官報資料版 平成14年12月4日




                  ▽公益法人に関する年次報告………総 務 省

                  ▽月例経済報告(十一月)…………内 閣 府











平成14年度


公益法人に関する年次報告


総 務 省


経緯及び構成

◇経 緯

 公益法人に関する年次報告は、「公益法人の設立許可及び指導監督基準」及び「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」について(平成八年九月二十日閣議決定)に基づき、公益法人の実態及びこれらの基準の実施状況等を明らかにするため、平成九年度から作成することとなったものである。

◇構 成

 この報告は、四章から構成されている。
 第1章においては、公益法人制度の概要について解説し、第2章においては、公益法人の現況を、第3章においては、公益法人と行政とのかかわりを概観している。また、第4章においては、公益信託制度についての概要と現況を記述している。

第1章 公益法人制度の概要

第1節 公益法人の定義

1 公益法人の定義
 公益法人とは、民法(明治二十九年法律第八九号)第三十四条に基づいて設立される社団法人又は財団法人のことであり、その設立には、@公益に関する事業を行うこと、A営利を目的としないこと、B主務官庁の許可を得ることが必要である。

2 社団法人と財団法人
 社団法人は、一定の目的のもとに結合した人の集合体であって、団体として組織、意思等を持ち、社員と別個の社会的存在として団体の名において行動する団体であり、財団法人は、一定の目的のもとに拠出され、結合されている財産の集まりであって、公益を目的として管理運営される団体である。

3 広義の公益法人等
・ 社団法人及び財団法人に加え、民法以外の特別法に基づいて設立される公益を目的とする法人を含めて、広義の公益法人ということがある。その例としては、学校法人(私立学校法)、社会福祉法人(社会福祉法)、宗教法人(宗教法人法)、医療法人(医療法)、更生保護法人(更生保護事業法)、特定非営利活動法人(特定非営利活動促進法)等がある。これらの法人の設立に当たっては認可主義あるいは認証主義が採られており、民法に基づく公益法人の設立は許可主義が採られていることに比べて、主務官庁の裁量の幅が狭まっている。
・ 公益も営利も目的としない中間的な団体については、一般的な法制度として中間法人法が平成十四年四月に施行された。また、特別法の規定に基づく中間的な団体としては、例えば、労働組合(労働組合法)、信用金庫(信用金庫法)、協同組合(各種の協同組合法)、共済組合(各種の共済組合法)等がある。

第2節 公益法人に関する法制度

 公益法人は、民法第三十四条に基づき設立されるものであり、民法第一編第二章〔法人〕においては、公益法人の設立、公益法人の組織、定款の変更、公益法人の登記、公益法人の能力、公益法人の解散等の事項に関する規定が置かれている。

第3節 公益法人に対する指導監督等に関する制度及び取組

1 主務官庁制
 民法の規定により、公益法人の設立許可及び指導監督に関する権限は、主務官庁に与えられている。主務官庁とは、公益法人の目的・事業に関連する事務を所掌している内閣府及び十省の中央官庁を指し、その目的・事業が複数の中央官庁の所掌に関連する場合には、それらの中央官庁が共管として主務官庁となる。

2 都道府県知事等による事務の処理等
 主務官庁の権限は、政令の定めるところにより、国に所属する行政庁に委任したり、都道府県の知事その他の執行機関が当該権限に属する事務を処理することとすることができる旨民法に規定されている。この規定に基づき制定された公益法人に係る主務官庁の権限に属する事務の処理等に関する政令(平成四年政令第一六一号)により、地方支分部局の長への委任や都道府県知事等による事務処理が定められている。

3 公益法人の所管官庁
 公益法人の設立許可、指導監督等に係る事務を実際に担当している行政庁を、指導監督基準等において、「所管官庁」と称している。所管官庁は、内閣府及び各省(十一)、内閣府外局大臣庁等(三)、地方支分部局の長(百八十六)、都道府県知事(四十七)、都道府県教育委員会(四十七)の合計二百九十四となっている。

4 統一的な指導監督等を行うための仕組み
 公益法人の設立許可及び指導監督は、各主務官庁及びその権限に属する事務を処理することとされた都道府県知事等、多数の所管官庁において行われていることから、これらの所管官庁が行う事務の統一性を図る必要がある。
 このため、現在では、全閣僚により構成する「公益法人等の指導監督等に関する関係閣僚会議」等を随時開催することにより、公益法人に対する指導監督の適切化等を統一的かつ強力に推進する体制となっている。
 統一的な指導監督等の基準としては、公益法人に対する指導監督の一層の適正化、公益法人による行政代行的行為等の透明化等を統一的かつ強力に推進するため、平成八年九月二十日に、「公益法人の設立許可及び指導監督基準」及び「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」が閣議決定された。各所管官庁においては、これらの基準等に沿った指導監督等が行われている。

5 公益法人の指導監督及びディスクロージャーの充実等
 一部公益法人の不祥事により、公益法人の運営の在り方やその指導監督の在り方が厳しく問われている現状を踏まえ、政府は、厳正な指導監督を更に徹底するため、平成十三年二月九日、公益法人等の指導監督等に関する関係閣僚会議幹事会において、@各府省に公益法人指導監督官を置くなど指導監督の責任体制を確立する、A立入検査について少なくとも三年に一回実施するなどの充実を図る、B一定規模以上の公益法人に対する外部監査の要請等について所要の措置を講ずる等を内容とする「公益法人の指導監督体制の充実等について」の申合せを行った。
 また、公益法人のディスクロージャーの充実による業務運営の透明化・適正化を図るとともに、「行政改革大綱」等に基づく公益法人改革の推進に資するための取組として、平成十三年八月二十八日、公益法人等の指導監督等に関する関係閣僚会議幹事会において「インターネットによる公益法人のディスクロージャーについて」の申合せを行った。現在、各府省は、本申合せに基づき、所管公益法人の一覧表をホームページ上に公開しており、総務省も、公益法人データベースを同省のホームページ上に公開している。
 なお、各都道府県に対しては、前記二つの申合せと同様の措置を講ずるよう要請した。

6 公益法人の会計処理
 昭和五十二年三月、公益法人会計基準が決定され、その後見直しが行われて、六十年九月に新たな公益法人会計基準が決定された(六十二年四月一日から適用)。
 この会計基準は、民法第三十四条に基づいて設立されるすべての公益法人に適用されることが原則である。
 実際の公益法人会計基準の適用状況は以下のとおりである。
 ・公益法人会計基準を完全に適用している
   …一万八千二百八十五(六九・八%)
 ・公益法人会計基準を一部適用している
   …五千二百十八(一九・九%)
 ・企業会計基準を適用している
   …一千九十七(四・二%)
 ・その他(官庁会計等、他の会計基準)を適用している
   …一千五百八十三(六・〇%)

7 営利法人等への転換に関する指針の申合せ
 平成十年三月に公表された法人制度研究会報告書において、公益法人の営利法人等への転換は現行法制度においても基本的に可能であるとされたことを受けて、十年十二月四日の公益法人等の指導監督等に関する関係閣僚会議幹事会において、営利法人等への転換の手順、転換後の対応を盛り込んだ「公益法人の営利法人等への転換に関する指針」を申し合わせた。

8 公益法人の指導監督等に関する研修会等の実施
 多くの所管官庁において行われている設立許可及び指導監督に関する事務が、統一性をもって実施されるために、これらに関する事務に従事する職員に対する研修等を実施することにより、その周知徹底を図る必要がある。このため、総務省、各都道府県等においては、公益法人行政担当者研修会、都道府県公益法人行政主管課長会議、公益法人地方講習会、都道府県公益法人事務担当者ブロック会議等を実施している。

第4節 公益法人に関する税制

1 公益法人に対する税制
 公益法人に関する税としては、法人税、所得税、消費税等の国税、住民税、事業税、地方消費税、不動産取得税、固定資産税、都市計画税等の地方税がある。これらの中には、公益法人に対し税制上の優遇措置を設けているものがある。

2 公益法人に対する寄附に関する税制
 公益法人に対する寄附金のうち、教育や科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献等の公益性の高い事業を行う公益法人に対する一定の寄附金については、寄附金控除等の特別の配慮が行われている。

第5節 公益法人に関する最近の施策

1 行政改革大綱
 平成十二年八月四日の行政改革推進本部における内閣総理大臣からの指示を受けた検討を踏まえ、同年十二月一日に「行政改革大綱」が閣議決定された。この中で、公益法人に対する行政の関与について、官民の役割分担、規制改革、財政負担の縮減・合理化の観点から、@国から公益法人が委託等、推薦等を受けて行っている検査・認定・資格付与等の事務・事業及びA国から公益法人に対して交付される補助金・委託費等について厳しい見直しを行い、十三年度末を目途に実施計画を策定した上で、十七年度末までのできるだけ早い時期に実行することとされた。
 前記大綱の策定を受け、内閣官房に設置された行政改革推進事務局と関係府省とが必要な検討・調整を行った結果として、平成十四年三月二十八日に「公益法人に対する行政の関与の在り方の改革実施計画」(以下「実施計画」という)を行政改革推進本部に報告し、翌二十九日に閣議決定された。
 実施計画は、国から公益法人が委託等、推薦等を受けて行っている検査・認定・資格付与等の事務・事業及び国からの公益法人への補助金・委託費等について、集中改革期間に位置付けられる平成十七年度末までの間に行政委託型公益法人等改革について取り組む内容を示したものである。
 実施計画に掲げる措置を講ずる結果、公益法人に対する行政の関与は相当程度改善されることとなるが、なお、国の委託等、推薦等を受けて事務・事業を行う公益法人、国からの補助金等の交付を受ける公益法人等、国と関係のある公益法人が引き続き存在することとなるため、これらについては、「公益法人に対する国の関与等を透明化・合理化するための措置(透明化・合理化ルール)」を適用し、行政及び公益法人の双方において、より一層の透明性、効率性、厳格性の確保を図ることとしている。

2 公益法人制度の抜本的改革
 一部公益法人の問題を契機に、国民の公益法人全般に対する見方が厳しくなってきている。また、いわゆるNPOや中間法人などの非営利法人制度が導入される一方で、公益法人の設置根拠である民法の関係規定は、制定以来百年以上にわたり基本的に変更されていない。このような状況を踏まえ、行政改革推進事務局は、平成十三年四月に公表した「行政委託型公益法人等改革の視点と課題」の中で、公益法人制度の抜本的改革の必要性について言及し、十三年七月に開催された行政改革推進本部において、「公益法人制度についての問題意識〜抜本的改革に向けて〜」を報告した。
 その後、最近の社会・経済情勢の進展を踏まえ、民間非営利活動を社会・経済システムの中に積極的に位置付けるとともに、公益法人について指摘されている諸問題に適切に対処する観点から、公益法人制度について、関連制度(NPO、中間法人、公益信託、税制等)を含め抜本的かつ体系的な見直しを行うべく、「公益法人制度の抜本的改革に向けた取組みについて」が平成十四年三月二十九日に閣議決定された。この見直しに当たっては、関係府省及び民間有識者の協力の下、十四年度中を目途に「公益法人制度等改革大綱(仮称)」を策定し、十七年度末までを目途に、これを実施するための法制上の措置その他の必要な措置を講ずることとしている。
 また、行政改革推進事務局は、平成十四年四月から数次にわたる有識者ヒアリングを実施し、十四年八月二日に「公益法人制度の抜本的改革に向けて(論点整理)」(以下「論点整理」という)を行政改革推進本部に報告し、公表した。この論点整理は、我が国における民間非営利活動の在り方及び現行の公益法人制度とその問題点について概観し、その上で平成十四年度中を目途に策定する「公益法人制度等改革大綱(仮称)」の骨格となる改革の基本的枠組み、方向性等について現段階における論点を整理したものである。今後は、関係者、有識者をはじめ広く国民からの様々な意見等も踏まえ、民間有識者等の更なる協力の下、検討作業を進めていくこととしている。

3 休眠法人、所管不明法人の整理に関する取組
 正当な理由なく長期間にわたって事業を行っていない休眠法人、登記はあるが所管官庁が不明である所管不明法人は、いわゆる「買収」等により役員に就任した者による目的外事業の実施や、税法上の特典を利用した収益事業の実施など、公益法人制度の悪用を招くおそれがある。
 その対策として、休眠法人については、昭和五十四年に民法の一部改正が行われたほか、六十年には「休眠法人の整理に関する統一的基準」等が策定され、現在、各府省では、この基準等に沿って所管の休眠法人の整理に努めている。国所管では平成三年十月一日現在四十法人であったものが、十三年十月一日現在では六法人に、都道府県所管では三年十月一日現在四百五十一法人であったものが、十三年十月一日現在では二百十四法人に減少している。
 一方、所管不明法人については、平成七年度に、「所管不明公益法人調査」を実施した結果、全国で約一千八百六十の所管不明法人が存在することが明らかとなり、総理府から各省庁又は都道府県に割振りを実施し、割り振られた各官庁で処理を進めている。割り振られた官庁における整理状況をみると、処理が終了・確定したものは四五・九%(八百六十一法人。国所管が五〇・六%、都道府県所管が四四・三%)となっている。
 処理が終了していない所管不明法人については、割り振られた官庁において、早急に必要な措置をとる必要があるが、所管官庁を確定して既に四年以上が経過しているにもかかわらず、いまだ処理が終了していないものが半数以上存在するという状況を踏まえ、平成十四年三月、総務省は、各所管官庁に対し、原則として、十四年内にすべての所管不明法人の処理を終了することを目標として、未処理法人について、処理作業を進めるための手順と目標期限を示した処理の促進についての通知を行った。現在、各所管官庁において、本通知に基づき、未処理法人の処理に努めているところである。

4 公益法人会計基準の見直しについて
 「公益法人会計基準」については、前回改正から十五年以上が経過し、公益法人を取り巻く状況も一変していることにかんがみ、平成十二年四月から、総理府(省庁再編後は総務省)において公益法人会計基準検討会を開催し、より現状に則した基準の在り方について検討を行った。検討の結果、十三年十二月に、国民にとって理解しやすく、かつ、透明性の高いものとすること、法人の存続性・効率性をチェックできるようにすること等を柱とする「公益法人会計基準の見直しに関する論点の整理(中間報告)」を公表した。
 こうした検討の結果や、「行政改革大綱」において公益法人会計基準の改善策の検討を行うこととされていること等を踏まえ、平成十四年三月、公益法人等の指導監督等に関する関係閣僚会議幹事会の下に有識者で構成する「公益法人会計基準検討会」を開催することとした。今後の予定としては、公益法人改革の動きを注視しつつ、十四年度内を目途として検討を進めていく予定である。

5 公務員制度改革大綱に基づく措置
 平成十三年十二月二十五日に閣議決定された「公務員制度改革大綱」において、適正な再就職ルールの確立を図るため、公益法人への再就職についても、営利企業や特殊法人等への再就職とともに、公益法人の再就職についても、民間法人としての性格を踏まえつつ、所要の見直しを行うこととされた。
 前記閣議決定を受け、平成十四年三月二十九日、公益法人等の指導監督等に関する関係閣僚会議幹事会において、各府省が所管公益法人に対し指導等すべき具体的事項を定めた「公務員制度改革大綱に基づく措置について」を申し合わせた。

第2章 公益法人の現況

第1節 基礎的事項

1 公益法人の数
 平成十三年十月一日現在の公益法人数は二万六千百八十三法人(国所管が七千百四十三法人、都道府県所管が一万九千二百十七法人)で前年より〇・三%減少している。このうち、社団法人数が一万二千八百八十九法人、財団法人数が一万三千二百九十四法人である(第1表第2表参照)。
 現在の公益性に関する基準から公益法人を性格別に分類すると、@本来の公益法人二万二千百法人、A互助・共済団体等三千八百八十二法人、B営利転換候補四十一法人、Cその他百六十法人となっている(第3表参照)。
 最近六年間における新設法人数、解散法人数は、第4表のとおりである。新設法人数については、近年のピークであった平成八年の四百三十四法人と比べると、平成十三年は二百二法人と大幅に減少している。

第2節 個別事項の分析

1 役職員の状況
(1) 理事
 理事は民法上、法人を代表するとともに業務の執行機関として位置づけられており、法人運営上重要な役割を担っている。理事の総数は四十一万六千五百八十五人、一法人当たりの平均は一五・九人、メジアンは十三人となっている。規模別に多い順にみると、十〜十九人が一万二千百三十三法人(四六・三%)、〇〜九人が七千九百三十八法人(三〇・三%)、二十〜二十九人が三千八百五法人(一四・五%)となっており、これらを合わせると全体の九割になる(第5表参照)。
 常勤理事(最低でも週三日以上出勤している理事)の総数は二万五百二十五人、平均は〇・八人となっている(第6表参照)。


    《メジアン(中央値、中間値)》
 変数を大きさの順に並べたとき、その中央で全変数を二群に等分する境界点の数値。
 変数が偶数個のときには中央の二つの値の平均をメジアンとする。例えば、二万六千百八十三の全公益法人の資産額を大きい順に並べたときに、第一万三千九十二位の公益法人の資産額がメジアンになる。


(2) 公務員出身理事
 国所管法人の理事における国家公務員出身者(原則として本省庁課長相当職以上を経験し、退職後十年未満の間に当該法人の理事に就任し現在に至っている国家公務員出身者を指す)は、理事数の四・〇%に当たる六千百八十五人(前年比五十一人増加)で、法人数では三四・六%に当たる二千四百七十三法人(前年比四法人増加)となっている(第7表参照)。このうち、常勤理事への就任は、国家公務員出身理事の二六・七%に当たる一千六百五十二人(前年比八人増加)となっている(第8表参照)。
 都道府県所管法人の理事における都道府県公務員出身者は、理事数の五・三%に当たる一万四千五十二人(前年比四百六人減少)で、法人数では二八・三%に当たる五千四百四十三法人(前年比八十法人減少)となっている(第7表参照)。このうち常勤理事への就任は、都道府県公務員出身理事の二二・八%に当たる三千二百八人(前年比四十六人減少)となっている(第8表参照)。
(3) 所管官庁出身理事
 所管官庁出身理事は、国所管法人で二千七十三法人(前年比十七法人増加)に四千四百二人(前年比七十五人増加)、都道府県所管法人で五千百五十四法人(前年比三十七法人減少)に一万三千七十五人(前年比三百十一人減少)となっている。
 また、指導監督基準においては、理事現在数に占める所管官庁出身者の割合を三分の一以下にするよう求めている(共管法人の場合は全共管官庁出身者の合計が三分の一以下とする)が、所管官庁出身者が理事現在数の三分の一を超えている法人数は、第9表のとおり、国所管が九法人(前年比一法人減少)、都道府県所管が五百二十九法人(前年比四十一法人減少)となっている。
 指導監督基準決定直後の平成八年十月一日現在の法人数からの推移を示したのが第10表である。これによると、指導監督基準の決定以後、国所管法人では理事構成の適正化が進んだことが見てとれるが、都道府県所管法人ではあまり進んでいないことが分かる。
(4) 同一業界関係者理事
 指導監督基準においては、同一業界関係者の理事現在数に占める割合を二分の一以下にするように求めているが、同一業界関係者が理事現在数の二分の一を超えている法人数は、六千三百十五法人(前年比八十八法人減少)となっている。
 なお、理事全員が同一業界関係者である法人数は、全体で三千六百七十九法人となっている。
(5) 監事
 監事は、法人の運営等を監査する役割を担っており、民法上は設置を任意とされているが、指導監督基準においては、監事を必ず設置するよう規定している。監事の総数は五万八千二十八人、一法人当たりの平均は二・二人である。規模別では、二人が一万九千八法人(七二・六%)と大半を占めている(監事制度がない法人は五十)。五人以上という法人も二百二十八存在している。
(6) 有給常勤役員の平均年間報酬額
 指導監督基準においては、役員の報酬等について、「当該法人の資産及び収支の状況並びに民間の給与水準と比べて不当に高額に過ぎないものとすること。」と規定している。公益法人の定款又は寄附行為においては、役員は無報酬であるが、常勤の役員については有給とすることができる旨定められていることが多い。有給役員に対する年間報酬一人当たりの平均額を示したものが、第11表である。
 これによると、有給役員がいる法人の中では、四百万円以上八百万円未満の法人が三千七百四十五法人(有給役員がいる法人の三六・一%)、四百万円未満の法人が三千二百五十七法人(同三一・四%)となっており、八百万円未満の法人で、有給役員がいる法人の七割弱を占めている。一方、二千万円以上の年間報酬を支払っている法人も百二十六法人(前年比二法人減少)あった。
(7) 職員
 職員は、理事の事務を助け、実際の法人の活動を担う中核的存在である。こうした職員の総数は五十五万六千八百九十六人、一法人当たりの平均が二一・三人であり、メジアンは三人である。規模別には、二〜九人が一万二千五十法人(四六・〇%)と半数近くを占め、次に多いのが十〜四十九人の五千五法人(一九・一%)である。
 一方、職員が一人の法人が四千六百四十五法人(一七・七%)あり、また、職員がいない法人も二千五百八十七法人(九・九%)ある。
 常勤職員の総数は四十八万五千七百七十五人であり、職員総数の八七・二%となっている。
(8) 評議員
 財団法人における評議員は、法人の重要事項について諮問を受けたり決定をしたりする役割を担うものであり、指導監督基準においては、財団法人には原則として評議員会を設け、理事の選任及び予算・決算等の重要事項の諮問を行うことを求めている。
 評議員(会)制度がある法人は一万一千五百九十九法人(四四・三%)であるが、財団法人においては一万九十七法人となっており、八割近い財団法人で評議員(会)制度が導入されている。評議員の総数は二十九万三千六百六十六人で、評議員(会)制度がある法人に限っての一法人当たりの平均は二五・三人、メジアンは十五人となっている。

2 財務、会計の状況
(1) 年間収入額
 公益法人の収入は、大きく分けると、会費収入、財産運用収入、寄附・補助金等収入、事業収入等からなっており、合計は二十兆一千七百四十二億円(前年比二千七百六十億円減少)、平均は七億七千五十一万円、メジアンは、五千九百六十五万円となっている。年間収入の構成状況をみると、第12表のとおり、社団・財団の双方において事業収入が大きなウエイトを占めている。
(2) 年間支出額
 公益法人の支出は、大きく分けると、事業費、管理費、固定資産取得支出等からなっており、合計は二十兆四千二百八十二億円(前年比七百十一億円減少)、平均は七億八千二十一万円、メジアンは五千九百五十九万円である。年間支出の構成状況をみると、第13表のとおり、社団・財団の双方において事業費が大きなウエイトを占めている。なお、事業費については、指導監督基準において、公益法人本来の事業(付随的に行う収益を目的とする事業を除く)の規模を「可能な限り総支出額の二分の一以上」にするよう規定しているが、これを満たす法人は、一万二千五百九十九法人(四八・一%)となっている。また、管理費については、指導監督基準において、管理費の割合を「可能な限り総支出額の二分の一以下」にするよう規定しているが、これを満たす法人は、二万三千四百四法人(八九・四%)となっている。
(3) 指導監督上の収益事業
 公益法人が健全な運営を維持し、本来の公益活動の実施に充てるために収入確保の一方法として収益事業を行うことも認められている。収益事業は、あくまで本来の公益事業に付随して行われるべき性格のものであり、指導監督基準では、収益事業の規模、業種、利益の使用等の点について定められているほか、収益事業を行う場合には事業計画書に明記し、他の事業と区分して経理を行うことを求めている。
 収益事業収入の合計は、一兆三千百三十九億円(前年比九百六十億円減少)、平均は五千十八万円、メジアンは零である。規模別にみると、第14表のとおり、収益事業を実施していない法人が二万一千百十法人(八〇・六%)と最も多くなっている。一方、収益事業に支出した費用は、合計で一兆一千百九十一億円であり、単純に言えば、収入との差約一千九百五十億円の利益が出たということになる。
 なお、指導監督基準では、収益事業の支出規模は、「可能な限り総支出額の二分の一以下」とする旨規定しているが、これに適合していない法人は、六百六十二法人存在している。
(4) 内部留保の状況
 指導監督基準において、いわゆる「内部留保」は、公益事業の適切かつ継続的な実施に必要な程度とすることとされており、総資産額から「@財団法人における基本財産、A公益事業を実施するために有している基金、B法人の運営に不可欠な固定資産、C将来の特定の支払いに充てる引当資産等、D負債相当額」を差し引いた額を「内部留保」と定義している。さらに、指導監督基準の運用指針においては、内部留保の水準について、「一律に定めることは困難であるが、原則として、一事業年度における事業費、管理費及び当該法人が実施する事業に不可欠な固定資産取得費(資金運用等のための支出は含めない)合計額の三〇%以下であることが望ましい。」とされている。
 内部留保の水準は、第15表のとおり、全体の六割以上を占める一万六千四百六十九法人が、指導監督基準で定める三〇%以下の水準にある。

3 その他
(1) 株式保有の状況
 指導監督基準においては、運用財産の管理運用(公開市場を通じる等ポートフォリオ運用であることが明らかな場合)又は財団法人において基本財産として寄附された場合を除いて、株式を保有することを原則として禁止しており、これ以外の性格の株式を保有している場合には、平成十一年九月末までに処分することとされている。
 株式の保有状況は、第16表のとおりである。株式を保有しているのは、一千八百三十八法人(前年同数)であり、このうちポートフォリオ運用を行っているものが四百八十四法人、基本財産(財団法人のみ保有を許される)に当たるものが八百七十四法人あるが、その他の理由で保有しているものは七百四法人となっている。
(2) 情報公開の状況
 公益法人の情報公開については、民法上規定がないこともあり、従来あまり行われてこなかった。我が国の社会経済において重要な役割を担い、相応の社会的責任を有する公益法人は自主的に情報を公開する必要があることから、指導監督基準において、「@定款又は寄附行為、A役員名簿、B(社団法人の場合)社員名簿、C事業報告書、D収支計算書、E正味財産増減計算書、F貸借対照表、G財産目録、H事業計画書、I収支予算書を主たる事務所に備えて置き、原則として、一般の閲覧に供すること。」という規定が盛り込まれ、平成十年一月以降に始まる新事業年度から実施されている。
 情報公開の状況は、第17表のとおり、公開を求められている各項目の公開率の平均は、八七・三%(前年比二・五ポイント増加)となっている。
(3) ホームページの開設状況
 公益法人のディスクロージャーの充実による業務運営の透明化・適正化を図るとともに、「行政改革大綱」等に基づく公益法人改革の推進に資するための取組として、平成十三年八月に「インターネットによる公益法人のディスクロージャーについて」(第1章第3節参照)を申し合わせた。本申合せに基づき、各府省は所管公益法人に対し、可能な限り十三年内を目途に業務・財務等に関する資料をインターネットで公開するよう要請したところである。
 平成十四年一月一日時点の国及び都道府県公益法人におけるホームページの開設状況は、第18表のとおり、国所管法人のホームページ開設率が四八・六%、都道府県所管法人のホームページ開設率が一八・八%となっている。
(4) 立入検査の実施状況
 所管官庁は、民法上、職権で調査(立入検査)を行うことができることとなっている。過去三年間における立入検査の実施状況は、第19表のとおり、検査対象となったのは全体の約五割の法人となっている。平成十三年二月には、指導監督体制の充実のため、立入検査の定期的実施について申合せを行い、これを受けて、十三年度には国所管法人の約四割に対して立入検査が実施された。

第3章 公益法人と行政とのかかわり

第1節 行政委託型法人等の状況

 公益法人の行う行政代行的行為等の透明化を図るため、政府は平成八年九月に「公益法人の検査等の委託等に関する基準」を閣議決定した。また、九年度から、公益法人概況調査に併せて「行政代行的行為等に関する状況調べ」を実施している。
 本節では、前記調査の結果等及び前記基準の適合状況について記述している。

1 行政委託型法人等の定義
 「行政委託型法人等」とは、特定の法令等により、各官庁から制度的に事務・事業の委託等・推薦等を受けている公益法人の総称である。行政委託型法人等が実施する事務・事業は、行政の関与の形態に応じ「委託等」と「推薦等」に、また、行政委託型法人等が実施する事務・事業の性格に応じ「検査等」と「検査等以外」に分けてとらえることができる。
 「委託等」とは、事務・事業の内容等を法令等で定め、特定の法人を何らかの形で指定し、制度的にその事務を行わせているもののことであり、「推薦等」とは、法人が独自に行っている事務・事業を奨励等するために、制度的に官庁が関与(認定、公認等)を行うことである。
 「検査等」とは、あるものが有する能力、性能、技術等を調査・判定したり、また、その結果について評価・承認するような業務を意味し、「検査等以外」は、例えば研究、促進啓発、指導助言などの業務がこれに該当する。
 以上を整理すると、行政委託型法人等への行政の関与の形態は、次の四つに整理することができる。
 @検査等の委託等
 A検査等以外の委託等
 B検査等の推薦等
 C検査等以外の推薦等

2 行政委託型法人等の数
 国所管の行政委託型法人等の数は、第20表のとおり五百五十一法人となっている。このうち委託等を受けているものが三百九十五法人、推薦等を受けているものが二百一法人となっている。検査等、検査等以外の別でみると、委託等についてはそれぞれ二百四十七法人、百六十七法人、推薦等についてはそれぞれ百九十五法人、七法人となっており、行政委託型法人等の約七割は検査等の委託等・推薦等を受けている法人である。

3 行政委託型法人等が行う事務・事業の内容
 行政委託型法人等が各府省から委託等・推薦等を受けて行う事務・事業の内容を、その性格によって区分すると、第21表のとおりで、委託等では、検査検定六十八(三二%)、試験四十五(二一%)、調査研究二十五(一二%)が多く、推薦等では、講習研修六十二(五九%)、審査証明二十五(二四%)、試験十(九%)が多くなっている。

4 指定条項数
 今回の調査で挙げられた行政委託型法人等への委託等・推薦等に係る指定条項数は第22表のとおり三百十八となっている。このうち、委託等が二百十二、推薦等が百六となっており、これを検査等、検査等以外の別に区分すると、委託等についてはそれぞれ百四十二、七十、推薦等については九十六、十となっている。

5 「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」への適合状況
 「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」(以下「検査委託基準」という)は、公益法人が行う行政代行的行為等の透明化を図るため、平成八年九月二十日に閣議決定されたものである。その対象となるのは、各官庁から公益法人が検査等の委託等・推薦等を受けて行っている事務・事業であり、各官庁は、十二年度末までに必要な措置をとることとされている。同基準は、委託等と推薦等のそれぞれについて、行政代行的行為等の根拠や指定された法人の名称などを法令上明確に規定することなど、透明化を図るために整備すべき要件を定めており、公益法人が行う検査等に対して各官庁が関与を行うものは、その要件を満たすものに限るとしている。
 平成十三年十月一日現在の検査委託基準への適合状況は第23表のとおりである。
 検査等の委託等に係る事務・事業の適合状況は、調査対象となった百二十三件の事務・事業のうち、すべての項目について適合措置が講じられているものが百七件、都道府県への登録事務に移行したものが一件あり、全体の八八%の事務・事業について検査委託基準に沿った措置がとられている。
 検査等の推薦等に係る事務・事業の適合状況は、調査対象となった九十九件の事務・事業のうち、適合措置が講じられているものが八十五件、公益法人の指定を廃止等したものが六件あり、全体の九二%の事務・事業について検査委託基準に沿った措置がとられている。
 検査委託基準に適合していない事務・事業については、速やかに官庁の関与を廃止するなどの措置を講ずる必要がある。

6 都道府県から委託等・推薦等を受けている行政委託型法人等
 各都道府県が指定する行政委託型法人等の数は、合計一千二百二十八法人となっている。なお、事務・事業の内容は、施設・設備等の管理運営が最も多くなっており、国とは異なった傾向がみられる。

第2節 公益法人に対する補助金・委託費等

1 国所管の公益法人に対する補助金・委託費等
 平成十二年度決算ベースにおける各府省から国所管の公益法人に対する補助金等の交付総額は第24表のとおり約四千七十一億円、交付法人数は四百二十六法人となっている。また、委託費の総額は約一千七百二十八億円、委託法人数は六百七十四法人となっている。

2 都道府県所管の公益法人に対する補助金・委託費等
 平成十二年度決算ベースにおける各都道府県から所管公益法人に対する補助金等の交付総額は、第25表のとおり約三千二百二十五億円、交付法人数は四千三百四十四法人となっている。また、委託費の総額は約五千二百八億円、委託法人数は三千三十三法人となっている。

第3節 「公益法人の設立許可について」の実施状況

 平成十二年十月二日以降、十三年十月一日までの一年間に国が設立を許可した公益法人は四十六法人であった。このうち、基本財産の造成等に当たり、許認可対象企業等からの出捐がある法人が八法人、国又は特殊法人等から委託される事業を主たる事業とする法人は一法人、公務員経験者が常勤役員へ就任している法人は五法人(就任者は六名)であった。

第4章 公益信託制度について

第1節 公益信託制度の概要

(1) 公益信託の定義
 公益信託とは、信託法(大正十一年法律第六二号)に基づき、委託者が祭祀、宗教、慈善、学術、技芸その他一定の公益目的のため、受託者に対してその財産を移転し、受託者をしてその公益目的に従ってその財産を管理又は処分させ、もってその公益目的を実現しようとする制度である。
(2) 公益信託の特色
 公益法人においては、法人という新たな法主体を創設し、これが公益目的のために自律的活動を行うものであるのに対し、公益信託においては、拠出された財産(信託財産)が既存の法主体である受託者に名義上帰属し、設定された公益目的のため受託者の固有財産とは別に管理、運用されていくものであって、両者の法律的構造は異なる。また、公益法人においては、永続的又は相当長期間にわたってその存続が予定されているのに対し、公益信託においては、信託の制度上、比較的短期間のものであっても差し支えないなど、より弾力的な運用が可能である。
(3) 公益信託の仕組み
 公益信託は、委託者が受託者との間で一定の公益目的のために財産を信託する信託契約を締結することにより、又は委託者の遺言により、信託の法律関係をつくり、これについて受託者が、主務官庁の許可を受けることによって成立する。
 公益信託は、主務官庁の監督に属し、受託者は、信託行為の定めるところに従って、自己の名で信託財産を管理、処分して公益事業を営む。信託財産は、受託者に移転されるが、受託者の固有財産とは区別される。受託者は、その事務処理について善管注意義務等を負い、信託義務違反に対しては損失てん補をしなければならない。
(4) 公益信託に対する統一的な指導監督等の基準
 公益信託に対する適正な指導監督等を行うための統一的基準として、平成六年九月十三日に公益法人等指導監督連絡会議で決定された「公益信託の引受け許可審査基準等について」があり、主務官庁においては、この基準に則った指導監督等が行われている。
(5) 公益信託の税制
 公益信託に財産を拠出したときの税制として、個人・法人の双方につき、特定の公益信託のために支出した金銭についてのみなし寄附金制度等、各種の優遇措置がある。

第2節 公益信託の現況

(1) 信託数及び信託財産
 平成十三年十月一日現在の信託数及び信託財産は、第26表のとおり、それぞれ五百八十件(前年比十四件増加)、約七百二十四億円(前年比約八十二億円増加)となっている。
(2) 信託目的別信託数
 信託目的別信託数では、第27表のとおり、奨学金支給、教育振興、国際協力・国際交流促進がそれぞれ上位を占めている。
(3) 授益行為の状況
 授益行為の状況は、第28表のとおり、個人を対象としているものが、件数及び金額ともに最多となっている。






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月例経済報告(十一月)


―景気は、引き続き持ち直しに向けた動きがみられるものの、そのテンポはさらに緩やかになっている―


内 閣 府


総 論

(我が国経済の基調判断)

 景気は、引き続き持ち直しに向けた動きがみられるものの、そのテンポはさらに緩やかになっている。
 ・企業収益は改善の兆しがみられ、設備投資は下げ止まりつつある。
 ・雇用情勢は、一部に改善への動きがみられるものの、失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しい。
 ・個人消費は、横ばいで推移するなかで、一部に底固さもみられる。
 ・輸出は弱含んでおり、生産は持ち直しの動きがさらに緩やかになっている。
 先行きについては、景気は持ち直しに向かうことが期待されるが、アメリカ経済等への先行き懸念や我が国の株価の低迷など、環境は厳しさを増しており、我が国の最終需要が下押しされる懸念が強まっている。

(政策の基本的態度)

 政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を早期に具体化するなかで、十月三十日に、不良債権処理の加速等を通じた金融・産業の再生、経済活性化に向けた構造改革加速策、セーフティ・ネットの拡充を柱とする「改革加速のための総合対応策」をとりまとめた。雇用・中小企業のセーフティ・ネットの一層の活用・強化を図るため、今後の税収動向を踏まえて、引き続き必要な措置について検討することとしている。
 日本銀行においては、同日、日本銀行当座預金残高目標を十五兆〜二十兆円程度とするとともに、長期国債の買い入れを月一兆二千億円ペースに増額すること等を決定した。デフレ克服及び金融システム安定化に向け、政府・日本銀行は引き続き一体となって強力かつ総合的な取組を行う。

各 論

一 消費・投資などの需要動向

◇個人消費は、横ばいで推移するなかで、一部に底固さもみられる。
 個人消費は、需要側と販売側の動向を総合してみると、横ばいで推移するなかで、一部に底固さもみられる。所得面で弱い動きが続いていること等から全体的な基調の改善には至らないものの、一部の業種や支出項目において増加の動きがみられる。
 需要側の動向をみると、昨秋以降底固さがみられる。消費総合指数は三か月前と比べ増加している。支出項目ごとの動向について家計調査をみると、実質消費支出は、引き続き基礎的な支出項目が底固く推移していることや、一時的な要因等から前月と比べて大きく増加した。
 販売側の動向をみると、全体的に弱い動きとなっている。小売業販売額は弱い動きが続いている。チェーンストア販売額は、食料品は引き続き前年を上回ったものの、全体では前年を下回った。百貨店販売額は、残暑の影響や前年の反動もあって衣料品が前年を下回り、全体でも前年を下回った。なお、プロ野球優勝記念セールについては、一部に押し上げ効果がみられたものの、全体を底上げするほどには至らなかった。新車販売台数は、軽乗用車が前年割れしたものの、小型乗用車が大幅に増加し引き続き好調に推移したことから、前年を上回った。家電販売金額は、テレビ等が引き続き増加し、パソコンもこのところ減少幅を縮小してきているものの、全体では前年を下回った。旅行は、国内旅行は前年を下回り、海外旅行は米国における同時多発テロ事件の影響もあって昨年大きく減少した反動から、前年を大きく上回った。
 消費者マインドは、持ち直しの動きがみられるものの、上昇幅は小さくなっている。

◇設備投資は、下げ止まりつつある。
 設備投資は、平成十三年に入って以降減少が続いてきたが、生産の持ち直し及び企業収益の下げ止まりを受けてこのところ下げ止まりつつある。需要側統計である「法人企業統計季報」でみると、平成十三年一〜三月期以降減少が続いてきたが、平成十四年に入ってから減少幅が縮小している。規模別にみると大中堅企業に比べ中小企業の減少幅の方が大きい。「法人企業動向調査」(資本金一億円以上)で平成十四年七〜九月期(実績見込)の設備投資をみると、下げ止まりつつある。また、機械設備投資の供給側統計である資本財出荷は、横ばいとなっている。なお、これまで堅調に推移してきたソフトウェア投資は、弱含んでいる。
 設備投資の今後の動向については、機械設備投資の先行指標である機械受注が平成十三年一〜三月期以降減少基調で推移してきたが、底入れから反転に向かいつつあるとみられることから、次第に底入れから反転に向かうものとみられる。ただし、日銀短観の平成十四年度設備投資計画において減少が見込まれていること等を考慮すれば、底入れした後も低調に推移することが見込まれる。

◇住宅建設は、緩やかに減少している。
 平成十三年度の住宅建設は、前年度比三・三%減の百十七万三千戸となり、平成十年度以来三年ぶりに百二十万戸を下回る低い水準となった。平成十四年度に入って、マンションの着工が減少したこと等から、四〜六月期は年率百十八万戸、七〜九月期は年率百十三万戸となり、このところ緩やかに減少している。
 九月は、持家は増加したものの、貸家、分譲住宅が減少したことから、年率百十一万五千戸となった。先行きについては、雇用・所得環境が厳しいこと、不動産価格の長期的下落傾向により買い換えが困難となっていること等から、消費者の住宅取得マインドが低下しており、こうしたことが引き続き住宅着工を減少させる要因になるものと見込まれる。

◇公共投資は、総じて低調に推移している。
 平成十四年度当初における公共事業関連予算をみると、国、地方とも歳出の徹底した見直しと重点的な配分を行っていることから、国の施設費を含む公共投資関係費は、前年度比一〇・七%減、地方の投資的経費のうち単独事業費は、地方財政計画では、前年度比一〇・〇%減となっている。
 このような状況を反映して、公共投資は、総じて低調に推移している。平成十四年度に入って、今年度に繰り越された平成十三年度第二次補正予算の下支え効果がみられたものの、四〜六月期は引き続き前年を下回り、七〜九月期も前年を下回った。なお、このところの動きをみると、公共工事出来高が六月以降三か月連続で前月比増加となっている。

◇輸出は、弱含んでいる。輸入は、増加している。貿易・サービス収支の黒字は、やや縮小している。
 輸出は、IT関連等の最終需要の伸びが世界的に鈍化するなかで、年初来の在庫積み増しの動きに一服感がみられており、半導体等電子部品を中心とした電気機器が減少に転じるなど、このところ弱含んでいる。地域別にみると、アジア向け輸出、アメリカ向け輸出は、電気機器がやや減少しており、全体としておおむね横ばいとなっている。EU向け輸出は、EUにおける景気持ち直しの動きが弱まっていること等を背景に、減少している。今後については、アメリカ経済等への先行き懸念が高まっていること等に留意する必要がある。
 輸入は、生産の緩やかな持ち直しの動きを背景に、全体として増加している。地域別にみると、アジアからの輸入は、金属・同製品等を中心に増加している。EUからの輸入は横ばいとなっている。アメリカからの輸入は、航空機等の機械機器が増加していることを背景に、増加している。また、品目別にみると、IT関連等機械機器の伸びが鈍化しているものの、鉱物性燃料や化学製品、金属・同製品等が堅調に推移している。
 国際収支をみると、貿易・サービス収支の黒字は、輸入数量が増加するなか、輸出数量が弱含んでいることから、やや縮小している。

二 企業活動と雇用情勢

◇生産は、持ち直しの動きがさらに緩やかになっている。
 鉱工業生産は、在庫調整が終了していること等を背景に3四半期連続で増加してきた。しかし、このところ輸出が弱含んでいること等を反映し、足元では生産は持ち直しの動きがさらに緩やかになっている。
 また、世界経済の先行き懸念の高まり等、留意すべき点もある。なお、製造工業生産予測調査によると十月は増加、十一月は減少が見込まれている。
 一方、第三次産業活動の動向をみると、おおむね横ばいで推移している。
 また、農業生産の動向をみると、米の作況は「平年並み」となっている。

◇企業収益は、改善の兆しがみられる。また、企業の業況判断は、改善がみられるものの、そのテンポが緩やかになっている。倒産件数は、高い水準となっている。
 「法人企業統計季報」によると、平成十三年七〜九月期以降、電気機械等の製造業を中心に大幅な減益となっていた企業収益は、平成十四年一〜三月期に減益幅が縮小し、四〜六月期の減益幅はおおむね横ばいとなった。また、日銀短観によると、平成十四年度については、上期は若干の減益、下期は大幅な増益を見込んでいる。
 企業の業況判断について、日銀短観をみると、平成十四年三月調査を底に改善しているが、九月調査では若干の改善にとどまり、そのテンポが緩やかになっている。また、中小企業では低い水準にあり、依然厳しさがみられる。先行きについては、全体として若干の改善を見込んでいる。また、「法人企業動向調査」で大中堅企業の業界景気の判断(前期比「上昇」−「下降」)をみると、「下降」超幅は横ばいとなっている。
 また、倒産件数は、東京商工リサーチ調べで九月は一千四百六十七件、七〜九月期では四千七百六十三件となるなど、高い水準となっている。

◇雇用情勢は、依然として厳しい。一部に改善への動きがみられるものの、完全失業率が高水準で推移し、賃金も弱い動きが続いている。
 九月の完全失業率は、前月比同水準の五・四%となった。完全失業者について求職理由別にみると、最も多い非自発的な離職による者は、増加している。雇用者数については、臨時雇等パートを中心に緩やかに持ち直す動きがみられていたが、直近では二か月連続の減少となっている。
 新規求人数は、引き続き増加傾向にある。新規求職件数が同時に大幅に増加したため、新規求人倍率は前月比で低下したが、有効求人倍率については、前月比で上昇している。製造業の残業時間については、九月は前月比で微減となったが、基調としては引き続き増加傾向にある。
 賃金の動きをみると、定期給与が前月比で減少、前年同月比でも減少が続いており、弱い動きが続いている。

三 物価と金融情勢

◇国内卸売物価、消費者物価は、ともに弱含んでいる。
 輸入物価は、このところ契約通貨ベースで上昇していることに加え、足元では、円安の影響もあり、円ベースでも上昇している。国内卸売物価は、弱含んでいる。最近の動きを類別にみると、在庫調整の進展により鉄鋼が上昇しているものの、電気機器、非鉄金属が下落しているほか、足元では電力・都市ガス・水道等が下落している。また、企業向けサービス価格は、前年同月比で下落が続いている。
 消費者物価は、平成十二年秋以降弱含んでいる。最近の動きを類別にみると、一般サービスは横ばいとなっているものの、一般食料工業製品の下落幅拡大や耐久消費財の下落等により一般商品が下落しているほか、公共料金の下落幅が拡大している。
 こうした動向を総合してみると、持続的な物価下落という意味において、緩やかなデフレにある。

◇金融情勢をみると、株式相場は、十月上旬にかけて下落した後、足元、八千円台後半(日経平均株価)で推移している。長期金利は、低下している。
 短期金利についてみると、オーバーナイトレートは、日本銀行による金融緩和措置を反映して、〇・〇〇一〜〇・〇〇二%で推移した。二、三か月物は、ほぼ横ばいで推移した。長期金利は、九月下旬に一・二%台まで上昇した後、十月上旬は一・〇%台後半から一・一%台後半で推移し、その後十月中旬より国債増発懸念の後退等を受け、一・〇%台近傍まで低下してきている。
 株式相場は、九月下旬以降、八九年以降の最安値を更新しながら下落したが、米国株価の上昇等から、十月中旬以降やや上昇し、十月下旬以降は、八千円台後半(日経平均株価)で推移している。
 対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は、九月上旬から十月中旬にかけて、百十七円台から百二十五円台まで下落した後、百二十四円台〜百二十一円台で推移している。対ユーロ円相場(インターバンク十七時時点)は、九月上旬から十月中旬にかけて、百十五円台から百二十二円台まで下落した後、百二十一円近傍で推移している。
 マネタリーベース(月中平均残高)は、日本銀行の潤沢な資金供給等(十月日銀当座預金平均残高十五兆二千億円)を背景に、約二割と高い伸びになっているが、伸び率は鈍化している(十月:前年同月比一九・八%)。M+CD(月中平均残高)は、このところ、三%台半ばで推移している(九月速報:前年同月比三・三%増)。民間金融機関の貸出(総貸出平残前年比)は、九六年秋以来マイナスが続いており、企業の資金需要の低迷等を背景に、依然低調に推移している。貸出金利は、金融緩和等を背景に、昨年初来低下傾向で推移してきたが、このところ横ばい圏で推移している。企業の資金繰り状況をみると若干改善しており、民間債と国債との流通利回りスプレッドはほぼ横ばいで推移している。

四 海外経済

◇欧米では景気回復に弱い動きがみられ、アジアでは一部で景気回復が緩やかになっている。
 世界経済をみると、欧米では景気回復に弱い動きがみられ、アジアでは一部で景気回復が緩やかになっている。
 アメリカでは、景気の回復力が弱まっている。個人消費の伸びは鈍化している。また、消費者信頼感が大幅に悪化している。住宅建設は高い水準にある。設備投資は機械設備等を中心に持ち直しに向けた動きもみられるが、非軍需資本財受注は減少している。生産は減少している。雇用はほぼ横ばいとなっている。物価は安定している。
 アジアをみると、景気は回復しているものの、一部で回復が緩やかになっている。中国では、景気の拡大テンポは高まっている。韓国では、景気は拡大しているが、内需の伸びに鈍化の動きがみられる。タイでは、景気は拡大している。マレイシアでは、景気は回復している。台湾、シンガポールでは、景気は緩やかに回復している。
 ヨーロッパをみると、@ユーロ圏では、景気は持ち直しの動きが弱まっている。ドイツでは、景気は減速している。フランスでは、景気は持ち直しの動きが弱まっている。Aイギリスでは、景気は回復の動きが続いている。
 金融情勢をみると、アメリカの株価は、十月上旬には五年ぶりの安値をつけたが、一部企業の決算や業績見通しが市場予想を上回ったことから中旬以降上昇した。株価の上昇等からアメリカの長期金利、ドルとも十月中旬に強含んだが、その後景気先行き懸念等からともに弱含んだ。
 アメリカでは、十一月六日のFOMCで昨年十二月以来十一か月ぶりにフェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準が〇・五〇%ポイント引き下げられ、一・二五%とされた。
 国際商品市況をみると、原油価格は、イラク情勢が緊迫するなかで、今後の行方を見定める動きからやや下落した。



    <12月11日号の主な予定>

 ▽独占禁止白書のあらまし…………公正取引委員会 

 ▽毎月勤労統計調査(九月)………厚生労働省 

 ▽労働力調査(八月)………………総 務 省 




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