官報資料版 平成14年11月6日




                  ▽公害紛争処理白書のあらまし………公害等調整委員会事務局

                  ▽月例経済報告(十月)………………内 閣 府

                  ▽家計収支(七月)……………………総 務 省

                  ▽税を知る週間…………………………国 税 庁











公害紛争処理白書のあらまし


―公害紛争等の現状と処理―


公害等調整委員会事務局


<はじめに>
 平成十四年版「公害紛争処理白書」は、公害等調整委員会が、平成十四年八月二日、内閣総理大臣を経由して国会に対し「平成十三年度公害等調整委員会年次報告」として報告したものである。同白書は、公害等調整委員会の平成十三年度(平成十三年四月一日から平成十四年三月三十一日まで)の所掌事務(公害紛争の処理に関する事務及び鉱業等に係る土地利用の調整に関する事務)の処理状況をまとめたもので、昭和四十七年に公害等調整委員会が発足して以来三十回目のものである。
 平成十四年版「公害紛争処理白書」のあらましは、次のとおりである。

公害等調整委員会の三十年

 ―行政における公害紛争処理機関としての歩みと今後の展望―

一 行政における公害紛争処理

 ―公害等調整委員会による公害紛争の処理―

 公害等調整委員会は、行政における公害紛争処理機関として、その特色を活かし、過去三十年にわたり、様々な公害紛争の処理に努めてきた。
(公害等調整委員会発足〜昭和五十年代)
@ 水俣病事件、渡良瀬川鉱毒事件、大阪国際空港事件といった大規模な事件を解決してきた。
A 漁業被害や養殖真珠被害に係る事件など、水産被害に関する事件が多く係属した。
 こうした事件処理では紛争処理機関の職権による調査等が大きな役割を果たした。
B 地下鉄工事やビル建設工事に伴う騒音・地盤沈下に関する事件が多く係属した。
(昭和六十年代〜現在)
 かつて人の健康や財産に甚大な被害を与えた重大な公害は影を潜め、代わって、いわゆる都市型・生活型公害が主流となり、公害紛争は多種多様なものとなった。
@ 道路騒音、スパイクタイヤ粉じん、ゴルフ場農薬、鉄道騒音、廃棄物、低周波音などのいわゆる都市型・生活型公害に起因する多種多様の公害紛争が係属された。
A おそれ事件(将来発生するおそれのある被害の未然防止を求める事件)が多く係属された。これらの事件では、単に当事者間の紛争を解決するのみならず、被害の発生を未然に防ぐことにより、地域全体の環境保全対策の推進にも寄与した。
B 北陸新幹線事件、豊島(てしま)産業廃棄物事件、中海(なかうみ)干陸事業事件などのように、国、地方公共団体、公団等の公的機関が当事者となる事件が多く係属した。

二 行政における公害紛争処理機関としての公害等調整委員会の特色

(簡易かつ柔軟な手続、低廉な費用、円滑かつ迅速な解決)
 公害等調整委員会が行う紛争処理は、簡易かつ柔軟な手続、低廉な費用により、円滑かつ迅速な紛争解決が図られ、公害の被害者救済という目的に合致したものである。
(専門的知識の活用)
 被害と加害行為との間の因果関係の究明、被害防止対策の検討など、公害紛争の処理に必要な専門的知識、技術的知見を活用した紛争解決が可能である。
〔事例〕山梨・静岡ゴルフ場事件、豊島産業廃棄物事件
(複雑な利害調整への対応)
 調停手続では、当事者からの意見聴取、実態調査等により、その実情、真意を把握し、当事者の互譲の下に複雑な利害関係を調整し、多様な解決策を提示することが可能である。
〔事例〕大阪国際空港事件、小田急線事件
(状況に即応した柔軟な紛争処理)
 紛争の実態に応じた手続進行、制度の柔軟な運用により、幅広い紛争(「おそれ事件」、国などの公的機関を当事者とする紛争など)を解決することが可能である。
〔事例〕大阪国際空港事件、豊島産業廃棄物事件
(行政の持つ知識・ノウハウの活用)
 関係行政機関に対する調査の委託、資料提供の要請等により、行政機関の持つ知識、ノウハウを活用した紛争解決が可能である。
〔事例〕渡良瀬川鉱毒事件、豊島産業廃棄物事件
(政策への反映)
 紛争処理で得た公害の防止に関する施策の改善についての意見を関係行政機関に対して述べることが可能である。また、紛争処理の成果が政策に影響を及ぼし、環境対策の推進に寄与している。
〔事例〕スパイクタイヤ粉じん事件、豊島産業廃棄物事件
(フォローアップ機能)
 調停条項の履行状況の確認・監視、当事者や地域住民との話合いの場として設置された協議会等への参加等を行うことにより、紛争の最終的な解決をフォローアップしている。
〔事例〕大阪国際空港事件、豊島産業廃棄物事件

三 今後の展望

 近年の公害紛争をみると、廃棄物や自動車をめぐる公害が大きな問題となっており、さらに、社会・経済情勢の変化、ライフスタイルの変化、国民の環境意識の高揚等に伴い、低周波音や化学物質に係る公害紛争が登場してきている。現在、政府が取り組んでいる司法制度改革において、裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化が課題の一つとされている。公害等調整委員会が、行政型のADR機関として、今後の公害紛争の動向に即応し、紛争処理機能の一層の充実・強化に努めていくことが必要である。

公害紛争処理法に基づく事務の処理概要

公害等調整委員会における公害紛争の処理状況
 公害等調整委員会は、公害紛争処理法(昭和四十五年法律第一〇八号)の定めるところにより、公害に係る紛争について、あっせん、調停、仲裁及び裁定を行うとともに、地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理について指導等の事務を行っている。
 公害紛争処理法が昭和四十五年十一月一日に施行されて以来平成十三年度末までに公害等調整委員会(昭和四十七年六月三十日以前は中央公害審査委員会)に係属した公害紛争事件は、七百四十九件である。その内訳は、あっせん事件一件、調停事件六百九十七件、仲裁事件一件、裁定事件四十八件(責任裁定事件三十九件、原因裁定事件九件)及び義務履行勧告申出事件二件となっている。
 これらのうち、終結しているのは、あっせん事件一件、調停事件六百九十四件、仲裁事件一件、裁定事件四十二件(責任裁定事件三十四件、原因裁定事件八件)及び義務履行勧告申出事件二件の計七百四十件である。
 平成十三年度中に公害等調整委員会が受け付けた公害紛争事件は、調停事件三件及び責任裁定事件三件の計六件である。これらに前年度から繰り越された七件(調停事件三件、裁定事件四件(責任裁定事件三件、原因裁定事件一件))を加えた計十三件が十三年度に係属した。このうち四件が十三年度中に終結し、残り九件は十四年度に繰り越された(第1表参照)。

調停事件

 平成十三年度に公害等調整委員会が受け付けた調停事件は、三件であり、これらに前年度から繰り越された三件を加えた計六件が十三年度に係属した。このうち三件が十三年度に終結し、残り三件が十四年度に繰り越された。

一 水俣病損害賠償調停申請事件

(事件の概要)
 熊本県から鹿児島県にまたがる不知火海の沿岸の漁民等が、チッソ株式会社水俣工場からの排水に起因した水俣病にかかり、これによって精神上及び財産上の損害を被ったとして、チッソ株式会社を相手方(被申請人)として、賠償金の支払等を内容とする調停を求めたものである。
 現在の調停手続では、水俣病患者の症状等に応じ、患者グループとチッソ株式会社との間の補償協定に定められたA、B、Cの三ランクのいずれに該当するかの判定を公害等調整委員会に求めることとした患者について、ランク付けを行い、各ランクに応じて個々人の補償額等の決定、家族の補償等を中心とした調停を行っている。
(事件処理の経過)
 昭和四十八年度の第一次調停以来、平成十二年度末までに五十次にわたる調停を実施し、平成十三年度においては第五十一次の調停を行い、第一次調停以来、六百三件(患者数一千四百六十人)について調停が成立した。
 また、調停が成立した患者のうち、Bランク及びCランクの生存者の場合には、調停条項の中に、「将来申請人の症状に慰藉料等の金額の増額を相当とするような変化が生じたときは、申請人は、これを理由として、調停委員会に対し、当該金額の変更を申請することができるものとすること。」という条項があり、これに基づいてなされた慰藉料額等変更申請を、平成十三年度末までに五百十七件受け付け、五百十五件処理した(第2表参照)。

二 中海本庄工区干陸事業水質汚濁被害等調停申請事件(平成七年(調)第二号・平成八年(調) 第一号事件)

(事件の概要)
 平成七年八月九日、島根県及び鳥取県の住民三十五人から、国(代表者農林水産大臣)を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、島根県知事に対し調停を求める申請があった(平成七年(調)第二号事件)。
 申請の内容は以下のとおりである。国が計画している中海本庄工区干陸事業が実施された場合、遊水域、浅瀬及び海水の流入・流出の消滅などにより災害、水質汚濁及び生態系の破壊を招くおそれがある。これらを理由として、被申請人国に対し、@全面干陸を行わないこと、A水質汚濁及び生態系の回復を目指し、森山堤防及び大海崎堤防の一部を早期に開削するなど必要な措置を講じることを求めるというものである。
(事件処理の経過)
 本事件は、いわゆる県際事件であり、島根県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係県知事(鳥取県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成七年九月五日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を公害等調整委員会に送付した。
 公害等調整委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、五回の調停期日を開催するなど鋭意手続を進めたが、平成八年八月に当時の与党三党(自由民主党、社会民主党、新党さきがけ)の合意により、事業の総合評価を行うための二年間の調査を行い、事業計画について、技術的・経済的な検証を行うとともに、宍道湖・中海全域及びその周辺水域の環境や資源への影響を把握するものとし、別途宍道湖・中海全域における水産振興について国と島根県が協力して行う調査・検討結果と合わせ、総合的な評価を行うこととなった。このため、調停委員会は、この検討経緯を見守ることとし、その間は、必要に応じて両当事者との連絡をとることにとどめることとした。
 なお、この間、平成八年一月十九日、同一原因による被害を主張する島根県の住民一人から参加の申立てがあり(平成八年(調)第一号事件)、調停委員会は、同日、これを許可した。
 その後、中国四国農政局が実施した二年間の調査・検討結果に基づき作成した中海干拓事業本庄工区に係る農業利用計画案及び水産利用計画案について検討を行い、中国四国農政局長に意見を述べることを目的として平成十一年二月二十四日に本庄工区検討委員会が設置され、同年三月十五日から十二年三月二十五日までの間に十一回の検討委員会が開催されて、同年四月三日に報告書が提出された。
 農林水産省は、本庄工区検討委員会の報告を踏まえ、島根県と協議を進め、与党三党(自由民主党、公明党、保守党)による「公共事業の抜本的見直しに関する三党合意」等を総合的に勘案した結果、平成十二年九月七日、本庄工区の干陸中止を決定した。
 調停委員会は、平成十二年十二月八日までに七回の調停期日を開催し、その後、両当事者に調停案を提示し、鋭意手続を進めていたところ、平成十三年四月六日の第八回調停期日において、別記のとおりの調停が成立した。
 なお、同期日において、調停委員長から、調停条項前文は、中海が美しい景観を作るとともに地域住民の生産活動の源泉となっているなど地域にとってかけがえのない貴重な財産であり、将来においてもこうした恵みを享受することができるように、環境の保全と地域振興との調和を図りながら、これを利用していくことが肝要であるという認識を表現したものであり、第二項は堤防の開削といった具体的施策にまで言及したものではないことを付言する旨の発言があった。

【別記】
 調停条項
 当事者双方は、中海が、地域にとってかけがえのない貴重な財産であり、その賢明な利用を図ることが肝要であることを深く認識した上、後記の条項による調停を成立させることに合意した。
一 申請人は、中海干拓事業本庄工区の干陸事業が中止されたことを高く評価するとともに、今後、中海の水質改善のための諸施策が十分検討され、可能なものから順次実施に移されることを強く期待する。
二 被申請人は、中海の水質が環境基準を達成していない状況等を見据え、鳥取、島根両県知事が策定した湖沼水質保全計画による水質保全のための施策の推進に積極的に協力するなど水質の改善に努力するものとする。
三 調停費用は各自の負担とする。

三 核融合科学研究所重水素実験中止調停申請事件(平成十年(調)第二号事件)

(事件の概要)
 平成十三年五月二十八日、岐阜県外十三都県の住民七千八百九十五人から、国(代表者文部科学大臣)を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十六条第一項の規定に基づき、岐阜県公害審査会に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。文部科学省核融合科学研究所において実施が計画されている重水素実験が実施された場合、@発生するトリチウムの漏出による水質汚染、大気汚染、A中性子の漏出による健康被害、B地域の安全性の低下による風評被害、C高圧線による電磁波被害、D核融合炉爆発に伴う大気汚染が発生する危険性がある。これらを理由として、被申請人国に対し、同研究所において重水素実験を実施しないことを求めるというものである。
(事件処理の経過)
 本事件は、いわゆる県際事件であり、岐阜県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係都県知事(青森県知事、茨城県知事、栃木県知事、埼玉県知事、千葉県知事、東京都知事、神奈川県知事、福井県知事、静岡県知事、愛知県知事、三重県知事、和歌山県知事、香川県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成十三年七月九日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を公害等調整委員会に送付した。
 公害等調整委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、二回の調停期日を開催するなど、鋭意手続を進めている。
 なお、平成十四年三月五日、平成十四年(調)第一号事件(後述)を併合して手続を進めることを決定した。

四 清瀬・新座低周波騒音被害等調停申請事件(平成十三年(調)第三号事件)

(事件の概要)
 平成十三年十月二十三日、埼玉県及び東京都の住民十人から、医療法人を相手方(被申請人)として、埼玉県知事に対し調停を求める申請があった。申請の内容は以下のとおりである。被申請人は、申請人らの住居に隣接する土地に医療施設の建設を行ったが、平成十二年六月一日の完成後、当該施設の屋上等に設置された空調室外機、変圧器、換気扇等から耐え難いほどの騒音(特に低周波騒音)及び振動が発生し、申請人らは不眠、頭痛、倦怠感等の健康被害を受けている。これらを理由として、被申請人に対し、実効的な防音及び防振対策を実施して騒音・振動を滅失させること等を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 本事件は、いわゆる県際事件であり、埼玉県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係知事(東京都知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成十三年十一月六日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を公害等調整委員会に送付した。
 公害等調整委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに調停委員会を設け、調停期日の開催、現地調査の実施など、鋭意手続を進めている。
 また、低周波音に関する専門的事項を調査するため、平成十四年三月一日、二名の専門委員を選任した。

五 核融合科学研究所重水素実験中止調停申請事件(平成十四年(調)第一号事件)

(事件の概要)
 平成十四年二月二十六日、岐阜県外五都県の住民二百四十三人から、国(代表者文部科学大臣)を相手方(被申請人)として、調停を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。文部科学省核融合科学研究所において実施が計画されている重水素実験が実施された場合、@発生するトリチウムの漏出による水質汚染、大気汚染、A中性子の漏出による健康被害、B地域の安全性の低下による風評被害、C高圧線による電磁波被害、D核融合炉爆発に伴う大気汚染が発生する危険性がある。これらを理由として、被申請人国に対し、同研究所において重水素実験を実施しないことを求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本申請を受け付けた後、直ちに調停委員会を設け、鋭意手続を進めている。なお、平成十四年三月五日、平成十三年(調)第二号事件と同一申請内容であるため、同事件に併合して手続を進めることを決定した。

裁定事件

 平成十三年度中に公害等調整委員会が受け付けた裁定事件は、三件であり、これらに前年度から繰り越された四件を加えた計七件が十三年度に係属した。このうち、一件が十三年度終結し、残り六件が十四年度に繰り越された。

一 杉並区における不燃ゴミ中継施設健康被害原因裁定申請事件(平成九年(ゲ)第一号事件)

(事件の概要)
 平成九年五月二十一日、東京都杉並区の住民ら十八人から、東京都を相手方(被申請人)として、原因裁定を求める申請があった。
 申請の内容は、以下のとおりである。平成八年四月、杉並区に被申請人が不燃ゴミ中継施設を設置して以来、申請人らは、それまでに経験したことのない喉の痛み、頭痛、めまい、吐き気、動悸等の様々な健康被害を受けており、これらの被害は、同中継施設から排出される有害物質によるとの原因裁定を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、二十回の審問期日を開催し、申請人及び被申請人による陳述並びに参考人尋問を行うとともに、申請人らが訴える健康被害と杉並不燃ゴミ中継施設の排気及び周辺の大気成分との因果関係を判断するのに必要な専門的事項を調査するため、平成十一年一月二十六日、三名の専門委員を選任するなど、鋭意手続を進め、平成十四年六月二十六日、申請人十八人のうち十四人について、平成八年四月から同年八月ごろに生じた被害の原因は、同中継施設の操業に伴って排出された化学物質によるものであるとの、申請の一部を認容する裁定を行い、本事件は終結した。

二 尾鷲(おわせ)市における養殖真珠被害責任裁定申請事件(平成十一年(セ)第ニ号事件)

(事件の概要)
 平成十一年八月三十日、三重県の真珠養殖業者から、トンネル工事を施工した会社三社及び同工事を発注した三重県を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。被申請人会社三社は、平成七年三月ごろから、トンネル掘削によって生じた土砂を海に投棄し、埋め立てたが、工事の方法を誤ったために、この土砂が周辺海域に流出し、申請人が養殖していたあこや貝が大量にへい死した。被申請人三重県の前記土砂(盛土)の設置には瑕疵があり、また、同県は、被申請人会社三社に対し、前記工事につき適切な指図を行わなかった。これらを理由として、被申請人らに対し、損害賠償の一部として、金三億円及びこれに対する平成七年五月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 本事件については、同一の被害をめぐる損害賠償請求訴訟が係属していたことから、いずれの手続を進行させるかについて、両当事者との協議を経て、裁定手続を進行させることとした。裁定委員会は、八回の審問期日を開催し、参考人、申請人代表者の尋問を行うとともに、現地調査を実施し、また、土砂の流出と養殖真珠のへい死との因果関係を判断するのに必要な専門的事項を調査するため、平成十二年七月二十六日、専門委員一名を選任するなど、鋭意手続を進め、平成十四年二月十八日、本件申請は、いずれも理由がないものとして、これを棄却する旨の裁定を行い、本事件は終結した。

三 佐伯(さいき)市における養殖真珠被害責任裁定申請事件(平成十一年(セ)第三号事件)

(事件の概要)
 平成十一年十二月二十七日、大分県の真珠養殖業者から、国(代表者運輸大臣、現国土交通大臣)を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。被申請人が平成八年九月ごろから行った佐伯湾の浚渫作業に伴い発生した海水汚濁により、申請人の養殖場の真珠貝(あこや貝)約七万七千個がへい死し、甚大な損害を被った。申請人が委嘱した調査結果において、貝に付着した物質と佐伯湾のヘドロとの間に強い類似性があり、付着原因を断定することは困難であるが、佐伯湾のヘドロが一因であることも否定できない旨評価されている。これらを理由として、被申請人に対し、損害賠償として金約八千二百万円の支払を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、七回の審問期日を開催し、申請人代表者及び参考人の尋問を行い、さらに現地調査を実施するなど、鋭意手続を進めている。
 また、ヘドロの流出と真珠貝のへい死との因果関係を判断するために必要な専門的事項を調査するため、平成十二年七月二十六日、専門委員一名を選任したほか、へい死真珠貝付着泥等の分析調査も行った。

四 奄美大島における漁業被害等責任裁定申請事件(平成十二年(セ)第一号事件)

(事件の概要)
 平成十二年十一月八日、鹿児島県大島郡大和村の漁業者三人から、道路工事を施工したとする会社三社及び同工事を発注した鹿児島県を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。被申請人会社三社及び鹿児島県は、前記道路工事に伴い発生したトンネルの掘削土を海岸の砂浜に放置し、海洋の汚濁防止策を全く講じなかったために、付近の魚介類の育成環境等を破壊した。その結果、申請人らの漁獲が減少し、申請人らは漁場を放棄した。これらを理由として、被申請人らに対し、金五千八百七十六万円の損害賠償を求めるというものである。
 その後、申請人らから請求金額を一億八千百五十六万円に拡張する旨の書面が提出され、さらに、被申請人らに対する申請の一部が取り下げられ、請求金額は一億五千百五十六万円となった。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、二回の審問期日を開催したほか、現地調査を実施するなど、鋭意手続を進めている。

五 横浜市における振動・低周波音被害責任裁定申請事件(平成十三年(セ)第二号事件)

(事件の概要)
 平成十三年十二月二十七日、横浜市の住民三人から、横浜市を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。被申請人の運行する市営地下鉄が申請人らの店舗兼住居の真下を通過して引き起こす振動と低周波音により、申請人らは健康被害を受けるとともに、事業を廃業せざるを得なくなり、住居も失うに至った。これらを理由として、被申請人に対し、損害賠償として、合計金五千万円の支払を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、第一回審問期日を開催するなど、鋭意手続を進めている。

六 深川市における低周波音被害責任裁定申請事件(平成十四年(セ)第一号事件)

(事件の概要)
 平成十四年一月十八日、北海道深川市の住民二人から、生活協同組合を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。申請人は、被申請人が設置している空冷式冷凍機から発生する低周波音により、動悸、不眠、めまい等の症状が発生し、心身に異常を来し、また、転居を余儀なくされた。これらを理由として、被申請人に対し、損害賠償として、合計金一千百十三万円及び平成十四年一月一日から自宅における低周波音の測定値が八ヘルツと四〇ヘルツの間で五〇デシベルを下回る日まで一か月当たり合計五十四万五千円の支払を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、鋭意手続を進めている。

七 伊東市における低周波音被害責任裁定申請事件(平成十四年(セ)第一号事件)(平成十四年(セ)第二号事件)

(事件の概要)
 平成十四年三月二十八日、静岡県伊東市の住民一人から、製菓会社を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は以下のとおりである。申請人は、被申請人の製菓工場から発生する騒音・悪臭により、精神的、肉体的被害を受けている。これらを理由として、被申請人に対し、損害賠償として、金三百五十万円及び騒音・悪臭に対し適切な処置を講ずるまで一日につき金三千円の支払を求めるというものである。
(事件処理の経過)
 公害等調整委員会は、本申請を受け付けた後、直ちに裁定委員会を設け、鋭意手続を進めている。

都道府県公害審査会等における公害紛争の処理状況

 都道府県に設置されている都道府県公害審査会(公害審査会を置かない都道府県にあっては都道府県知事。以下「審査会等」という。なお、平成十四年三月末現在で、公害審査会を置いているのは三十八都道府県、公害審査委員候補者を委嘱しているのは九県である)において、公害に係る紛争について、あっせん、調停及び仲裁並びに義務履行勧告を行っている。
 公害紛争処理法施行以来、平成十四年三月末までに審査会等に係属した公害紛争事件は、九百五十五件であり、そのうち終結したものは九百三件である。平成十三年度中に受け付けた事件は三十一件であり、これらに前年度から繰り越された四十九件を加えた計八十件が係属した。このうち二十八件が同年度中に終結し、残り五十二件が十四年度に繰り越された(第3表参照)。
 近年の事件の特徴としては、次の点が挙げられる。
@ 典型七公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭)のみでなく、日照阻害、通風阻害、眺望阻害、土砂崩壊、交通環境悪化等生活環境を悪化させる要因を併せて主張するものが増加しており、それらを含めた紛争の一体的、総合的な解決を求める事件が目立っている。
A 加害行為とされる事業活動の種類は、制度発足当時は製造・加工業関係が全体の約半数を占めていたが、近年は廃棄物・下水等処理関係、交通・運輸関係等の割合が増加するなど、発生源の変化・多様化の傾向がみられる。

申請の状況

 平成十三年度中に受け付けた調停事件三十件について、典型七公害の種類別にみると、騒音に関するものが二十三件、振動に関するものが十件、大気汚染に関するもの及び悪臭に関するものが各八件、水質汚濁に関するものが二件、地盤沈下に関するものが一件となっている(重複集計)。
 また、加害行為とされる主な事業活動の種類をみると、製造・加工関係が十二件、交通・運輸関係が七件、畜産に係るものが一件、その他が十件となっている。

処理の状況

 平成十三年度中に終結した二十八件の終結区分をみると、調停が成立したものが九件、調停を打ち切ったものが十八件、その他(義務履行の勧告)が一件となっている。
 また、申請受付から終結までの期間をみると、三か月以内に終結したものが二件、三か月を超え六か月以内に終結したものが七件、六か月を超え一年以内に終結したものが十一件、一年を超え一年六か月以内に終結したものが五件、二年を超えているものが三件となっており、約九割が二年以内に終結している。なお、制度発足以来の全事件の平均処理期間は、十五・七か月である。
 平成十三年度中に調停が成立した事件の例を以下に示す。

一 秋田県平成十一年(調)第一号事件

(申請の概要)
 秋田県の住民九人から、平成十一年七月、秋田県公害審査会に対して、牛丼店を経営する会社を相手方(被申請人)として、以下の内容の調停申請がなされた。
(請求事項)
@ 午後十時から午前六時まで牛丼店の営業を休止、又は店舗及びその敷地と近隣土地との間に防音壁・遮光壁を設置するなどにより、営業に伴い生じる夜間の騒音・光害の防止措置をとること。
A 申請人に対し相当額の賠償金を支払うこと。
(申請の理由)
 被申請人が営業する牛丼店(二十四時間営業)の駐車場に出入りする自動車のドアの開閉音、カーステレオやラジオの音、話し声等の騒音、また、自動車等のヘッドライトの光により、申請人は夜間の安眠を妨害されている。
(合意の内容)
 調停委員会は、申請受付以来、現地調査及び六回の調停期日の開催等合意の形成に向けて努力した結果、平成十三年十月、次の内容の合意が成立した。
@ 被申請人は、従業員教育を徹底し、苦情については、誠実かつ迅速に対応するように約束すること。
A 被申請人は、申請人宅に防音のための改良工事(内窓増設工事)及び目隠しのための改良工事(目隠し面格子取付工事)を平成十三年十二月末日までに実施し、工事費用の負担割合は、被申請人側八割、申請人側二割とすること。
B 申請人は、今回改良を実施した工事について、被申請人に対し、経年劣化によるメンテナンスも含め、更なる以後の工事の要求と費用の請求要求をしないこと。
C 申請人は、調停条項に定める以外のその他の請求を放棄すること。

二 和歌山県平成十一年(調)第一号事件

(申請の概要)
 和歌山県の住民一千百六十五人から、平成十一年二月、和歌山県知事に対して、和歌山県及び産業廃棄物処理業を経営する会社を相手方(被申請人)として、以下の内容の調停申請がなされた。
(請求事項)
@ 被申請人は、(ア)処分場に埋め立てられた廃棄物を撤去すること、(イ)処分場内のボーリング調査等環境調査を行うこと、(ウ)周辺住民のうち希望者に対して継続的な健康調査を行うこと、(エ)処分場で焼却又は不法投棄された廃棄物の搬入元、量、種類及び搬出された廃棄物の投棄先、量、種類についての情報を公開すること。
A 被申請人県は、被申請人会社との間の協議事項・合意事項及び同社に対する指導・監督内容並びにそれに対する同社の対応に関する一切の情報を公開すること。
B 被申請人は、施設での廃棄物の焼却及び不法投棄によって申請人に生じた健康被害、財産的被害等について調査の上、相当額の補償をすること。
(申請の理由)
 被申請人会社は、産業廃棄物焼却施設で違法に廃棄物の焼却を行い、また、残土と称して最終処分場設置の許可を得ることなく廃棄物、焼却灰等を不法投棄したことにより、申請人住民らは健康被害、生活上の被害、精神的被害、農作物に対する被害等を受けている。また、被申請人県は、法律上、被申請人会社の違法行為の監督・是正権限がありながら、不法投棄を黙認し、監督権限を行使しなかった。
(合意の内容)
 調停委員会は、申請受付以来、現地調査及び十四回の調停期日の開催等合意の形成に向けて努力した結果、平成十三年十月、申請人一千百六十五人のうち一千四十二人と被申請人県の間で、次の内容の合意が成立した。また、転居等により所在が明らかでない申請人百二十三人については、調停が打ち切られた。
 なお、被申請人会社とは、平成十三年九月に、合意が成立する見込みがないとして、調停が打ち切られた。
前文(抜粋)
○ 申請人一千百六十五名及び県が環境保全協定に基づく協議を重ね、緊急対策が実施されるなかで、相互の信頼関係が形成されつつあることにかんがみ、ダイオキシン類等の有害物質に対する恒久対策及び廃棄物の撤去を含む本問題の最終解決に向け協議するため、別に対策協議会を設置することを合意し、これをもって本調停を成立することとした。
○ 調停委員会は、調停条項に定めるところが迅速かつ誠実に実行され、その結果、地域住民の不安が払しょくされ、安心して暮らせる生活環境が確保されることを切望する。
@ 申請人と県は、ダイオキシン類等有害物質に対する恒久対策及び廃棄物の撤去に係る事項等を協議するために別に定める「廃棄物対策協議会規定」に基づき、対策協議会を設置すること。
A 県は、廃棄物行政における適正な情報公開をさらに徹底すること。
B 申請人が、県に対して求めている補償については、別途当事者間において協議すること。
C 申請人と県は、本調停条項により調停が成立したものとし、今後は、本調停前文の趣旨及び本調停条項を尊重遵守し、信義に従い、誠実に協議解決することを約すること。
D 本件調停手続に要した費用は、各自の負担とすること。

地方公共団体における公害苦情の処理

 住民から寄せられる公害苦情は、健康と生活環境の保全に関する相談という側面と、行政に対する不満の表明という側面を併せ持っており、公害行政に関する種々の問題を包含している。また、公害苦情は、住民の公害防止に向けての直接的な行動であって、住民の公害に対する関心の度合いとも関係があり、被害のすべてが公害苦情として寄せられているわけではないが、公害被害の現状を反映しているものといえる。
 公害等調整委員会事務局では、全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口に寄せられた公害苦情の件数や処理状況等を把握することにより、公害苦情の実態を明らかにし、公害対策等の基礎資料を提供するとともに、公害苦情処理事務の円滑な運営に資するため、公害紛争処理法第四十九条の二の規定に基づき、毎年度、全国の都道府県及び市町村(特別区を含む)を対象として「公害苦情調査」を実施している。

全国の公害苦情件数

 平成十二年度に全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口で受け付けた公害苦情件数(他の機関等から移送されたものを含む)は八万三千八百八十一件で、前年度に比べて七千八百一件(一〇・三%)増加した(第4表参照)。
 公害苦情件数を、典型七公害に係るものと、廃棄物の不法投棄、日照、電波障害等典型七公害以外に係るものとに分けてみると、典型七公害の苦情件数は六万三千七百八十二件(全公害苦情件数の七六・〇%)で、前年度に比べて四千八百六十七件(八・三%)増加した。また、典型七公害以外の苦情件数は二万九十九件(同二四・〇%)で、前年度に比べて二千九百三十四件(一七・一%)増加した。

公害の種類別苦情件数

 平成十二年度の典型七公害の苦情件数を種類別にみると、大気汚染が二万六千十三件(典型七公害苦情件数の四〇・八%)と最も多く、次いで、悪臭が一万四千十三件(同二二・〇%)、騒音が一万三千五百五件(同二一・二%)、水質汚濁が八千二百七十二件(同一三・〇%)、振動が一千六百四十件(同二・六%)、土壌汚染が三百八件(同〇・五%)、地盤沈下が三十一件(同〇・〇%)となっており、前年度に比べて、大気汚染及び地盤沈下は減少したが、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動及び悪臭は増加した(第5表参照)。
 また、典型七公害以外の苦情件数を種類別にみると、廃棄物の不法投棄が七千百五十八件(典型七公害以外の苦情件数の三五・六%)と最も多く、次いで、害虫等の発生が二千百五十二件(同一〇・七%)、動物の死骸放置が一千七百三件(同八・五%)、火災の危険が六百八十四件(同三・四%)、ふん・尿の害が五百四十三件(同二・七%)、電波障害が百七十件(同〇・八%)などとなっている(第6表参照)。

公害の発生源別苦情件数

 平成十二年度の公害苦情件数を発生源別にみると、建設業が一万五千五百六十三件(全公害苦情件数の一八・六%)と最も多く、次いで、製造業が一万三千四百九十七件(同一六・一%)、家庭生活が九千三百十五件(同一一・一%)、サービス業が八千百六件(同九・七%)、空地が七千三百五十件(同八・八%)、農業が六千三十二件(同七・二%)、「卸売・小売業,飲食店」が五千四百三十八件(同六・五%)、道路が四千四十八件(同四・八%)などとなっている(第1図参照)。

公害苦情の処理状況

 平成十二年度に全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が取り扱った公害苦情件数は、九万三千二百五十七件で、十二年度に新規に受け付けた苦情件数が八万三千八百八十一件、前年度から繰り越された苦情件数が九千三百七十六件となっている。処理状況をみると、公害苦情相談窓口において直接処理した苦情件数(以下「直接処理件数」という)が七万八千八百二十九件、他の機関等へ移送した苦情件数が一千六百十二件、翌年度へ繰り越した苦情件数が一万三百十四件、その他の苦情件数が二千五百二件となっている。
 典型七公害の苦情の直接処理件数について、苦情の申立てから処理までに要した期間別にみると、「一週間以内」が三万六千三百二十三件(典型七公害の直接処理件数の六〇・二%)と最も多く、次いで、「一週間超一か月以内」が六千六百九十二件(同一一・一%)、「三か月超六か月以内」が六千三百七十九件(同一〇・六%)、「一か月超三か月以内」が四千七百一件(同七・八%)、「六か月超一年以内」が三千三百三十四件(同五・五%)、「一年超」が一千七百六十七件(同二・九%)などとなっている。
 「一週間以内」と「一か月以内」を合わせると四万三千十五件(同七一・三%)となり、典型七公害の直接処理件数の七割以上が一か月以内に処理されている(第7表参照)。
 また、典型七公害の苦情のうち、直接処理した苦情件数について苦情の処理結果に対する申立人の満足度別にみると、「一応満足」が一万九千三百八十八件(典型七公害の直接処理件数の三二・一%)と最も多く、次いで「満足」が九千五件(同一四・九%)、「あきらめ」が三千三百八件(同五・五%)、「不満」が二千百二十七件(同三・五%)などとなっている(第8表参照)。

公害苦情処理を担当する職員数

 平成十二年度末現在の全国の地方公共団体で公害苦情の処理を担当している職員は一万三千三十六人となっている。職員数の内訳をみると、公害紛争処理法第四十九条第二項の規定に基づき任命又は指名を受けた公害苦情相談員が二千六百六十一人(公害苦情処理事務担当職員総数の二〇・四%)、その他の職員が一万三百七十五人(同七九・六%)となっている。

地方公共団体に対する指導等

公害紛争処理に関する連絡協議

 公害等調整委員会及び審査会等は、公害紛争処理法によって定められた管轄に従い、それぞれ独立して紛争の処理に当たっているが、紛争の円滑な処理のためには、委員会及び審査会等が相互の情報交換・連絡協議に努めることが必要である。
 このため、公害等調整委員会は、平成十三年度は、第三十一回公害紛争処理連絡協議会等の会議を開催し、また、参考となる情報・資料の提供を行った。

公害苦情処理に関する指導等

 公害紛争処理法では、公害苦情の処理は地方公共団体の責務とされ、また、公害等調整委員会は地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理について指導等を行うこととされている。
 このため、公害等調整委員会は、平成十三年度は、第二十九回公害苦情相談研究会等の会議を開催し、また、参考となる情報・資料の提供を行った。

鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律等に基づく事務の処理概要

 公害等調整委員会は、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(昭和二十五年法律第二九二号)、鉱業法(昭和二十五年法律第二八九号)、採石法(昭和二十五年法律第二九一号)等の定めるところにより、鉱区禁止地域の指定及び鉱業権設定の許可処分、岩石採取計画の認可処分等に関する不服の裁定を行うとともに、土地収用法(昭和二十六年法律第二一九号)に基づく国土交通大臣に対する意見の申出等の事務を行っている。

鉱区禁止地域の指定制度

 本制度は、公害等調整委員会が、各大臣又は都道府県知事の請求に基づき、鉱業法の所管大臣である経済産業大臣の意見を聴き、公聴会を開いて一般の意見を求め、利害関係人を審問した上で、請求地域において鉱物を掘採することが一般公益又は農業、林業その他の産業と対比して適当でないと認めるときは、当該地域を鉱区禁止地域として指定し、また、同様の手続によりその指定を解除する制度である。
 本制度が施行された昭和二十六年一月から平成十三年度末までに指定した鉱区禁止地域は、二百三十八地域、総面積六十六万三千三百十六ヘクタールとなっている。これらの地域を指定理由別にみると、ダム及び貯水池の保全を理由とするものが百四十七地域と最も多い(第2図参照)。なお、指定を解除したものはない。
 平成十三年度中に公害等調整委員会に係属した事件は二件であり、そのうち一件が十三年度中に処理され、残り一件が十四年度に繰り越された。

行政処分に対する不服の裁定制度

 公害等調整委員会は、鉱業法(昭和二十五年法律第二八九号)、採石法(昭和二十五年法律第二九一号)、砂利採取法(昭和四十三年法律第七四号)等の法律に基づき、鉱業、採石業又は砂利採取業と一般公益又は農業、林業その他の産業とのいずれかの利益に係る行政処分に対する不服の裁定を行うことを通じ、鉱業等に係る土地利用の調整を図っている。このため、これらの行政処分については、行政不服申立てに関する一般法である行政不服審査法(昭和三十七年法律第一六〇号)の適用が除外されており、もっぱら公害等調整委員会が、意見陳述、証拠調べ等準司法的な手続により不服の裁定を行っている。
 本制度が施行された昭和二十六年一月から平成十三年度末までに百二十九件の裁定事件を受け付けたが、そのうち百二十七件が終結している。これを関係法律別にみると、採石法関係が最も多く、砂利採取法関係がこれに次いでいる。
 平成十三年度に公害等調整委員会に係属した不服の裁定は、前年度から繰り越された三件である。このうち一件が十三年度中に終結し、残りの二件は十四年度に繰り越された。
 なお、十四年度に繰り越された二件については、十四年四月中に終結している。

土地収用法に基づく不服申立てに関する意見の申出等の制度

 土地利用の複雑・多様化に対応して、土地利用に関する行政庁の適正な処分を確保するため、土地収用法(昭和二十六年法律第二一九号)、鉱業法等に基づき、公害等調整委員会は、主務大臣が裁決等を行う場合に、意見の申出、承認等を行っている。
 平成十三年度末までに公害等調整委員会が行った意見の申出等は八百七十件であり、その内訳は、土地収用法に基づく建設大臣(現国土交通大臣)に対する意見の申出が八百六十二件、森林法に基づく農林水産大臣に対する意見の申出が二件、鉱業に関する掘採制限の決定に対する承認が一件、採石権の設定等の決定に対する承認が五件となっている。このうち、土地収用法に基づく建設大臣に対する意見の申出について、処分の種類別にみると、事業認定に関する処分を不服とするものが二百二十六件(うち処分庁が都道府県知事であるもの十九件、建設大臣であるもの二百七件)、収用委員会の裁決を不服とするもの六百三十六件となっている。
 平成十三年度中に公害等調整委員会に新たに係属した事案は二十六件である。十三年度中に係属した事案のうち、二十三件について意見を申し出て、一件は取り下げられ、残りの二件は十四年度に繰り越された。


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月例経済報告(十月)


―景気は、引き続き一部に緩やかな持ち直しの動きがみられるものの、環境は厳しさを増している―


内 閣 府


総 論

(我が国経済の基調判断)

 景気は、引き続き一部に緩やかな持ち直しの動きがみられるものの、環境は厳しさを増している。
 ・雇用情勢は、一部に改善への動きがみられるものの、失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しい。
 ・個人消費は、横ばいで推移するなかで、一部に底固さもみられる。
 ・企業収益は改善の兆しがみられ、設備投資は下げ止まりの兆しがみられる。
 ・輸出は増加テンポが緩やかになっており、生産は緩やかな持ち直しが続いている。業況判断は、改善がみられるものの、そのテンポが緩やかになっている。
 先行きについては、景気は持ち直しに向かうことが期待されるが、アメリカ経済等への先行き懸念や我が国の株価の下落など、環境は厳しさを増しており、我が国の最終需要が下押しされる懸念が強まりつつある。

(政策の基本的態度)

 政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を早期に具体化するなかで、「金融システム改革」、「税制改革」をはじめとした構造改革を加速するための政策強化を行い、デフレ克服を進める。このため、十月末を目途に対応策をとりまとめる。
 また、デフレ克服及び金融システム安定化に向け、政府・日本銀行は引き続き一体となって強力かつ総合的な取組を行う。

各 論

一 消費・投資などの需要動向

◇個人消費は、横ばいで推移するなかで、一部に底固さもみられる。
 個人消費は、需要側と販売側の動向を総合してみると、横ばいで推移するなかで、一部に底固さもみられる。所得面で弱い動きが続いていることなどから全体的な基調の改善には至らないものの、一部の業種や支出項目において増加の動きがみられる。
 需要側の動向をみると、昨秋以降底固さがみられる。消費総合指数は三か月前と比べやや増加している。支出項目ごとの動向について家計調査をみると、実質消費支出は、一時的な要因による増減がみられるものの、このところの基礎的な支出項目にみられる底固さには変化がない。
 販売側の動向をみると、前月の一時的な要因から大幅に減少した状態からは回復したものの、全体的に弱い動きとなっている。小売業販売額は弱い動きが続いている。チェーンストア販売額は、食料品が前年を上回ったことなどから、全体でも減少幅を縮小した。百貨店販売額は、昨夏以降一進一退を続けているものの、足元で弱含んできている。新車販売台数は、軽乗用車と小型乗用車が引き続き好調に推移したことから、前年を大きく上回った。家電販売金額は、テレビ等が引き続き増加しているほか、エアコンが前年を大きく上回り、パソコンも減少幅を大幅に縮小したことなどから、全体で前年を上回った。旅行は、国内旅行が前年を上回り、海外旅行が前月と比べて前年比減少幅をやや拡大させた。
 消費者マインドは、依然として水準は低いものの、持ち直しの動きがみられる。

◇設備投資は、下げ止まりの兆しがみられる。
 設備投資は、平成十三年に入って以降減少が続いてきたが、生産の持ち直し及び企業収益の下げ止まりを受けてこのところ下げ止まりの兆しがみられる。需要側統計である「法人企業統計季報」でみると、平成十三年一〜三月期以降減少が続いてきたが、このところ減少幅が縮小している。規模別にみると大中堅企業に比べ中小企業の減少幅の方が大きい。また、機械設備投資の供給側統計である資本財出荷は、下げ止まっている。なお、これまで堅調に推移してきたソフトウェア投資は、弱含んでいる。
 設備投資の今後の動向については、機械設備投資の先行指標である機械受注が平成十三年一〜三月期以降減少基調で推移してきたが、底入れから反転に向かいつつあるとみられることから、次第に底入れから反転に向かうものとみられる。ただし、日銀短観の平成十四年度設備投資計画において減少が見込まれていることなどを考慮すれば、底入れした後も低調に推移することが見込まれる。

◇住宅建設は、緩やかに減少している。
 平成十三年度の住宅建設は、貸家は増加したものの、これまで堅調であったマンションの着工が落ち着いてきたことに加え、公庫持家の着工が大きく水準を下げて推移したこと等から、前年度比三・三%減の百十七万三千万戸と平成十年度以来三年ぶりに百二十万戸を下回る低い水準となった。平成十四年四〜六月期についても、年率百十八万戸と百二十万戸を下回った。
 八月は、分譲住宅は増加したものの、持家、貸家が減少したことから、年率百十二万五千戸となった。先行きについては、雇用・所得環境が厳しいこと、不動産価格の長期的下落傾向により買い換えが困難となっていることなどから、消費者の住宅取得マインドが低下しており、こうしたことが引き続き住宅着工を減少させる要因になるものと見込まれる。

◇公共投資は、総じて低調に推移している。
 公共投資は、総じて低調に推移している。平成十四年度当初における公共事業関連予算をみると、国、地方とも歳出の徹底した見直しと重点的な配分を行っていることから、国の施設費を含む公共投資関係費は、前年度比一〇・七%減、地方の投資的経費のうち単独事業費は、地方財政計画では、前年度比一〇・〇%減となっている。
 このような状況のなかで、公共工事請負金額、大手五十社受注額は、五月に前年度を上回るなど今年度に繰り越された平成十三年度第二次補正予算の下支え効果がみられたが、四〜六月期では、引き続き前年を下回った。
 七〜九月期の公共投資については、七月、八月の公共工事請負金額なども前年を下回っており、国、地方の予算状況を踏まえると、引き続き前年を下回るものと考えられる。

◇輸出は、増加テンポが緩やかになっている。輸入は、緩やかに増加している。貿易・サービス収支の黒字は、やや縮小している。
 輸出は、IT関連などの最終需要の伸びが世界的に鈍化するなかで、半導体等電子部品などの電気機器や一般機械を中心に増加テンポが緩やかになっている。地域別にみると、アジア向け輸出は、電気機器、一般機械、輸送用機器を中心に増加している。アメリカ向け輸出は、電気機器、一般機械を中心に緩やかに増加している。EU向け輸出は、横ばいとなっている。今後については、世界景気の回復が緩やかになっていることや、アメリカ経済等への先行き懸念が高まりつつあることなどに留意する必要がある。
 輸入は、生産の持ち直しの動きを背景に、全体として緩やかに増加している。地域別にみると、アジアからの輸入は、IT関連など機械機器の伸びが鈍化しているものの、化学製品、金属・同製品などが堅調に推移しており、全体として増加している。EUからの輸入は横ばいとなっている。アメリカからの輸入は、航空機などの機械機器が増加していることを背景に、増加している。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、輸入数量が緩やかに増加するなか、輸出数量の増加テンポが緩やかになっていることから、やや縮小している。

二 企業活動と雇用情勢

◇生産は、緩やかな持ち直しが続いている。
 鉱工業生産は、在庫調整が終了していること等を背景に2四半期連続で増加してきた。しかし、このところ輸出の増加テンポは緩やかになっていること等を反映し、生産の増加の勢いも緩やかになっている。
 また、世界経済の先行き懸念の高まり等、留意すべき点もある。なお、製造工業生産予測調査によると九月、十月共に増加が見込まれている。
 一方、第三次産業活動の動向をみると、おおむね横ばいで推移している。
 また、農業生産の動向をみると、米の作況は「平年並み」となっている。

◇企業収益は、改善の兆しがみられる。また、企業の業況判断は、改善がみられるものの、そのテンポが緩やかになっている。倒産件数は、高い水準となっている。
 「法人企業統計季報」によると、平成十三年七〜九月期以降、電気機械などの製造業を中心に大幅な減益となっていた企業収益は、平成十四年一〜三月期に減益幅が縮小し、四〜六月期の減益幅はおおむね横ばいとなった。また、日銀短観によると、平成十四年度については、上期は若干の減益、下期は大幅な増益を見込んでいる。
 企業の業況判断について、日銀短観をみると、平成十四年三月調査を底に改善しているが、九月調査では若干の改善にとどまり、そのテンポが緩やかになっている。また、中小企業では低い水準にあり、依然厳しさがみられる。先行きについては、全体として若干の改善を見込んでいる。
 また、八月の倒産件数は、東京商工リサーチ調べで一千五百七十八件となるなど、高い水準となっている。

◇雇用情勢は、依然として厳しい。雇用者数に緩やかに持ち直す動きがみられるなど、一部に改善への動きがみられるものの、完全失業率が高水準で推移し、賃金も弱い動きが続いている。
 八月の完全失業率は、前月比同水準の五・四%となった。完全失業者数について求職理由別にみると、最も多い非自発的な離職による者は、横ばいで推移している。雇用者数については、八月は前月比で減少したものの、臨時雇等パートを中心に緩やかに持ち直す動きがみられる。
 新規求人数は、基調としては増加傾向にあるものの、八月は前月比で減少した。新規求人倍率は前月比上昇し、有効求人倍率は前月比同水準となっている。製造業の残業時間については、引き続き増加傾向にある。企業の雇用過剰感は、低下したものの、依然として高い水準にある。
 賃金の動きをみると、定期給与は前年同月比で減少が続いており、ボーナスを含む特別給与も前年を大きく下回っており、弱い動きが続いている。ただし、直近では定期給与が二か月連続で前月比増加となっている。

三 物価と金融情勢

◇国内卸売物価は、横ばいとなっている。消費者物価は、弱含んでいる。
 輸入物価は、このところ、契約通貨ベースでは上昇している。円ベースでは円高・ドル安により下落していたが、足元では上昇している。国内卸売物価は、横ばいとなっている。最近の動きをみると、電気機器、非鉄金属が下落している一方、在庫調整の進展により鉄鋼が上昇しているほか、足元では石油・石炭製品などが上昇している。また、企業向けサービス価格は、前年同月比で下落が続いている。
 消費者物価は、平成十二年秋以降弱含んでいる。最近の動きをみると、一般サービスはほぼ横ばいとなっているものの、耐久消費財の下落などにより一般商品が下落していること、公共料金が下落していることから、全体としては下落している。
 こうした動向を総合してみると、持続的な物価下落という意味において、緩やかなデフレにある。

◇金融情勢をみると、株式相場は、九月上旬にかけて下落した後、おおむね横ばいで推移した。為替相場は、下落した。
 短期金利についてみると、オーバーナイトレートは、日本銀行による金融緩和措置を反映して、〇・〇〇一〜〇・〇〇二%で推移したが、九月末越えの資金取引から月末に上昇した。二、三か月物は、おおむね横ばいで推移した。長期金利は、株価の下落などを背景に、八月下旬以降、低下傾向が強まり、九月中旬には一・〇%台まで下落したが、その後、日本銀行が銀行保有株式買取りを検討すると表明したことなどを受け一・二%台半ばまで上昇した後、一・〇〜一・一%台で推移した。
 株式相場は、八月下旬から九月上旬にかけて、日米経済の先行き不透明感の高まりなどを背景に下落した後、おおむね横ばいで推移し、十月三日には、日経平均株価八千九百三十六円、TOPIX八八三ポイント(八九年以降の最安値を更新)となった。
 対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、八月中旬から九月上旬にかけて百十七円台から百二十円台で推移した後、九月中旬に百二十二円台まで下落し、その後百二十一円台から百二十三円台で推移した。対ユーロ円相場(インターバンク十七時時点)は、八月下旬から九月上旬にかけて百十五円台から百十七円台で推移した後、九月中旬に百二十一円台まで下落し、その後百十九円台から百二十一円台で推移した。
 マネタリーベース(月中平均残高)は、日本銀行の潤沢な資金供給など(九月日銀当座預金平均残高十五兆二千億円)を背景に、二割台の高い伸びとなっているが、伸び率は鈍化している(九月:前年同月比二一・四%)。M+CD(月中平均残高)は、このところ、三%台半ばで推移している(八月速報:前年同月比三・五%増)。民間金融機関の貸出(総貸出平残前年比)は、九六年秋以来マイナスが続いており、企業の資金需要の低迷等を背景に、依然低調に推移している。貸出金利は、金融緩和等を背景に、昨年初来低下傾向で推移してきたが、このところ横ばい圏で推移している。企業の資金繰り状況をみると若干改善しており、民間債と国債との流通利回りスプレッドはやや拡大した。

四 海外経済

◇世界の景気は回復が緩やかになっており、アメリカ経済等への先行き懸念が高まりつつある。
 世界の景気は回復が緩やかになっており、アメリカ経済等への先行き懸念が高まりつつある。
 アメリカでは、景気の回復は一層緩やかになっており、マインド悪化の影響が懸念される。個人消費の伸びは鈍化している。また、消費者信頼感の低下が続いている。住宅建設は高い水準にある。設備投資は機械設備等を中心に下げ止まっている。生産は伸びが鈍化しており、製造業では企業景況感が悪化している。失業率は低下したものの、雇用は、製造業での減少が続くなど、回復は緩やかになっている。物価は安定している。
 アジアをみると、景気は回復している。中国では、景気の拡大テンポは高まっている。韓国では、景気は拡大しているが、内需の伸びに鈍化の動きがみられる。タイでは、景気は拡大している。シンガポール、マレイシアでは、景気は回復している。台湾では、景気は緩やかに回復している。
 ヨーロッパをみると、@ユーロ圏では、景気は持ち直しの動きが弱まっている。ドイツでは、景気は減速している。フランスでは、景気は持ち直しの動きが弱まっている。Aイギリスでは、景気は回復の動きが続いている。
 金融情勢をみると、アメリカの株価は、九月を通じて、雇用・生産の回復見通しの弱さや企業業績への懸念等から下落し、十月初には五年ぶりの安値となった。イラクを巡る情勢の緊迫等から米国債への資金シフトがみられるなか、アメリカの長期金利は低下し、十年物国債金利は六三年一月以来の低水準となった。また、ドルは、増価基調で推移した。
 国際商品市況をみると、原油価格は、イラク情勢の緊迫やOPEC総会での生産枠据置き合意等から上昇基調で推移した。


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消費支出(全世帯)は実質一・三%の増加


―平成十四年七月分家計収支―


総 務 省


◇全世帯の家計

 前年同月比でみると、全世帯の一世帯当たりの消費支出は、平成十四年四月に実質増加となった後、五月は実質減少となったが、六月、七月は二か月連続の実質増加となった。
 また、一人当たりの消費支出は、九万九千五百十一円で、前年同月に比べ、実質二・九%の増加となった。

◇勤労者世帯の家計

 前年同月比でみると、勤労者世帯の実収入は、平成十三年十二月に実質減少となった後、十四年一月以降三か月連続の実質増加となったが、四月以降四か月連続の実質減少となった。
 また、消費支出は、平成十四年四月に実質増加となった後、五月は実質減少となったが、六月、七月は二か月連続の実質増加となった。

◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は、一世帯当たり二十七万二千八百六十五円となり、前年同月に比べ、名目〇・八%の増加、実質一・六%の増加となった。

◇季節調整値の推移(全世帯・勤労者世帯)

 季節調整値でみると、全世帯の消費支出は前月に比べ実質〇・三%の減少となった。
 勤労者世帯の消費支出は、前月に比べ実質〇・一%の減少となった。












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税を知る週間(十一月十一〜十七日)


国 税 庁


 国や地方公共団体は、私たち国民が豊かで安定した暮らしができるように、いろいろな活動を行っています。例えば、私たちの身のまわりを見ても、社会保障の充実、住宅や道路の整備、教育や科学技術の振興など、その活動は幅広い分野にわたっていますが、これらの財源は税によって賄われています。
 税は、このように国や地方公共団体が活動するための大切な財源であり、私たちが生活の向上と安全を願う限りどうしても負担しなければならない、共同社会を維持するためのいわば「会費」であるといえましょう。
 国税庁では、このように私たちの生活に欠かせない税についてより深く知っていただくため、毎年十一月十一日から十一月十七日までの期間を「税を知る週間」と定めて、全国統一キャンペーンを実施しています。
 今年も「この社会あなたの税がいきている」をスローガンにし、「暮らしを支える税」を週間テーマとして、広く国民の皆さんに税の意義や役割についての理解を深め、考えていただけるよう各種の広報・広聴活動を行います。ぜひこの機会に、税について考えてみてはいかがでしょうか。

【国の予算】

 国や地方公共団体が行っている幅広い分野にわたる財政活動は、私たちの生活と深く結びついており、国民生活に大きな影響を与えます。そのため、国民が財政に自らの意思を反映させ、これをコントロールしていくための適切な手段として予算の制度が定められています。
 予算とは、国や地方公共団体がどのような目的や施策のためにどれだけの支出を行うのか、また、それをまかなう財源をどのように調達するかという財政の内容を明らかにするため、一定期間の収入と支出の予定を示した計画のことです。そして国や地方公共団体の政府が編成する予算案は、私たちの代表機関である国会や議会の議決を経てはじめてその効力が生じます。

1 国の歳入
 平成十四年度の一般会計(当初)予算の歳入額は、八十一兆二千三百億円となっており、なかでも「租税・印紙収入」が約五八%を占め、所得税、法人税、消費税などの租税によって国家財政が支えられていることが分かります。
 一方、歳入不足を補うために、三十兆円もの国債を発行し、歳入の約三七%を公債金に依存しています。国債は国の借金であり、元本の返済と利子の支払いをともないます。この費用を「国債費」といいますが、この支払いが増えると政策的な経費である一般歳出を圧迫することになります。平成十四年度末には、国債の発行残高が四百十四兆円に達すると見込まれており、主要先進国中最悪といえる危機的な状況にあります。

2 国の歳出
 平成十四年度予算は、「骨太の方針」を踏まえ財政面における抜本的構造改革の第一歩として、「国債発行額三十兆円以下」の目標を歳出効率化のてことし、規制改革、特殊法人等改革、医療制度改革などの諸制度改革と連携しつつ、歳出の思い切った見直しと重点的な配分が行われました。平成十四年度一般歳出は対前年度当初比二・三%減の四十七兆五千四百七十二億円となっています。
 生活や医療、年金などのための社会保障費、道路や住宅などの整備のための公共事業費、教育や科学技術の振興のための文教及び科学振興費で一般歳出の三分の二以上を占めています。

〔身近な財政支出(平成十一年度の国と地方公共団体の負担額の合計額)〕
○公立学校の児童・生徒一人当たりの年間教育費負担額
・小学生…八十二万二千円
・中学生…八十七万五千円
・高校生(全日制)…八十九万四千円
○私たちの生活や安全を守るための警察・消防費…五兆二千九百十五億円(国民一人当たり約四万一千八百円)
○市町村のゴミ処理費用…二兆五千八百二十五億円(国民一人当たり約二万四百円)
○国民医療費の公費負担額…十兆一千七百五十九億円(国民一人当たり約八万三百円)

【これからの税制】

 納税は憲法で定められた国民の義務ですが、国、地方公共団体の行う公共サービスの重要な財源である税を「だれが、どの程度、どのように負担していくか」を考えていく必要があります。その基本原則として、「公平・中立・簡素」ということが挙げられます。
 例えば、税制に対する国民の信頼の基礎として税負担の「公平」が重要です。等しい経済力のある人には等しい負担を求めるという「水平的公平」は最も基本的な要請です。税の制度面・執行面を通じて、この要請に常に応えていかなければなりません。
 より大きな経済力を有する人にはより多くの負担を求めるという「垂直的公平」は、個人所得課税などによる所得再分配機能をどの程度発揮させるかということに関わってきます。例えば、所得税では、各種の控除を通じて個々の納税者の事情をしん酌するとともに、所得が多いほど税率が高くなる超過累進税率の仕組みを通じて所得の大きさに応じた税負担を求めています。これらを通じ、所得税は垂直的公平の確保を図る役割を担っています。
 また、勤労世代の割合が少なくなる少子・高齢社会では、勤労世代だけに負担を求めることは、経済社会に悪影響を及ぼしかねないという観点から、近年「世代間の公平」も求められています。消費税は、あらゆる世代に広く公平に負担を求めるものであり、世代間の公平を確保する有益な税制の一つといえます。
 今後ますます進展する少子・高齢社会に対応し、必要な公的サービスを賄うための財源として、税が果たす役割は、一層重要になってきます。現在、政府税制調査会を中心に、どのような税体系・各税の仕組みを構築していくべきか検討が進められていますが、私たちもまた、経済社会の構造変化に対応するため、社会を支えるコストをどのように負担していくべきなのか、真剣に考えていかなければなりません。

【「税を知る週間」期間中の主な広報・広聴活動】

1 テレビCM、新聞広告の実施
 国税庁では、「税を知る週間」期間中に、税の意義や役割などをお知らせするテレビCMを全国で放映するとともに新聞に広告を掲載します。

2 座談会などの開催
 国税局や税務署の幹部などが出席し、新聞やテレビ、ラジオなどでの座談会や対談を通じて、税の意義や役割、税制などを、国民の皆さんに分かりやすくお知らせいたします。

3 国税モニターや地域社会の方々との懇談
 税務署では、各界の方々にお願いしている国税モニターの方や地域社会の方々との懇談会を行い、税に関するご意見、ご要望を承り、国民の皆さんとの双方向の情報交換に努めます。

4 「税に関する作文」の表彰
 全国の中学生・高校生の皆さんから募集した「税に関する作文」の入選作品の発表と表彰を各税務署で行います。
 なお、上位優秀作品は、各種の広報紙等に掲載し広く発表するほか、作文集として冊子にし、入選した方々や各学校等にお配りする予定です。

5 租税教室の開催
 次代を担う児童・生徒に、税の意義や役割を正しく理解していただくため、日ごろから教育関係の方々や地方税当局のご協力をいただきながら、租税教室を開催しておりますが、「税を知る週間」期間中は特に、児童・生徒の皆さんが楽しみながら税に興味を持ってもらえるよう工夫を凝らした租税教室の開催に努めています。



    <11月13日号の主な予定>

 ▽防衛白書のあらまし……………………防 衛 庁 

 ▽労働経済動向調査(八月)……………厚生労働省 

 ▽消費者物価指数の動向(九月)………総 務 省 




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