官報資料版 平成14年7月17日




                  ▽環境白書のあらまし………………環 境 省

                  ▽毎月勤労統計調査(四月)………厚生労働省

                  ▽労働力調査(四月等結果)………総 務 省

                  ▽家計収支(四月)…………………総 務 省

                  ▽税金365日 保険と税…………国 税 庁











環境白書のあらまし


環 境 省


 平成十四年版環境白書(「平成十三年度環境の状況に関する年次報告」及び「平成十四年度において講じようとする環境の保全に関する施策」)が、五月二十四日に閣議決定の後、国会に報告、公表されました。第一部の総説のあらましは、以下のとおりです。

総 説 動き始めた持続可能な社会づくり

第1章 社会経済システムと環境問題のかかわり

第1節 社会経済の発展と環境問題の変遷

1 社会経済システムと自然環境における循環
 地球上の自然環境は、大気圏、水圏、土壌圏及び生態系の間を物質が循環し、生態系が微妙な均衡を保つことによって初めて成立しています。一方、今日の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムは、生産、流通、消費、廃棄等の各段階において、資源・エネルギーの採取、不用物の排出等の形で自然環境に対し負荷をかけています。自然環境は、水の浄化、土壌の形成と維持、気温の調整等、人間の存在にとって欠かすことのできないものであるとともに、さまざまな生物資源の宝庫であり、レクリエーションや観光としての価値を有するなど人類にさまざまな恩恵を与えるほか、自らの循環の中で、社会経済システムにおいて生じた負荷を吸収し軽減するという機能を有しています。しかし、その能力には限界があるとともに、社会経済活動の拡大等による自然環境の破壊や、適正な管理が放棄された森林の増大等による自然の劣化などを通じて、その機能が弱められています。この結果、社会経済活動に伴って生じる環境負荷の総量が、自然環境の循環を通じた吸収・軽減機能の限界を超え、公害や自然破壊をはじめとするさまざまな環境問題を生じさせることとなります。
 地球温暖化についてみると、産業革命以降、石油・石炭などの化石燃料が大量に消費されるようになり、温暖化の原因物質である二酸化炭素の排出量は最近百年間で約十二倍に増加し、現在の大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命以前と比べ三割増加しています。この結果、この百年間で、世界全体の地上気温は〇・六±〇・二度上昇し、日本でも約一・〇度上昇しました。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、このまま対策がなされなければ、地表の平均気温は、二十一世紀末までに一・四〜五・八度上昇し、海面水位は九〜八十八センチメートル上昇すると予測しています。
 森林については、非伝統的な焼畑、不適切な商業伐採に加え、森林火災や違法伐採を原因としてその減少、劣化が問題となっており、一九九〇年から二〇〇〇年までの間に、世界全体の森林面積は九千四百万ヘクタール減少し、中でも熱帯地域の天然林については、毎年日本の本州の面積の約三分の二に相当する一千四百二十万ヘクタールが減少しています。また、過放牧、薪炭材の過剰な採取などは、砂漠化の原因にもなっており、砂漠化の影響を受けている土地の面積は、地球上の全陸地の約四分の一に当たる約三十六億ヘクタールに上ります。さらに、農業を通じた自然環境からの採取である穀物の収穫量も、一九五〇年から一九九五年にかけて約二・七倍に増加しています。
 生物の多様性についても、現在五千四百三十五種の動物及び五千六百十一種の植物が絶滅のおそれのある種とされています。
 自然環境への負荷は、不用物の排出によっても生じています。世界の主要国の都市ごみは、いずれも増加傾向を示しており、わが国の物質収支(マテリアルバランス)をみても、再生利用されている量は全体の約一割程度で、一世帯当たりで換算すると、一日当たり百三十キログラムの資源を利用し、そのうち約五十キログラムを不用物として排出していることになります。
 資源についてみると、石油は一九五〇年から一九九五年にかけて約六・三倍、鉄鉱も約六・五倍に生産量が増加しており、石炭や石油の燃焼に伴って大気中に放出される硫黄酸化物や窒素酸化物から生じる酸性雨は、湖沼の酸性化、森林の衰退等、自然環境へ負荷を与えています。
 オゾン層の破壊は、化学的に安定かつ人体に無害で、多くの産業で使われたフロンが大気中に放出されることにより生じた問題であり、オゾン全量が著しく少なくなる「オゾンホール」は、昭和六十年ごろに南極上空で確認され、平成十三年にはその面積は二千六百四十七万平方キロメートルにまで拡大しました。
 有害化学物質による環境汚染問題もあります。現在、世界全体で約十万種の化学物質が流通していますが、例えば、製造などが中止されてから三十年以上経つPCB(ポリ塩化ビフェニル)が北極のアザラシからも検出されるなど、危険性が指摘されている数多くの化学物質がさまざまな環境中から検出されています。
 こうした自然環境からの資源等の採取の増加、不用物排出の増加の原因には、経済活動の規模の拡大とその前提でもある人口の増加があります。一九五〇年から一九九五年の間に、世界のGNPは約五・五倍に増加し、一九五〇年から二〇〇〇年の間に、世界の人口は約二・五倍の約六十億人へと増加しています。
 このように、今日の社会経済システムは、自然環境に対して多大な負荷を与え続けており、社会経済システムと自然環境のバランスが崩れ自然環境の質の低下があらゆる場面で進行しています。

2 日本の環境問題の変遷
 わが国の戦後から現在までの歴史を振り返り、社会経済システムと自然環境の関係をみていきます。
 戦後の経済復興を優先した昭和三十〜四十年代の高度成長期(第T期)においては、エネルギー消費量は急増し、また、生産額一単位当たりの汚染物質発生量の大きい重化学工業が躍進することにより、環境の急速な悪化をもたらしました。最も大気汚染が著しかった時期には、汚染によって視程が三十〜五十メートルにまで落ち込むとともに、硫黄酸化物による鼻を刺すような臭いが立ちこめているところもありました。また、プランクトンが水面近くで急激に繁殖し魚介類に被害を与える赤潮も、昭和四十五年には瀬戸内海の全域で発生するようになりました。深刻な大気汚染や水質汚濁は、いわゆる四大公害病(水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく)の発生を招く等、大きな社会問題にまで発展しました。
 昭和五十年代は、二度にわたる石油危機等を要因に経済が高度成長から安定成長へと移行した時期(第U期)で、産業部門においては省エネルギーが進み、民生部門・運輸部門のエネルギー消費が拡大しました。産業活動を原因とする公害問題は、自治体の公害防止協定や条例、国の規制の効果、企業の努力等によって収束をみせつつあり、例えば、大気汚染に関する硫黄酸化物対策は、その効果が顕著に現れた事例であるということができます。しかし、大都市圏に人口が集中したこと、所得向上によって自動車が普及したこと等により、自動車排気ガスによる大気汚染や生活排水等による水質汚濁など日常生活や通常の事業活動に伴う都市生活型公害が問題となったのもこの時期です。
 昭和六十年代以降(第V期)は、原材料のみならずあらゆる製品の輸入が拡大するとともに、原油価格の下落により化学、パルプ等のエネルギー多消費型産業の生産が増加しました。国内においては、東京への一極集中が加速し、バブル経済等による個人消費の拡大がもたらされましたが、バブル経済の崩壊後は、長期の不況、消費低迷等に直面することとなりました。前半の急速な経済の拡大期には、すでに環境対策の枠組みが構築されていたことから、産業型公害の発生が繰り返されることはありませんでしたが、都市生活型公害が広がりをみせるとともに、廃棄物・リサイクル問題や地球環境問題等の新たな環境問題を生じさせることとなりました。また、科学的に未解明な点が多い内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題が生じたのもこの時期からです。

3 過去の事例等からの教訓
 視点を世界に向けてみると、世界の中でも環境の脆弱な地域では、面積が三分の一に縮小したアラル海や、地下水位が急速に低下しているインドや中国のように、生態系の破壊がその地域の社会経済に深刻な影響を与えている事例をみることができます。また、シュメール文明やイースター文明等の過去の事例は、環境が回復不能なまでに破壊されたときに、文明は環境とともに滅びることを示しています。自然環境は微妙なバランスの上に成立しており、私たちは、こうした事例も踏まえつつ、今までのような経済活動を継続し、環境に影響を与えていくことの意味を考える必要があります。

第2節 社会経済システムと環境効率性

1 持続可能性と環境効率性
 我々の社会経済活動が徐々に地球上の資源を減少させ、自然の自浄能力を超えた環境汚染を顕在化させていく中、社会経済システムと自然環境の関係のあるべき姿について、さまざまな考え方が提唱されました。その中でも、将来の世代の欲求を満たしつつ現在の世代の欲求も満足させるような開発を意味する「持続可能な開発」という考え方が、一九九二年(平成四年)の地球サミットでも中心議題となるなど多くの国々に影響を与えました。わが国においても、平成十二年に改定された「環境基本計画」において、「持続可能な社会」を、環境を構成する大気、水、土壌、生物間の相互関係により形成される諸システムとの間に健全な関係を保ち、それらのシステムに悪影響を与えないために、社会経済活動を、資源を減少させず、環境自浄能力及び生態系の機能が維持できる範囲で行う社会であるとまとめ、その考え方を取り入れました。
 また、現在の経済活動と環境負荷の二つを結びつけ、持続可能な社会の実現に向け社会はどう対応すべきかについて、「ファクター10」、「ファクター4」等の考え方がさまざまな機関により示されました。これらの考え方に共通するのは、可能な限り資源・エネルギーの使用を効率化することにより、経済活動の単位当たりの環境負荷を低減する必要があるというもので、この考え方は「環境効率性(eco−efficiency)」という概念で表すことができます。以下、この環境効率性という考え方を取り上げ、その向上を図るために、特に技術はどのような役割を果たしてきたのか、また、わが国の環境効率性は過去からどのように変化してきたのかについて考察してみます。

2 環境効率性の向上と環境技術の進展
 わが国は、高度成長期の深刻な公害問題を、完全ではないにしてもほぼ克服してきました。この背景には、各種規制法の制定・実施と、これに伴い多くの企業が公害防止設備を導入したことが第一の要因として挙げられます。また、公害防止設備の能力が次第に向上していったことや、自動車の排出ガス低減のためのエンジン等の進歩も注目に値します。さらに、石油危機後の日本は、生産設備、輸送設備、電気機器等のエネルギー効率を急速に改善させています。
 このように、経済成長の過程で、環境負荷の着実な低減、つまり、環境効率性の向上をみることができますが、その背景には、公害低減技術や省エネルギー技術などのさまざまな環境技術の進展があり、その中には、新たな規制の導入や政策面での促進策が極めて効果的な場合が数多くあることを見出すことができます。
 例えば、昭和五十年代初めにわが国に導入された厳しい排出ガス規制は、結果としてみれば世界市場への日本製自動車躍進の一因ともなり、積極的な低公害車の開発は、世界の低公害車市場でのわが国の優位をもたらしたほか、太陽光発電についても、積極的な開発促進策等により、発電効率の急速な向上と、一般家庭への急速な普及をもたらしました。また、わが国としては、世界に先駆けて燃料電池の早期実用化・普及を図るため、技術開発の促進や、国等の公的機関での積極導入を進めています。

3 環境効率性の改善に向けて
 わが国の歴史を、第1節における時期区分に従い、環境効率性という視点から振り返ってみます。ここでは、代表的な環境指標として、経済活動に不可欠なエネルギー、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素、大気汚染物質である二酸化窒素と二酸化硫黄、日常生活から排出される一般廃棄物の五つを取り上げ、また、経済指標として代表的なGDPを取り上げ、経済指標を各環境指標で割ることにより算出される環境効率性の推移を考察していきます。
 まず、第一次石油危機が起きる昭和四十八年まで(第T期)についてみると、エネルギーや一般廃棄物に関しては、環境効率性が徐々に悪化していることが分かります。これは、わが国が高度成長期にあり、経済成長が優先され環境保全について十分な配慮がなされなかったため、環境負荷が経済成長率を上回る伸びを示したためです。一方、二酸化窒素及び二酸化硫黄については、各種規制が整備されてきたことを受け、環境効率性は改善する傾向をみせています。
 次に、高度経済成長から安定的な経済成長にシフトした昭和五十年代(第U期)をみると、すべての環境指標について、環境効率性が改善しています。エネルギー、二酸化炭素及び一般廃棄物は、ほぼ同様のペースで環境効率性を向上させていますが、この要因としては、石油危機を契機とした、日本全体での省エネルギー・省資源の徹底にあると考えられます。この時期、特に、エネルギー分野に注目してみると、産業部門はほぼ一貫して環境効率性を向上させていますが、民生部門のうち家庭部門では横ばいの状態です。これは、各種機器の省電力化により環境効率性が向上する要因があったものの、各世帯への家庭用電気機器の普及が、環境効率性の向上を妨げる要因となったためと考えられます。また、運輸部門も、旅客部門が環境効率性を横ばいまたは若干ながら悪化させていますが、これも、自動車保有台数が経済成長を上回る勢いで増加したこと等がその原因となったと考えられます。
 最後に、地球環境問題が重大な課題として認識されるようになった昭和六十年以降(第V期)についてみると、この時期、二酸化窒素、二酸化硫黄、一般廃棄物については、引き続き順調に環境効率性を改善させていますが、エネルギー及び二酸化炭素に係る環境効率性については、若干の改善がみられるにせよほぼ横ばいに近い状態にあります。エネルギーについて部門別にみると、産業部門は、当初一部の業種で環境効率性の緩やかな改善がみられましたが、昭和六十年以降原油価格が低位安定し、高額な省エネ設備への投資が控えられたこと等も背景に、平成四、五年以降はほとんどの業種で環境効率性が悪化しています。民生部門のうち家庭部門の環境効率性は横ばいだったものの、業務部門については、オフィス等の面積の増加やパソコン等の導入により環境効率性は悪化しています。また、運輸部門では、宅配便等の小口物品輸送の増加等が貨物部門の環境効率性向上を妨げるとともに、旅客部門の環境効率性は、乗用車の大型化等も背景に引き続き悪化をみせています。
 わが国の環境効率性は以上のような経緯を示していますが、諸外国について二酸化炭素を例に比較してみると、他の国もそれぞれ環境効率性の改善をみせてはいるものの、わが国の環境効率性は極めて高いことが分かります。
 しかし、各国におけるこのような環境効率性の状況が十分であるということではありません。
 第1節でみたように地球環境への負荷は依然として増加傾向にあり、人間活動と生態系や、環境浄化等のバランスは大きく揺らいでいます。これを改善するためには、総量としての環境負荷を低減させていくことが不可欠であり、そのためには、一定の経済成長を前提とすれば、その経済成長率以上に環境効率性を向上させていく必要があります。
 わが国には、経済の安定成長期に着実に環境効率性を上昇させていった実績があります。とりわけ、世界第二位の経済規模を有し、二酸化炭素排出量では世界第四位で世界全体の排出量の約五%を占めるなど、わが国は大きな環境負荷を地球に対しかけていることから、環境負荷の低減が世界全体の大きな課題となっている中、わが国は、過去の経験を生かしつつ、これまで以上に環境効率性の向上に取り組む必要があります。

第2章 環境負荷の少ない社会経済システム構築に向けた各主体の取組

第1節 市民における取組の変化

1 意識の変化と行動の変化
 近年、消費者の商品購入時における意思決定に、環境への配慮という新しい判断材料が加わってきています。例えば、商品の購入時には、約九五%の消費者が環境保全に配慮した商品を選択すると回答しており、環境にやさしい商品が一般の製品と比べて割高であっても購入すると回答した者が約七割を占めています。また、こうした意識の変化に対し、環境負荷が少ない製品・サービスを優先的に購入するというグリーン購入の動きを支援するため、商品の環境情報を提供する等の取組も始まっています。こうした変化は市場にも変化を及ぼしており、グリーン購入の主要な対象となっている十五の商品分野について、総販売額のうち環境配慮型製品の販売額割合をみると、全体で三〇%を占めるまでに至っています。
 さらに、市民のこうした購買に関する意識・行動の変化は、市民が企業に求める社会的役割にも変化を生じさせており、企業が社会的信用を得るために力を入れるべきものとして、回答者の七割が環境保護を挙げている調査結果もあります。また、こうした市民の関心を背景に、企業の優れた環境保全のための取組を表彰するものや、環境経営の格付を行う機関も発足するなど、どの企業がどの程度環境を考慮した経営を行っているのか、外部から評価しようとする動きも出てきています。
 このように、市民の環境への関心の高まりは、商品の購買行動に変化を与えるだけでなく、企業の行動変化の背景ともなり、環境保全型商品の普及等、市場を変える動きにつながっています。

2 市民によるさらなる環境負荷削減の可能性
 市民の意識の変化は、さまざまな環境保全のための取組の実践として表れ、全国各地で展開されています。「環境にやさしいライフスタイル」の普及を図るためのユニークな事例も多く、だれもが取り組めるように一年に一日「市内一斉エコライフデー」を設けた川口市の例や、市民共同で風力発電所を造った北海道浜頓別の例、環境保全等の市場価値を生みにくいサービスのやりとりを地域の人々の発意により活性化させるために地域通貨(エコマネー)を発行する北海道栗山町等の例など、さまざまな取組が全国各地で実践されています。
 しかし、こうした取組にもかかわらず、第1章でもみたように、家庭部門のエネルギー消費量等は増加していますが、これは、家電製品の普及や大型化による各家庭での環境負荷の伸びを抑えるほど十分には、省エネ等に向けたさまざまな環境負荷低減への意識が国民全体に広がっていないためと考えられます。
 国民一人ひとりの取組が不可欠なものとなっている今日、環境問題を引き起こす現代のライフスタイルを、環境にやさしく、かつ、私たち自身にとってもより人間的で豊かなものに変革し、持続可能な簡素で質を重視する生活、つまり、「環(わ)のくらし」の実現が必要となってきているのではないでしょうか。こうした観点から、特に地球温暖化問題について、各界のオピニオンリーダーからなる「環(わ)の国くらし会議」(http://www.wanokurashi.ne.jp)を設置したところです。

第2節 企業における取組の変化

1 企業の変化とその背景
 近年、企業の環境に関する考え方は、環境に関する取組を社会貢献の一つではなく、企業の最も重要な戦略の一つとして位置付けるなど、より積極的なものへと変化しています。
 こうした企業の考え方が変化している背景として、近年、ISO14001認証取得の広がり、グリーン購入の進展、環境報告書・環境会計の取組の普及などが進んだ点を挙げることができます。環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001は、企業経営者に環境保全の取組について考える機会を提供し、トップダウンの意識改革をすすめる契機となりますが、わが国における認証取得件数は、平成十三年末現在で約八千件となっています。また、グリーン購入に取り組む団体数や環境配慮型製品の販売額の増加により、製品やサービスの供給者となる企業においてもグリーン調達が実施されるようになってきているほか、市場が環境面からも評価するようになったことに対応して、企業においても環境コミュニケーションの重要性が認識されつつあり、環境報告書作成企業数は、年々増加しています。
 また、グリーンコンシューマーと呼ばれる環境に配慮した商品や店を選ぶ消費者や、投資を行う際に企業の環境配慮行動を考慮するグリーンインベスターといわれる投資家が現れ始めたことも、企業の環境への積極的な取組を促すことにつながっています。さらに、近年整備された環境保全法令の中には、企業の自主的な環境保全活動を促す仕組みが数多く含まれており、環境規制に対応したビジネスがみられるようになったことも挙げることができます。
 このように、企業を取り巻く市場、市民、政府の意識や取組の変化といったさまざまな要因が、確実に環境保全とのかかわりを深めており、企業自らの考え方と具体的な取組に大きな影響を与えています。

2 企業経営に環境を組み込んだ積極的な取組
 これまでみたような企業の考え方の変化を背景に、企業は、環境法規を遵守し環境管理を進めるのみならず、むしろ積極的に環境保全の考え方を企業経営に取り入れようとする動きがみられます。
 例えば、ビルや工場の省エネ化に必要な技術、設備、人材、資金のすべてを包括的に提供するESCO(エスコ、Energy Service Company)事業や、商品の所有ではなく商品が提供するサービスが求められていることに着目した家電レンタル等は、新たに事業を始めた例としてみることができます。また、新たな製品を開発したものとしては、下水汚泥や廃棄物焼却灰などを原料として含むエコセメントや、企業の環境問題に対する配慮・取組状況等を考慮して投資を行う環境配慮型投資信託であるエコファンド等を挙げることができます。さらに、関係企業が他社製品の回収にも協力する複写機業界の例や、容器の詰替化を積極的に進める洗剤・石鹸業界など、既存の製品の環境負荷を低減するための工夫を凝らすものも挙げることができます。

3 業種別にみた環境問題への取組内容・取組理由の違い
 このように、各企業は、さまざまな環境保全に向けた取組を行っていますが、各企業が属する業種が置かれている状況によって、取組の内容に違いが現れています。
 環境保全に関するあらゆる取組を合計し、その取組率を業種別にみた場合、製造段階でエネルギー消費の多い業種や、最終消費者向けの完成品メーカーで取組率が高くなっていますが、これを業種タイプ別にみると、素材型製造業は産業廃棄物の削減や製造時の省エネルギーの割合が高く、加工型製造業はグリーン調達や環境配慮設計にも相対的に力を入れており、非製造業は、オフィス省エネに集中していることが分かります。
 また、取組内容ごとに実施中または検討中の割合をみてみると、環境上の効果に加え、製造時の省エネルギーや産業廃棄物の削減などコスト削減につながるものが最初の足がかりとして取り組まれ、その後、グリーン調達や環境配慮設計等に取組が広がっていることが分かります。
 各業種の取組内容や程度の差は、各業界が置かれている状況や、顧客である取引先・消費者といった需要者側のニーズに大きな影響を受けていますが、このことは、言い換えれば、複雑な社会経済システムの中で、より川下にある業界の取組状況が徐々に川上へと広がっていくという可能性を意味しており、最終消費者の意向・行動が、企業の取組を変えていく可能性を示唆しているものと考えられます。

4 企業の収益向上策との一致性
 今日の厳しい経済情勢の下、わが国の企業は、業績の向上を図るため懸命の努力を続けているところですが、こうした取組の中には、IT化のように、積極的な経営効率化を図ることが結果として環境負荷の削減にもつながっているものや、自動車のリース契約や各種レンタルサービス、修理リフォームサービスと一体化した商品の販売等、モノの販売からサービスの販売に重点を移した結果、環境負荷の削減につながったものなど、企業の業績向上に向けた取組と環境保全に向けた取組との方向性が一致するものがあることを指摘することができます。
 これまでみたように、企業を取り巻く状況は、環境とのかかわりを一層大きなものとしており、企業にとって、環境対策が単なる活動の制約要件ではなく、ビジネスチャンスとしても認識されるようになっていると考えられます。

第3節 政府における施策の変化

1 各分野における具体的な施策
 地球環境問題をはじめとする今日の環境問題は、社会経済活動と密接不可分なものとなっており、このような新たな環境問題の解決のためには、政府においても、社会経済活動への影響も考慮しつつ、従来の産業型公害への対応とは異なった新たな対応が求められるようになってきました。
 地球温暖化問題については、第1章でみたように、温室効果ガスの九割を占める二酸化炭素の排出量と経済成長は連動する傾向にあります。このため、従来、温暖化防止効果以外の面でも大きな効用があり、仮に温暖化が起こらなくても後悔しない対策が採られてきましたが、温暖化の影響がより確かなものとなった現在では、それを超えた対策を実施していくことが必要となります。
 平成十四年三月に決定した「地球温暖化対策推進大綱」では、六%削減約束の達成のために必要な取組について、今日の段階で実施可能なものは直ちに実施し、早期に減少基調に転換した上で削減約束の達成を図るとともに、さらなる長期的・継続的な排出削減へと導くため、個々の対策を計画的に実施していくこととしています。また、対策の基本的な考え方として、「環境と経済の両立」、「ステップ・バイ・ステップのアプローチ」、「各界各層が一体となった取組の推進」及び「地球温暖化対策の国際的連携の確保」を提示しました。
 また、効果的かつ効率的な温室効果ガスの排出削減のためには、さまざまな政策手法を有機的に組み合わせるというポリシーミックスの考え方を活用することが重要であり、その中でも費用対効果の高い削減を実現するための手法の一つとして、市場メカニズムを前提とし、経済的インセンティブの付与を介して各主体を経済合理性に沿った行動に誘導するという、税・課徴金等の経済的手法については、国民経済に与える影響や諸外国における連携に配慮しつつ、引き続き総合的に検討します。
 廃棄物・リサイクル問題については、最終処分場のひっ迫や資源枯渇等が経済活動への制約になるのではないかとの懸念があり、循環型社会の構築を進め、資源採取量の抑制や環境負荷の低減等を図る必要があります。このため、生産者が製品が使用され廃棄された後においても適正なリサイクルや処分について一定の責任を負うという「拡大生産者責任」の考え方を導入し、その強化を図るとともに、再生品等に対する十分な需要を確保するため、グリーン購入法により国等の機関において積極的に再生品等を購入するほか、ごみ処理手数料、税・課徴金、預託払戻制度(デポジット制度)等の経済的手法の活用を検討することが必要です。経済的手法に関しては、平成十二年度に創設された法定外目的税の制度を活用し、各自治体で廃棄物に関する税制等の検討が行われています。
 土壌汚染問題については、近年、工場跡地等の再開発・売却の際などに汚染調査を行う事業者が増加するとともに、自治体による地下水常時監視の拡充強化に伴い、重金属、揮発性有機化合物等による土壌汚染が顕在化し、汚染事例の判明件数は著しく増加しています。土壌汚染対策を速やかに講じることは、汚染の除去等の措置の実施者において経済的負担が生じる一方で、環境保全効果はもちろんのこと、将来の対策コストの低減や土地の流動化に伴う経済の活性化をもたらすほか、土壌汚染対策に係る新しいビジネスの拡大も想定されており、現在、国会に「土壌汚染対策法案」を提出し、審議が進められているところです。
 自然保護問題については、従来、保護か開発かという択一的議論が生じやすい傾向にありましたが、近年、佐渡島のトキの保護や屋久島の世界遺産の指定など、自然保護と地域の活性化が一体となって行われている事例や、和歌山県の「緑の雇用事業」や長野県の「信州きこり講座」のように、環境保全対策と雇用対策が一体のものとして行われている事例が数多く見受けられます。また、失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて生態系の健全性を回復する自然再生事業の試みが始められています。
 化学物質問題については、影響の科学的な解明が十分でないことを念頭におきつつ、化学物質による環境負荷をいかに効果的・経済的に低減するかが重要になっています。このため、まず、化学物質が環境を経由して人の健康や生態系に悪い影響を及ぼす恐れ、つまり環境リスクを定量的に評価し、総体として環境リスクを低減させていくという考え方の導入を図るとともに、不確実性の存在を前提としつつ、取り返しのつかない影響の発生を未然に防止する予防的方策を講じることが必要です。また、法律による規制にとどまらず、レスポンシブル・ケア活動など事業者による自主的な管理による取組が始められたほか、化学物質排出把握管理促進法の成立により、事業者が自ら排出量を把握し、化学物質の環境への排出等の状況を明らかにするPRTR制度が導入され、これにより事業者等のさらなる取組を促進するという、従来の規制方法とは根本的に異なった方法も導入されることとなりました。

2 環境対策を進めていく上での考え方
 環境問題の各分野では、これまでみたように、対策の基本的な骨格を決める上での鍵となるさまざまな考え方を見出すことができますが、これらは個別の環境問題にのみ適用可能なものではなく、より幅広く一般的に用いることができるものです。今日の環境問題に対処するためには、このようなさまざまな考え方を駆使して的確に対処していく必要があります。

第3章 持続可能な発展をもたらす社会経済システムを目指して

第1節 環境制約の顕在化と新たな対応の可能性

1 環境制約への対応の必要性
 世界経済は、毎年の景気変動はあるものの、中長期的にみれば一貫した成長トレンドが続いており、世界の人口も、二〇五〇年には二〇〇一年の五〇%増となる九十三億人に達することが推計されています。こうした今後の経済の発展や人口の増大は、さまざまな環境負荷の増大につながり、現在の社会経済システムが環境上の制約に突き当たる可能性を高くしています。また、資源についてみても、主要な鉱物資源の残余年数は三十〜四十年程度に過ぎず、石油が四十年、天然ガスが六十年で枯渇すると考えられているなど、地球上の資源の絶対量が確実に減少していくことが危惧されています。
 環境影響についてみると、地球温暖化については、一九九〇年から二一〇〇年までの間に、地球全体の平均気温は一・四〜五・八度上昇するとともに、海面水位が九〜八十八センチメートル上昇すると予測されています。こうした変動は、水不足や洪水の発生の増加、穀物生産の不安定化、多岐にわたる健康影響等、人々の生活や生産基盤に深刻な影響を与える可能性が危惧されており、わが国においてもさまざまな影響が予測されています。また、水資源は、人口や取水量の増加により、二〇二五年には制約を受ける人口が約五十億人に増加すると予測されています。食糧生産については、途上国の食肉需要の増大から家畜飼料用の穀物需要が一九九五年から二〇二〇年にかけて二倍になる等大幅な増産が必要となり、耕作の不適切な土地への拡大が、特に開発途上国では、土壌の劣化や水質の悪化をもたらすことが危惧されています。さらに、生物多様性についても、二〇二五年までに世界全体の種の四分の一に当たる六万種もの植物が絶滅する可能性も指摘されています。
 このほか、食料や木材の供給、エネルギー消費など、人類の社会経済活動がどれだけ地球環境に負荷をかけているかをエコロジカル・フットプリントという形で計算した結果によれば、わが国を含めた世界全体の社会経済活動は、一九七〇年代にすでに地球の環境容量、即ち持続可能な水準を超えているとされています。
 また、OECDが二〇二〇年のOECD諸国における環境問題の将来予測を行った結果でも、水資源の使用、有害廃棄物の排出、農業汚染、温室効果ガスの排出等、多くの問題において停滞または悪化が懸念されるなど、先進国の経済に対し、前記でみたような環境制約が差し迫っていることが、OECD諸国の共通の認識ともなっています。

2 環境制約を回避するために
 こうした事態を事前に回避するためには、さらなる環境対策への取組が不可欠となっています。
 第1章でみたように、わが国は、激甚な公害経験、二度にわたる石油危機等を通じ、エネルギー生産性、資源生産性を急速に高め、環境効率性の向上に努めてきましたが、さらなる環境対策を進めていくことは可能です。
 二酸化炭素排出の削減についてみれば、太陽光発電、風力発電、バイオマス等の新エネルギーは、一次エネルギー総供給の一%を占めるにとどまり、ハイブリッド車等の低公害車の全車両保有台数に占める割合も一%以下で依然として小さいこと等から、さまざまな追加的対策が期待されます。
 また、資源利用についてみれば、天然資源の消費の抑制と環境負荷の低減を図るためには、排出抑制、再使用、再生利用、熱回収、適正処分の優先順位で取組を進める必要がありますが、例えば、このうち再生利用について、資源や容器包装ごとに排出量からリサイクルされた量を除いた物質量をみてみると、資源の有効利用に一層の実施可能性があることが分かります。

第2節 環境対策を講じることの経済上の効果

1 環境対策と技術革新(イノベーション)
 第1節でみた環境制約を回避するためには、環境影響が発生する以前に十分な対応を図るべく、今日のような不況期においても新たな対策に着手することが必要不可欠です。こうした対策は、適切に実施された際には、技術革新、雇用創出、その波及的効果に加え、将来の損害回避等、さまざまな効果を通じ、経済にとってプラスの効果を与え得ることとなります。
 まず、技術革新についてみると、第1章第2節でみたように、自動車や太陽光発電については、適切な対策が国内での技術開発を刺激し、わが国の企業は世界でトップレベルの技術力を誇ることとなる一方、風力発電はデンマークがいち早く国を挙げての開発・販売に取り組み、世界市場の四割のシェアを確保しています。また、燃料電池についても、世界の巨大企業が共同開発に取り組む一大プロジェクトになっており、日本だけでも平成二十二年に一兆円の市場が誕生することが見込まれています。
 市場のグローバル化が進む中、先行企業の開発した技術が世界で大きな市場シェアを獲得している事例がみられますが、環境問題が世界共通の課題となっていることから、今後規模の拡大が予想される環境対策に関連する市場においても、わが国の技術の優位性をさらに発展させることができます。

2 環境対策と雇用
 OECDが一九九七年(平成九年)に発表した「環境政策と雇用」に関する報告書は、環境対策が雇用に与える影響については、雇用に与える効果は小さいものの、全体としてはわずかにプラスの効果をもつことを示しています。
 各国における環境分野での雇用創出状況をみると、ドイツでは、機械製造業や食品関連産業を上回る約百三十万人の雇用が環境分野で確保されており、アメリカでも、リサイクル・リユース産業において、自動車製造業に匹敵する約百十二万人の雇用が創出されているとの結果が出されています。
 わが国においても、平成九年現在の環境分野での雇用規模は約七十万人に達し、平成二十二年には約八十七万人に達するものと推計されているほか、都道府県等が実施する雇用対策についてみても、これまでの緊急地域雇用特別交付金における実績では、環境・リサイクル分野が総事業の約三割を占めるなど、最も多く実施されています。

3 環境対策による波及的な経済効果
 環境対策は企業にとって一般的に費用であると考えられていますが、対策の実施に必要な設備を製造する企業にとっては売上になります。わが国の環境装置生産実績は、昭和四十一年度に約三百四十一億円であったものが、平成十二年度には一兆六千四百三十二億円に達するなど、環境関連の市場が拡大していることが分かります。また、環境装置の導入だけでなく、環境分野における投資を通じた生産誘発効果及び雇用創出効果を産業連関表を用いて分析した結果では、環境関連事業は、おおむね建設部門等の産業と同程度の生産波及効果をもつことも分かっています。

4 将来の損害の回避
 対策の実施時期については、現在のような経済状況が厳しい中、対応にちゅうちょする向きもみられます。環境対策については、費用が現在の時点で発生するのに対し、効果は現在よりもむしろ未来に対して発生するものであり、かつその利益は、個別企業ではなく幅広く社会の利益となるものです。したがって、費用の負担者が必ずしも費用に見合う利益を得られるわけではないため、ともすれば負担を回避したり、先送りしたりしてしまう状況があります。しかし、環境汚染によって人の健康に被害が生じた場合には取り返しがつかないこと、一度失われてしまった環境を復元することは困難であるか、極めて高額な費用を要する場合があることなど、わが国は、すでにこれまでの歴史の中で苦い教訓を得ています。
 さらに、地球規模の問題では被害額は膨大なものとなり、UNEPによれば、大気中の二酸化炭素濃度が二〇五〇年に産業革命以前の二倍に達すると仮定した場合の被害総額は、全世界で三千四十二億ドルに達すると試算されています。
 これまでみてきたように、環境対策が経済に与える効果にはさまざまな側面がありますが、環境対策が適切に行われた際には、前記の技術革新、雇用確保及びその波及的効果等の経済上の利益をもたらす場合があり得、さらに、将来の損害を未然に回避し得るとの意味で、環境対策は経済にとってプラスの効果を与え得るということができます。

第3節 国際社会における新たな対応とわが国の貢献

1 自然環境の劣化がもたらす国際社会の不安定要因
 現在、地域紛争の頻発等を背景に、世界各地で大量の難民が発生しているといわれていますが、それに加え、近年では、環境が破壊されたことにより、従来の居住地を離れなければならなくなった「環境難民」と呼ばれる人々が約二千五百万人に達すると推計されるなど、大きな問題となっています。
 こうした、環境問題を原因として発生する人口の移動や、酸性雨や国際河川の汚染等、国境を越える環境問題が国際社会における不安定さを増す要因になる事例が各地で見受けられています。

2 環境・社会・経済の安定性の確保
 こうした現状を背景として、一九九九年(平成十一年)のG8環境大臣会合の最終コミュニケに「環境と安全保障」の項目が置かれるなど、近年、環境と安全保障を関連付けて議論する場面が出てきました。世界経済のグローバル化により国境を越えた相互依存が世界全体として一層強まっている中、世界のある地域の環境破壊による不安定化が他の地域へも波及していくおそれが高まっており、地球規模での持続可能性を確保するため、環境・社会・経済の各側面からのアプローチが必要となります。資源・エネルギー、食料等を海外に大きく依存しているわが国は、その環境負荷の大きさにもかんがみ、地球規模での持続可能性を確保していくため、積極的な貢献を行っていくことが重要になっています。

3 「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグサミット)の意義
 二〇〇二年(平成十四年)八月末からヨハネスブルグ(南アフリカ共和国)で、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」が開催されます。この会議の意義としては、@世界の首脳が政治的決意を示すことにより、二十一世紀における持続可能な開発に係る国際的取組の指針を示す会議となり得ること、A国際社会が直面している新たな挑戦や機会についても検証され、今後の具体的な取組の促進について国際的合意が期待されること、B政府のみならず幅広い各界関係者が参加することで持続可能な開発の実現のための取組をさらに促進すること等が期待されています。
 世界各国の首脳が一堂に会し、持続可能な開発の実現に向け、特に開発途上国の環境問題や貧困の問題に取り組むために建設的な議論が行われることは、世界全体で持続可能性を確保するために極めて有意義であり、海外に多くを依存するわが国としても積極的な貢献を行う機会であるといえます。

4 環境分野における国際貢献
 経済成長と環境負荷の関係を分析すると、経済成長初期においては環境負荷は小さく、経済成長の進展にしたがって環境負荷を増大させ、一定程度の成長段階に至った後には、環境対策の進展により環境負荷が低減していくという研究があり、このような逆U字型カーブは、環境クズネッツ曲線と呼ばれています。持続可能な開発を達成するためには、低開発諸国が先進国と同様の発展経路をたどるのではなく、逆U字型の曲線のふくらみをできるだけなだらかなものとすることが極めて効果的です。そのためには、開発途上国自身が環境対策に積極的に取り組む必要があるとともに、すでに対策の知見を有する先進国の協力が重要です。
 特に、アジア地域は、今後急速な人口の増加と経済発展が予想されており、その結果環境負荷が高まり、そのことがひいては地域社会の不安定要因となると危惧されているため、環境保全のみならず、社会・経済の面でアジア地域と密接な関係にあるわが国としても、政府開発援助(ODA)の約三〇%を環境案件に充てるなど、アジア地域での環境・社会・経済の安定性の確保に努めているところです。

第4節 動き始めた持続可能な社会づくり

 これまでみたように、私たちは、環境負荷の低減に向けより一層の取組を行うことが求められていますが、今日の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムを前提にした取組では、その効果には限界があることから、限られた環境容量の中で持続可能な社会を構築していくためには、今日の社会経済システムそのものの見直しを図ることが必要になっています。
 こうした考え方に基づき、政府においても内閣総理大臣主催の「二十一世紀『環(わ)の国』づくり会議」を設置し、「持続可能な簡素で質を重視する」社会への転換を図り、地球と共生する『環(わ)の国』日本を実現するための方策を検討しました。同会議では、『環(わ)の国づくり』とは、現在の社会経済の構造、私たちの生活のあり方と価値観を環境の視点から変革していくことであるとの認識の下、従来型の社会経済システムを、経済活動で使用される資源はできるだけ少なく、かつ循環的に使用するとともに、経済発展の内実を量的拡大から質的向上に移していくべきということが議論され、さまざまな提言がなされました。
 新しい社会経済システムの具体像については、今後、市民、企業、政府等のあらゆる主体が一体となって環境負荷の低減に取り組み、かつ、検討していく中で生み出されるものであると考えますが、各主体の取組の中には、今日の社会経済システムの見直しにつながる動きを見出すことができます。
 例えば、耐久消費財の使用年数の長期化や中古品小売業の売上の急増等、消費者が新品へのこだわりを捨てている傾向がみえていることや、「モノの豊かさ」よりも「心の豊かさ」を求める人の割合が増加していること、ゆとりのある時間の過ごし方に価値を求める傾向が見受けられることなど、社会の豊かさへの価値観が変わってきていることがうかがえます。また、第2章第2節4でみたように、企業におけるリース・レンタル業の増加に現れるような、物の利用からサービスの利用への転換、つまり脱物質化が社会全体でみられるようになれば、個別製品の効率改善では達しえない結果がもたらされる可能性があります。さらに、地域における環境に関する自発的な取組の拡充を通じた地域の活性化は、従来の一極集中型の大量生産に基づく社会経済システムとは、別の方向性を指し示しています。
 これまでみてきたように、わが国を含めた世界の社会経済システムの基盤となる環境は、多くの分野でより一層深刻な状況にあります。こうした状況に対し、企業や市民の取組が徐々に浸透し、経済成長以上に環境負荷を低減させるという環境効率性の向上が図られてきていることは事実ですが、環境負荷の総量を一定の範囲にとどめるためには、今日の大量生産・大量消費・大量廃棄の考え方に基づく社会経済システムそのものを根本的に見直し、経済の成熟化を伴いながら、資源とエネルギーの大量消費に依存しない新しい段階の社会への移行を目指さなければなりません。
 地球サミットから十年を迎えた本年、ヨハネスブルグサミットが開催され、持続可能な発展の持つ意味について改めて議論が行われることとなりますが、私たちはこの機会をとらえ、持続可能な社会の構築に向け、現在どのような選択を行い、第一歩を踏み出す必要があるのかじっくりと考え、将来のために環境の視点から社会の構造改革を進めていく必要があります。




目次へ戻る


賃金、労働時間、雇用の動き


毎月勤労統計調査平成十四年四月分結果速報


厚生労働省


 「毎月勤労統計調査」平成十四年四月分結果の主な特徴点は次のとおりである。

◇賃金の動き

 四月の調査産業計の常用労働者一人平均月間現金給与総額は二十八万七千七百六十二円、前年同月比一・六%減であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は二十八万千五百八十九円、前年同月比一・三%減であった。これを所定内給与と所定外給与とに分けてみると、所定内給与は二十六万三千三円、前年同月比一・二%減、所定外給与は一万八千五百八十六円、前年同月比は三・二%減であった。
 また、特別に支払われた給与は六千百七十三円、前年同月比は一〇・一%減であった。
 実質賃金は、〇・二%減であった。
 きまって支給する給与の動きを産業別に前年同月比によってみると、伸びの高い順に金融・保険業一・九%増、電気・ガス・熱供給・水道業一・一%増、製造業〇・七%減、運輸・通信業及びサービス業〇・八%減、建設業二・八%減、卸売・小売業,飲食店三・二%減、鉱業三・四%減、不動産業五・九%減であった。

◇労働時間の動き

 四月の調査産業計の常用労働者一人平均月間総実労働時間は百五十七・二時間、前年同月比は〇・八%減であった。
 総実労働時間のうち、所定内労働時間は百四十七・四時間、前年同月比〇・六%減、所定外労働時間は九・八時間、前年同月比二・五%減、所定外労働時間の季節調整値は前月比〇・六%増であった。
 製造業の所定外労働時間は十三・五時間、前年同月比二・七%減、季節調整値の前月比は四・三%増であった。

◇雇用の動き

 四月の調査産業計の雇用の動きを前年同月比によってみると、常用労働者全体で〇・五%減、常用労働者のうち一般労働者では一・五%減、パートタイム労働者では三・八%増であった。
 常用労働者全体の雇用の動きを産業別に前年同月比によってみると、前年同月を上回ったものはサービス業二・七%増、運輸・通信業〇・五%増、不動産業〇・四%増であった。前年同月を下回ったものは建設業〇・四%減、卸売・小売業,飲食店〇・六%減、金融・保険業一・八%減、製造業四・五%減、鉱業九・五%減であった。
 主な産業の雇用の動きを一般労働者・パートタイム労働者別に前年同月比によってみると、製造業では一般労働者四・五%減、パートタイム労働者四・六%減、卸売・小売業,飲食店では一般労働者五・六%減、パートタイム労働者七・〇%増、サービス業では一般労働者二・四%増、パートタイム労働者四・一%増であった。














暮らしのワンポイント

雨戸・網戸の手入れ

 七月も中旬になると、南のほうから梅雨明けが伝えられます。本格的な暑さが来る前に、長雨で汚れた雨戸や網戸の手入れをしておきましょう。
 雨戸は、普段は汚れたときに水ぶきをしておくだけで十分ですが、年に一度は徹底的な手入れを。住宅用洗剤でふき、その後水ぶきをして、仕上げにカーワックスをかけておきます。ワックスがけをすると、艶(つや)が出るのと同時に、汚れ防止にも役立ちます。
 網戸は、掃除機の吸引口とスポンジではさんで汚れを吸い取ります。掃除機だけで手入れをするときは、片側に新聞紙をテープではりつけてから吸引すると、網目についた汚れがきれいにとれます。




目次へ戻る


四月の雇用・失業の動向


―労働力調査平成十四年四月等結果の概要―


総 務 省


◇就業状態別の人口

 平成十四年四月末の就業状態別人口をみると,就業者は六千三百三十三万人、完全失業者は三百七十五万人、非労働力人口は四千百九十万人と、前年同月に比べそれぞれ九十四万人(一・五%)減、二十七万人(七・八%)増、百六万人(二・六%)増となっている。

◇就業者

(1) 就業者

 就業者数は六千三百三十三万人と、前年同月に比べ九十四万人(一・五%)の減少となり、十三か月連続の減少となっている。男女別にみると、男性は三千七百三十九万人、女性は二千五百九十四万人で、前年同月と比べると、男性は五十六万人(一・五%)減、女性は三十九万人(一・五%)減となっている。

(2) 従業上の地位

 就業者数を従業上の地位別にみると、雇用者は五千三百十八万人、自営業主・家族従業者は九百九十一万人となっている。前年同月と比べると、雇用者は四十一万人(〇・八%)減、自営業主・家族従業者は五十五万人減となり、雇用者は八か月連続の減少となっている。
 雇用者のうち、非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○非農林業雇用者…五千二百七十八万人と、四十三万人(〇・八%)減、八か月連続の減少
 ・常 雇…四千六百四万人と、六十三万人(一・三%)減、九か月連続の減少
 ・臨時雇…五百六十八万人と、三十一万人(五・八%)増、四か月連続の増加
 ・日 雇…百七万人と、十万人(八・五%)減、三か月連続の減少

(3) 産 業

 主な産業別就業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○農林業…二百七十八万人と、十六万人(五・四%)減
○建設業…六百二十四万人と、二十三万人(三・六%)減、十七か月連続の減少
○製造業…一千二百三十五万人と、五十六万人(四・三%)減、十二か月連続の減少
○運輸・通信業…三百八十三万人と、十一万人(二・八%)減、三か月連続の減少
○卸売・小売業,飲食店…一千四百四十八万人と、十六万人(一・一%)減、五か月連続の減少
○サービス業…一千七百九十五万人と、三十六万人(二・〇%)増、二十六か月連続の増加
 また、主な産業別雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○建設業…五百四万人と、二十六万人(四・九%)減
○製造業…一千百三十六万人と、五十万人(四・二%)減
○運輸・通信業…三百六十七万人と、八万人(二・一%)減
○卸売・小売業,飲食店…一千百九十四万人と、二万人(〇・二%)増
○サービス業…一千五百七十二万人と、四十六万人(三・〇%)増

(4) 従業者規模

 企業の従業者規模別非農林業雇用者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜二十九人規模…一千七百五十二万人と、五十万人(二・九%)増、四か月連続の増加
○三十〜四百九十九人規模…一千七百七十四万人と、九万人(〇・五%)減、六か月ぶりの減少
○五百人以上規模…一千百八十三万人と、八十六万人(六・八%)減、十二か月連続の減少

(5) 就業時間

 四月末一週間の就業時間階級別の従業者数(就業者から休業者を除いた者)及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○一〜三十五時間未満…二千三十一万人と、百三十一万人(六・九%)増加
 ・うち一〜三十時間未満…一千二百八十四万人と、百四十八万人(一三・〇%)増加
○三十五時間以上…四千百六十九万人と、二百二十七万人(五・二%)減少
 ・うち四十九時間以上…一千五百八十六万人と、十八万人(一・一%)増加
 また、非農林業の従業者一人当たりの平均週間就業時間は四〇・四時間で、前年同月と比べ〇・七時間の減少となっている。

◇完全失業者

(1) 完全失業者数

 完全失業者数は三百七十五万人と、前年同月に比べ二十七万人(七・八%)増となり、十三か月連続の増加となっている。男女別にみると、男性は二百二十七万人、女性は百四十七万人で、前年同月に比べ、男性は十四万人(六・六%)の増加、女性は十二万人(八・九%)の増加となっている。
 また、世帯主の続き柄別完全失業者数及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
○世帯主…百八万人と、十二万人増加
○世帯主の配偶者…四十七万人と、五万人増加
○その他の家族…百七十一万人と、七万人増加
○単身世帯…四十八万人と、一万人増加

(2) 完全失業率(季節調整値)

 季節調整値でみた完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は五・二%と前月と同率となっている。男女別にみると、男性は五・四%、女性は四・九%と、前月に比べ男性は〇・一ポイントの上昇、女性は〇・二ポイントの低下となっている。

(3) 完全失業率(原数値)

 完全失業率は五・六%と、前年同月に比べ〇・五ポイントの上昇となっている。男女別にみると、男性は五・七%、女性は五・四%と、男性は〇・四ポイントの上昇、女性は〇・五ポイントの上昇となっている。

(4) 年齢階級別完全失業者数及び完全失業率(原数値)

 年齢階級別完全失業者数、完全失業率及び対前年同月増減は、次のとおりとなっている。
 [男]
○十五〜二十四歳…四十四万人(三万人増)、一一・六%(一・二ポイント上昇)
○二十五〜三十四歳…五十五万人(二万人増)、六・〇%(〇・三ポイント上昇)
○三十五〜四十四歳…二十七万人(四万人増)、三・五%(〇・五ポイント上昇)
○四十五〜五十四歳…三十八万人(四万人増)、四・一%(〇・五ポイント上昇)
○五十五〜六十四歳…五十三万人(二万人増)、七・九%(〇・二ポイント上昇)
 ・五十五〜五十九歳…二十二万人(同数)、五・七%(同率)
 ・六十〜六十四歳…三十一万人(二万人増)、一〇・九%(〇・四ポイント上昇)
○六十五歳以上…十万人(一万人減)、三・三%(〇・二ポイント低下)
 [女]
○十五〜二十四歳…三十六万人(一万人増)、一〇・三%(〇・九ポイント上昇)
○二十五〜三十四歳…四十五万人(一万人増)、七・三%(同率)
○三十五〜四十四歳…二十三万人(二万人増)、四・四%(〇・三ポイント上昇)
○四十五〜五十四歳…二十六万人(六万人増)、三・九%(一・〇ポイント上昇)
○五十五〜六十四歳…十四万人(同数)、三・五%(同率)
 ・五十五〜五十九歳…八万人(一万人増)、三・三%(〇・五ポイント上昇)
 ・六十〜六十四歳…七万人(同数)、四・五%(〇・一ポイント上昇)
○六十五歳以上…二万人(同数)、一・一%(同率)

(5) 求職理由別完全失業者数

 求職理由別完全失業者数は、次のとおりとなっている。
○定年等…四十万人
○勤め先都合…百二十一万人
○自己都合…百四万人
○学卒未就職…二十六万人
○新たに収入が必要…四十三万人
○その他…三十六万人

―詳細結果平成十四年一〜三月平均の概要―

◇就業者

(1) 雇用形態別の構成

 役員を除く雇用者四千八百九十一万人のうち、正規の職員・従業員が三千四百八十六万人、パート・アルバイト、契約社員、派遣社員等の非正規の職員・従業員が一千四百六万人となっている。
 役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は二八・七%となっており、これを男女別にみると、男性は一四・八%、女性は四八・一%と、女性の割合が高くなっている。

(2) 転職者

 転職者(就業者のうち過去一年間に離職を経験した者)のうち、転職で収入が減った者は四二・四%、収入が増えた者は三〇・六%となっている。
 これを年齢階級別にみると、男性では十五〜二十四歳を除くすべての年齢階級で収入減の割合が収入増の割合を上回っており、年齢階級が高くなるほど収入減の割合が高くなっている。
 また、女性では十五〜二十四歳で収入増の割合が高く、三十五〜四十四歳では収入増と収入減が同率となっているほかは、すべての年齢階級で収入減の割合が収入増の割合を上回っている。

◇完全失業者

(1) 失業期間

 失業期間別に完全失業者の割合をみると、「三か月未満」が三六・三%と最も高く、次いで「一年以上」が三〇・四%となっている。

(2) 仕事につけない理由

 完全失業者について、仕事につけない理由の割合を年齢階級別にみると、四十五歳以上の各年齢階級では「求人の年齢と自分の年齢とがあわない」が最も高い割合となっており、特に五十五歳以上では五二・二%を占めている。
 一方、四十四歳以下の各年齢階級では「希望する種類・内容の仕事がない」の割合が最も高くなっている。

◇非労働力人口

 非労働力人口四千二百七十六万人のうち、就業希望者は五百三十三万人となっており、これを非求職理由別にみると、「家事・育児のため仕事があっても続けられそうにない」の割合が二六・七%と最も高くなっている。












目次へ戻る


消費支出(全世帯)は実質一・九%の増加


―平成十四年四月分家計収支―


総 務 省


◇全世帯の家計

 前年同月比でみると、全世帯の一世帯当たりの消費支出は、平成十四年一月に実質増加となった後、二月、三月は二か月連続の実質減少となったが、四月は実質増加となった。
 また、一人当たりの消費支出は十万三百三十五円で、前年同月に比べ実質二・九%の増加となった。

◇勤労者世帯の家計

 前年同月比でみると、勤労者世帯の実収入は、平成十三年十二月に実質減少となった後、十四年一月以降三か月連続の実質増加となったが、四月は実質減少となった。
 また、消費支出は、平成十四年一月に実質増加となった後、二月、三月は二か月連続の実質減少となったが、四月は実質増加となった。

◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は、一世帯当たり二十八万三千八百四十三円となり、前年同月に比べ、名目二・八%の増加、実質四・二%の増加となった。

◇季節調整値の推移(全世帯・勤労者世帯)

 季節調整値でみると、全世帯の消費支出は前月に比べ実質二・〇%の増加となった。
 勤労者世帯の消費支出は前月に比べ実質〇・八%の増加となった。












目次へ戻る


税金365日 保険と税


国 税 庁


 国民の多くが加入している保険には、民間の保険会社が扱っている生命保険、損害保険のほか、農業協同組合(JA)等が扱っている各種の共済、郵便局が窓口となっている簡易保険などがあります。
 これらの保険に加入し保険料を支払った場合は、所得税を計算する際の基礎となる所得金額から支払保険料に応じて一定額が控除されます。また、保険金を受け取った場合は、契約内容などにより、相続税や贈与税あるいは所得税の課税関係が生じる場合があります。
 そこで、保険に関する税金のあらましを説明しましょう。

【生命保険料を支払った場合】

 所得者本人や家族を受取人とする生命保険や簡易保険、生命共済の保険料または掛金(以下「保険料」といいます。)を支払った場合は、その年中の支払額に応じて、一定額(最高十万円)が「生命保険料控除」として、その年の所得金額から控除されます。
 ただし、保険期間が五年に満たない生命保険契約や生命共済に係る契約で、被保険者が保険期間満了の日に生存している場合など特定の場合に保険金が支払われることになっているものの保険料は、生命保険料控除の対象となりません。
 また、その年に生命保険契約に基づいて受け取った剰余金や割戻金は、支払った保険料から差し引くことになっています。

1 生命保険料控除額の計算
 その年中に支払った保険料を、一定の要件に該当する個人年金保険料と、一般の生命保険料とに区分し、それぞれについて次により計算した金額を合計した額(最高十万円)が控除額になります。

2 生命保険料控除を受けるための手続
(1) 給与所得者の場合
 通常、年末調整でこの控除を受けることになりますので、「給与所得者の保険料控除申告書」にその年中に支払った生命保険料の金額などの必要事項を記載して、年末調整までに勤務先に提出してください。
(2) 事業などを行っている方の場合
 確定申告書に必要事項を記入して確定申告を行うことにより、この控除を受けることになります。
 なお、一般の生命保険料にあっては、支払った保険料が一契約につき年間九千円を超えるものについて、個人年金保険料については、その金額の多少を問わずすべてのものについて、保険会社などの発行する証明書などを添付または提示することが必要です。

【生命保険金を受け取った場合】

 生命保険契約に基づいて一時金や年金を受け取った場合は、生命保険契約の保険料をだれが負担していたかによって、相続税や贈与税あるいは所得税の課税対象になります。

1 満期保険金を一時に受け取った場合
(1) 保険料を負担していた人が保険金受取人のとき
 受け取った保険金から負担した保険料を差し引いた金額が、一時所得として所得税の課税対象となります。ただし、一時所得には五十万円の特別控除があり、これを超える額の二分の一に対して税金がかかることになっています。
 なお、一時払養老保険または一時払損害保険の差益(保険期間が五年以下のものや契約期間が五年超のもので五年以内に解約されたもの)については、受け取るときに一律に二〇%(このうち五%は地方税)の税率での源泉徴収による源泉分離課税となります。
(2) 保険料を負担していた人以外の人が保険金受取人のとき
 受け取った保険金に対して、贈与税がかかります。
 なお、贈与税は、その年一年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から百十万円の基礎控除額を差し引いて計算します。

2 死亡保険金を一時に受け取った場合
(1) 保険料を負担していた人が死亡したとき
 保険金受取人に相続税がかかります。ただし、保険金受取人が相続人であるときは、相続人の受け取った保険金の合計額のうち、法定相続人の数に五百万円を掛けた金額までが非課税となります。
 なお、相続税は、亡くなった人の「正味の遺産額」が「基礎控除額」〔五千万円+(一千万円×法定相続人の数)〕を超える場合に、その超える額に対して課税されます。
(2) 保険料を負担していた人が保険金受取人のとき
 受け取った保険金から負担していた保険料を控除した金額が、一時所得として所得税の課税対象となります。
(3) 保険料を負担していた人が保険金受取人でも死亡した人でもないとき
 保険金受取人に贈与税がかかります。

3 満期保険金を年金で受け取る場合
(1) 保険料を負担していた人が年金の受取人のとき
 毎年受け取る年金は、雑所得として所得税の課税対象となります。
(2) 保険料を負担していた人以外の人が年金の受取人のとき
 保険金を年金として受給する権利を贈与によって取得したものとみなされ、その受給に関する権利の価額が贈与税の課税対象となるとともに、毎年受け取る年金は、雑所得として所得税の課税対象となります。
 なお、(1)及び(2)の雑所得の計算に当たっては、その年に受け取る年金に見合う支払保険料を控除することになっています。

4 死亡保険金を年金で受け取る場合
(1) 保険料を負担していた人が死亡したとき
 保険金を年金として受給する権利を相続や遺贈によって取得したものとみなされ、その受給に関する権利の価額が相続税の課税対象となるとともに、毎年受け取る年金は、雑所得として所得税の課税対象となります。
(2) 保険料を負担していた人が年金の受取人のとき
 毎年受け取る年金は、雑所得として所得税の課税対象となります。
(3) 保険料を負担していた人が年金の受取人でも死亡した人でもないとき
 保険金を年金として受給する権利を贈与によって取得したものとみなされ、その受給に関する権利の価額が贈与税の課税対象となるとともに、毎年受け取る年金は、雑所得として所得税の課税対象となります。
 なお、(1)、(2)及び(3)の雑所得の計算に当たっては、その年に受け取る年金に見合う支払保険料を控除することになっています。

5 各種特約に基づく給付金を受け取った場合
 生命保険契約の特約に基づく給付金で、身体の傷害や疾病を原因とする傷害給付金や入院給付金などを受け取った場合は非課税となり、所得税も贈与税もかかりません。
 なお、多額の医療費を支払った場合は、確定申告をすることにより医療費控除が受けられますが、生命保険契約に基づく入院給付金や手術給付金などを受け取っているときは、支払った医療費からこれらの給付金を差し引いて、負担した医療費を計算することになっています。

【損害保険料を支払った場合】

 所得者本人や所得者と生計を一にする配偶者その他の親族が所有している住宅や家財のうち一定のものを保険の目的とする損害保険契約等、またはこれらの人の身体の傷害や入院による医療費の支出に基因して保険金などが支払われる損害保険契約等に基づく保険料や掛金を支払ったときには、保険期間が十年以上で、満期返戻金が支払われる長期損害保険料の場合は最高一万五千円が、それ以外の短期損害保険料の場合は最高三千円が「損害保険料控除」として、その年の所得金額から控除されます。
 なお、長期損害保険料と短期損害保険料とがある場合の控除額は、合計で最高一万五千円です。
 控除を受けるためには、保険会社などの発行する証明書などを添付または提示することが必要です。
 また、給与所得者については、通常、生命保険料を支払った場合と同様に年末調整の際に控除を受けることになりますので、必要事項を記載した「給与所得者の保険料控除申告書」を年末調整までに勤務先に提出してください。

【損害保険金を受け取った場合】

 損害保険金を受け取った場合も、保険料の支払者や支払原因によって課税方法が異なりますが、保険を掛けていた人が建物の焼失や身体の傷害・疾病(死亡を伴わないものに限ります。)を原因として受け取る保険金には原則として課税されません。
 しかし、例えば事業の商品や店舗が火災で焼失した場合、焼失した商品の損害保険金は事業収入(売上げ)になります。また、焼失した店舗の損害保険金は、店舗の損失額を計算する際に差し引くことになります。
 また、偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われる損害保険金で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担したものについては、その保険金のうち、全部または一部に相続税が課税されます。
 (注) 平成十三年度の税制改正において、生命保険料控除及び損害保険料控除の改正が行われ、平成十三年七月以後、生命保険会社と損害保険会社が相互に参入できることとなるいわゆる第三分野の保険契約(次の@やAなどをいいます。)については、契約先が生命保険会社であるか損害保険会社であるかにかかわらず、@身体の傷害または疾病により保険金が支払われる保険契約のうち、入院により医療費を支払ったことなどに基因して保険金が支払われるものについては、生命保険料控除の対象、A身体の傷害に基因して保険金が支払われる保険契約については、損害保険料控除の対象とされることとなりました。
 これらの改正は、平成十四年以降の各年分については、保険期間の開始日にかかわらず、その年中に支払った保険料の基礎となる保険契約の内容に応じていずれかの控除が適用されることとなります。






目次へ戻る



オンライン登記情報提供サービス

あなたの自宅や会社から。登記情報をオンラインで確認。

法 務 省


 登記所に行かなければ閲覧できなかった不動産登記、商業登記などの登記簿が、インターネットを通じて確認することができるようになりつつあります。コンピュータ化された一部の登記所に限られていたサービスが、平成十三年八月からは、コンピュータ化されたすべての登記所(注)で利用できるようになりました。
 (注) 不動産登記事務のコンピュータ化が一部のみの登記所については、すべてがコンピュータ化された時点から利用できるようになります。
●対象となる情報
 サービス対象となる登記の種類は、不動産登記、商業登記、そのほか政令で定める登記です。
●利用時間
 午前八時三十分から午後五時まで
●休業日
 土曜日、日曜日、祝日、年末年始(十二月二十九日から一月三日)
●利用料金
 一件当たり九百八十円(不動産の所有権の登記名義人のみの情報は四百七十円)
●登録費用
 @個人利用=三百円
 A法人利用者=七百四十円
 B国・地方公共団体=五百六十円
●申し込み方法
 サービスを利用するには、利用者があらかじめ(財)民事法務協会(左記参照)と情報提供契約を交わし、利用者識別番号(ID)とパスワードの交付を受ける必要があります。
 個人で利用する場合は、インターネットで申し込むことができます。パソコンの画面上から「登記情報提供サービス」のホームページにアクセスし、「利用者登録画面」に必要事項を入力。法人や国・地方公共団体の場合は、ホームページ上の「利用申込書」をプリントアウトし、必要事項を記入して必要書類とともに郵送でお申し込みください。
●問い合わせ先
 (財)民事法務協会
  登記情報提供センター
 рO3−5297−3751
 http://www.touki.or.jp/




    <7月24日号の主な予定>

 ▽観光白書のあらまし……………………………………国土交通省 

 ▽法人企業統計季報(平成十四年一〜三月期)………財 務 省 




目次へ戻る