帯では同五・四%減となった。形態別にみると、財、サービスともに減少となった。なお、消費水準指数は全世帯で前年同月比三・二%減、勤労者世帯では同二・二%減となった。また、農家世帯(農業経営統計調査)の実質現金消費支出は前年同月比で七月三・八%減となった。小売売上面からみると、小売業販売額は前年同月比で七月〇・六%減の後、八月(速報値)は一・三%減(季節調整済前月比〇・三%増)となった。全国百貨店販売額(店舗調整済)は前年同月比で七月五・〇%減の後、八月(速報値)四・五%減となった。チェーンストア売上高(店舗調整後)は、前年同月比で七月四・三%減の後、八月五・七%減となった。一方、耐久消費財の販売をみると、乗用車(軽を含む)新車新規登録・届出台数は、前年同月比で九月(速報値)は〇・八%減となった。また、家電小売金額(日本電気大型店協会)は、前年同月比で八月は一・四%増となった。レジャー面を大手旅行業者十三社取扱金額でみると、八月は前年同月比で国内旅行が〇・七%減、海外旅行は五・一%増となった。
 賃金の動向を毎月勤労統計でみると、現金給与総額は、事業所規模五人以上では前年同月比で七月〇・四%減の後、八月(速報)は〇・三%減(事業所規模三十人以上では同〇・七%減)となり、うち所定外給与は、八月(速報)は同四・七%増(事業所規模三十人以上では同五・四%増)となった。実質賃金は、前年同月比で七月〇・二%増の後、八月(速報)は〇・六%増(事業所規模三十人以上では同〇・一%増)となった。なお、六〜八月合算の特別給与(速報)は、前年同期比〇・四%減(前年は同六・六%減)となった。
 住宅建設は、このところ堅調であったマンションの着工が減少したが、全体ではおおむね横ばいとなっている。新設住宅着工をみると、総戸数(季節調整値)は、前月比で七月は八・〇%減(前年同月比〇・八%減)となった後、八月は四・七%増(前年同月比三・八%減)の十万二千戸(年率百二十一・九万戸)となった。八月の着工床面積(季節調整値)は、前月比七・二%増(前年同月比二・三%減)となった。八月の戸数の動きを利用関係別にみると、持家は前月比九・六%増(前年同月比四・三%減)、貸家は同五・一%増(同八・一%減)、分譲住宅は同一二・三%減(同二・七%増)となっている。
 設備投資は、持ち直しの動きが続いており、製造業では投資意欲の強まりがみられる。
 日本銀行「企業短期経済観測調査」(九月調査)により設備投資の動向をみると、大企業の十二年度設備投資計画は、製造業で前年度比一三・八%増(六月調査比二・三%上方修正)、非製造業で同一・四%増(同〇・七%上方修正)となっており、全産業では同六・〇%増(同一・三%上方修正)となった。また、中堅企業では、製造業で前年度比一〇・一%増(六月調査比五・二%上方修正)、非製造業で同一・四%減(同一・六%上方修正)となり、中小企業では製造業で同五・二%増(同七・一%上方修正)、非製造業で一〇・三%減(同一・〇%下方修正)となっている。
 なお、十二年四〜六月期の設備投資を、大蔵省「法人企業統計季報」(全産業)でみると前年同期比で二・二%増(うち製造業三・四%増、非製造業一・六%増)となった。
 先行指標の動きをみると、当庁「機械受注統計調査」によれば、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整済前月比で七月は一一・七%減(前年同月比一七・九%増)の後、八月は二六・六%増(同四五・八%増)となり、基調は回復への動きがみられる。
 なお、七〜九月期(見通し)の機械受注(船舶・電力を除く民需)は、季節調整済前期比で一〇・七%増(前年同期比三〇・〇%増)と見込まれている。
 民間からの建設工事受注額(五十社、非住宅)をみると、一進一退で推移しており、七月は季節調整済前月比一六・一%減の後、八月は季節調整済前月比二四・七%増(前年同月比二・〇%増)となった。内訳をみると、製造業は季節調整済前月比二〇・七%増(前年同月比五八・九%増)、非製造業は同二六・四%増(同七・五%減)となった。
 公的需要関連指標をみると、公共投資は、前年に比べて低調な動きとなっている。
 公共機関からの建設工事受注額(建設工事受注動態統計調査)は、前年の公共工事着工統計調査と比較して、七月は七・八%減(参考値)の後、八月は一二・四%減(同)となった。同じく大手五十社の受注額は、前年同月比で七月は一〇・三%減の後、八月は一九・三%減となった。また、公共工事請負金額(公共工事前払金保証統計)は、前年同月比で七月は一六・七%減の後、八月は七・一%減となった。

2 生産雇用
―雇用情勢は、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しいものの、残業時間や求人が増加傾向にあるなど改善の動きが続いている―

 鉱工業生産・出荷・在庫の動きをみると、生産・出荷は、堅調に増加している。在庫は、八月は増加した。
 鉱工業生産(季節調整値)は、前月比で七月〇・九%減の後、八月(速報)は、石油・石炭製品、繊維が減少したものの、一般機械、電気機械等が増加したことから、三・三%増となった。また製造工業生産予測指数(季節調整値)は、前月比で九月は輸送機械、一般機械等により二・五%減の後、十月は電気機械、一般機械等により、一・七%増となっている。鉱工業出荷(季節調整値)は、前月比で七月一・八%減の後、八月(速報)は、生産財、資本財等が増加したことから、三・七%増となった。鉱工業生産者製品在庫(季節調整値)は、前月比で七月〇・一%減の後、八月(速報)は、化学、窯業・土石製品等が減少したものの、一般機械、電気機械等が増加したことから、〇・一%増となった。また、八月(速報)の鉱工業生産者製品在庫率指数(季節調整値)は九五・六と前月を六・〇ポイント下回った。
 主な業種について最近の動きをみると、一般機械では、生産は八月は増加し、在庫も八月は増加した。電気機械では、生産は四か月連続で増加し、在庫は八月は増加した。鉄鋼では、生産は二か月連続で増加し、在庫は八月は減少した。
 第三次産業の動向を通商産業省「第三次産業活動指数」(七月調査、季節調整値)でみると、前月比で六月一・五%増の後、七月(速報)は、運輸・通信業、電気・ガス・熱供給・水道業が増加したものの、サービス業、卸売・小売業,飲食店等が減少した結果、一・一%減となった。
 農業生産の動向をみると、平成十二年産水稲の全国作況指数(九月十五日現在)は、一〇三の「やや良」となっている。
 雇用情勢は、完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しいものの、残業時間や求人が増加傾向にあるなど改善の動きが続いている。
 労働力需給をみると、有効求人倍率(季節調整値)は、七月〇・六〇倍の後、八月〇・六二倍となった。新規求人倍率(季節調整値)は、七月一・〇八倍の後、八月一・〇八倍となった。総務庁「労働力調査」による雇用者数は、七月は前年同月比一・〇%増(前年同月差五十三万人増)の後、八月は同〇・二%増(同十一万人増)となった。常用雇用(事業所規模五人以上)は、七月前年同月比〇・一%減(季節調整済前月比〇・二%増)の後、八月(速報)は同〇・二%減(同〇・〇%)となり(事業所規模三十人以上では前年同月比一・一%減)、産業別には製造業では同一・六%減となった。八月の完全失業者数(季節調整値)は、前月差七万人減の三百七万人、完全失業率(同)は、七月四・七%の後、八月四・六%となった。所定外労働時間(製造業)は、事業所規模五人以上では七月前年同月比一三・二%増(季節調整済前月比〇・五%増)の後、八月(速報)は同一二・八%増(同一・四%増)となっている(事業所規模三十人以上では前年同月比一四・六%増)。
 前記「企業短期経済観測調査」(九月調査)によると、企業の雇用人員判断は、過剰感が低下傾向にあるものの、非製造業では依然として高い水準にある。
 企業の動向をみると、企業収益は、大幅な改善が続いている。また、企業の業況判断は、業種や規模によってはなお厳しいが、全体としては改善が進んでいる。
 前記「企業短期経済観測調査」(九月調査)によると、大企業(全産業)では、経常利益は十二年度上期には前年同期比一五・八%の増益の後、十二年度下期には同一〇・九%の増益が見込まれている。産業別にみると、製造業では十二年度上期に前年同期比二一・六%の増益の後、十二年度下期には同二七・二%の増益が見込まれている。また、非製造業では十二年度上期に前年同期比一一・一%の増益の後、十二年度下期には同三・一%の減益が見込まれている。売上高経常利益率は、製造業では十二年度上期に三・八一%になった後、十二年度下期は四・八二%と見込まれている。また、非製造業では十二年度上期に二・六二%となった後、十二年度下期は二・五六%と見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業は「良い」超幅が拡大し、非製造業は「悪い」超幅が縮小した。
 また、中小企業の動向を同調査でみると、製造業では、経常利益は十二年度上期には前年同期比四一・五%の増益の後、十二年度下期には同一六・四%の増益が見込まれている。また、非製造業では、十二年度上期に前年同期比一・七%の増益の後、十二年度下期には同一・五%の増益が見込まれている。こうしたなかで、企業の業況判断をみると、製造業、非製造業ともに「悪い」超幅が縮小した。
 企業倒産の状況をみると、やや高い水準となっており、負債金額の増加がみられる。
 銀行取引停止処分者件数は、八月は一千六十四件で前年同月比二〇・六%増となった。件数の業種別構成比を見ると、建設業(三四・七%)が最大のウエイトを占め、次いで製造業(一九・一%)、小売業(一六・一%)の順となった。

3 国際収支
―輸出は、欧米向けに減速がみられるものの、アジア向けを中心に緩やかに増加―

 輸出は、欧米向けに減速がみられるものの、アジア向けを中心に緩やかに増加している。
 通関輸出(数量ベース、季節調整値)は、前月比で七月八・一%減の後、八月は七・五%増(前年同月比一二・二%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、電気機器、一般機械等が増加した。同じく地域別にみると、アジア等が増加した。
 輸入は、アジアからの輸入を中心に、増加している。
 通関輸入(数量ベース、季節調整値)は、前月比で七月五・八%減の後、八月は一〇・三%増(前年同月比一三・一%増)となった。最近数か月の動きを品目別(金額ベース)にみると、機械機器等が増加した。同じく地域別にみると、アジア、アメリカ等が増加した。
 通関収支差(季節調整値)は、七月に九千二百七十三億円の黒字の後、八月は八千九百六十七億円の黒字となった。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。
 八月の貿易・サービス収支(季節調整値)は、前月に比べ、サービス収支の赤字幅が縮小したものの、貿易収支の黒字幅が縮小したため、その黒字幅は縮小し、五千六百一億円となった。また、経常収支(季節調整値)は、貿易・サービス収支の黒字幅が縮小し、経常移転収支の赤字幅が拡大したものの、所得収支の黒字幅が拡大したことから、その黒字幅は拡大し、一兆一千八十一億円となった。投資収支(原数値)は、六千四百十六億円の赤字となり、資本収支(原数値)は、六千七百九億円の赤字となった。
 九月末の外貨準備高は、前月比四十一億ドル増加して、三千四百八十九億ドルとなった。
 外国為替市場における対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、九月は上旬に百六円台から百五円台に上昇した後、十月上旬にかけて百九円台まで下落した。一方、対ユーロ円相場(インターバンク十七時時点)は、九月は中旬にかけて月初の九十四円台から九十円台に上昇した後、十月上旬にかけて九十五円台まで下落した。

4 物価
―国内卸売物価は、おおむね横ばいで推移―

 国内卸売物価は、おおむね横ばいで推移している。
 九月の国内卸売物価は、非鉄金属(銅地金)等が上昇したものの、電気機器(電子計算機本体)等が下落したことから、前月比〇・一%の下落(前年同月比〇・一%の上昇)となった。また、前記「企業短期経済観測調査」(九月調査)によると製商品需給バランスは、引き続き改善がみられる。輸出物価は、契約通貨ベースで下落したことに加え、円高から円ベースでは前月比一・五%の下落(前年同月比二・二%の下落)となった。輸入物価は、契約通貨ベースで上昇したものの、円高から円ベースでは前月比一・一%の下落(前年同月比五・三%の上昇)となった。この結果、総合卸売物価は、前月比〇・四%の下落(前年同月比〇・三%の上昇)となった。
 企業向けサービス価格は、八月は前年同月比〇・五%の下落(前月比〇・三%の下落)となった。
 商品市況(月末対比)は繊維等は下落したものの、化学等の上昇により九月は上昇した。九月の動きを品目別にみると、綿糸等は下落したものの、塩化ビニール樹脂等が上昇した。
 消費者物価は、安定している。
 全国の生鮮食品を除く総合は、前年同月比で七月〇・三%の下落の後、八月は家賃の上昇幅が縮小した一方、外食の下落幅が縮小したこと等により〇・三%の下落(前月比〇・一%の下落、季節調整済前月比〇・一%の上昇)となった。なお、総合は、前年同月比で七月〇・五%の下落の後、八月は〇・八%の下落(前月比保合い、季節調整済前月比〇・一%の下落)となった。
 東京都区部の動きでみると、生鮮食品を除く総合は、前年同月比で八月〇・八%の下落の後、九月(中旬速報値)は、公共料金(広義)の上昇幅が縮小したこと等により一・〇%の下落(前月比〇・三%の上昇、季節調整済前月比〇・二%の下落)となった。なお、総合は、前年同月比で八月一・三%の下落の後、九月(中旬速報値)は一・四%の下落(前月比〇・三%の上昇、季節調整済前月比〇・二%の下落)となった。

5 金融財政
―長期金利は、九月は上旬に上昇した後低下し、以後おおむね横ばいで推移して、月末から十月上旬にかけてやや低下―

 最近の金融情勢をみると、短期金利は、九月はおおむね横ばいで推移した後、月末から十月上旬にかけて上昇した。長期金利は、九月は上旬に上昇した後低下し、以後おおむね横ばいで推移して、月末から十月上旬にかけてやや低下した。株式相場は、九月は下旬にかけて下落した後、月末から十月上旬にかけてやや上昇した。M+CDは、九月は前年同月比一・九%増となった。
 短期金融市場をみると、オーバーナイトレートは、九月から十月上旬にかけておおむね横ばいで推移した。三か月物は、九月はおおむね横ばいで推移した後、月末から十月上旬にかけて上昇した。
 公社債市場をみると、国債利回りは、九月は上旬に上昇した後低下し、以後おおむね横ばいで推移して、月末から十月上旬にかけてやや低下した。
 国内銀行の貸出約定平均金利(新規実行分)は、八月は前月比で短期は〇・〇八二%ポイント上昇し、長期は〇・一一一%ポイント低下したことから、総合では〇・〇三一%ポイント上昇し一・七八八%となった。
 マネーサプライをみると、M+CD(月中平均残高)は、九月(速報)は前年同月比一・九%増となった。また、広義流動性は、九月(速報)は同三・一%増となった。
 企業金融の動向をみると、金融機関(全国銀行)の貸出(月中平均残高)は、九月(速報)は前年同月比四・〇%減(貸出債権流動化・償却要因等調整後一・八%減)となった。九月のエクイティ市場での発行(国内市場発行分)は、転換社債が八十億円となった。また、国内公募事業債の起債実績は七千四百十五億円(うち銀行起債分一千九百億円)となった。
 前記「企業短期経済観測調査」(九月調査)によると、資金繰り判断は、おおむね横ばいとなっているものの、金融機関の貸出態度は、引き続き改善傾向にあり、「緩い」超が続いている。
 以上のように、企業金融のひっ迫感は緩和傾向にあるが、民間金融機関の貸出は依然低調である。
 株式市場をみると、東証株価指数(TOPIX)は、九月は下旬にかけて下落した後、月末から十月上旬にかけてやや上昇した。日経平均株価もほぼ同様の動きとなった。

6 海外経済
―ユーロ圏、利上げ―

 主要国の経済動向をみると、アメリカでは、年初に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている。実質GDPは、二〇〇〇年一〜三月期前期比年率四・八%増の後、二〇〇〇年四〜六月期は同五・六%増となった。個人消費は増加している。設備投資は大幅に増加している。住宅投資は伸びが鈍化している。鉱工業生産(総合)は増加している。雇用は拡大している。雇用者数(非農業事業所)は八月前月差九・一万人減の後、九月は同二十五・二万人増と拡大している。失業率は九月三・九%となった。物価は総じて安定している。八月の消費者物価は前年同月比三・四%の上昇、八月の生産者物価(完成財総合)は同三・三%の上昇となった。財の貿易収支赤字(国際収支ベース)は、依然高水準である。連邦準備制度は、十月三日に、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準と公定歩合の据置を決定した(それぞれ六・五〇%、六・〇〇%)。なお、今後の物価及び景気動向に対するリスクの見通しはインフレ方向とした。九月の長期金利(十年物国債)は、ほぼ横ばいで推移した。株価(ダウ平均)は、大きく下落した。
 西ヨーロッパをみると、ドイツ、フランス、イギリスでは、景気は拡大している。四〜六月期の実質GDPは、ドイツ前期比年率四・七%増、フランス同二・九%増、イギリス同三・八%増となった。鉱工業生産は、ドイツでは増加している。フランスではこのところ横ばいで推移している。イギリスでは増加している(鉱工業生産は、ドイツ八月前月比一・一%増、フランス六月同〇・六%減、イギリス八月同〇・六%増)。失業率は、ドイツ、フランスでは高水準ながらも低下している。イギリスでは低水準で推移している(失業率は、ドイツ九月九・四%、フランス八月九・六%、イギリス八月三・六%)。物価は、ドイツでは、エネルギー価格の上昇から消費者物価上昇率がやや高まっている。フランスでは総じて安定している。イギリスでは安定している(消費者物価上昇率は、ドイツ九月前年同月比二・五%、フランス八月同一・八%、イギリス九月同二・二%)。欧州中央銀行(ECB)は、十月五日、物価の上昇圧力を抑制するため、政策金利(短期オペの最低応札金利)を〇・二五%ポイント引き上げ、四・七五%とした。
 東アジアをみると、中国では、景気の拡大テンポはやや高まっている。物価は安定している。貿易は、輸出入ともに大幅な増加が続いている。韓国では、危機後の急回復に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている。貿易は、輸出入ともに大幅な増加が続いている。
 国際金融市場の九月の動きをみると、米ドル(実効相場)は、増価基調で推移した。モルガン銀行発表の米ドル名目実効相場指数(一九九〇年=一〇〇)をみると、九月二十九日現在一一四・七、八月末比一・一%の増価となっている。内訳をみると、九月二十九日現在、対円では八月末比一・三%増価、対ユーロでは同〇・三%増価した。
 国際商品市況の九月の動きをみると、CRB商品先物指数は、上旬は強含んだものの、その後は下落基調で推移した。原油スポット価格(北海ブレント)は、上旬に三十七ドル台まで上昇したが、その後は下落し、下旬には三十ドルを下回って推移した。


十一月の気象


 十一月は日本付近を低気圧・高気圧が交互に通過して天気が周期的に変わっていく時期から、冬型の気圧配置となることの多い時期へと移り変わっていく月です。冬型の気圧配置となったときは冷たい北西の季節風が吹き、初雪などの冬の便りをもたらします。しかし、冬型の気圧配置は真冬と違って長続きせず、すぐに大陸の高気圧が移動性となって日本付近にやってきます。
 移動性高気圧に覆われると、日中は暖かく穏やかな小春日和となりますが、夜間は逆に冷え込んで、霜が降りることもあります。
◇木枯らし
 晩秋から初冬に吹く北寄りの冷たく強い風は、木々の葉を散らし、木を吹き枯れさせてしまうということから「木枯らし」と呼ばれています。
 気象学的には、晩秋から初冬にかけて冬型の気圧配置になったときに吹く強い北西の季節風が「木枯らし」に当たります。その冬の最初に吹く木枯らしは「木枯らし1号」と呼ばれており、季節の移り変わりの目安となっています。
 東京では、「木枯らし1号」は立冬のころ(十一月七日ごろ)に吹くことが多いので、「木枯らし1号」により暦どおりの冬の始まりを実感するのではないでしょうか。
(気象庁)



    <11月22日号主な予定>

 ▽公害紛争処理白書のあらまし………公害等調整委員会事務局 

 ▽景気予測調査(八月調査)…………大 蔵 省 




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