官報資料版 平成13年2月7日




                  ▽世界経済白書のあらまし…………………………………………………経済企画庁(現内閣府)

                  ▽平成十二年 賃金構造基本統計調査結果の概要 ―初任給―………厚生労働省

                  ▽消費者物価指数の動向(東京都区部十一月中旬速報値)……………総 務 省











世界経済白書のあらまし


IT時代の労働市場と世界経済


経済企画庁(現内閣府)


 平成十二年度「年次世界経済報告」(世界経済白書)は、さる平成十二年十二月五日の閣議に配布されて公表された。白書の興味深い点は次の通りである。

はじめに

 世界経済は、原油価格の上昇やユーロ安といった不安定要因を抱えてはいるものの、アジア通貨・金融危機後の状況に比べて総じて良好な状態が続いている。原油価格の大幅な上昇に伴い、エネルギー価格に高まりはみられるものの、主要国では物価は総じて安定している。多くの国・地域で景気の拡大が続いている。インターネットや携帯電話といったIT利用が急速に普及しており、ITの動向抜きに世界経済は語れなくなっている。
 グローバル化やIT革命の進展に伴い、企業は、雇用コストの削減を迫られる一方で、より高度な知識・技能を有する労働者を求めている。労働者は、多様な就業形態を選ぶことができるようになる一方で、就業機会を拡大し所得を向上させるために、知識・技能をどのように高めるかという問題に直面している。各国の政府は、雇用を拡大するとともに、経済発展を支える高度な人材確保の必要に迫られている。このように知識・技能の向上は、個人や個別企業にとっても、経済政策の上からも極めて重要な課題になっている。

第一章 世界経済の現況

第一節 世界経済の概観

 世界経済は、原油価格の上昇やユーロ安といった不安定要因を抱えてはいるものの、アジア通貨・金融危機(九七年七月)の影響を受けた九八年に比べて良好な状態が続いている。
 アメリカではインフレ懸念は残るものの、長期にわたる景気拡大が続いている。ユーロ圏では世界経済の好転とユーロ安によって輸出が拡大し、内需が増加しており、景気は拡大している。また、失業率の低下がみられる。東アジアでは、世界的なIT関連機器に対する需要と内需拡大に支えられて、アジア通貨・金融危機後の急回復から持続的成長へと移行しつつある。中南米や中東欧、ロシアでは、九八年のロシア危機や九九年初のブラジルの通貨切下げによる影響を早期に終息させ、景気は総じて拡大している。
 このような各地域の良好な状態を反映して、世界の実質GDP成長率(IMF統計による)は、九八年の前年比二・六%の後、九九年には同三・四%と加速した。IMFの見通しによると、二〇〇〇年の世界全体の実質GDP成長率は前年比四・七%と、八八年(同四・七%)以来の高い成長が見込まれている。
 世界の財・サービスの貿易数量は、九八年の前年比四・三%から九九年は同五・一%と増加しており、IMFの見通しでは、二〇〇〇年には同一〇・〇%と、三年振りに高い伸び率が見込まれている。

第二節 史上最長の景気拡大を続けるアメリカ経済

 一九九一年三月に始まったアメリカの景気拡大は、二〇〇〇年二月に史上最長となり、四月には十年目に突入した。この一年を振り返ると、九九年末から二〇〇〇年初頭にかけて、高い成長からくる景気過熱感がみられた。しかし、二〇〇〇年半ばにかけて、Fedの金融引締めや株価調整の影響などにより、耐久財消費や住宅着工など一部に減速がみられ始め、二〇〇〇年半ばを過ぎると、住宅投資の鈍化がはっきりするとともに、生産も伸びが鈍化した。
(インフレリスクの抑制とソフトランディング実現への課題)
 今回の景気拡大局面では、高い経済成長が続く中、労働需給のひっ迫はみられるものの(第1図参照)、柔軟な労働市場の下での賃金上昇圧力の抑制、労働生産性の向上や、輸入品の増加に伴う価格競争の激化など、構造的な要因を背景に、物価の安定が続いている。九〇年代後半からの労働生産性上昇率の高まりは、供給能力の伸びを高め、単位労働コストを低下させることにより、物価の上昇を抑える要因となっている。
 また、労働市場の柔軟性の向上は、NAIRU(インフレを加速させない失業率)を低下させ、低失業率と低インフレを両立させる要因となっている。さらに、企業がコストの上昇を価格に転嫁しにくくなっていることも、インフレを抑制する方向に働いている。
 一方で、九九年末から二〇〇〇年初めにかけての需要の力強い伸びは、インフレ懸念を増大させた。足下をみると、経済成長率の減速がみられるとはいえ、労働市場のひっ迫は依然続いており、加えて原油価格の上昇の影響がコアにまで及んでくるなど、今後ともインフレ加速に対する警戒を続ける必要がある。
 アメリカ経済の持続可能な景気拡大の実現は、世界経済にとっても重要な課題であり、そのためにはインフレの抑制が不可欠である。現在みられている需要の鈍化は、インフレ抑制の鍵となっており、実体経済が労働市場のひっ迫を緩和する程度にまで減速し、最終的に持続可能な景気拡大ペースに落ちつくかどうか、金融、財政当局の政策を含め、今後の動向を注視していく必要がある。

第三節 景気が拡大するヨーロッパ

 ユーロ圏の景気は、アジア経済・通貨危機等を発端として九八年後半から輸出が減少したことの影響を大きく受け、九九年前半にかけて一時的に減速した。九九年夏以降、世界経済の好転とユーロ安が要因となって輸出が拡大し、固定投資や個人消費が増加しており、景気は拡大している。ユーロ圏の物価は、九八年から九九年にかけ、世界的な低インフレを背景に低水準で安定して推移してきた。しかし、九九年末以降、原油価格が上昇するにしたがって、輸入価格が上昇し、消費者物価に対する上昇圧力が生じることとなった。
 イギリスでは、九九年末から二〇〇〇年初めにかけて、製造業の生産が鈍化したものの、個人消費や設備投資は堅調に推移しており、景気は拡大している。
 ロシアでは、九八年八月のルーブルの切下げにより輸入代替効果の進展がみられたことや、九九年後半以降は、原油の国際価格の上昇を背景に輸出が回復したことから、景気は拡大している。
(減価を続けたユーロ)
 九九年一月の発足以降、二年目を迎えた単一通貨ユーロは、欧米間の景況格差を要因の一つとして変動してきたが、総じて減価基調で推移した。二〇〇〇年十月には、発足当初と比較して対ドルでは約三〇%、対円では約三三%の減価となった。欧米間の実質GDP成長率の動向をみると、アメリカ経済の減速傾向とユーロ圏経済の拡大から、二〇〇〇年四〜六月期には、欧米間の成長率は接近し、金利格差も縮小した。にもかかわらず、ユーロの対ドルレートは最安値を更新し続けたことから、ユーロ圏通貨当局は、ユーロは過少評価されており、ミスアラインメントが起きていると指摘している。
 このほか、減価傾向をもたらしている構造的な要因として、ユーロ圏からの資金流出が考えられる。ユーロ圏の直接投資収支と証券投資収支は長期にわたって赤字となっている。特にユーロ圏企業によるアメリカ企業の合併・買収は、金額・件数ともに増加している(第2図参照)。アメリカに向けて資金流出が続くという現象は、投資家がユーロ及びユーロ圏経済に構造的な脆弱性があるとの懸念を持っていることを反映したものと考えられる。

第四節 景気が拡大するアジア・大洋州

 東アジアの経済は、通貨・金融危機の影響を大きく受け景気後退に陥ったが、九九年には世界的なIT関連機器に対する需要を背景とした電気・電子機器等を中心とする輸出の大幅な増加や、個人消費の増加により、景気は急回復した。二〇〇〇年には引き続き輸出の増加とともに、国内民間需要の増加も見込まれるなど、危機後の急回復から持続的成長へと移行しつつある(第3図参照)。
 東アジア諸国では、当初の急速な回復を支えてきたのは、外需と公的需要だった。個人消費の回復については、失業率が危機前の水準に比べれば依然として厳しいが、生産活動が上向きになるにつれて低下傾向にあることが、個人消費の増加に寄与しているとみられる。
 在庫調整は九九年の初めには終了し、在庫品も積み増しの局面に入ったと考えられる。設備投資は一部の国を除いて上向いており、生産の増加傾向は持続している。拡がりをみせる内需拡大の動きを持続的成長につなげるためには、現在行われている金融部門をはじめとする構造改革を着実に進展させる必要がある。

第五節 国際金融・商品市場の動向

(国際金融)
 米ドルは、対円では九九年七月以降、減価基調が続いていたが、九九年末頃からは、ハイテク関連株価の上昇や、アメリカの経済成長が高い伸びを示したことなどから、増価基調で推移している。対ユーロでは、欧米間の景況格差や、ユーロ圏からの資本流出が続いていることなどから、増価基調で推移しており、二〇〇〇年十月にはユーロ発足当初と比較して、約三割上昇している。九九年以降のアジア通貨の動向をみると、政治的混乱を理由に、インドネシア、タイ、フィリピンの通貨が、対ドルで大きく減価している。
 アメリカの債券市場をみると、長期金利は、景気の過熱感や労働市場のひっ迫感などから生ずるインフレ懸念を反映して、九九年以降は、上昇傾向で推移していた。しかしながら、二〇〇〇年一月にアメリカ財務省が、国債買戻し計画を発表すると、金利は低下傾向に転じた。
 欧米の代表的な株価指数は、低金利や堅調な企業収益などを反映して、九九年末から二〇〇〇年三月にかけて、過去最高値を更新している。しかしながら、その後の株価は一進一退で推移している。
 一方、ハイテク関連株指数をみると、アメリカのナスダック指数は、二〇〇〇年三月には五〇〇〇ポイントを突破し、過去最高値を更新した後、急落した。欧州のハイテク関連株価指数もナスダック指数と同様に急落した。投資家が一部のハイテク関連企業に対して、その将来性に疑念を持ち始めたことが、急落の引き金の一つになったと考えられる。
 一方、アジアの主要な株価指数は、景気回復を背景に企業収益が改善したことなどから、九九年には大きく上昇したが、二〇〇〇年以降は、世界的な株価調整局面を迎えて、多くの国で、株価は下落基調で推移している。
(国際商品・原油価格)
 CRB商品先物指数は、九九年二月末にほぼ四半世紀ぶりの低水準である一八三ポイント割れを記録したが、九九年後半からは、世界的な景気拡大傾向から上昇基調で推移し、二〇〇〇年九月(月平均値)現在で二二八ポイント台にまで回復している。
 原油価格(北海ブレント・スポット価格)は、九九年初頭に十ドル/バーレルを下回る水準まで落ち込んだが、九九年三月のOPEC総会で追加減産が合意されたことを契機に、上昇基調に転じた(第4図参照)。
 その後は、OPEC加盟国が合意された減産量を比較的遵守したことや、非OPEC加盟国が協力を表明したこと、アジア地域からの需要が回復に向かったことなどから上昇を続け、二〇〇〇年三月には湾岸危機以来となる三十ドル/バーレルを上回った。二〇〇〇年十月現在でも、先行きの需給ひっ迫懸念を主因に、三十ドル/バーレル前後の高値で推移している。
 今次価格上昇の要因としては、短期的には原油需給が逼迫したことや、石油製品価格が上昇したこと、中期的には九九年に掘削リグ稼働数が大幅に減少したことや、代替エネルギー消費量伸び率が原油消費量伸び率を下回ったこと、などが考えられる。
 実質GDP一単位当たりの原油消費量(原単位)は、主要先進国を中心に過去の高騰局面と比べ大幅に低下していることから、原油価格の上昇が主要国の実体経済へ与えるインパクトは、相当程度弱まっているといえる。
 しかし、ヨーロッパでは、ユーロ安の影響やガソリン小売価格に占める税の割合が高いことなどにより、消費者物価の上昇が相対的に大きくなっており、アジアNIEsでは、原単位がむしろ高まっている国もあることから、原油価格の動向には注意を払う必要がある。

第六節 IT(情報通信技術)と世界経済

 インターネットは、九〇年代半ばからアメリカを先行者として急速に普及している。アメリカの家庭においてインターネットが急速に普及したのは、以下の要因により、個人によるインターネット利用の素地が整っていたためと考えられる。
@ 以前よりパソコン普及率が高かったこと。
A 英語のコンテンツの充実など、ネットワーク外部性が働きやすい条件にあったこと。
B パソコン価格の急激な低下と低い通信費用。
 アメリカにおける九〇年代後半の労働生産性の上昇には、資本ストックのIT化が大きく寄与している。ITによってもたらされる生産性の上昇は、IT関連機器を生産する産業にとどまらず、その供給面へのインパクトを通じて経済全体に及ぶ可能性が高い。
 ITは発展途上国にも新たな機会をもたらしている。アジアは世界のIT関連機器の供給源として一定の地位を確保し、世界的なIT普及の中で輸出を大幅に増加させている。ソフトウェアでは、インドのソフトウェア産業が世界の注目を集めている。
 ITの革命的な影響は、人々の生活や学び方、働き方、あるいは地域や政府との関わり方にまで影響を及ぼすために、先進国、途上国を問わず、IT技能向上への効果的な取組が必要となっている。

第二章 知識・技能の向上と労働市場

第一節 人的能力の向上を促す柔軟な労働市場(アメリカの場合)

(柔軟性の高い労働市場の形成)
 グローバル化の進展や技術革新、規制緩和等を通じて競争が激化する中で、企業はダウンサイジングやアウトソーシングに着手し、これまで長期雇用が保証されていたホワイトカラー層も雇用調整の対象となった。その際には必要な人材を確保する一方で、比較的低スキルのホワイトカラー層が市場に放出された。その過程において、労働者の知識・技能に応じた労働力の再配置が促され、所得水準からみた職種構造の二極分化が生じた(第5図参照)。
 リストラクチャリングや廃業による雇用喪失は決して小さくはないが、アメリカでは、それを上回る雇用が小企業を中心として生み出された。このことを他面からみれば、労働市場の柔軟性が高まったことが、開業や事業拡大に伴う労働需要の高まりに対して、迅速かつ容易に対応することを可能にし、IT産業等の新たな産業の成長を支えてきたといえる。
(IT導入による雇用の質的変化)
 IT革命が進展する中で、企業はITをその経済活動に本格的に導入するため、IT投資を急拡大するのみならず、求める労働者の知識・技能の質を大きく変えた。IT導入によって業務プロセスが大幅に組み替えられた結果、事務労働等の比較的知識・技能を要しない職業がITに代替される一方で、IT労働者などの知識生産型の職業が増加している。
 また、IT導入によって、テレワーク(在宅勤務)や企業と長期雇用契約を結ぶのではなく、臨時的もしくは特定の業務に対して契約を結ぶ就業形態が増加しており、労働者の「集団帰属」から「個人」への移行を促進している。
 さらに、情報化によって、労働市場における求職活動のあり方も大きく変化している。インターネット上で企業の求人情報、個人の求職情報が流通し企業と労働者間のアクセス機会が大幅に拡大したことや、インターネットを利用した効果的な採用及び就職活動を行うことが可能となったことが、マッチング機能の向上につながっている。
(個人、企業、政府の取組と知識・技能の向上)
 アメリカでは、雇用を取り巻く環境の変化に対応して、個人、企業そして政府などが労働者の知識・技能を向上させるために積極的に取り組んでいる。個人の知識・技能の向上に対して、大学やコミュニティ・カレッジ等における高等教育の提供が大きな役割を果たしている。企業は、労働者の市場価値を高める再教育や職業訓練を行うことに積極的な姿勢を示し、企業内部のみでなく、外部機関も活用した教育・職業訓練を実施している。政府は、教育改革や職業訓練の推進など、人的能力の向上に着目した雇用政策に重心を移している。このような個人、企業及び政府の取組は、IT革命下において必要とされるIT労働者の育成等にも寄与している。

第二節 雇用の質的向上を通じた失業の解消(ヨーロッパの場合)

(ヨーロッパの労働市場の硬直性)
 しばしば、「欧州の労働市場は硬直的である」と指摘される。事実、九三年以降総じて景気拡大が続いているにもかかわらず、欧州では多くの国で失業率が高水準で推移しており、欧州の労働市場は景気循環の局面にかかわらず、失業を恒常的に抱えている状態にある。こうした構造的失業を生む要因のひとつに、労働需給のミスマッチがある。
 EU各国では、農業や製造業といった既存産業において雇用過剰感が高まる一方で、IT産業での労働者不足といった産業間での労働力需給のミスマッチが生じている。これらの背景として、欧州の多くの国では、労働者を解雇する際の要件が厳格であること、製造業を中心に民間部門に対して多額の補助金が注入されており、生産性の低い産業が温存されていること、全般的に起業が活発でないことが挙げられる。
 EU域内では、労働移動の自由が保証されてきたにもかかわらず、総じて、域内での国境を越えた労働移動は活発化しているとはいえない。
 EU各国では若年層の失業率が高いことも、労働需給のミスマッチを生む要因となっている。厳格な労働保護法制によって過剰労働を抱えたまま若年者の新規採用を控え、若年層の雇用機会を狭めていることが、高い若年失業率につながっていると考えられる。
 IT化の進展は労働市場において必要とする技能を急速に変化させており、今日の労働市場においては、ITに関する技能が強く求められている。しかし、アメリカと比較して欧州のIT浸透度はかなりの遅れをとっており、IT技能に関しても質的なミスマッチが生じている可能性が高い。
(就業能力(エンプロイヤビリティ)向上の重視)
 労働をとりまく環境が変化するなかで、EU諸国政府にとっても、EMU第三段階移行により歳出削減圧力が高まったこと、一元的金融政策の開始と厳格な財政規律によって、経済政策に関する自由度が低下したこと等から、雇用の増大が最重要課題となった。
 イギリスやオランダは、労働市場への市場原理の導入やパートタイム労働の導入によって失業率を低下させてきた。しかし、両国においても、若年失業や長期失業の解消が大きな課題となっていることから、労働市場に参加する者の就業に関する能力(エンプロイヤビリティ)への注目が集まるようになった。
 「エンプロイヤビリティ」とは、雇用可能性などの訳が与えられることもあるが、労働者自身が職業生活において必要な技術・能力を身につけることによって、就業や転職、キャリアアップなどの可能性や機会をひろげることを意味する。エンプロイヤビリティの向上は、現在のスキルや職種、学歴の高低などに関係なく、労働市場に参加している全ての層において求められるものであり、企業競争力の向上に結実するものである。
 構造失業の存在というEU諸国共通の悩みを抱えていたことなどから、EUでは一九九七年に「エンプロイヤビリティの向上」など四つの柱からなる雇用戦略を策定し、雇用への取組が本格化した。EUは、各国に対して、失業給付等を中心とした消極的な雇用政策から、労働力の質の向上を目的とした職業訓練や職業紹介といった積極的な雇用政策へと転換することを促している。
 足下の雇用情勢をみると、EU各国では依然高水準ながらも失業率が低下するところが増えており、EUレベルでの政策転換に関する取組が奏功し始めている可能性がある。

第三節 経済危機と労働市場の柔軟性

(韓国、シンガポール、オーストラリアの場合)
 韓国では、通貨・金融危機の発生により、企業の過剰雇用の弊害が顕在化すると、大量のレイオフが発生した。失業率も急速に悪化したことから、政府は、四大構造改革の一つに労働市場改革を掲げ、失業者対策を中心とする各種の課題に取り組んできた。その結果、失業率は、九九年初頭をピークに低下傾向を示し、危機前よりも労働移動が円滑に行われるようになったとみられる。政府は、受動的な雇用政策だけではなく、失業を未然に防ぐための職業訓練制度の拡充などにも力点を置いている。
 シンガポールでは、通貨・金融危機の発生を機に、製造業を中心にレイオフが拡大し、失業率は四%以上というかつてない水準に達した。その後、景気回復とともに雇用情勢も改善してきたが、失業率は以前の水準に戻っておらず、労働需給のミスマッチも顕在化した。こうしたなか、シンガポール政府は、国家的人材開発戦略である「マンパワー二十一」を打ち出し、個々人の就業能力向上に加えて、人材の確保を通じた「知識基盤経済」への移行を図り、将来の国際競争力を確保しようとしている。
 オーストラリアでは、近年、失業率の低下傾向が続いている。これは景気拡大が続いたことによるだけでなく、労働市場の柔軟性が高まったことにもよるものとみられる。中央集権的な労働条件の決定方式から分権化への移行、公共職業安定所の民営化や教育訓練制度の改革などで、市場メカニズムの活用、競争原理の導入により労働市場の伸縮性を増し、効率化を図る形で労働市場改革が実施されてきた。




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平成12年


賃金構造基本統計調査結果の概要 ―初 任 給―


厚生労働省


T 調査の概要

 この調査は、我が国の賃金構造の実態を明らかにするため、毎年六月分の賃金等について実施しているものであり、調査対象は、日本標準産業分類による九大産業(鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸・通信業、卸売・小売業,飲食店、金融・保険業、不動産業及びサービス業)に属する五人以上の常用労働者を雇用する民営事業所及び十人以上の常用労働者を雇用する公営事業所から抽出した約七万一千事業所である。
 本速報は、このうち十人以上の常用労働者を雇用する民営事業所約四万四千事業所の中で新規学卒者(平成十二年三月に中学、高校、高専・短大又は大学を卒業した者)を採用した約一万五千事業所の初任給の結果をとりまとめたものである。
 (注) 本調査の初任給は、通常の勤務をした新規学卒者の所定内賃金(所定内労働時間に対して支払われる賃金であって、基本給のほか諸手当が含まれているが、超過労働給与額は含まれていない。)から通勤手当を除いたものであり、平成十二年六月末現在で本年度の初任給として確定したものである。
  なお、新規学卒者で平成十二年六月末現在実際に雇用される者のうち、本年度の初任給が確定した新規学卒者の割合は九五・〇%であった。未確定(ベースアップが決まっていない等のため確定していないもの)の五・〇%については、今回の集計対象外となっている。

U 調査結果の概要

1 学歴別にみた初任給

(1) 平成十二年の初任給を高卒以上の学歴別にみると、
 男女計は、
  大    卒 十九万三千七百円
    (対前年比マイナス〇・三%)
  高専・短大卒 十六万五千九百円
           (同〇・六%)
  高    卒 十五万三千百円
      (同マイナス〇・三%)
 となっており、これを男女別にみると、
 男性では、
  大    卒 十九万六千九百円
        (対前年比〇・二%)
  高専・短大卒 十七万一千六百円
(同〇・八%)
  高    卒 十五万七千百円
      (同マイナス〇・三%)
 女性では、
  大    卒 十八万七千四百円
       (同マイナス〇・七%)
  高専・短大卒 十六万三千六百円
           (同〇・九%)
  高    卒 十四万七千六百円
       (同マイナス〇・五%)
 となった。
  男女計では、高専・短大卒が前年を上回っており、大卒と高卒は前年を下回っている。変化はいずれも一%未満の小幅にとどまっている。男女別では、男女ともに高専・短大卒はわずかながら上回っているものの、高卒が前年を下回っており、男性の高卒の伸び率は初めてマイナスとなり、女性の大卒の伸び率は昭和五十一年の調査開始以来最大のマイナスとなった(第1表第2表参照)。
  平成八年以降の五年間について初任給の伸び率をみると、男女ともに一・五%未満の低い水準で推移している(第2表第1図参照)。
(2) 初任給の学歴間格差(大卒=一〇〇)を男女別にみると、男性は高専・短大卒が八七、高卒が八〇、女性は高専・短大卒が八七、高卒が七九となっている。
  この五年間では、大卒と他の各学歴との格差は、男女とも明確な拡大傾向や縮小傾向はみられず、ほぼ横ばいとなっている(第2図参照)。

2 企業規模別にみた初任給

(1) 企業規模別の初任給をみると、男女計は、大卒では大企業(常用労働者一千人以上)と中企業(同百〜九百九十九人)が十九万円台、小企業(同十〜九十九人)が十八万円台、高専・短大卒では各規模とも十六万円台、高卒では各規模とも十五万円台となっている。
  これを男女別にみると、男性は、大卒では各規模とも十九万円台、高専・短大卒では各規模とも十七万円台、高卒では各規模とも十五万円台となっている。一方、女性は、大卒では大企業十八万円台、中企業十九万円台、小企業十七万円台、高専・短大卒では大企業と中企業が十六万円台、小企業十五万円台、高卒では大企業十五万円台、中企業と小企業が十四万円台となっている。
  また、男女とも大卒と高専・短大卒では大企業と中企業で前年を上回り、小企業で下回っている。高卒では女性の大企業を除き男女各規模とも前年を下回っている(第3表参照)。
(2) 初任給の企業規模間格差(大企業=一〇〇)を男女別にみると、男性は、中企業九八〜一〇一、小企業九七〜一〇一と、各学歴ともほとんど格差はみられないが、高卒で中企業一〇一、小企業一〇一と大企業より初任給がやや高くなっている。
  女性は、中企業九七〜一〇四、小企業九三〜九八と、各学歴の格差は男性と比べるとやや大きくなっており、中企業では大卒一〇三、高専・短大卒一〇四と大企業より初任給がやや高く、小企業では高卒九三と最も格差が大きくなっている。
  また、女性の大卒と高専・短大卒では中企業、男性の高卒では中企業と小企業で大企業を上回り、男性の高専・短大卒では小企業が中企業を上回るという逆転現象がみられる(第4表参照)。

3 産業別にみた初任給

(1) 主要産業別の初任給をみると、男女計は大卒では製造業が高く十九万六千九百円、高専・短大卒と高卒では建設業が高く、それぞれ十七万七千七百円、十六万二千六百円となっている。一方、低いのは、各学歴とも金融・保険業で、大卒十八万一千二百円、高専・短大卒十五万一千三百円、高卒十四万一千八百円となっている。
  これを男女別にみると、男性は、大卒ではサービス業が高く十九万八千九百円、高専・短大卒と高卒では建設業が高く、それぞれ十八万三千百円、十六万三千八百円となっている。一方、低いのは、各学歴とも金融・保険業で、大卒十八万六千三百円、高専・短大卒十六万五千六百円、高卒十四万五千九百円となっている。
  女性は、大卒と高専・短大卒ではサービス業が高く、それぞれ十九万一千四百円、十六万六千百円、高卒では運輸・通信業が高く十五万六千九百円となっている。一方、低い方は、男性同様に各学歴とも金融・保険業で、大卒十七万五千四百円、高専・短大卒十五万一千百円、高卒十四万一千六百円となっている(第5表参照)。
(2) 初任給の産業間格差(製造業=一〇〇)を男女別にみると、男女各学歴ともに金融・保険業を除くと格差は小さく、女性の高専・短大卒では各産業で製造業を上回るようになり、男性も同様の傾向にある。
  また、男性は高専・短大卒と高卒の建設業が製造業より高く、女性は高卒の運輸・通信業、高専・短大卒と高卒の卸売・小売業,飲食店が製造業より高くなる傾向がみられる(第6表参照)。

4 初任給の分布

(1) 初任給の分布をみると、男女計は、大卒では十九万円台に二六・七%、二十万円台に二四・一%と十九、二十万円台で五割を超えており、高専・短大卒では十六万円台に二五・九%、十五万円台に一八・二%、十七万円台に一七・八%と十五〜十七万円台で六割を超え、高卒では十五万円台に二九・八%、十六万円台に二〇・四%と十五、十六万円台で五割を超えている。
  これを男女別にみると、男性は、大卒では十九万円台に二九・九%、二十万円台に二七・六%と十九、二十万円台で五割を超えており、高専・短大卒では十七万円台に二三・八%、十六万円台に二二・八%、十五万円台に一四・八%と十五〜十七万円台で六割を超え、高卒では十五万円台に三一・二%、十六万円台に二六・二%と十五、十六万円台で五割を超えている。
  女性は、大卒が十九万円台と十七万円台がともに二〇・一%、二十万円台に一七・二%、十八万円台に一五・七%と十七〜二十万円台で七割を超えており、高専・短大卒では十六万円台に二七・二%、十五万円台に一九・七%、十七万円台に一五・三%と十五〜十七万円台で六割を超え、高卒は十五万円台に二七・八%、十四万円台に二二・四%と十四、十五万円台で五割を超えている(第7表参照)。
(2) 初任給の散らばりの度合いを十分位分散係数でみると、男性より女性のほうがやや散らばりが大きく、男性の高専・短大卒が他の男女・学歴と比べてやや大きく散らばっている(第7表参照)。






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消費者物価指数の動向


―東京都区部(十一月中旬速報値)・全国(十月)―


総 務 省


◇十一月の東京都区部消費者物価指数の動向

一 概 況

(1) 総合指数は平成七年を一〇〇として一〇〇・四となり、前月比は〇・四%の下落。前年同月比は八月一・三%の下落、九月一・四%の下落、十月一・二%の下落と推移した後、十一月は一・一%の下落となった。

(2) 生鮮食品を除く総合指数は一〇〇・九となり、前月と同水準。前年同月比は八月〇・八%の下落、九月一・〇%の下落、十月一・〇%の下落と推移した後、十一月は〇・九%の下落となった。

二 前月からの動き

(1) 食料は九九・〇となり、前月に比べ一・二%の下落。
  生鮮魚介は二・五%の上昇。
   <値上がり> ぶり、いわしなど
   <値下がり> いか、えびなど
  生鮮野菜は一一・八%の下落。
   <値上がり> きゅうり、えのきだけなど
   <値下がり> ほうれんそう、はくさいなど
  生鮮果物は一一・一%の下落。
   <値上がり> グレープフルーツ、オレンジ
   <値下がり> みかん、りんご(王林)など
(2) 家具・家事用品は八九・七となり、前月に比べ〇・二%の下落。
  家庭用耐久財が〇・五%の下落。
   <値下がり> 石油ストーブなど

三 前年同月との比較

 ○上昇した主な項目
  (特になし)
 ○下落した主な項目
  家賃(一・五%下落)、外食(一・八%下落)、生鮮野菜(五・七%下落)、教養娯楽サービス(一・六%下落)
 (注) 上昇又は下落している主な項目は、総合指数の上昇率に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。

四 季節調整済指数

 季節調整済指数をみると、総合指数は一〇〇・四となり、前月に比べ〇・一%の上昇となった。
 また、生鮮食品を除く総合指数は一〇〇・七となり、前月と変わらなかった。

◇十月の全国消費者物価指数の動向

一 概 況

(1) 総合指数は平成七年を一〇〇として一〇一・七となり、前月比は〇・一%の上昇。前年同月比は七月〇・五%の下落、八月〇・八%の下落、九月〇・八%の下落と推移した後、十月は〇・九%の下落となった。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は一〇一・八となり、前月と同水準。前年同月比は七月〇・三%の下落、八月〇・三%の下落、九月〇・五%の下落と推移した後、十月は〇・六%の下落となった。

二 前月からの動き

(1) 食料は一〇一・〇となり、前月に比べ〇・三%の上昇。
  生鮮魚介は三・七%の下落。
   <値上がり> かつお、いわし
   <値下がり> さんま、いかなど
  生鮮野菜は二・九%の上昇。
   <値上がり> トマト、しめじなど
   <値下がり> ほうれんそう、ねぎなど
  生鮮果物は一一・二%の上昇。
   <値上がり> ぶどう(「巨峰」)、キウイフルーツなど
   <値下がり> みかん、なしなど
(2) 光熱・水道は一〇二・五となり、前月に比べ一・三%の下落。
  電気・ガス代が二・一%の下落。
   <値下がり> 電気代
(3) 被服及び履物は一〇五・七となり、前月に比べ一・〇%の上昇。
  衣料が二・〇%の上昇。
   <値上がり> 男児ズボンなど

三 前年同月との比較

 ○上昇した主な項目
  自動車等関係費(一・六%上昇)、家賃(〇・四%上昇)
 ○下落した主な項目
  生鮮野菜(一二・六%下落)、通信(五・一%下落)、衣料(二・九%下落)、生鮮魚介(四・二%下落)
 (注) 上昇又は下落している主な項目は、総合指数の上昇率に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。

四 季節調整済指数

 季節調整済指数をみると、総合指数は一〇一・一となり、前月に比べ〇・三%の下落となった。
 また、生鮮食品を除く総合指数は一〇一・五となり、前月に比べ〇・一%の下落となった。
























 言葉の履歴書


 稲荷ずし

 二月最初の午(うま)の日(地方では旧暦二月)には、各地の「お稲荷(いなり)さん」で祭礼が行われます。
 「稲荷」の語源は「稲生(いななり)」とされるように、古くは農村における田の神で、初午は春先に豊作を祈る行事でした。
 江戸時代になると、都市でも災いを除き福を招く神として、稲荷信仰がさかんになり、武家や商家の屋敷神として祭られました。江戸の町に多いものは、「伊勢屋(伊勢出身の商家)、稲荷に犬の糞(くそ)」といわれたくらいです。
 稲荷の使者とされたのは狐(きつね)。稲荷を信仰すれば狐が現れて果報をもたらすと信じられていました。
 「稲荷ずし」は、その狐が好むという油揚げで包むところから名付けられたもの。甘く煮た油揚げを二つ切りにした袋にすし飯をつめ、煮しめた干瓢(かんぴよう)を帯のようにして結びます。
 握りずしよりも安価な稲荷ずしが、初めて売り出されて流行したのは、幕末の嘉永年間(一八四八〜一八五三)でした。古代以来の稲荷信仰と比べれば、それほど古くからあるものとはいえません。
(『広報通信』平成十三年二月号)



    <2月14日号の主な予定>

 ▽運輸白書のあらまし…………………………………運 輸 省 

 ▽平成十一年度 体力・運動能力調査の結果………文部科学省 

 ▽家計収支(十月分)…………………………………総 務 省 

 ▽月例経済報告(一月報告)…………………………内 閣 府 




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