官報資料版 平成13年7月4日




                  ▽通商白書のあらまし…………………経済産業省

                  ▽毎月勤労統計調査(四月分)………厚生労働省

                  ▽月例経済報告(六月報告)…………内 閣 府

                  ▽本付録 平成十三年上半期(1・10〜6・27)の総目次











通商白書のあらまし


―二十一世紀における対外経済政策の挑戦―


経済産業省


第1章 東アジアを舞台とした大競争時代

 冷戦の終結に伴い、中国、東欧等の旧共産主義諸国の市場経済化が進展し、これまで分断されてきた東西の市場が統合された。欧州では、三億五千万人の西欧と一億三千万人の東欧の市場の統合が進み、資本や経営資源の最適配置を目指した動きがダイナミックに進められるなど、世界経済は「大競争時代」と称される本格的なグローバリゼーションの時代を迎えた。
 この世界大の大競争時代に突入した一九九〇年代の十年間に、厳しい競争環境の中で約七%の高度成長を遂げた唯一の地域が、東アジアである。一九九七年以降のアジア通貨危機はいまだに人々の記憶に新しいが、その後のV字型回復によって、再び世界の経済成長センターとして大きくその存在感を高めている。今後、不良債権処理等の解決すべき構造問題を抱えていることは事実であるが、中長期的に見て、東アジアが世界経済の中における重要な核となり続けることは間違いない。
 このような東アジアにおける高成長の背景には何があるのであろうか。様々な指摘があるが、特に最近の成長の背景としては、情報技術の革新といった背景に加えて、東アジアにおいて近年急速に進んでいる貿易投資障壁の引下げ、M&Aを活用した欧米企業の進出、そして市場経済化が進展する中国の台頭といった三つの背景が挙げられよう。
 本章においては、まず、第1節において、東アジアにおける厳しい競争環境と国際的な産業構造、貿易構造の変化の現況を紹介する。
 第2節においては、このような東アジアにおける大競争の背景のうち、貿易投資障壁の引下げ等の三つの背景について分析を行うこととする。

第1節 東アジアにおける産業・貿易構造の変化

1 ダイナミックな成長と競争の激化
 一九七〇年代以降の東アジアは、いずれの十年間も約七%という世界でも際だった高成長を遂げている。貿易面では、一九七〇年代にはわずか五%にすぎなかった東アジアの輸出入の世界シェアは、一九九九年には輸出で一八%、輸入で一五%を占める水準に達している。資金面でも東アジアは、途上国全体の四〇%から五〇%程度の対内直接投資及び銀行融資を引き付けている。モノ、カネ、ヒトのグローバリゼーションとともに、東アジアは世界の成長センターとしての存在感を高めている。
 自動車メーカーの世界的な事業再編と生産拠点の再編が進む自動車産業、欧米企業の進出が加速する電子機器産業及び流通産業、アジア通貨危機後、大手欧米金融機関を軸に再編が進む金融産業などに見られるように、欧米企業を中心とする外資系企業の東アジアへの参入が増加している。
 他方、中国のテレビ市場において見られるような現地企業の急速な台頭も見られる。その結果、東アジアを舞台とするグローバルな競争がますます激しくなっている。

2 産業・貿易地図の変化
 東アジアにおける国境を越える分業体制は、中間財貿易の活発化に示されるように、一段と緻密化しており、東アジアの相互依存関係は深まっている。日本の貿易も東アジア域内貿易への依存度を高めており、中でも中間財貿易が顕著に増加している。
 このように、相互依存関係の深化が進む一方で、比較的労働集約的な繊維産業に加えて、比較的技術集約的な情報機器関連産業まで、幅広い分野において、急速に生産能力を拡大させた中国の発展によって、東アジアの発展形態は、今まで見られた雁行形態的発展から、必ずしも国の発展段階による棲み分けが行われない、新しい発展形態に変化していることを示している。

第2節 急速に変化する東アジアの競争環境

1 東アジアの貿易投資障壁の低減・撤廃
 東アジアにおける貿易投資障壁は、@一九九四年のインドネシアでのAPEC第二回非公式首脳会議における「ボゴール宣言」を受けた各国・地域の自主的な取組み及びA一九九六年のWTOシンガポール閣僚会議において基本合意されたITA(Information Technology Agreement)が推進力となって、低減・撤廃が進んだ。
 このような貿易投資障壁の低減・撤廃は、東アジアにおける競争を促進させ、東アジアの成長の大きな原動力となっている。

2 欧米企業の東アジア進出の急増
 一九九〇年代の十年間で世界における直接投資(ストック)は約三倍になり、直接投資の伸びは貿易額の伸びを大きく上回って急増した。対東アジア直接投資は、世界全体での直接投資の増加を上回るペースで増加し、約四倍にまで増加した。一九九〇年代後半の世界的な企業の合併・買収(M&A)の増加に伴い、東アジアにおける国境を越えたM&A(クロスボーダーM&A)も同様に増加した。
 特に一九九七年のアジア通貨危機を契機に急増し、危機前後で比較すると、約三倍にまで増加した。中でも、欧米企業によるものが急速に増加しており、伸び悩む日本企業とは対照的である。このような欧米企業を中心とした外資系企業の東アジアへの進出は、現地企業の台頭とあいまって、更なる東アジアの競争力の向上に寄与するであろう。

3 中国経済の台頭と更なる市場経済化への前進
 近年の中国の産業構造の特徴は、繊維産業などの比較的労働集約的な産業と電気機械産業などの比較的技術集約的な産業の両方が大きく成長し、国際的にも競争力を持っていることである。一九八〇年代後半以降、一貫して、繊維産業及び機械産業の輸出比率はともに増加している。
 また、中国の産業発展過程の特徴としては、直接投資による外資系企業の進出が産業集積地の形成につながっていったことが挙げられる。例えば、外資系企業は中国全体の輸出の四六%、輸入の五二%(ともに一九九九年)、固定資本形成の一二%(一九九六年)を占めている。外資系の加工組立企業の立地が進んだことにより、地場の部品企業の立地が進み、さらに部品企業の集積が魅力となって加工組立企業が集積するという、集積が集積を生み出す好循環が生まれた。
 このような直接投資による外資系企業の進出によって発展をしてきた中国経済は、目覚ましい成長を遂げてきた。一九九〇年代で平均約一〇%の成長を遂げ、一九九八年には中国のGDPは、米国、日本、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアに次いで第七位の規模にまで達した。また、中国の輸出はこの十年間で約四倍に拡大し、一九九九年には世界第九位の輸出国となるに至った。東アジアにおいても、中国の東アジアに占めるGDPの割合は、一九八〇年の二五%から一九九九年の三七%にまで増大した。こうした中国の発展は、東アジア経済の成長にも大きく寄与し、東アジア経済を牽引している(一九九〇年代で東アジア全体の成長に対する寄与率は約四割)。
 さらに、中国の市場経済化への更なる前進を図るWTO加盟が、いよいよ現実味を帯びてきた。中国のWTO加盟により、鉱工業品の関税率の引下げや、流通分野における自由化等の市場アクセスから知的財産権保護までの広範囲な分野において、国際ルールに則った制度への改革が約束されている。WTO加盟による中国の市場経済化は、短期的には、中国国内における産業構造調整の圧力を増すが、長期的には、構造調整を通じて中国産業の競争力は強化され、中国経済の成長につながるであろう。
 さらにその結果、東アジア全体のダイナミックな産業・貿易地図の変化を促し、世界有数の製造センターとしての東アジアの競争力を一層高めることにつながると考えられる。

第2章 IT革命とビジネスのダイナミズム

 前章で概観した東アジアの成長の背景には、情報通信技術(IT:Information Technology)革命に伴うグローバリゼーションの加速があることを見逃すことはできない。ITは、大幅なコスト削減、取引先ネットワークの整備・拡大、市場に対する対応速度の大幅な向上を可能にする。このため、企業のパフォーマンスの巧拙が、ITの活用の仕方によって、従来に増して歴然となる時代となった。
 現在、ITを活用した生産性の向上や経済成長のための政策について、様々な議論が行われ、ITの経済成長への寄与度を検証する実証分析等が試みられている。しかしながら、産業・企業の競争力という観点から検討を行う場合には、よりミクロのレベルで、企業におけるIT活用の実態及び課題について検討を行うことが必要である。
 以上のような問題意識の下で、本章においては、まず第1節において、情報処理及び情報伝送分野における技術革新の現状を概観し、ネットワークインフラ等の問題について国際比較等を通じて検討を行う。
 次に、第2節において、企業におけるIT活用事例をみた後で、企業のIT活用戦略について国際比較を行い、日本企業の課題について指摘を行う。

第1節 IT革命の現状とネットワークインフラ等の課題

1 IT革命の現状
 今日のIT革新については、情報処理技術と情報伝送技術の革新に分けることができる。情報処理技術については、ここ三十年間で半導体の処理能力が一万倍を超える水準に達している。このような技術革新は、製品の小型化、価格の大幅な低下及び性能の飛躍的向上を可能とし、世界的な規模で情報関連機器のハードウェア及びソフトウェアの市場を爆発的に拡大させた。
 また、このような情報処理技術の革新により、今まで考えられなかったような大容量の情報を瞬時に処理し、取り扱うことが可能となった。これによって、生命情報工学(バイオインフォマティックス)など、新たな産業のフロンティアが切り拓かれている。
 情報処理技術の革新は、処理された大容量の情報を、高速・低コストで伝送することを可能とした情報伝送技術の革新によって、更にその可能性を広げている。具体的には、インターネット技術の普及や、光ファイバにおけるWDM(波長分割多重)技術等によって、大容量の情報を広範囲の者が交換することが可能となり、地球大の多角的な取引活動が可能となった。
 第2節で紹介するように、三次元CADによる設計情報に世界中の開発関係者がリアルタイムでアクセスし、開発リードタイムの短縮化が図られているのはこの一例である。

2 ネットワークインフラ等の課題
 我が国は本年一月に「e−Japan戦略」を策定し、@超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策、A電子商取引ルールと新たな環境整備、B電子政府の実現、C人材育成の強化について、具体的な目標と政策をとりまとめた。現在、我が国が置かれている状況を国際比較すると、IT社会における中心的な情報通信ネットワークであるインターネットについては、普及率は急速に上昇しているが、コスト及び速度については課題を抱えている。
 この背景としては、現在、インターネットアクセスの主流はダイヤルアップ接続であるが、その地域通信市場で十分な競争が行われなかったことが考えられる。電子政府の進捗状況については、米国等における電子申告・納税システムや、シンガポールにおけるワンストップ・サービス化された電子貿易手続きシステムなど、諸外国の先進事例から学ぶべきところも多い。
 人材育成においては、主要先進国及びNIEsでは、公立学校におけるインターネット普及率がほぼ一〇〇%に達している。これに対して、現状では、日本におけるインターネットの導入は大幅に遅れている。グローバルな競争が進む中にあって、ITを駆使した我が国産業・企業の国際競争力の向上が喫緊の課題であるが、そのためには超高速ネットワークインフラの整備を早急に推進する必要がある。

第2節 企業のIT活用戦略と日本企業の課題

1 企業のIT活用戦略
 ITを活用することによって、企業活動全般における経営革新が進んでいる。製品開発においては、従来、日本企業がコンカレント・エンジニアリング方式によって優位に立っていたが、三次元CAD(Computer Aided Design)システムが登場したことによって製品開発期間の短縮化等の可能性が高まり、競争力に大きな影響を与えるものと考えられる。
 また、日本のジャスト・イン・タイム(JIT)システムを研究した上で登場したSCM(Supply Chain Management)では、JITを上回る機能を備えるに至っている。また、顧客満足度の向上をサポートするCRM(Customer Relationship Management)の活用やITを活用した新たな国際展開も進んでいる。

2 企業のIT活用戦略の国際比較と日本企業の特色
 日本企業におけるIT活用戦略を、米・欧・アジアNIEs企業と比較すると、IT活用による効果が相対的に低い水準にとどまっている。この要因の一つとして、トップ・マネージメントをサポートするCIO(Chief Information Officer)の設置状況の低さに表れているように、技術と経営の両面を理解した上でITを活用していく体制が弱いことが挙げられる。
 また、具体的なアプリケーションの導入状況をみると、ERP(Enterprise Resource Planning)等の導入比率が低く、ITを活用した経営革新の取組みを進める企業の割合が低いことを示している。
 また、ITを活用したオープン化・国際化戦略をみると、外国企業はインターネットを活用してオープンな取引を進めているのに対して、日本企業は専用回線を使った系列企業間の取引を中心に行っており、国際取引を行っている企業の割合も低い。
 以上の国際比較から、日本企業のIT活用戦略は、@トップ・マネージメントのイニシアティブが発揮される体制が弱いこと、A既存の業務及び取引の効率化という観点が主であり、ITを活用した業務及び組織の改革、取引先の拡大、国際化といった経営革新を行う企業が相対的に少ないことが特色として挙げられる。

3 日本企業の課題
 ITの活用は、経営戦略における手段であり、企業の競争力の観点からは戦略構築能力が重要である。例えば、顧客満足度の最大化という経営戦略の下で、ITを最大限に活用して高成長を遂げている企業が見られる。IT活用を含めて、トップ・マネージメントのイニシアティブの下で経営戦略を展開していくことが重要である。
 このための日本企業の課題としては、まず、外国企業と比較して低い水準となっているトップ・マネージメントのインセンティブ報酬比率を高めることが重要である。また、トップのイニシアティブを迫る厳しい競争環境作りも必要である。さらに、成果を上げられなかった経営トップの円滑な入替えが可能となるよう、M&A関連制度の整備等が求められる。

第3章 グローバリゼーションの光と影

 第1章で概観した東アジアの成長や、第2章のIT革命を背景としたビジネスのダイナミズムに象徴されているように、貿易投資が拡大し、グローバリゼーションが進展するとともに、世界経済は発展を続けてきている。しかしながら、急速なグローバリゼーションの進展と世界経済の成長が進む一方で、雇用問題、環境問題の深刻化、貧富の格差拡大等のひずみも顕在化してきている。
 このような世界経済の発展に伴うひずみについては、これを貿易投資の拡大のために起きているとの立場をとる人々も存在する。その端的な例が、一九九九年のWTOシアトル閣僚会議以降の国際会議に際して、度々行われている過激なNGOによる大規模な抗議デモである。これらのNGOは、「反グローバリゼーション」という標語の下で、自由貿易システムの象徴的な存在であるWTOや国際開発機関である世界銀行、IMF等の主要な会合を目標に抗議行動を繰り返している。世界のマスメディアの注目が集まるこれらの会合は、自らの主張をアピールするための格好の機会ととらえられている。
 世界経済の発展とともに顕在化している、いわゆる「グローバリゼーションの影」の部分については、これに対する真摯な対応を行っていかなければ、世界経済が持続可能な成長を続けていくことに限界がある。同時にグローバリゼーションを止めたからといって、すべてが解決されるような問題ではない。
 個々の問題ごとに、その問題がどのような原因で生じているのかを踏まえた上で、包括的な対応策をグローバルな仕組みで考えていくことが求められている。また、政策的な対応によって、様々なひずみが生じないための対応が最も望ましいが、ひずみが生じた場合には、これを救済するためのセーフティネットの整備を行うことも重要である。
 本章においては、まず、第1節において、世界経済の発展の一方で生じているひずみと、それに対して懸念を表明するNGOの活動について紹介する。
 第2節では、雇用問題、南北格差、森林減少及び食品安全の諸問題について、その原因と対応策について概観した後で、社会的セーフティネットの整備について考察を行う。
 最後に、第3節において、グローバリゼーションの進む今日の世界経済が持続可能な成長を遂げるために最も重要な問題の一つである環境問題について取り上げ、持続的な経済成長と環境保全の調和に向けての現状と課題について検討を行うこととしたい。

第1節 グローバリゼーションの影と国際的なNGOの活動

1 グローバリゼーションの光と影
 戦後の世界経済が貿易投資の拡大等を通じて大きく成長を遂げた一方で、雇用、南北格差、森林減少、食品安全などといった広範囲にわたる社会問題も今日顕在化している。グローバリゼーションの進展とともに世界経済が発展する中で、様々なひずみも生じており、持続的な成長を遂げていくためには、このようなひずみに対する真摯な対応が迫られている。
 このような今日の世界経済の発展の中で見られるひずみに対して、「反グローバリゼーション」という標語の下で、雇用問題から環境問題、文化問題等にまでわたる様々な懸念を表明する動きも見られる。

2 注目を集めるNGOの動き
 グローバリゼーションに対する懸念の内容が世界規模であることを背景に、その懸念を唱える主体も国や一国内の一部の団体というよりは、むしろ国際的な広がりをもつNGO等の団体組織が大きな役割を果たしている。NGOの関心分野、活動内容、活動方法等は実に多種多様である。
 大規模な反政府デモンストレーションを行うNGOから、政府とパートナーシップを組んで問題解決に取り組むNGOまで様々である。中には、実力行動に出るNGOもあり、一九九九年にシアトルで開催されたWTO閣僚会議を皮切りに、国際会議の開催場所で「反グローバリゼーション」を標榜した大規模なデモンストレーションを実施し、国際的にも注目を集めた。
 他方、特定分野の専門知識や専門技能を社会に供給する役割を果たしているNGOも多く、世界銀行プロジェクトにNGO等が直接的・間接的に関与した割合は、一九八九年度の二〇%から一九九九年度の五二%にまで増加している。
 冷戦の崩壊に伴う情報統制の世界的な規制緩和が進むとともに、近年における情報技術及び国際メディアが発達したことを背景にして、各国の環境問題や貧困問題等に関して世界的な関心が高まっている。同時に、そのような問題に取り組む国際的なNGOの活動が活発になっている。特にインターネットの発達によって、NGOは情報発信力を強化するとともに、世界的なネットワークを形成することができるようになり、ますます世界的な存在感を高めている。

第2節 グローバリゼーションの影と政策課題

1 労働に関する問題
 途上国における強制労働や児童労働等が、先進国等の雇用を奪っているとの主張がある。このような主張は、@輸出国である途上国の労働者の権利擁護といった人権擁護の立場、A輸入国である先進国の産業・雇用保護のための保護貿易主義的な立場に大別される。
 途上国が労働環境を悪化させているのは、海外からの直接投資を誘致するために、途上国の不公正に低い労働基準が低賃金労働を容認しているからであり、こうした政策は先進国の雇用を奪うとの指摘がある。実際には、労働基準の低い国が直接投資を多く受け入れているのではなく、むしろ逆に労働基準が高い国の方が、より多くの直接投資を受け入れている。
 また、所得水準が高い国ほど労働基準も高く、労働基準と所得水準との間には強い相関関係がある。途上国の労働環境の改善を図るためには、労働基準の向上と貿易投資等による経済成長が相互補完的であることを踏まえ、貿易投資の拡大を通じた経済成長を図ることが必要である。

2 南北格差の問題
 グローバリゼーションの進展とともに、戦後の世界経済は大きく成長したが、多くのアフリカ諸国などに見られるように、必ずしもすべての国々がその成長の利益を享受しているわけではなく、むしろ先進国と途上国の所得格差は拡大している。経済成長の格差と貿易投資の関係をみると、第1章でも指摘したとおり、東アジア諸国は貿易の拡大とともに発展したのに対し、アフリカ諸国では貿易・経済成長の両面で停滞が続いている。貧困対策のためには、資本の蓄積、人材の育成、技術開発、ハード・ソフト面におけるインフラ整備を行っていくことが重要である。貿易投資についても、これを活性化させるような政策を講じていくことが、途上国の経済成長にとって重要である。

3 森林減少に関する問題
 現在、世界全体で日本の国土面積の約三分の一に相当する森林が毎年失われている。開発途上地域を中心に依然として続いている森林の減少・劣化は、森林が分布する国や地域での問題のみならず、生物多様性の減少、世界的な気候変動、砂漠化の進行等の世界的な問題を引き起こす場合も考えられ、国際的な懸念が高まっている。
 懸念を表明するNGOの中には、このような世界的な森林の減少の大きな要因として、国際貿易を指摘するものも見られる。しかしながら、林産物の生産量のうち、貿易の対象となっているものは約一割強であり、国際貿易だけが大きな要因であるとは必ずしも言えない。森林減少問題は人口の急増や貧困、焼き畑といった農業用地開発等の経済活動の活発化など、様々な社会経済的な状況が絡んだ複合的な問題である。森林の減少問題の解決のためには、貿易政策や森林政策、農業政策等を含め、森林減少の背景にある様々な要因に対する包括的な対応が求められている。また、このような地球規模の問題に対しては、国際的な取組みに積極的に対応していくことが必要である。

4 食品の安全に関する問題
 食品の安全基準をめぐっては、貿易の円滑化を推進するための国際的なハーモナイゼーションの必要性が高まる一方で、バイオテクノロジーの発展とともに、遺伝子組換え食品等の安全性の問題が指摘される中、各国が権利として確保する国民の衛生状態の向上という重要な政策課題も存在し、二つの政策目標を両立する上で困難が生ずる場合がある。
 グローバリゼーションの進展に伴い、国境を越えた企業活動の障壁を低減・撤廃する要請が働く一方で、この要請と各国の主権下にある国内的規範や社会経済制度の間に調整が求められることがある。国内制度の調和に係る国際規律と各国主権との調和は、今後更にグローバリゼーションが進展する時代にあって、ますます重要性を増す課題である。

5 グローバリゼーションに対する懸念の背景とセーフティネットの整備
 グローバリゼーションに対する懸念の主張内容は多種多様であるが、その中には必ずしも貿易投資の拡大と直接関係がないものも含まれている。貿易投資の拡大の結果として生じる問題は、@自国の雇用機会が他国の雇用に奪われているとする雇用の問題と、A企業の国際的な活動に伴う各国の社会経済制度の調整をめぐる各国の「公正」性の衝突の問題とに大別される。
 このような問題が生まれる背景には、グローバリゼーションによって生み出される経済発展の果実が、必ずしもすべての個々人または国々に平等に均てんされていないという事実がある。世界経済の持続可能な発展のためには、グローバリゼーションによって、格差や緊張といったひずみが極力生じないような制度設計に努めていかなければならない。そして、グローバリゼーションによってひずみが生じてしまった場合には、これに対するセーフティネットを整備することによって、急激な社会経済の変化に対する不安を取り除くことが必要である。グローバリゼーションを全面的に避けるのではなく、グローバリゼーションによって生み出されるひずみに対し適切に対応しながら、その活力を経済の発展につなげていくことが重要である。
 国内の労働環境の変化に対するセーフティネットとしては、構造的な失業に悩むEU諸国を中心に、積極的労働政策が注目されている。従来の労働政策が失業手当の給付といった事後的な消極的労働政策が中心であったのに対して、積極的労働政策は労働需給のマッチングを促進すると同時に、失業者の能力開発に重点を置き、円滑な労働移動を実現することを目的とする。
 国際的なセーフティネットとしては、食料援助等のいわば事後的な支援に加えて、途上国がグローバリゼーションの進展する世界経済に対応できるような社会経済体制の構築を支援していくことが重要である。世界最大の経済開発支援機関である世界銀行は、近年、市民社会とのパートナーシップ等を通じて、支援の実効性を高めることに努めている。

第3節 持続的成長と環境保全の調和に向けての課題

1 環境問題の現状
 グローバリゼーションの進展は、世界経済の発展をもたらすと同時に、地球環境に対する負荷をも生じさせている。廃棄物処理のような身近な問題から、地球温暖化や酸性雨、オゾン層の破壊といった地球的規模の問題まで、環境問題の領域は極めて多岐にわたる。
 近年の環境問題には、@影響の時間的・空間的広がり(長期化・広域化)、A産業部門から民生部門にまで及ぶ汚染主体の拡大、Bダイオキシン類等の新たな問題の発生、といった特徴が見られる。このように問題が複雑化する中で、国内レベルでの環境規制の強化に加え、国際環境条約に基づく取組みも活発化するなど、その対応もグローバル化している。

2 企業による自律的な環境保全への取組み
 環境問題への関心が高まる中で、ISO14000シリーズの取得や環境報告書の作成といった、企業による環境保全への取組みが積極化している。この背景としては、まず、環境対策を講じることは収益面でプラスである、もしくは、たとえ収益的にマイナスであるとしても、社会的責任を果たす上で必要なものである、との認識が企業の側で高まっていることが挙げられる。
 また、バルディーズ号の原油流出事故等に見られるように、環境汚染を行った場合の環境修復コスト等が膨大になる傾向にあることから、リスク回避としての環境対策が重要性を増していることに加え、消費者の環境指向が高まっていること、環境NGO等市民社会による企業活動への監視が強まっていることなども、企業に環境保全を促す要因になっていると考えられる。

3 持続的成長と環境保全の調和に向けた課題
 企業の自律的な環境保全に向けた取組みが進む一方で、経済原理による環境保全への動機づけが働きにくい分野を中心に政策的な対応が必要である。
 こうした分野としては、@先進国における民生・運輸部門のエネルギー消費、廃棄物問題、A途上国における産業公害・都市型公害・地球環境問題の同時発生、貧困と環境破壊の悪循環等、B越境型汚染や地球環境問題のような広域環境問題への対応等が挙げられよう。
 先進国では、こうした課題についても自律的なメカニズムを働かせるための取組みが進められているが、途上国では概して人的・技術的・資金的リソースが限られているため、必ずしも十分な成果は上がっていない。今後、持続的成長と環境保全との調和を図っていくためには、国際ルール、国内規制とその執行体制を整備するとともに、環境に関する税、課徴金や預託払戻制度(デポジット制度)等の経済的手法、企業による自主的な取組み等を有機的に組み合わせながら、自律的な環境保全の流れを作っていくことが重要である。

第4章 二十一世紀における対外経済政策の挑戦

 前章で検討を行った世界経済の成長に伴うひずみの問題は、市場経済を基本とした現代の世界経済システムに対する一つの警鐘と言える。そこで指摘されている様々な問題については、その因果関係を整理した上で、真摯な対応を行わなければ、市場経済システム自体の信頼性を喪失させる危険性をはらんでいることを十分に認識する必要がある。しかしながら、少なくとも現時点では、市場経済を基本とする経済システムを完全に代替し得る制度は存在しない。したがって、今後とも我々は市場経済システムを前提とした上で、それによる弊害を極力除去しながら、適切な経済政策を運営していく必要がある。
 一方、二十世紀後半が、我が国の復興や高度経済成長とともに生じた様々な対外的な摩擦への対応に追われた時代であったとすれば、二十一世紀は、急速に進むグローバリゼーションに対応した国内外の制度を積極的に構築すべき時代と言える。
 ともすると、かつては国内事業環境の整備は国内経済政策、海外事業環境の整備は対外経済政策により解決するものと考えられていた。しかしながら、国内問題が国際問題として顕在化し、国際問題が国内に波及する今日においては、常に国内外を視野に入れた「内外一体の経済政策」を実施していくことが求められている。
 内外一体の経済政策とは、我が国の国内経済政策及び対外経済政策を有機的に連携させることにより、国内外で調和のとれた市場環境を整備し、我が国経済の活性化を図ることである。つまり、我が国経済の活性化を図る際には、従来実施されてきたマクロ経済政策協調に見られる「国家間の政策の調和」の更なる促進に加えて、我が国が実施する国内政策と対外政策との間の相乗効果を最大化することが重要な課題となりつつある。
 このような目的を達成するために、対外経済政策については、従来どおり多国間(マルチ)の枠組みを主軸に据えながらも、地域、二国間(バイ)等、様々なフォーラムを重層的に活用するという方向へ既に方針の転換を行っている。しかしながら、多角的貿易自由化の実現こそが、我が国が自由貿易の恩恵を最大限享受するために必要な条件であるということは今後も変わらないであろう。その到達点に向けたプロセスとして、各フォーラムを重層的かつ柔軟に活用するということが、この政策転換の本旨である。
 本章では、まず第1節において、日本経済の現状と課題を整理した上で、内外一体の経済政策の一例として、国内の事業環境の魅力を向上させるための各種政策課題について検討を行う。
 次に第2節では、グローバリゼーションが進展し、内外の市場が一体化する中で、国際的な制度の構築及び調和を行う際の主要な課題と留意事項について考察する。
 最後に、第3節においては、我が国の対外経済政策を取り巻く環境の変化を整理し、多国間、地域、二国間という各種フォーラムを重層的に活用することの必然性について考察を行った上で、各フォーラムにおける我が国の取組みの現状と今後の課題について指摘を行い締めくくることとしたい。

第1節 求められる内外一体の経済政策

1 求められる内外一体の経済政策
 現在日本経済が直面している閉塞状況をもたらしている要因としては、@市場の成熟化、A国際化及び情報化の進展を通じた競争の激化、B諸外国における構造改革の進展等、我が国を取り巻く外部環境の変化に対する迅速な対応が十分に図れていないということが挙げられる。
 これは、我が国が戦後半世紀にわたり経済的な成功体験を積み重ねるに従い、変革期に必要な自己革新能力が低下してしまった点に、その本質的な要因があるのではないだろうか。日本経済がこうした変化に対応するための柔軟性と活力を取り戻すためにも、国内経済政策と併せて対外経済政策を一体的に活用することにより、内外で調和のとれた市場環境を整備し、構造改革を早期に実現していくことが必要である。

2 構造改革推進のための対内直接投資の積極的活用
 対内直接投資は、競争促進や技術の拡散を通じて我が国経済を活性化し得る有効な手段であるとともに、その規模は我が国の事業環境の魅力を測る際の一つのバロメーターとも言える。直接投資受入額は、賃金水準、あるいは産業の集積度合い等、多様な要因により決定されるため、一概に水準について国際比較による評価を行うことは難しいが、対日直接投資の規模は対米直接投資のわずか二十分の一の水準にすぎない。
 また国内総固定資本形成に占める対内直接投資の割合も〇・三%であり、世界平均の一一・一%と比較しても極めて低い水準となっている。対内直接投資を促進する際の課題については、様々な指摘がなされているが、今後我が国は@会計監査の厳格化を通じた企業情報の信頼性の向上、A事業再編を円滑化するための制度の見直し、B外国人の取締役・株主が柔軟に経営参加するための環境整備等を進めていくことが必要である。

3 対外経済政策の活用による国内市場環境の整備及び市場との対話の重要性
 近年の直接投資額の世界的な増加に伴い、投資に関連する多国間、二国間のルールを整備する動きも活発化している。多国間の投資関連のルールとしては、これまでにTRIM協定、GATS等が締結されており、二国間においては投資を保護・促進するための投資協定が締結されている。
 このほか、近年の自由貿易協定においては、モノ、カネ、ヒトの流れを円滑化し、直接的・間接的に投資を促進するための各種措置が盛り込まれている。今後我が国が対内直接投資を促進するためには、国内における制度改革を行うとともに、こうした対外経済政策を活用することにより、効率的に事業環境の改善を行っていくことが必要である。
 また、対内直接投資を促進するためには、政府が発信する政策の方向性(メッセージ)が海外の投資家や企業から評価され、実際の投資行動へと結びつくことが不可欠である。国内外で一体化された経済政策を運営していくことは、我が国の一貫した政策の方向性と構造改革に対する意志をメッセージとして市場に伝える上でも有効であろう。

第2節 グローバリゼーションの進展と制度の構築

1 これまでのルール・メイキングの進展
 十九世紀半ば以降の国際的なルール・メイキングの歴史を振り返ると、郵便、通信、度量衡といった国境を越える経済活動の円滑化のためのルール整備から、一九八〇年代以降には、国内制度の調整へと深化してきている。国際的なルール構築の要請は、水際措置から国内措置へ、貿易分野から非貿易分野へと対象範囲を拡大している。

2 新たな分野におけるルール・メイキング
 二十一世紀初頭の重要課題は、投資、競争政策、電子商取引分野の制度構築であり、多様なフォーラムにおいて検討が行われている。まず、各国の経済成長に大きく寄与している直接投資は、これまでもOECDの場における検討や、二国間投資協定(BIT)の締結が活発に行われてきたが、包括的なルールは未整備である。競争政策は、大規模な合併や提携への対応、競争法の国際的なハーモナイゼーションの必要性が高まっている。電子商取引については、市場の急速な発展に対応して、商取引のルール、電子署名、プライバシーの保護等について、国際ルールの整備が急務となっている。

3 二十一世紀型ルール・メイキングへ向けて
 国際社会におけるルール・メイキングにおいては、交渉参加国の増加や対象分野の多様化が進んでいる。こうした状況に対応してルール・メイキングを進めていくためには、多様性を認めていくことが必要である。例えば、@協定への参加者を弾力化する、A制度の統一化を図るのではなく、一定の自由度を認めるアプローチを採用する方法が考えられる。また、途上国に対して、新たな交渉に参加するインセンティブを与えるとともに、合意されたルールの履行を確保するための体制整備を行うため、途上国の能力向上が重要である。
 さらに、ルール・メイキングの迅速化が求められている中で、国際会計基準や国際標準等、専門性や能力の優れた民間部門がルール・メイキングの主体となる分野も出てきている。こうした分野における政府の役割も重要性を増している。例えば、我が国の優れた技術が国際標準となるよう、アジア太平洋諸国との協力関係の構築等、戦略的な取組みを展開していくことが必要である。

第3節 対外経済政策の戦略的な展開に向けて

1 我が国の対外経済政策を取り巻く環境の変化
 これまで我が国が享受してきた、@一貫した原理原則に基づき、加盟国に広く適用される貿易ルール、A中立的な紛争処理手続きといったWTOの機能は、いかなる自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)や経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)をもってしても代替することはできない。したがって、WTOは今後も我が国にとって最も重要なフォーラムである。
 一方、加盟国数の増加等によりWTOの機動性が低下傾向にある中で、EU、シンガポール、メキシコ、チリ等の諸外国による戦略的なFTAの締結が近年増加している。今日のFTAの特徴としては、@地域における貿易投資拠点の獲得を目指した非近接国間の協定の増加、A通商ルールのデファクト・スタンダード獲得を目指した協定の締結等が挙げられる。

2 地域統合の理論面・実証面からの分析
 FTAを含む地域統合の経済効果の理論的な枠組みは、@関税の引下げが資源配分の効率性に影響を与える静態的効果と、A生産性上昇や資本蓄積を通じて経済成長に影響を与える動態的効果の二つに分類される。また、FTAが多角的な貿易自由化を促進するのか、阻害するのかという観点から分析を行うツールとして、動学的時間経路の理論も発展しつつある。今後我が国は、こうした理論も踏まえつつ、多角的自由化を補完し得るEPA等の締結のあり方を模索していくことが必要である。
 なお、実証分析によれば、NAFTA締結後、@域内国のGDPの堅調な成長、A域内貿易比率の上昇、B域内への直接投資の増加、C域内国の失業率の趨勢的減少等が確認されている。EUについては、@域内GDP成長率のトレンドが、一九九二年の市場統合後一・一%増加、A域内への直接投資の増加、B域内競争の促進(価格差の減少)などが確認されている。

3 二十一世紀における対外経済政策の挑戦
 前記1の環境変化を踏まえ、第1節で述べた国内経済の閉塞状態からの早期脱却を図るためには、我が国は引き続きWTOを主軸に据えながらも、対外経済政策を積極的に推進していく必要がある。
 一方、@迅速なルールの策定、A多角的自由化のモメンタム維持、B国際的な制度構築ノウハウの蓄積、CFTA/EPAを締結しないことによる不利益の回避、D国内構造改革等の観点から、対外経済政策を推進する際には、多様なフォーラムを重層的に活用していく必要がある。
 対外経済政策に関する当面の政策課題としては、@WTOの信頼性向上と次期ラウンドの立上げ、AAPEC及びASEAN+3等の地域的なフォーラムの活用、B日シンガポール新時代経済連携協定等の二国間における取組みなどが挙げられる。
 なお、こうした重層的な対外経済政策の効果を最大化するためには、@WTO協定との整合性を確保しながら、A加速化する諸外国の交渉スピードに劣らぬ迅速さで、B各交渉フォーラムの間で有機的な連携を図る、といった条件を満たしていく必要がある。こうした条件を同時に満たすことは容易ではないが、我が国経済を早期に活性化させるためにも、果敢に挑戦していく必要がある。

結 び

 今回の通商白書は、二十一世紀に入って初めての白書である。また、経済産業省としても、初めての通商白書となる。この白書では、今日の我が国をめぐる環境を整理し、二十一世紀初頭における我が国の対外経済政策における課題を明らかにすることを試みた。
 まず、第1章においては、東アジアにおいて塗り替えられつつある貿易・産業構造のあり様や中国の台頭など、厳しい競争環境を紹介した。これは、第2章のIT革命を背景としたビジネスのダイナミックな変貌と併せて、我が国がグローバル経済の中でどのような位置に置かれているかを見据えることを念頭に置いている。グローバリゼーションが進む一方で、いや、むしろ進めば進むほど、経済社会の急激な変化が生じ、ひずみをもたらすことが懸念される。
 そうした思いから、第3章では、グローバリゼーションに対する懸念に光を当てた。環境、貧困、労働、森林減少等、グローバリゼーションに対する懸念として指摘されている問題は、いずれも深刻な問題である。これらの課題に対して、人類はますます真摯な対応を迫られている。しかし、我々は、グローバリゼーションという船から飛び降りることはできない。市場経済システムにとって代わることのできるパラダイムが存在しない今日においては、我々は、ますます加速するグローバリゼーションの中で、日本の歩むべき進路を考えていかなければならない。
 第4章では、こうした観点から、我が国の構造改革の問題や国際的なルール・メイキングの課題を取り上げた。
 この四つの章立てによって、国民一人一人が我が国の進路を考えていく際の材料と視座を提供することを企図している。
 この白書を締めくくるに際して、最後に三つの点を強調しておきたい。まず、第一に、我々が直面する問題の多くが、もはや、国内問題として閉じた形で対応することが意味をなさず、国内政策と対外政策を切り離して語ることはできなくなったことである。モノ、カネ、ヒト等の資源は、グローバルな拠点に展開し、それらが情報ネットワークで複層的に結ばれている。このような時代にあっては、対外経済交渉もかつてのように、自国の販路をいかに確保するかといった単純な国益調整の構図ではあり得なくなった。
 翻ってみると、近代の我が国の対外経済政策は、米国の対中貿易拡大に伴う太平洋航路の確保と対日貿易等を求めた一八五四年の日米和親条約及び一八五八年の日米修好通商条約をめぐる通商交渉から始まった。爾来、対外関係は不平等条約の改正から、日本経済の拡張に伴う通商摩擦へと、エネルギーの太宗を摩擦対応に費やしてきた。二十一世紀における我が国の対外経済政策は、従来の通商をめぐる利害関係調整型ではなく、第4章で考察したような、国内外のマーケットにおける建設的なルール構築型に軸足を移すことが求められている。
 第二に、我が国経済の閉塞状態からの脱却から、環境問題への対応に至るまで、我々の直面する課題は、いずれも市場メカニズムをうまく働かせるような枠組みの下で解決していく以外に手だてはない。例えば、第3章で見たとおり、外部不経済が存在する環境等の分野については、これを内部化するような仕組みが求められる。特に、地球温暖化問題等、グローバルな問題については、世界的なレベルで外部不経済を内部化するという困難な問題解決を行わなければならない。しかしながら、民主主義と市場経済という、我々が前提とする社会の基本的な枠組みの下では、それぞれの課題に携わる者のインセンティブが働く仕組みを作らなければ、決して持続可能な解決とはなり得ない。
 第三に、我々日本人の自己革新能力の低下の問題である。例えば、第2章における企業のIT活用戦略の中では、ITを活用した経営革新を行うのではなく、ITを既存の組織や業務を前提として活用しようとする傾向が強い日本企業の姿が浮き彫りになった。
 また、第4章では、我が国経済を取り巻く環境変化に十分なスピードで対応が図れておらず、その背景に、あまりにも長く平穏な安定成長が続いたことによって、思考方法の柔軟性が低下し、体制の硬直化を招いているとの指摘を行った。人は誰しも成功が積み重ねられるほど、今までのやり方を踏襲しようとするのが常であり、その結果、柔軟性を失いがちである。そうした意味では、成功の裏には常に衰退の要因が隠されている。無論、我が国においても、改革に向けての積極的な取組みが始められている。
 しかしながら、競争相手もそれ以上のスピードで絶え間なく改革を続けており、グローバル経済の下では、その速さが競われている。我々は、このような状況を十分に踏まえながら、自己革新に取り組んでいかなければならない。
 困難な経済状況から、我が国の二十一世紀はスタートした。しかしながら、歴史的にも我が国は、より厳しい国民的な困難を幾度となく切り抜けてきている。むしろ困難を糧としながら、再び活力ある日本を目指して取り組んでいかなければならない。二十一世紀における対外経済政策も、その目標に向かって挑戦していくことが求められている。



 すててこ


 夏のズボン下として男性が用いる「すててこ」は、ひざ下までの長さで、通気性に富む下ばきの一種です。「すててこ」の名は、初代とされる三遊亭円遊が、明治十三(一八八〇)年にはやらせた「すててこ踊り」に由来します。
 寄席の高座で、じんじんばしょり(着物の後ろのすそをつまみ、帯の結び目の下にはさんだ格好)の円遊は下ばきを見せながら下座の鳴り物をフルに使い、片ひじをたたいて手首をピョコピョコさせたり、大きな鼻をつまんでは投げ捨てるまねを繰り返したりして踊りました。
 投げ捨てるたびに「捨てていこう」という意味で、「すててこ、すててこ」というはやし言葉を使ったので、「すててこ踊り」と呼ばれ、下ばきに「すててこ」の名がついたというわけです。
 それまで、落語家は座ったままで踊るしきたりでしたが、それを破ったナンセンスな踊りの目新しさが人気を呼び、宴席の余興でも大流行しました。
 以来、百二十年、踊りは忘れられましたが、「すててこ」はまだ生き延びているようです。




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賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査 平成十三年四月分結果速報


厚生労働省


 「毎月勤労統計調査」平成十三年四月分結果の主な特徴点は、次のとおりである。

◇賃金の動き

 四月の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は二十九万二千五百五円、前年同月比は〇・二%増であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十八万五千四百四十五円、前年同月比〇・二%減であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十六万六千二百一円、前年同月比〇・一%減、所定外給与は一万九千二百四十四円、前年同月比は一・五%減であった。
 また、特別に支払われた給与は七千六十円、前年同月比は一七・三%増であった。
 実質賃金は、〇・九%増であった。
 きまって支給する給与の動きを産業別に前年同月比によってみると、伸びの高い順に鉱業一・七%増、金融・保険業一・五%増、不動産業一・四%増、卸売・小売業,飲食店〇・八%増、建設業〇・二%増、製造業〇・一%減、電気・ガス・熱供給・水道業〇・四%減、運輸・通信業一・九%減であった。

◇労働時間の動き

 四月の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は一五八・三時間、前年同月比は〇・九%減であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は一四八・三時間、前年同月比〇・八%減、所定外労働時間は一〇・〇時間、前年同月比二・〇%減、所定外労働時間の季節調整値は前月比一・五%減であった。
 製造業の所定外労働時間は一三・五時間、前年同月比三・五%減、季節調整値の前月比は一・五%減であった。

◇雇用の動き

 四月の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・二%減、常用労働者のうち一般労働者では一・〇%減、パートタイム労働者では二・六%増であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、前年同月を上回ったものはサービス業一・九%増、不動産業一・六%増、建設業〇・九%増であった。前年同月を下回ったものは運輸・通信業〇・五%減、卸売・小売業,飲食店一・〇%減、製造業一・六%減、鉱業三・〇%減、金融・保険業五・〇%減、電気・ガス・熱供給・水道業六・六%減であった。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者二・〇%減、パートタイム労働者〇・四%増、卸売・小売業,飲食店では一般労働者二・一%減、パートタイム労働者〇・七%増、サービス業では一般労働者〇・九%増、パートタイム労働者六・一%増であった。










 第一回「二十一世紀出生児縦断調査」


 少子化の時代にあって誕生した赤ちゃんは、ご家庭のみならず、社会全体にとってもかけがえのない財産だといえます。
 新たな世代を担う希望に満ちた赤ちゃんを健やかに、かつ安全に育てるために、「二十一世紀出生児縦断調査」が実施されます。
 本年度から本格的に行われるこの調査は、今世紀初頭に誕生した子どもについて継続して調べる日本初の統計調査です。子どもの成長の様子や、子育てに関する環境・意識・行動の変化などを把握することで、安心して子どもを産み育てられる環境づくりを実現することを目的としています。
 今年めでたく赤ちゃんが誕生したご家庭には、本調査への快いご協力をお願いいたします。
●調査対象…平成十三年一月十日〜十七日、七月十日〜十七日に生まれた赤ちゃんのいらっしゃるご家庭が調査の対象となります。
●調査期間…一月に生まれた赤ちゃんについては平成十三年八月一日、七月に生まれた赤ちゃんについては平成十四年二月一日に実施されます。
●主な調査事項…家族構成、子育て観、夫婦の家事・育児分担状況、子育ての悩み相談先、収入・就業・住居の状況、父母の生活習慣、などです。
●調査方法…調査の対象となったご家庭に調査票が郵送されます。ご記入の上、厚生労働省へ直接ご返送ください。
●調査結果の公表…集計および結果の公表は、厚生労働省より「二十一世紀出生児縦断調査の概況」として、すみやかに公表されます。
●問い合わせ先…厚生労働省大臣官房統計情報部 рO3―3595―2413
http://www.mhlw.go.jp/
(厚生労働省) 




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月例経済報告(六月報告)


―景気は、悪化しつつある―


内 閣 府


総 論

(我が国経済の基調判断)
 景気は、悪化しつつある。
・個人消費は、おおむね横ばいの状態が続いているものの、足元で弱い動きがみられる。失業率は高水準で推移している。
・輸出、生産が引き続き減少している。
・企業収益の伸びは鈍化し、設備投資は頭打ちとなっている。
 先行きについては、在庫の増加や設備投資の弱含みの兆しなど、懸念すべき点がみられる。

(政策の基本的態度)
 政府としては、六月末を目途に経済財政諮問会議において「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(仮称)」を取りまとめ、不良債権の最終処理、二十一世紀の環境にふさわしい競争的経済システムの構築、財政構造の改革等の経済・財政の構造改革を断行する。

各 論

一 消費・投資などの需要動向

 平成十三年一〜三月期の実質GDP(国内総生産)の成長率は、公的固定資本形成がプラスに寄与したものの、民間企業設備、民間住宅、財貨・サービスの純輸出(輸出―輸入)がマイナスに寄与したことなどから、前期比で〇・二%減(年率〇・八%減)となった。また、名目GDPの成長率は前期比で〇・六%増となった。
 なお、平成十二年度の実質GDPの成長率は、〇・九%増となった。

◇個人消費は、おおむね横ばいの状態が続いているものの、足元で弱い動きがみられる。
 需要側統計である家計調査でみると、平成十三年三月にマイナスに転じた実質消費支出は、先月より減少幅は縮小しているものの、二か月連続の減少となった。
 また、家計調査をベースに、振れの大きい高額消費を除外し、別途供給側の統計を用いるなどしてマクロの消費動向を推計した消費総合指数(需要側)についても、減少幅は先月より縮小しているものの二か月連続で減少しており、足元で弱い動きがみられる。
 販売側統計をみると、改善の動きがみられていた小売業販売額はこのところ減少している。百貨店では営業時間の延長などの影響もあり明るい動きがみられるものの、百貨店販売額やチェーンストア販売額は、依然として弱い動きが続いている。
 耐久消費財についてみると、家電リサイクル法施行前の駆け込み需要もあり好調に推移していた家電販売金額は、パソコンの大幅な減少などにより前年を下回った。なお、三月販売分の一部が四月に計上されたこともあり、予想された駆け込み需要の反動減はみられなかった。新車販売台数は、稼働日数が増加したことから五月は前年を上回ったが、依然として伸び悩んでいる。
 旅行は、国内旅行は前年をやや上回ったものの、海外旅行は下回っており、総じてみると引き続き減速感がみられる。
 こうした需要側と販売額の動向を総合してみると、個人消費は、おおむね横ばいの状態が続いているものの、足元で弱い動きがみられる。
 個人消費の動向を左右する家計収入の動きをみると、特別給与の増加により現金給与総額は微増となったものの、定期給与をみると四か月連続で減少しており、弱い動きが続いている。

◇設備投資は、頭打ちとなっている。産業別にみると、製造業は堅調に増加しているものの、非製造業では弱含んでいる。
 設備投資は、平成十一年末に持ち直しに転じて以降増加基調が続き、これまで景気を支える要素であった。しかしながら、「法人企業統計季報」でみると、一〜三月期の設備投資は、製造業は堅調に増加しているものの、非製造業では前年比減少となり、全体として頭打ちとなっている。また、機械設備投資の参考指標である資本財出荷は、このところ弱含んでいる。
 設備投資の今後の動向については、日銀短観の平成十三年度設備投資計画において非製造業を中心に減少が見込まれていること、機械設備投資の先行指標である機械受注が一〜三月期は前期比マイナスとなっており四〜六月期もほぼ横ばいの見通しとなっていることなどからみて、弱含みの兆しがみられる。

◇住宅建設は、弱含みとなっている。
 住宅建設は、平成十一年以降おおむね年率百二十万戸前後で推移してきたが、このところ弱含んでいる。年初来の動きをみると、一月、二月と二か月連続で減少した後、三月は一旦水準を戻したが、四月は公庫持家が対前月比で約一九%減少したのをはじめ、持家、貸家、分譲住宅の全てが対前月比で減少したことから、年率百十三万七千戸となった。
 先行きについてみると、住宅金融公庫融資の申し込み戸数が減少していることなど、住宅着工を減少させる要因が引き続きみられる。

◇公共投資は、総じて低調に推移している。
 公共投資は、総じて低調に推移している。平成十二年度の公共事業関連予算は、国の補正後予算が比較的高水準であった前年度を下回り、地方も厳しい財政状況から投資的経費を抑制する動きが続いている。このような状況を反映して、工事の前払金保証契約実績に基づく公共工事請負金額は、昨年六月以降三月まで継続して前年を下回っていた。また、年度末にかけて発注が集中する一〜三月期の受注には、前年を大きく下回る指標がみられた。
 新年度に入り、四月には大手五十社の受注額が前年を上回ったほか、請負金額もおよそ一年ぶりに前年を上回ったが、これらには前年度当初の発注が五月以降にずれ込んだために、前年四月の水準が大きく落ち込んでいたことなどの影響が考えられる。また、年度当初は発注額が比較的小さく、前年比が振れやすいことにも留意する必要がある。
 四〜六月期の公共投資については、平成十三年度当初予算における国の公共事業関係費については前年度とほぼ同額を確保していること、地方の投資的経費の削減幅が前年度に比べて縮小していることなどから、一〜三月期のように前年を大きく下回ることはないものと考えられる。

◇輸出、輸入は、ともに減少している。貿易・サービス収支の黒字は、おおむね横ばいとなっている。
 輸出は、アメリカやアジアの景気減速を背景として、半導体等電子部品などの電気機器を中心に減少している。地域別にみると、アジア、アメリカ、EUのいずれの地域向けも減少している。
 輸入は、IT関連需要の鈍化を背景に、半導体等電子部品などIT関連財を中心とした機械機器が減少しており、全体としても減少している。アジアNIEsからの輸入が機械機器を中心に減少、アジア全体としてもやや弱含んでおり、アメリカ・EUからの輸入は、足元で減少している。
 国際収支をみると、昨年秋以降、輸出数量の減少などから減少してきた貿易・サービス収支の黒字は、輸入数量の減少などからこのところおおむね横ばいとなっている。

二 企業活動と雇用情勢

◇生産は、引き続き減少する中で、在庫が増加している。
 鉱工業生産は、平成十一年初めの景気回復初期から増加基調を続けてきたが、平成十二年秋頃から増加のテンポが緩やかになり、今年に入ってから減少が続いている。輸出の減少等により、IT関連品目の生産が減少していることが主因である。
 生産の先行きについては、五月は増加、六月は減少が見込まれているが、この見込み伸び率どおりに推移した場合、四〜六月期も前期比減少となることには留意しておく必要がある。また、電子部品や化学、鉄鋼等の生産財を中心に在庫が増加していることも、生産の先行きに関して懸念すべき点である。
 一方、第三次産業活動の動向をみると、サービス業を中心に、このところ緩やかに増加している。

◇企業収益は、これまでの高い伸びが鈍化している。また、企業の業況判断は、製造業を中心に急速に悪化している。倒産件数は、やや高い水準となっている。
 企業収益は、平成十一年以降改善しており、特に平成十二年半ば以降は大幅な改善が続いていた。今回の改善の背景としては、企業のリストラ努力が挙げられるが、製造業において売上高が伸びていることや、非製造業において平成十二年初までは変動費を削減してきたことも大きく寄与していた。しかし、日銀短観によると平成十二年度下期から平成十三年度上期にかけて伸びが鈍化する見込みとなっており、「法人企業統計季報」によると平成十三年一〜三月期における経常利益は前年同期比横ばいとなった。
 企業の業況判断については、日銀短観をみると、電気機械を中心に製造業で急速に悪化するなど、大企業・中小企業、製造業・非製造業の別を問わず悪化がみられる。また、「法人企業動向調査」で業界景気の判断をみると、製造業、非製造業ともに悪化している。
 また、四月の倒産件数は、東京商工リサーチ調べで一千五百七十五件となるなど、やや高い水準となっている。

◇雇用情勢は、依然として厳しい。完全失業率が高水準で推移し、求人や残業時間も弱含んでいる。
 完全失業率は、四月は前月比〇・一%上昇し四・八%となった。
 また、雇用情勢の先行きを懸念すべき動きが引き続きみられる。新規求人数は、前月比では一月から三か月連続で減少し、四月は増加となった(四月前月比四・九%増)が、基調としては引き続き弱含んでいる。製造業の残業時間は、生産の動きを反映し、六か月連続で前月比減となっている。「残業規制」等の雇用調整を実施した事業所割合は、一〜三月期はやや上昇した。

三 物価と金融情勢

◇国内卸売物価、消費者物価は、ともに弱含んでいる。
 国内卸売物価は、電気機器や鉄鋼の下落などにより、平成十三年入り後弱含んでいる。五月は前月比保合いとなったが、上昇した食料用農畜水産物の変動は季節的なものである一方、電気機器、輸送用機器などは値下がりが続いており、基調としては継続して下落している。輸出物価(円ベース)は、契約通貨ベースで電気機器(集積回路)などが値下がりしたことに加え、円高の影響を受け前月に比べ下落した。輸入物価(円ベース)は、契約通貨ベースで機械器具(集積回路)などが値下がりしたことに加え、円高の影響を受け前月に比べ下落した。なお、企業向けサービス価格は、前年同月比で下落が続いている。
 消費者物価は、繊維製品などの下落により、平成十二年秋以降、弱含んでいる(生鮮食品を除く総合:四月前年同月比〇・五%下落)。なお、五月の東京都区部では、前年同月比下落幅は前月と同じであった(同:五月前年同月比〇・九%下落)。
 こうした動向を総合してみると、持続的な物価下落という意味において、緩やかなデフレにある。

◇金融情勢については、短期金利は、年明け以降、日本銀行による金融緩和措置等を受けて、低下傾向で推移している。
 短期金利についてみると、オーバーナイトレートは、五月は、日本銀行による金融緩和措置の浸透を受けて、おおむね〇・〇一%で推移した。二、三か月物は、年明け以降、日本銀行による金融緩和措置等を受けて、低下傾向で推移している。長期金利は、景気の先行きを懸念する市場の見方などもあって、昨年秋より低下基調で推移し、三月下旬には一・〇%台まで低下した。その後は一旦上昇したものの再び低下し、五月は、ほぼ横ばいで推移した。
 株式相場は、昨年春より下落基調で推移してきたが、三月中旬以降反転し、四月末から五月上旬にかけて構造改革期待の高まりや堅調な米国株価の動向等を背景に上昇した後、五月末にかけて徐々に下落した。
 対米ドル円相場は、昨年末から円安が進んでいたが、五月は、中旬にかけて百二十一円台〜百二十三円台の狭い範囲での値動きとなった後、下旬はユーロ安につられる形で上昇し、百十九円台となった。対ユーロ相場は、昨年末からユーロ独歩高が進んできたが、五月は、上中旬に百七円台から百十円台で推移した後、下旬には百二円台まで大きく上昇した。
 M+CD(月中平均残高)は、昨年後半以降、おおむね前年同月比二・〇%増程度で推移してきたが、年明け以降、郵便貯金からの資金シフト等を受けて、やや伸び率を高めている(五月速報:前年同月比二・九%増)。民間金融機関の貸出(総貸出平残前年比)は、九六年秋以来マイナスが続いており、企業の資金需要の低迷などを背景に、依然低調に推移している。貸出金利は、ゼロ金利政策解除後緩やかに上昇してきたが、年明け以降下落傾向にある。

四 海外経済

◇アメリカの景気は、弱い状態となっている。アジアでは景気の拡大テンポは鈍化している。
 世界経済をみると、全体として成長に減速がみられる。
 アメリカでは、個人消費や住宅投資などに底堅い動きがみられ、消費者心理に下げ止まりの兆しもみられる。一方で、企業収益の悪化から設備投資が抑制されているなど、内需は緩やかな伸びにとどまっている。在庫調整が進むなかで、生産活動が停滞している。雇用は製造業等を中心に減少しており、失業率は上昇傾向にある。景気は、弱い状態となっている。先行きについては、企業収益の悪化などで弱い状態が続く懸念がある。なお、六月七日、今後十年間で総額一兆三千五百億ドルの減税法案が成立し、おおむね九月末までに戻し減税が行われることとなった。
 ヨーロッパをみると、ドイツでは、景気の拡大テンポは鈍化している。フランスでは、景気は安定した拡大を続けているものの、企業の先行き見通しは悪化している。イギリスでは、景気は緩やかに拡大している。
 アジアをみると、中国では、輸出の伸びに鈍化がみられるものの、個人消費や固定資産投資が堅調に推移しており、景気の拡大テンポはやや高まっている。韓国では、生産や個人消費の伸びの鈍化に加えて、輸出の伸びが鈍化したことから、景気は減速している。
 金融情勢をみると、アメリカでは、五月十五日のFOMCで短期金利の誘導目標水準が〇・五%ポイント引き下げられ、四・〇〇%とされた。ヨーロッパでは、欧州中央銀行(ECB)が、五月十日に政策金利(短期オペの最低応札金利)を〇・二五%ポイント引き下げ、四・五〇%とした。また、イギリスでも同日、政策金利が〇・二五%ポイント引き下げられ、五・二五%とされた。
 国際商品市況をみると、夏場のガソリン需要期を控え、原油価格は上昇した。



    <7月11日号の主な予定>

 ▽高齢社会白書のあらまし…………………………内 閣 府 

 ▽家計総世帯集計・単身世帯収支調査結果………総 務 省 




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標題の右の数字は発行月日、その右の括弧数字は掲載ページを示す。なお、現在の省庁名で統一しています。

  〔国 会 関 係〕

第百五十一回国会
 内閣が提出を予定している法律案・
 条約要旨調(内閣官房)………………3・28…(6)
平成十三年度予算の概要(財務省)……4・11…(1)

  〔白 書 関 係〕

犯罪白書(法務省)………………………1・10…(1)
国民生活白書(内閣府)…………………1・17…(1)
我が国の文教施策(文部科学省)………1・24…(1)
公益法人に関する年次報告………………1・31…(1)
世界経済白書(内閣府)…………………2・7……(1)
運輸白書(国土交通省)…………………2・14…(1)
障害者白書(内閣府)……………………2・28…(1)
規制緩和白書(総務省)…………………3・7……(1)
消防白書(消防庁)………………………3・21…(1)
地方財政白書(総務省)…………………5・16…(1)
原子力安全白書(原子力安全委員会)…5・23…(1)
食料・農業・農村白書(農林水産省)…5・30…(1)
林業白書(林野庁)………………………6・6……(1)
漁業白書(水産庁)………………………6・20…(1)

  総 務 省 関 係

<総 務 省>
単身世帯収支調査結果の概要
 平成十二年度四〜九月期平均速報……1・31…(13)
平成十二年七〜九月期平均家計収支……1・31…(15)
平成十二年平均
 東京都区部消費者物価指数の動向……3・7……(14)
巳年生まれは一千八万人…………………3・21…(14)
二〇〇一年の新成人は百五十七万人……3・21…(15)
平成十二年平均
 全国消費者物価指数の動向……………4・4……(10)
労働力調査
 平成十二年平均結果の概要……………4・25…(1)
平成十二年平均家計収支…………………4・25…(4)
平成十二年貯蓄動向調査の結果…………5・9……(1)
単身世帯収支調査の概況…………………5・9……(7)
平成十二年度平均
 東京都区部消費者物価指数……………5・9……(16)
家計調査
 平成十二年平均結果の特徴……………5・16…(14)
我が国のこどもの数………………………6・6……(13)
平成十二年人口移動の概要………………6・13…(1)
平成十二年度平均
 全国消費者物価指数の動向……………6・13…(4)
労働力調査特別調査(二月)……………6・13…(5)
平成十二年度平均家計収支………………6・20…(10)

<公害等調整委員会事務局>
全国の公害苦情の実態……………………2・21…(1)

  財 務 省 関 係

<国 税 庁>
申告納税制度を支えるために……………5・30…(12)

  文部科学省関係

平成十一年度
 体力・運動能力調査の結果……………2・14…(8)
平成十二年度 学校基本調査……………4・18…(1)

  厚生労働省関係

平成十二年
 賃金構造基本統計調査結果の概要
   (初任給)…………………………2・7……(6)
平成十二年
 賃金構造基本統計調査結果速報………6・27…(1)
中小企業退職金共済制度…………………6・27…(12)

  会計検査院関係

平成十一年度 決算検査報告の概要……3・14…(1)

  〔毎月公表されるもの〕

▽月例経済報告……………………………内 閣 府
平成十二年十二月報告……………………1・17…(13)
平成十三年一月報告………………………2・14…(13)
  〃  二月報告………………………3・28…(14)
  〃  三月報告………………………4・18…(23)
  〃  四月報告………………………5・30…(6)
  〃  五月報告………………………6・13…(11)

▽消費者物価指数の動向…………………総 務 省
平成十二年十一月の消費者物価指数……2・7……(12)
  〃  十二月の消費者物価指数……3・7……(8)
平成十三年一月の消費者物価指数………4・4……(4)
  〃  二月の消費者物価指数………4・25…(9)
  〃  三月の消費者物価指数………5・9……(13)
  〃  四月の消費者物価指数………6・6……(7)
  〃  五月の消費者物価指数………6・27…(8)

▽家計収支…………………………………総 務 省
平成十二年九月分家計収支………………1・10…(14)
  〃  十月分家計収支………………2・14…(11)
  〃  十一月分家計収支……………2・28…(15)
  〃  十二月分家計収支……………4・4……(14)
平成十三年一月分家計収支………………5・16…(12)
  〃  二月分家計収支………………5・23…(5)
  〃  三月分家計収支………………6・20…(6)

▽労働力調査(雇用・失業の動向)……総 務 省
平成十二年九月及び
 平成十二年七〜九月
     平均結果の概要………………1・17…(11)
平成十二年十月結果の概要………………1・24…(14)
  〃  十一月結果の概要……………2・21…(11)
平成十二年十二月及び
 平成十二年十〜十二月
     平均結果の概要………………3・28…(11)
平成十三年一月結果の概要………………4・25…(6)
  〃  二月結果の概要………………5・23…(7)
平成十三年三月及び
 平成十三年一〜三月
     平均結果の概要………………6・6……(10)
  〃  四月結果の概要………………6・20…(8)

▽毎月勤労統計調査
 (賃金、労働時間、雇用の動き)……厚生労働省
平成十二年九月分結果速報………………1・17…(8)
  〃  十月分結果速報………………2・21…(14)
  〃  十一月分結果速報……………3・7……(11)
  〃  十二月分結果速報……………4・4……(7)
平成十三年一月分結果速報………………4・18…(20)
  〃  二月分結果速報………………5・9……(10)
  〃  三月分結果速報………………6・13…(8)

  〔四半期ごとに公表されるもの〕

▽普通世帯の消費動向調査………………内 閣 府
平成十二年十二月実施調査結果…………4・4……(1)
平成十三年三月実施調査結果……………5・30…(8)

▽法人企業動向調査………………………内 閣 府
平成十二年九月実施調査結果……………1・24…(7)
  〃  十二月実施調査結果…………4・18…(12)
平成十三年三月実施調査結果……………5・23…(10)

▽景気予測調査……………………………財 務 省
平成十二年十一月調査……………………3・28…(1)
平成十三年二月調査………………………5・2……(8)

▽法人企業統計調査………………………財 務 省
平成十二年七〜九月期……………………3・21…(7)
平成十二年十〜十二月期…………………5・2……(1)


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