官報資料版 平成13年7月18日




                  ▽環境白書のあらまし……………………………………………環 境 省

                  ▽平成十三年三月 個人企業営業状況調査結果の概要………総 務 省

                  ▽家計収支(四月分)……………………………………………総 務 省











環境白書のあらまし


環 境 省


 平成十三年版環境白書(「平成十二年度環境の状況に関する年次報告」及び「平成十三年度において講じようとする環境の保全に関する施策」)が、五月二十九日に閣議決定の後、国会に報告、公表されました。第一部の序説のあらましは、以下のとおりです。

<序 説> 地球と共生する「環(わ)の国(くに)」日本を目指して

第1章 二十一世紀社会の環境政策に与えられた課題とその基本戦略

第1節 環境問題の変容と私たちの社会の進むべき方向を見据える

1 社会経済の構造変化と環境問題の変容
(1) 二十一世紀初頭の社会経済の構造変化
 二十世紀最後の十年間、わが国の社会経済の構造変化を加速させた大きな二つの世界的な潮流が「情報化」と「グローバル化」でした。情報化の進展や世界貿易の拡大などを背景に、資金、物、人、情報の国境を越えた流れが飛躍的に増大し、人々の価値観にも多大な影響を及ぼしています。二十一世紀初頭にかけても続くと考えられる、これら社会経済の潮流は、産業構造やライフスタイルの変化など、社会経済の構造に様々な影響を及ぼしています。
(2) 態様を変える環境問題
 私たちのライフスタイルは、情報化やグローバル化の進展や経済成長、家族構成、居住地域などの影響を受けて、知らず知らずのうちに変化しています。環境への影響と生活や産業形態は密接に関わっていることから、環境問題も同時に変容しています。
 例えば、カラーテレビは、一九七〇年(昭和四十五年)〜八五年頃には、技術開発により大幅な省エネルギー化が実現しましたが、その後、大型モデルの普及などにより、一台当たりの消費電力量は一時期かえって増大しました。また、普及台数の増加により、家庭におけるカラーテレビの消費電力量は増え続けています。同様に産業についても、環境対策が進んでいる一方で、経済活動の拡大や大量生産、大量消費の帰結としての大量の廃棄物の発生など、環境負荷の増大が生じています。環境問題の解決のためには、社会経済活動のあり方やライフスタイルを、表面的ではなく根源に遡って考え直す必要があります。
 さらに、私たちの経済活動、産業活動、そして日常生活による環境への影響は、深刻な地球環境問題を発生させることとなっています。地球環境問題の個別の原因やその影響は様々ですが、突き詰めていくと、有限な地球上での人口増加と経済活動の拡大が主な原因です。また、グローバル化などの社会経済の変化が問題の深刻化に影響を与えているのです。個別の環境問題が相互に複雑に関連しながら、自然の物質循環や生態系へ大きな影響を及ぼすことを通じて、人類の存続を脅かす存在となるのです。

2 私たちの社会の進むべき方向
 環境の面はもとより、経済的な面、社会的な面においても可能な限り、質の高い生活のできる社会を実現するためには、私たちの社会自体を持続可能なものに変えていくことが必要です。そのためには、資源・エネルギーと環境の両面において高い効率性を達成することにより、経済の成熟化を伴いながら、資源とエネルギーの大量消費に依存しない、新しい段階に移行していかなければなりません。こうして私たちの社会を持続可能なものへ転換していく過程で得られた経験や、今後得られる経験を広く国際社会に伝え、世界全体を持続可能な姿に転換していくことが重要です。経済の面からも環境の面からも、地球規模で大きな影響を及ぼしているわが国の責務でもあります。

第2節 環境保全の実績を通じて国際社会に貢献する

 二十一世紀の最初の十年間は、総合的な環境政策の展開により、わが国の特徴を最大限に引き出し、「環の国」日本としての国際的な地歩を固めるための重要な時期と考えられます。こうした面で世界に範を示すことは、人類社会の持続的発展にもつながり、わが国の立場にふさわしい国際貢献の仕方といえるでしょう。

1 環境保全の実績から見た日本の特徴
(1) 日本の環境を見つめ直す
ア 日本に与えられた自然環境
 総理府(内閣府)が平成十年に行った「社会意識に関する世論調査」によれば、全体の三四・八%の人が「日本の誇りは美しい自然である」と回答しています。わが国は、四季の変化、豊富な森林、多様な生態系など、豊かな自然に恵まれています。
イ 高度成長期の産業公害の経験
 昭和三十〜四十年代の高度成長期には、深刻な公害被害が社会問題にまで発展しました。これに対し、政府は急速に環境規制を強化することにより、企業の公害防止投資や技術開発を促し、公害問題の収束に効果をあげました。公害は、過去のものとなったわけではありませんが、他国に例をみないわが国の経験を真摯に分析した上で、その試行錯誤によって得られた教訓を効果的に国際社会に還元させていくことは、私たちの責任といえます。
ウ 世界から見た日本の環境の現状
 産業公害の深刻な状況は収束してきましたが、自動車の排気ガスによる大気汚染や廃棄物処理問題、地球温暖化問題などの新しい環境問題が生じています。わが国は限られた国土面積の中で活発な経済活動を行っているという特徴があり、そのため、他の国々に比較し、都市における廃棄物対策や大気保全に関する政策について、特に先進的な取組や対策技術の積極的な普及が求められているのです。
 例えば、GDPに対する最終エネルギー消費量は、日本は他国より値が小さい状況にある一方、総量は増大する傾向にあります。少ない環境負荷で高い付加価値を生み出す取組や技術は、地球環境問題の改善にも貢献し得るものであるといえます。高い環境効率を可能とする技術を諸外国に広め、各国の環境負荷の低減に資するとともに、わが国自らも環境負荷の総量を削減する努力を続けていかなければなりません。
(2) 日本が国際社会に示すことができるもの
ア 生産管理手法から発展した環境管理手法の導入実績
 一九九九年十二月時点で、わが国はISO14001(環境マネジメントシステムの国際規格)認証取得の件数において世界第一位を誇っています。以前から事業所に普及していた品質管理・向上のためのQC活動や公害防止管理者制度などが、環境マネジメントシステムの基礎になっているものと思われます。
イ 環境効率向上を支えてきた技術
 産業技術力や商品開発力も日本が海外に誇ることができる代表的なものです。環境効率を向上させるためには、少ない環境負荷で高い付加価値や機能を実現する技術が必要です。公害防止技術や省エネ技術は、アジア方面への機器輸出の拡大に貢献しており、また最近では廃棄物やリサイクル関連の規制を受けて、独自の技術開発も進んでいます。わが国の主要輸出品である資本財や生産財(企業等の生産手段や製品の部品・材料として使用される財)の消費エネルギー効率等を向上させることができれば、国際社会への貢献にとどまらず、産業競争力の向上にもつながります。
ウ 政府における環境政策の枠組みの構築と環境意識の高まり
 平成十二年には新しい環境基本計画の策定や「循環型社会形成推進基本法」の成立など、わが国の環境政策の枠組みを整えるための動きが相次ぎ、新しい環境政策への第一歩を踏み出しました。また、近年顕著に見られる企業や市民の環境保全への意識の高まりは、経済社会の変革を実現するための力強い推進力となることが期待されます。

2 「環の国」日本としての国際貢献を目指して
(1) 国際貢献のかたち
ア 国際社会におけるイニシアティブの発揮
 わが国自らが課題提起(アジェンダ・セッティング)を行い議論をリードしていくことが期待されています。他国より先に国内で顕在化、深刻化する環境問題に対し、問題意識や分析研究結果の発信に努めることは、大きな国際貢献につながります。
イ 国際的取組の国内における推進
 国際社会で定められた環境保全への取組の方向性やルールをどのように実行し、成果をあげるかについては、それぞれの国の施策にゆだねられています。国際的な足並みを揃えつつ、一歩先をゆく政策決定が、どの国にも期待されているといってよいでしょう。
ウ 持続可能な開発支援
 わが国はDAC(開発援助委員会)加盟国の中で、もっとも多額のODA援助を行っています。今後も途上国の持続可能な開発支援(環境ODA)を推進するとともに、適切な事業評価などに配慮しながら進めていく必要があります。
(2) わが国にふさわしい国際貢献の取組
ア アジア太平洋地域での連携と協働の推進
 わが国は地域的・経済的に密接な関係を有するアジア太平洋地域と、積極的な連携・協働をしていかなくてはなりません。環境省では「アジア太平洋イノベーション戦略」による総合的な取組を提唱しています。
イ 企業やNGOの活動による支援
 企業や環境NGO、地方公共団体など、多様な主体による活動が円滑に展開されるよう、国による積極的な側面支援が、今後ますます重要となっています。
ウ わが国の「強み」を活用した国際支援
 他国より優位なわが国の「強み」(技術、知識と経験)を活かした貢献をすることが期待されます。二十一世紀において、わが国の「強み」を活用した国際支援をますます有意義なものにするために、一層の技術開発や先進的な環境施策を推進するとともに、他国の範となるようなライフスタイルや事業活動の変革の実績をつくることを目指さなければなりません。新たな環境基本計画に掲げられた「持続可能な社会」の実現に向かって、国民、企業、NGO、地方公共団体、政府、それぞれの主体がそれぞれに課せられた責務を認識し、それぞれの「強み」を活かしながら、自律的に変革を進めていくことが重要です。

第3節 新計画に盛り込まれた「環の国」日本を目指した基本戦略を明らかにする

 二十一世紀初頭は、わが国が国際社会に貢献できる「環の国」日本に発展していくための重要な時期です。この時期における国の環境政策の方向を定めるものが環境基本計画です。

1 持続可能な社会に向けた環境政策の基本理念
 新環境基本計画では、「環境基本法」の環境政策の理念を実現し、持続可能な社会を構築するための条件を満たすために、「循環」「共生」「参加」「国際的取組」という四つの長期的目標を掲げています。環境政策の展開に当たっては、経済的側面、社会的側面、環境の側面という社会経済活動の各側面を統合的にとらえ、また生態系の価値を認識し、踏まえていくことが重要です。また、環境政策の基本的な指針として、「汚染者負担の原則」「環境効率性」「予防的な方策」「環境リスク」の四つの考え方を掲げました。
 さらに、有害物質による土壌や地下水の汚染、難分解性有害物質の処理問題など、環境上の「負の遺産」については、これらの原因をつくった現在世代に、これまでの蓄積も含め、将来世代に環境影響を可能な限り残さないよう努める責務があります。二十一世紀初頭において、優先的に取り組むべき重点分野を、新環境基本計画においては、国民のニーズや対応の緊急性、環境政策全般の効果的実施の必要性、統合的アプローチに立脚した環境政策の総合化の必要性などの観点を踏まえ、「戦略的プログラム」として定めています。

2 わが国の環境政策を推進するための新しい組織体制
 平成十三年一月六日、わが国の中央省庁は一府十二省に再編されました。新たに独立した環境省は、「地球環境の保全、公害の防止、自然環境の保護及び整備」に加えて、良好な環境の創出を含めた「環境の保全」を図ることを任務とすることになりました。中央省庁再編後も多くの府省が、国の環境保全施策の実施に関わることになります。
 このため、政府としては、閣議のほか関連する閣僚会議や関係府省連絡会議などの場を通じて緊密な連携を図り、様々な課題に適切に対応しながら、環境基本計画に掲げられた環境保全施策を総合的かつ計画的に実施していかなければなりません。

第2章 地球と共生する社会経済活動のあり方を求めて

第1節 地球環境問題は人類社会に方向転換を迫っている

1 地球の環境容量と物質循環上の問題
 世界は、人口と経済の両面において拡大を続けています。一九五〇年には二十五億人程度だった世界の人口は、一九九六年には五十六億人まで増加しました。また経済規模を見ても、世界のGDPの総計は同じ期間で五・五倍に拡大しました。
 このような人類社会の急激な拡大により、地球の有限性が問題となりつつあります。WWF(世界自然保護基金)の試算によると、現在の地球が生み出す資源・食料や二酸化炭素の吸収などの浄化能力を考慮すると、人間一人当たりの面積(環境容量)は二・一八ヘクタール程度であるべきと考えられています。
 しかし、実際の社会経済活動に伴う資源消費や環境負荷は、すでにこの環境容量を超えており、世界中の人々が日本人並みに環境負荷を与え続ける場合、地球はあと一・七個必要ということになります。地球上の物質は、大気や海流の循環、地殻変動を通じて、大気・海洋・陸地を移動しています。これに生物を加え、様々な物質循環が構築されています。人間活動は、環境による浄化や資源の再生産を超えた資源採取や二酸化炭素の排出、自然では浄化できない物質の排出、物質循環の切断などによって、この物質循環をゆがめ、様々な環境問題を引き起こしています。

2 人類の存続を脅かしている環境問題群の特徴
 現在私たちが直面している環境問題は、かつての産業公害と異なる様々な特徴を持っています。第一には、社会的被害や因果関係の不確実性が高いこと、第二には、被害が「薄く広いが、大きい」ということ、第三には、社会が一体となった取組が必要なため、対策の推進が難しいことが挙げられます。現在の環境問題では、被害が発生してからの対策では、改善・修復が困難な場合が多く、科学的知見の充実を図るとともに、先見性のある予防的方策を含む政策展開を図ることが必要です。限られた社会資源を用いて効率的に環境対策を実施するため、取り組むべき環境問題について優先順位を設ける必要があります。
 この観点の一つとして、問題の緊急性が挙げられます。あと数年で最終処分場が不足する廃棄物問題はもちろんのこと、地球温暖化問題のように影響の発現までに長期間を要するものであっても、その予想される影響の大きさや深刻さからみて、まさに人類の生存基盤に関わる重要な問題についても、一層の取組を推進していく必要があります。
 もう一つの観点が、問題の重要性です。社会全体に及ぼす被害の大きなものについては、特に重点的に取り組む必要があります。地球温暖化問題、廃棄物問題は国内に大きな被害を及ぼすと考えられることから、この観点からも重要な問題といえます。また、取組の優先度を決定するに当たっては、その問題の性質に関する基本的な情報が整理されていることが前提となります。化学物質問題のように緊急性・重要性を判断するための情報が不足している場合は、まず情報収集と整理を進めなければなりません。
 このように、地球温暖化、資源循環、化学物質の三つの問題は、地球の有限性を考慮しつつ、環境負荷をかけながら物質的豊かさを追求する社会からの脱却を求めている点で共通しています。

第2節 地球温暖化対策をどのように前進させていくか

1 地球温暖化防止に向けた国際的取組の進展
 地球温暖化問題は、世界中のほぼ全ての社会活動を原因としています。これは、特定地域や特定の温室効果ガス排出源における対策だけではなく、解決に向けて全地球的な協調が必要であり、社会科学的な各種の政策手法が重要な役割を果たすことを意味します。現在、先進国間、先進国・途上国間の協調はもちろん、科学的組織等を巻き込んだ国際的な体制の下で、科学的知見に基づいた国際的な取組の枠組みづくりが進められています。
 一九九七年のCOP3(気候変動枠組条約第三回締約国会議)で定められた京都議定書では、主要先進国の排出削減目標を定めたほか、目標達成のための国際的仕組みとして排出量取引、共同実施、クリーン開発メカニズムという、いわゆる「京都メカニズム」、森林による吸収量を算入する「吸収源」を定め、各国が国情に応じて政策・対策を実施することを求めています。
 また二〇〇〇年にオランダのハーグで開催されたCOP6では、特に途上国の参加、京都メカニズムの具体化、吸収源の扱い、遵守制度の問題といった主要な項目について各国の調整が難航し、期間中に合意に至ることができずに、二〇〇一年半ばに引き続き交渉が行われることになりました。COP3の議長国を務めたわが国としては、米国への働きかけなどCOP6再開会合の成功に向け努力を続けます。

2 わが国に課せられた達成目標と今後の課題
 わが国はGDP当たりの二酸化炭素排出量の少なさにおいて、途上国を含む世界トップレベルにあります。一方、温室効果ガスの排出量においては、世界第四位の排出大国であり、一人当たりの温室効果ガス排出量も、高水準といわざるを得ません。わが国は地球温暖化防止において、国際社会に対し大きな責任を負っているのです。わが国は京都議定書において、二〇〇八年から二〇一二年の第一約束期間において、一九九〇年比六%の温室効果ガスの排出を削減することが目標とされています。一九九八年時点の二酸化炭素排出量は、一九九〇年比で五・六%増加しています。温室効果ガス全体でみると、一九九八年時点の排出量は、基準年と比べて約五・〇%増加しており、第一約束期間における目標達成のためには、現時点における排出量から、約一一%削減しなければなりません。部門別の二酸化炭素の排出量では、産業部門からの排出量が最も大きく、これに運輸部門、民生部門が続いています。
 また、平成二年の排出量を一〇〇とした推移を見ると、産業部門・工業プロセス部門では横ばい又は漸減の傾向が見られるのに対し、運輸部門、民生部門(家庭)、民生部門(業務)では大きく増加しています。民生部門(業務)の排出増加の主な原因は、オフィス面積の拡大に伴う電力需要の増加、運輸部門では自家用車保有台数の増加、乗用車の大型化、乗車率の低下、貨物輸送量の増大が、民生部門(家庭)では世帯数の増加と家電製品の普及が主な原因と考えられています。個別の機器におけるエネルギー効率の改善効果がある一方、経済活動の拡大やエネルギー多消費型のライフスタイルの浸透によって、二酸化炭素の排出量は一九九〇年比で増加しているという構図になっています。社会全体における排出の削減を目指した温室効果ガスの排出削減を促す仕組みが組み込まれた社会の構築が課題となっているのです。

3 社会経済活動の変革を目指す国内対策の推進
 わが国の地球温暖化対策は、平成十年に決定された「地球温暖化対策推進大綱」により実施されています。また、同年「地球温暖化対策の推進に関する法律」が制定されました。同法に基づき平成十一年に閣議決定された「地球温暖化対策に関する基本方針」では、国、地方公共団体、事業者、国民の全ての主体が温暖化対策を推進すべきことが示されています。
 温暖化防止には特効薬が存在しないため、社会のあらゆる主体が、他の主体との調整を行いながら、引き続き対策に取り組んでいくことが必要です。温室効果ガスの効果的・効率的な削減のためには、規制的手法、経済的手法、自主的取組など、あらゆる政策措置の特徴を活かして、有機的に組み合わせるポリシー・ミックスの考え方を活用することが考えられます。
 今後、わが国としては、わが国を含む関係国による議定書締結を可能なものとするため、国際交渉に積極的に臨み、京都議定書の二〇〇二年までの発効に向けた国際的熱意が失われないよう努めることが必要です。
 また、この国際交渉の進捗状況を見定めながら現行施策の評価を踏まえて所要の見直しを行い、わが国の経済や国民生活への影響について十分に配慮し、国民の理解と協力を得て、締結に必要な国内制度に総力で取り組むことが不可欠です。

第3節 循環型社会の構築に向けた取組をどのように進めていくか

1 物質収支から見た廃棄物・リサイクル問題
 平成十二年、わが国の社会経済活動には十七億五千万トンに及ぶ自然界からの資源採取を含め、二十億四千万トンの資源が国内外から投入されています(総物質投入量)。そして投入された資源のうち、五割程度がそのまま消費、廃棄に向かっています。また、投入された資源の約一・八倍の「隠れたフロー」(生産、採掘される際に発生する副産物、廃棄物)が生じています。
 一方、廃棄物のうち資源として再利用されているのは二億二千万トンで、総物質投入量の約一割程度にすぎません。このように、わが国の物質収支を見ると、資源採取から消費、廃棄へ向かう一方通行が主流となっており、「循環型社会」と呼ぶにはほど遠い状況です。平成九年にわが国で排出された廃棄物の量は、一般廃棄物が五千百二十万トン、産業廃棄物が四億一千五百万トンでした。昭和四十年代以降、排出量は急激に増大しましたが、近年はほぼ横ばいで推移しています。
 現在、中間・最終処分場からの有害物質の排出、漏出などの懸念から、廃棄物処分場建設反対運動や高度処理への要請が高まっています。これによって廃棄物処分に係る費用は高騰し、自治体や事業者への負担増、不法投棄の増大といった問題を引き起こしています。また最終処分場の残余年数は、すでに一般廃棄物で一一・二年(平成九年)、産業廃棄物で一・六年(平成十一年)と後がなく、早急な対策が必要となっています。

2 循環型社会形成に向けた道筋と法的枠組みづくり
 わが国における廃棄物処理制度は、生活環境の保全が主な目的でした。廃棄物の大量発生が問題になった現在では、廃棄物の発生抑制、循環的な利用、適正処理までの物質の流れ全体を見据えた施策を推進し、循環型社会を構築することが重要になっています。物質循環の構築そのものを目的とした政策の強化はもちろん、資源投入から、製造、流通・販売、消費、回収、再生製造段階への再投入までの各段階において、環境保全上の隙間をなくし、物質循環がより健全なものとなるよう、適切な施策を講じることが必要となります。
 このような社会的要請に応えるため、循環型社会形成推進基本法と各個別法が制定されました。循環型社会形成推進基本法は、社会における物質循環の形成を通じた天然資源の消費抑制と環境負荷の低減を目的とし、その基本原則、施策の基本事項などの枠組みを示しています。
 この中で廃棄物処理の優先順位を、@排出抑制、A製品・部品としての再使用、B原材料としての再生利用、C熱回収、D適正処理と定めており、循環型社会の構築への原動力となることが期待されています。
 個別のリサイクル法は、再生利用の促進を主な役割としていますが、再生利用に関する規制を設けることで、間接的に廃棄物等の発生抑制や再使用を促進することも視野に入れています。グリーン購入法はリサイクル製品の需要を生み、物質循環を促すという役割を果たしています。個別のリサイクル法は、循環型社会形成推進基本法が示した方針の下で、社会内の個別の物質循環におけるそれぞれの役割を果たし、適正な社会内の物質循環を構築していくのです。

第4節 化学物質による環境問題にいかに対応していくか

1 化学物質による環境問題の特質
 化学物質は、私たちの生活に利便性をもたらす一方、様々な場面において、人体や環境に悪影響を与える可能性を持っています。世界中で開発された化学物質の登録機関である米国のCAS(Chemical Abstracts Service)には、平成十二年末時点で約二千八百万種類の化学物質が登録されており、種類及び生産量は増加傾向にあります。化学物質は、日常生活のあらゆる場面、モノの製造から廃棄に至る事業活動の各段階において、環境中に放出されたり人体に摂取されたりしています。

2 化学物質対策の基本的な方向
 このような化学物質をめぐる状況を踏まえ、新環境基本計画では、化学物質対策に係る目標として、「…多様な手法による環境リスクの管理の推進を図ることにより、持続可能な社会の構築の観点から許容し得ないリスクを回避」することを掲げています。今後、本目標の達成に向けて様々な施策が講じられることになりますが、化学物質の適切な管理を行う前提として、まず各々のリスクを評価することが必要となります。このリスク評価は、諸外国及び国際機関においても重要課題として取り組まれています。また、有害物質による土壌や地下水の汚染など、環境上の「負の遺産」のうち、化学物質によるものについては、これまでの蓄積も含め、将来世代に環境影響を可能な限り残さないことを目指す必要があります。

3 環境リスクの低減と環境上の「負の遺産」の解消に向けた取組
 化学物質リスクによる環境リスクの低減に向け、国内外で様々な取組が進められています。国際的には、ストックホルム条約(通称POPS条約)案について、政府間交渉会議において合意がなされるなどの動きが見られるほか、化学物質のリスク評価や情報の整備などの取組が行われています。わが国では、環境上の「負の遺産」の早期解消に向けて、対策技術の開発・普及と修復への取組が重要性を増しています。土壌汚染については、近年、土壌の汚染に係る環境基準に適合していないことが判明した事例数が高い水準で推移しており、土壌汚染対策の一層の推進が求められています。このような状況を踏まえ、土壌環境保全対策のために必要な制度のあり方について調査・検討を開始したところです。
 また、PCBの処理促進については、平成十三年度に予定される制度改正によって特例措置が講じられることとなるほか、地方公共団体が独自に処理の目標を策定する例も出ています。
 一方、化学物質による環境リスクの低減については、制度的対応、科学的知見の充実、対策技術の開発・普及、各種基盤及び体制整備、民間事業者を含めた取組の推進が図られています。
 例えば、ダイオキシンについては、ダイオキシン類対策特別措置法等に基づいて対策が進められており、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)については、「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」に基づいて、平成十年度から全国における環境中の検出状況の把握調査等が進められるとともに、平成十二年度からは、ミレニアム・プロジェクトにより、三年計画で四十物質以上のリスク評価に取り組むこととなっています。事業者の自主的な化学物質の適正管理の取組にも着実な進歩が見られます。特に、日本化学工業協会を中心としたレスポンシブル・ケア活動については、総合的な管理に加え、地域ごとの説明会開催によって、直接対話を進めるなどの取組が行われています。また、化学工業界以外の多くの団体においても、平成八年の大気汚染防止法改正を受けた自主管理計画が策定され、指定化学物質の削減目標の達成に向けた取組が行われています。
 さらに、環境NGOにおける勉強会や、事業者や業界団体と地域住民とのリスクコミュニケーションも始まっています。地域住民、消費者、環境保全活動への参加者など様々な立場からリスクコミュニケーションを行うことは、社会全体からの化学物質による環境リスクを低減するために不可欠となっています。

第5節 環境保全に向けた総合的な取組をいかに加速するか

1 環境保全に向けた総合的な取組の動向
 持続可能な社会を実現するためには、社会経済活動が営まれる各段階、各局面に環境配慮を織り込み、社会の仕組みそのものを転換させる必要があります。国としては、国民や事業者などの社会経済活動のシステムに十分な環境配慮が行われるようにするための仕組みを組み込んでいく必要があります。その有効な手段として、わが国では、環境に著しい影響を及ぼすおそれのある各種事業の実施に当たって、事前に環境への影響を評価し、事業計画に反映させる環境影響評価制度が整備されています。
 また、個別の事業の計画、実施に枠組みを与えることとなる計画(上位計画)や政策についても環境の保全に配慮するための制度化の検討を行うことが必要です。地方公共団体においては、環境政策の基本方針を定める条例の制定や環境に関する総合的な計画の策定、組織体制の整備などのように、環境保全を地域の優先度の高い課題として位置づける動きが高まっています。
 こうした総合的な計画策定の成果は、各施策や事業の推進効果として現れるだけでなく、まちづくりと一体となった具体的な課題を検討することで、長期的な視点から見た地域ならではのあるべき姿を描き、持続可能な地域社会像を明確に打ち出すことが可能となります。企業の環境保全への取組の形は、過去の公害規制への対応から自主的な環境保全活動へと大きく変化し、様々な成果をあげています。自主的取組においては、各環境分野と企業との関わりを広くとらえ、総合的に環境負荷を低減させることが可能になります。その有効な手段として、多くの企業が環境マネジメントシステムを活用しています。また、事業活動によって生み出された商品やサービスの製造から廃棄までのライフサイクルにおいて環境負荷を低減させるため、LCA(ライフサイクルアセスメント)という手法の活用が進められています。
 今後は、各業種の特色を生かした環境マネジメント手法の開発や環境負荷の低減に向けた異業種間の連携が進み、産業全体における環境配慮の組み込みへとつながることが期待されます。

2 社会経済への環境配慮の織り込みを図るために
 環境問題の構造の変化に適切に対応して持続可能な社会への転換を図るため、新たな政策手段の開発や既存の政策手段の改良、適用範囲の拡大などを行いながら、あらゆる政策手段の適切な活用を図るとともに、それらを適切に組み合わせて政策パッケージを形成し、相乗的な効果を発揮させることに努める必要があります。ポリシーミックスによる相乗効果を狙った取組は、様々な環境問題への対応において応用されています。それぞれの環境問題の性格に応じて、各政策手法の適性や有効な範囲を検討し、その効果が最大限に発揮されるような手法を組み合せて、政策パッケージを形成することが極めて重要となっています。

第3章 環境コミュニケーションで創造する持続可能な社会

第1節 環境コミュニケーションの役割と今後の可能性を考える

1 社会と環境コミュニケーションの関わり
 「環境コミュニケーション」は比較的新しい言葉ですが、環境基本計画では「持続可能な社会の構築に向けて、個人、行政、企業、民間非営利団体といった各主体間のパートナーシップを確立するために、環境負荷や環境保全活動等に関する情報を一方的に提供するだけでなく、利害関係者の意見を聞き、討議することにより、互いの理解と納得を深めていくこと。」という意味で用いられています。ここでは、「環境コミュニケーション」を環境に関わる情報の社会的なやり取りととらえています。環境情報を受け取った者が、環境意識を高め、相互理解をし、信頼関係を築き、グリーン購入や環境保全活動への参加といった様々な形の行動につなげていくなど、連鎖反応や相乗効果が生まれます。また、このような環境コミュニケーションが、多主体間において様々な時間や場所で行われることにより、社会全体における環境問題に関する合意やパートナーシップを形成するための土台となり得ます。

2 環境コミュニケーションの動向
 環境コミュニケーションを取り巻く大きな状況の変化の一つは、メディア(情報伝達媒体)のあり方の変化だといえます。インターネットなどの新しいメディアの登場、普及やメディア同士の融合、電子メールの活用などによる双方向性の増大、多主体が受発信を行えるようなネットワーク化などにより、メディアや各主体の関わり方が多様化し、情報の伝達範囲が広がり、伝達スピードも向上しました。環境コミュニケーションについてもこれらの新しいメディアの活用が見られます。
 また、新聞に取り上げられる環境関連記事の増加傾向や、企業による環境広告の内容の具体化、詳細化なども見られます。このような状況の変化を受け、環境コミュニケーションの態様も変化し、各主体はその変化から影響を受け、さらに環境意識を向上させ環境保全に取り組む動機付けにつながっていくといえるでしょう。

3 環境コミュニケーションに期待する効果
 環境コミュニケーションの効果は、大きく分けて、各主体の環境意識の向上、各主体の自主的取組の促進、各主体間の相互理解の深化・信頼関係の向上、そしてパートナーシップの形成による環境保全活動への参画という一連の流れに整理できます。
 まず、環境情報を受け取り、環境に関する知識を得ることにより、受け手の環境意識が高まります。環境意識の向上は自省を促し、自らの行動やライフスタイルを見直す契機となって、自主的に環境保全活動に取り組む可能性を高めます。さらに、環境情報の能動的なやり取りの繰り返しに伴い、各主体が相手をより理解し、問題意識を共有し、さらには信頼関係を徐々に構築していくことができます。
 このように、環境コミュニケーションに期待される効果は、社会の構成員が参加・協働して持続可能な社会を構築していく上で欠かすことのできない大変重要な要素であるといえましょう。

第2節 環境コミュニケーションを通じ各主体の参加・協働を促す

 個人や企業、NGO、行政などの各主体が、自らの行動が環境に与えている影響や環境保全のために必要な行動を認識し、相互の役割分担や連携協力を図りながら、自主的積極的な取組を推進することの必要性について、環境コミュニケーションという視点から考えます。

1 個人を中心として見た場合
 個人は、一日あるいは一生の活動を通じて、環境に様々な影響を及ぼすとともに、様々な主体との間で環境情報のやり取りを行いながら、相互に影響を及ぼしあっています。様々な主体間の双方向での環境コミュニケーションによって自省が促され、自らのライフスタイルを環境面から見直す機会が得られるのです。
 このライフスタイルの変化は、個々人の具体的な環境保全行動を促すことによって、社会のあり方全体を持続可能なものに変革していく原動力となり得ます。個人が環境保全行動に取り組んでいく上で、多様かつ豊富な環境情報を得ることが重要になります。右の調査結果から、接触する環境情報の量や質が個人の環境保全行動に影響を与えていることがわかり、個人のライフスタイルに対する環境コミュニケーションの役割の重要性がうかがえます。
 また、環境コミュニケーションを経て個人の意識が変化した際、それをさらに行動につなげるという最後のステップが最も重要だといえます。個人が地域住民、消費者、選挙民など、様々な顔を持ち、他の主体へ働きかけることは、行政や市場、政治、地域活動を通じて社会のあり方全体を持続可能なものへと変えていく可能性を秘めています。
 各主体との環境コミュニケーションは、一方通行から双方向へと変化しており、企業や行政から発信される環境情報を単に受動的に受け止めるだけでは十分とはいえません。個人がそれを理解し、意見を述べ、参画していくなど、他の主体への能動的な働きかけを行っていくためには、情報を独自に、かつ、的確に評価する力を備えていくことが必要です。わが国では、主体間によって環境コミュニケーションの発展段階もまちまちですが、成熟度に応じて徐々にその質を高めていくことが期待されます。

2 企業を中心として見た場合
 企業は一連の事業活動の中で、資源、エネルギーの使用や廃棄物の排出を通じて環境に負荷を与えています。企業自らが、どのような環境負荷を発生させ、どのように低減していけばよいのかについて的確に把握することがまず重要です。さらに、企業にはそれらの現状を環境報告書や環境ラベル、環境広告などを通じて、消費者、投資家、取引先、従業員、金融機関、地域住民といった多様な利害関係者へ開示していく説明責任もあるといえます。環境面からも企業が評価されるようになってきている今日、このような企業による環境コミュニケーションの果たす役割はますます大きくなっており、他の主体との間でのパートナーシップへと発展するための土台となります。
(1) 企業活動と環境コミュニケーション
 企業側でも環境コミュニケーションの重要性が認識されつつあり、環境情報の開示を実施する企業数は年々増加を続けています。企業が製品・サービスに関する環境情報や事業活動に伴う環境負荷や環境保全への取組に関する情報を開示することにより、様々な利害関係者との間で環境コミュニケーションが行われます。
 企業から環境情報を得ることによって、消費者はグリーン購入を行い、株主・投資家、金融機関は投資や融資の際の判断材料とし、行政は施策に活用し、社員は自らのライフスタイルを見直し、NGOや研究者は情報の解釈、分析などを通じて他の情報の受け手を手助けし、事業所や工場の近隣住民は無用な不安を解消し、取引先企業はグリーン調達を進めるなど、様々な利害関係者の行動に影響を及ぼしていることが分かります。
 企業を中心とした環境コミュニケーションが質・量ともに充実し始めています。その背景には、環境問題の性質(環境負荷の発生源が不特定多数に)や政策手法の変化(自主的取組、経済的手法などの重視)、社会の環境問題への意識の高まりなどに伴い環境経営が盛んになっていること、また、グリーン購入やグリーン投資の増加に伴い、利害関係者による環境面に着目した企業評価の必要性が増大していることなどが挙げられます。このいわゆる「環境淘汰」に生き残っていくためにも、企業を中心とした環境コミュニケーションの重要性が高まっていくといえます。
(2) 企業の環境コミュニケーションの今後のあり方
 企業の環境保全への取組には、環境コミュニケーションを通じて、消費者や取引先などの他の主体からの意見が取り入れられつつあり、これは企業の環境保全への取組のインセンティブとして機能しています。企業が発信する環境情報は、作り手と読み手の認識の差の問題に加え、そもそも開示をする相手、対象が誰なのか、何をどのように伝えたいのか、何が目的なのかなどによって、その開示のあり方も自ずと変わってくるという本質的な問題を含んでいます。
 環境情報の受け手がそれぞれの目的に合わせて見られるよう情報開示の仕方を工夫すること、情報の比較可能性を確保しつつ各業種や企業の独自性を出すこと、環境情報の信頼性を確保すること、企業にとって不利な情報をいかに開示するかを議論することなどが今後の課題といえます。環境コミュニケーションを通じて、他の主体との間で環境情報を共有することによって、企業は社会での信頼を得、協力して環境問題に取り組んでいくことが可能となります。さらにはコミュニケーションを超えた実質的なパートナーシップへと発展していくことが可能になり、ひいては社会経済のあり方そのものを、持続可能なものへと変えていく力となり得るのです。

3 NGO等を中心として見た場合
 NGOはそもそも同じ問題意識を持つ個人が自発的に集まって組織されたものであり、ばらばらであった個人が組織として活動するためには、まず組織内のコミュニケーションが不可欠です。設立された組織が継続的に活動を発展させていくためには、そのNGOの存在意義や活動内容、問題意識などを外部に向けて発信し、共感を得ていくことが必要になります。さらに、外部との連携を図った活動を行う上で、問題意識を共有し、協働していくためには、コミュニケーションは不可欠です。
 また、高度に専門化したNGOでは、専門的な情報を解釈、分析した上で発信する活動がよく見られます。環境NGOは、行政や企業の有する専門的な環境情報を仲介することにより、最終的な情報の受け手が環境情報を理解しやすくする役割を果たしています。また、自ら有する情報や調査、価値観に基づき、政策提言といった形で行政や企業に対し環境に関する意見を提出する場合もあります。さらに、これらの環境コミュニケーションを通じて、活動そのものを協働して行うケースも増加しており、企業や行政、NGOに所属する個人とのパートナーシップも盛んに築かれつつあります。
 環境NGOの動向をみると、団体数の増加が見られ、中でも「環境情報」を活動の重要な要素としている団体が大きく増加しています。また、近年、環境NGOの情報発信能力や政策立案能力が高まり、政府や企業とパートナーシップを築いていくにつれて、環境NGOが社会に与える影響力も大きくなっています。
 さらに、様々な主体が自らの行動に環境配慮を織り込み、環境コミュニケーションの中で相互に取組を促進させていく過程では、何らかの推進力が必要であり、そこでのNGOの役割が注目されます。
 なお、こうしたNGOとは別に、人々の環境意識に対して大きな影響力を持つのがマスメディアからの環境情報です。人々の活用する情報源はどうしても偏る傾向があります。情報源や情報そのものの内容が多様化する今日において、情報の受け手が、行政、企業、NGO、研究機関や専門家などの発信・仲介する情報などを状況に応じてバランスよく受け取り、評価、活用していくことが今後必要になっていくといえます。

4 行政を中心として見た場合
 行政は、環境保全施策の実施などを含む諸活動を通じ、環境に対して様々な影響を与えている主体であるといえます。例えば、各種政策手法の活用や社会基盤整備、国土利用に係る計画の策定などに際しての行政の意思決定は、社会制度の変更や行政活動や個人、事業者などの行動への働きかけを通じて、環境に対して様々な影響を与えています。
 また、行政自らもオフィス活動や各種の事業主体として環境負荷を生じさせています。行政の実施する施策への環境配慮を進めていく上で、このように環境に重大な影響を与え得る活動や意思決定に当たっては、行政と個人や企業、NGOなどの他の主体との環境コミュニケーションを充実させていくことが重要です。「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(情報公開法)が施行され、地方公共団体においても、すでに情報公開条例の制定により、インターネットなどの媒体を活用した情報公開が進められるなど、行政情報を公開していく傾向は今後さらに進んでいくものと思われます。
 一方、パブリックコメント制度を通じ、個人や事業者、NGOが自らの意見を直接行政に発信することも可能となり、このような枠組みの整備により、行政と他の主体との環境コミュニケーションを反映した行政が進められるようになっています。環境コミュニケーションの一層の充実のためには、単に情報発信や意見の反映を行うだけでなく、発信した情報や実施した施策の効果の把握やその評価も重要になります。環境保全に関する自主的な取組を引き出す自己評価や第三者評価などの仕組みや評価方法の確立が、行政と個人、事業者、NGOとの環境コミュニケーションの進展の上でも、大きな課題であるといえるでしょう。

第3節 重層的で多様な環境保全のパートナーシップの形成を図る

 持続可能な社会を創造していくためには、各主体間のパートナーシップが形成されることが不可欠です。その土台となる環境コミュニケーションを活性化させるために、行政はコミュニケーションの手段を活用し、そのための基盤の充実を図らなければなりません。

1 身近な地域における環境保全から国際協力まで
 個人、企業、NGO、行政などの様々な主体が、環境コミュニケーションにより、相互理解を深め、信頼関係を築き始めています。こうした取組によって情報交換のネットワークが生まれ、やがて複数の主体が環境保全のための共通の目標に向かって協力し合うパートナーシップへと発展していきます。多様な主体によるパートナーシップは価値観や問題意識を融合させ、それぞれの持つ能力や資源を有効に組み合わせることで、問題解決のための大きな原動力となります。
 現在、このような環境保全のパートナーシップが形成される場面は、生活に密着した身近な地域における活動から、アジア太平洋地域や、地球環境問題を視野に入れた国際的な活動まで、重層的な広がりを見せています。身近な地域内におけるコミュニケーションは、まちづくりを考える場への住民参加や、住民主体のコミュニティ形成などを通じて活発になっています。地球環境は地域の環境が無数につながり、相互に依存、影響しあって構成されているもので、地域での取組は地球環境問題への対応の基礎となります。
 また、日常生活そのものが環境負荷の原因となっている今日、ライフスタイルの見直しが課題となっています。私たちが自らの生活と環境との関わりの意識を深めつつ、足元から取組を進める上で、身近な地域は環境保全への取組の絶好の場と考えられます。地域で活動する団体間において、地域を越えた国内での情報交換や環境保全への取組も始まっています。
 さらに視点を国レベル、地球レベルに広げて考えていくと、時間や場所の違いを越えて共通の環境問題を抱える地域が世界各地に存在し、様々な環境保全についての対応がなされています。いくつかのNGOによって、発展途上国における自然保護活動や国際的な共同研究など、同じ地球を共有しているものとして、連携を図り、地球全体の利益につながる独自の活動が行われています。
 今日の複雑な因果関係を有する環境問題を解決するために、個人、企業、NGO、行政など様々な主体が環境コミュニケーションを進めながら、それぞれの特徴と役割を発揮し、相互に連携するという、重層的で多様なパートナーシップの構築が今後も重要となっていきます。

2 環境コミュニケーションを促進していく上での行政の役割
 環境コミュニケーションを活性化させるため、行政は様々な役割を担っています。ITや情報通信技術を活用したコミュニケーション基盤の構築、調査研究等の充実と環境情報の整備・提供、環境報告書や環境ラベルなど環境コミュニケーションに係る各種手法の開発や普及、環境教育・環境学習の推進、各利害関係者の間を調整し合意形成をするための枠組みづくりなどにおいて、行政は積極的な取組を推進していかなければなりません。


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平成13年3月


個人企業営業状況調査結果の概要


―売上高が「減った」とする企業は約七割―


総 務 省


 個人企業営業状況調査は、毎月実施している個人企業経済調査(指定統計第五七号)の附帯調査として、個人企業の経営の動向を把握することを目的とし、製造業、「卸売・小売業,飲食店」及びサービス業を営む個人企業の中から約二千八百企業を対象に、毎年三月三十一日現在で実施している。

一 売上高の実績

 平成十三年一月〜三月期の売上高は、前年に比べ「増えた」とする企業の割合は五・六%で、前年調査と比べて〇・四ポイントの低下となった。
 一方、「減った」とする企業の割合は六八・八%で三・三ポイントの上昇となった。これは、調査開始(昭和四十三年)以来、平成十一年(六九・八%)に次ぐ高い割合となっている(第1図参照)。

二 売上高の見通し

 今後一年間の売上高の見通しは、前年より「増える」と予測する企業の割合は二・八%で、〇・六ポイントの低下、「減る」と予測する企業の割合は五二・〇%で、二・九ポイントの上昇となった(第2図参照)。

三 営業利益の実績

 平成十三年一月〜三月期の営業利益は、前年に比べ「増えた」とする企業の割合は五・一%で、〇・一ポイントの低下となった。
 一方、「減った」とする企業の割合は六九・五%で、三・一ポイントの上昇となった。これは、調査開始(昭和四十九年調査事項設定)以来、平成十一年(七〇・六%)に次ぐ高い割合となっている(第3図参照)。

四 売上高及び営業利益のDI

 売上高及び営業利益のDI(注)の推移をみると、昭和六十三年から平成三年までは回復傾向であったが、バブル崩壊後の四年以降は減少が続き、八年、九年はわずかに増加したが、経済情勢の先行き不透明感などにより十年、十一年は減少し、十二年はわずかに増加したものの、十三年は再び減少となった(第1図第3図参照)。

五 事業経営上の問題点

 事業経営上の問題点として設定している十項目について、「困っている」とする企業の割合が高い主な項目は、「受注減、売行き不振又は顧客の減少」(八〇・四%)、同業者、スーパー等の進出による「競争の激化」(六三・〇%)、「製品ニーズ、消費者又は利用者のニーズの変化」(五三・一%)となっている(第4図参照)。
 (注) DIとはディフュージョン・インデックス(Diffusion Index)の略で、「増えた」とする割合から「減った」とする割合を差し引いた数値のことで、業況判断を表す指標の一つである。数値がプラスの場合は「増加」、マイナスの場合は「減少」を表す。










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消費支出(全世帯)は実質四・六%の減少


―平成十三年四月分家計収支―


総 務 省


◇全世帯の家計

 前年同月比でみると、全世帯の一世帯当たりの消費支出は、平成十三年一月に実質減少となった後、二月、三月は二か月連続の実質増加となったが、四月は三か月ぶりの実質減少となった。
 一人当たりの消費支出は九万八千七百六十二円で、前年同月に比べ実質三・七%の減少。

◇勤労者世帯の家計

 前年同月比でみると、勤労者世帯の実収入は、平成十二年六月以降四か月連続の実質減少となった後、十月、十一月は実質増加となり、十二月以降五か月連続の実質減少となった。
 また、消費支出は、平成十二年十月、十一月に実質減少となった後、十二月は実質増加、十三年一月は同水準、二月、三月は実質増加となったが、四月は五か月ぶりの実質減少となった。

◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は、一世帯当たり二十七万六千二百四十一円。
 前年同月に比べ、名目四・一%の減少、実質三・五%の減少。

◇季節調整値の推移(全世帯・勤労者世帯)

 季節調整値でみると、全世帯の消費支出は前月に比べ実質〇・九%の減少となった。
 勤労者世帯の消費支出は前月に比べ実質一・三%の減少となった。











労働力調査特別調査の実施


 現在の日本の経済・雇用情勢は、厳しい冬の時代だといわれています。失業者が増加し、就職率の低下などが目立つ状況の下では、人々の就業・失業の状況を示す調査が不可欠です。
 「労働力調査」は、就業・不就業の実態を明らかにする我が国の代表的な標本調査の一つです。この調査は戦後の混乱した経済・社会の中で、国民の就業・雇用などの実態を明らかにするために昭和二十一年に実施され、今年で五十五年目を迎えます。
 一方、「労働力調査特別調査」は、毎月行われている「労働力調査」を補うものです。
 雇用・失業の実態をより詳しく調査し、雇用促進などの施策に役立てることを目的としています。この調査は昭和二十四年に開始され、昭和五十九年以降は年一回、毎年二月に実施されてきました。しかし、急速に変化する雇用・失業情勢に対応するために、平成十一年から年二回、毎年二月と八月に行われるようになりました。
 これらの調査は「経済の体温計」としての意義をもっており、近年は一層その重要性を増しています。

 ●調査の対象

 全国約四万世帯の十五歳以上の方、約十万人を対象としています。

 ●調査期日

 平成十三年八月の労働力調査特別調査は、八月三十一日現在で行われます。
 仕事をしているかどうかなどの就業状態については、調査日を末日とする一週間でとらえています。

 ●調査対象となる世帯の選定方法

 この調査では、日本全国から調査の地域を選定し、選定した地域内のすべての住居リストを作成します。このリストから、統計的手法により公平に世帯を選定します。
 この方法で大切なことは、調査対象となる世帯を全体として偏りなく、全国の縮図となるように選定することです。選定された世帯は、全国の約四千五百万世帯を代表することになります。したがって、調査対象となった世帯について調査ができなくなると、集計した結果に偏りが生じてしまいます。この点をご理解の上、対象となられた世帯の方にはご協力をお願いします。

 ●結果の利用

 現在、雇用・失業対策は最も重要な政策の一つとなっています。この調査の結果は、
・雇用、失業問題の現状分析
・経済動向の把握、景気動向の指標
・各種雇用政策の企画・立案の資料
・経済白書、労働白書などの資料
・大学、研究機関などにおける雇用、失業問題の研究
など、幅広い分野で利用されます。

 ●調査実施に関する問い合わせ先

 総務省統計局
 労働力人口統計室
рO3―5273―1161
(総務省)



カラスの行水


 家庭でのシャワーが普及している現在では、夏でも、庭先に盥(たらい)を出してお湯や水で体の汗を流す「行水」の風習は見られなくなりました。しかし、入浴時間がひどく短いと「カラスの行水」とからかわれることがないでもありません。
 「行水」というのは、もともとは神仏に祈願するために、神社仏閣の池や流れや滝などの清水で体のけがれを流し去る信仰上の行事でした。鎌倉時代には寒い時期に冷水で行われた「行水」の事例が見られます。
 その後、暑中に家の中や庭先で盥(たらい)の湯や井戸水を使って汗を流すことが「行水」と呼ばれるようになりました。
 「行水のすてところなし虫の声」は、江戸時代中期の俳人、上島鬼貫の名句として知られています。
 「カラスの行水」が急いで入浴することのたとえに使われてきたのは、カラスが水浴びをあっという間に済ませる習性のためです。ゆっくりお風呂に入らず、シャワーで簡単に済ませてばかりいると、「カラスの行水」と言われるかもしれません。



    <7月25日号の主な予定>

 ▽首都圏白書のあらまし…………国土交通省 

 ▽交通安全白書のあらまし………内 閣 府 




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