官報資料版 平成12年11月22日




                  ▽公害紛争処理白書のあらまし………公害等調整委員会事務局

                  ▽景気予測調査(八月調査)…………大 蔵 省











公害紛争処理白書のあらまし


―公害紛争等の現状と処理―


公害等調整委員会事務局


<はじめに>
 平成十二年版「公害紛争処理白書」は、公害等調整委員会が、平成十二年八月一日、内閣総理大臣を経由して国会に対し「平成十一年度公害等調整委員会年次報告」として報告したものである。同白書は、公害等調整委員会の平成十一年度(平成十一年四月一日から平成十二年三月三十一日まで)の所掌事務(公害紛争の処理に関する事務及び鉱業等に係る土地利用の調整に関する事務)の処理状況をまとめたもので、昭和四十七年に公害等調整委員会が発足して以来、二十八回目のものである。
 平成十二年版「公害紛争処理白書」のあらましは、次のとおりである。

公害紛争処理法に基づく事務の処理概要

公害紛争処理制度の三十年
 昭和四十五年に発足した公害紛争処理制度は、平成十二年に制度発足三十年を迎える。この間、公害等調整委員会(以下「委員会」という。)、都道府県公害審査会等は、共に多くの紛争を処理しており、様々な形で制度の定着が図られてきた。
 制度発足当初、委員会には水俣病、大阪国際空港騒音被害等の大規模な公害事件や水産被害に関する事件が多く係属した。
 昭和六十年代以降には、スパイクタイヤ粉じん被害、ゴルフ場農薬被害、廃棄物関連の事件など環境改善を求める様々な事件が係属した。
 また、都道府県公害審査会等も、産業公害、近隣公害など様々な公害紛争を解決した。

公害等調整委員会における公害紛争の処理状況
 委員会は、公害紛争処理法(昭和四十五年法律第百八号)の定めるところにより、公害に係る紛争について、あっせん、調停、仲裁及び裁定を行っている。
 平成十一年度に委員会に係属した公害紛争事件は、新たに申請のあった四件(調停事件一件、裁定事件三件)に、前年度から繰り越された九件(調停事件六件、裁定事件三件)を加えた計十三件である。
 このうち、平成十一年度中に終結した事件は、北陸新幹線騒音防止等調停申請事件等四件であり、残り九件が十二年度に繰り越された。
 なお、公害紛争処理法施行(昭和四十五年十一月一日)以降、委員会(四十七年六月三十日以前は中央公害審査委員会)に係属した事件(あっせん、調停、仲裁、裁定及び義務履行勧告申出)は、七百三十九件であり、そのうち終結したものは七百三十件である(第1表参照)。

◇調停事件

 平成十一年度に委員会に係属した調停事件は、新たに申請のあった一件に、前年度から繰り越された六件を加えた計七件である。このうち、北陸新幹線騒音防止等調停申請事件一件については調停を打ち切り、終結した。平成十一年度に係属した事件の概要は次のとおりである。

一 水俣病損害賠償調停申請事件
(事件の概要)
 熊本県から鹿児島県にまたがる不知火海の沿岸の漁民等が、チッソ株式会社水俣工場からの排水に起因した水俣病にかかり、これによって精神上、健康上の被害及び財産上の損害を被ったとして、チッソ株式会社を相手方(被申請人)として、賠償金の支払等を内容とする調停を求めたものである。
 現在の調停手続では、水俣病患者の症状等に応じ、患者グループとチッソ株式会社との間の補償協定に定められたA、B、Cの三ランクのいずれに該当するかの判定を、公害等調整委員会に求めることとした患者について、ランク付けを行い、各ランクに応じて個々人の補償額等の決定、家族の補償等を中心とした調停を行っている。
(事件処理の経過)
 昭和四十八年度の第一次調停以来、平成十一年度末までに四十九次にわたる調停を実施し、合計一千四百五十八人の患者について調停が成立した。
 また、調停の成立した患者のうち、Bランク及びCランクの生存者の場合には、調停条項の中に、「将来申請人の症状に慰藉料等の金額の増額を相当とするような変化が生じたときは、申請人は、これを理由として、調停委員会に対し、当該金額の変更を申請することができるものとすること。」という条項があり、平成十一年度末までに五百八件受け付け、五百三件処理した(第2表参照)。

二 豊島(てしま)産業廃棄物水質汚濁被害等調停申請事件(三件)
(事件の概要)
 平成五年十一月十一日、香川県小豆郡土庄町豊島の住民四百三十八人から、香川県、香川県職員二名、廃棄物処理業者及びその実質的な経営者ら並びに廃棄物排出業者ら計二十七名を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、香川県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人らが、違法な産業廃棄物の処理等を行ったため、有害物質を含有する膨大な量の産業廃棄物が放置され、その結果、申請人らに有害物質による水質汚濁のおそれ等による生活上、健康上及び精神上の被害等が生じている。これらを理由として、被申請人らに対し、@共同して香川県小豆郡豊島家浦字水ヶ浦三一五一番地の一外四十九筆の土地(面積約二十八・五ヘクタール)に存在する一切の産業廃棄物を撤去すること、A連帯して、申請人各自に対し金五十万円を支払うことを求めるというものである。
 その後、平成五年十一月十五日、同一原因による被害を主張する豊島の住民百十一人から参加の申立てがあり、調停委員会は、六年一月二十四日、これを許可した。
 また、平成八年十月二十三日、平成五年の申請人五人から国(代表者厚生大臣)を相手方(被申請人)として、香川県小豆郡豊島家浦字水ヶ浦三一五一番地の一外四十九筆の土地に存在する一切の産業廃棄物を撤去することを求める調停申請が、公害等調整委員会に対してあった。
(事件処理の経過)
 本事件は、産業廃棄物の処理を委託した被申請人会社等の事業所の所在地が福井県、大阪府、兵庫県、鳥取県、岡山県、愛媛県及び香川県に及ぶことから、いわゆる県際事件であり、香川県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、上記関係府県の知事と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成五年十二月二十日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を公害等調整委員会に送付した。
 公害等調整委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、現地調停を含む三十七回の調停期日を開催した。
 その過程で、産業廃棄物の実態についての認識の食い違いのため、当事者の主張に大きな隔たりがあることが判明したことから、調停委員会は、第四回調停期日(平成六年七月二十九日)において、三名の専門委員による産業廃棄物不法投棄地の実態調査を行い、その結果に基づき調停を進めることとした。実態調査は平成六年十二月十三日から七年三月末まで行われ、その結果を踏まえて、専門委員による科学的・技術的知見に基づいた産業廃棄物の撤去及び環境保全に必要な措置並びにこれらに必要な費用の検討が行われた。
 その後、上記調査検討結果を当事者に示した上で、各々の主張を聴取するなどした結果、第十四回調停期日(平成九年一月三十一日)において、香川県が、自らが主体となって処分地に存する廃棄物及び汚染土壌について、無害化するための中間処理を施す方向で検討する旨の意向を示し、申請人もこれを受け入れたので、細部について合意を図るべく手続を進めた結果、平成九年七月十八日、申請人と被申請人香川県との間で中間合意が成立した。
 この中間合意に基づき香川県が設置した技術検討委員会が十五回、第二次技術検討委員会が五回開催され、廃棄物の溶融処理、再資源化処理方式等の実験、処理実施期間中の環境保全対策などが検討され、平成十一年五月、本件処分地に存する産業廃棄物の処理方法、暫定的な環境保全措置の方法等についての検討結果を盛り込んだ最終報告書がまとめられた。その後、香川県から中間処理施設を直島町内に建設する提案があり、五回にわたって開催された第三次技術検討委員会において、同施設の安全性及び廃棄物の輸送方法等について検討された。平成十二年三月には直島町から同提案の受入れが表明され、調停委員会は、申請人と被申請人香川県との協議を進めた結果、同年五月二十六日、調停案を申請人と被申請人香川県に提示し、香川県議会の議決を経て、同年六月六日、豊島で開催した第三十七回調停期日において、調停が成立した。なお、これに先立ち、申請人は、同年五月二十九日、被申請人香川県職員二名を相手方とする申請を取り下げた。
 ところで、調停委員会は、第十五回調停期日(平成九年二月二十六日)において、被申請人となった排出事業者に対し、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に定める委託基準に違反した廃棄物の処理委託を行った排出事業者は、同法上の責任を免れない旨を指摘するとともに、対策に要する費用等について応分の負担をするよう求め、個別協議を重ねた。その結果、平成十二年一月までに一部を除く排出事業者が負担に応ずることに同意し、それら排出事業者と申請人との間で調停が成立した。
 調停委員会は、残る排出事業者二名並びに廃棄物処理業者及びその実質的な経営者らについては、同年六月六日、当事者間に合意が成立する見込みはないものとして、公害紛争処理法第三十六条第一項の規定に基づき調停を打ち切り、一方、申請人は、同日、国を相手方とする申請を取り下げ、本事件は全面的に終結した。

三 中海(なかうみ)本庄工区干陸事業水質汚濁被害等調停申請事件(二件)
(事件の概要)
 平成七年八月九日、島根県及び鳥取県の住民三十五人から、国(代表者農林水産大臣)を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、島根県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 国が計画している中海本庄工区干陸事業が実施された場合、遊水域、浅瀬及び海水の流入・流出の消滅などにより、災害、水質汚濁及び生態系の破壊を招くおそれがある。これらを理由として、被申請人国に対し、@全面干陸を行わないこと、A水質汚濁及び生態系の回復を目指し、森山堤防及び大海崎堤防の一部を早期に開削するなど、必要な措置を講じることを求めるというものである。
 その後、平成八年一月十九日、同一原因による被害を主張する島根県の住民一人から参加の申立てがあり、調停委員会は、同日、これを許可した。
(事件処理の経過)
 本事件は、いわゆる県際事件であり、島根県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係県知事(鳥取県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成七年九月五日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を公害等調整委員会に送付した。
 公害等調整委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、五回の調停期日を開催するなど鋭意手続を進めたが、平成八年八月に当時の与党三党(自由民主党、社会民主党、新党さきがけ)の合意により、事業計画について、技術的・経済的な検証を行うとともに、宍道湖・中海全域及びその周辺水域の環境や資源への影響を把握するものとし、別途宍道湖・中海全域における水産振興について国と島根県が協力して行う調査・検討結果と合わせ、総合的な評価を行うこととなった。このため、調停委員会は、この検討経緯を見守ることとし、その間は、必要に応じて両当事者との連絡をとることにとどめることとした。
 その後、平成十一年二月二十四日、中国四国農政局が実施した二年間の調査・検討結果に基づき中海干拓事業本庄工区に係る農業利用計画案及び水産利用計画案について検討を行い、中国四国農政局長に意見を述べることを目的として本庄工区検討委員会が設置され、平成十一年三月十五日から平成十二年三月二十五日までの間に、十一回の検討委員会が開催されている。
 なお、このような状況の中で、調停委員会は、平成十一年十一月十一日に第六回調停期日を開催し、検討委員会における検討状況及び両当事者の意見を聴取した。

四 四日市市産業廃棄物処分場水質汚濁防止等調停申請事件
(事件の概要)
 平成十年七月二十二日、三重県四日市市の住民八人から、産業廃棄物処理業者及び産業廃棄物排出事業者計二十一社を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、三重県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人産業廃棄物処理業者は、産業廃棄物最終処分場(安定型)を造成するに当たり、その地盤を申請人らが農業用水利権を有する溜め池の底より深く掘り下げたため同溜め池からの漏水が生じ、また、当該産業廃棄物処分場に安定五品目以外の腐敗性又は有害性のある産業廃棄物を埋めたため、汚染された水が申請人らの利用する農業用水路に排出され、農業用水の濁り、悪臭等を生じており、申請人らの農業に重大な支障が生じるおそれがある。
 これらを理由として、被申請人産業廃棄物処理業者に対し、@溜め池の漏水防止工事を行うこと、A農業用水路への汚濁水排出防止工事を行うこと、B処分場内に産業廃棄物運搬車両が来場したときは積み荷の展開検査を行うこと等を、また、被申請人産業廃棄物排出事業者に対し、被申請人産業廃棄物処理業者に処理を委託した産業廃棄物の種類、性質、数量、有害物質含有の有無等について公開すること等を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 本事件は、産業廃棄物の処理を委託した被申請人産業廃棄物排出事業者の事業所の所在地が、愛知県、岐阜県、滋賀県及び三重県に及ぶことから、いわゆる県際事件であり、三重県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、上記関係県知事と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成十年十二月四日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を公害等調整委員会に送付した。
 公害等調整委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、三回の調停期日を開催するなど、鋭意手続を進めている。

五 北陸新幹線騒音防止等調停申請事件
(事件の概要)
 平成十一年五月十三日、長野県上田市の住民十九人から、日本鉄道建設公団を被申請人として、調停を求める申請があった。本事件は、いわゆる広域処理事件(公害紛争処理法第二十四条第一項第二号、同法施行令第二条第二号)として、公害等調整委員会が管轄する事件である。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人は申請人らに対し、北陸新幹線の建設に際して実施された事前説明会において、申請人らの居住地は工業地域であるが、新幹線鉄道騒音に係る環境基準のT類型(七十デシベル以下)の地域となる旨説明し、申請人らと被申請人の間に、その旨の約束が成立した。また、被申請人は、上記説明会において、農地については日陰補償がされるように説明した。しかし、実際には、申請人らの居住地は、上記環境基準のU類型(七十五デシベル以下)の地域とされ、申請人らは、北陸新幹線が開業して以来、七十デシベルを超える騒音による被害を受けている。また、被申請人は、農地を有する申請人に対し、日陰補償を行っていない。これらを理由として、被申請人日本鉄道建設公団に対し、@申請人らに対し、北陸新幹線について、上記環境基準の定める七十デシベルを満たす新幹線の最高速度を示すとともに、東日本旅客鉄道株式会社にその最高速度を守らせ、かつ、申請人らの住宅のうち、振動被害について被申請人の定める基準である七十デシベルを超えるものについては、当該住宅の改良工事を行うこと、A申請人十八名に対し、同申請人らが行う騒音測定の費用を支払い、かつ、北陸新幹線の開業日から一人につき一日五百円の割合による金員を支払うこと、B申請人一名に対し、北陸新幹線の高架橋により、同申請人の耕作する農地(畑地)が日陰になったことによる被害について、補償金を支払うことを求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本事件の調停申請を受け付けた後、直ちに調停委員会を設け、平成十一年七月二十三日には、第一回調停期日を開催して、当事者双方から事情や意見を聴取し、その後も期日外での調整を続けたが、当事者の主張や考え方の隔たりが大きいため、当事者間に合意が成立する見込みはないものとして、平成十一年十月八日、公害紛争処理法第三十六条第一項の規定により、調停を打ち切った。

◇裁定事件

 平成十一年度に委員会に係属した裁定事件は、新たに申請のあった三件に、前年度から繰り越された三件を加えた計六件である。
 その概要は次のとおりである。

一 飯塚市し尿処理場等悪臭被害原因裁定申請事件
(事件の概要)
 平成八年四月二十四日、福岡県飯塚市の住民四人から、飯塚市を相手方(被申請人)として、原因裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人が設置管理するし尿処理場及びそれに隣接する下水道終末処理場から発生する悪臭により、申請人らは、終日窓を閉めた生活を余儀なくされる、外に出ると「つん」と鼻をつき目を刺激して涙が出る、子供たちを外で遊ばせることができない等の生活上の被害を被っているが、被申請人は悪臭の発生を否定している。これらを理由として、被申請人によるし尿処理場及びそれに隣接する下水道終末処理場の設置管理と、これらの被害との間に因果関係があるとの原因裁定を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本事件の原因裁定申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、八回の審問期日を開催し、平成九年八月には、職権による臭気測定を行うなど手続を進めたが、当事者間に話合いによる解決の気運が高まってきたことから、第八回審問期日である平成十一年一月二十九日、公害紛争処理法第四十二条の三十三で準用する同法第四十二条の二十四第一項の規定により、本件を調停に付し、飯塚市し尿処理場等悪臭被害職権調停事件として、自ら処理することとした。
 同日、第一回調停期日を開催し、後述二の飯塚市廃棄物悪臭被害職権調停事件を併合した。その後、平成十一年七月十三日の第二回調停期日において当事者間に調停が成立し、原因裁定申請については取り下げられたものとみなされ、本事件は終結した。

二 飯塚市廃棄物悪臭被害責任裁定申請事件
(事件の概要)
 平成八年四月二十四日、福岡県飯塚市の住民五人から、飯塚市を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人が、昭和四十五年ごろから平成四年までの間に、同市内の土地に投棄したし尿汚泥等による悪臭の発生により、申請人らは、日夜悪臭に悩まされ、終日窓を閉めた生活を余儀なくされる等の被害を被った。これらを理由として、被申請人に対し、申請人一人につき金三百六十万円の損害賠償を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本事件の責任裁定申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、八回の審問期日を開催するなどして裁定手続を進めたが、当事者間に話合いによる解決の気運が高まってきたことから、第八回審問期日である平成十一年一月二十九日、公害紛争処理法第四十二条の二十四第一項の規定により本件を調停に付し、飯塚市廃棄物悪臭被害職権調停事件として、自ら処理することとした。
 同日、第一回調停期日を開催し、本件調停事件を前述一の飯塚市し尿処理場等悪臭被害職権調停事件に併合した。その後、平成十一年七月十三日の第二回調停期日において当事者間に調停が成立し、責任裁定申請については取り下げられたものとみなされ、本事件は終結した。

三 杉並区における不燃ゴミ中継施設健康被害原因裁定申請事件
(事件の概要)
 平成九年五月二十一日、東京都杉並区の住民ら十八人から、東京都を相手方(被申請人)として、原因裁定を求める申請があった。
 申請の内容は、平成八年四月、杉並区に被申請人が不燃ゴミ中継施設を設置して以来、申請人らは、それまでに経験したことのない喉の痛み、頭痛、めまい、吐き気、動悸等のさまざまな健康被害を受けており、これらの被害は、同中継施設から排出される有害物質によるとの原因裁定を求めているものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本事件の原因裁定申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、九回の審問期日を開催し、申請人及び被申請人による陳述並びに参考人尋問を行うなど、鋭意手続を進めている。
 また、申請人らが訴える健康被害と杉並不燃ゴミ中継施設の排気及び周辺の大気成分との因果関係を判断するのに必要な専門的事項を調査させるため、平成十一年一月二十六日に三名の専門委員を選任し、以後、九回(平成十二年三月末時点)の専門委員による検討会を開催している。

四 小豆島採石場粉じん被害等責任裁定申請事件
(事件の概要)
 平成十一年五月六日、香川県の住民二人から、採石会社及び香川県を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人採石会社が経営する採石場から発生する粉じんによって、採石場南側の県道沿いの桜が枯死するなどして桜並木を愛でることを妨げられ、また、採石場北側に隣接する畑において、申請人が栽培するミカンや樹木に粉じんが付着して、ミカンが腐ってしまう、農薬散布ができない、粉じんを除去するための労力を要する、樹勢が衰えて黒点病が発生し、出荷時にすべてのミカンをから拭きするために労力と時間が余分にかかり、腐敗ミカンが増えるなどの被害が生じている。これらの被害について、被申請人採石会社は粉じんを発生、飛散させた責任があり、また、被申請人香川県は、採石会社の採石事業に対して改善の措置をとらないまま認可を与え続けた責任があるとして、被申請人に対し、慰藉料百万円の支払いを求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本件裁定申請に対して、公害に係る被害の態様及び規模、紛争の実情その他一切の事情を考慮すると、責任裁定を行うのは相当でないと認め、公害紛争処理法第四十二条の十二第二項の規定により、平成十一年六月二十一日、本件申請を受理しないことを決定し、本件は終結した。

五 尾鷲(おわせ)市における養殖真珠被害責任裁定申請事件
(事件の概要)
 平成十一年八月三十日、三重県の真珠養殖業者から、トンネル掘削を施工した会社三社及び同工事の発注者三重県を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人会社三社は、平成七年三月頃から、トンネル掘削によって生じた残土を海岸に投棄したが、埋立工事の方法を誤ったために、投棄した土砂が申請人の有する漁場に大量に流出した。その結果、申請人が同所において行っていた養殖真珠がほとんど全滅する被害が生じた。さらに、被申請人三重県は、上記工事の際に設置した盛土の設置・管理に瑕疵があり、また、上記工事につき適切な注文又は指図を行わなかった。これらを理由として、被申請人らに対し、損害賠償として三億円及びこれに対する平成七年五月一日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 本件については、同一の被害をめぐる損害賠償請求訴訟が係属していることから、いずれの手続を進行させるかについて、当事者との間で協議・調整を進めていたが、平成十二年三月三十一日に第一回審問期日を開催するなど、鋭意手続きを進めている。

六 佐伯(さいき)市における養殖真珠被害責任裁定申請事件
(事件の概要)
 平成十一年十二月二十七日、大分県の真珠養殖業者から、国(代表者運輸大臣)を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。
 被申請人の事業として、平成八年九月頃から行われた佐伯湾のヘドロ除去作業に伴い発生した海水汚濁により、申請人の養殖場の真珠貝約七万七千個がへい死し、甚大な損害を被った。申請人が委嘱した調査結果において、貝に付着した物質と佐伯湾のへドロとの間に強い類似性があり、付着原因を断定することは困難であるが、佐伯湾のへドロが一因であることも否定できない旨評価されている。これらを理由として、被申請人に対し、損害賠償として金約八千二百万円の支払いを求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本事件の責任裁定申請を受け付けた後、鋭意手続を進めている。

都道府県公害審査会等における公害紛争の処理状況
 都道府県に設置されている都道府県公害審査会(公害審査会を置かない都道府県にあっては都道府県知事。以下「審査会等」という。なお、平成十二年三月末現在で、公害審査会を置いているのは三十八都道府県、公害審査委員候補者を委嘱しているのは九県である。)において、公害に係る紛争について、あっせん、調停及び仲裁並びに義務履行勧告を行っている。
 公害紛争処理法施行以来、平成十二年三月末までに審査会等に係属した公害紛争事件は、八百九十三件であり、そのうち終結したものは八百四十件である。平成十一年度には二十六件の事件を新たに受け付け、これに前年度からの繰越しとを合わせた八十九件の事件が係属した。このうち三十六件が同年度中に終結し、五十三件が十二年度に繰り越された(第3表参照)。
 近年の事件の特徴としては、次の点が挙げられる。
 @ 加害行為とされる事業活動の種類は、廃棄物・下水等処理関係、交通・運輸関係、製造・加工業関係、建築・土木関係等となっており、発生源が多様化する傾向にある。また、最近は廃棄物・下水等処理関係が多くなっている。
 A 環境基本法第二条第三項に定める公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭の七種類の公害をいう。以下「典型七公害」という。)のみでなく、日照阻害、通風阻害、眺望阻害、土砂崩壊、交通環境悪化等、生活環境を悪化させる要因を併せて主張するものが増加しており、それらを含めた紛争の一体的、総合的な解決を求める事件が目立っている。
 B 国、地方公共団体、公団等が発生源側の当事者に含まれる事件が増加している。

◇申請の状況

 平成十一年度中に受け付けたあっせん及び調停事件二十五件について、典型七公害の種類別にみると、騒音に関するものが十五件、大気汚染に関するものが十三件、水質汚濁に関するものが十件、悪臭に関するものが九件、振動に関するものが六件、土壌汚染に関するものが五件となっている(重複集計)。
 また、加害行為とされる事業活動の種類をみると、廃棄物・下水等処理関係が七件、製造・加工関係が五件、交通・運輸関係(道路建設に係るものを含む。)が四件、畜産関係が一件、その他が八件となっている。

◇処理の状況

 平成十一年度中に終結した三十六件は、すべて調停事件であったが、その終結区分をみると、調停が成立したものが十件、調停を打ち切ったものが二十四件、調停申請を取り下げたものが二件である。
 また、申請受付から終結までの期間をみると、三か月以内に終結したものが三件、三か月を超え六か月以内に終結したものが一件、六か月を超え一年以内に終結したものが十件、一年を超え一年六か月以内に終結したものが五件、一年六か月を超え二年以内に終結したものが七件、二年を超えているものが十件となっており、約七割が二年以内に終結している。なお、制度発足以来の全事件の平均処理期間は、十五・六か月である。
 平成十一年度中に調停が成立した事件のうち、幾つかの概要を以下に示す。

一 滋賀県平成九年(調)第一号・平成十年(調)第一号事件
(申請の概要)
 高速道路及びインターチェンジ建設予定地の付近にある養護学校及び障害児施設の保護者、職員四百三十九人から、平成九年十月、滋賀県公害審査会に対して、日本道路公団を相手方(被申請人)として、
 @ 高速道路及びインターチェンジの建設に当たり、申請人らの参加の下に、生徒の健康や学習・生活等に与える影響も考慮に入れた適正な環境影響評価を実施すること。
 A @の環境影響評価に基づき、ルート変更、インターチェンジの位置変更等を含む完全な被害防止措置を講ずること。
 B @の環境影響評価の結果とその内容の詳細を申請人らに提供するとともに、Aの被害防止措置についても申請人らに十分説明して、その了解を得ること。
 C Bの手続を完了して、申請人の了解を得るまで建設工事に着手しないこと。
を求める調停申請がなされた。
 その後、事件の併合があり、申請人は計五百八十人となった。
(申請の理由)
 被申請人が道路の供用を開始すると、大気汚染、騒音、振動が発生し、重大な健康被害を引き起こすおそれがある。
(調停の内容)
 調停委員会は、申請受付以来、現地調査及び二十四回の調停期日の開催等、調停の成立に向け手続を進めた結果、平成十二年三月、次の内容の合意が成立した。
 @ 被申請人は、本件連絡路・インターチェンジの設計・建設及び環境保全に関し、当初計画を変更するなどして、諸事項(連絡路・インターチェンジのルートや料金所の設置場所、システム等について)を遵守すること。
 A 被申請人は、大気及び騒音に関する環境調査を実施すること。
 B 被申請人は、県が本件学校の施設整備等を実施する場合において、本件連絡路・インターチェンジによる影響を低減させる施策につき、県から協力要請があったときは、県との協議に応ずること。
 C 申請人ら及び被申請人は、本調停で合意した諸条項の円滑かつ効果的な実施に資することを目的とした連絡会を設置し、意見交換を行うこと。 等

二 沖縄県平成十年(調)第一号事件
(申請の概要)
 沖縄県の住民三百八十九人から、平成十年九月、沖縄県公害審査会に対して、ごみ焼却施設を管理運営している組合を相手方(被申請人)として、ごみ焼却施設におけるごみ焼却を直ちに中止することを求める調停申請がなされた。
(申請の理由)
 被申請人が管理運営するごみ焼却施設は、耐用年数を経過し、排出されるばい煙やばいじんにより、五〜六年前から申請人らの住居、農園、畜舎等が黒いススで汚染され、マスクをしないと仕事に従事できない状態が継続している。ばい煙、ばいじん及び焼却灰には、有害な重金属類やダイオキシンが含まれているため、被申請人が操業を継続すると、申請人らは回復不能な身体的及び精神的被害を受けるおそれがある。
(調停の内容)
 調停委員会は、申請受付以来、現地調査及び十一回の調停期日の開催等、調停成立に向け手続を進めた結果、平成十一年八月、次の内容の合意が成立した。
 被申請人は、
 @ ごみ焼却施設の焼却設備等の改修工事を実施し、おおむね平成十二年三月までに完了すること。
 A 改修工事完了後は、工場からの排煙のダスト濃度を二十mg/Nm以下に抑制すること。
 B 工場に公害防止監視装置を設置し、申請人らの請求があった場合は、その測定結果を申請人らに開示すること。
 C 改修期間中は、ごみ搬入・焼却の量を一日当たり十トン以下に抑えること。 等

地方公共団体における公害苦情の処理状況
 地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理については、公害苦情の適切妥当な処理が、公害紛争全体の解決のために重要であることから、公害紛争処理法は、地方公共団体が関係行政機関と協力して、公害に関する苦情の適切な処理に努めるべきこと、都道府県及び市区町村に公害苦情相談員を置くことができること、委員会は地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理について指導等を行うことを規定している。公害苦情相談員は、公害に関する苦情について、住民の相談に応じ、その処理のために必要な調査を行うとともに、関係行政機関と連絡を取り合って、当事者に対し改善措置の指導、助言を行うなど、苦情の受付から解決に至るまでの一貫した処理に当たっている。
 平成十年度の全国の地方公共団体における公害に関する苦情の動向及びその処理状況は、次のとおりである。

◇公害苦情件数の推移

 平成十年度に、全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口で受け付けた(他の機関等から移送されたものを含む)公害苦情件数は八万二千百三十八件で、前年度に比べて一万一千百六十三件増加した(第4表参照)。
 公害苦情件数を、典型七公害に係るものと、典型七公害以外に係るものとに分けてみると、平成十年度の典型七公害の苦情は六万四千九百二十八件、典型七公害以外の苦情は一万七千二百十件となっている。
 なお、典型七公害の苦情件数の推移をみると、昭和四十七年度の七万九千七百二十七件をピークに、四十九年度から五十三年度までが六万件台、五十四年度から六十三年度までが五万件台、平成元年度以降が四万件台と、減少傾向で推移していた。しかし、平成八年度から三年連続して増加し、九年度は五万件台となり、さらに十年度は昭和五十三年以来の六万件台となった(第5表参照)。

◇公害苦情の種類

 典型七公害の苦情件数を種類別にみると、平成十年度では大気汚染が三万四百九十九件(典型七公害の苦情件数の四七・〇%)と最も多く、次いで、悪臭が一万三千百八十一件(同二〇・三%)、騒音が一万二千四百三十七件(同一九・二%)、水質汚濁が七千十九件(同一〇・八%)、振動が一千四百四十八件(同二・二%)、土壌汚染が三百十二件(同〇・五%)、地盤沈下が三十二件(同〇・〇%)となっており、前年度に比べて、大気汚染、悪臭、土壌汚染、水質汚濁及び地盤沈下の苦情件数が増加し、騒音及び振動の苦情件数が減少した(第6表参照)。
 次に典型七公害以外の苦情件数を種類別にみると、平成十年度では、廃棄物の不法投棄が五千四十九件(典型七公害以外の苦情件数の二九・三%)と最も多く、次いで、害虫等の発生が二千百五十四件(同一二・五%)、動物の死骸放置が一千六百六十件(同九・六%)、火災の危険が五百六十五件(同三・三%)、ふん・尿の害が四百九十五件(同二・九%)、電波障害が二百九十二件(同一・七%)、土砂の散乱が百三十六件(同〇・八%)、土砂の流出が百七件(同〇・六%)などとなっている(第7表参照)。

◇典型七公害に係る発生源別苦情件数

 典型七公害の苦情件数を発生源別にみると、平成十年度では、建設業が一万三千五百七十五件(典型七公害の苦情件数の二〇・九%)と最も多く、次いで製造業が一万三千五百五十六件(同二〇・九%)、サービス業が八千四百十九件(同一三・〇%)、家庭生活が六千百件(同九・四%)、卸売・小売業、飲食店が五千五百九十七件(同八・六%)、農業が四千二百四十四件(同六・五%)、運輸・通信業が一千七百六十八件(同二・七%)、空地が一千七十七件(同一・七%)、道路が八百六十四件(同一・三%)などとなっている(第8表参照)。

◇公害苦情の処理状況

 平成十年度において、全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が取り扱った苦情件数(九年度以前に受け付けたが、処理されず十年度に繰り越されたものを含む。)は、九万一千二百九十九件である。
 平成十年度の公害苦情取扱件数九万一千二百九十九件のうち、公害苦情相談窓口において直接処理した件数(以下「直接処理件数」という。)は七万六千百七十四件であり、他の機関等へ移送した苦情件数が一千三百二十六件、翌年度へ繰り越した苦情件数が九千九百四十九件などとなっている。
 直接処理件数を苦情の申立てから処理までに要した期間別をみると、「一週間以内」が四万五百一件(直接処理件数の五三・二%)と最も多く、次いで、「一か月以内」が一万三百五十六件(同一三・六%)、「三か月以内」が六千九百七十二件(同九・二%)、「六か月以内」が八千二百八十八件(同一〇・九%)、「一年以内」が三千七百七十五件(同五・〇%)、「一年超」が一千八百九十件(同二・五%)などとなっている。
 「一週間以内」及び「一か月以内」を合わせると五万八百五十七件(直接処理件数の六六・八%)となり、直接処理件数の約三分の二が一か月以内に処理されている(第9表参照)。
 また、苦情の処理結果に対する申立人の満足度についてみると、「一応満足」が二万三千五百七件(直接処理件数の三〇・九%)と最も多く、次いで「満足」が一万一千九百八十一件(同一五・七%)、「あきらめ」が三千六百二十五件(同四・八%)、「不満」が二千三百六十六件(同三・一%)などとなっている(第10表参照)。

◇公害苦情を担当する職員数

 全国の地方公共団体において公害苦情の処理に関する事務に従事している職員数は、平成十年度末で、一万三千八十七人であり、このうち、公害紛争処理法第四十九条第二項に規定する公害苦情相談員は三千百三十五人である。

地方公共団体に対する指導等

◇公害紛争処理に関する連絡協議

 委員会及び審査会等は、公害紛争処理法によって定められた管轄に従い、それぞれ独立して紛争の処理に当たっているが、紛争の円滑な処理のためには、委員会及び審査会等が相互の情報交換・連絡協議に努めることが必要である。
 このため、委員会は、平成十一年度においても、第二十九回公害紛争処理連絡協議会等の会議を開催し、また、参考となる情報・資料の提供を行った。

◇公害苦情処理に関する指導等

 公害紛争処理法では、公害苦情の処理は地方公共団体の責務とされ、また、委員会は地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理について指導等を行うこととされている。
 このため、委員会は平成十一年度においても、第二十七回公害苦情相談研究会等の会議を開催し、また参考となる情報・資料の提供を行った。

 鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律等に基づく事務の処理概要

 委員会は、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(昭和二十五年法律第二百九十二号)、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)、採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)等の定めるところにより、鉱区禁止地域の指定及び鉱業等に係る行政処分に対する不服の裁定を行うとともに、土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)に基づく建設大臣に対する意見の申出等の事務を行っている。

◇鉱区禁止地域の指定制度

 本制度は、各大臣又は都道府県知事の請求に基づき、委員会が、通商産業大臣の意見を聞き、公聴会を開いて一般の意見を求め、利害関係人を審問した上で、請求地域において鉱物を掘採することが一般公益又は農業、林業その他の産業と対比して適当でないと認めるときは、当該地域を鉱区禁止地域として指定し、また、同様の手続によりその指定を解除する制度である。
 平成十一年度に委員会に係属した事件は三件であり、すべて十二年度に繰り越された。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年一月から平成十一年度末までに指定した鉱区禁止地域は、二百三十七地域、総面積六十五万六千六十一ヘクタールとなっている。これらの地域を指定理由別にみると、ダム及び貯水池の保全を理由とするものが百四十六地域と最も多い(第1図参照)。

◇行政処分に対する不服の裁定制度

 委員会は、法律の規定に基づき、鉱業、採石業又は砂利採取業と一般公益又は農業、林業その他の産業とのいずれかの利益に係る行政処分に対する不服の裁定を行うことを通じ、鉱業等に係る土地利用の調整を図っている。このため、これらの行政処分については、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律の定めるところにより、専ら委員会が準司法的な手続により不服の裁定を行っている。
 平成十一年度に委員会に係属した事件は、新たに申請のあった五件と、前年度から繰り越された一件の計六件であるが、そのすべてが十一年度中に終結した。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年一月から平成十一年度末までに委員会が受け付けた裁定事件は百二十三件であり、そのすべてが終結した。これを関係法律別にみると、採石法関係(三十五件)が最も多く、鉱業法関係(三十一件)がこれに次いでいる。

◇土地収用法に基づく不服申立てに関する意見の申出等の制度

 土地利用の複雑・多様化に対応して、土地利用に関する行政庁の適正な処分を確保するため、土地収用法、森林法、鉱業法等に基づき、公害等調整委員会は、主務大臣が裁決等を行う場合に、意見の申出、承認等を行っている。
 平成十一年度に委員会に係属した事案は、土地収用法に基づく建設大臣に対する意見の申出二十件と、採石権の設定等の決定に対する承認一件であり、これに前年度から繰り越された七件の計二十八件であり、これらはいずれも十一年度中に処理した。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年以降、平成十一年度末までに、土地収用法に基づく建設大臣に対する意見の申出等は、八百二十二件であり、その内訳は、土地収用法に基づく建設大臣に対する意見の申出が八百十四件、森林法に基づく農林水産大臣に対する意見の申出が二件、鉱業に関する採掘制限に係る決定に対する承認が一件、採石権の設定等の決定に対する承認が五件となっている。
 このうち、土地収用法に基づく建設大臣に対する意見の申出について、処分の種類別にみると、事業認定に関する処分を不服とするもの二百十六件(処分庁が都道府県知事であるものが十九件、建設大臣であるものが百九十七件)、収用委員会の裁決を不服とするもの五百九十八件となっている。




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景気予測調査


―平成十二年八月調査―


大 蔵 省


<はじめに>

 大蔵省では、企業経営の現状と見通しを調査し、景気の動向を的確に把握することを目的として、金融・保険業を除く資本金一千万円以上(電気業、ガス・水道業は資本金十億円以上)の営利法人約百十九万社のうち約一万二千社を対象として、四半期ごとに大蔵省景気予測調査を実施している。
 以下は、十二年八月に実施した第七十回調査結果の概要である。今回の調査では一万九百四十一社を対象とし、八千七百八十二社(回収率八〇%)から回答を得ている。
 なお、本調査における大企業とは資本金十億円以上の企業を、中堅企業とは資本金一億円以上十億円未満の企業を、中小企業とは資本金一千万円以上一億円未満の企業をいう。

 景 況第1表第1図参照

 十二年七〜九月期の景況判断BSI(前期比「上昇」―「下降」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業は「上昇」超、中堅企業、中小企業は「下降」超となっている。
 先行き十二年十〜十二月期を全産業でみると、大企業は引き続き「上昇」超の見通し、中堅企業は「上昇」超に転じる見通し、中小企業は引き続き「下降」超の見通しとなっている。
 先行き十三年一〜三月期を全産業でみると、大企業、中堅企業は引き続き「上昇」超の見通し、中小企業は引き続き「下降」超の見通しとなっている。

 売上高第2表参照

 十二年度上期の売上高は、全産業合計で前年比二・七%の増収見込みとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増収見込みとなっている。
 業種別に前年比でみると、製造業では、衣服・その他の繊維製品、木材・木製品などが減収となるものの、電気機械器具、一般機械器具などが増収となり、全体では四・六%の増収見込みとなっている。
 非製造業では、不動産、旅館その他の宿泊所が減収となるものの、事業所サービス、卸売・小売などが増収となり、全体では二・〇%の増収見込みとなっている。
 十二年度下期の売上高は、全産業合計で前年比三・二%の増収の見通しとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増収の見通しとなっている。
 業種別に前年比でみると、製造業では、衣服・その他の繊維製品、船舶製造・修理などが減収となるものの、電気機械器具、一般機械器具などが増収となり、全体では三・一%の増収の見通しとなっている。
 非製造業では、建設、その他の非製造業などが減収となるものの、事業所サービス、映画・娯楽などが増収となり、全体では三・三%の増収の見通しとなっている。
 十二年度通期の売上高は、全産業合計で前年比三・〇%の増収の見通しとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増収の見通しとなっている。

 経常損益第3表参照

 十二年度上期の経常損益は、全産業合計で前年比九・二%の増益見込みとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増益見込みとなっている。
 業種別に前年比でみると、製造業では、輸送用機械器具、化学工業などが減益となるものの、電気機械器具、一般機械器具などが増益となり、全体では二六・二%の増益見込みとなっている。
 非製造業では、不動産、運輸・通信などが減益となるものの、卸売・小売、電気・ガス・水道などが増益となり、全体では二・四%の増益見込みとなっている。
 十二年度下期の経常損益は、全産業合計で前年比一八・五%の増益の見通しとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増益の見通しとなっている。
 業種別に前年比でみると、製造業では、出版・印刷が減益となるものの、電気機械器具、一般機械器具などが増益となり、全体では二八・四%の増益の見通しとなっている。
 非製造業では、電気・ガス・水道、不動産などが減益となるものの、卸売・小売、映画・娯楽などが増益となり、全体では一二・九%の増益の見通しとなっている。
 十二年度通期の経常損益は、全産業合計で前年比一四・一%の増益の見通しとなっている。
 これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増益の見通しとなっている。

 中小企業の設備投資第4表参照

 設備投資については中小企業のみを調査対象としている。今回の調査における十二年度の全産業の設備投資計画額を前年比でみると、土地購入費を含む場合(以下「含む」という)で五・四%増、除く場合(以下「除く」という)で一一・六%増の見通しとなっている。なお、前回調査時に比べ、「含む」で一七・七%ポイントの上方修正、「除く」で一九・〇%ポイントの上方修正となっている。
 十二年九月末時点の設備判断BSI(期末判断「不足」―「過大」社数構成比・季節調整済)をみると、全産業は「不足」超となっている。
 先行きについては、全産業でみると「不足」超で推移する見通しとなっている。

 中小企業の販売製(商)品在庫

 十二年九月末時点の在庫判断BSI(期末判断「不足」―「過大」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、卸売業、小売業いずれも「過大」超となっている。
 先行きについては、製造業、卸売業、小売業いずれも「過大」超となっているものの、「過大」超幅が縮小する見通しとなっている。

 中小企業の仕入れ価格

 十二年七〜九月期の仕入れ価格判断BSI(前期比「上昇」―「低下」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、小売業は「上昇」超、卸売業は「低下」超となっている。
 先行き十二年十〜十二月期については、製造業、小売業は「上昇」超、卸売業は「低下」超で推移する見通しとなっている。

 中小企業の販売価格

 十二年七〜九月期の販売価格判断BSI(前期比「上昇」―「低下」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、卸売業、小売業、サービス業いずれも「低下」超となっている。
 先行きについては、製造業、卸売業、小売業、サービス業いずれも「低下」超となっているものの、「低下」超幅が縮小する見通しとなっている。

 雇 用第5表参照

 十二年九月末時点の従業員数判断BSI(期末判断「不足気味」―「過剰気味」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業は「過剰気味」超、中堅企業、中小企業は「不足気味」超となっている。
 先行きについては、大企業、中小企業は「過剰気味」超で推移する見通し、中堅企業は十二年十二月末に「過剰気味」超となった後、十三年三月末に「不足気味」超に転じる見通しとなっている。
 十二年七〜九月期の臨時・パート数判断BSI(前期比「増加」―「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「増加」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「増加」超で推移する見通しとなっている。
 十二年七〜九月期の所定外労働時間判断BSI(前期比「増加」―「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業は「増加」超、中小企業では「減少」超となっている。
 先行きについては、大企業、中堅企業は「増加」超、中小企業は「減少」超で推移する見通しとなっている。

 企業金融第6表参照

 十二年七〜九月期の金融機関の融資態度判断BSI(前期比「ゆるやか」―「きびしい」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「きびしい」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「きびしい」超で推移する見通しとなっている。
 十二年七〜九月期の資金繰り判断BSI(前期比「改善」―「悪化」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「悪化」超となっている。
 先行きについては、大企業は十二年十〜十二月期に「改善」超に転じる見通しとなっている。中堅企業、中小企業は引き続き「悪化」超で推移する見通しとなっている。
 十二年九月末時点の金融機関からの設備資金借入判断BSI(前期比「増加」―「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「減少」超となっている。
 先行きについては、いずれの規模においても「減少」超で推移する見通しとなっている。

 中期的な経営課題第2図参照

 中期的な経営課題(一社二項目以内回答)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「国内販売体制、営業力の強化」をあげる企業が最も多く、次いで、大企業、中堅企業は「新技術、新製品の開発、製品(サービス)の高付加価値化」、中小企業は「後継者、人材の確保、育成」の順となっている。
 業種別にみると、製造業では、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「新技術、新製品の開発、製品(サービス)の高付加価値化」が最も多く、次いで大企業、中堅企業は「国内工場・営業所の再編、生産・流通工程の見直し等によるコストの低減」、中小企業は「国内販売体制、営業力の強化」の順となっている。非製造業では、大企業、中堅企業は「国内販売体制、営業力の強化」、中小企業は「国内販売体制、営業力の強化」及び「後継者、人材の確保、育成」をあげる企業が多い。

歳時記


小春

玉の如(ごと)き 小春日和(びより)を 授かりし
                        松本たかし
一人行き 二人畦(あぜ)行く 小春かな
                   水原秋桜子(しゅうおうし)
この山に 道あれば行く 小春かな
                高木晴子
 小春は暖かで春に似ているという、陰暦十月の異称で小六月ともいいます。
 ただし、一般的には、立冬(十一月八日ごろ)を過ぎたあとの、春のように暖かい日のことをいうようです。
 たしかに、そのころに思いがけなくポカポカした暖かい日があります。
 「玉の如き小春日和を……」の句は、厳しい冬になる前に穏やかな暖かい日が授かったうれしさがよく出ています。このような日には、「この山に……」の句のように、どこまでも歩いてみたい気分になるものです。
 俳句の場合は、小春日和は字余りになるので、小春、小春日、小六月が好んで使われるようです。
 ほかには、小春のころのうららかな空を表現した「小春空」、海の凪(なぎ)を指す「小春凪」などの言葉があります。
 小春日和の時期ともいえる、十一月九日から十五日までは「秋季全国火災予防運動」が行われます。この期間はもちろんのこと、これから冬にかけては火災が多くなるので、注意したいものです。最近は、庭先などでの落葉たきは、あまり見られなくなりました。たき火をするときには、たき火禁止地域ではないか確かめ、十分気を配り、火が消えるのを、念入りに確認するようにしましょう。
(『広報通信』平成十二年十一月号) 

言葉の履歴書


VICS(道路交通情報通信システム)

 渋滞や交通規制などの道路交通情報を、ドライバーにリアルタイムに提供するシステムのことです。VICSセンターでは、都道府県警察や各道路管理者から収集した情報を、利用しやすい形に処理・編集し、VICS対応カーナビゲーションなどの車載機に、電波ビーコン・光ビーコン・FM多重放送の三つのメディアを通じ、ドライバーに情報を提供しています。
 電波ビーコンとは、高速道路等に設置された電波を媒体とした通信装置、光ビーコンとは、一般道路に設置された赤外線を媒体とする通信装置であり、また、FM多重放送とは、NHKのFM多重放送の電波を借用したものです。
 VICS情報の提供および車載機での情報表示は、文字、簡易図形、地図の三種類のモードで行われますが、車載機の機能や走行場所によって、活用できる情報は異なってきます。
 VICS対応車載機はカーディーラーやカー用品店などで購入でき、情報利用料は無料です。
(『広報通信』平成十二年十一月号)



    <11月29日号の主な予定>

 ▽首都圏白書のあらまし…………………国 土 庁 

 ▽平成十一年度法人企業統計年報………大 蔵 省 

 ▽家計収入(七月分)……………………総 務 庁 




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