官報資料版 平成14年11月13日




                  ▽防衛白書のあらまし……………………防 衛 庁

                  ▽労働経済動向調査(八月)……………厚生労働省

                  ▽消費者物価指数の動向(九月)………総 務 省











防衛白書のあらまし


防 衛 庁


 平成十四年版「日本の防衛」(防衛白書)は去る八月二日の閣議で了承され、公表された。
 白書のあらましは次のとおりである。

第1章 国際軍事情勢―軍事的視点から見た世界―

第1節 国際軍事情勢概観

1 国際軍事情勢全般
 二〇〇一年九月十一日、米国では同時多発テロという衝撃的な事件が起こり、国際社会はテロを新たな脅威と言うべきものとして改めてとらえ、人々は、「不安な時代」に生きていることを認識することとなった。
 冷戦終結後、世界的規模の武力紛争が生起する可能性は低下したが、複雑で多様な地域紛争が発生し、また、大量破壊兵器などの移転・拡散が強く懸念されており、テロリストなど非国家集団への拡散についても懸念されてきている。
 国家間の相互依存の拡大、深化などを背景として、地域紛争、民族紛争、テロなどの多様な事態が、一国内の問題にとどまらず、国際社会の問題として認識されてきている。今回の同時多発テロに対する米国を中心とする国際社会による闘いのように、関係国が協調して軍事力を行使することによって問題解決を図る事例がみられるようになっている。

2 米国における同時多発テロと米国などによるテロとの闘い
 九月十一日の同時多発テロは、わが国の二十四人を含め、八十以上の国々の三千人以上の死者・行方不明者を数えることとなった。
 ブッシュ大統領は、同時多発テロを単なるテロ以上の「戦争行為」と規定した。アル・カーイダによるものと特定し、これを匿うタリバーンに対してアル・カーイダの指導者の引渡しなどを要求した。また、米国は各国に対し、テロとの闘いに協力を求めるとともに、国土防衛の強化とアフガニスタンにおける軍事作戦の準備を進めた。
 国連安保理は、九月十二日、同時多発テロを非難し、国際の平和と安全に対する脅威とする決議を全会一致で採決した。
 昨年十月以降、米軍は空爆及び地上作戦を行い、北部同盟を支援し、タリバーンを弱体化させていった。
 十二月中旬には、タリバーンによるアフガニスタン支配は終わり、アル・カーイダもアフガニスタン国内での活動が困難となりつつある。しかし、各地には残存勢力が残っており、依然として危険な存在であり、米軍などは追跡・掃討を進めている。米国は、アル・カーイダ/タリバーンによる脅威を排除するため、今後も作戦を継続するとしている。
 数多くの国が、部隊の派遣、領空通過や基地使用の容認などにより、米軍を支援している。
 タリバーン支配の終焉に伴い、アフガニスタン再建のための取組が始まった。暫定政権が十二月二十二日に発足した。また治安の維持については、国連安保理決議に基づき、国際治安支援部隊が設立された。
 アル・カーイダは世界六十か国以上にネットワークを有するとも言われ、依然として世界中でテロを行う能力を有している非常に危険な存在である。米国は、テロとの闘いはアフガニスタンでは終わらず、すべての国際テロ・ネットワークを打破するまで長期にわたって続くとしている。米国によるテロとの闘いは、いわば「第二段階」に入った。

3 複雑で多様な地域紛争
 冷戦終結後も国家間の武力紛争が依然として発生し、民族の対立などに起因する内戦が引き続き生起している。

4 兵器の移転・拡散など
 近年、一部の国においては、大量破壊兵器や弾道ミサイルなどの運搬手段を含む兵器の取得や開発が顕著な形で進められており、不拡散体制の強化や対処能力の向上など、これに対する対応は国際社会が抱える大きな課題となっている。また、同時多発テロ以降、テロリストのような非国家集団が大量破壊兵器を取得、使用する危険に対する懸念も高まっている。

5 軍事科学技術の動向
 情報通信技術(IT)の大幅な進歩に伴い、戦闘状況の変化はより迅速となり、戦域が広域化する傾向がみられるため、より一層、精密誘導技術やCISR技術を含む情報関連技術の研究開発が重視されてきている。
 また、コンピュータ・ネットワークに対する情報戦、生物・化学兵器を用いたゲリラ・コマンドウ攻撃などの非対称的な脅威を克服する必要性も併せて認識されるようになっている。

第2節 主要国の国防政策と国際社会の安定化への対応

1 主要国の国防政策
 ブッシュ政権は、発足当初から国防を重視するとともにその包括的見直しを進めており、国防省は、昨年十月、「四年毎の国防計画の見直し」(QDR)、本年一月、「核態勢の見直し」(NPR)を議会に提出した。
 QDRでは、新たな安全保障環境の全般的特徴として、不確実性、非対称的脅威の出現、国土防衛の重要性を指摘しており、特にアジアについては、中東から北東アジアに至る地域を「不安定の弧」と呼んでいる。また、ほぼ同時に生起する二つの大規模戦域戦争において敵を決定的に打破できる戦力を維持するという従来のアプローチを放棄し、@国土防衛、A前方抑止、B同時に二つの戦域において敵を迅速に打破し、うち一つにおいて決定的に打破、C限定的な数の小規模緊急事態への対処、という四つの目的のために戦力を構成することとしている。海外展開については、前方展開戦力を維持するとともに、その能力を強化する必要があるとしている。さらに、軍の変革が必要であるとし、CISR、統合作戦、緊急展開能力、長距離での戦力投射能力、ステルス性、精密誘導兵器、地中貫徹爆弾、無人機、ミサイル防衛、NBC対処、テロ対処などを重視している。
 米露間ではテロとの闘いに対するロシアの支持により関係が進展し、核戦力の削減やミサイル防衛の取扱を含め、新たな戦略的枠組を構築すべく協議を進めてきた。その結果、本年五月二十四日、米露首脳会談において、両国大統領は戦略核兵器削減に関する条約(通称「モスクワ条約」)に署名した。
 ロシアは、二〇〇〇年、「安全保障コンセプト」を改定するとともに、「軍事ドクトリン」を策定し、一極支配と多極化推進というすう勢が発生しているとする国際情勢やロシアに対する国内外の脅威についての認識と、通常兵器を使用した大規模侵攻に対する報復などのため核を使用できるとの認識を示した。
 ロシア軍では、軍の定員が今後百万人にまで削減される予定である。機構改革の面では近年一定の進展がみられたが、即応態勢の見直しを進める必要があることなどから、今年度の国防予算では名目三〇%以上の予算増加が決定されている。通常戦力については、量的削減が続き、即応態勢の低下がみられ、近代化が必ずしも進んでいない状況にある。このため核戦力を相対的に重視する傾向になっている。
 欧州主要国においては、地域紛争の発生などの冷戦終結後の新たな問題に対応できるよう、既存の安全保障の枠組を強化・拡大するとともに、戦力の再編・合理化を進めている。また、紛争予防・危機管理・平和維持などの分野で、欧州諸国の主体性を強化する動きがみられる。なお、各国は、多様な事態への対応を念頭に、総じて治安維持などの防衛以外の任務を重視する傾向にあり、防衛力の整備においても、NATOなどにおける役割を考慮しつつ、部隊展開のための輸送能力強化などに努めてきている。

2 国際連合などによる国際社会の安定化のための努力
 冷戦後、国連が国際の平和と安全を維持する役割を発揮することが期待されたが、国連が十分にその機能を発揮するためには多くの課題があることが明らかになってきている。さらに、国連の平和維持活動については、与えられる任務に必要な要員や機材を確保できるかといった問題も抱えている。
 兵器の移転・拡散問題への対応は、国際社会の抱える緊急の課題となっており、大量破壊兵器の移転・拡散を防止する努力、通常兵器や関連汎用品・技術に関する輸出管理が行われている。

第3節 アジア太平洋地域の軍事情勢

1 全般情勢
 アジア太平洋地域は、地理、人口、宗教、民族、政治体制、安全保障観などが様々であり、欧州地域などとは明らかに異なる多様性と複雑さを有している。
 また、この地域の安全保障構造は冷戦期の欧州のような二極対峙構造ではなかったこともあり、冷戦終結によって劇的な変化が生じているわけではなく、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在している。
 アジア太平洋地域には不透明・不確実な要素が依然として残されている。二〇〇〇年六月の南北首脳会談後も朝鮮半島における軍事的対峙が継続している。中国と台湾の問題は、中国側から見れば、「国内問題」であるが、関係国から見れば、この地域の平和と安定を脅かしかねない安全保障問題としてとらえられる。また、インドネシア国内の分離・独立運動、南沙群島の領有権をめぐる対立などの諸問題も存在している。一方、わが国においても、北方領土や竹島の領土問題が依然として未解決のまま存在している。さらに、一九九九年三月の能登半島沖不審船事案に引き続いて、昨年十二月の九州南西海域不審船事案の発生、さらには日本人拉致問題なども存在している。
 アジア太平洋地域の状況について、米国国防省が発表したQDRでは、大規模な軍事的紛争が起こり易い地域として次第に浮上してきていると指摘している。この地域を中東から北東アジアに至る「不安定の弧」の一部としてとらえ、「膨大な資源を有する軍事的競争相手」が台頭する可能性があるとしている。
 このような状況の下で、米国を中心とする二国間の同盟・友好関係とこれに基づく米軍の存在がこの地域の平和と安定に引き続き重要な役割を果たしている。また、地域内諸国の二国間軍事交流の機会が増加しており、ASEAN地域フォーラム(ARF)のような地域の安全保障に関する多国間の対話の努力も定着しつつある。ARFは、この地域の信頼醸成を促進する上で、重要な対話の場であるが、ARFなどの多国間対話の場は、あくまで関係国の対話や協議の場であり、アジア太平洋地域全体の平和と安定に責任を有する強制措置を伴う安全保障機構として確立していないこともあり、ある対立要因が紛争にエスカレートする危険性も存在しているのが現状である。また、地域内の各国とも利害を共有している海賊、麻薬対策への支援やテロ対策といった地域の秩序などの維持も軍隊の新しい役割として重要となってきている。こうした問題にいかに取り組んでいくか、新たな多国間安全保障の枠組の必要性も含め今後の課題となっている。
 また、現在進行しているテロとの闘いや、米国のABM条約脱退に伴う新たな戦略環境は、米国の「一極化」に警戒感を示す中国とロシア両国による「多極化」を目指す動きなどにも影響を及ぼすことになる。したがって、アジア太平洋地域の軍事情勢を分析する際には、地域的視点のみならず、グローバルな観点から、この地域の動向を引き続き注視することが極めて重要と考えられる。

2 朝鮮半島
 北朝鮮では、金正日国防委員会委員長を中心とする統治が一定の軌道に乗っていると考えられる。
 「強盛大国」建設を国家の基本政策として標榜し、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとっている。金正日総書記が新しく「国家の最高職責」と位置付けられた国防委員会委員長として軍を完全に掌握する立場にあり、軍部隊を頻繁に視察していることなどから、国家の運営において、軍事を重視し、かつ、軍事に依存することは、今後も継続すると考えられる。
 米朝関係は一九九九年から二〇〇〇年にかけて、一定の進展を見せたが、その後は停滞状況にある。昨年一月に発足したブッシュ政権は、日本及び韓国と話し合いを行いつつ、北朝鮮政策の見直しを行った。米国は北朝鮮に「前提条件なし」で話し合いを行う旨、繰り返し呼び掛けており、北朝鮮は本年四月末に話し合いに応じる意思を米国に伝えた。また同時に、米国は北朝鮮の弾道ミサイルや大量破壊兵器に関する懸念も繰り返し表明している。さらに、米国は北朝鮮をテロ支援国家に指定している。
 南北関係は二〇〇〇年六月の南北首脳会談後、南北間で各種の対話が行われたが、同年十二月の第四回閣僚級会談以降、同会談は中断され、昨年九月に再開されたものの、十一月の第六回閣僚級会談以降、南北対話は再び中断した。このように昨年の南北関係は停滞した状況にあったが、本年四月、林東源外交安保統一特別補佐役が訪朝し、離散家族の訪問や鉄道連結に合意するなど中断していた南北対話を再開することで合意した。しかしながら、軍事的な分野では、本格的な信頼譲成措置はいまだ実現しておらず、また、軍備管理・軍縮の問題についても具体的な進展はない。
 北朝鮮は、現在も、深刻な経済困難に直面しているにもかかわらず、依然として、軍事面に資源を重点的に配分し、戦力・即応態勢の維持・強化に努めていると考えられる。北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発や配備を行うとともに、大規模な特殊部隊を保持するなどし、いわゆる非対称的な軍事能力を依然として維持・強化していると考えられる。
 北朝鮮のこのような動きは、朝鮮半島の軍事的緊張を高めており、わが国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。
 北朝鮮による軍事的な動きとしては、昨年九月及び十月には軍事境界線の越境事件が発生し、十一月にはDMZでの銃撃戦も生じた。さらに、本年六月には黄海側で北方限界線(NLL)を越境した北朝鮮側艦艇とこれをNLL以北に退去させるために接近した韓国側艦艇との間で銃撃などが行われた。
 北朝鮮の核兵器開発疑惑は、わが国の安全に影響を及ぼす問題であるのみならず、大量破壊兵器の不拡散の観点から国際社会全体にとっても重要な問題である。本問題の解決には、北朝鮮が「枠組み合意」などの合意内容を誠実に履行することが重要であり、今後とも、その対応を注意深く見守っていくことが必要である。
 弾道ミサイルについては、ノドンの配備を行っていると考えられる。また、弾道ミサイルの長射程化のための研究開発を行っていると考えられる。さらに、弾道ミサイル本体ないし関連技術の北朝鮮からの移転・拡散の動きも指摘されている。

3 極東ロシア
 極東地域のロシア軍の戦力は、一九九〇年以降縮小傾向がみられ始め、現在も、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、依然として核戦力を含む相当規模の戦力が存在している。

4 中 国
 中国は、「富強」、「民主」、「文明」の社会主義国を建設することを目標に、経済建設を最重要課題として改革・開放路線を推進してきており、その前提となる国内外の安定的な環境を維持するため、内政の安定と団結、特に、社会的安定を重視するとともに、対外的には、周辺諸国との良好な協力関係を維持促進することを基本としつつ、国防面では、国防力の近代化・強化に努めている。
 経済面では、近年のGDPの成長率が年平均七%以上であり、GDPの規模では世界第六位になるなど、急速な発展を継続している。
 一方で、急速な経済成長に伴い、都市部と農村部、沿岸部と内陸部の間の地域格差の拡大や、国有企業改革などに伴う失業者の増大などの様々な問題が顕在化しつつある。
 中国は昨年十二月、台湾は本年一月にWTOに加盟しており、今後、中台間の経済面での相互依存がさらに進む可能性がある。
 一方で、中国は、台湾は中国の一部であり、台湾問題は中国の内政問題であるとの原則を堅持している。
 米中関係においては、台湾への武器売却など、種々の懸案も存在している。また、中国は、米国の対テロ作戦や米国の中央アジアにおけるプレゼンスの増大への警戒感も抱いていると思われる。しかしながら、中国は安定的な米中関係を望んでおり、本年二月の米中首脳会談では対話と協力を強化して両国の建設的協力関係を発展させることで一致した。
 中国は軍事力について「量」から「質」への転換を図り、近代戦に対応できる正規戦主体の態勢へ移行しつつある。このような基本方針に従い、これまで陸軍を中心とした兵員の削減と核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした全軍の近代化が行われている。また、一九九一年の湾岸戦争後は、ハイテク条件下の局地戦に勝利するための軍事作戦能力の向上を図る方針がとられている。
 中国の国防費は、本年の全人代において、二百五十二億元増加し、伸び率は一七・六%増とすると報告されたが、今年度国防予算の総額は明示されなかった。国防予算の伸びは一九八九年以来、十四年連続で一〇%以上の伸びを示し、伸び率ではここ数年で最高の水準となっている。物価上昇率との関係では、近年では非常に低い物価上昇率の下、高い国防予算の伸び率を示している。近年の国防予算の伸びはGDPの伸びを大幅に上回っており、合わせて十四年連続で一〇%以上伸びてきた結果として国防費の総額も大幅に増大していることをみれば、中国は今後も軍事力の近代化を推進していくものと考えられる(第1図参照)。
 中国は、従来、国防費の内訳の詳細について公表していない。さらに、本年は、国防予算の総額も明示されず、国防費についての不透明性が増大している。
 弾道ミサイルについては、現在、ICBMを約二十基保有するほか、新型ICBM及びSLBMなどの開発も進めており、自国内で新型ICBMである東風31(CSS―9)長距離地対地ミサイルの発射実験を行っている。また、台湾対岸における短距離弾道ミサイルの配備数増加の動きがみられる。
 わが国の近海においては、主としてわが国の排他的経済水域において、近年、中国の海洋調査船により、海洋調査とみられる活動が行われている。また、わが国近海における中国海軍艦艇の航行も活発であり、昨年七月及び十一月には、「海氷723」が南西諸島東方の広い海域において、複数の経線及び緯線に沿った航進・停止及び測定器とみられる器材の海中投入・揚収を繰り返すなどの活動を各々約二十日かけて行った。同艦は、海軍の同海域における活動の際に必要な基礎的データの蓄積のための調査・情報収集活動を行っていた可能性が高いと考えられる。また、近年、中国海軍艦艇による遠洋航海が活発になっており、本年五月には、中国海軍にとって初めての世界一周航海に出発した。
 台湾は、防衛政策として、民間の能力も防衛に活用した総合的な防衛力の増強を行うことで台湾の平和と安定を維持するとの「全民防衛」をとっている。また、台湾人民や財産への被害を局限化するために、台湾領域での戦争、紛争を防止することを原則とした「有効抑止、防衛固守」戦略をとっている。

5 東南アジア・大洋州など
 依然として、この地域には南沙群島などの領有権をめぐる対立や少数民族問題などが不安定要素として存在しており、船舶の安全な航行を妨害する海賊行為も発生している。
 一九九七年以降の経済危機により、国防費を削減し、新型装備の導入の見直しや訓練費の削減などを行う国もみられたが、経済の回復基調に伴い、今後の近代化の動向が注目される。
 一九九九年にフィリピンと米国との間の「訪問米軍の地位に関する米比協定」が発効したことを受けて、二〇〇〇年、両国間の大規模な演習である「バリカタン」が、一九九五年以来初めて行われた。また、本年二月から「バリカタン02―1」が、テロ組織「アブサヤフ」の掃討を目的にミンダナオ島サンボアンガ及びバシラン島などで本格的に行われている。
 昨年十一月、ASEAN首脳会議やASEAN+3(日中韓)首脳会談など一連の会合が開催され、ASEAN首脳会議では「反テロ共同行動宣言」が採択された。
 ASEAN地域の軍首脳によるテロ対策会議では、地域におけるテロの脅威に対抗するため、「反テロ宣言」が調印された。
 東チモールでは、本年四月、大統領選挙が行われ、シャナナ・グスマン氏が選出され、五月二十日、東チモールは独立を宣言した。

6 アジア太平洋地域の米軍
 太平洋国家の側面を有する米国は、アジア太平洋地域の平和と安定のために、引き続き重要な役割を果たしている。昨年十月に発表されたQDRにおいても、四つの重要な地域(欧州、北東アジア、東アジア沿岸部、中東・南西アジア)における前方抑止態勢の強化を重視している。

7 各国の安定化努力
 近年、二国間の軍事交流などの機会の増加や地域的な安全保障に関する多国間の対話の努力が行われている。このような努力が域内の安全保障上の諸問題に対して具体的にいかなる寄与を行うことができるかはこれからの課題となっている。

第2章 わが国の防衛政策―防衛政策のフレームワーク―

第1節 防衛の基本的考え方

1 わが国の安全保障
 わが国の安全保障のためには、外交努力や内政の分野のみならず、自らの防衛努力と日米安保体制の堅持が必要である。

2 憲法と自衛権
 日本国憲法は、主権国家としてのわが国固有の自衛権を否定するものではなく、自衛のための必要最小限度の実力を保持することは認めている。自衛権の発動は、いわゆる自衛権発動の三要件に該当する場合に限られ、また、集団的自衛権の行使は憲法上許されないなどの政府見解が示されている。

3 防衛政策の基本
 国防の基本方針において、平和への努力の促進などによる安全保障基盤の確立や、効率的な防衛力の整備と日米安保体制を基調とすることを掲げている。その他の基本政策として、専守防衛、軍事大国とならないこと、非核三原則、文民統制の確保などがある。

第2節 日米安全保障体制

1 日米安全保障体制の意義
 わが国は米国との二国間の同盟関係を継続し、その抑止力を機能させることで、適切な防衛力の保持と合わせて、わが国の安全を確保する。

2 日米安全保障共同宣言
 日米安保条約を基調とする日米同盟関係が、二十一世紀に向けてアジア太平洋地域で安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎であり続けることを再確認した上で、わが国防衛のための効果的な枠組は日米両国間の緊密な防衛協力であることや、米国が約十万人の前方展開兵力を維持することなどを改めて確認した。

第3節 防衛計画の大綱

1 大綱が前提としている国際情勢
 わが国周辺地域では、依然として大規模な軍事力が存在するとともにその拡充・近代化など不透明・不確実な要素が残っている。

2 わが国の安全保障と防衛力の役割
 基盤的防衛力構想を基本的に踏襲するとともに、防衛力の規模及び機能の見直しを行い、その合理化・効率化・コンパクト化を一層進める。日米安保体制の重要性を再確認する。また、防衛力の役割として、わが国の防衛、大規模災害など各種の事態への対応、より安定した安全保障環境の構築への貢献を掲げている。

3 わが国が保有すべき防衛力の内容
 各自衛隊の体制を明示し、基幹となる部隊や主要装備の具体的な規模などを示している。

4 防衛力のあり方の検討
 昨年九月、防衛庁長官を長とする「防衛力の在り方検討会議」を設置し、今後、所要の検討を進めていくこととしている。

第3章 国家の緊急事態への対応と日米安全保障体制に関連する諸施策―国土と国民を守るために―

第1節 国際的なテロリズムへの対応

1 米国における同時多発テロ発生直後のわが国の対応
 米国における同時多発テロに対して、政府は当初から「テロリズムとの闘いを我が国自らの安全確保の問題と認識して主体的に取り組み、同盟国たる米国を強く支持し、米国をはじめとする世界の国々と一致結束して対応する」という基本方針を掲げ、国際緊急援助隊の派遣準備、米国関連施設の警備強化などが迅速に指示された。防衛庁・自衛隊は、発生直後から、中央指揮所、各種情報機関における情報収集、全自衛隊施設の警備及び警戒監視の各態勢を強化するとともに、国際緊急援助隊の派遣命令があった場合に、政府専用機二機が速やかに羽田空港を出発できる態勢をとった。
 防衛庁・自衛隊は、二〇〇一年九月十九日、総理が臨時記者会見において発表した「米国における同時多発テロへの対応に関する我が国の措置について」(第2図参照)のうち、主として対応すべき次の四項目に全力を挙げて取り組んだ。
@ 「本件テロに関連して措置をとる米軍等に対して、医療、輸送・補給等の支援活動を実施する目的で、自衛隊を派遣するため所要の措置を講ずる」。これについては、政府としてテロ対策特措法案の策定を行い、防衛庁としてこれに協力した。同法案は、十一月二日公布、施行された。その後、同法に基づく協力支援活動などを開始した。
A 「我が国における米軍施設・区域及び我が国重要施設の警備をさらに強化するため所要の措置を講ずる」。これについては、治安出動が下令されるに至らないような事態における米軍施設・区域などの警備について、法的措置について検討し、自衛隊法改正案を策定した。同法案は、十一月二日公布、施行された。
B 「情報収集のための自衛隊艦艇を速やかに派遣する」。派遣期間、派遣時期について防衛庁・自衛隊として十分な検討、調整を行い、政府全体として準備を行い、安全保障会議における了承を得て、海上自衛隊の護衛艦二隻及び補給艦一隻からなる情報収集活動を行う海上派遣部隊を編成し、同部隊は十一月九日インド洋方面に向け派遣された。
C 「避難民の発生に応じ、自衛隊による人道支援の可能性を含め、避難民支援を行う」。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からのわが国に対する、パキスタンにおける人道的な国際救援活動のための物資の提供及びこの物資の輸送についての要請を受け、政府は、十月五日、アフガニスタン難民救援国際平和協力業務の実施計画及び関係政令を閣議決定した。航空自衛隊はC―130H輸送機六機などからなるアフガニスタン難民救援空輸隊などを編成し、同部隊は十月九日にパキスタンの首都イスラマバードにおいてUNHCR現地事務所に救援物資を引き渡した。

2 テロリズム根絶に向けた国際社会の取組への協力
○テロ対策特措法の概要
 わが国が国際的テロリズムの防止・根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与するため、テロ攻撃による脅威の除去に努めることにより国連憲章の目的達成に寄与する米国などの軍隊などの活動に対してわが国が行う措置、国連決議又は国連などの要請に基づき、わが国が人道的精神に基づいて行う措置などを定め、もってわが国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とする。
 内閣総理大臣は、自衛隊による協力支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動などの対応措置に関する基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。また、自衛隊による対応措置の実施について開始から二十日以内に国会の承認を得なければならない。防衛庁長官は、基本計画に従い、実施要項(実施区域の指定など)を定め、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊などにその活動の実施を命ずる。また、基本計画の決定・変更、対応措置の終了に際しては、内閣総理大臣は、遅滞なく、国会に報告しなければならない。
 この法律は、施行の日から二年で効力を失うが、必要がある場合、別に法律で定めるところにより、二年以内の期間を定めて効力を延長することができる。
○テロ対策特措法に基づく活動
 政府は、昨年十一月十六日に、基本計画を閣議決定し、同日国会に報告し、二十日、防衛庁は実施要項を策定し、内閣総理大臣の承認を得た。
 また、防衛庁長官は、これに基づき、同日、自衛隊の部隊などに対して協力支援活動などの実施を命令した。
 さらに、本年五月十七日、基本計画、実施要項の活動期間が六か月(十一月十九日まで)延長された。
 テロ対策特措法に基づく活動の概要は次のとおりである。
・海上自衛隊による協力支援活動及び被災民救援活動など
 海上自衛隊は、実施命令に基づき、護衛艦三隻、補給艦二隻、掃海母艦一隻の六隻からなる協力支援活動などのための部隊及び被災民救援活動などのための部隊を編成した。これらの艦艇は、十二月二日から、協力支援活動として、インド洋で米海軍艦艇に対し、洋上補給などを開始した。また、本年一月二十九日からは、英海軍艦艇に対し、洋上補給などを開始した。
 掃海母艦一隻及び護衛艦一隻からなる被災民救援活動のための部隊は、十二月十二日、パキスタン・カラチ港に入港し、救援物資である総トン数二百トンのテント及び毛布などをUNHCR現地事務所に引き渡した。掃海母艦を除く、護衛艦三隻、補給艦二隻は、インド洋を中心に協力支援活動などを継続して行っており、その後、五隻体制を基準として逐次、艦艇の交代を行ってきている。
 本年六月末までに、協力支援活動として米海軍艦艇などへ行った補給回数は、述べ八十七回、補給量は十五万三千キロリットルであった。
 また、米海軍横須賀基地などにおいては、艦船の出入港支援などの港湾業務を行っている。
・航空自衛隊による協力支援活動
 航空自衛隊は、十一月二十九日、C―130H輸送機により、在日米軍基地間の国内輸送を開始した。さらに、十二月三日には、在日米軍基地とグアム方面などとの間の国外輸送も開始した。これらの輸送は、六月末現在も続いている。

3 テロリズムへの対処のための取組
 同時多発テロと同様の攻撃に対する備えに万全を期すため、国内にある自衛隊の施設並びに在日米軍の施設及び区域の警護のため自衛隊の部隊などの出動を可能にするとともに、通常時から国内にある自衛隊施設を警護する場合に武器が使用できるよう自衛隊法が改正された。
○警護出動
 内閣総理大臣は、国内にある自衛隊の施設並びに在日米軍の施設及び区域において破壊行為などが行われるおそれがあり、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合には、その施設などの警護のため自衛隊の部隊などの出動を命ずることができる。

第2節 各種の事態への対応

1 不審船・武装工作員などへの対応
 一般に、不審船事案や武装工作員などによる不法行為への対処は、第一義的には警察機関の任務である。自衛隊は、警察機関に対して必要な支援を行い、警察機関では対処が不可能又は著しく困難と認められる事態が発生した場合には、海上における警備行動や治安出動により自衛隊が対処する。さらに、事態が外部からの武力攻撃に該当する場合には、防衛出動により対処する。
○不審船への対処
 一九九九年の能登半島沖の不審船事案の教訓・反省事項を踏まえて、海上自衛隊では、ミサイル艇の速力の向上や「特別警備隊」の新編、護衛艦、哨戒ヘリコプターへの機関銃の装備などの事業を進めており、また、海上保安庁との間で様々な施策を通して連携の強化を図っている。
 さらに、昨年十二月二十一日に発生した九州南西海域不審船事案について政府として検証を行った結果、防衛庁に関するものとして、@哨戒機(P―3C)が滞空のまま画像を基地まで伝送する能力の強化、A基地と海上幕僚監部などの間の伝送能力の強化、B不確実であっても早い段階から、内閣官房・防衛庁・海上保安庁間で不審船情報を適切に共有、C工作船の可能性の高い不審船については、不測の事態に備え、政府の方針として、当初から自衛隊の艦艇を派遣するなどの措置を講ずることとされた。さらに、政府としての武装不審船に対する対応要領を策定し、不審船対処の基本、情報の集約、評価、対応態勢などについて定めることとされている。
 なお、排他的経済水域で発見した不審船を取り締まる法的根拠及び排他的経済水域で発見した不審船に対する武器使用要件の緩和については国際法上の制約などを踏まえつつ政府としてさらに検討することとされた。
○武装工作員などへの対処
 武装工作員などによる不法行為に対しては、一九五四年に締結された治安出動の際における自衛隊と警察との連携要領を定めた協定の暴動鎮圧を前提とした従来の規定を、武装工作員などによる不法行為の事案にも対処できるよう改正した。
○事態が外部からの武力攻撃に該当する場合の対処
 ゲリラや特殊部隊による攻撃に対しては、関係機関などと密接に連携して情報収集態勢を確立し、ゲリラや特殊部隊を早期に発見して捕獲又は撃破するとともに、攻撃による被害を最小限にして事態を早期に収拾する。
○不審船及び武装工作員などにより適切に対処するための自衛隊法の改正など
・不審船対処のための改正
 不審船を停船させ、立ち入り検査を行うという目的を十分に達成するとの観点から、自衛隊法が改正された。これにより、不審船に対する停船のための一定の要件をみたした場合に不審船を停船させるため武器を使用することができ、その結果人に危害を与えることとなっても、法律に基づく正当行為と評価されることとなった。
・武装工作員などへの対処のための改正
 治安出動下令前に武器を携行した自衛隊の部隊による情報収集を行うことができるようになるとともに、治安出動時の武器の使用において、結果として人に危害を与えることとなっても、法律に基づく正当行為として評価されることとなる場合として、小銃、機関銃などの武器を所持し、又は所持していると疑うに足りる相当な理由のある者による暴行又は脅迫を鎮圧又は防止する場合が加えられた。

2 核・生物・化学兵器への対応
 核・生物・化学兵器による攻撃に対して、検知・防護・除染・防疫・治療などの面で効果的に対処できるよう、人員・装備面での機能の充実を図り、特に生物兵器については、研究及び教育を図ることとしている。
○生物兵器への対処
 本年一月、防衛庁・自衛隊が、生物兵器対処に取り組むべき施策の全体像及び方向性を示すとともに、各種の施策を一体的・体系的に推進するための指針となるよう、運用面の観点から「生物兵器対処に係る基本的考え方」を取りまとめた。今後、この基本的考え方の着実な進捗を図るとともに、庁内の情報の総合的集約・交換などを行い、状況の変化に応じた見直しを適切に行っていくため、「生物兵器対処委員会」を設置し、生物兵器への対処に取り組んでいく。

3 サイバー攻撃への対応
 近年のコンピュータなどの情報通信技術(IT)の発展とその普及に伴い、コンピュータ・システムに対するいわゆる「サイバー攻撃」に対してどのように対応するかが重要な課題となりつつある。
 防衛庁では、従来より、通信回線の暗号使用による秘匿化など、様々な措置を講じているところであるが、サイバー攻撃への対処に万全を期すようさらに幅広く取り組んでいく。
 また、政府のサイバー攻撃への取組に対して技術的・人的側面から積極的に貢献することとしている。

4 その他の対応
 一九九九年に自衛隊法が改正され、自衛隊の航空機に加え、船舶及び船舶に搭載したヘリコプターを使用して邦人などの輸送ができることとなり、輸送のための態勢が強化された。
○周辺事態への対応
 日米防衛協力のための指針の実効性を確保するために、一九九九年に周辺事態安全確保法などが成立し、承認され、二〇〇〇年には船舶検査活動法が成立した。今後、これらに基づいて対応することとなる。

第3節 わが国の防衛

1 警戒監視活動など
 自衛隊は、平素から周辺海域での警戒監視や対領空侵犯措置、軍事情報の収集などの活動を行っている。

2 各種の作戦
 万一、外部からの武力攻撃が生じた場合、自衛隊は、防空のための作戦、周辺海域の防衛と海上交通の安全確保のための作戦、着上陸侵攻対処のための作戦を行う。

第4節 武力攻撃事態への対応に関する法制への取組など

1 武力攻撃事態への対応に関する法制への取組
○有事法制の研究及び法整備に向けた取組
 政府としては、有事法制は、わが国への武力攻撃などに際し、自衛隊が文民統制の下で適切に対処し、国民の生命・財産を確保するという自衛隊の任務遂行を全うするとの観点から、また、そのような防衛態勢を整備することがわが国に対する武力攻撃の未然防止に資するとの観点から必須であり、平時においてこそ備えておくべきものであると考えている。
 政府は、本年四月、第百五十四回通常国会に、「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」及び「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」を提出した(第3図参照)。
○武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案(武力攻撃事態対処法案)
 武力攻撃事態とは、わが国に対する外部からの武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む)が発生した事態又は事態が緊迫し、武力攻撃が予想されるに至った事態をいい、本法案は、武力攻撃事態への対処について、基本理念、国、地方公共団体などの責務、国民の協力その他の基本となる事項を定め、武力攻撃事態への対処のための体制を整備し、併せて武力攻撃事態への対処に関して必要となる法制の整備に関する事項を定め、もってわが国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的としている。
○安全保障会議設置法の一部を改正する法律案
 安全保障会議の諮問事項に、@武力攻撃事態への対処に関する基本的な方針、A内閣総理大臣が必要と認める武力攻撃事態への対処に関する重要事項、B内閣総理大臣が必要と認める重大緊急事態への対処に関する重要事項を追加する。
 特に関係の深い少人数の閣僚を恒常的メンバーとして明記すること及び安全保障会議の機動的な運用を図るため、議案を限って、関係の国務大臣を、議員として臨時に会議に参加させることを目的として安全保障会議の議員を改正する。
 事態対処に関する安全保障会議の審議及び意見具申を迅速かつ的確に行うため、安全保障会議に進言する組織として、事態対処専門委員会(委員長:内閣官房長官)を、安全保障会議に置く。
○自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案
・自衛隊法の一部改正
 防衛出動時における物資の収用などにかかわる規定、防衛出動下令前の防御施設構築の措置などにかかわる規定、防衛出動時における自衛隊の緊急通行にかかわる規定、取扱物資の保管命令に従わなかったものなどに対する罰則及び関係法令の防衛出動時などにおける特例を整備若しくは新設する。
・防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部改正
 防衛出動を命ぜられた職員に対する防衛出動手当の支給にかかわる規定を新設する。
○国民の保護のための法制
 政府は、武力攻撃事態対処法案に基づき、今後、「国民の保護のための法制」を整備することとしている。この法制においては、武力攻撃事態から国民の生命、身体及び財産を保護し、武力攻撃が国民生活及び国民経済に与える影響を最小とするため、国、都道府県及び市町村の具体的な役割分担、指定公共機関の役割、対処措置の実施を推進するための体制などについて定めることとなると考えている。
○自衛隊の行動の円滑化に関連する法制
 武力攻撃事態対処法案に定める事態対処法制整備の中で、自衛隊の行動の円滑化のため、捕虜の取扱、自衛隊の電波利用の円滑化、船舶・航空機の航行に関する措置などに関する法制についても、検討されていくものと考えている。
○米軍の行動の円滑化に関連する法制
 武力攻撃事態対処法案に定める事態対処法制整備の中で、日米安保条約に従って米軍が行う武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるための措置についても、検討されていくものと考えている。

2 部隊行動基準の策定に向けた取組
 自衛隊の部隊行動に際しては、文民統制の下、法令などを遵守しつつ、それぞれの部隊がその時々の情勢や現場の実情に応じて的確な行動をとることが必要である。法令などの範囲内で部隊などがとり得る対処行動の限度を明確に示し、もって部隊行動を適切に律することが一層重要となってきており、防衛庁では、「部隊行動基準」の作成作業を開始した。

3 統合運用に関する検討
 自衛隊がその任務を迅速かつ効果的に遂行するためには、統合的見地に立って、有機的に運用することが必要である。このため、防衛庁においては、統合運用の強化を推進するため、本年四月検討を開始した。

第5節 防衛力の整備

1 中期防衛力整備計画
○計画の方針
 「中期防衛力整備計画(平成十三年度〜十七年度)」(中期防)では、引き続き防衛大綱に従い、次の四つを計画の方針として掲げ、適切な防衛力の整備に努めることとしている。@防衛力の合理化・効率化・コンパクト化の推進などA日米安全保障体制の信頼性の向上Bより安定した安全保障環境の構築への貢献C節度ある防衛力の整備。
○基幹部隊の見直しなど
 陸上自衛隊は、中期防期間末には十個師団・四個旅団・一個混成団などを基幹部隊とする十六万六千人程度(常備自衛官十五万六千人程度、即応予備自衛官一万人程度)の体制とする。
 海上自衛隊は、中期防期間中に、護衛艦部隊のうち地方隊の一個護衛隊を廃止して基幹部隊の体制移行を完了する。
 航空自衛隊は、中期防期間中に、八個警戒群を警戒隊に改編して基幹部隊の体制移行を完了する。
○所要経費
 計画期間中における防衛関係費の総額の限度は、将来における予見しがたい事象への対応、より安定した安全保障環境構築への貢献など特に必要があると認める場合に安全保障会議の承認を得て措置することができる一千五百億円程度を含め、平成十二年度価格でおおむね二十五兆一千六百億円程度をめどとしている。
 さらに、この計画については、三年後には、その時点における国際情勢、情報通信技術をはじめとする技術的水準の動向、経済財政事情など内外諸情勢を勘案し、二十五兆一千六百億円の範囲内において必要に応じ見直しを行うこととしている。
 なお、SACO(沖縄に関する特別行動委員会)関連事業については着実に行い、その所要経費については別途明らかにすることとしている。
○検討課題
 将来の防衛力のあり方や防衛力整備の進め方について検討を行うこととしている。

2 平成十四年度の防衛力整備
○基本方針
 平成十四年度は、中期防の二年度目としてその確実な進捗を図り、防衛大綱に示された防衛力の水準への円滑な移行を進めることを基本とし、現在の厳しい財政事情を踏まえ、一層の効率化のための創意工夫をこらしつつ、将来を展望した防衛力整備を目指す。
 新たな時代における防衛力の整備として、統合運用態勢の充実・高度情報通信ネットワークの構築、各種事態への対応、教育の充実・部隊の練成、より安定した安全保障環境の構築への貢献、情報機能の強化、着実な体制変換、軍事科学技術の進展への対応、装備の更新・近代化などを行う。

3 防衛関係費
 平成十四年度の防衛関係費の総額は、四兆九千三百九十五億円であり、前年度より六億円増(沖縄に関する特別行動委員会(SACO)関係経費を除く)、対前年度比でほぼ横ばい(〇・〇%)という引き続き抑制されたものとなっている。
 なお、平成十四年度予算においては、SACO関係経費について百六十五億円が予算措置されている。

第6節 日米安全保障体制に関連する諸施策

1 日米防衛協力のための指針(指針)
 指針は、より効果的かつ信頼性のある日米協力を行うための堅固な基礎を構築することなどを目的としている。
 指針及びその下で行われる取組は、日米同盟関係の基本的な枠組は変更されないこと、わが国のすべての行為は憲法上の制約の範囲内でわが国の基本的な方針に従って行われることなどの基本的な前提及び考え方に従って行われる。

2 指針の実効性を確保するための諸施策
 一九九九年に周辺事態安全確保法、自衛隊法の一部を改正する法律が成立し、日米物品役務相互提供協定を改正する協定が承認された。
 また、二〇〇〇年、船舶検査活動法が成立した。

3 平素から行っている協力
 政策の協議・情報交換、日米共同訓練、装備・技術面での相互交流などを行っている。

4 弾道ミサイル防衛に関する日米共同技術研究
 弾道ミサイル防衛(BMD)は専守防衛を旨とするわが国の防衛政策上の重要な課題である。また、BMDは純粋に防御的なシステムであり、専守防衛という政策に適することから、わが国の主体的取組が必要であるとの認識の下、これまで検討を行ってきた。
 一九九九年に閣議決定がなされ、防衛庁と米国防省との間で了解覚書を締結し、共同技術研究を開始した。
 今回の共同技術研究は、あくまで「調査・研究」段階のものである。開発段階、量産・配備段階への移行は、別途判断するものであり、これらの判断は、十分検討した上で行う。

5 在日米軍の駐留を円滑にするための施策など
 わが国は、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保するため、財政事情などにも十分配慮しつつ、地位協定の範囲内で、あるいは特別協定に基づき、できる限りの努力を払ってきた。
 政府は、在日米軍施設・区域に関する諸施策について、日米安保条約の目的達成と周辺地域社会の要望との調和を図るため努力を重ねている。

第4章 災害への対応とより安定した安全保障環境の構築への貢献―国内外に広がる活動の場―

第1節 災害への対応

 災害派遣などの形態には、災害派遣のほか、地震防災派遣、原子力災害派遣がある。
 自衛隊が、災害派遣活動を迅速かつ的確に行うためには地方公共団体などの協力が必要不可欠である。このため、情報連絡体制の充実や防災計画の整合、地方公共団体が行う防災訓練への積極的な参加など、自衛隊と地方公共団体などとの間で日ごろから連携強化を図り、自衛隊の活動をより有効なものとする必要がある。
 平成十三年度は、三宅島の火山活動、愛媛県立宇和島水産高等学校実習船「えひめ丸」沈没事故などに際しての災害派遣活動を行った(第4図参照)。
 防衛庁は、災害により迅速・的確に対処するため、災害の各種類型ごとの対処方針などを取りまとめたマニュアルを二〇〇〇年に策定した。
 また、平成十三年度は、自衛隊統合防災演習として東京都総合防災訓練(「ビッグレスキュー東京2001」)に参加したり、地方公共団体の行う防災訓練や原子力防災訓練に積極的に参加するなどして、災害への対処に万全を期している。

第2節 国際平和協力への取組

1 平和維持隊本隊業務の凍結解除など
 自衛隊の「部隊等」による、平和維持隊本体業務(PKF本体業務)については、国際平和協力法案の国会審議の過程で、内外の一層の理解と支持を得るため、別に法律で定める日までの間は、これを行わないこととされた(PKF本体業務の凍結)が、わが国が国連を中心とした国際平和のための努力に積極的に貢献することについて、内外の期待が高まってきていることを受け、昨年、PKF本体業務の凍結解除を含む国際平和協力法の改正が行われた。
 PKF本体業務凍結解除に合わせ、国際平和協力業務の一層の円滑な実施を確保するため、武器を使用して防衛できる対象の拡大及び武器などの防護のための武器の使用について同法が改正された。

2 東チモール国際平和協力業務など
 自衛隊は、本年二月から東チモールにおいて東チモール暫定行政機構(UNTAET)及び後継PKOである東チモール支援団(UNMISET)に過去最大規模の部隊派遣となる部隊などを派遣し、道路などの維持補修など後方支援分野の業務に従事している。
 また、一九九六年以来、ゴラン高原において国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に部隊などを派遣し、輸送などの業務に従事している。
 昨年、防衛庁派遣職員処遇法が改正され、国連平和維持活動局における国連平和維持活動についての方針の策定などの業務が追加された。

3 国際緊急援助活動
 防衛庁は、人道的な見地及びより安定した安全保障環境の構築という見地から国際緊急援助活動に積極的に取り組むこととしている。

第3節 国際社会における信頼関係増進への取組

1 安全保障対話・防衛交流
 防衛庁は、防衛首脳クラスなどの交流、防衛当局者間の定期協議、部隊間の交流などを通して、韓国、ロシア、中国、東南アジア及びその他の諸国との防衛交流に積極的に取り組んでいる。
 防衛庁は、地域の安定化のため、アジア・太平洋地域防衛当局者フォーラムなど、自ら主体性をもって様々な対話の機会を設けている。

2 多国間共同訓練
 防衛庁は、多国間共同訓練に参加することやこれを主催することは、自衛隊の各種技量の向上はもとより、関係国間の各種調整や意見交換を通じ、相互理解の促進や信頼関係の増進に寄与するものと考えており、引き続き、積極的に取り組んでいくこととしている。
 自衛隊は、昨年六月に第一回西太平洋掃海訓練に参加するとともに、本年は、昨年に続きコブラゴールドにオブザーバーを派遣した。さらに、五月には第二回西太平洋潜水艦救難訓練(PACIFIC REACH 2002)を初めて主催するとともに、十月には国際観艦式に引き続き、多国間捜索救難訓練をわが国が主催する予定である。

3 軍備管理・軍縮分野への協力
 防衛庁は、化学兵器や生物兵器などに関する軍縮分野の努力に対して、条約案の作成などのために専門家を派遣するなど、様々な協力を行っている。
 防衛庁は、対人地雷禁止条約の規定にのっとり、二〇〇三年二月末までに自衛隊が保有している対人地雷を廃棄することとしている。
 中国遺棄化学兵器廃棄処理事業に対する協力として、防衛庁は、内閣府に陸上自衛官を含む職員を出向させるなどの協力を行っている。
 イラクの大量破壊兵器などの廃棄に関する国連の活動への協力として、防衛庁は、昨年二月から国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)へ海上自衛官を派遣している。

第5章 国民と防衛―強固な礎の構築とより一層の信頼と協力を得ることを目指して―

第1節 防衛力を支える基盤

1 自衛隊の組織と人
 自衛隊は、各自衛隊を中心に、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛研究所、技術研究本部、契約本部、防衛施設庁など、様々な組織で構成されている。
 省移行問題については、行政改革会議の最終報告(一九九七年)において、政治の場で議論すべき課題とされており、その後、国会において活発な議論が行われている。昨年六月には、防衛省設置法案が議員提出され、継続審議となっている。防衛庁としては、早期に防衛省設置法の成立を望んでいる。
 隊員は、自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官、予備自衛官補と事務官、技官、教官などからなっている。
 また、将来にわたり、予備自衛官の勢力を安定的に確保し、民間の優れた専門技術を有効に活用するため予備自衛官補制度を導入した。
 即応予備自衛官などの制度を運用するためには、即応予備自衛官などの就職先企業などの理解と協力が不可欠である。
 防衛庁は、企業に対して即応予備自衛官雇用企業給付金を支給している。

2 教育訓練
 自衛隊は、種々の制約の中で、事故防止など安全確保に細心の注意を払いつつ、隊員の教育や部隊の訓練などを行い、精強な隊員及び部隊の練成に努めている。

3 情報通信技術(IT)革命への対応
 ITの発展と普及は、社会のあらゆる分野に変革をもたらすものと考えられる。このような状況を踏まえ、防衛庁ではIT革命に対応するため「防衛庁・自衛隊における情報通信技術革命への対応に係る総合的施策の推進要項(IT要綱)」に基づき、各種施策を推進している。
○IT要綱における中核となる三つの施策
・高度なネットワーク環境の整備として、防衛情報通信基盤(DII)の整備、コンピュータ・システム共通運用基盤(COE)の整備、統合されたネットワークの管理運営基盤の整備を行う。
・情報通信機能の強化として、中央指揮所の情報処理機能などを充実強化、中央指揮システムをはじめ、各自衛隊のシステムを整備する。
・情報セキュリティの確保として、情報セキュリティポリシーの策定、サイバー攻撃に対する対処手法の研究、セキュリティ・システムの運用評価など、システム保全管理機能の充実、人的基盤の整備、暗号技術評価委員会への支援を実施する。

4 防衛生産・技術基盤の充実強化
 装備の面においても防衛力を支える基盤を充実強化していくことが不可欠である。

5 透明・公正かつ効率的な調達
 今後とも引き続き、競争原理の強化、ライフサイクルコストの低減などにより、防衛調達のさらなる透明性・公正性の確保に努めるとともに、効率的な調達補給態勢の整備を図っていく。

6 秘密保全に対する取組
 二〇〇〇年の秘密漏えい事件の発生を受け、防衛庁では、同種事案の再発防止策を取りまとめ、秘密漏えい防止のための取扱環境の整備、服務指導などの徹底、組織の新編、整備などを行ってきた。
 また、防衛秘密の漏えいにかかわる罰則を強化することを内容とする自衛隊法の改正が昨年行われた。この改正は、わが国の防衛上特に秘匿することが必要な一定の秘密(防衛秘密)を漏えいした者を、従前に比して重い刑罰で処罰するなどの規定を設けたものである。
 このように、防衛庁は、秘密保全に万全を期し、国民の信頼を高め、その期待に応えるよう、全力を挙げて取り組んでいる。

第2節 国民と自衛隊

1 市民生活の中での活動
 自衛隊は、災害派遣のほかに、危険物の処理、医療面での活動、ワールドカップサッカー大会などの運動競技会に対する協力、国家的行事での礼式、輸送への協力、密航船対策への協力、教育訓練の受託、南極地域観測への協力などを通じて国民生活の安定に役立っている。

2 自衛隊の広報活動
 防衛庁は、自衛隊や防衛に関する知識の普及、自衛隊の部隊や施設の公開、体験入隊などの実施といった様々な広報活動を行っている。

第3節 防衛庁・自衛隊と地方公共団体を含む地域社会とのかかわり

1 自衛官の募集・就職援護などに対する協力
 自衛官の募集・就職援護活動や自衛隊の活動などに対する地方公共団体や各種の団体による様々な支援・協力は不可欠である。

2 自衛隊・在日米軍の活動の場である防衛施設と周辺地域との調和を図るための施策
 政府は、防衛施設と周辺地域との調和を図るため、騒音対策や生活関連施設の整備への助成などの施策を行っている。防衛庁は、本年度、新たな施策として、@全室防音工事、Aまちづくり支援事業などを行うこととしている。

3 環境保全への取組など
 在日米軍施設・区域をめぐる環境問題について、政府は、日米合同委員会の枠組などを通じて、米側と十分協議の上、わが国の公共の安全や市民生活に妥当な考慮がなされるよう対処している。

4 在日米軍施設・区域に関する諸施策
 従来から、岩国飛行場滑走路移設事業や空母艦載機の着陸訓練場の確保に関する施策などを行ってきている。

第4節 沖縄に所在する在日米軍施設・区域

1 SACO設置以前における整理・統合・縮小への取組
 日米両国は、地元の要望の強い事案を中心に、整理・統合・縮小の努力を継続的に行ってきた。

2 SACO設置以降の在日米軍施設・区域にかかわる問題解決への取組
 政府は、沖縄県に所在する米軍施設・区域にかかわる諸課題を協議する目的で、一九九五年、日米間にSACOを設置した。
 本年三月に成立した「沖縄振興特別措置法」により、大規模跡地の円滑な利用を促進し、市街地の計画的な開発整備に伴う所有者などの負担の軽減、及び特定跡地の円滑な利用を促進し原状回復に相当の期間を要することに伴う所有者などの負担の軽減を図るため、大規模跡地給付金及び特定跡地給付金をそれぞれ支給する制度が創設された。
 SACOは、一九九六年、普天間飛行場の全面返還をはじめとする土地の返還、県道一〇四号線越え実弾射撃訓練の本土演習場での分散実施など、諸問題の改善に向けた計画及び措置を取りまとめた(SACO最終報告)。
 土地の返還については、十一事案のうち九事案が着実に進捗している。また、土地の返還以外の案件についても、そのほとんどが実現している。
 普天間飛行場の返還については、一九九九年、「普天間飛行場の移設に係る政府方針」を閣議決定し、今後の取組方針を明らかにした。この閣議決定に基づき、普天間飛行場代替施設の規模、工法及び具体的建設場所など基本計画策定に必要な事項について、政府、沖縄県及び地元地方公共団体の間で協議を行う、「代替施設協議会」が二〇〇〇年設置され、昨年末、「代替施設基本計画主要事項に係る取扱い方針」を決定した。防衛庁としては、今後、この取扱い方針に従い、所要の検討、協議を促進し、できるだけ早く基本計画が策定できるよう取り組んでいくこととしている。




言葉の履歴書


ネットバンク

 インターネットの普及に伴い、これまでなかった新たなビジネスやサービスが次々に登場しています。「ネットバンク」もその一つ。一般的にネットバンクというときは、「インターネット専業銀行」と「インターネットバンキング」という二通りの意味で使われることがあります。
 「インターネット専業銀行」という意味のネットバンクは、店舗を持たず、インターネットとほかの銀行のATMを利用してサービスを提供する銀行のこと。人件費や物件費などのコストが低く抑えられることから、従来の銀行より金利が優遇されている場合が多いようです。
 「インターネットバンキング」という意味のネットバンクは、従来の銀行が通常の有人店舗のほかにインターネットでの業務サービスを行っている場合を意味します。
 どちらの場合も銀行の窓口まで行かなくてもインターネット上で、口座開設や振込、残高照会などの各種取引ができるというメリットがあります。取引内容については、銀行によって異なりますので、ご確認ください。




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労働経済動向調査


平成十四年八月結果の概況


厚生労働省


T調査の概要

 労働経済動向調査は、生産、販売活動及びそれに伴う雇用、労働時間などの現状と今後の短期的見通しなどを把握するため、全国の建設業、製造業、運輸・通信業、卸売・小売業, 飲食店、金融・保険業、不動産業及びサービス業に属する常用労働者三十人以上を雇用する民営事業所五千三百五十八事業所を対象として、年四回実施(通信調査方式)しているもので、平成十四年八月一日現在の調査結果である。
 (注) 平成十一年二月の調査から、調査対象産業を従来の五産業に金融・保険業、不動産業を追加し七産業とした。

U結果の要旨

一 生産・売上、所定外労働時間、雇用
(1) 生産・売上
《製造業の実績がプラスに転じた・先行きはマイナス》
 生産・売上判断D.I.(平成十四年四〜六月期実績)は、製造業でプラス六ポイントとプラスに転じ、卸売・小売業,飲食店でマイナス一ポイント及びサービス業でマイナス一五ポイントと卸売・小売業,飲食店でマイナス幅は縮小、サービス業でマイナス幅は拡大した。先行きは、十四年七〜九月期実績見込、十四年十〜十二月期見込は三産業ともマイナスとなっている(第1表参照)。
(2) 所定外労働時間
《製造業の実績がプラスに転じた・先行きはマイナス》
 所定外労働時間判断D.I.(十四年四〜六月期実績)は、製造業でプラス九ポイントとプラスに転じ、卸売・小売業,飲食店及びサービス業でそれぞれマイナス四ポイントとなり、サービス業でマイナスに転じた。先行きは、十四年七〜九月期実績見込及び十四年十〜十二月期見込は三産業ともマイナスとなっている(第1表参照)。
(3) 常用雇用
《三産業の実績においてマイナス幅拡大》
 常用雇用判断D.I.(十四年四〜六月期実績)は、製造業でマイナス三二ポイント、卸売・小売業,飲食店でマイナス三一ポイント及びサービス業でマイナス一三ポイントと三産業ともマイナス幅は拡大した。先行きは、十四年七〜九月期実績見込、十四年十〜十二月期見込とも三産業でマイナスとなっているが、その幅は縮小している(第1表参照)。
(4) パートタイム雇用
《製造業の実績においてマイナス幅縮小》
 パートタイム雇用判断D.I.(十四年四〜六月期実績)は、製造業でマイナス六ポイント、卸売・小売業,飲食店及びサービス業でそれぞれ〇ポイントとなり、製造業でマイナス幅は縮小した。先行きは、十四年七〜九月期実績見込は製造業及びサービス業でマイナスとなり、卸売・小売業,飲食店でプラスとなっている。十四年十〜十二月期見込は三産業ともマイナスとなっている(第1表参照)。

二 労働者の過不足状況
(1) 常用労働者
《過剰感さらに弱まる》
 八月現在の常用労働者過不足判断D.I.により、雇用過剰感の動向をみると、調査産業計ではマイナス九ポイントと前期(マイナス一三ポイント)及び前々期(マイナス一五ポイント)と比べると過剰感がさらに弱まっている。産業別にみると、運輸・通信業では不足感が強まり、建設業、製造業、不動産業及びサービス業では過剰感が弱まっている。なお、金融・保険業では不足感が弱まっている(第1図参照)。
(2) パートタイム労働者
《不足感は横ばい》
 八月現在のパートタイム労働者過不足判断D.I.により、雇用過剰感の動向をみると調査産業計ではプラス五ポイントと前期(プラス五ポイント)と比べると不足感は横ばいとなっている。産業別にみると、運輸・通信業では不足感が強まり、建設業では過剰感が弱まっている。なお、卸売・小売業,飲食店及び金融・保険業では不足感が弱まっている。

三 雇用調整
(1) 実施割合
《実績はやや低下》
 雇用調整を実施した事業所の割合(十四年四〜六月期実績)は、調査産業計で二七%と前期(三一%)と比べると四ポイント低下した。産業別には、不動産業を除くすべての産業で低下した(第2図参照)。
(2) 実施方法
 雇用調整の実施方法は、調査産業計では残業規制(一三%)の割合が高く、次いで配置転換(八%)、出向(六%)及び中途採用の削減・停止(五%)となっている。

四 中途採用
《ほぼ変わらず》
 「中途採用あり」とした事業所割合(十四年四〜六月期実績)は、調査産業計で四六%と前年同期(一三年四〜六月期実績)と比べると一ポイント上昇となっている。

五 労働者数の変動状況
(1) 一年前との変動状況
《常用ではすべての産業で減少が増加を上回る》
 現在の労働者数が一年前とどのように変わったかを事業所割合でみると、常用労働者ではすべての産業で「減少した」とする割合が「増加した」とする割合を上回った。一方、現在受け入れている派遣労働者数でみると、調査産業計では「増加した」とする割合が「減少した」とする割合とほぼ同じとなっている。また、産業別では建設業を除く他の産業で「増加した」とする割合が「減少した」とする割合を上回っているかほぼ同じとなっている。
(2) 一年後の変動状況
《常用ではすべての産業で減少が増加を上回る》
 現在の労働者数が一年後どのように変わるかを事業所割合でみると、常用労働者ではすべての産業で「減少する」と見込む割合が、「増加する」と見込む割合を上回っている。また、現在受け入れている派遣労働者数でみると、調査産業計で「減少する」と見込む割合が、「増加する」と見込む割合を上回っている。


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消費者物価指数の動向


―東京都区部(九月中旬速報値)・全国(八月)―


総 務 省


◇九月の東京都区部消費者物価指数の動向

一 概 況

(1)総合指数は平成十二年を一〇〇として九七・九となり、前月比は〇・二%の下落。前年同月比は〇・九%の下落となった。
 なお、総合指数は、平成十一年九月以降三年一か月連続で前年同月の水準を下回っている。
(2)生鮮食品を除く総合指数は九七・九となり、前月比は〇・一%の下落。前年同月比は〇・九%の下落となった。
 なお、生鮮食品を除く総合指数は、平成十一年十月以降三年連続で前年同月の水準を下回っている。

二 前月からの動き

(1)食料は九九・〇となり、前月に比べ〇・三%の下落。
  生鮮魚介は七・五%の下落。
   <値上がり> たこ、あさりなど
   <値下がり> さんま、かつおなど
  生鮮野菜は〇・四%の下落。
   <値上がり> トマト、ブロッコリーなど
   <値下がり> れんこん、ほうれんそうなど
  生鮮果物は二・一%の上昇。
   <値上がり> もも
   <値下がり> なし、ぶどうなど
(2)住居は九七・二となり、前月に比べ〇・二%の下落。
  家賃が〇・二%の下落。
   <値下がり> 民営家賃(木造中住宅)など
(3)被服及び履物は九八・七となり、前月に比べ六・一%の上昇。
  衣料が七・五%の上昇。
   <値上がり> 婦人上着など
(4)交通・通信は九八・三となり、前月に比べ一・二%の下落。
  交通が三・〇%の下落。
   <値下がり> 航空運賃など
(5)教養娯楽は九五・七となり、前月に比べ二・四%の下落。
  教養娯楽サービスが三・八%の下落。
   <値下がり> 外国パック旅行など

三 前年同月との比較

○下落に寄与している主な項目
 家賃(〇・九%下落)、電気代(五・六%下落)、教養娯楽用耐久財(一三・六%下落)、家庭用耐久財(九・一%下落)、衣料(三・一%下落)
 (注) 下落又は上昇している主な項目は、総合指数の前年同月比に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。

◇八月の全国消費者物価指数の動向

一 概 況

(1)総合指数は平成十二年を一〇〇として九八・五となり、前月比は〇・三%の上昇。前年同月比は〇・九%の下落となった。
 なお、総合指数は、平成十一年九月以降三年連続で前年同月の水準を下回っている。
(2)生鮮食品を除く総合指数は九八・三となり、前月と同水準。前年同月比は〇・九%の下落となった。
 なお、生鮮食品を除く総合指数は、平成十一年十月以降二年十一か月連続で前年同月の水準を下回っている。

二 前月からの動き

(1)食料は九九・〇となり、前月に比べ〇・七%の上昇。
  生鮮魚介は四・三%の上昇。
   <値上がり> さんま、かつおなど
   <値下がり> えび、ほたて貝
  生鮮野菜は五・〇%の上昇。
   <値上がり> レタス、トマトなど
   <値下がり> きゅうり、なすなど
  生鮮果物は七・二%の上昇。
   <値上がり> すいか、キウイフルーツなど
   <値下がり> ぶどう、ももなど
(2)被服及び履物は九一・九となり、前月に比べ二・四%の下落。
  衣料が三・〇%の下落。
   <値下がり> ワンピース(夏物)など
(3)交通・通信は九九・〇となり、前月に比べ〇・四%の上昇。
  交通が二・二%の上昇。
   <値上がり> 航空運賃など
(4)教養娯楽は九七・四となり、前月に比べ二・一%の上昇。
  教養娯楽サービスが三・三%の上昇。
   <値上がり> 外国パック旅行など

三 前年同月との比較

○下落に寄与している主な項目
 教養娯楽用耐久財(一三・八%下落)、家庭用耐久財(七・八%下落)、衣料(三・一%下落)、電気代(二・三%下落)
 (注) 下落又は上昇している主な項目は、総合指数の前年同月比に対する影響度(寄与度)の大きいものから順に配列した。





















    <11月20日号の主な予定>

 ▽厚生労働白書のあらまし………厚生労働省 




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